説明

金属表面に耐食被膜として用いられる改良された三価クロム含有組成物

金属表面被覆組成物であって、該組成物は、水及び(A)フルオロメタレートアニオン成分、各アニオンは、(i)少なくとも4つのフッ素原子、及び(ii)チタン、ジルコニウム、ハフニウム、シリコン、アルミニウム及びホウ素からなる群から選択された少なくとも1つの原子、ならびに、任意に、(iii)少なくともひとつのイオン化可能水素原子、及び (iv)少なくともひとつの酸素原子の一方又は双方からなり、(B)水溶性フッ化クロム成分を含み、該組成物は、六価クロムが実質的にフリーであり、少なくとも2週間周辺温度で貯蔵安定である金属表面被覆組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性及び塗料接着性を高める金属表面の処理方法に関し、そのような方法において用いられるアルミニウム及びアルミニウム合金に対する三価クロム含有被膜に関する。さらに詳細には、本発明は、金属に対する、洗浄可能な又は塗布型化成被膜としての用途に適し、三価クロムカオチン、フルオロメタレートアニオン、それらに対応する対イオン及び他の任意の成分を含有する水性組成物並びにその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、六価クロムを含む水溶液で、亜鉛、カドミウム又はアルミニウムのような金属を表面処理する方法が知られており、その水溶液は、金属表面を溶解する化学薬品を含み、「クロム酸塩化成被膜」として知られる不溶性膜を形成する。これらの六価クロム含有被膜は、耐食性であり、腐食をもたらす種々の要因から金属を保護する。加えて、クロム酸塩化成被膜は、一般に、良好な塗料接着性を有することが知られており、よって、塗装又はその他の仕上げに優れたベースを提供する。
【0003】
上述の被膜は、耐食性及び塗料接着性を高めるとはいえ、その被膜には、深刻な欠点、すなわち、六価クロム成分の毒性という深刻な欠点がある。これは二つの観点からみて深刻な問題である。ひとつは、オペレーターによる溶液の取り扱いであり、もうひとつは、使用済みの溶液の廃棄である。従って、実質的に六価クロムを含有しないが、同時に従来の六価クロム含有被膜によって与えられるそれらに匹敵する耐食性及び塗料接着性を有することができる被膜溶液及び被膜をもつことが非常に望ましい。
【0004】
特に興味深いことは、優れた耐食性及び塗装のための効果的なベースとしての役目を果たす能力のために、航空機用のアルミニウム合金にクロム酸化成被膜を用いることである。これらの被膜を生成するために用いられる従来の溶液は、六価クロムを含み、高度の腐食抑制を全面的に担うのが、被膜における残留クロムである。しかし、これらのクロム酸塩は、毒性が高いため、排水中におけるそれらの存在が厳しく規制されている。従って、アルミニウム及びその合金に対する被膜及び有毒な六価クロム酸塩被膜に代わる役割を果たすことができる比較的毒性の弱い化学物質を利用した陽極酸化アルミニウムをシールするための被膜を提供することが望ましい。六価クロム含有被膜の代替品を生産するために、六価クロムの代わりに及び六価クロムに加えて、三価クロムが化成被膜に使われているが、今日に至るまでこれらの試みはいくぶん功を奏するのみである。
【0005】
現在の三価クロム防食被膜は、作業用溶液中のクロムとジルコニウムの割合が約0.4:1から約0.6:1で硫酸クロムとフルオロジルコン酸カリウムを用いて塗布されている。この従来技術の溶液の欠点のひとつは、処理溶液が望み通りに安定しないことである。硫酸クロム及びフルオロジルコン酸カリウムベース組成物は、貯蔵安定性がなく、たとえ、未使用の溶液であっても、約1〜2週間が経過すると、沈殿物を形成し始める。使用に際して、作業用溶液は、取り除くべきかなりの量の沈殿物を生じ、処理ライン及び廃棄問題において代償の大きいダウンタイムをもたらす。また、溶液中の沈殿物の発現は、形成された化成被膜に悪影響を与える。従来技術の古い溶液からの化成被膜は、低い耐食性しか有さない。よって、これら及び先行技術の欠点を克服する改良された三価クロム防食被膜が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、六価クロムを含まない、アルミニウム処理用の新規なクロム含有溶液を提供することである。
【0007】
