説明

金属膜及び金属膜の形成方法

【課題】基材との密着性に優れ、且つ基板との界面における凹凸が少ない金属膜を簡便な工程により形成しうる金属膜の形成方法を提供する。
【解決手段】 表面の凹凸が500nm以下の基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーを直接化学的に結合させたポリマー層を有し、該ポリマー層上に無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与した後、無電解メッキを行うことで設けた金属膜であって、該基板と該金属膜との密着性が0.2kN/m以上であることを特徴とする金属膜、及び、(a)表面の凹凸が500nm以下の基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有し且つ該基材と直接化学的に結合するポリマーを導入する工程と、(b)該ポリマーに無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与する工程と、(c)無電解メッキを行う工程と、を有することを特徴とする金属膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜及び金属膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に形成された金属膜は、パターン状にエッチングされることで様々な電化製品の中に使用されている。基板上に形成された金属膜(金属基板)は、基板と金属層との密着性を持たせるために基板表面を凹凸処理してアンカー効果により密着性を発現させていた。その結果、出来上がる金属膜の基板界面部が凹凸になってしまい、電気配線として使用する際には、高周波特性が悪くなるという問題点があった。更に、金属基板を形成する際、基板を凹凸処理するため、クロム酸などの強酸で基板を処理するという煩雑な工程が必要であるという問題点があった。
【0003】
この問題を解決する為に、基板にモノマーを含む塗布液を塗布し、電子線やUV光を照射することにより、基板上に表面グラフトポリマーを導入し、無電解メッキにより金属膜を形成する方法が開発されている(特許文献1参照。)。特許文献1においては、実際の基板表面の状態や、基板と金属層との密着性について詳細な検討はなされていない。また、当該文献に記載の方法では、基板にモノマーを含む塗布液をそのまま塗布し、電子線やUV光を照射することにより、グラフトポリマーを形成しているため、生成する表面グラフトポリマーの量が少ないと予想され、その結果、基板とメッキ膜(金属膜)との密着力は低いと予想される。
【0004】
また、基板上にグラフトポリマーを導入して基板と金属層との密着性を向上に関しては、ポリイミド基板にプラズマ処理を行って、ポリイミド基板表面に重合開始基を導入し、この重合開始基からモノマーを重合させてグラフトポリマーを基板上に導入し、当該グラフトポリマー上に金属層(銅層)を形成することで、ポリイミド基板と銅層との密着性を改良する方法が開示されている(非特許文献1及び2参照。)。しかし、この方法には、プラズマ処理という大掛かりな処理が必要であり、より簡便な方法が求められていた。
【特許文献1】特開昭58−196238号公報
【非特許文献1】En Tang Kang, Yan Zhang, "Advanced Materials", 20, p1481-p1494
【非特許文献2】N. Inagaki, S. Tasaka, M. Matsumoto, "Macromolecules", 29, p1642-p1648
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の技術の欠点を考慮してなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、基板との密着性に優れた金属膜を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、基板との密着性に優れ、且つ基板との界面における凹凸が小さい金属膜を簡便な工程により形成しうる金属膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討の結果、無電解メッキ触媒又はその前駆体を有するポリマーを基板と直接化学結合させ、該ポリマーに無電解メッキを行うことで、基材界面の凹凸が少ない場合であっても、密着性に優れた金属膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の金属膜は、表面の凹凸が500nm以下の基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーが直接化学的に結合したポリマー層を有し、該ポリマー層上に無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与した後、無電解メッキを行うことで設けた金属膜であって、該基板と該金属膜との密着性が0.2kN/m以上であることを特徴とする金。
前記ポリマー層は、無電解メッキ触媒及び無電解メッキにより析出した金属から選ばれる少なくとも1種の微粒子を25体積%以上分散含有する領域を、前記ポリマー層と前記金属膜との界面から前記基板方向に0.05μm以上有することが好ましい。
さらに、本発明における前記基板としては、1GHzにおける誘電正接が0.01以下である絶縁性樹脂からなる基板、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることが好ましい。また、前記基板としては、1GHzにおける誘電率が3.5以下である絶縁性樹脂からなる基板、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることが好ましい。
【0007】
ここで、本発明における基材とは、その上に金属パターンを形成するための支持体となるポリイミドフィルム等の材料そのものを指す。
また、本発明における基板とは、以下に詳述するグラフトポリマーが、その上に直接化学的に結合しうるものを指す。例えば、基材上に重合開始層等の中間層を設けてその上にグラフトポリマーを生成する場合であれば、基板とは基材及び該基材上に設けられた中間層を含有したものを指し、また、基材上にグラフトポリマーを直接生成する場合であれば、
基板とは基材そのものを指す。
【0008】
また、本発明の金属膜の形成方法は、(a)表面の凹凸が500nm以下の基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有し且つ該基材と直接化学結合するポリマーを導入する工程と、(b)該ポリマーに無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与する工程と、(c)無電解メッキを行う工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記(a)工程としては、(a−1)表面の凹凸が500nm以下の基材上に重合開始剤を含有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a−2)該重合開始層が形成された基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有し且つ該基材と直接化学結合するポリマーを導入する工程と、を有すること。
【0010】
また、前記(a−2)工程が、前記重合開始層が形成された基板上に、重合性基及び無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーを接触させた後、エネルギーを付与することにより、前記基板表面全体に当該ポリマーを直接化学結合させる工程であることが好ましい。
【0011】
本発明の金属膜の形成方法においては、前記(c)工程後、(d)電気メッキを行う工程を行うことにより、任意の膜厚を有する金属パターンを形成しうるという利点を有する。
また、本発明の金属膜の形成方法においては、前記(c)工程、又は、前記(d)工程後に、乾燥工程を行うことが好ましい。
【0012】
本発明の作用は明確でないが、以下のように推測される。
本発明の金属膜が形成される基板は、基板表面の凹凸が500nm以下の平滑な基板であるが、表面グラフトにより表面改質されていることで、金属膜の基板界面が、基板に直接結合しているポリマーとの間でハイブリッド状態を形成するため、基板表面が平滑であっても金属膜と基板との密着性が高いものと考えられる。
また、本発明の金属膜の形成方法において生成するグラフトポリマーは、基材界面からの重合により生成されたものであり、その運動性が高く、無電解メッキ触媒又はその前駆体と作用しやすいと考えられる。また、このグラフトポリマーが有する高い運動性により、無電解メッキ液が形成された表面グラフト層の内部に浸透し易く、無電解メッキが表面グラフト層内部や上部で進行する結果、金属膜と基板に直接結合しているポリマーとの間でハイブリッド状態が形成され易く、金属膜と基板との密着性の向上に寄与しているものと推測される。
【0013】
さらに、本発明の金属膜の形成方法における好適な態様は、基材上に重合開始剤を含有する重合開始層を形成する態様であり、基材上に、重合開始剤を含有する重合開始層を設けることにより、UV光などの汎用的に使用されている露光源で照射するだけで、基材表面に発生するラジカル種の量が増加し、より多くのグラフトポリマーを生成させることができるため、より金属膜とグラフトポリマーとのハイブリッド状態が形成されやすく、基板と金属膜との密着性がより一層向上するものと推測される。
