説明

金属線条体巻装用リール

【課題】金属巻装用リールのうち、鋼板をプレス加工により成形して溶接結合させる組み立て型リールにおいて、プレス加工で生じるフランジ外側面の微小なうねりを解消したリールを提供する。
【解決手段】フランジ外側面の研削等を行うことにより、プレス加工仕上げのものと相対的に高い平面、具体的にはうねりの最大高低差を0.05mm以下に抑えることにより、平面度の高い芯穴周縁とアタッチメントとが密着し、リールの偏心回転の発生が極めて少なく、そのため、ワイヤの断線や巻き不良の発生が極めて少なくなる他、設備側へ騒音や損傷といった悪影響を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線条体用リールに関し、特にワイヤソーマシンに用いられるソーワイヤのような長尺な極細金属線条体を巻き付けるリールとして好適な金属線条体用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
ソーワイヤのように線径が細く、また非常に長尺な金属線の生産や使用において、リールが用いられている。リールの形状は図1乃至図2のように、円筒状の巻胴部2と円形のフランジ部4とからなる。
【0003】
製造過程によりリールは大きく2つに大別される。1つは鋳造体を研削してフランジ部と巻胴部を形成する一体型である。もう1つは巻胴部と一対のフランジ部とが別体からなり、溶接によって一体化された組み立て型である。
【0004】
一体型リールは剛性に富むものの、重量が大きく、製造コストが高い等の欠点がある。一方組み立て型リールは、軽量で、低コストであるという利点があるが、次のような欠点があった。
【0005】
一般に線径が0.2mm未満の極細金属線、たとえば線径が0.10〜0.15mmあるいはそれ以下のソーワイヤや、0.15〜0.40mm程度のタイヤ用スチールコードの素線などを、所定の張力(たとえば4〜15N)でリールに巻き付ける場合に、巻き付け張力に起因して大きな巻き圧が作用する。巻胴部には巻胴部を締め付けるように、フランジ部にはフランジ間を広げるように作用する。
【0006】
リールが同形である場合、線径が細くなる程、ワイヤの巻き長さが長くなる。より蜜に、且つより長尺な長さを巻きつけられることで、巻き圧は相乗的に高くなる。一体型に比べ簡素な造りである組み立て型はこうした巻き圧に対して相対的に弱いという欠点がある。
【0007】
そこでフランジ部の広がり防止については巻き圧に耐えられるよう、より強固にした構造のものがある。例えば特許文献1に代表されるようなフランジ部としたものもある。
【0008】
特許文献1によれば、図6のように巻胴部の両端に鋼板で形成されたフランジが固着され、このフランジは、中心部に芯穴を有するとともに、その芯穴の周りに略放射状に外側面側へ膨出した複数の側面補強部を有するリールであって、フランジの芯穴に沿い、複数の側面補強部に連続してリング状に外側面側に膨出し、複数の側面補強部とともに一体の補強部を形成する芯穴周辺補強部を設けられている。これにより、鋼板製のフランジを有する金属線条体用リールの軽量化を図りつつ、フランジの拡がりに対する剛性および強度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−272028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
こうした組み立て型のリールにおけるフランジ部は、多くの場合プレス加工により成形される。特許文献1にあるようにフランジ部に剛性および強度を高めるために略放射状の膨張部を設けたものは、大きな応力が加えられて塑性加工し、所望の形状に成形される。しかし、こうした大きな塑性変形の中で、プレス加工では平面が出ずに微小な「うねり」が生じる。
【0011】
図7を用いて詳述する。図7はワイヤの巻取り機、またはワイヤソーマシンに代表されるワイヤの供給装置の概略図である。リールは装置の軸芯102に挿通され設置される。その後アタッチメント104にて保持され締め具等(図示せず)により固定され挟持される。この状態で例えば回転動力106によりリールが回転され、ワイヤが巻き取られる、あるいは供給される。
【0012】
図7の拡大図のようにフランジ部外側面、詳細には芯穴周縁部は1対のアタッチメント104の平面部と密着され挟持される。しかし、プレス加工された芯穴周縁部は厳密には平面でない。拡大図のようにプレス加工面は微小な「うねり」、具体的には0.1mm〜1mm程度のうねりが生じているため、点Aのように複数の点接触をして挟持されている。つまり芯穴周縁部とアタッチメント104とは密着されていない。この状態であってはフランジが軸心102に対して垂直な面となるよう固定されていない。その結果回転中心が安定せず、偏心回転や回転振れが生じる。
【0013】
