金属製容器の製造方法及びその内側成形ロール
【課題】金属製容器の胴部側壁のビード部及び/又はネック部近傍に生じる凸状変形を防止し、或いは低減し、容器同士の衝突・接触時の胴部側壁の凹みや塗膜・印刷膜削れを防止する金属製容器の製造方法及びその内側成形ロールを提供することにある。
【解決手段】側面に環状凹部41を有する内側成形ロール40と、側面に環状凸部を有する外側成形ロールを、金属製容器の胴部の内部と外部にそれぞれ配置し、該内側成形ロール40の環状凹部開始点Sから該内側成形ロール40の環状凹部41に向かう側壁の曲率が一定でなく、滑らかに増加して連続する曲線から成るR部とし、該内側成形ロール40と該外側成形ロールによって、金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を成形する。
【解決手段】側面に環状凹部41を有する内側成形ロール40と、側面に環状凸部を有する外側成形ロールを、金属製容器の胴部の内部と外部にそれぞれ配置し、該内側成形ロール40の環状凹部開始点Sから該内側成形ロール40の環状凹部41に向かう側壁の曲率が一定でなく、滑らかに増加して連続する曲線から成るR部とし、該内側成形ロール40と該外側成形ロールによって、金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を成形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴部側壁にビード部及び/又はネック部を有する金属製容器の製造方法及びその内側成形ロール、特に胴部側壁のビード部及び/又はネック部の近傍に生じる凸状歪み、変形が少なく、金属製容器同士の衝突・接触に対し胴部側壁に凹みや塗膜・印刷膜削れが生じにくい金属製容器の製造方法及びその内側成形ロールを提供することにある。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製容器の減圧時の胴部の強度を高め、金属材料を薄くして使用材料を削減する目的で、前記胴部に比較的高さ・幅が大きい、深いビード加工が行われている。(例えば、特許文献1を参照。)
また、粉乳缶等において、粉乳を定量取り出す擦り切り部材を缶内に取り付ける目的で、缶胴に内側膨出ビード部を設けることが行われている。(例えば、特許文献2を参照。)
さらに、金属製容器の胴部の端部において、前記端部に巻き締められる蓋材の使用量を削減する目的で、前記胴部を縮径するネックイン加工が行われている。(例えば、特許文献3を参照。)
一方、粉ミルク等を収容する金属製容器である大径の粉乳缶では、缶胴の強度を高めるため胴部側壁を半径方向内側に環状に凹ませるビード加工、あるいは缶口近傍を半径方向内側に凹ませるネック加工が施されている。
粉ミルクが充填された粉乳缶等の重量は重いため、保持・持ち運びが容易でない。このような問題を解決するため、胴部の端部近くに高さ・幅が大きい深いビード部を形成してグリップ性、ハンドリング性を向上させている。
また、このような構成とすることにより、開口前の天蓋を保護、或いは開口後の金属製容器を封鎖するプラスチック蓋を取り外すときに手で固定し易く、さらに粉乳をスプーンで取り出すときに缶胴を傾け易くなるといった利点も呈する。
図11は、従来の前記した金属製容器である金属缶の缶胴に対するビード加工を示す説明図である。なお、図11(a)は加工前の状態を示し、図11(b)は加工後の状態を示している。
また、図12は、ビード加工時の外側成形ロール50及び内側成形ロール40'のビード加工部近傍の拡大図である。
尚、以下、本図ではビード加工について説明するが、同様な傾向はネック部の加工においても生じる。
図11および図12に示すように、円筒形状の缶胴を作成したのちビード部を加工するには、缶胴内部に位置する内側成形ロール40'が缶胴を押さえ、缶胴外部に位置する外側成形ロール50の環状凸部51が内側成形ロール40'の環状凹部41'に向かって缶胴のビード相当部を半径方向内側に回転しながら押し込むことによって成形される。
そして、前記外側成形ロール50の環状凸部51を缶胴外面から押し込むことにより、ビード部が加工されるが、図12に詳細に示すように、該内側成形ロール40'の環状凹部開始点から環状凹部の底面部41'aに向かう側壁41'bの形状が、一定の曲率の曲線から成るR部を基に構成されている。
そして、このような金属加工においては加工後にスプリングバックが生じるため、前記外側成形ロール50の押込み量は、缶胴に形成するビード部の深さより大きく設定される。また、ビード加工を行うと、前記内側成形ロール40'の環状凹部41'のR部の最大径部に当接する缶胴部位(すなわち環状凹部開始点)に、曲げ応力及び引張応力が過度に集中してこの部分の缶胴の板厚が薄くなり、且つ曲げ角度が鋭角になる。このため、加工終了後に外側成形ロール50が外側に離れたときに缶胴は金属のスプリングバックにより特に前記R部の最大径部近傍に接触する缶胴部位が外側に凸となる(以下、「凸状変形」という。)。特に、ビード部の深さを大きくするビード加工(ビッグビード部加工)を行うと、この傾向は顕著に表れる。
そして、このような凸状変形が生じると、空缶または内容物充填缶の搬送時において、缶同士あるいは缶と搬送ガイドが衝突・接触する際、前記凸状変形した部分が凹み易く、或いは擦れて缶外面の塗膜・印刷膜削れが発生し易いという問題があり、このような問題は、図示しないが前記ネック部の高さ、幅、深さが大きい場合も同様であり、また、外観上、前記凸状変形が目立たなくても発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55−134049号公報
【特許文献2】実開昭62−168324号公報
【特許文献3】特開昭48−30582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記した従来の金属製容器の製造方法における問題点に鑑みなされたものであって、本発明の目的は、金属製容器の胴部側壁のビード部及び/又はネック部近傍に生じる凸状変形を防止し、或いは低減し、容器同士の衝突・接触時の胴部側壁の凹みや塗膜・印刷膜削れを防止する金属製容器の製造方法及びその内側成形ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するための発明としては、