【0014】
さらに、本発明の金属膜の形成方法における好適な態様は、重合開始層表面に、重合性基及び無電解メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーを接触させた後、エネルギーを付与することにより当該ポリマーを直接化学結合させる態様である。一般的なグラフト重合法は、重合開始層が塗布された基板をモノマー溶液に浸漬し、エネルギー付与するのだが、この手法では大量生産が難しい。また、基板にモノマー溶液を塗布しエネルギー付与する方法も知られているが、モノマーが液状であるために均一に基板上に保持するのが大変困難であり、グラフト化後の表面粗さが悪くなる。一方、重合性基及び無電解メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーを用いた場合には、重合開始層が塗布された基板上に塗膜として形成させエネルギー付与する事ができるために、大量生産が可能であり、また、固体であるために均一に製膜も可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板との密着性に優れた金属膜を提供することができる。
また、本発明によれば、基板との密着性に優れ、且つ基板との界面における凹凸が小さい金属膜を簡便な工程により形成しうる金属膜の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
[金属膜]
本発明の金属膜は、表面の凹凸が500nm以下の基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーが直接化学的に結合したポリマー層を有し、該ポリマー層上に無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与した後、無電解メッキを行うことで設けた金属膜であって、該基板と該金属膜との密着性が0.2kN/m以上であることを特徴とする。即ち、基板を粗化することがないため、基板表面が平滑でありながら、基板と金属膜との密着性に優れることを特徴とする。
【0017】
本発明における基板の表面の凹凸は500nm以下であり、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、最も好ましくは20nm以下である。
基板の表面の凹凸を上記範囲とすると、本発明の金属膜を配線等として用いた場合に、表面凹凸が小さくなるほど高周波送電時の電気損失が少なくなり好ましい。
また、基板の表面におけるRz(10点平均粗さ)としては、450nm以下であり、好ましくは80nm以下、更に好ましくは40nm以下、最も好ましくは15nm以下である。なお、Rzの測定方法としては、JIS B0601に準じて「指定面における、最大から5番目までの山頂のZデータの平均値と最小から5番目までの谷底の平均値との差」として測定した。
【0018】
さらに、本発明の金属膜は、基板と金属膜との密着性が0.2kN/m以上であることを特徴とする。ここで、密着性の数値に上限はないが、常識的な範囲から言えば、0.2〜2.0kN/m程度である。なお、従来の金属膜における基板と金属膜との密着性は、0.2〜3.0kN/m程度が一般的な値である。このことを考慮すれば、本発明の金属膜が実用上充分な密着性を有していることが分かる。
【0019】
また、本発明においては、金属膜と基板との間に存在するポリマー層が、、無電解メッキ触媒及び無電解メッキにより析出した金属から選ばれる少なくとも1種の微粒子を25体積%以上分散含有する領域を、前記ポリマー層と前記金属膜との界面から前記基板方向に0.05μm以上有することが好ましい。
ポリマー層中に存在する微粒子の状態をさらに詳細に説明するに、このようなポリマー層(グラフト膜)中においては、金属膜とポリマー層との界面から基板方向に、無電解メッキ触媒及び/又は無電解メッキにより析出した金属を含む微粒子が、界面側に高密度で分散している。このときの微粒子分散状態において、金属膜とポリマー層との界面近傍に、微粒子が25体積%以上含まれている領域が存在することが、金属膜の密着力発現の観点から好ましく、更に好ましくは30体積%以上、より好ましくは40体積%以上、特に50体積%以上含まれる領域が存在することが好ましい。また、ポリマー層中において、このように微粒子が高密度で存在する領域としては、ポリマー層と金属膜との界面から基板方向へ深さ0.05μm以上で存在することが好ましく、0.1μm以上がより好ましく、更に0.2μm以上が好ましく、特に0.3μm以上の深さまで存在することが好ましい。
【0020】
一般的に、金属膜においては、基板との界面における凹凸を500nm以下とし、パターン状にエッチングすることで、高周波特性に優れた金属パターンを得ることができる。ここで、高周波特性とは、特に伝送損失が低くなる特性であり、更には、伝送損失の中でも導体損失が低くなる特性である。
ところで、従来の金属膜においては、基板表面の凹凸を減らすと、基板と金属膜との密着性が低下してしまうため、やむを得ず基材表面を種々の方法により粗面化し、その上に金属膜を設けるといった手法が取られていた。そのため、従来の金属膜の基板との界面における凹凸は、2000nm以上であることが一般的であった。
一方、本発明の金属膜は、基板界面が、金属膜と基材に直接化学結合しているポリマー層とのハイブリッド状態であるために優れた密着性を維持することが可能となったものである。
【0021】
このように、本発明の金属膜は、基板との界面における凹凸を最小限に留めつつ、基板と金属膜との密着性を維持することが可能となった。
【0022】
本発明の金属膜は、例えば、電磁波防止膜等として、また、金属膜をエッチングによりパターン化することで、半導体チップ、各種電気配線板、FPC、COF、TAB、アンテナ、多層配線基板、マザーボード、等の種々の用途に適用することができる。
【0023】
本発明の金属膜は、以下に述べる本発明の金属膜の形成方法と同様の工程により作製することができる。以下、本発明の金属膜の形成方法について詳細に述べる。
【0024】
[金属膜の形成方法]
本発明の金属膜の形成方法は、(a)表面の凹凸が500nm以下の基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有し且つ該基材と直接化学結合するポリマーを導入する工程と、(b)該ポリマーに無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与する工程と、(c)無電解メッキを行う工程と、
を有することを特徴とする。
以下、上記(a)〜(c)の各工程について順次説明する。
【0025】
〔(a)工程〕
(a)工程では、表面の凹凸が500nm以下の基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基(以下、適宜、「相互作用性基」と称する。)を有し且つ該基材と直接化学結合するポリマーが導入される。
本発明における(a)工程は、(a−1)表面の凹凸が500nm以下の基材上に重合開始剤を含有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a−2)該重合開始層が形成された基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有し且つ該基材と直接化学結合するポリマーを導入する工程であることが好ましい。
また、上記(a−2)工程は、前記重合開始層が形成された基板上に、重合性基及び無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーを接触させた後、エネルギーを付与することにより、前記基板表面全体に当該ポリマーを直接化学結合させる工程であることが好ましい。
【0026】
(表面グラフト)
本発明における基板表面へのポリマーの導入は、一般的な表面グラフト重合と呼ばれる手段を用いる。グラフト重合とは、高分子化合物鎖上に活性種を与え、これによって重合を開始する別の単量体を更に重合させ、グラフト(接ぎ木)重合体を合成する方法である。特に、活性種を与える高分子化合物が固体表面を形成する時には、表面グラフト重合と呼ばれる。
【0027】
本発明に適用される表面グラフト重合法としては、文献記載の公知の方法をいずれも使用することができる。例えば、新高分子実験学10、高分子学会編、1994年、共立出版(株)発行、p135には表面グラフト重合法として光グラフト重合法、プラズマ照射グラフト重合法が記載されている。また、吸着技術便覧、NTS(株)、竹内監修、1999.2発行、p203、p695には、γ線、電子線などの放射線照射グラフト重合法が記載されている。
光グラフト重合法の具体的方法としては、特開昭63−92658号公報、特開平10−296895号公報及び特開平11−119413号公報に記載の方法を使用することができる。
【0028】
高分子化合物鎖の末端が直接に化学的に結合された表面グラフト層を作製するための手段としてはこれらの他、高分子化合物鎖の末端にトリアルコキシシリル基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基などの反応性官能基を付与し、これと基板表面に存在する官能基とのカップリング反応により形成することもできる。
より多くの表面グラフトポリマーを生成する観点からは、光グラフト重合法が好ましい。
【0029】
なお、本発明における基板表面とは、その表面に、相互作用性基を有する高分子化合物の末端が直接又は幹高分子化合物を介して化学的に結合する機能を有する表面を示すものであり、基材自体がこのような表面特性を有するものであってもよく、また該基材上に別途中間層を設け、該中間層がこのような特性を有するものであってもよい。
