説明

金属複合酸化物の製造方法

【課題】前駆体の原子配置をより維持したままセラミックス化し、所望の構造の金属複合酸化物をより効率的に、より低温で得る金属複合酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の金属複合酸化物の製造方法は、2種以上の金属原子の原子配置が所定の配置である前駆体を使用し、前駆体を金属元素の偏析を抑制する条件で焼成し、あるいは、前駆体を所定の温度域における昇温速度が所定の昇温速度以下となる条件で焼成する焼成工程を含むものである。例えば一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物を製造する場合には、本発明の製造方法によって前駆体30を加熱すると前駆体と仮焼物の中間体40が生成し、さらに加熱を続けると仮焼物50が生成し、最終的にA,Bサイトに入る成分の原子配置を維持したままより低温で金属複合酸化物20を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属複合酸化物の製造方法としては、原子配置を制御した金属錯体の原子配置を維持したままセラミックス化することが提案されている。例えば特許文献1では、より微細で組成が均一な物質を得るために、希土類のクロム、マンガン、鉄若しくはコバルトを含むヘキサシアノ錯体を酸素含有雰囲気下で加熱して希土類−異種元素複合酸化物を合成する合成方法が提案されている。また、特許文献2では、均質性の高い酸化物として、一般式La[Co(CN)6]・nH2Oで示されるヘキサシアノ多核錯体結晶体と、Pd(NO32を酸化性雰囲気中で300℃以上の温度で熱処理をした希土類−貴金属系複合材料が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−135722号公報
【特許文献2】特開2006−83054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の製造方法では、前駆体の加熱分解過程などにおける金属元素の偏析によって、目的外の化合物が生成することがあり、原子配置を維持したままセラミックス化することができないため、所望の構造の金属複合酸化物を効率的に得ることができず、目的とする化合物を得るのに必要な生成温度が高温になることがあった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、前駆体の原子配置をより維持したままセラミックス化することができる金属複合酸化物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、2種以上の金属原子の原子配置が所定の配置である前駆体を使用し、該前駆体を金属元素の偏析を抑制する条件で加熱すると金属原子の原子配置を維持したままセラミックス化することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の金属複合酸化物の製造方法は、
2種以上の金属原子の原子配置が所定の配置である前駆体を使用し、該前駆体を金属元素の偏析を抑制する条件で焼成する焼成工程、
を含むものである。
【0008】
あるいは、本発明の金属複合酸化物の製造方法は、
2種以上の金属原子の原子配置が所定の配置である前駆体を使用し、該前駆体を少なくとも所定の温度域で所定の昇温速度以下の昇温速度となるように昇温することにより焼成する焼成工程、
を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
この金属複合酸化物の製造方法では、2種以上の金属原子の原子配置が所定の配置である前駆体の金属原子の原子配置をより維持したままセラミックス化することができる。このため、分子設計をして作製した前駆体を用いて所望の構造の金属複合酸化物をより効率的に得ることができ、目的とする化合物を得るのに必要な温度を低下させることができる。このような効果が得られる理由は、金属元素の偏析を抑制するような条件で前駆体を焼成すると、目的外の化合物の生成をより抑制することができるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物の模式図。
【図2】ペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物の前駆体の模式図。
【図3】ペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物の前駆体の焼成工程における反応の模式図。
【図4】副生成物であるA22CO3 の構造の模式図。
【図5】仮焼物50の構造の説明図。
【図6】La[Fe(CN)6]・5H2Oの熱重量分析(TG)の結果。
【図7】La[Co(CN)6]・5H2Oの熱重量分析(TG)の結果。
【図8】比較例1〜5のXRD測定結果。
【図9】比較例1,2のIRの測定結果。
【図10】比較例6〜8のXRDの測定結果。
【図11】実施例1〜3のXRDの測定結果。
【図12】実施例1,2のIRの測定結果。
【図13】実施例1,2のXRD回折パターン及びLa22CO3の結晶面のピークを示す図。
【図14】実施例4〜10のXRDの測定結果。
【図15】実施例1,2,7,9のXRD及びIRの測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の金属複合酸化物の製造方法は(1)前駆体を作製する前駆体作製工程と(2)前駆体を焼成する焼成工程とを含むものとしてもよい。
