説明

金属調シート成形品、車両用ドアハンドル及びその製造方法

【課題】静電容量センサの動作不良の発生を防ぎつつ、車両用ドアハンドルを金属調に装飾することが可能な金属調シート成形品、その金属調シート成形品を有した車両用ドアハンドル及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
本発明に係る金属調シート成形品20は、金属調加飾シート30から成形されている。その金属調加飾シート30に含まれる金属層33は、複数の金属体が互いに分離した金属体散在構造になっている。これにより、金属層33全体が1枚の連続した導電体ではなくなり、金属調シート成形品20にて車両用ドアハンドル10の露出面を金属調に装飾しても、金属メッキ層で車両用ドアハンドル10を装飾したもののような静電容量センサ15の動作不良の発生が防がれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量センサの検知電極を内蔵した車両用ドアハンドル、その製造方法及びそれに用いられる金属調シート成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ドアハンドルとして、全体を金属メッキ層で覆って金属調に装飾したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−221946号公報([0002]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、使用者がドアハンドルに触れたことを静電容量センサにて検出してドアの解錠を行う車両用ドアハンドルが普及してきている。しかしながら、上述の如く、全体を金属メッキ層で覆われた従来の車両用ドアハンドルでは、静電容量センサが正常に作動しなくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、静電容量センサの動作不良の発生を防ぎつつ、車両用ドアハンドルを金属調に装飾することが可能な金属調シート成形品、その金属調シート成形品を有した車両用ドアハンドル及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る金属調シート成形品(20)は、車両ドア(40)に取り付けられて車外に露出したアーチ構造の車両用ドアハンドル(10)における露出面の形状に合わせて金属調加飾シート(30)から成形され、車両用ドアハンドル(10)を成形するための射出成形金型(64)にインサートされて、車両用ドアハンドル(10)の表面に固着される金属調シート成形品(20)であって、金属調加飾シート(30)は、複数の金属体が互いに分離した状態で散在する金属体散在構造の金属層(33)を1対の樹脂層(31,36)の間に積層してなり、その金属調加飾シート(30)を、車両用ドアハンドル(10)の露出面のうちアーチの裏面における幅方向の中央部分に沿って延びた裏面帯状領域(R1)を除く全体の形状に成形してなるところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の金属調シート成形品(20)において、複数の金属体は、金属層(33)を厚さ方向から見たときに平均粒径が30〜150nmであり、金属体同士の間の平均隙間が5〜30nmであるところに特徴を有する。
【0008】
請求個3の発明は、請求項2に記載の金属調シート成形品(20)において、金属体は、インジウム又はスズの何れかであるところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明に係る車両用ドアハンドル(10)の製造方法は、請求項1乃至3のうち何れか1の請求項に記載の金属調シート成形品(20)を射出成形金型(64)内にセットし、金属調シート成形品(20)の内側に溶融樹脂を射出して、金属調シート成形品(20)と一体に車両用ドアハンドル(10)を成形するところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載の車両用ドアハンドル(10)の製造方法において、溶融樹脂の樹脂圧で金属調シート成形品(20)を射出成形金型(64)の内面に押しつけてその射出成形金型(64)の内面形状に合わせた形状に成形するところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載の車両用ドアハンドル(10)の製造方法において、射出成形金型(64)のキャビティ内面にシボ(82)を形成しておき、そのシボ(82)を金属調シート成形品(20)に転写させると共に、シボ(82)の境界を射出成形金型(64)のキャビティ内面のうちパーティングライン又は、スライド型(80)を備えた場合にはスライド型(80)と金型本体(65)との境界線に一致させるところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明に係る車両用ドアハンドル(10)は、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の金属調シート成形品(20)を外面に一体に備えると共に、静電容量センサ(15)を内蔵したところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項7に記載の車両用ドアハンドル(10)において、裏面帯状領域(R1)に着脱可能な裏蓋(14)を備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