【0030】
また、相互作用性基を有する高分子化合物鎖の末端が幹高分子化合物を介して化学的に結合された表面を作製するための手段としては、基板表面の官能基とカップリング反応し得る官能基及び相互作用性基を有する高分子化合物を合成し、この高分子化合物と基板表面の官能基とのカップリング反応により、当該表面を形成する方法がある。他の方法としては、基板表面がラジカル種を発生する性質を有する場合には、重合性基と相互作用性基とを有する高分子化合物を合成し、この高分子化合物を基板界面に塗布し、ラジカル種を発生させ、基板表面と高分子化合物とを重合反応させて、当該表面を形成する方法がある。
【0031】
本発明においては、上記のごとく、基板表面に活性種を与え、それを起点としてグラフトポリマーを生成させるが、グラフトポリマーの生成に際しては、表面の凹凸が500nm以下の基板上に、重合開始剤を含有する重合開始層を形成すること〔(a−1)工程〕が、活性点を効率よく発生させ、より多くの表面グラフトポリマーを生成させるという観点から好ましい。
重合開始層は、重合性化合物と重合開始剤とを含む層として形成することが好ましい。
本発明における重合開始層は、必要な成分を、溶解可能な溶媒に溶解し、塗布などの方法で基板表面上に設け、加熱又は光照射により硬膜し、形成することができる。
【0032】
(a)重合性化合物
重合開始層に用いられる重合性化合物は、基材との密着性が良好であり、且つ、活性光線照射などのエネルギー付与により表面グラフトポリマーを生成するものであれば特に制限はなく、多官能モノマー等を用いてもよいが、特に好ましくは、分子内に重合性基を有する疎水性ポリマーを用いる態様である。
このような疎水性ポリマーとしては、具体的には、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリぺンタジエンなどのジエン系単独重合体、アリル(メタ)アクリレー卜、2−アリルオキシエチルメタクリレー卜などのアリル基含有モノマーの単独重合体;
更には、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエンなどのジエン系単量体又はアリル基含有モノマーを構成単位として含む、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどの二元又は多元共重合体;
不飽和ポリエステル、不飽和ポリエポキシド、不飽和ポリアミド、不飽和ポリアクリル、高密度ポリエチレンなどの分子中に炭素−炭素二重結合を有する線状高分子又は3次元高分子類;などが挙げられる。
なお、本明細書では、「アクリル、メタクリル」の双方或いはいずれかを指す場合、「(メタ)アクリル」と表記することがある。
重合性化合物の含有量は、重合性層中、固形分で0〜100質量%の範囲が好ましく、10〜80質量%の範囲が特に好ましい。
【0033】
(b)重合開始剤
重合開始層には、エネルギー付与により重合開始能を発現させるための重合開始剤を含有する。ここで用いられる重合開始剤は、所定のエネルギー、例えば、活性光線の照射、加熱、電子線の照射などにより、重合開始能を発現し得る公知の熱重合開始剤、光重合開始剤などを目的に応じて、適宜選択して用いることができる。中でも、光重合を利用することが製造適性の観点から好適であり、このため、光重合開始剤を用いることが好ましい。
光重合開始剤は、照射される活性光線に対して活性であり、表面グラフト重合が可能なものであれば、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などを用いることができるが、反応性の観点からはラジカル重合開始剤が好ましい。
【0034】
そのような光重合開始剤としては、具体的には、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2’−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの如きアセトフェノン類;ベンゾフェノン(4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、の如きケトン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルの如きベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの如きベンジルケタール類、などが挙げられる。
重合開始剤の含有量は、重合性層中、固形分で0.1〜70質量%の範囲が好ましく、1〜40質量%の範囲が特に好ましい。
【0035】
上記重合性化合物及び重合開始剤を塗布する際に用いる溶媒は、それらの成分が溶解するものであれば特に制限されない。乾燥の容易性、作業性の観点からは、沸点が高すぎない溶媒が好ましく、具体的には、沸点40℃〜150℃程度のものを選択すればよい。
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテートなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独或いは混合して使用することができる。そして塗布溶液中の固形分の濃度は、2〜50質量%が適当である。
【0036】
重合開始層を基板上に形成する場合の塗布量は、充分な重合開始能の発現、および、膜性を維持して膜剥がれを防止するといった観点からは、乾燥後の質量で、0.1〜20g/m2が好ましく、更に、1〜15g/m2が好ましい。
【0037】
本発明においては、上記のように、基材表面上に上記の重合性層形成用の組成物を塗布などにより配置し、溶剤を除去することにより成膜させて重合性層を形成するが、このとき、加熱及び/又は光照射を行って硬膜することが好ましい。特に、加熱により乾燥した後、光照射を行って予備硬膜しておくと、重合性化合物のある程度の硬化が予め行なわれるので、グラフト化を達成した後に重合開始層ごと脱落するといった事態を効果的に抑制し得るため好ましい。ここで、予備硬化に光照射を利用するのは、前記光重合開始剤の項で述べたのと同様の理由による。
加熱温度と時間は、塗布溶剤が充分乾燥し得る条件を選択すればよいが、製造適正の点からは、温度が100℃以下、乾燥時間は30分以内が好ましく、乾燥温度40〜80℃、乾燥時間10分以内の範囲の加熱条件を選択することがより好ましい。
【0038】
加熱乾燥後に所望により行われる光照射は、後述するグラフト化反応に用いる光源を用いることができる。引き続き行われるグラフト化反応において、エネルギー付与により実施される重合性層の活性点とグラフト鎖との結合の形成を阻害しないという観点からは、重合性層中に存在する重合性化合物が部分的にラジカル重合しても、完全にはラジカル重合しない程度に光照射することが好ましい。光照射時間については、光源の強度により異なるが、一般的には30分以内であることが好ましい。このような予備硬化の目安としては、溶剤洗浄後の膜残存率が10%以下となり、且つ、予備硬化後の開始剤残存率が1%以上であることが、挙げられる。
【0039】
(基材)
本発明に使用される基材は、寸度的に安定な板状物であることが好ましく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリイミド、エポキシ等)、上記の如き金属がラミネート若しくは蒸着された紙若しくはプラスチックフィルム等が含まれる。本発明に使用される基材としては、ポリエステルフィルム又はポリイミドフィルムが好ましい。
【0040】
また、本発明の金属膜はエッチングによりパターン化することで、半導体パッケージ、各種電気配線基板等に適用することができる。このような用途に用いる場合は、以下に示す、絶縁性樹脂を基板として用いることが好ましい。
絶縁樹脂としては、ポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテル、シアネートエステル化合物、エポキシ化合物などの樹脂が挙げられる。これらの樹脂の1種以上を含む熱硬化性樹脂組成物により形成される基板が好ましく用いられる。これらの樹脂を2種以上組み合わせて樹脂組成物とする場合の好ましい組み合わせとしては、ポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルとシアネートエステル化合物、ポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルとエポキシ化合物、ポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルとシアネートエステル化合物とエポキシ化合物などの組み合わせが挙げられる。
このような熱硬化性樹脂組成物により基板を形成する場合には、シリカ、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる無機充填剤を含まないことが好ましく、また、臭素化合物またはリン化合物をさらに含む熱硬化性樹脂組成物であることが好ましい
【0041】
また、その他の絶縁樹脂としては、1,2−ビス(ビニルフェニレン)エタン樹脂、もしくはこれとポリフェニレンエーテル樹脂との変性樹脂が挙げられる。このような樹脂については、例えば、天羽悟ら著,「Journal of Applied Polymer Science」第92巻、p1252−1258(2004年)に詳細に記載されている。