内側成形ロールと外側成形ロールを金属製容器の胴部の内部と外部にそれぞれ回転可能に配置し、前記外側成形ロールを前記内側成形ロールに対して押し込むことにより前記金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を成形する金属製容器の製造方法において、前記内側成形ロールは、胴部の前記ビード部又はネック部に対応する底面部と両側壁とからなる環状凹部を側面に有し、少なくとも最大径に対応する前記側壁のコーナR部については、該最大径に対応する環状凹部開始点から前記側壁との境界点に向かう曲率が一定でなく、滑らかに増加する曲線からなるR部とすることによって、前記内側成形ロールの前記環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位近傍の凸状変形を低減するようにしてなることを特徴とする金属製容器の製造方法が提供される。
【0006】
本発明の金属製容器の製造方法においては、
1.前記曲線の一部又は全部は、クロソイド曲線を基に構成されていること、
2.前記金属製容器の前記ビード部が、深さ2mm以上のビッグビードであること、
3.前記内側成形ロールの環状凹部の最大径に対応する環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位近傍の凸状変形は、前記缶胴平坦部からの出っ張り量が0.15mm以下に抑えられるようにしたこと
が好適である。
【0007】
また、前記目的を達成するための第2の発明としては、
金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を外側成形ロールと協働して成形する内側成形ロールであって、
側面に半径方向内側に凹んだ1又は複数の環状凹部を有する内側成形ロールにおいて、少なくとも前記環状凹部の最大径に対応する前記側壁のコーナR部については、該最大径に対応する環状凹部開始点から前記側壁との境界点に向かう曲率が一定でなく、滑らかに増加して連続する曲線から成るR部であることを特徴とする内側成形ロールが提供される。
【0008】
上記第2の発明の内側成形ロールにおいては、
1.前記曲線の一部又は全部は、クロソイド曲線の一部分を相似拡大変換した相似クロソイド曲線を基に構成されていること、
2.前記環状凹部開始点はクロソイド曲線の原点であること、
3.前記環状凹部開始点はクロソイド曲線の原点であり、且つ前記境界点はクロソイド曲線におけるパラメータTに対するXの変化量の符号が正から負へ転じる最初の第1象限あるいは第3象限の各変曲点に対応する点であること
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属製容器の製造方法及びその内側成形ロールによれば、ビード部及び/又はネック部の加工、特に深さが大きい前記加工において、上記内側成形ロールの環状凹部の最大径に対応する環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位で、応力が過度に集中しない曲げ及び引張り加工が可能となり、その結果、金属製容器の胴部の前記加工部位近傍の凸状変形が防止あるいは低く抑えられ、その結果、缶同士が衝突・接触した際の缶胴の凹みや塗膜・印刷膜削れが好適に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】金属製容器を示す説明図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】本発明の金属製容器の製造方法に用いる内側成形ロールの説明図である。
【図4】クロソイド曲線を示す説明図である。
【図5】クロソイド曲線を内側成形ロールの環状凹部の内角R部に適用する設計手順を示すフロー図である。
【図6】クロソイド曲線C1と環状凹部開始点Sおよび境界点Eをプロットした状態を示す説明図である。
【図7】相似クロソイド曲線C'1を示す説明図である。
【図8】相似クロソイド曲線C'1の座標変換を示す説明図である。
【図9】本発明缶と従来缶のビッグビード部近傍の板厚図である。
【図10】転がし衝撃試験方法を示す説明図である。
【図11】従来の缶胴に対するビード加工を示す説明図である。
【図12】図11の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に示す実施形態により、本発明をビード加工に適用してさらに詳細に説明する。尚、本発明の適用は、ビード加工に限定されるものではなく、環状凹部状に加工されるネック加工等にも同様に適用され得るものである。
【0012】
図1は、本発明の金属製容器の製造方法によって得られるビックビード部13を有する金属缶100を示す説明図であり、図2はその部分拡大図である。
金属板を丸め端部と端部を溶接した円筒を、前述したように、缶胴の外側に配置された回転可能な外側成形ロール50(雄型)が半径方向内側に向かって缶胴を押し込むのと同時に、缶胴の内側に配置された内側成形ロール40(雌型)と胴部10が回転しながら外側成形ロールを受けることによって、胴部10に半径方向内側に凹んだ環状凹部としての深さが大きいビッグビード部13が成形される。本実施形態では、ビッグビード部13の図面上方にスモールビードが設けられており、ビッグビード部13上下の缶胴径を比較すればスモールビード側の缶胴径の方が小さくなっている。
【0013】
上記ビード部の成形を更に詳しく説明すると、金属板を円筒に成形した後に缶胴両端口部にネック・フランジ部を各々形成する。次に、その缶胴両端口部をチャックで各々挟んで固定し、該チャックを回転させて缶胴を回転させる。次に、缶胴内側に配置した内側成形ロール40を缶胴回転に同期させて回転させながら缶胴径方向の所定位置まで移動させる。この状態で自由回転の外側成形ロール50を缶胴径方向内側に押しつけることにより、外側成形ロール50は缶胴との摩擦抵抗や変形抵抗により缶胴と同期して回転しながら胴部10にはビード部が成形される。