[請求項1,4,7の発明]
請求項1,4,7の発明に係る金属調加飾シート(30)に含まれる金属層(33)は、複数の金属体で構成されかつそれら複数の金属体が互いに分離した金属体散在構造になっているので、金属層(33)全体が1枚の連続した導電体ではなくなる。そして、この金属調加飾シート(30)から成形された金属調シート成形品(20)を使用すれば、車両用ドアハンドル(10)の全体を金属調に装飾しても、金属メッキ層で車両用ドアハンドル(10)を装飾したもののような静電容量センサ(15)の動作不良の発生が防がれる。
【0015】
ここで、単に、金属メッキ層を金属調シート成形品に置き換えて、車両用ドアハンドル(10)の露出面全体の形状に合わせて金属調シート成形品を成形すると、金属調シート成形品を射出成形金型(64)にインサートしたときに、金属調シート成形品の内側に樹脂を充填することができなくなってしまう。しかしながら、本発明の金属調シート成形品(20)は、アーチ構造の車両用ドアハンドル(10)の露出面のうちアーチの裏面における幅方向の中央部分に沿った裏面帯状領域(R1)を除いた全体の形状に合わせて成形されているので、金属調シート成形品(20)を射出成形金型(64)内にセットしても、裏面帯状領域(R1)に対応する部分から樹脂を射出して金属調シート成形品(20)の内側に樹脂を充填することができる。しかも、裏面帯状領域(R1)は、車両用ドアハンドル(10)の露出面のうち人の目に触れない場所に配置されているので、金属調シート成形品(20)によって車両用ドアハンドル(10)の露出面のうち人が目視可能な部分全体を覆うことができる。即ち、本発明によれば、1つの金属調シート成形品(20)で、外観上、車両用ドアハンドル(10)の露出面全体を金属調に装飾することができ、かつ静電容量センサ(15)の動作不良の発生が防がれる。
【0016】
[請求項2,3の発明]
請求項2の発明のように、金属調シート成形品(20)に係る金属調加飾シート(30)に含まれる金属層(33)を、金属層(33)の厚さ方向から見た複数の金属体の平均粒径が30〜150nm、金属体同士の間の平均隙間が5〜30nmとなるように構成すれば、金属体散在構造でありながら、金属層(33)全体を連続した1つの金属部品に見せることができる。また、上記の如く、複数の金属体の平均粒径が30〜150nm、平均隙間が5〜30nmである金属層(33)は、インジウム又はスズの金属蒸着によって容易に形成することができる(請求項3の発明)。
【0017】
[請求項5の発明]
請求項5の発明によれば、外面形状が異なる複数種類の車両用ドアハンドル(10)に対して金属調シート成形品(20)を共通化することができる。
【0018】
[請求項6の発明]
請求項6の発明によれば、シボ(82)の境界をパーティングラインまたはスライド型(80)と金型本体(65)との境界線に一致させたので、パーティングライン又はスライド型(80)と金型本体(65)との境界線が金属調シート成形品(20)へ転写されても目立たなくすることができる。
【0019】
[請求項8の発明]
請求項8の発明の構成によれば、裏蓋(14)を外した状態で静電容量センサ(15)を組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る車両用ドアハンドルの斜視図
【図2】車両用ドアハンドルの側面図
【図3】車両用ドアハンドルの側断面図
【図4】ハンドル本体を裏側から見た斜視図
【図5】ハンドル本体の背面図
【図6】ハンドル本体のA−A断面図
【図7】金属調シート成形品の斜視図
【図8】金属調加飾シートの側断面図
【図9】金属調加飾シートとシート成形用金型の側断面図
【図10】金属調シート成形品を切り離す前の金属調加飾シートの斜視図
【図11】金属調シート成形品を切り離すときの金属調加飾シートの断面図
【図12】金属調シート成形品と射出成形金型の断面図
【図13】雌雄の金型を閉じた状態における射出成形金型の断面図
【図14】金属調シート成形品が射出成形金型にインサートされた状態の断面図
【図15】スライド型の断面図