さらに、クラレ製の「ベクスター」などの名称で市販品としても入手可能な液晶性ポリマーやポリ4フッ化エチレン(PTFE)に代表されるフッ素樹脂なども好ましく挙げられる。
これらの樹脂のうち、フッ素樹脂(PTFE)は高分子材料の中で最も高周波特性に優れる。ただし、Tgが低い熱可塑性樹脂であるために熱に対する寸法安定性に乏しく,機械的強度なども熱硬化性樹脂材料に比べて劣る。また形成性や加工性にも劣るという問題がある。また、ポリフェニレンエーテル(PPE)などの熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂などとのアロイ化を行なって用いることもできる。例えば、PPEとエポキシ樹脂、トリアリルイソシアネートとのアロイ化樹脂、あるいは重合性官能基を導入したPPE樹脂とそのほかの熱硬化性樹脂とのアロイ化樹脂としても使用することができる。
エポキシ樹脂はそのままでは誘電特性が不充分であるが、かさ高い骨格の導入などで改善が図られており、このようにそれぞれの樹脂の特性を生かし、その欠点を補うような構造の導入、変性などを行った樹脂が好ましく用いられる。
例えば、シアネートエステルは熱硬化性の中ではもっとも誘電特性の優れる樹脂であるが、それ単独で使用されることは少なく、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、熱可塑性樹脂などの変性樹脂として使用される。これらの詳細に関しては、「電子技術」 2002年第9号 p35に記載されており、これらの記載もまた、このような絶縁樹脂を選択する上で参照することができる。
【0042】
本発明の金属膜を、半導体パッケージ、各種電気配線用途等に適用する場合、大容量データを高速に処理するという観点で、信号の遅延と減衰とを抑制するためには、基板の誘電率及び誘電正接のそれぞれを、低くすることが有効である。低誘電正接材料については、「エレクトロニクス実装学会誌」第7巻、第5号、p397(2004年)に詳細に記載されている通りであり、特に低誘電正接特性を有する絶縁材料を採用することが高速化の観点から好ましい。
【0043】
このような用途に用いる場合の基板として、具体的には、1GHzにおける誘電率(比誘電率)が3.5以下である絶縁性樹脂からなる基板であるか、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることが好ましい。また、1GHzにおける誘電正接が0.01以下である絶縁性樹脂からなる基板であるか、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることが好ましい。
絶縁性樹脂の誘電率及び誘電正接は、常法を用いて測定することができる。例えば、「第18回エレクトロニクス実装学会学術講演大会要旨集」、2004年、p189、に記載の方法に基づき、空洞共振器摂動法(例えば、極薄シート用εr、tanδ測定器、キーコム株式会社製)を用いて測定することができる。
このように、本発明においては誘電率や誘電正接の観点から絶縁樹脂材料を選択することも有用である。誘電率が3.5以下であり、誘電正接が0.01以下の絶縁樹脂としては、液晶ポリマー、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、シアネートエステル樹脂、ビス(ビスフェニレン)エタン樹脂などが挙げられ、さらにそれらの変性樹脂も含まれる。
【0044】
本発明の金属膜の形成方法に適用される基材表面の凹凸は500nm以下であり、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、最も好ましくは20nm以下である。
また、基材の表面におけるRz(10点平均粗さ)としては、500nm以下であり、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、最も好ましくは20nm以下である。なお、Rzの測定方法としては、JIS B0601に準じて「指定面における、最大から5番目までの山頂のZデータの平均値と最小から5番目までの谷底の平均値との差」として測定した。
【0045】
(グラフトポリマーの生成)
(a)工程におけるグラフトポリマーの生成態様としては、前述した如く、基板表面に存在する官能基と、高分子化合物がその末端又は側鎖に有する反応性官能基とのカップリング反応を利用する方法や、基板を直接光グラフト重合する方法を用いることができる。
本発明においては、重合開始層が形成された基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基(相互作用性基)を有し且つ該基材と直接化学結合するポリマーを導入する態様〔(a−2)工程〕が好ましい。更に好ましくは、重合開始層が形成された基材上に、重合性基及び無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基(相互作用性基)を有するポリマーを接触させた後、エネルギーを付与することにより、前記基材表面全体に当該ポリマーを直接化学結合させる態様が好ましい態様である。即ち、重合性基及び相互作用性基を有する化合物を含有する組成物を重合開始層が形成された基材表面接触させながら、当該基材表面に生成する活性種により接結合させるものである。
上記接触は、基材を、重合性基及び相互作用性基を有する化合物を含有する液状の組成物中に浸漬することで行ってもよいが、取り扱い性や製造効率の観点からは、後述するように、重合性基及び相互作用性基を有する化合物を含有する組成物を主成分とする層を基板表面に、塗布法により形成してもよい。
【0046】
<基板表面に存在する官能基と、高分子化合物がその末端又は側鎖に有する反応性官能基とのカップリング反応を利用する方法>
本発明においては、グラフトポリマーの生成に適用しうるカップリング反応としては、いかなる反応も使用できる。基板表面の官能基と、高分子化合物がその末端又は側鎖に有する反応性官能基との具体的な組み合わせとしては、(−COOH、アミン)、(−COOH、アジリジン)、(−COOH、イソシアネート)、(−COOH,エポキシ)、(−NH2,イソシアネート)、(−NH2,アルデヒド類)、(−OH、アルコール)、(−OH、ハロゲン化化合物)、(−OH、アミン)、(−OH、酸無水物)の組み合わせが挙げられる。高反応性という観点からは、(−OH、多価イソシアネート)、(−OH、エポキシ)が特に好ましい組み合わせである。
【0047】
<基板を直接光グラフト重合する方法>
(相互作用性基を有し且つ光グラフト重合するモノマー)
本発明において、基板を直接光グラフト重合する方法により、グラフトポリマーを生成させる場合に用いられる、相互作用性基を有し且つ基板と直接化学結合する化合物としては、以下のモノマーが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン(下記構造)などのカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、アミド基、ホスフィン基、イミダゾール基、ピリジン基、若しくはそれらの塩、及びエーテル基などの官能基を有するモノマーが挙げられる。これらのモノマーは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
【化1】

【0049】
(相互作用性基を有し且つ基板と直接化学結合するポリマー)
本発明において用いられる相互作用性基を有し且つ該基板と直接化学結合するポリマーとしては、相互作用性基を有するモノマーから生成するポリマーが挙げられる。また、相互作用性基を有するモノマーから選ばれる少なくとも一種を用いて得られるホモポリマー、コポリマーに、重合性基として、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのエチレン付加重合性不飽和基(重合性基)を導入したポリマー、即ち、重合性基及び相互作用性基を有するポリマーを用いることがより好ましい。この重合性基及び相互作用性基を有するポリマーは、少なくとも末端又は側鎖に重合性基を有するものであり、特に末端に重合性基を有するものが好ましく、更に、末端及び側鎖に重合性基を有するものが好ましい。
このように、本発明において、重合性基及び相互作用性基を有するポリマーが好適に用いられるのは以下の理由による。即ち、モノマーを使用しグラフト重合を行う際の作業性を考慮すると、モノマー溶液に浸漬する方法では大量生産が難しい。また、モノマー溶液を塗布する方法では、光照射までに基材上に、モノマー溶液を均一に保持するのは大変困難である。さらに、モノマー溶液を塗布後に、フィルム等によりカバーする方法も知られてはいるが、均一にカバーするにことは困難であり、カバーする作業が必要など作業が煩雑になる。それに対して、ポリマーを使用する場合は、塗布後、固体となるため、均一に製膜が可能であり、大量生産も容易であるからである。
【0050】
上記ポリマーを合成するための相互作用性基を有するモノマーとしては、以下のモノマーが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン(下記構造)などのカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、アミド基、ホスフィン基、イミダゾール基、ピリジン基、若しくはそれらの塩、及びエーテル基などの官能基を有するモノマーが挙げられる。これらのモノマーは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
【化2】

【0052】
重合性基及び相互作用性基を有するポリマーは、以下のように合成できる。