【0012】
(1)前駆体作製工程
この工程では、2種以上の金属原子の原子配置が所定の配置となるように前駆体を作製する。この所定の配置は、目的物である金属複合酸化物に求められる金属原子の原子配置に基づいて定めることができ、原子の移動距離が短くて(拡散が少なくて)すむといった観点から、前駆体の金属原子の原子配置が目的物である金属複合酸化物の結晶構造に類似していることが好ましい。その際、前駆体の金属原子の原子配置は2種以上の金属原子が規則的に配置するものとしてもよいし、2種以上の金属原子が不規則に配置するものとしてもよい。規則的に配置する場合は、例えば、前駆体が結晶構造を有しており、2種以上の金属原子を単位格子内に含む配置であることが、セラミックス化過程で同種の金属原子が偏析しにくいといった観点から好ましい。また、不規則に配置する場合は、例えば2種以上の金属原子のうち、少なくとも1種以上の金属原子が同種で隣接することのない配置とすることが好ましく、少なくとも配合比が少ない1種以上金属原子が同種で隣接することのない配置とすることが好ましい。セラミックス化過程で同種の金属原子が偏析しにくいと考えられるからである。ここで、金属原子が同種で隣接することのない配置とは、例えば、ある金属原子と最も近い金属原子が異種である配置としてもよいし、例えば、同種の金属の間に異種の金属が介在する配置としてもよい。また、配合比が少ないとは、目的物である金属複合酸化物の基本組成における原子数が少ないことをいう。金属原子は特に限定されるものではないが、希土類金属元素、アルカリ土類金属元素、アルカリ金属元素及び遷移金属元素から選ばれた2種以上であることが好ましい。また、前駆体は構造中に炭素成分を有するものであることが好ましい。炭素成分は、のちの工程で比較的容易に除去することができるからである。前駆体は、2種以上の金属原子を所定の配置とするものであればよいが、金属錯体を含んで構成されているものとするのが好ましい。例えば、この前駆体は、2種以上の金属原子を所定の配置とする1単位(例えば単量体のようなもの)である金属錯体により構成されるものとしてもよいし、比較的大きな単位(例えば重合体のようなもの)である金属錯体により構成されるものとしてもよい。金属複合酸化物を一般式ABO3で表される酸化物とする場合、前駆体は、例えば、Aサイトの元素及びBサイトの元素を含む金属錯体を含んで構成されていてもよい。一般式ABO3で表される一例としての、ペロブスカイト型構造を有する金属複合酸化物としては、LaCoO3やLaFeO3、PbTiO3、PbZrO3、BaTiO3、SrTiO3、KNbO3、KTaO3など、A,Bサイトがそれぞれ1種のものが挙げられる。また、(LiXNaYZ)(NbNTaM)O3や(BiXNaYZ)TiO3、Pb(MgNNbM)O3(式中のX,Y,Z,N,Mは任意の数)など、A,Bサイトの少なくとも一方が2種以上のものが挙げられる。そして、例えば、Aサイトの元素及びBサイトの元素を有する金属錯体を含むものを前駆体として作製するのが好ましい。具体的には、金属複合酸化物をLaCoO3やLaFeO3とするときには、一般式La[Co(CN)6]やLa[Fe(CN)6]で表される金属錯体を含む前駆体を作製してもよい。
【0013】
この前駆体作製工程では、例えば、2種以上の金属イオンと1以上の配位子とを配位させる処理を行うことにより2種以上の金属原子を所定の配置とした金属錯体として前駆体を作製するものとしてもよい。また、この工程では、例えば1種の金属イオンに1以上の配位子が配位している金属錯体を錯体配位子とし、この錯体配位子と他の金属イオンとを配位させる処理を行うことにより2種以上の金属原子を所定の配置とした金属錯体として前駆体を作製するものとしてもよい。また、2種以上の金属原子を所定の配置とした金属錯体を1単位として用い、この金属錯体を2次元的又は3次元的に連結させる処理を行うことにより2種以上の金属原子を所定の配置とした金属錯体として前駆体を作製するものとしてもよい。このように、原料として金属錯体を用いて前駆体を作製するものとしてもよい。こうすれば、2種以上の原子を比較的容易に配置することができる。ここで、金属原子に配位子を配位させる方法としては、例えば、金属イオンを溶媒に溶解して得られた溶液と、配位子や錯体配位子を含む溶液とを混合することなどが挙げられる。溶液の濃度やアルカリ性、酸性などの条件は、用いる成分によって適宜選択するのが好ましい。溶媒は、有機系溶媒や水などを用いることができ、このうち取り扱いが簡便であるという観点から水やアルコールなどが好ましい。配位子は、2種以上の金属原子と結合可能であり、これらの原子を配置可能である錯体を形成するものが好ましい。この配位子としては、炭素が含まれているものを用いることが好ましい。こうすれば、のちの工程で配位子の成分を比較的容易に除去することができる。配位子に炭素が含まれている場合には、構造中に炭素成分を有する前駆体となる。配位子としては、例えば、シアンイオン(シアノ:CN-)、チオシアン酸イオン(チオシアナト及びイソチオシアナト:SCN-)、一酸化炭素(カルボニル:CO)、シアン酸イオン(シアナト及びイソシアナト:OCN-)、一酸化窒素(ニトロシル:NO)、亜硫酸イオン(ニトリト及びニトロ:NO2-)、チオオキサラト(C222-)、シュウ酸イオン(C242-)、アミノ酸(RCHNH2COO-:Rは置換基)、ニトロ酢酸イオン(O2NCH2COO-)、サレン誘導体、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などが挙げられる。このうちシアンイオンであることが特に好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。なお、置換基Rは炭化水素、芳香環又は水素を1以上含むものとしてもよいが、取り扱いが簡便であるという観点から水素(例えばグリシン)であることがより好ましい。また、2種以上の金属原子の原子配置を維持する観点からは、配位子はより少ない原子数で構成されていることが好ましい。