【0014】
一般に、金属缶100のビッグビード部13近傍は、ビードの深さを大きくすると径方向外側に発生する凸状変形が大きくなる傾向がある。特に、本実施形態ではビッグビード13の上部が下部よりも小径になっているので、下部外径D1が缶胴部外径D2よりも大きくなる。
しかし、本発明の金属製容器の製造方法により得られる金属缶100は、後述する内側成形ロール40によってビックビード部13が加工されるため、ビッグビード部13の下部近傍の凸状変形が図2に示すように防止され、或いは低減され、缶胴部外径に対する出っ張り量を、図2において破線で示す従来の金属缶の出っ張り量に比べ非常に小さくすることが可能となる。
【0015】
図3は、本発明の金属製容器の製造方法に用いる内側成形ロール40を示す説明図である。図3(a)はその断面を示し、図3(b)はそのB部拡大を示している。
この内側成形ロール40は、ビッグビード部13の成形に係る環状凹部41を有している。
前記内側成形ロール40の最大径に対応するコーナR部については、その最大径に対応する環状凹部開始点Sから環状凹部41の側壁41bに向かう曲率が一定でなく滑らかに増加して連続する曲線から成るR部とし、そのR部の外形がクロソイド曲線を基に構成されている。そして、より具体的には、環状凹部41の最大径に対応する環状凹部開始点Sから環状凹部41の側壁41bと前記R部との境界点Eに到る前記R部の形状を、前記環状凹部開始点Sでの曲率がごく小さく、かつ環状凹部開始点Sから境界点Eにかけて曲率が滑らかに徐々に増加する形状とするのが好ましい。また、前記境界点Eは、前記R部が側壁41bの直線部とほぼ一致する部分であってクロソイド曲線におけるパラメータTに対するXの変化量の符号が正から負に転じる最初の変曲点P1,P-1(図4を参照。)に対応している。従って、本実施形態では、R部の曲線の一例として、上記環状凹部開始点Sをクロソイド曲線の原点とし且つクロソイド曲線の一部分(原点→P1or P-1)を相似変換した相似クロソイド曲線が適用されている。
そして、外側成形ロール(図示せず)を用いてビード加工を行う際、前記内側成形ロール40の環状凹部開始点Sに当接する缶胴部位に曲げ応力や引張り応力が過度に集中しない加工が可能となる。
この結果、ビード加工に起因するビッグビード部13乃至その近傍の凸状変形を防止することが可能となり、これにより、隣接する缶同士が衝突・接触する際の接触面積が増大し、衝撃が好適に分散され缶の耐衝撃性が向上する。その結果、金属缶100は、缶同士が密に接する、或いは缶同士が衝突する梱包または搬送状態に置かれた場合であっても金属缶の外面における塗膜・印刷膜削れや、変形等の損傷が防止される。
【0016】
なお、本実施形態では、前記境界点Eとして、内側成形ロール40の環状凹部41における側壁41bの直線部にほぼ一致するR部の境界点としたが、この境界点だけに限定されるものではない。少なくとも加工中の缶胴が内側成形ロール40の側壁41b、或いはその近傍と接触する範囲をクロソイド曲線とすればよい。また、同様に、環状凹部開始点S(R部の始点)については、クロソイド曲線の原点に一致させるのが好ましいが、原点近傍であってもよい。
【0017】
図5は、クロソイド曲線を内側成形ロール40の環状凹部41の内角R部に適用する設計手順を示すフロー図である。
先ずステップS1では、クロソイド曲線のどの区間を使用するかを決定する。クロソイド曲線は全区間においてパラメータTの増加と共に曲率κが滑らかに増加する特性を有している。ここでは、図4のC1(O→P1)のクロソイド曲線を使用して、環状凹部41の内角R部を構成することとする。
【0018】
ステップS2では、環状凹部41の内角R部の環状凹部開始点Sおよび境界点Eをクロソイド曲線の始点および終点に対応させる。
例えば、図3(b)の最大径に対応する環状凹部開始点Sをクロソイド曲線の原点に対応させ、側壁41bとの境界となる境界点Eをクロソイド曲線の最初の変曲点P1に対応させる。
【0019】
ステップS3では、クロソイド曲線の座標系に環状凹部41の内角R部の環状凹部開始点Sおよび境界点Eを各々プロットする。
再び図3(b)に戻り、実際の座標系(実座標系)と、クロソイド座標系は鏡面関係になる。すなわち、実座標系は左手系であるが、クロソイド座標系は右手系である。従って、環状凹部開始点Sを原点とした場合の境界点Eの座標は、例えば実座標系では点(−4.10、2.30)となるが、クロソイド座標系では点E(4.10、2.30)となる。従って、クロソイド座標系の点を実座標系で表示する場合、X座標を反転させる必要がある。図6は、クロソイド曲線C1と環状凹部開始点Sおよび境界点Eをクロソイド座標系にプロットした状態を示す。なお、境界点EのY座標は予め与えられていても良いが、ここでは、ステップS4での相似拡大係数を単一化(kXのみ)するため、境界点EのY座標は予め与えないことにした。境界点EのY座標は、ステップS4でP1のY座標にX方向の相似拡大係数kXを乗じて求めることにする。
【0020】
ステップS4では、クロソイド曲線C1の終点P1が境界点Eに一致するように、クロソイド曲線C1を相似拡大する。
P1のX座標は0.98で、境界点EのX座標は4.10であるから、例えば、X方向の相似拡大係数kXは、kX=4.10/0.98=4.18倍となる。他方、P1のY座標は0.55であるから、境界点EのY座標は0.55の4.18倍で2.30になる。従って、クロソイド曲線C1の各プロットデータ(X(T),Y(T))のX座標およびY座標にkXを乗じることにより、クロソイド曲線の終点P1が境界点Eに一致した相似拡大クロソイド曲線C'1(O→P1)を作成することが出来る。従って、相似拡大クロソイド曲線C'1の各プロットデータ(X'(T),Y'(T))は、(X'(T),Y'(T))=(kX・X(T),kX・Y(T))となる。
また、上記相似拡大係数kXについては、X方向およびY方向について一律に設定するのではなく、各プロットデータ毎に個別に設定しても良い。
【0021】
ステップS5では、実際の座標系に変換する。