合成方法としては、i)相互作用性基を有するモノマーと重合性基を有するモノマーとを共重合する方法、ii)相互作用性基を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)相互作用性基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、二重結合を導入(重合性基を導入する)方法が挙げられる。好ましいのは、合成適性の観点から、ii)相互作用性基を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)相互作用性基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法である。
【0053】
重合性基及び相互作用性基を有するポリマーの合成に用いられる、相互作用性基を有するモノマーとしては、上記の相互作用性基を有するモノマーと同様のモノマーを用いることができる。モノマーは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
相互作用性基を有するモノマーと共重合させる重合性基を有するモノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
また、二重結合前駆体を有するモノマーとしては2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレー卜、2−(3−ブロモ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレート、などが挙げられる。
【0055】
更に、相互作用性基を有するポリマー中の、カルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、及びエポキシ基などの官能基との反応を利用して不飽和基を導入するために用いられる重合性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどがある。
【0056】
また、本発明においては、マクロモノマーも使用することができる。本発明に用いられるマクロモノマーの製造方法は、例えば、平成1年9月20日にアイピーシー出版局発行の「マクロモノマーの化学と工業」(編集者 山下雄也)の第2章「マクロモノマーの合成」に各種の製法が提案されている。本態様で用いられるマクロモノマーで特に有用なものとしては、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有のモノマーから誘導されるマクロモノマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスチレンスルホン酸、及びその塩のモノマーから誘導されるスルホン酸系マクロモノマー、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカルボン酸アミドモノマーから誘導されるアミド系マクロモノマー、ヒドロキシエチルメタクリレー卜、ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールモノメタクリレートなどの水酸基含有モノマーから誘導されるマクロモノマー、メトキシエチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレートなどのアルコキシ基若しくはエチレンオキシド基含有モノマーから誘導されるマクロモノマーである。またポリエチレングリコール鎖若しくはポリプロピレングリコール鎖を有するモノマーも本発明にに用いられるマクロモノマーとして有用に使用することができる。
これらのマクロモノマーのうち有用な分子量は、250〜10万の範囲で、特に好ましい範囲は400〜3万である。
【0057】
上記相互作用性基を有するモノマーや、重合性基及び相互作用性基を有するポリマーを含有する組成物に使用する溶剤は、組成物の主成分である、相互作用性基を有するモノマー、重合性基及び相互作用性基を有する化合物などが溶解可能ならば特に制限はない。溶剤には、更に界面活性剤を添加してもよい。
使用できる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテルの如きアルコール系溶剤、酢酸の如き酸、アセトン、シクロヘキサノンの如きケトン系溶剤、ホルムアミド、ジメチルアセトアミドの如きアミド系溶剤、などが挙げられる。
【0058】
必要に応じて溶剤に添加することのできる界面活性剤は、溶剤に溶解するものであればよく、そのような界面活性剤としては、例えば、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの如きアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの如きカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品としては、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの如き非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
組成物を液状のまま接触させる場合には、任意に行うことができるが、塗布法により相互作用性基含有組成物塗布層を形成する場合の塗布量は、十分なメッキ触媒またはその前駆体との相互作用性、及び、均一な塗布膜とを得る観点からは、固形分換算で0.1〜10g/m2が好ましく、特に0.5〜5g/m2が好ましい。
【0059】
(エネルギー付与)
基材表面へのエネルギー付与方法としては、例えば、加熱や露光等の輻射線照射を用いることができる。例えば、UVランプ、可視光線などによる光照射、ホットプレートなどでの加熱等が可能である。光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、等がある。また、g線、i線も使用される。エネルギー付与に要する時間としては、目的とするグラフトポリマーの生成量及び光源により異なるが、通常、10秒〜5時間の間である。
【0060】
以上説明した(a)工程により、基材上に相互作用性基を有するポリマー(グラフトポリマー)を導入することができる。
【0061】
〔(b)工程〕
(b)工程においては、上記(a)工程により基材上に導入された相互作用性を有するポリマーに、無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与する。
【0062】
<無電解メッキ触媒>
本工程において用いられる無電解メッキ触媒とは、主に0価金属であり、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。本発明においては、特に、Pd、Agがその取り扱い性の良さ、触媒能の高さから好ましい。0価金属を相互作用性領域に固定する手法としては、例えば、グラフトポリマーが有する相互作用性基と相互作用するように荷電を調節した金属コロイドを、グラフトポリマーに適用する手法が用いられる。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができ、このように荷電を調節した金属コロイドを、グラフトポリマーが有する相互作用性基と相互作用させると、相互作用性基は主に極性基である為に、グラフトポリマーに選択的に金属コロイド(無電解メッキ触媒)を吸着させることができる。
【0063】
<無電解メッキ触媒前駆体>
本工程において用いられる無電解メッキ触媒前駆体とは、化学反応により無電解メッキ触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には上記無電解メッキ触媒で用いた0価金属の金属イオンが用いられる。無電解メッキ触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解メッキ触媒である0価金属になる。無電解メッキ触媒前駆体である金属イオンは、基材へ付与した後、無電解メッキ浴への浸漬前に、別途還元
反応により0価金属に変化させて無電解メッキ触媒としてもよいし、無電解メッキ触媒前駆体のまま無電解メッキ浴に浸漬し、無電解メッキ浴中の還元剤により金属(無電解メッキ触媒)に変化させてもよい。
【0064】
実際には、無電解メッキ前駆体である金属イオンは、金属塩の状態でグラフトパターン上に付与する。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO3n、MCln、M2/n(SO4)、M3/n(PO4)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオンが挙げられ、Agイオン、Pdイオンが触媒能の点で好ましい。
【0065】
無電解メッキ触媒である金属コロイド、或いは、無電解メッキ前駆体である金属塩をグラフトポリマー上に付与する方法としては、金属コロイドを適当な分散媒に分散、或いは、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その溶液をグラフトポリマーが存在する基材表面に塗布するか、或いは、その溶液中にグラフトポリマーを有する基材を浸漬すればよい。金属イオンを含有する溶液を接触させることで、相互作用性領域上の相互作用性基に、イオン−イオン相互作用、又は、双極子−イオン相互作用を利用して金属イオンを吸着させること、或いは、相互作用性領域に金属イオンを含浸させることができる。このような吸着又は含浸を充分に行なわせるという観点からは、接触させる溶液中の金属イオン濃度、或いは金属塩濃度は0.01〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、1分〜24時間程度であることが好ましく、5分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0066】