特にソーワイヤの巻取りや使用においては、少しの回転振れも許されない。リールは数百rpmという高速回転をする。こうした条件において回転振れすれば、極細なワイヤには定期的に伸張と緩和を繰り返し、微小な張力変化が必然的に生じてしまう。こうした張力変化により断線が発生したり、リールへの巻きが悪くなったりする。
【0014】
更に設備側にも悪影響が生じる。ワイヤが巻かれたリールは数十kgにも及ぶ。こうした大きな重量のあるリールを設備上で偏心回転させると大きな振動を伴い、騒音を発生し、軸芯を傷めてしまい、早期損傷を招く。
【0015】
以上から、プレス加工で生じる僅かな「うねり」も許されない。つまりリールのアタッチメントと接触することが考えられるフランジ外側面、特に芯穴周縁は高い平面度を有し、互いに密着する構造とすることが極めて重要となる。そこでプレス加工によって形成されたフランジを有する組み立て型のリールであって、フランジ部外面、特に芯穴周縁を平面とするリールを提供する。更にそのリールの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記、課題を鑑みてなされた本発明は、
巻胴部の両端に鋼板で形成されたフランジ部が固着され、該フランジ部は、中心部に芯穴を有するとともに、該芯穴を中心に略放射状に外側面側へ膨出した複数の側面補強部をプレス加工によって成形し、該フランジ部をプレス成形後、芯穴周縁を含む該フランジ部外側面を平面に仕上げる研削工程、または研磨工程を含む製造方法、
とすれば良い。
【0017】
前記、製造方法により得られるリールは、
巻胴部の両端に鋼板で形成されたフランジ部が固着され、該フランジ部は、中心部に芯穴を有するとともに、該芯穴を中心に略放射状に外側面側へ膨出した複数の側面補強部をプレス加工によって成形する金属線条体用リールであって、
該芯穴周縁が平面であり、該平面のうねりの最大高低差が0.05mm以下という特徴を有するリールとなる。
【0018】
更に、各側面補強部の膨出が前記の平面で高く、略放射状に低くなるように設計されていれば尚良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、研削または研磨により平面部を設けるという簡便な方法でありながら、前記のようなプレス加工特有の課題を解決するという大きな効果が得られる。
【0020】
また、本発明のリールであれば、芯穴周縁とアタッチメントとが互いに平面で密着するため、リールの偏心回転の発生が極めて少ない。そのため、ワイヤの断線や巻き不良の発生が極めて少なくなる他、設備側へ騒音や損傷といった悪影響を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の代表的なリールの正面図
【図2】本発明の代表的なリールの縦断面図とフランジ部の拡大図
【図3】本発明のその他の代表的なリールの正面図
【図4】本発明のその他の代表的なリールの縦断面図とフランジ部の拡大図
【図5】リールにおけるフランジ膨出部の平面の測定説明図
【図6】従来の代表的なリールの正面図
【図7】ワイヤの巻取り、または供給のためにリールを回転させる装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1乃至図2に一例を示す。フランジ部4は鋼板をプレス加工した第1フランジ部材6と、鋼板で形成した第2フランジ部材8とからなる。第1フランジ部材6を外側とし第2フランジ部材8を内側として軸線方向に重なる配置で一体化しているものが一般的であるが、この形態に限定するものではない。
【0023】
第1フランジ部材6には、プレス加工により中心部に芯穴10が形成されるとともに、芯穴10を中心として略放射状にフランジ外側面側(軸線方向外側)へ膨出した複数(図1の例では8個あるが、好ましくは6〜12個で、適宜変更可能である)の側面膨出補強部6aが形成される。更に芯穴10を形成し、複数の側面膨出補強部6aに連続して高精度の平面を形成しつつフランジ外側面の方向に膨出する芯穴周辺膨出補強部6bが形成される。
【0024】
図1のように複数の側面膨出補強部6aは、互いに同形・同寸である。且つ、それぞれがリール軸方向から見てリール中心側でフランジ周方向の幅が大きくなる末広形状であると強度が増し尚良い。しかし、これに限定する必要はなく、図示しないが、側面膨出補強部6aは末広形状でなくとも略並行であっても良い。
【0025】
プレス成形後に芯穴周辺膨出補強部6bである平面部を形成する。芯穴周辺膨出補強部6bを形成する方法は特に限定されるものではなく、一般的な研削や研磨といった技術で良く、例えば旋盤等がある。また、芯穴周辺膨出補強部6bの形成はリールの製造過程において、いつ行われても良く、例えばプレス形成直後、または第2フランジ部材8と組み合わせた後、あるいは巻胴部やフランジ部等全ての部材を組み立てた後でも良い。プレス形成後であれば簡便に行うことができ、全ての部材を組み立てた後であれば、より芯穴周辺膨出補強部6b双方を平行に形成し易く、品質の高いものが得易い。