【0014】
(2)焼成工程
この工程では、上述した前駆体作製工程で作製した前駆体を金属元素の偏析を抑制する条件で焼成する。金属元素の偏析を抑制する条件のもとでは、加熱時に金属元素が凝集したり他の元素と目的物以外の化合物を形成することを抑制することができる。前駆体を焼成する焼成雰囲気は、酸化性雰囲気としてもよいし、還元性雰囲気としてもよいし、不活性雰囲気としてもよいし、減圧雰囲気としてもよいが、金属複合酸化物を作製する観点から、酸化性雰囲気下で焼成することが好ましい。ここで、前駆体の構造中に炭素成分が含まれている場合には、炭酸塩の存在を抑制する条件で前駆体を焼成することが好ましい。炭酸塩の存在を抑制する条件としては、炭酸塩の生成を抑制する条件としてもよいし、炭酸塩の分解を促進する条件としてもよいし、この両方としてもよい。炭酸塩の存在を抑制する条件では、炭酸塩が生成することにより生じる原子の偏析の進行などをより抑制することができ、金属原子の原子配置を維持したままセラミック化しやすい。この炭酸塩の存在を抑制する条件としては、例えば、所定の昇温速度以下で焼成するなど炭酸塩自体の生成量を抑制する条件や、焼成雰囲気に対する前駆体の量をより少なくして焼成雰囲気に含まれる二酸化炭素の濃度をより低下させるなど二酸化炭素の発生を促進して、炭酸塩の分解の促進及び炭酸塩の発生の抑制の両方またはいずれか一方を実現する条件などが挙げられる。
【0015】
このような金属元素の偏析を抑制する条件や、炭酸塩の存在を抑制する条件としては、金属元素の偏析よりも早く金属の原子配置を所望の配置に固定するような急激な昇温速度とするものとしてもよいし、金属元素の偏析が起こりにくい緩やかな昇温速度とする、例えば、昇温速度を所定の昇温速度以下とするものとしてもよいが、後者の方がより好ましい。昇温速度を緩やかなものとすれば、必要以上の金属イオンなどの熱運動を抑制することができ、前駆体に含まれる金属の原子配置を崩さずに目的とする金属酸化物を得ることができる。また、焼成によって前駆体に含まれる成分のガスが発生することがあるが、緩やかな昇温速度のもとでは、焼成雰囲気に含まれるガス濃度の上昇を抑制することが可能であり、前駆体からガスがより発生して金属複合酸化物への反応をより促進することができるし、目的外の化合物の生成も抑制する効果も期待することができる。例えば、構造中に炭素成分を有する前駆体では、二酸化炭素の発生を促進し、目的外の化合物である炭酸塩の存在を抑制することができる。ここで、「所定の昇温速度」としては、例えば、金属元素の偏析を抑制可能である昇温速度や、焼成雰囲気において前駆体に含まれる成分のガスの濃度が上昇しすぎないような昇温速度を経験的に求め、この昇温速度に設定することができる。この昇温速度は、前駆体や目的物の種類によって異なるが、例えば50℃/h以下とするのが好ましく、30℃/h以下とするのがより好ましく、20℃/h以下とするのが更に好ましい。また、昇温速度は、一定としてもよいし、多段的あるいは連続的に変化させるものとしてもよいが、多段的あるいは連続的に変化させる方がより好ましい。昇温速度を多段的に変化させる場合は、少なくとも所定の温度域で所定の昇温速度以下の昇温速度となるように昇温することが好ましい。ここで、「所定の温度域」は、前駆体を焼成する際に、前駆体に含まれる成分のガスが発生する温度域としてもよいし、前駆体から金属複合酸化物に変化する際に生じる相変化が起きる温度域としてもよい。こうすれば、より確実に金属元素の偏析を抑制することができる。また、例えば、原子の動きが比較的穏やかな第1温度域においては昇温速度を第1速度とし、原子の動きが活発になりやすい第2温度域においては昇温速度を第1速度より小さな第2速度とし、金属の原子配置がほぼ固定したあとの第3温度域においては昇温速度を第2速度よりも大きな第3速度とするものとしてもよい。こうすれば、全体の焼成時間をより短縮することができ、効率的に金属複合酸化物を作製することができる。昇温速度を多段的に変化させる場合には、例えば100℃以上600℃以下の温度範囲、より好ましくは300℃以上500℃以下の温度範囲のときに所定の昇温速度以下としてもよい。二酸化炭素の発生を促進する方法としては、上述のように昇温速度を調整することのほか、発生した二酸化炭素を焼成雰囲気から除去してもよい。二酸化炭素の除去方法としては、前駆体や目的物の種類や量によっても異なるが、例えば焼成炉の自然排気としてもよいし、二酸化炭素を強制排気するものとしてもよい。また、二酸化炭素の排気と同時に、金属成分の酸化反応を促進するため酸化性ガスを導入してもよい。また、この焼成工程では、二酸化炭素の発生だけでなく、その他のガス成分の発生を調整するような条件で加熱してもよい。例えば、配位子に窒素や硫黄、水酸基及び水素が含まれている場合には、窒素酸化物NOxや硫黄酸化物SOx、アンモニア、水などの発生を調整する条件で加熱してもよい。即ち、金属の原子配置を崩すほど急激に窒素酸化物や硫黄酸化物、水が発生したり、これらが金属との化合物を生じるほど焼成雰囲気中の窒素酸化物や硫黄酸化物の濃度が高くなるのを抑制した条件で加熱してもよい。こうしても、金属の原子配置をより維持した金属複合酸化物を得ることができると考えられる。