〔(c)工程〕
(c)工程では、無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与されたポリマー(グラフトポリマー)に、無電解メッキが行われることで、グラフトポリマーが生成した基板上に、高密度の金属膜が形成される。形成された金属膜は、優れた導電性、密着性を有する。
【0067】
<無電解メッキ>
無電解メッキとは、メッキとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解メッキは、例えば、無電解メッキ触媒が付与された基板を、水洗して余分な無電解メッキ触媒(金属)を除去した後、無電解メッキ浴に浸漬して行なう。使用される無電解メッキ浴としては一般的に知られている無電解メッキ浴を使用することができる。
また、無電解メッキ触媒前駆体が付与された基板を、無電解メッキ触媒前駆体がグラフトポリマーに吸着又は含浸した状態で無電解メッキ浴に浸漬する場合には、基板を水洗して余分な前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解メッキ浴中へ浸漬される。この場合には、無電解メッキ浴中において、前駆体の還元とこれに引き続き無電解メッキが行われる。ここで使用される無電解メッキ浴としても、上記同様、一般的に知られている無電解メッキ浴を使用することができる。
【0068】
一般的な無電解メッキ浴の組成としては、1.メッキ用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このメッキ浴には、これらに加えて、メッキ浴の安定剤など公知の添加物が含まれていてもよい。
無電解メッキ浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウムが知られており、中でも、導電性の観点からは、銅、金が特に好ましい。
また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物がある。例えば、銅の無電解メッキの浴は、銅塩としてCuSO4、還元剤としてHCOH、添加剤として銅イオンの安定剤であるEDTAやロッシェル塩などのキレート剤が含まれている。また、CoNiPの無電解メッキに使用されるメッキ浴には、その金属塩として硫酸コバルト、硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウムが含まれている。また、パラジウムの無電解メッキ浴は、金属イオンとして(Pd(NH34)Cl2、還元剤としてNH3、H2NNH2、安定化剤としてEDTAが含まれている。これらのメッキ浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0069】
このようにして形成される金属膜の膜厚は、メッキ浴の金属塩又は金属イオン濃度、メッキ浴への浸漬時間、或いは、メッキ浴の温度などにより制御することができるが、導電性の観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
また、メッキ浴への浸漬時間としては、1分〜6時間程度であることが好ましく、1分〜3時間程度であることがより好ましい。
【0070】
以上のようにして得られた金属膜は、SEMによる断面観察により、表面グラフト膜(ポリマー層)中に無電解メッキ触媒やメッキ金属の微粒子がぎっしりと分散しており、更にグラフト膜上にメッキ金属が析出していることが確認された。基板と金属膜(メッキ層)との界面は、グラフトポリマーと微粒子とのハイブリッド状態であるため、基板(有機成分)と無機物(無電解メッキ触媒又はメッキ金属)との界面の凹凸差が500nm以下であっても密着性が良好であった。この断面状況の詳細は、前述の金属膜の説明において詳述した通りである。
【0071】
<電気メッキ工程>
本発明の金属膜の形成方法においては、、前記(c)工程による無電解メッキの後、形成された金属膜を電極とし、さらに(d)電気メッキを行ってもよい(電気メッキ工程)。これにより基板との密着性に優れた金属膜をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ金属膜を容易に形成することができる。この工程を付加することにより、金属膜を目的に応じた厚みに形成しうるため、本発明の金属膜を種々の応用に適用するのに好適である。
本発明における電気メッキの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、本工程の電気メッキに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0072】
電気メッキにより得られる金属膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、メッキ浴中に含まれる金属濃度、浸漬時間、或いは、電流密度などを調整することでコントロールすることができる。なお、一般的な電気配線などに用いる場合の膜厚は、導電性の観点から、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【0073】
本発明においては、前記(c)工程(無電解メッキ工程)又は前記(d)工程(電気メッキ工程)を行った後、乾燥工程を行うことが密着性向上の観点から好ましい。
乾燥工程における乾燥処理は如何なる手段であってもよく、具体的には、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥、送風乾燥などの手段により行うことができる。これらの中でも、乾燥に起因するポリマー層の変質を抑制するという観点からは、常温又はその近傍の温度条件で乾燥処理を行うことが好ましい。具体的には、前記(c)工程又は前記(d)工程終了後に、金属膜形成後の材料を、常温下に保存する自然乾燥、常温条件下での減圧乾燥、及び常温送風乾燥の各乾燥処理が好ましい。加温を行うことなく水分を可能な限り除去する観点からは、これらの乾燥処理を、1時間以上、さらには24時間以上実施することが好ましい。乾燥処理条件は、必要とされる密着性などを考慮して適宜選択すればよいが、具体的には、金属膜形成後の材料を、例えば、25℃前後の温度雰囲気下で1〜3日程度、1〜3週間程度、或いは、1〜2ヶ月程度保存して乾燥する方法、通常の真空乾燥機による減圧下に1〜3日程度、或いは、1〜3週間程度、保存して乾燥する方法等が挙げられる。
乾燥処理を行うことにより密着性が向上する作用は明確ではないが、充分な乾燥を行うことにより、密着性を低下させる要因である水分が金属膜中に保持されるのを防ぐことで、水分に起因する密着性の経時的な低下を抑制しうるものと推定している。
また、乾燥中における銅等からなる金属膜表面の酸化防止のために、酸化防止剤を金属膜表面に塗布することが好ましい。酸化防止剤としては、一般的に使用されるものが適用でき、例えば、アジミドベンゼン等が使用できる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
〔基板の作製〕
ポリイミドフィルム(製品名:カプトン、東レデュポン社製)の上に下記の重合開始層塗布液をロッドバー18番を用いて塗布し、80℃で2分間乾燥させた。
次に、この塗布されたフィルムを、400W高圧水銀灯(UVL−400P、理工科学産業(株)製)を使用し、10分間照射し、予備硬化させて、基材上に重合開始層を形成した。得られた重合開始層の膜厚は6.5μmであった。
ここで、基材であるポリイミドフィルムについて、Nanopics1000(セイコーインスツルメンツ製)を用いて40μm×40μmの範囲を測定した値により、JIS B 0601に準じて求めたRzは15nmであった。また、このポリイミドフィルム上に重合開始層を形成した場合についても同様に測定したところ、Rzは10nmであり、実施例に用いた基板の表面凹凸は本発明の好ましい範囲内であることがわかった。
【0075】
<重合開始層塗布液>
・アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体 4g
(モル比率80/20、分子量10万)
・エチレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート 4g
(東亞合成(株)M210)
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 1.6g
・1−メトキシ−2−プロパノール 16g
【0076】
〔グラフトポリマーの生成〕
上記により重合開始層が形成されたポリイミドフィルムを、アクリル酸(10質量%)及び過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4、0.01質量%)を含む水溶液に浸漬し、アルゴン雰囲気下で、上記の1.5kWの高圧水銀灯を使用し、10分間光照射した。光照射後、得られたフィルムをイオン交換水でよく洗浄し、アクリル酸を基板にグラフトされた基板1を得た。
基板1のRzを、前記ポリイミドフィルムの場合と同様にして測定したところ、15nmであった。
【0077】
〔無電解メッキ〕
得られた基板1を、硝酸パラジウム(和光純薬製)0.1質量%の水溶液に1時間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。その後、以下の組成からなる無電解メッキ浴にて10分間無電解メッキし、金属膜1を作製した。