前述した通り、クロソイド座標系は右手系であり、実際の座標系は左手系である。従って、実座標系における相似クロソイド曲線C'1(O→P1)は、図8(a)のクロソイド曲線C'1(O→P1)をY軸に関して折り返した図8(b)のクロソイド曲線C'1(O→P1)曲線となる。
【実施例】
【0022】
板厚0.26mmのブリキ板を丸めて端部と端部を溶接して円筒状の缶胴を作成した。
この缶胴に、前述したR部をクロソイド曲線とした内側成形ロール(本発明缶)と、前記R部を曲率半径4.75mmとした内側成形ロール(従来缶)を用い、ビード加工を施し、天蓋を二重巻締してビードの幅15mm、深さ4.0mmの内容量1000g粉乳缶用のビード加工缶を作成した。
得られたビード加工缶のビッグビード下部環状凹部開始点近傍の金属板厚実測値を図9に示す。横軸には天面からの長さを示した。これらのビード加工缶でのビードの位置は天面からの高さ方向に20〜35mmであり、35mmの位置が内側成形ロールの環状凹部開始点に当接する位置である。
本発明缶、従来缶いずれにおいても加工前の元板厚0.260mmに対して、ビッグビード部近傍の板厚はビード加工により減少している。その減少程度は内側成形ロールの環状凹部開始点当接部において特に大きい。本発明缶と従来缶を比較すると、ビッグビード部近傍の板厚は本発明缶の方が大きい。特に環状凹部開始点当接部の板厚は従来缶の減少が極めて大きいのに対し、本発明缶の減少程度は比較的小さい。これらのことから、本発明のビッグビード加工方法は従来の加工方法よりも材料変形に対してかなり穏やかなものであることが分かる。その結果、本発明缶のビッグビード近傍(上記環状凹部開始点当接部近傍)における缶胴平坦部からの出っ張り量は、0.10mmとなり、従来の均一曲率のコーナR部を有する内側成形ロールで成形した場合が0.18mmであったのに比べて、格段に小さくなっている。
【0023】
このビード加工缶に粉乳1kgを充填し、底蓋を二重巻締して密封後、図10に示す転がし衝撃試験を行った。それぞれの転がし距離Lにおける缶の凹みを観察し、凹み長さ及び凹み深さを測定した。試験後缶の凹み部については、凹み長さは凹み部に光をあてて歪みのある部分をスケールで測定し、凹み深さは凹み部の最も深い場所をデプスゲージで測定した。
転がし衝撃試験は、図10に示すように待受缶に転がし缶を転がし衝突させるものであり、転がし距離Lを200mm、400mm、600mm、及び800mmの各水準とした。いずれの水準においても傾斜角度(θ)を10度とした。試験は各水準とも4回行った。
前記凹み長さ、凹み深さは、何れも4回の試験における待ち受け缶及び転がし缶の平均値であり、凹み領域は、前記凹み長さと凹み深さの積である。凹みがない缶の数字はゼロとして平均値を計算した。試験の結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
本実験の結果より、本発明の金属製容器の製造方法によって製造されるビードを有する金属缶が、ビード加工に起因するビッグビード部乃至その近傍の凸状変形が防止され、隣接する缶同士が衝突・接触する際の接触面積が増大して衝撃が好適に分散して缶の耐衝撃性が向上することが分かる。その結果、缶同士が密に接する、或いは缶同士が衝突する梱包または搬送状態に置かれた場合であっても、金属缶の外面における塗膜・印刷膜削れや、変形等の損傷が防止されることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、缶胴の外側に配置される外側成形ロールと、缶胴の内側に配置される内側成形ロールによって、胴部側壁に成形されるビード部及び/又はネック部を有する全ての金属製容器の製造に好適に適用することが出来る。
【符号の説明】
【0027】
10 胴部
13 ビッグビード部
40 内側成形ロール
41 環状凹部
50 外側成形ロール
51 環状凸部
100 金属製容器(金属缶)
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴部側壁にビード部及び/又はネック部を有する金属製容器の製造方法及びその内側成形ロール、特に胴部側壁のビード部及び/又はネック部の近傍に生じる凸状歪み、変形が少なく、金属製容器同士の衝突・接触に対し胴部側壁に凹みや塗膜・印刷膜削れが生じにくい金属製容器の製造方法及びその内側成形ロールを提供することにある。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製容器の減圧時の胴部の強度を高め、金属材料を薄くして使用材料を削減する目的で、前記胴部に比較的高さ・幅が大きい、深いビード加工が行われている。(例えば、特許文献1を参照。)
また、粉乳缶等において、粉乳を定量取り出す擦り切り部材を缶内に取り付ける目的で、缶胴に内側膨出ビード部を設けることが行われている。(例えば、特許文献2を参照。)
さらに、金属製容器の胴部の端部において、前記端部に巻き締められる蓋材の使用量を削減する目的で、前記胴部を縮径するネックイン加工が行われている。(例えば、特許文献3を参照。)
一方、粉ミルク等を収容する金属製容器である大径の粉乳缶では、缶胴の強度を高めるため胴部側壁を半径方向内側に環状に凹ませるビード加工、あるいは缶口近傍を半径方向内側に凹ませるネック加工が施されている。
粉ミルクが充填された粉乳缶等の重量は重いため、保持・持ち運びが容易でない。このような問題を解決するため、胴部の端部近くに高さ・幅が大きい深いビード部を形成してグリップ性、ハンドリング性を向上させている。
また、このような構成とすることにより、開口前の天蓋を保護、或いは開口後の金属製容器を封鎖するプラスチック蓋を取り外すときに手で固定し易く、さらに粉乳をスプーンで取り出すときに缶胴を傾け易くなるといった利点も呈する。
図11は、従来の前記した金属製容器である金属缶の缶胴に対するビード加工を示す説明図である。なお、図11(a)は加工前の状態を示し、図11(b)は加工後の状態を示している。
また、図12は、ビード加工時の外側成形ロール50及び内側成形ロール40'のビード加工部近傍の拡大図である。
尚、以下、本図ではビード加工について説明するが、同様な傾向はネック部の加工においても生じる。