本発明のもうひとつの目的は、三価の酸化状態のみのクロムを含むアルミニウム処理用組成物を提供することである。
【0008】
本発明のさらにもうひとつの目的は、前記クロムが溶液からほとんど又は全く沈殿しない、三価クロム含有溶液を提供することである。
【0009】
本発明の目的は、フルオロメタレートアニオン成分、クロム(III)成分及び、任意に、1以上の以下の成分:遊離フッ化物イオン;界面活性剤分子成分;pH調整成分及び増粘成分を含む金属表面の処理用組成物を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、金属表面を本発明の組成物に接触させ、次いで、洗浄することによって形成される被膜を提供することであり、それは、実質的に三価の形態のみのクロムを含有し、ASTM B-117に従って、少なくとも96、120、144、168、192、216、240、264、288、312、336、360、408、456、480、504時間の耐塩水噴霧性を提供する。
【0011】
本発明は、主に鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウム及び/又は亜鉛並びにそれらの合金(これは、「Galvalume(商標)及び「Galvaneal(商標)」を含む)から主としてなる金属表面に被膜を形成するために非常に適している。ここで、「主に」というのは、合金の最大重量を含む主成分であることを意味すると、当業者には理解されるであろう。その他の目的は以下の記載から、当業者には明らかである。
【0012】
請求の範囲、実施例及び特に明示する場合を除き、本明細書において示される反応の原材料の量もしくは条件及び/又は使用に関する数値的表示は、発明の最も広い範囲に限定するに際しては、用語「約」として修正するものと理解するべきである。記載された数値的限定における実施が、一般に好ましい。また、この明細書において、対象的に、明示する場合を除き、割合、部、比の値は、重量によるものであり、用語「ポリマー」は「オリゴマー」、「コポリマー」、「ターポリマー」等を含む。本発明に関する所定の目的に適する又は好ましい原料のグループ又はクラスの記載は、いずれか2以上の構成要素のグループ又はクラスの混合物が等しく適する又は好ましいという意味を含む。化学用語での構成要素の記載は、明細書において特定されたいずれかの組み合わせに、添加する際の構成要素であるか、明細書において特定された化学反応によって、その場で生じた際の構成要素であり、一旦混合した混合物の構成要素中の他の化学的相互作用を排除するものではない。さらに、イオン形態における材料の特定は、全体として組成物の電気的な中性をもたらすための十分な対イオンの存在を含む。よって、黙示的に特定されたいずれかの対イオンは、好ましくは、可能な程度まで、イオン形態において明確に特定された他の構成要素の中から選択すべきである。そのような対イオンは、本発明の目的に阻害的に作用する対イオンを回避することを除いて、自由に選択することができる。用語「塗料」は、プライマー、ラッカー、エナメル、ニス、シェラク、トップコート等のようなより特定された用語によってデザインすることができる全ての同様の材料を含む。用語「モル」及びそのバリエーションは、元素、イオン及び存在する元素の数及びタイプによって定義される他の化学種ならびに明確に定義された分子を有する化合物に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態は、水及び
(A)フルオロメタレートアニオン成分、各アニオンは、
(i)少なくとも4つのフッ素原子及び
(ii)チタン、ジルコニウム、ハフニウム、シリコン、アルミニウム及びホウ素から選択される元素の少なくとも1つの原子、ならびに、任意に、
(iii)少なくともひとつのイオン化可能水素原子及び
(iv)少なくともひとつの酸素原子の一方又は双方からなり、
(B)クロム(III)カチオン成分、クロム:ジルコニウム比の範囲は、10:1〜25
:1であり、
を含む、好ましくは実質的になり、より好ましくはからなり、任意に、以下の成分、
(C)直前に引用された成分(A)から(B)のいずれかの一部でない遊離フッ化物イオン成分、
(D)直前に引用された成分(A)から(C)のいずれかの一部でない界面活性剤分子成分、
(E)直前に引用された成分(A)から(D)のいずれかの一部でないpH調整成分、ならびに