【図16】第2実施形態に係る金属調シート成形品と射出成形金型の断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図15に基づいて説明する。図1には、本発明に係る車両用ドアハンドル10(以下、単に「ドアハンドル10」という)が示されている。このドアハンドル10は、水平方向に延びたアーチ構造をなし、その水平方向の両端部から車両ドア40に向かって1対の固定脚12A,12Bが突出した構造になっている。そして、これら1対の固定脚12A,12Bが、車両ドア40のドアパネル40Pに形成された貫通孔に挿入された状態に固定される(図2参照)。また、ドアハンドル10の長手方向の中間部は、車両ドア40から離間して人が把持可能なグリップ部10Gになっている。
【0022】
図3に示すように、ドアハンドル10は、ハンドル本体11と裏蓋14とから構成されている。ハンドル本体11には、車両ドア40側で開放した収容凹部17(図4参照)が設けられ、この収容凹部17の開口が裏蓋14にて閉塞されている。そして、ハンドル本体11と裏蓋14との間に形成された内部空間に静電容量センサ15が内蔵されている。また、ドアハンドル10は、外観上、全体がハンドル本体11のみで構成されているように見える(図2参照)。
【0023】
静電容量センサ15は、例えば、ドアハンドル10の長手方向に沿って延びた帯板状の検知電極15Dと、その静電容量センサ15の静電容量の変化を検出可能な静電容量検出回路15Cとを樹脂でパッケージしてなる。また、静電容量センサ15は、ドアハンドル10の長手方向の中間部に配置され、かつ、ドアハンドル10の内部では、車両ドア40側に偏在させた配置になっている。そして、ドアハンドル10のうち車両ドア40との対向面に人の指が当接すると、検知電極15Dの静電容量が所定の基準値を超えて変化する。その変化が静電容量検出回路15Cにて検出されて、ドアハンドル10に対する人の接触が検出される。
【0024】
静電容量センサ15がドアハンドル10に対する人の接触を検出すると、例えば、車両本体に備えた信号処理装置16にて、所定のRFIDが近く存在するか否を無線確認し、RFIDが近くに存在する場合に車両ドア40を解錠し、図示しないラッチ機構による車両ドア40の係止も解除する。これにより、搭乗者の乗車が可能になる。
【0025】
図4に示すように、ハンドル本体11の収容凹部17は、ハンドル本体11の前端部と後端部に配置された凹部17A,17Bを収容溝17Mで連絡した構造になっている。図5に示すように、前側の凹部17Aは、断面形状が略卵形をなし、その開口縁部の前端部と上述した固定脚12Aの基端部が一体になっている。また、後側の凹部17Bは、断面形状がハンドル本体11の幅方向に長くなった矩形状を有し、固定脚12Bの基端部を受容している。そして、ハンドル本体11のうち凹部17A,17Bの開口縁部が、車両ドア40と当接するドア取り付け面18A,18Bになっている。
【0026】
収容溝17Mは、ドアハンドル10のアーチの裏面における幅方向の中央部分に沿って形成されている。また、収容溝17Mは、凹部17A,17Bよりも幅狭になっていて、収容溝17Mの溝側壁17Sが、凹部17A,17Bの開口縁部に連絡している。そして、収容凹部17を閉塞する裏蓋14のうち収容溝17Mの開口を閉塞する部分が本発明の裏面帯状領域R1(図6参照)になっている。
【0027】
図6には、ハンドル本体11を長手方向の中間位置で切断した状態の断面図が示されている。同図に示すように、溝側壁17Sは、溝の深さ方向の中間位置に、最も側方に突出した側方突出端17Tを有している。側方突出端17Tは、ドアハンドル10のアーチの形状に沿って形成され(図2参照)、溝側壁17Sの長手方向の両端部で外側に向かって湾曲している(図5参照)。また、ハンドル本体11の外面のうち側方突出端17Tよりもドア40側に位置する部分には、シボ加工が施されている。
【0028】
また、ハンドル本体11は、外面の一部が金属調シート成形品20で覆われている。金属調シート成形品20は、金属調加飾シート30(図8参照)の成形品であって、ハンドル本体11の外面うちドア取り付け面18A,18Bを除いた全体の形状になっている(図7参照)。即ち、金属調シート成形品20の形状は、ドアハンドル10の露出面のうち裏面帯状領域R1を除いた全体の形状になっている。
【0029】
金属調シート成形品20に成形される前の金属調加飾シート30は、厚さが、例えば、335μmになっていて、図8に示すように、熱可塑性樹脂層31と、プライマー層32と、金属層33と、接着剤層35と、耐候性樹脂層36とを順番に積層して構成されている。
【0030】
熱可塑性樹脂層31は、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)製のフィルムで構成されている。この熱可塑性樹脂層31の厚さは、例えば、250μmになっている。そして、この熱可塑性樹脂層31の一面にウレタン系又はアクリル系の樹脂を、例えば、5μmの厚さとなるように塗布してプライマー層32が形成されている。