【0016】
ここで、一例として一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物20の製造方法を説明する。図1は、ペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物20の模式図であり、図2は、ペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物の前駆体30の模式図であり、図3は、ペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物の前駆体の焼成工程における反応の模式図であり、図3(a)は前駆体30、図3(b)は前駆体と仮焼物との中間体40、図3(c)は仮焼物50、図3(d)は目的物である金属複合酸化物20を示す図であり、図4は目的外の生成物であるA22CO3 の構造の模式図であり、図5は仮焼物50の構造の説明図である。
【0017】
図1に示すように立方晶の各頂点のAサイトに金属成分aが、体心のBサイトに金属成分bが、そしてBサイトを中心として酸素Oが立方晶の各面心に配置しているペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物20を製造する場合、図2に示すように三斜晶の各頂点に位置する金属成分aと、三斜晶の内部に位置する金属成分bと、金属成分aと金属成分bとの間に位置する配位子成分xとからなる金属錯体を前駆体30として用いることができる。ここでは、焼成工程において、金属元素の偏析を抑制する条件、具体的には、所定の温度域における昇温速度が所定の昇温速度以下となるような条件で前駆体30を焼成する場合について説明する。このときの焼成工程における反応は図3のように進行すると推測される。なお、図3のA,Bサイトには金属成分a,bが、Xには配位子成分xが、X’には配位子成分xが酸化された酸化物x’がそれぞれ入るものとする。まず、前駆体30(図3(a))を焼成炉へ入れ、昇温を開始し所定の第1温度(例えば280℃)を超えると、前駆体30の配位子成分xが酸化物x’へ酸化されていく(図3(b))。ここで、所定の温度域(例えば280℃〜420℃)では、所定の昇温速度以下(例えば50℃/h以下)の昇温速度で昇温し、前駆体30を焼成していく。さらに昇温を続けると、第1温度より高い第2温度(例えば500℃)に至る間に仮焼物50となる(図3(c))。この仮焼物50は、酸化物x’の変化に伴い金属成分aと金属成分bとからなる骨格が三斜晶から崩れた構造を示すが、金属成分aと金属成分bとの位置関係を維持している。さらに昇温するかその温度で保持するかにより焼成を継続すると、各原子の配置が維持されている仮焼物50から、各原子の配置が維持されている金属複合酸化物20を容易且つ確実に得ることができる(図3(d))。
【0018】
ここで、上述した条件と異なる条件、例えば、所定の昇温速度を超える大きな昇温速度で焼成した場合、金属成分aが配位子成分xとの化合物を生成し金属成分bが酸化物になるなどして偏析することにより、金属成分aと金属成分bとの位置関係が崩れやすい。例えば、配位子成分xが炭素を含む場合には、図4に示すように、金属成分aと配位子成分xが酸化された酸化物x’との化合物としてA22CO3のAサイトに金属成分aが入った炭酸塩を生じることが考えられる。A22CO3は、A22とCO3とが各々シート状に存在し、これが交互に積層したような構造を有しており、金属成分bが金属成分aの近傍に位置することができず、Aサイトに位置する金属成分aとBサイトに位置する金属成分bとの配置関係が崩れてしまうと考えられる。これに対して、本発明の製造方法によって生成する仮焼物50(図3(c)参照)では、図5に示すように、A22シートの層間に金属成分bが存在しており、金属成分aや金属成分bの偏析が生じず、Aサイトに位置する金属成分aとBサイトに位置する金属成分bとの配置関係をより維持することができるものと推察される。したがって、前駆体の金属原子の原子配置をより維持したままセラミックス化することができると推察される。
【0019】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0020】
例えば、上述した実施形態の具体例として、ペロブスカイト構造を有する金属複合酸化物20を目的物とする場合について説明したが、より複雑な原子配置となるような金属複合酸化物を目的物とする場合に本製造方法を使用してもよい。こうすれば、前駆体段階の原子配置を維持することがより困難なものについて、目的とする金属複合酸化物を得られる。また、第1原子を含む基本構造に添加剤としての第2原子を添加し、この第2原子をより分散させるような系に本発明を適用してもよい。
【0021】
上述した実施形態では、金属複合酸化物の製造方法には前駆体作製工程を含むものとしたが、作製済みの前駆体を用いることにより前駆体を作製する工程を省略し、焼成工程のみを行うものとしてもよい。
【0022】