図11および図12に示すように、円筒形状の缶胴を作成したのちビード部を加工するには、缶胴内部に位置する内側成形ロール40'が缶胴を押さえ、缶胴外部に位置する外側成形ロール50の環状凸部51が内側成形ロール40'の環状凹部41'に向かって缶胴のビード相当部を半径方向内側に回転しながら押し込むことによって成形される。
そして、前記外側成形ロール50の環状凸部51を缶胴外面から押し込むことにより、ビード部が加工されるが、図12に詳細に示すように、該内側成形ロール40'の環状凹部開始点から環状凹部の底面部41'aに向かう側壁41'bの形状が、一定の曲率の曲線から成るR部を基に構成されている。
そして、このような金属加工においては加工後にスプリングバックが生じるため、前記外側成形ロール50の押込み量は、缶胴に形成するビード部の深さより大きく設定される。また、ビード加工を行うと、前記内側成形ロール40'の環状凹部41'のR部の最大径部に当接する缶胴部位(すなわち環状凹部開始点)に、曲げ応力及び引張応力が過度に集中してこの部分の缶胴の板厚が薄くなり、且つ曲げ角度が鋭角になる。このため、加工終了後に外側成形ロール50が外側に離れたときに缶胴は金属のスプリングバックにより特に前記R部の最大径部近傍に接触する缶胴部位が外側に凸となる(以下、「凸状変形」という。)。特に、ビード部の深さを大きくするビード加工(ビッグビード部加工)を行うと、この傾向は顕著に表れる。
そして、このような凸状変形が生じると、空缶または内容物充填缶の搬送時において、缶同士あるいは缶と搬送ガイドが衝突・接触する際、前記凸状変形した部分が凹み易く、或いは擦れて缶外面の塗膜・印刷膜削れが発生し易いという問題があり、このような問題は、図示しないが前記ネック部の高さ、幅、深さが大きい場合も同様であり、また、外観上、前記凸状変形が目立たなくても発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55−134049号公報
【特許文献2】実開昭62−168324号公報
【特許文献3】特開昭48−30582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記した従来の金属製容器の製造方法における問題点に鑑みなされたものであって、本発明の目的は、金属製容器の胴部側壁のビード部及び/又はネック部近傍に生じる凸状変形を防止し、或いは低減し、容器同士の衝突・接触時の胴部側壁の凹みや塗膜・印刷膜削れを防止する金属製容器の製造方法及びその内側成形ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するための発明としては、
内側成形ロールと外側成形ロールを金属製容器の胴部の内部と外部にそれぞれ回転可能に配置し、前記外側成形ロールを前記内側成形ロールに対して押し込むことにより前記金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を成形する金属製容器の製造方法において、前記内側成形ロールは、胴部の前記ビード部又はネック部に対応する底面部と両側壁とからなる環状凹部を側面に有し、少なくとも最大径に対応する前記側壁のコーナR部については、該最大径に対応する環状凹部開始点から前記側壁との境界点に向かう曲率が一定でなく、滑らかに増加する曲線からなるR部とすることによって、前記内側成形ロールの前記環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位近傍の凸状変形を低減するようにしてなることを特徴とする金属製容器の製造方法が提供される。
【0006】
本発明の金属製容器の製造方法においては、
1.前記曲線の一部又は全部は、クロソイド曲線を基に構成されていること、
2.前記金属製容器の前記ビード部が、深さ2mm以上のビッグビードであること、
3.前記内側成形ロールの環状凹部の最大径に対応する環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位近傍の凸状変形は、前記缶胴平坦部からの出っ張り量が0.15mm以下に抑えられるようにしたこと
が好適である。
【0007】
また、前記目的を達成するための第2の発明としては、
金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を外側成形ロールと協働して成形する内側成形ロールであって、
側面に半径方向内側に凹んだ1又は複数の環状凹部を有する内側成形ロールにおいて、少なくとも前記環状凹部の最大径に対応する前記側壁のコーナR部については、該最大径に対応する環状凹部開始点から前記側壁との境界点に向かう曲率が一定でなく、滑らかに増加して連続する曲線から成るR部であることを特徴とする内側成形ロールが提供される。
【0008】
上記第2の発明の内側成形ロールにおいては、
1.前記曲線の一部又は全部は、クロソイド曲線の一部分を相似拡大変換した相似クロソイド曲線を基に構成されていること、
2.前記環状凹部開始点はクロソイド曲線の原点であること、
3.前記環状凹部開始点はクロソイド曲線の原点であり、且つ前記境界点はクロソイド曲線におけるパラメータTに対するXの変化量の符号が正から負へ転じる最初の第1象限あるいは第3象限の各変曲点に対応する点であること
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属製容器の製造方法及びその内側成形ロールによれば、ビード部及び/又はネック部の加工、特に深さが大きい前記加工において、上記内側成形ロールの環状凹部の最大径に対応する環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位で、応力が過度に集中しない曲げ及び引張り加工が可能となり、その結果、金属製容器の胴部の前記加工部位近傍の凸状変形が防止あるいは低く抑えられ、その結果、缶同士が衝突・接触した際の缶胴の凹みや塗膜・印刷膜削れが好適に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】金属製容器を示す説明図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】本発明の金属製容器の製造方法に用いる内側成形ロールの説明図である。