【0031】
なお、熱可塑性樹脂層31は、ABS樹脂以外に、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂に適宜変更してもよい。
【0032】
金属層33は、プライマー層32の熱可塑性樹脂層31と反対側の面に、公知のスパッタリング法、電子ビーム蒸着法あるいはイオンプレーティング法等の物理的蒸着法を用いて、インジウムを蒸着させて形成されている。この金属層33は、複数の金属体が隙間を開けて互いに分離した状態に散在する金属体散在構造になっている。詳細には、複数の金属体の平均粒径が30〜150nm、金属体同士の間の平均隙間が5〜30nmになっている。これにより、金属層33全体を連続した1つの金属部品に見せることができる。
【0033】
また、金属層33のうちプライマー層32と反対側の面には、プライマー層32と同様の樹脂で構成された接着剤層35が形成されている。そして、接着剤層35に厚さ75μmのアクリル系樹脂製フィルムである耐候性樹脂層36が密着している。これにより、金属層33が熱可塑性樹脂層31及び耐候性樹脂層36に挟まれたラミネート構造になっている。
【0034】
次に、金属調加飾シート30を用いた金属調シート成形品20の製造方法について説明する。まず、金属調加飾シート30を図示しないクランプで把持して、ヒーター(図示せず)でその金属調加飾シート30の両面を、例えば、150℃に加熱して軟化させる。そして、その金属調加飾シート30を、図9に示すように、金属調シート成形品20の内面形状に対応した成形突部51を有するシート成形用金型50内にセットする。
【0035】
シート成形用金型50は、雄側金型51と雌側金型52から構成され、金属調加飾シート30の熱可塑性樹脂層31(図8参照)側を雄側金型51の成形突部51Tに宛がう。次いで、吸引孔51Aを通して金属調加飾シート30と雄側金型51との間の空気を吸引すると同時に、雌側金型52の通気孔52Aから送り出される圧縮空気にて金属調加飾シート30を雄側金型51側に押しつけて、金属調加飾シート30を雄側金型51の上面に密着させる。そして、金属調加飾シート30が形状を維持可能な程度に硬化したら金属調加飾シート30をシート成形用金型50から取り外す。ここで、成形突部51の側面は、金属調シート成形品20の内面形状に対応して下端部より上部が側方に張り出した所謂アンダーカット形状になっているが、金属調加飾シート30を弾性変形させながら雄側金型51から離脱させればよい。これにより、金属調加飾シート30は、金属調シート成形品20に対応したドーム部30Dを平坦部30Mから隆起させた形状に成形される(図10参照)。
【0036】
次いで、図11に示すように、レーザーガン30L(例えば、二酸化炭素レーザーガン)を用いて金属調加飾シート30全体から金属調シート成形品20を切り離す。具体的には、レーザーガン30Lの光軸を平坦部30Mに対して略45度だけドーム部30D側に起こすように傾け、ドーム部30Dにおける平坦部30Mからの立ち上がり部分をレーザー切断する。そして、金属調シート成形品20が金属調加飾シート30から切り離されたら金属調シート成形品20の成形工程が完了する。
【0037】
次に、ハンドル本体11の製造方法について説明する。金属調シート成形品20を図12に示した射出成形金型64内にインサートする。射出成形金型64は、雌雄の金型65,66を備えている。雌側金型65には、金属調シート成形品20の形状に対応して窪んだ凹所67が形成されている。この凹所67は、金属調シート成形品20が、その側壁56Sにおける先端と基端との中間位置までしか嵌合できない深さになっている。雄側金型66には、凹所67に向かって膨出した丘陵部68が形成されると共に、丘陵部68の一部に開放するように樹脂の射出路69が形成されている。
【0038】
また、雄側金型66は、雌雄の金型65,66の型開閉方向と直交する方向に移動可能なスライド型80,80を備えている。スライド型80は、雌側金型65側の端部に、円弧状の成形面81Mを有する切欠部81を有している。図15に拡大して示すように、切欠部81の成形面81M全体には、例えば、サンドブラスト、エッチング等のシボ加工技術により、シボ82が成形されている。
【0039】
この射出成形金型64を用いてハンドル本体11を成形するには、まず、図13に示すように、凹所67に金属調シート成形品20の天井部20Tを嵌合する。そして、スライド型80,80を丘陵部68から離間させた状態で雄側金型65を閉じ、雄側金型66の丘陵部68を金属調成形シート10の内側に突入させる。このとき、丘陵部68は、金属調シート20の側壁20Sの先端に摺接しながら突入し、雄側金型65を閉じた状態で、金属調シート20の側壁20Sの先端が丘陵部68の側部に当接する。
【0040】