(F)直前に引用された成分(A)から(E)のいずれかの一部でない増粘成分を含む、液状組成物を提供する。
【0014】
記載された成分は、必ずしも全てが化学物質と分離して提供される必要はないということを理解すべきである。
【0015】
特に、あらかじめ処理されていない領域における耐食性に対して優れた被膜品質が見出されており、(I)金属表面を、本発明の上述した組成物に接触させ、濡れた金属基体表面を形成し、
(II)任意に、濡れた金属基体表面を洗浄し、及び
(III)濡れた金属基体表面を乾燥することによって達成することができる。
【0016】
本発明の組成物は、六価クロムフリーとして開発された。好ましくはないが、本発明の処方は、六価クロムを含んで構成することができる。本発明の組成物は、六価クロムを、0.04、0.02、0.01、0.001、0.0001、0.00001、0.000001重量%以下で含有することが望ましく、最も好ましくは実質的に六価クロムを含まないことである。本発明の組成物に存在する六価クロムの量は、望ましくは最小限であり、好ましくは微量存在するのみ、最も好ましくは、六価クロムが存在しないことである。
【0017】
先行技術文献において、被膜中の三価クロムのいくらかを酸化させ、六価クロムを形成することが知られている(米国特許第5,304,257号参照)。本発明において、本発明の組成物によって形成された被膜がほとんど又は全く六価クロムを含まないことが望ましく、好ましくないが、その組成物は直前の段落において引用された量で六価クロムを含んでいてもよい。本発明は、六価クロムを含まないが、続いて起こる風化作用又は他の処理に暴露されるために、被膜中の三価クロムの酸化によって生じる六価クロムを含有していてもよい被膜を含むことが当業者によって理解されるであろう。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、その組成物及び得られた被膜は、実質的に六価クロムを含まず、望ましくは本質的に六価クロムを含まない。さらに好ましくは、六価クロムが微量以下で存在し、最も好ましくは、その組成物が六価クロムを含まないことである。
【0019】
本発明の種々の実施形態は、上述したように表面を処理する方法(任意に、前洗浄、洗浄及びそれに続く本発明によって形成されたそれらを被覆するさらなる保護被膜形成等の自体公知の他の方法と組み合わせてもよい)、上述した表面処理に有用な組成物及び本発明の方法によって処理された表面を含む製品を包含する。
【0020】
成分(A)の濃度とは別に、フルオロメタレートアニオンは、フルオロシリケート(すなわちSiF6-2)、フルオロチタネート(すなわちTiF6-2)又はフルオロジルコネート(すなわちZrF6-2)、さらに好ましくはフルオロチタネート、フルオロジルコネート、最も好ましくフルオロジルコネートである。
【0021】
本発明の方法で使用される作業用組成物は、示された順に優先傾向が増して、全作業用組成物1キログラムあたり、少なくとも、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.8、10.0gの成分(A)のフルオロメタレート濃度を有する。成分(A)の上限は、通常、溶解度及び/又はB:A比に基づき、優先傾向の増加とともに、100、90、80、70、60 g/kg以下であることが好ましい。
【0022】
望ましくは、フルオロメータレートアニオンに対するカオチンは、IA族元素のイオン又はアンモニウムイオンから選択される。カオチンは、K又はHであることが好ましく、最も好ましくはHである。
【0023】
上述した成分(B)は、1以上の以下の三価クロムカチオン源;硝酸塩、硫酸塩及びクロム(III)のフッ化物を含むものとして理解される。好ましい実施形態では、成分(B)は、好ましくは実質的に三価クロムフッ化物からなり、最も好ましくは三価クロムフッ化物からなる。本発明の作業用組成物中の三価クロムカチオン源の総濃度は、示された順に優先傾向が増して、少なくとも、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35 g/1であることが好ましく、主に経済的及び溶解性の理由から、別個に、示された順に優先傾向が増して、100、90、80、70、60、55、50、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36 g/1以下であることが好ましい。