【0026】
本発明の要部である芯穴周辺膨出補強部6bの平面部はアタッチメントを装着するに足りる面積を有していれば良い。複数の側面膨出補強部6aに対して芯穴周辺膨出補強部6bが同一平面状、または膨出していれば平面部の大きさに特に指定はなく、アタッチメントと密着し、挟持し回転に足る摩擦力が発揮できる程度有していれば良い。
【0027】
しかし、図3乃至図4の他の例のように、芯穴周辺膨出補強部6bに対して側面膨出補強部6aの方が膨出している場合、芯穴周辺膨出補強部6bはアタッチメント104の平面部と密着する程度に十分な面積が必要である。6cのようにアタッチメントが干渉しないよう側面膨出補強部6aの膨出部分を適宜研削等して均すと良い。
【0028】
第1フランジ部材6の厚みを側面膨出補強部6aと芯穴周辺膨出補強部6bとで変えておくと尚良い。具体的には芯穴周辺膨出補強部6bを厚く設計しておくと良い。芯穴周辺膨出補強部6bを例えば研削等により平面を形成するため、均一な厚みを有する第1フランジ部材を使用すれば芯穴周辺膨出補強部6bで厚みが若干薄くなり、相対的に強度が低下してしまう。
【実施例1】
【0029】
従来のプレス成形により仕上げられたリールと、本発明である研削等により芯穴周辺膨出補強部を極めて平面に仕上げられたリールとの評価を次のようにして行った。
【0030】
評価に使用する本発明のリールとしては図3乃至図4に示されたリールを製造した。従来製法と同様のプレス形成により得られた膨出部のうち、芯穴周辺を研削して芯穴周辺膨出補強部の平面を形成した。研削はリール組み立て後であって旋盤によって行い、リールの軸芯に沿って回転させつつ、外周側よりバイトをフランジ外側面に当接し中心へ1mm深さの研削を行った。その他寸法設計は従来例と同じである。
【0031】
測定に際し先ず図4のように、リールを立てて回転台(図示していない)に設置する。回転台の回転によりリールの軸芯を中心としてリールを回転させる。この状態で上方から測定端子18を芯穴周辺補強部6bの任意の点に接触させる。回転により芯穴周辺補強部6bの平面が上下に振れる。この上下の振れの最大高低差を測定端子18で記録する。測定は1つの面につき接触位置を変えて3回行い、その平均値をフランジにおける「うねりの最大高さ」とする。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果が示すとおり、うねりの最大高低差が従来例と比較して10分の1以下にすることができた。この測定により得られる「うねりの最大高低差」は、リールを回転させた時の偏心回転の程度、つまり「回転振れ」を示すことと実質的に同義である。つまりリールを回転させた時の回転振れを極めて低減することができたと言える。尚、うねりの最大高低差は芯穴周辺膨出補強部の研削技術を高めれば更に低減することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
2・・・・・巻胴部
4・・・・・フランジ部
6・・・・・第1フランジ部材
6a・・・・側面膨出補強部
6b・・・・芯穴周辺膨出補強部
8・・・・・第2フランジ部材
10・・・・芯穴
12・・・・フランジ周縁補強部
14・・・・円筒部材
16・・・・スペーサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻胴部の両端に鋼板で形成されたフランジ部が固着され、該フランジ部は、中心部に芯穴を有するとともに、該芯穴を中心に略放射状に外側面側へ膨出した複数の側面補強部をプレスによって成形する金属線条体用リールの製造方法において、
該フランジ部をプレス成形後、芯穴周縁を含む該フランジ部外側面を平面に仕上げる研削工程、または研磨工程を含むことを特徴とする金属線条体巻装用リールの製造方法。
【請求項2】
各側面補強部の膨出がリール中心の平坦部で高く、略放射状に低くなるように設計されることを特徴とする請求項1記載の金属線条体用リールの製造方法。
【請求項3】
巻胴部の両端に鋼板で形成されたフランジ部が固着され、該フランジ部は、中心部に芯穴を有するとともに、該芯穴を中心に略放射状に外側面側へ膨出した複数の側面補強部をプレスによって成形する金属線条体用リールにおいて、
該芯穴周縁が平面であり、該平面のうねりの最大高低差が0.05mm以下であることを特徴とする金属線条体巻装用リール。
【請求項4】
各側面補強部の膨出が前記平面で高く、略放射状に低くなるように設計されることを特徴とする請求項3記載の金属線条体用リール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−235295(P2010−235295A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87674(P2009−87674)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】