【0078】
<無電解メッキ浴の組成>
・硫酸銅 0.3g
・酒石酸NaK 1.7g
・水酸化ナトリウム 0.7g
・ホルムアルデヒド 0.2g
・水 48g
【0079】
[実施例2]
実施例1で得られた金属膜1を、更に、下記組成の電気メッキ浴にて15分間電気メッキし、金属膜2を作製した。
【0080】
<電気メッキ浴の組成>
・硫酸銅 38g
・硫酸 95g
・塩酸 1mL
・カッパーグリームPCM(メルテックス(株)製) 3mL
・水 500g
【0081】
(金属膜が形成されたポリマー層における微粒子分散状態)
実施例2について、金属膜が形成されたポリマー層における微粒子分散状態を観察した。詳細は以下の通りである。
金属膜が形成された領域を、ミクロトーム(ライカ製)を用いてダイヤモンドカッター(製品名:スミナイフ)にてカットし、きれいなメッキ断面を有する試料を調整した。得られた試料をSEMで観察したところ、金属膜に隣接したポリマー中における微粒子の分散状態が確認できた。図1は、実施例2で得られた金属膜2の断面SEM写真である。
図1の写真により、ポリマー層中の金属膜との界面近傍に、無電解メッキ触媒、無電解メッキにより析出した金属の1種以上からなると考えられる微粒子が高密度で存在することが確認された。また、ポリマー層の深部(基板近傍)には、微粒子は殆ど観察されなかった。
【0082】
次に、SEM写真について、Photoshop(adobe社製)にて画像処理を行った。画像処理の内容は以下の通りである。
ポリマー層(図1中に、有機/無機ハイブリッド層として示す。)と金属膜(無電解メッキ層)との界面より、深さ(0.1μm、0.2μm、及び0.3μm)の各位置における3画像を、幅6μmの範囲で切り取り、切り取った各画像に対して2階調化処理(画像処理)を行い、微粒子部分を白、ポリマー部分を黒とした。(2階調化条件:境界の閾値 100)このようにして得られた画像を図2に示す。
その後、画像のヒストグラムにて、図2における各深さの白色部分の比率を算出し、これをメッキ層下のポリマー層中における微粒子の比率とした。その結果を得られた画像とともに図2中に示す。図2に示されるように、ポリマー層と金属膜との界面近傍に微粒子が高密度で存在することが確認された。
【0083】
[実施例3]
〔グラフトポリマーの生成〕
実施例1で使用した重合開始層が形成された基板に、下記組成からなる塗布液をロッドバー#18を用いて塗布した。なお、得られた膜の膜厚は、0.8μmだった。更に、裏面に対しても同様の作業を行った。
【0084】
<塗布液の組成>
・重合性基含有ポリマーA(合成方法は下記に示す) 0.25g
・シクロヘキサノン 8.0g
【0085】
<重合性基含有ポリマーAの合成方法>
(モノマーAの合成)
500mlの三口フラスコに、2−ヒドロキシエチルメタクリレート58.6gを入れ、アセトン250mlを加え、撹拌した。ピリジン39.2g、p−メトキシフェノール0.1gを添加した後に、氷水を入れた氷浴にて冷却した。混合液温度が5℃以下になった後に、2−ブロモイソブタン酸ブロミド114.9gを滴下ロートにて3時間かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外してさらに3時間撹拌した。反応混合液を水750mlに投入し、1時間撹拌した。水混合液を分液ロートを用いて、酢酸エチル500mlで3回抽出した。有機層を1M塩酸500ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液500ml、飽和食塩水500mlで順次洗浄した。有機層に硫酸マグネシウム100gを入れ、脱水乾燥した後、濾過した。溶媒を減圧留去し、モノマーAを120.3gを得た。
【0086】
次に、1000ml三口フラスコにN,N−ジメチルアセトアミド40gを入れ、窒素気流下、70℃まで加熱した。モノマーA12.58g、メタクリル酸27.52g、V−601(和光純薬製)0.921gのN,N−ジメチルアセトアミド40g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃まで加熱し、更に2時間撹拌した。室温まで、反応溶液を冷却した後、水3.5Lに投入し、高分子化合物を析出させた。析出した高分子化合物を濾取、水で洗浄、乾燥し高分子化合物を30.5g得た。得られた高分子化合物をポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、質量平均分子量を測定した結果、124,000であった。
200ml三口フラスコに得られた高分子化合物26.0g、p−メトキシフェノール0.1gを入れ、N,N−ジメチルアセトアミド60g、アセトン60gに溶解し、氷水を入れた氷浴にて冷却した。混合液温度が5℃以下になった後に、1、8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−7−ウンデセン(DBU)60.4gを滴下ロート用いて、1時間かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外してさらに8時間撹拌した。反応液を濃塩酸17mlを溶解させた水2Lに投入し重合性基含有ポリマーを析出させた。析出した重合性基含有ポリマーAを濾取、水で洗浄、乾燥し15.6g得た。
【0087】
次に、基板の裏表に1.5kW高圧水銀灯を使用し5分間露光を行った。その後に得られた膜を飽和重曹水にて洗浄し、上記重合性基含有ポリマーが両面にグラフト化された基板2を得た。
この基板2について、前記ポリイミドフィルムと同様にしてRzを測定したところ、14nmであった。
【0088】
〔無電解メッキ及び電気メッキ〕
得られた基板2を、硝酸銀(和光純薬製)10質量%の水溶液に1時間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。その後、以下の組成からなる無電解メッキ浴にて、10分間無電解メッキした。更に、実施例2で使用の電気メッキ浴にて15分間電気メッキし、金属膜3を作製した。
【0089】
<無電解メッキ浴の組成>
・硫酸銅 4.5g
・トリエタノールアミン 8.0g
・ポリエチレングリコール 0.03g
・ホルムアルデヒド 5.4g
・水酸化ナトリウム 2.7g
・水 300g
【0090】
[実施例4]
〔グラフトポリマーの生成〕
実施例1で使用した重合開始層が形成された基板に、下記組成からなる塗布液をロッドバー#18を用いて塗布した。なお、得られた膜の膜厚は、1.0μmだった。
【0091】
<塗布液の組成>
・重合性基含有親水性ポリマーB(合成方法は下記に示す) 0.25g
・水 5g
・アセトニトリル 3g
【0092】
−重合性基含有親水性ポリマーBの合成方法−
ポリアクリル酸(平均分子量25,000)18gをDMAc300gに溶解し、ハイドロキノン0.41gと2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート19.4gとジブチルチンジラウレート0.25gを添加し、65℃で、4時間反応させた。得られたポリマーの酸価は7.02meq/gであった。その後、1N水酸化ナトリウム水溶液でカルボキシル基を中和し、酢酸エチルに加えポリマーを沈殿させ、よく洗浄し重合性基含有親水性ポリマーBを得た。
【0093】
得られた膜に1.5kW高圧水銀灯を使用し5分間露光を行った。その後に得られた膜を水にて洗浄し、上記重合性基含有親水性ポリマーBがグラフトされた基板3を得た。
この基板3について、前記ポリイミドフィルムと同様にしてRzを測定したところ、15nmであった。
【0094】
〔無電解メッキ及び電気メッキ〕
得られた基板3を、硝酸銀(和光純薬製)0.1質量%の水溶液に5分間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。その後、実施例3で用いた無電解メッキ浴にて10分間無電解メッキした。更に、実施例2で使用の電気メッキ浴にて15分間電気メッキし、金属膜4を作製した。
【0095】
[実施例5]
〔基板の作製〕
<ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の合成>
窒素下にてN−メチルピロリドン(30ml)中にジアミン化合物として、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(28.7mmol)を溶解させ室温にて約30分間撹拌した。この溶液に3,3’,4,4’’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(28.7mmol)を0℃にて加え5時間撹拌した。反応液を再沈してポリイミド前駆体1を得た。生成物は1H−NMR、FT−IRによりその構造を確認した。
上記手法で合成したポリアミック酸をDMAc(和光純薬(株)社製)に溶かし、30質量%の溶液とした。ガラス基板に該溶液をロッドバー#36を用いて塗布、100℃で5分間乾燥、250℃で30分間加熱して固化させ、ガラス基板から剥がすことでポリイミド基材を得た。
【0096】
得られたポリイミド基材について、前記ポリイミドフィルム基材と同様にRzを測定したところ、Rzは450nmであり、表面凹凸は本発明の好ましい範囲内であることが分かった。
【0097】
上記により得られた基材の一方の面(表面)に実施例1と同様の中間層を設けた。