上述した実施形態では、前駆体作製工程と焼成工程とを含むものとしたが、この焼成工程によって仮焼し、さらに本焼工程によって本焼してもよい。
【実施例】
【0023】
以下には、本発明の金属複合酸化物の製造方法を具体的に検討した例を説明する。ここでは、前駆体としてLa[Co(CN)6]・5H2O及びLa[Fe(CN)6]・5H2Oを用い、金属複合酸化物としてのLaCoO3及びLaFeO3を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0024】
[前駆体合成]
特許文献1(特開平6−135722)を参考にヘキサシアノコバルト(III)酸カリウム(関東化学)と硝酸ランタン(関東化学)を1対1のモル比で室温、純水中にて30分間攪拌した後、吸引ろ過し、これを水、エタノール、エーテルの順に洗浄風乾して、La[Co(CN)6]・5H2Oを得た。又、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(関東化学)と硝酸ランタン(関東化学)を1対1のモル比で室温、純水中にて30分間攪拌した後、吸引ろ過し、これを水、エタノール、エーテルの順に洗浄風乾して、La[Fe(CN)6]・5H2Oを得た。
【0025】
[熱重量分析(TG)測定]
まず、金属複合酸化物へ至るまでの前駆体の状態変化をTG測定を行うことにより考察した。TG測定では、熱重量分析装置(Rigaku製Thrmoplus8120)を用い、昇温速度10℃/分で室温から1000℃まで昇温を行い、そのときのサンプルの重量変化を測定した。図6は、La[Fe(CN)6]・5H2Oの熱重量分析(TG)の結果である(サンプル量3.2mg)。これによれば、La[Fe(CN)6]・5H2Oを焼成すると280℃〜420℃、420℃〜500℃、500℃〜620℃の温度範囲のそれぞれにおいて重量減少があり、これらの温度範囲においてそれぞれ何らかの構造変化が生じるものと推察された。図7は、La[Co(CN)6]・5H2Oの熱重量分析(TG)の結果である(サンプル量16.4mg)。これによれば、La[Co(CN)6]・5H2Oを焼成すると300℃〜430℃、430℃〜520℃、520℃〜650℃の温度範囲のそれぞれにおいて重量減少があり、これらの温度範囲においてそれぞれ何らかの構造変化が生じるものと推察された。この結果より、350℃、400℃、500℃、600℃のそれぞれの温度を最高温度とし、その温度での保持時間やその温度へ至るまでの昇温速度を種々の条件として定め、それぞれどのような結晶などが得られるかを以下詳細に検討した。実施例1〜10及び比較例1〜8における、前駆体の種別及びサンプル量(g)、焼成時に前駆体の粉体を収容した燃焼容積(L)、昇温速度(℃/h)、焼成時の最高温度(℃)、最高温度での保持時間(h)、生成した物質の種別及び収率(重量%)などを表1にまとめて示した。
【0026】
【表1】

【0027】
[比較例1〜5]
まず、比較例1〜5では、La[Co(CN)6]・5H2Oを、比較的大きな昇温速度である600℃/hの昇温速度で焼成した場合の構造変化を調べた。また、所定の温度で保持することによって構造変化が進行するかについても調べた。前駆体30のLa[Co(CN)6]・5H2Oを蓋のない平皿の上に2g秤量し、容積0.86Lの蓋つきアルミナサヤの中に静置し、これを大気中にて昇温速度600℃/hで最高温度400℃まで加熱し、2時間温度を保持したあと、室温まで冷却する条件を比較例1の条件とし、得られた生成物を比較例1とした。また、最高温度を500℃としたこと以外は比較例1と同様としたものを比較例2の条件とし得られた生成物を比較例2とした。また、最高温度での保持時間を0時間としたこと以外は比較例1と同様としたものを比較例3の条件とし得られた生成物を比較例3とした。また、最高温度を500℃としたこと以外は比較例3と同様としたものを比較例4の条件とし得られた生成物を比較例4とした。また、最高温度を600℃としたこと以外は比較例3と同様としたものを比較例5の条件とし得られた生成物を比較例5とした。
【0028】
(XRD測定)
比較例1〜5をX線回折測定により同定した。X線回折測定は、試料約0.5gをサンプルホルダーに固着させ、X線回折装置(BRUKER AXS製D8 ADVANCE)により、CuKα線を用いて、2θが10°〜60°の範囲でスキャンした。図8は、比較例1〜5のXRD測定結果である。なお、表1には、比較例1〜5で生成した物質について、前駆体重量に対する生成物質重量の割合(%)及びXRD測定で同定した物質の種類を示した。なお、後述する実施例1〜10及び比較例6〜8についても同様である。
【0029】
(IR測定)
比較例1,2の物質については、赤外分光(IR)測定により、配位子成分の組成変化について検討した。IR測定は、赤外分光装置(Perkin Elmer社製、Spectrum2000)を用い、KBrに混合してディスク上に成形し、この成形体を3400cm-1〜400cm-1の範囲でスキャンした。図9は、比較例1,2のIRの測定結果である。
【0030】
(比較例1〜5の実験結果)