三価クロム源は、作業用溶液における溶解度(それはしばしば溶液中の他の成分の特性の機能及び量である)で選択される。望ましくは、本発明の三価クロム源の量は、示された順に優先傾向が増して、少なくとも、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、11、12、13、14、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、20、21、22、23、24、25 g/1で本発明の作業用組成物における三価クロムカチオンの総濃度を提供するのに十分である。
【0024】
成分(A)及び(B)の量にかかわらず、三価クロムカオチン対フルオロメタレートアニオンにおける金属、すなわちチタン、ジルコニウム、ハフニウム、シリコン、アルミニウム及びホウ素の重量比は、0.725:1から39:1の範囲内が望ましい。望ましい比は、示された順に優先傾向が増して、少なくとも1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1及び10:1であり、好ましくは、示された順に優先傾向が増して、30:1、29:1、27:1、25:1以下である。ASTM Bl 17による塩水噴霧特性は、本発明の組成物のこれらの範囲を下回る。
【0025】
遊離フッ化物イオン(C)成分は、直前で引用された(A)から(B)の一部又は一部ではなくてもよく、任意に与えられる。この成分は、フッ化水素酸又は十分な水溶性を有する部分的もしくは完全に中和された塩のいずれかによって、組成物に供給されてもよい。少なくとも経済的な理由により、成分(C)は、水性フッ化水素酸によって供給されるのが好ましく、別個に、示された順に優先傾向が増して、HFとしてその化学量論相当の少なくとも、0.10、0.30、0.50、0.60、0.70、0.80又は0.90pptの濃度で存在することが好ましい。別個に、本発明の方法に用いられる作業用組成物は、成分(C)の濃度は、HFとしてその化学量論相当として計算され、示された順に優先傾向が増して、10、8.0、6.0、4.0、3.0、2.0、1.5、1.3又は1.1ppt以下であることが好ましい。フッ化物イオンの適切な源は、当業者によって周知である。好ましい(C)の源はHFである。
【0026】
成分(D)を用いるのであれば、カルボン酸、アルキルスルホン酸、アルキル置換フェニルスルホン酸の塩等のアニオン性界面活性剤;アルキル置換ジフェニルアセチレンアルコール及びノニルフェノールポリオキシエチレン等のノニオン性界面活性剤及びアルキルアンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤(これらの全てがそれらの分子中で炭素原子に直接結合されたフッ素原子を含んでいてもよく、好ましくは含む)から選択される。使用された界面活性剤のそれぞれの分子は、(i)共有結合の連鎖及び/又は環によって結合される、(ii)示された順に優先傾向が増して、少なくとも、10、12、14又は16であり、別個に、示された順に優先傾向が増して、30、26、22又は20以下であることが好ましい多数の炭素原子を含み、(iii)水素、ハロゲン及びエーテル結合した酸素原子以外の原子を含む、疎水性部位を含有することが好ましい。成分(D)は、非イオンフルオロ界面活性剤であることが最も好ましく、これらの物質は、当技術分野において知られており、イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー社の商標Zonyl(登録商標)として市販されている。
【0027】
本発明に含まれる作業用組成物は、示された順に優先傾向が増して、少なくとも、0.010、0.030、0.050、0.070、0.080、0.090又は0.100 pptの成分(D)を含み、別個に、主に経済的な理由で、示された順に優先傾向が増して、5.0、2.5、1.30、0.80、0.60、0.40、0.30、0.20、0.18、0.15、0.13又は0.11 ppt以下の成分(D)を含んでいてもよい。
【0028】