中間層を設けた基板について、前記ポリイミドフィルム基材と同様にRzを測定したところ、Rzは400nmであり、表面凹凸は本発明の好ましい範囲内であることが分かった。
【0098】
〔グラフトポリマーの生成〕
次いで、上記手法で作成した中間層の上に実施例4で用いた塗布液をロッドバー#18を用いて塗布した。なお、得られた膜の膜厚は0.8μmだった。
【0099】
得られた膜に1.5kW高圧水銀灯を使用し5分間露光を行った。その後に得られた膜を水にて洗浄し、重合性基含有ポリマーがグラフト化された基板4を得た。
【0100】
この基板4について、前記ポリイミドフィルム基材と同様にRzを測定したところ、Rzは420nmであった。
【0101】
〔無電解メッキ及び電気メッキ〕
得られた基板4を、硝酸銀(和光純薬製)0.1質量%の水溶液に1時間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。その後、実施例3と同一の無電解メッキ浴にて20分間無電解メッキし、更に、実施例2で使用した電気メッキ浴にて15分間電気メッキし、金属膜5を作製した。
【0102】
[実施例6]
実施例2で得られた金属膜2について、室温自然乾燥を1ヶ月行い金属膜6を得た。
【0103】
[実施例7]
実施例4で得られた金属膜4について、真空ポンプ(佐藤真空(株)製)を用いて、室温で2週間真空乾燥を行い金属膜7を得た。
【0104】
[実施例8]
銅張積層板(基板:ガラエポ、銅厚:12μm、スルーホールなし)に、下記の低誘電性絶縁ポリマー塗布液を、ロッドバー20番を使用して塗布し、110℃で10分間乾燥して低誘電性絶縁基板を作成した。
得られた低誘電性絶縁基板について、前記ポリイミドフィルム基材と同様にRzを測定したところ、Rzは120nmであった。
【0105】
<低誘電性絶縁ポリマー塗布液>
トルエン183gにポリフェニレンエーテル樹脂(PKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)50g、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)100g、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA−HQ、三光化学株式会社製商品名)28.1g、ナフテン酸マンガン(Mn含有量=6質量%、日本化学産業株式会社製)の17%トルエン希釈溶液0.1g、2,2−ビス(4−グリシジルフェニル)プロパン(DER331L、ダウケミカル日本株式会社製商品名)88.3gを加え、80℃で加熱溶解して塗布液を調整した。
【0106】
〔グラフトポリマーの生成〕
得られた低誘電性絶縁基板上に、実施例4と同様の方法にて、下記組成の塗布液をロッドバー#18を用いて塗布した。なお、得られた膜の膜厚は1.0μmだった。
【0107】
<塗布液の組成>
・前記重合性基含有親水性ポリマーB 0.25g
・水 5g
・アセトニトリル 3g
【0108】
得られた膜に1.5kW高圧水銀灯を使用し5分間露光を行った。その後に得られた膜を水にて洗浄し、前記重合性基含有親水性ポリマーBがグラフトされた基板5を得た。
この基板5について、前記ポリイミドフィルムと同様にしてRzを測定したところ、100nmであった。
【0109】
〔無電解メッキ及び電気メッキ〕
得られた基板5を、硝酸銀(和光純薬製)0.1質量%の水溶液に5分間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。その後、実施例3で用いた無電解メッキ浴にて10分間無電解メッキした。更に、実施例2で使用の電気メッキ浴にて15分間電気メッキし、金属膜8を作製した。
【0110】
[実施例9]
実施例8で得られた金属膜8について、室温自然乾燥を1ヶ月行い金属膜9を得た。
【0111】
<評価>
(密着性)
実施例2〜9で得られた金属膜2〜9については、幅1cmにカッターで傷をつけ、端を剥がし、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行った(実験器:オートグラフ、(株)島津製作所製)。
実施例1で得られた金属膜1については、その表面に、銅板(幅:1cm、厚み:0.1mm)をエポキシ系接着剤(アラルダイト、チバガイギー製)で接着し、140℃で4時間乾燥した後、JIS C 6481に基づき90 度剥離実験を行った。結果を下記表1に示す。
【0112】
(基板界面の凹凸の評価)
実施例1〜9で得られた金属膜1〜9について、ミクロトームを用いて基板平面に対して垂直に切断し、断面をSEMにより観察することにより、メッキ膜及びメッキ触媒層と、グラフトポリマー層(有機材料層)との界面の凹凸を確認した。評価方法は、JIS B0601に準じ、メッキ膜及びメッキ触媒層と、グラフトポリマー層(有機材料層)との界面において、1つのサンプルについて10μmの幅で最大から5番目までの山頂の平均値と、最小から5番目までの谷底の平均値の差から凹凸を求めた。測定結果を下記表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
上記表1の結果によれば、実施例1〜9により得られた各金属膜は、そのいずれもが、基板界面の凹凸(メッキ及びメッキ触媒層(無機成分)と基板(有機成分)との界面の凹凸)が総て500μm以下で表面平滑性に優れるとともに、基板と金属膜との密着性にも優れていることがわかった。
また、実施例6、7、9の結果に示されるように、メッキ工程を行った後に、乾燥工程を行うことで、密着性が著しく向上することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】実施例2で得られた金属膜2の断面SEM写真である。
【図2】図1の断面SEM写真を、画像処理し、微粒子部分を白、ポリマー部分を黒に2階調化処理して得られた画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の凹凸が500nm以下の基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーが直接化学的に結合したポリマー層を有し、該ポリマー層上に無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与した後、無電解メッキを行うことで設けた金属膜であって、該基板と該金属膜との密着性が0.2kN/m以上であることを特徴とする金属膜。
【請求項2】
前記ポリマー層が、無電解メッキ触媒及び無電解メッキにより析出した金属から選ばれる少なくとも1種の微粒子が25体積%以上分散含有する領域を、前記ポリマー層と前記金属膜との界面から前記基板方向に0.05μm以上有することを特徴とする請求項1に記載の金属膜。
【請求項3】
前記基板が、1GHzにおける誘電正接が0.01以下である絶縁性樹脂からなる基板、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属膜。
【請求項4】
前記基板が、1GHzにおける誘電率が3.5以下である絶縁性樹脂からなる基板、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の記載の金属膜。
【請求項5】
(a)表面の凹凸が500nm以下の基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有し且つ該基材と直接化学的に結合するポリマーを導入する工程と、
(b)該ポリマーに無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与する工程と、
(c)無電解メッキを行う工程と、
を有することを特徴とする金属膜の形成方法。
【請求項6】
前記(a)工程が、(a−1)表面の凹凸が500nm以下の基材上に重合開始剤を含有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a−2)該重合開始層が形成された基板上に、無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有し且つ該基材と直接化学結合するポリマーを導入する工程と、を有することを特徴とする請求項5に記載の金属膜の形成方法。
【請求項7】
前記(a−2)工程が、前記重合開始層が形成された基板上に、重合性基及び無電解メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーを接触させた後、エネルギーを付与することにより、前記基板表面全体に当該ポリマーを直接化学結合させる工程であることを特徴とする請求項6に記載の金属膜の形成方法。
【請求項8】
前記(c)工程後、(d)電気メッキを行う工程を有することを特徴とする請求項5〜請求項7の何れか1項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項9】
前記(c)工程後、乾燥工程を有することを特徴とする請求項5〜請求項7の何れか1項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項10】
前記(d)工程後、乾燥工程を有することを特徴とする請求項8に記載の金属膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−193780(P2006−193780A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6236(P2005−6236)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】