比較例3〜5によれば、600℃/hの昇温速度で焼成をすると、400℃付近で前駆体30のLa[Co(CN)6]が分解し、例えば、比較例3においては、図4の金属成分aがLa成分であるLa22CO3とCo34とが生じ、500℃までに前駆体30の分解が完了し(比較例4)、600℃付近で目的物である金属複合酸化物20のLaCoO3の生成が開始することがわかった。そして、昇温過程においてLa22CO3が生じることにより、La成分の近くにCo成分が位置することができずに原子配置が崩れた状態となる段階が存在することが推察された。また、昇温後400℃で2時間保持した比較例1や500℃で2時間保持した比較例2においてもLaCoO3 が生成しなかったことから、600℃/hの昇温速度で焼成した場合には、LaCoO3 の生成開始温度は600℃付近であることがわかった。また、IR測定では、炭酸成分のピークが大きく、配位子成分(CN-)のうち炭素が炭酸成分として構造中に残存しやすいと推察された。この炭酸成分は、焼成工程における構造変化に影響を与えるものであることが推察された。
【0031】
[比較例6〜8]
次に、昇温速度をより緩やかとし、サンプル量を10gに増やすと共に、焼成容積をより小さくしてLa[Co(CN)6]・5H2Oを二酸化炭素濃度が高い焼成雰囲気で焼成する条件を検討した。こうすれば、焼成工程中に構造中の炭酸成分が放出されにくくなり、構造中の炭酸成分がより多くなると考えられる。このとき、昇温速度は50℃/hとして昇温速度が速いことによる炭酸塩の発生などを抑制し、焼成雰囲気の影響を把握しやすくした。なお、図6に示したTGの結果より前駆体30の分解が開始するものと推察される300℃以下の温度域での昇温速度を100℃/hとすると共に、前駆体30の分解が完了したものと推察される500℃以上の温度域では昇温速度を300℃/hとし、300℃〜500℃での昇温速度よりも大きくした。このようにしても、前駆体30の分解途中での昇温速度が50℃/hであれば、生成物に影響はないものと考えられた。前駆体30のLa[Co(CN)6]・5H2Oを容積0.03Lの蓋つきアルミナ坩堝の中に10g秤量し、容積0.86Lの蓋つきアルミナサヤの中に静置した。これを大気中にて昇温速度を100℃/h(〜300℃まで)、50℃/h(300〜400℃)とし、最高温度400℃まで加熱し、2時間温度を保持したあと、室温まで冷却する条件を比較例6の条件とし、得られた生成物を比較例6とした。また、昇温速度を100℃/h(〜300℃まで)、50℃/h(300〜500℃)とし最高温度500℃としたこと以外は比較例6と同様としたものを比較例7の条件とし得られた生成物を比較例7とした。また、昇温速度を100℃/h(〜300℃まで)、50℃/h(300〜500℃)、300℃/h(500〜600℃)とし、最高温度600℃としたこと以外は比較例6と同様としたものを比較例8の条件とし得られた生成物を比較例8とした。この比較例6〜8についても、比較例1と同様に、XRD測定を行った。図10は、比較例6〜8のXRDの測定結果である。
【0032】
(比較例6〜8の実験結果)
比較例6〜8の結果によれば、緩やかな昇温速度で(50℃/h)、二酸化炭素濃度が高い焼成雰囲気中で焼成をすると、400度付近で前駆体30のLa[Co(CN)6]の分解が完了して図4の金属成分aがLa成分であるLa22CO3とCo34とが生じ(比較例6)、500℃付近で目的物である金属複合酸化物20のLaCoO3の生成が開始するが(比較例7)、600℃においても、La22CO3とCo34が残存していることが分かった(比較例8)。このことから、昇温速度を50℃/hと緩やかにしても、焼成雰囲気中の二酸化炭素濃度が高い場合には、昇温過程において、La22CO3が生じてLa成分の近くにCo成分が位置することができずに原子配置が崩れた状態となる段階が存在することがわかった。
【0033】
[実施例1〜3]
そこで、実施例1〜3では、La[Co(CN)6]・5H2Oを緩やかである50℃/hの昇温速度とし、二酸化炭素濃度の上昇をより抑制して焼成する条件について検討した。比較例1,6の条件によれば、前駆体30の分解開始温度は400℃よりも低温側にあると推察されたため、350℃における生成物質も確認した。前駆体のLa[Co(CN)6]・5H2Oを蓋のない平皿の上に2g秤量し、容積0.86Lの蓋つきアルミナサヤの中に静置した。これを大気中にて昇温速度50℃/hで最高温度400℃まで加熱し、2時間温度を保持したあと、室温まで冷却する条件を実施例1の条件とし、得られた生成物を実施例1とした。また、最高温度を500℃としたこと以外は実施例1と同様としたものを実施例2の条件とし得られた生成物を実施例2とした。また、最高温度を350℃とし、保持時間を72時間としたこと以外は実施例1と同様としたものを実施例3の条件とし得られた生成物を実施例3とした。実施例1〜3について、比較例1と同様にX線回折装置を用いて同定した。図11は、実施例1〜3のXRDの測定結果である。また、実施例1,2について、比較例1,2と同様にIR測定を行った。図12は、実施例1,2のIRの測定結果である。
【0034】
(実施例1〜3の実験結果)
実施例1〜3の結果によれば、図11に示すように、50℃/hの昇温速度で焼成をすると、350℃までに前駆体30のLa[Co(CN)6]の分解が完了して仮焼物50が生じた(実施例3)。以下、La[Co(CN)6]を焼成して得られる仮焼物50を仮焼物Aと称する。引き続き昇温を続けると、400℃でも仮焼物Aであり(実施例1)、500℃まで昇温すると目的物であるLaCoO3の生成が開始することが分かった(実施例2)。
【0035】