本発明の組成物は酸性である。pHは、示された順に優先傾向が増して、少なくとも、2.10、2.30、2.50、2.70、2.90、3.0、3.10、3.20、3.30、3.40、3.50、3.60、3.70、3.80、3.90又は4.0であることが好ましく、別個に、示された順に優先傾向が増して、5.0、4.95、4.90、4.80、4.70、4.60、4.50、4.40、4.30又は4.20以下であることが好ましい。pH調整成分(E)は、直前で引用した成分(A)から(D)のいずれかの一部又は一部でないものであってもよいが、必要に応じて、上述した範囲のpHをもたらす十分量で組成物に添加することができる。pH調整成分は、酸又は塩基であり、本発明の目的を妨げるものではないものとして当該分野で公知である。一実施形態では、pH調整成分は酸からなり、好ましくはHFであり、遊離フッ化物イオン(C)を与える。他の実施形態では、pH調整成分は塩基からなり、望ましくは水酸化アンモニウムである。
【0029】
本発明の作業用組成物は、いずれかの従来法によって金属被処理物上に塗布し、洗浄し、乾燥してもよく、そのうちのいくつかは当業者に容易に明らかとなるであろう。例えば、液状膜での金属の被覆は、液状組成物の容器中に表面を浸漬し、表面に組成物を噴射し、液状組成物の容器中に浸漬された下方ローラーによって下方ローラーと上方ローラーとの間を通過することによって表面被覆し、液状処理組成物で飽和したブラシ又はフェルトと接触させる等、又は混合方法によって達成することができる。乾燥する前に表面に残存する液状組成物の過剰量を、洗浄、重力による排水、ローラー間の通過等のいずれかの従来方法によって、乾燥する前に取り除くことができる。
【0030】
液状組成物の塗布中の温度は、組成物の液状範囲でのいずれの温度でもよいが、塗布中の便宜上及び経済性のため、常温、すなわち20℃から27℃が一般に好ましい。
【0031】
本発明の組成物の塗布は、塗料、ラッカー及びその他の樹脂ベース被膜のような、その後に塗布された保護膜に改良した接着結合性を与える。
【0032】
本発明の方法で塗布された被膜の(乾燥後の)総アドオンマスは、示された順に優先傾向が増して、少なくとも、被膜面の1平方あたり(以下、通常「mg/ft」と省略する)、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30である。それとは別に、少なくとも同等の耐食性は、アドオンマスでなくても、通常達成されるであろうが、アドオンマスの経済性の理由から、示された順に優先傾向が増して、120、115、110、100mg/ft2以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の方法によって形成された保護膜のアドオンマスは、最初の保護被膜及び/又は下層金属基体が同様の金属元素を含むなどの通常でない場合を除いて、上述した成分(A)又はクロムのアニオン中の金属原子のアドオン重量又は質量を測定することによって一般にモニター及び制御することができる。これら金属原子の量は、当業者によって周知である従来の種々の分析技術のいずれかによって計測することができる。最も信頼できる測定は、通常、被覆基体の既知の部位から被膜を溶解し、得られた溶液における対象とする金属の含有量を測定することである。総アドオンマスは、次いで、成分(A)の金属量と乾燥後に残存する総組成物の一部の総質量との既知の関係から計算することができる。しかし、この方法は、仕上げられた部位が必ずしも正確に規定できないため、本発明の使用にとって、しばしば非実用的である。より現実的な選択肢は、通常、従来の較正の後、他の被膜又は下地の金属表面自体の表面近くの薄膜中に存在する同様の金属元素を除くほとんど干渉がない、被膜に存在する個々の金属元素の単位面積当たりの量を直接測定する、小面積X線分光写真によって提供される。
【0034】
本発明の処理の有効性は、使用された酸性水性組成物の濃度より、むしろ処理表面の各単位面積に存在する活性成分の総量、活性成分の性質及びそれらの互いの比に、主に依存するようであり、経済的理由により重要であるのだが、乾燥の速度には、なんら本発明の技術的効果は見られない。処理対象のサイズ及び処理対象の部位のサイズの実用的な観点から、本発明の方法における液状組成物の表面への塗布の前後のいずれかにおいて、オーブン中、放射線又はマイクロ波加熱の使用等で、表面処理の施行によって、乾燥速度を上げることができる。処理前の表面の加熱は、実用的には処理の後の加熱であることが好ましく、少なくとも65℃までの温度での予備加熱が満足に用いることができる。十分な時間が許容できる経済コストで利用できるならば、本発明によって塗布される液状膜は、しばしば簡便に、被膜の保護品質に関する限り、等しく良好な結果を伴って、周辺雰囲気中で、同時に乾燥することができる。各条件に対する適切な方法は、当業者にとって容易に明らかとなるであろう。