【図4】クロソイド曲線を示す説明図である。
【図5】クロソイド曲線を内側成形ロールの環状凹部の内角R部に適用する設計手順を示すフロー図である。
【図6】クロソイド曲線C1と環状凹部開始点Sおよび境界点Eをプロットした状態を示す説明図である。
【図7】相似クロソイド曲線C'1を示す説明図である。
【図8】相似クロソイド曲線C'1の座標変換を示す説明図である。
【図9】本発明缶と従来缶のビッグビード部近傍の板厚図である。
【図10】転がし衝撃試験方法を示す説明図である。
【図11】従来の缶胴に対するビード加工を示す説明図である。
【図12】図11の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に示す実施形態により、本発明をビード加工に適用してさらに詳細に説明する。尚、本発明の適用は、ビード加工に限定されるものではなく、環状凹部状に加工されるネック加工等にも同様に適用され得るものである。
【0012】
図1は、本発明の金属製容器の製造方法によって得られるビックビード部13を有する金属缶100を示す説明図であり、図2はその部分拡大図である。
金属板を丸め端部と端部を溶接した円筒を、前述したように、缶胴の外側に配置された回転可能な外側成形ロール50(雄型)が半径方向内側に向かって缶胴を押し込むのと同時に、缶胴の内側に配置された内側成形ロール40(雌型)と胴部10が回転しながら外側成形ロールを受けることによって、胴部10に半径方向内側に凹んだ環状凹部としての深さが大きいビッグビード部13が成形される。本実施形態では、ビッグビード部13の図面上方にスモールビードが設けられており、ビッグビード部13上下の缶胴径を比較すればスモールビード側の缶胴径の方が小さくなっている。
【0013】
上記ビード部の成形を更に詳しく説明すると、金属板を円筒に成形した後に缶胴両端口部にネック・フランジ部を各々形成する。次に、その缶胴両端口部をチャックで各々挟んで固定し、該チャックを回転させて缶胴を回転させる。次に、缶胴内側に配置した内側成形ロール40を缶胴回転に同期させて回転させながら缶胴径方向の所定位置まで移動させる。この状態で自由回転の外側成形ロール50を缶胴径方向内側に押しつけることにより、外側成形ロール50は缶胴との摩擦抵抗や変形抵抗により缶胴と同期して回転しながら胴部10にはビード部が成形される。
【0014】
一般に、金属缶100のビッグビード部13近傍は、ビードの深さを大きくすると径方向外側に発生する凸状変形が大きくなる傾向がある。特に、本実施形態ではビッグビード13の上部が下部よりも小径になっているので、下部外径D1が缶胴部外径D2よりも大きくなる。
しかし、本発明の金属製容器の製造方法により得られる金属缶100は、後述する内側成形ロール40によってビックビード部13が加工されるため、ビッグビード部13の下部近傍の凸状変形が図2に示すように防止され、或いは低減され、缶胴部外径に対する出っ張り量を、図2において破線で示す従来の金属缶の出っ張り量に比べ非常に小さくすることが可能となる。
【0015】
図3は、本発明の金属製容器の製造方法に用いる内側成形ロール40を示す説明図である。図3(a)はその断面を示し、図3(b)はそのB部拡大を示している。
この内側成形ロール40は、ビッグビード部13の成形に係る環状凹部41を有している。
前記内側成形ロール40の最大径に対応するコーナR部については、その最大径に対応する環状凹部開始点Sから環状凹部41の側壁41bに向かう曲率が一定でなく滑らかに増加して連続する曲線から成るR部とし、そのR部の外形がクロソイド曲線を基に構成されている。そして、より具体的には、環状凹部41の最大径に対応する環状凹部開始点Sから環状凹部41の側壁41bと前記R部との境界点Eに到る前記R部の形状を、前記環状凹部開始点Sでの曲率がごく小さく、かつ環状凹部開始点Sから境界点Eにかけて曲率が滑らかに徐々に増加する形状とするのが好ましい。また、前記境界点Eは、前記R部が側壁41bの直線部とほぼ一致する部分であってクロソイド曲線におけるパラメータTに対するXの変化量の符号が正から負に転じる最初の変曲点P1,P-1(図4を参照。)に対応している。従って、本実施形態では、R部の曲線の一例として、上記環状凹部開始点Sをクロソイド曲線の原点とし且つクロソイド曲線の一部分(原点→P1or P-1)を相似変換した相似クロソイド曲線が適用されている。
そして、外側成形ロール(図示せず)を用いてビード加工を行う際、前記内側成形ロール40の環状凹部開始点Sに当接する缶胴部位に曲げ応力や引張り応力が過度に集中しない加工が可能となる。
この結果、ビード加工に起因するビッグビード部13乃至その近傍の凸状変形を防止することが可能となり、これにより、隣接する缶同士が衝突・接触する際の接触面積が増大し、衝撃が好適に分散され缶の耐衝撃性が向上する。その結果、金属缶100は、缶同士が密に接する、或いは缶同士が衝突する梱包または搬送状態に置かれた場合であっても金属缶の外面における塗膜・印刷膜削れや、変形等の損傷が防止される。
【0016】
なお、本実施形態では、前記境界点Eとして、内側成形ロール40の環状凹部41における側壁41bの直線部にほぼ一致するR部の境界点としたが、この境界点だけに限定されるものではない。少なくとも加工中の缶胴が内側成形ロール40の側壁41b、或いはその近傍と接触する範囲をクロソイド曲線とすればよい。また、同様に、環状凹部開始点S(R部の始点)については、クロソイド曲線の原点に一致させるのが好ましいが、原点近傍であってもよい。
【0017】
図5は、クロソイド曲線を内側成形ロール40の環状凹部41の内角R部に適用する設計手順を示すフロー図である。
先ずステップS1では、クロソイド曲線のどの区間を使用するかを決定する。クロソイド曲線は全区間においてパラメータTの増加と共に曲率κが滑らかに増加する特性を有している。ここでは、図4のC1(O→P1)のクロソイド曲線を使用して、環状凹部41の内角R部を構成することとする。