図14に示すように、スライド型80,80を丘陵部68へ接近させると、金属調シート成形品20の側壁20Sがスライド型80の切欠部81と当接し、金属調シート成形品20と丘陵部68との間に成形空間(図示せず)が形成される。このとき、雌側金型65とスライド型80との境界が、金属調シート成形品20の側壁20Sのうち最も外側に突出した端部に一致している。
【0041】
そして、上記成形空間に射出路69を介して溶融樹脂(例えば、PC−PBTアロイの溶融樹脂)を充填し、ハンドル本体11を成形する。このとき、雌型金型65とスライド型80との境界部分でハンドル本体11の側方突出端17Tが形成される。また、金属調シート成形品20は、樹脂圧によってスライド型80の成形面81Mに押され、シボ82が転写される。これにより、ハンドル本体11の外面のうち側方突出端17Tよりもドア40側に位置する部分にシボ加工が施される。ここで、樹脂圧によってスライド型80と雌側金型65との境界線が金属調シート成形品20へ転写されることがある。ところが、本実施形態では、スライド型80におけるシボ82の加工面(即ち、成形面81M)の境界線を、スライド型80と雌側金型65との境界線に一致させたので、スライド型80と雌側金型65との境界線が転写されても目立たなくすることができる。
【0042】
次いで、射出成形金型64を冷却して溶融樹脂が固化したら、スライド型80,80及び雌雄の金型65,66を開く。これにより、ハンドル本体11の成形工程が完了する。なお、図示はしないが、射出成形金型64には、スライド型80,80の他に複数のスライド型が設けられ、それらスライド型によって固定脚12A,12B(図4参照)が成形される。
【0043】
次いで、ハンドル本体11の収容凹部17に静電容量センサ15を収容し、別途製造しておいた裏蓋14をハンドル本体11にビス止めして収容凹部17を閉塞する。これにより、静電容量センサ15がドアハンドル10に内蔵され、ドアハンドル10の露出面のうち裏面帯状領域R1を除いた部分が金属調シート成形品20にて金属調に装飾される。
【0044】
次に、本実施形態の金属調シート成形品20の作用効果について説明する。本実施形態に係る金属調加飾シート30に含まれる金属層33は、複数の金属体で構成されかつそれら複数の金属体が互いに分離した金属体散在構造になっているので、金属層33全体が1枚の連続した導電体ではなくなる。そして、この金属調加飾シート30から成形された金属調シート成形品20を使用すれば、ドアハンドル10の全体を金属調に装飾しても、金属メッキ層でドアハンドル10を装飾したもののような静電容量センサ15の動作不良の発生が防がれる。
【0045】
ここで、単に、金属メッキ層を金属調シート成形品に置き換えて、ドアハンドル10の露出面全体の形状に合わせて金属調シート成形品を成形すると、金属調シート成形品を射出成形金型64にインサートしたときに、金属調シート成形品の内側に樹脂を充填することができなくなってしまう。しかしながら、本実施形態では、金属調シート成形品20が、アーチ構造の車両用ドアハンドル10の露出面のうちアーチの裏面における幅方向の中央部分に沿った裏面帯状領域R1を除いた全体の形状に合わせて成形されているので、金属調シート成形品20を射出成形金型64内にセットしても、裏面帯状領域R1に対応する部分から樹脂を射出して金属調シート成形品20の内側に樹脂を充填することができる。しかも、裏面帯状領域R1は、車両用ドアハンドル10の露出面のうち人の目に触れない場所に配置されているので、金属調シート成形品20によって車両用ドアハンドル10の露出面のうち人が目視可能な部分全体を覆うことができる。即ち、本実施形態によれば、1つの金属調シート成形品20で、外観上、ドアハンドル10の露出面全体を金属調に装飾することができ、かつ静電容量センサ10の動作不良の発生が防がれる。
【0046】
[第2実施形態]
本実施形態は、射出成形金型64にインサートするときの金属調シート成形品120の形状が第1実施形態と異なっている。図16に示すように、金属調シート成形品120は、第1実施形態の金属調シート成形品20の両側壁20S,20Sと比較して、両側壁120S,120Sの先端が互いに離れるように広がっている。それ以外の構成は第1実施形態と同じになっている。
【0047】
本実施形態によれば、雄側金型66を閉じるときに丘陵部68を金属調シート成形品120の両側壁120S,120Sの間にスムーズに突入させることができる。そして、スライド型80,80を丘陵部68へ接近させると、金属調シート成形品120の側壁120Sがスライド型80の切欠部81に押されて切欠部81の成形面81Mに沿った形状になり、第1実施形態のときと同様に側壁120Sの先端が丘陵部68と当接する。これにより、金属調シート成形品120と丘陵部68との間に成形空間が形成される。このように、本実施形態の金属調シート成形品120によれば、射出成形金型64内へのインサートを容易に行うことができる。