【0035】
好ましくは、本発明の処理表面は、まず、いずれかの汚染物質、特に有機汚染物質及び異質金属微粒子及び/又は含有物を、洗浄する。そのような洗浄は、当業者によく知られている方法によって行うことができ、特定の種類の処理基体に合わせて適当することができる。例えば、亜鉛めっきされたスチール表面に対して、基体を、最も好ましくは従来の高温アルカリ性洗浄剤、その後温水で洗浄し、乾燥させる。アルミニウムに対して、最も好ましい処理表面は、上述した酸性水性組成物に接触する前に、まず、従来の高温アルカリ洗浄剤に接触させ、次に温水で洗浄し、その後、任意に、中和酸洗浄に接触させ及び/又は脱酸化する。
【0036】
予備洗浄の後、その表面を、洗浄液の吸収、蒸発又は当該技術分野において周知である適切な方法により乾燥することができる。耐食性は、通常、表面の予備洗浄又は洗浄及び乾燥ならびに被膜形成の間に遅延があると最善ではない。表面の洗浄又は洗浄及び乾燥並びに被膜形成の間の時間は、示された順に優先傾向が増して、少なくとも、48、24、12、6.0、5.0、4.0、3.0、2.0、1.0、0.50、0.25又は0.1時間以下とすべきである。
【0037】
本発明の実施例を、以下の限定されない実施例の考察によってさらに理解することができる。
実施例
比較例
比較例1から3を、三価クロムの硫酸塩の水溶液(Mcgean Specialty Chemicals社から入手可能)を用いて先行技術に従って調製した。それは、12重量%のCrであると製造業者によって表示されていた。比較例2は、比較例1よりも10重量%多い硫酸塩を含んでいる。比較例3は、比較例1よりも20重量%多い硫酸塩を含んでいる。2024 T3ベアアルミニウムパネルはRidoline(商標名)4355 ヘンケルコーポレーションから市販されているが、Ridoline 4355、アルカリ性クリーナー中で、10分間洗浄し、水で洗浄し、5分間、Deoxylyte 2310、ヘンケルコーポレーションから市販されている脱酸化剤に接触させ、洗浄した。3つのパネルを各比較例に対して、合計9パネル処理した。パネルを10分間、周囲温度で、各作業用溶液に接触させた。
【表1】

パネルを、3日間周囲温湿度で硬化した。全てのパネルを、ASTM Bl 17による336時間の塩水噴霧試験に暴露した。比較例2及び3を参照すれば、三価クロム硫酸塩の量が増加する一方、他の成分量は、塩水噴霧特性において一様に低下した。
表1の比較例で調製された溶液を、1〜2週間経過後に観察した。細かい堆積物の沈殿が溶液の底に沈殿物として発生した。沈殿物の生成は、パネル被覆操作によって阻害され、それは、溶液中での沈殿物の分散をもたらした。沈殿物が溶液中に分散した間被膜パネルは、被覆されたパネル表面に望ましくない白色粉末堆積物をもたらした。
実施例1
三価クロム化成被膜組成物を、表2に従って調製した。クロム(III)フッ化物を160°Fの水に加え、完全に溶解するまで混合した。溶液を、室温まで冷却して、フルオロジルコニウム酸を添加した。組成物のpHを、水酸化アンモニウムを用いて調整した。
市販の2024 T3 ベア3インチ×8インチのアルミニウムパネルを比較例での製造に従って製造した。各パネルを、次いで、周辺温度で、記載された時間、表2の組成物の一つに接触させた。
【表2】

*成分重量は重量%である。
パネルを周囲温湿度で3日間硬化させた。全てのパネルを、ASTM Bl 17により336時間、塩水噴霧試験に暴露し、1から10で、1=耐食なし、2=耐食はないが着色あり、3=1〜3ピット/パネルと評価した。3の評価を、適切な耐塩水噴霧性に対する最低限の特性と見なした。
表3に、周囲温度で10分間の一定の接触時間での適切な塩水噴霧特性を有する被膜の比較を提供する。
【表3】

*成分重量は重量%である。
実施例2
三価クロム化成被膜組成物を表4に従って調製した。クロム(III)フッ化物を160°Fの水に加え、完全に溶解するまで混合した。溶液を、室温まで冷却して、フルオロジルコニウム酸を添加した。