【0018】
ステップS2では、環状凹部41の内角R部の環状凹部開始点Sおよび境界点Eをクロソイド曲線の始点および終点に対応させる。
例えば、図3(b)の最大径に対応する環状凹部開始点Sをクロソイド曲線の原点に対応させ、側壁41bとの境界となる境界点Eをクロソイド曲線の最初の変曲点P1に対応させる。
【0019】
ステップS3では、クロソイド曲線の座標系に環状凹部41の内角R部の環状凹部開始点Sおよび境界点Eを各々プロットする。
再び図3(b)に戻り、実際の座標系(実座標系)と、クロソイド座標系は鏡面関係になる。すなわち、実座標系は左手系であるが、クロソイド座標系は右手系である。従って、環状凹部開始点Sを原点とした場合の境界点Eの座標は、例えば実座標系では点(−4.10、2.30)となるが、クロソイド座標系では点E(4.10、2.30)となる。従って、クロソイド座標系の点を実座標系で表示する場合、X座標を反転させる必要がある。図6は、クロソイド曲線C1と環状凹部開始点Sおよび境界点Eをクロソイド座標系にプロットした状態を示す。なお、境界点EのY座標は予め与えられていても良いが、ここでは、ステップS4での相似拡大係数を単一化(kXのみ)するため、境界点EのY座標は予め与えないことにした。境界点EのY座標は、ステップS4でP1のY座標にX方向の相似拡大係数kXを乗じて求めることにする。
【0020】
ステップS4では、クロソイド曲線C1の終点P1が境界点Eに一致するように、クロソイド曲線C1を相似拡大する。
P1のX座標は0.98で、境界点EのX座標は4.10であるから、例えば、X方向の相似拡大係数kXは、kX=4.10/0.98=4.18倍となる。他方、P1のY座標は0.55であるから、境界点EのY座標は0.55の4.18倍で2.30になる。従って、クロソイド曲線C1の各プロットデータ(X(T),Y(T))のX座標およびY座標にkXを乗じることにより、クロソイド曲線の終点P1が境界点Eに一致した相似拡大クロソイド曲線C'1(O→P1)を作成することが出来る。従って、相似拡大クロソイド曲線C'1の各プロットデータ(X'(T),Y'(T))は、(X'(T),Y'(T))=(kX・X(T),kX・Y(T))となる。
また、上記相似拡大係数kXについては、X方向およびY方向について一律に設定するのではなく、各プロットデータ毎に個別に設定しても良い。
【0021】
ステップS5では、実際の座標系に変換する。
前述した通り、クロソイド座標系は右手系であり、実際の座標系は左手系である。従って、実座標系における相似クロソイド曲線C'1(O→P1)は、図8(a)のクロソイド曲線C'1(O→P1)をY軸に関して折り返した図8(b)のクロソイド曲線C'1(O→P1)曲線となる。
【実施例】
【0022】
板厚0.26mmのブリキ板を丸めて端部と端部を溶接して円筒状の缶胴を作成した。
この缶胴に、前述したR部をクロソイド曲線とした内側成形ロール(本発明缶)と、前記R部を曲率半径4.75mmとした内側成形ロール(従来缶)を用い、ビード加工を施し、天蓋を二重巻締してビードの幅15mm、深さ4.0mmの内容量1000g粉乳缶用のビード加工缶を作成した。
得られたビード加工缶のビッグビード下部環状凹部開始点近傍の金属板厚実測値を図9に示す。横軸には天面からの長さを示した。これらのビード加工缶でのビードの位置は天面からの高さ方向に20〜35mmであり、35mmの位置が内側成形ロールの環状凹部開始点に当接する位置である。
本発明缶、従来缶いずれにおいても加工前の元板厚0.260mmに対して、ビッグビード部近傍の板厚はビード加工により減少している。その減少程度は内側成形ロールの環状凹部開始点当接部において特に大きい。本発明缶と従来缶を比較すると、ビッグビード部近傍の板厚は本発明缶の方が大きい。特に環状凹部開始点当接部の板厚は従来缶の減少が極めて大きいのに対し、本発明缶の減少程度は比較的小さい。これらのことから、本発明のビッグビード加工方法は従来の加工方法よりも材料変形に対してかなり穏やかなものであることが分かる。その結果、本発明缶のビッグビード近傍(上記環状凹部開始点当接部近傍)における缶胴平坦部からの出っ張り量は、0.10mmとなり、従来の均一曲率のコーナR部を有する内側成形ロールで成形した場合が0.18mmであったのに比べて、格段に小さくなっている。
【0023】
このビード加工缶に粉乳1kgを充填し、底蓋を二重巻締して密封後、図10に示す転がし衝撃試験を行った。それぞれの転がし距離Lにおける缶の凹みを観察し、凹み長さ及び凹み深さを測定した。試験後缶の凹み部については、凹み長さは凹み部に光をあてて歪みのある部分をスケールで測定し、凹み深さは凹み部の最も深い場所をデプスゲージで測定した。
転がし衝撃試験は、図10に示すように待受缶に転がし缶を転がし衝突させるものであり、転がし距離Lを200mm、400mm、600mm、及び800mmの各水準とした。いずれの水準においても傾斜角度(θ)を10度とした。試験は各水準とも4回行った。
前記凹み長さ、凹み深さは、何れも4回の試験における待ち受け缶及び転がし缶の平均値であり、凹み領域は、前記凹み長さと凹み深さの積である。凹みがない缶の数字はゼロとして平均値を計算した。試験の結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
本実験の結果より、本発明の金属製容器の製造方法によって製造されるビードを有する金属缶が、ビード加工に起因するビッグビード部乃至その近傍の凸状変形が防止され、隣接する缶同士が衝突・接触する際の接触面積が増大して衝撃が好適に分散して缶の耐衝撃性が向上することが分かる。その結果、缶同士が密に接する、或いは缶同士が衝突する梱包または搬送状態に置かれた場合であっても、金属缶の外面における塗膜・印刷膜削れや、変形等の損傷が防止されることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、缶胴の外側に配置される外側成形ロールと、缶胴の内側に配置される内側成形ロールによって、胴部側壁に成形されるビード部及び/又はネック部を有する全ての金属製容器の製造に好適に適用することが出来る。