以下、仮焼物Aの構造について検討する。図13は、実施例1,2のXRD回折パターン及びLa22CO3の結晶面のピークを示す図である。La22CO3は図4に示すような構造を有し、金属成分aがLaである。La22CO3においてLa22シートに起因するピークの面指数は(103)及び(200)であり、CO3のシートに起因するピークの面指数は(002)、(004)、(006)である。実施例1の回折パターンでは2つのブロードなピークが観察された。このブロードなピークはLa22CO3の(103)面及び(200)面に一致している。一方で、(002)面、(004)面、(006)面とは一致していない。また、図12に示すIR測定の結果より、仮焼物Aは炭酸成分を含んでいることが分かった。以上のことから、仮焼物Aは図5において金属成分aがLaであり金属成分bがCoであるような構造であり、炭酸成分を含むものの炭酸塩を形成せず、La22シートの層間にCoとCO3-とがアモルファス状に存在した構造であると推察され、LaやCoの偏析が生じていないものと考えられた。
【0036】
実施例1と比較例1とを、実施例2と比較例2とをそれぞれ比較すると、昇温速度を50℃/hに遅くすることにより生成物質の重量が減少した。これは昇温速度を遅くすると加熱分解がより進行するためであると推察された。また、実施例1と比較例2とを比較すると、実施例1のほうが最高温度が低いにもかかわらず重量が減少した。このことから、昇温速度を遅くすることにより、加熱分解がより進行して、物質中の金属元素の偏析を抑制したまま酸素の導入や有機分(C、Nなど)の脱離が進行するものと推察された。また、実施例1、2と比較例1〜5とを比較すると、昇温速度の大きい比較例では600℃で目的物のLaCoO3が得られたのに対し(比較例5)、昇温速度の遅い実施例では500℃で目的物のLaCoO3が得られた(実施例2)。このことから、昇温速度を遅くすることで加熱分解がより良好に進行して加熱分解によって発生する有機分(C,Nなど)が金属の原子を偏析させることなく穏やかに脱離することにより、目的外の化合物の生成を抑制し、物質中の金属イオンの拡散を抑制して原子の配置を維持したまま酸化物を生成することができると推察された。また、これに付随して、焼成温度を低減する効果も確認された。
【0037】
次に、実施例1,2と比較例1,2とを比較すると、昇温速度がより小さい実施例のみ仮焼物Aが生成した。この理由は定かではないが、昇温速度をより小さくすると、CO2の生成が遅くなって焼成雰囲気中のCO2の濃度が低下し、これによりCO3-がCO2に分解脱離しやすくなる。このため、炭酸塩として金属イオンを偏析させるCO3-を仮焼物内から取り除きやすくなり、炭酸塩を含まない仮焼物Aが得られたものと推察された。また、実施例1,2と比較例6,7とを比較すると、前駆体2gを0.86Lの容積で加熱分解した実施例のグループのみ仮焼物Aが生成した。前駆体10gを0.03Lの容積で加熱分解した比較例のグループは前駆体の加熱分解により発生するCO2が容積に対して多いから、La22シートとCO2と酸素とが反応してLa22CO3が生成したと推察された。このように、実施例1〜3及び比較例1〜8によると、所定の昇温速度以下(50℃/h以下)の緩やかな昇温速度とすることにより、前駆体に含まれる炭素から生じる炭酸塩の生成量を抑制することによって、前駆体の原子配置をより維持したまま酸化物を生成することができるものと推察された。また、焼成雰囲気中の二酸化炭素濃度をより低減することによって、前駆体に含まれる炭素から生じる炭酸塩の分解をより促進させることによって、前駆体の原子配置をより維持したまま酸化物を生成することができるものと推察された。
【0038】
[実施例4〜10]
さらに、実施例4〜10では、前駆体30をLa[Fe(CN)6]・5H2Oとして実施例1〜3と同様に50℃/hの昇温速度で焼成した場合について検討した。また、350℃、400℃、500℃で長時間保持することで構造変化が進行するかについても検討した。前駆体30をLa[Fe(CN)6]・5H2Oとし、最高温度を300℃、保持時間を0時間としたこと以外は実施例1と同様としたものを実施例4の条件とし、得られた生成物を実施例4とした。また、保持時間を2時間としたこと以外は実施例4と同様としたものを実施例5の条件とし得られた生成物を実施例5とした。また、保持時間を72時間としたこと以外は実施例4と同様としたものを実施例6の条件とし得られた生成物を実施例6とした。また、最高温度を400℃とし保持時間を2時間としたこと以外は実施例4と同様としたものを実施例7の条件とし得られた生成物を実施例7とした。また、保持時間を72時間としたこと以外は実施例5と同様としたものを実施例8の条件とし得られた生成物を実施例8とした。また、最高温度を500℃とし保持時間を2時間としたこと以外は実施例4と同様としたものを実施例9の条件とし得られた生成物を実施例9とした。また、保持時間を72時間としたこと以外は実施例9と同様としたものを実施例10の条件とし得られた生成物を実施例10とした。実施例4〜10の各物質を、比較例1と同様にX線回折装置を用いて同定した。図14は、実施例4〜10のXRDの測定結果である。
【0039】
(実施例4〜10の実験結果)
実施例4〜10の測定結果によれば、La[Fe(CN)6]を50℃/hの昇温速度で焼成すると、La[Co(CN)6]を50℃/hの昇温速度で焼成した場合と同様に、350度までに前駆体30のLa[Co(CN)6]の分解が完了し、図4における金属成分a,bをそれぞれLa,Feとする仮焼物50が生じた(実施例4〜6)。以下La[Co(CN)6]を焼成して生じる仮焼物50を仮焼物Bとも称する。引き続き昇温を続けると、400℃でも仮焼物Bが生成物として得られ(実施例7,8)、500℃まで昇温すると目的物である金属複合酸化物20のLaFeO3の生成が開始し(実施例9)、500℃で72時間保持すれば、目的物であるLaFeO3の生成が完了することが分かった(実施例10)。