【表4】

処方AのpHを、水酸化アンモニウムを加えることによって4.0に調整した。3つの市販の2024 T3 ベアのアルミニウムパネルを比較例での製造に従って製造した。処方Aを蒸留水により被膜組成物の75%作業用溶液に希釈した。各パネルを、次いで、周辺温湿度で、3分間、作業用溶液に接触させた。被膜重量は29.6 mg/ft2と測定された。全てのパネルを、ASTM Bl 17により336時間、塩水噴霧試験に暴露した。処方Aの作業用溶液中で被覆したパネルは、336時間の塩水噴霧試験でピットが見られなかった。
表2に従って調製された溶液を、1〜2週間後に観察した。未使用の溶液中には沈殿物は観察されなかった。周囲温度でパネルを処理するために用いた溶液には、同様に沈殿物が見られなかった。古い溶液中で被覆したパネルは、本発明の新鮮な溶液中で被覆したそれらと実質的に同様であった。
【0038】
本発明は、アルミニウム及びアルミニウム合金を含む種々の金属の化成被膜を用いることができる三価クロム含有化成被覆組成物を提供する。それは、金属基体の化成被膜に用いられる方法の多くのバリエーションに使用することができる。一方、本発明は、それらの特定の実施形態に関して記載されており、当然のことながら当業者によって容易に適応されるであろう。本発明の範囲は下記のクレームのみによって限定されるものとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面被覆組成物であって、該組成物は、水及び
(A)フルオロメタレートアニオン成分、各アニオンは、
(i)少なくとも4つのフッ素原子、及び
(ii)チタン、ジルコニウム、ハフニウム、シリコン、アルミニウム及びホウ素からなる群から選択された少なくとも1つの原子、ならびに、任意に、
(iii)少なくともひとつのイオン化可能水素原子、及び
(iv)少なくともひとつの酸素原子の一方又は双方からなり、
(B)水溶性フッ化クロム成分を含み、
該組成物は、六価クロムが実質的にフリーであり、少なくとも2週間周辺温度で貯蔵安定である金属表面被覆組成物。
【請求項2】
フルオロメタレートアニオンが、フルオロシリケート、フルオロチタネート又はフルオロジルコネートアニオンからなる群から選択される請求項1の組成物。
【請求項3】
フルオロメタレートアニオンが、約0.4から100g/kgの範囲の濃度のフルオロジルコネートアニオン、約4から100g/kgの範囲の濃度の水溶性フッ化クロムを含み、前記液状組成物が0.06%以下の分散シリカ又はシリケートを含有する請求項1の組成物。
【請求項4】
三価クロム及びジルコニウムを、0.725:1〜39:1の範囲の三価クロム:ジルコニウム比で含有する請求項1の組成物。
【請求項5】
アルミニウム基体上の所定位置で乾燥した前記組成物は、基体を、少なくとも336時間、ASTMB−117に従って95°Fにて5%中性塩水噴霧に付した際に、約3ピット/24インチ2以下で発生する程度の耐食性を提供する請求項1の組成物。
【請求項6】
フルオロメタレートアニオンが、フルオロジルコネートアニオンを含み、フルオロジルコネートアニオンの濃度が約1〜10g/kgの範囲であり、フッ化クロムの濃度が7:17の範囲の三価クロム:ジルコニウム比である請求項1の組成物。
【請求項7】
貯蔵安定な組成物であって、該組成物は、水及び
(A)約1〜100g/kgの範囲の濃度のフルオロメタレートアニオンを組成物中に与えるフルオロメタレートアニオンの水溶性源の第2マス、各アニオンは、
(i)少なくとも4つのフッ素原子、及び
(ii)チタン、ジルコニウム、ハフニウム、シリコン、アルミニウム及びホウ素からなる群から選択される少なくとも1つの原子、ならびに、任意に、
(iii)少なくともひとつのイオン化可能水素原子、及び
(iv)少なくともひとつの酸素原子の一方又は双方からなり、
(B)23g/l〜約100g/l量の三価クロムカチオンの水溶性源の第3マス、
(C)フッ素アニオンの水溶性源の任意の第4マス、
(D)界面活性剤成分及び/又は水溶性増粘剤成分の任意の第5マスを含む第1マスをともに混合することによって得られ、
該組成物は、水溶性有機腐食抑制剤及び水溶性有機安定剤がフリーであり、少なくとも2週間周辺温度で貯槽安定性を有する組成物。
【請求項8】
液状組成物は、0.06%以下の所望のシリカ及びシリケートを含有する請求項7の組成物。