【0048】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0049】
(1)前記実施形態では、シボ82が、スライド型80の成形面81M全体に形成されていたが、成形面81Mのうち雌側金型66との境界線を含む一部に形成されていてもよい。
【0050】
(2)前記実施形態では、ハンドル本体11の収容凹部17を裏蓋14で閉塞して形成される内部空間に静電容量センサ15を収容していたが、車両用ドアハンドルをアーチ状に折り曲げたパイプで構成し、そのパイプの内側に静電容量センサ15を収容してもよい。
【0051】
(3)前記実施形態では、金属調加飾シート30のトリミングを、レーザー切断により行っていたが、プレス切断により行ってもよい。なお、前記実施形態のようにレーザー切断によりトリミングを行えば、切断面における剪断力の発生を抑えて、金属調加飾シート30の切断面における層間剥離を防ぐことができる。
【0052】
(4)前記実施形態では、シート成形用金型50に吸引孔51Aと通気孔52Aとを備えた構成であったが、吸引孔51Aのみを備えた構成であってもよいし、通気孔52Aのみを備えた構成であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 車両用ドアハンドル
14 裏蓋
15 静電容量センサ
20,120 金属調シート成形品
30 金属調加飾シート
31 熱可塑性樹脂層
32 プライマー層
33 金属層
35 接着剤層
36 耐候性樹脂層
40 車両ドア
64 射出成形金型
65 雌側金型
66 雄側金型
80 スライド型
82 シボ
R1 裏面帯状領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ドア(40)に取り付けられて車外に露出したアーチ構造の車両用ドアハンドル(10)における露出面の形状に合わせて金属調加飾シート(30)から成形され、前記車両用ドアハンドル(10)を成形するための射出成形金型(64)にインサートされて、前記車両用ドアハンドル(10)の表面に固着される金属調シート成形品(20)であって、
前記金属調加飾シート(30)は、複数の金属体が互いに分離した状態で散在する金属体散在構造の金属層(33)を1対の樹脂層(31,36)の間に積層してなり、
その金属調加飾シート(30)を、前記車両用ドアハンドル(10)の露出面のうち前記アーチの裏面における幅方向の中央部分に沿って延びた裏面帯状領域(R1)を除く全体の形状に成形してなることを特徴とする金属調シート成形品(20)。
【請求項2】
前記複数の金属体は、前記金属層(33)を厚さ方向から見たときに平均粒径が30〜150nmであり、前記金属体同士の間の平均隙間が5〜30nmであることを特徴とする請求項1に記載の金属調シート成形品(20)。
【請求項3】
前記金属体は、インジウム又はスズの何れかであることを特徴とする請求項2に記載の金属調シート成形品(20)。
【請求項4】
請求項1乃至3のうち何れか1の請求項に記載の金属調シート成形品(20)を前記射出成形金型(64)内にセットし、前記金属調シート成形品(20)の内側に溶融樹脂を射出して、前記金属調シート成形品(20)と一体に前記車両用ドアハンドル(10)を成形することを特徴とする車両用ドアハンドル(10)の製造方法。
【請求項5】
前記溶融樹脂の樹脂圧で前記金属調シート成形品(20)を前記射出成形金型(64)の内面に押しつけてその射出成形金型(64)の内面形状に合わせた形状に成形することを特徴とする請求項4に記載の車両用ドアハンドル(10)の製造方法。
【請求項6】
前記射出成形金型(64)のキャビティ内面にシボ(82)を形成しておき、そのシボ(82)を前記金属調シート成形品(20)に転写させると共に、前記シボ(82)の境界を前記射出成形金型(64)のキャビティ内面のうちパーティングライン又は、スライド型(80)を備えた場合には前記スライド型(80)と金型本体(65)との境界線に一致させることを特徴とする請求項5に記載の車両用ドアハンドル(10)の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の金属調シート成形品(20)を外面に一体に備えると共に、静電容量センサ(15)を内蔵したことを特徴とする車両用ドアハンドル(10)。
【請求項8】
前記裏面帯状領域(R1)に着脱可能な裏蓋(14)を備えたことを特徴とする請求項7に記載の車両用ドアハンドル(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−102567(P2012−102567A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252970(P2010−252970)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)