【0040】
このように、前駆体30をLa[Fe(CN)6]・5H2Oとしても、前駆体の原子配置を維持した仮焼物Bを介してLaFeO3が生成した。ここで仮焼物Bは仮焼物Aと同様にLa22シート間にFeを含む構造であると推察された。これにより、3次元の集積を抑制し、原子配置が保たれると考えられた。図15は、実施例1,2,7,9のXRD及びIRの測定結果である。図14におけるXRDの結果よりLaFe系のほうがLaCo系と比較してLa22シートに起因する(103)面及び(110)面のブロードなピークがより目立たないことから、La22面の生成がより抑制されたものと推察された。またIRの結果よりLaFe系のほうがLaCo系と比較してCO3の吸収帯がややブロードとなっていることから仮焼物のCO3の結合がより弱いと推察された。以上によりLaFe系のほうがLaCo系よりも前駆体の金属原子配置をより維持したまま金属複合酸化物20を得ることができるものと推察された。このように、前駆体30をLa[Fe(CN)6]・5H2Oとしても金属の原子配置をより維持したまま金属複合酸化物20を得ることができることがわかった。
【符号の説明】
【0041】
20 金属複合酸化物、30 前駆体、40 中間体、50 仮焼物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の金属原子の原子配置が所定の配置である前駆体を使用し、該前駆体を金属元素の偏析を抑制する条件で焼成する焼成工程、
を含む金属複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体は、構造中に炭素成分を有するものである、請求項1に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程では、炭酸塩の存在を抑制する条件で前記前駆体を焼成する、請求項2に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程では、前記炭酸塩の存在を抑制する条件として二酸化炭素の発生を促進する条件で前記前駆体を焼成する、請求項3に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程では、少なくとも所定の温度域で所定の昇温速度以下の昇温速度となるように昇温することにより前記前駆体を焼成する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程では、前記所定の温度域が100℃以上600℃以下の温度域であり、前記所定の昇温速度以下の昇温速度が50℃/h以下となるように昇温する、請求項5に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記前駆体は、金属錯体を含んで構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記所定の配置は、単位格子内に前記2種以上の金属原子が規則的に配置された結晶構造である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記所定の配置は、前記2種以上の金属原子のうち、少なくとも1種以上の金属原子が同種で隣接することのない配置である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記金属複合酸化物は、一般式ABO3で表される酸化物を主成分とし、
前記前駆体は、前記ABO3で表される酸化物のAサイトの元素及びBサイトの元素を含む金属錯体を含んで構成されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
前記金属原子は、希土類金属元素、アルカリ土類金属元素、アルカリ金属元素及び遷移金属元素から選ばれたものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項12】
前記前駆体は、構造中に炭素成分を有するものであり、該炭素成分は、シアンイオンとして含まれるものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項13】
前記前駆体は、一般式La[Co(CN)6]又はLa[Fe(CN)6]で表される金属錯体を含んで構成されている請求項1〜12のいずれか1項に記載の金属複合酸化物の製造方法。
【請求項14】
2種以上の金属原子の原子配置が所定の配置である前駆体を使用し、該前駆体を少なくとも所定の温度域で所定の昇温速度以下の昇温速度となるように昇温することにより焼成する焼成工程、
を含む金属複合酸化物の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2010−260762(P2010−260762A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112249(P2009−112249)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】