【請求項9】
第2マスは、組成物において約1〜約8g/kgの範囲の濃度に対応する量のフルオロジルコネートアニオンを含有し、組成物において0.070〜0.13pptの範囲の濃度に対応するフッ素化アルキルエステル界面活性剤分子の第5マスに混合される請求項7の組成物。
【請求項10】
第3マスは、硝酸塩、硫酸塩及びクロム(III)のフッ化物からなる群から選択される請求項7の組成物。
【請求項11】
表面を被覆あるいは仕上げ又は被覆及び仕上げの双方を行う方法であって、該表面は、ベア金属の少なくとも1つの部位を含み、下地の金属基体上を被覆する少なくとも1つの部位又は少なくとも1つのベア金属部位及び少なくとも1つの下地の金属基体上を被覆する部位の双方を含み、該方法は、
(I)被覆あるいは仕上げ又は被覆及び仕上げの双方を行う表面を、請求項1の液状組成物の層で被覆し、及び
(II)工程(I)で形成した液状層を乾燥して被覆表面を形成することを含む方法。
【請求項12】
表面が、ベア金属の少なくとも1つの部位及び下地金属基体を覆う被膜の少なくとも1つの部位を含み、工程(I)において、液状層をベア金属の少なくとも1つの部位を覆って形成する請求項11の方法。
【請求項13】
工程(I)で用いられる液状組成物において、フルオロメタレートアニオンは、フルオロシリケート、フルオロチタネート及びフルオロジルコネートアニオンからなる群から選択される請求項11の方法。
【請求項14】
工程(I)で用いられる液状組成物において、フルオロメタレートアニオンが、フルオロジルコネートアニオンを含み、フルオロジルコネートアニオンの濃度が、約1〜10g/kgの範囲であり、クロム(III)イオンの濃度が0より高く、100g/l以下である請求項11の方法。
【請求項15】
表面が、下地金属基体を覆う被膜の少なくとも1つの部位に隣接するベア金属の少なくとも1つの部位を含み、
前記下地金属基体を覆う被膜の少なくとも1つの部位が第1部位及び第2部位を含み、
工程(I)において、液状層が、ベア金属の部位及び下地金属基体を覆う被膜の隣接部位の少なくとも第1の部位の双方の上に形成され、
下地金属基体を覆う被膜は、リン酸塩化成被膜、クロム酸塩化成被膜及び鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウム及び/又は亜鉛並びにそれらの合金から主としてなる表面に、少なくとも1つのフルオロシリケート、フルオロチタネート及びフルオロジルコネートのを含む酸性処理溶液に接触させることによって形成された化成被膜から選択される請求項14の方法。
【請求項16】
工程(I)で用いられる液状組成物において、フルオロメタレートアニオンがフルオロジルコネートアニオンを含み、
フルオロジルコネートアニオンの濃度が、1〜8g/kgの範囲であり、
クロムフッ化物の濃度が約4g/l〜100g/lの範囲であり、
フッ化水素酸の濃度が、約0.70〜1.3pptの範囲である請求項13の方法。
【請求項17】
請求項11の被覆表面を含む少なくとも1つの部位を備える製品。
【請求項18】
少なくとも1つの部位がアルミニウム又はアルミニウム合金を含む請求項17の製品。
【請求項19】
被覆表面が、実質的に六価クロムフリーであり、少なくとも336時間、ASTMB−117に従って95°Fにて5%中性塩水噴霧に付した際に、約3ピット/24インチ2以下で生じる程度の耐食性を有する請求項17の製品。

【公表番号】特表2009−536692(P2009−536692A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510172(P2009−510172)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/068640
【国際公開番号】WO2007/134152
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(391008825)ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン (309)
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D−40589 Duesseldorf,Germany
【Fターム(参考)】