【符号の説明】
【0027】
10 胴部
13 ビッグビード部
40 内側成形ロール
41 環状凹部
50 外側成形ロール
51 環状凸部
100 金属製容器(金属缶)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側成形ロールと外側成形ロールを金属製容器の胴部の内部と外部にそれぞれ回転可能に配置し、前記外側成形ロールを前記内側成形ロールに対して押し込むことにより前記金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を成形する金属製容器の製造方法において、前記内側成形ロールは、胴部の前記ビード部又はネック部に対応する底面部と両側壁とからなる環状凹部を側面に有し、少なくとも最大径に対応する前記側壁のコーナR部については、該最大径に対応する環状凹部開始点から前記側壁との境界点に向かう曲率が一定でなく、滑らかに増加する曲線からなるR部とすることによって、前記内側成形ロールの前記環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位近傍の凸状変形を低減するようにしてなることを特徴とする金属製容器の製造方法。
【請求項2】
前記曲線の一部又は全部は、クロソイド曲線を基に構成されている請求項1に記載の金属製容器の製造方法。
【請求項3】
前記金属製容器の前記ビード部が、深さ2mm以上のビッグビードである請求項1又は2に記載の金属製容器の製造方法。
【請求項4】
前記内側成形ロールの環状凹部の最大径に対応する環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位近傍の凸状変形は、前記缶胴平坦部からの出っ張り量が0.15mm以下に抑えられるようにした請求項1〜3何れか1項に記載の金属製容器の製造方法。
【請求項5】
金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を外側成形ロールと協働して成形する内側成形ロールであって、
側面に半径方向内側に凹んだ1又は複数の環状凹部を有する内側成形ロールにおいて、少なくとも前記環状凹部の最大径に対応する前記側壁のコーナR部については、該最大径に対応する環状凹部開始点から前記側壁との境界点に向かう曲率が一定でなく、滑らかに増加して連続する曲線から成るR部であることを特徴とする内側成形ロール。
【請求項6】
前記曲線の一部又は全部は、クロソイド曲線の一部分を相似拡大変換した相似クロソイド曲線を基に構成されている請求項5に記載の内側成形ロール。
【請求項7】
前記環状凹部開始点はクロソイド曲線の原点である請求項6に記載の内側成形ロール。
【請求項8】
金属製容器の前記環状凹部開始点はクロソイド曲線の原点であり、且つ前記境界点はクロソイド曲線におけるパラメータTに対するXの変化量の符号が正から負へ転じる最初の第1象限あるいは第3象限の各変曲点に対応する点である請求項1乃至3に記載の内側成形ロール。
【請求項1】
内側成形ロールと外側成形ロールを金属製容器の胴部の内部と外部にそれぞれ回転可能に配置し、前記外側成形ロールを前記内側成形ロールに対して押し込むことにより前記金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を成形する金属製容器の製造方法において、前記内側成形ロールは、胴部の前記ビード部又はネック部に対応する底面部と両側壁とからなる環状凹部を側面に有し、少なくとも最大径に対応する前記側壁のコーナR部については、該最大径に対応する環状凹部開始点から前記側壁との境界点に向かう曲率が一定でなく、滑らかに増加する曲線からなるR部とすることによって、前記内側成形ロールの前記環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位近傍の凸状変形を低減するようにしてなることを特徴とする金属製容器の製造方法。
【請求項2】
前記曲線の一部又は全部は、クロソイド曲線を基に構成されている請求項1に記載の金属製容器の製造方法。
【請求項3】
前記金属製容器の前記ビード部が、深さ2mm以上のビッグビードである請求項1又は2に記載の金属製容器の製造方法。
【請求項4】
前記内側成形ロールの環状凹部の最大径に対応する環状凹部開始点近傍に当接する胴部の加工部位近傍の凸状変形は、前記缶胴平坦部からの出っ張り量が0.15mm以下に抑えられるようにした請求項1〜3何れか1項に記載の金属製容器の製造方法。
【請求項5】
金属製容器の胴部にビード部及び/又はネック部を外側成形ロールと協働して成形する内側成形ロールであって、
側面に半径方向内側に凹んだ1又は複数の環状凹部を有する内側成形ロールにおいて、少なくとも前記環状凹部の最大径に対応する前記側壁のコーナR部については、該最大径に対応する環状凹部開始点から前記側壁との境界点に向かう曲率が一定でなく、滑らかに増加して連続する曲線から成るR部であることを特徴とする内側成形ロール。
【請求項6】
前記曲線の一部又は全部は、クロソイド曲線の一部分を相似拡大変換した相似クロソイド曲線を基に構成されている請求項5に記載の内側成形ロール。
【請求項7】
前記環状凹部開始点はクロソイド曲線の原点である請求項6に記載の内側成形ロール。
【請求項8】
金属製容器の前記環状凹部開始点はクロソイド曲線の原点であり、且つ前記境界点はクロソイド曲線におけるパラメータTに対するXの変化量の符号が正から負へ転じる最初の第1象限あるいは第3象限の各変曲点に対応する点である請求項1乃至3に記載の内側成形ロール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−92960(P2011−92960A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247392(P2009−247392)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
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