説明

金属酸化物を含むポリカーボネート組成物の製造方法

【課題】耐衝撃性、弾性率、熱寸法安定性を向上させることを可能とする、表面被覆酸化物粒子を含む熱可塑性樹脂を提供する。
【解決手段】金属酸化物とポリカーボネートからなる樹脂組成物の原料として、分子末端の40mol%以上がフェニル性末端であるポリカーボネートを用いる、もしくはポリカーボネートに対して1〜100wt%のジフェニルカーボネートと混合する、またはその双方であることを特徴とする樹脂組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂にナノサイズの無機フィラーを包含させたポリマーナノコンポジットは、樹脂に耐熱性、ガスシールド性、弾性率、表面平滑性、収縮等方性等、新たな物性を付与できるため、様々な工業分野からその技術が数多く開示されている。たとえば代表的なものとしては豊田中研の「複合材料及びその製造方法」(特許文献1)や宇部興産他の「ポリアミド複合材料及びその製造方法」(特許文献2)、昭和電工の「ポリオレフイン系複合材料およびその製造方法」(特許文献3)などを挙げることができる。
【0003】
たとえば前述の特許文献2では粘土鉱物フィラーのモンモリロナイトの層間にナイロンの原料カプロラクタムを含浸させて重合させ、ナイロンと充填材(モンモリロナイト)のコンポジットを得る方法である。このコンポジットは十分な機械的物性の向上が見られ、工業的に有効な樹脂材料であるが、開示された方法では樹脂と無機フィラーの選択にかなりの限定があり、様々な樹脂に、無機粒子の特異な物性を付与できないでいた。
【0004】
そこで近年、粘土鉱物フィラーに代って、ナノサイズの無機フィラーとしてシリカ、チタニア、アルミナ等の金属酸化物粒子、金、銀等の金属微細粒子、カーボンナノチューブ、フラーレン、シルセスキオキサンなどの機能性ナノ有機材料が広く利用されるようになった。これらは無機フィラーがミクロンサイズの二次凝集体を形成することなく、均一に分散することで、ナノ領域となるとバルクとは異なった特異な物理、化学的性質を示すため、それらユニークな特性を材料に応用する研究が各方面にて行なわれている。たとえば石原産業株式会社の「針状導電性酸化チタンおよびその製造方法」(特許文献4)では、ナノサイズの針状チタニア上を酸化ズズと酸化アンチモンで被覆し、導電性を高めたナノ粒子を作成し、これを塩化ビニルに含有させてコンポジットを得ることで帯電防止の樹脂材料を提供している。また、本文中には記述は無いものの高アスペクト比を有する針状の粒子を用いることで弾性率、引張強度をはじめとする機械物性も大幅に向上されることが推察できる。
【0005】
また、高アスペクト比のアルミナ粒子を用いた例として、帝人の「被覆繊維状酸化アルミニウムフィラー及びこれを含む熱可塑性樹脂組成物」(特許文献5)が挙げられる。かかる技術ではナノオーダレベルの粒子を用い、これをシランカップリング剤で表面処理し分散性を向上し、フィルム等コンポジット材の表面性や弾性率、軟化温度の向上を図っている。しかしながら、シランカップリング剤処理ではその反応性の点から十分な分散性が期待できず、表面性の改善は期待できても透明性の点では未だ不十分である。
【0006】
以上のように様々な検討がなされているが、これらの無機微粒子を用いた樹脂組成物では、機械物性を十分なレベルで実現することは未だできていない。
【0007】
さらにナノサイズの無機フィラーは樹脂にユニークな特性を付与するが、思いがけないところで物性低下の原因ともなっている。たとえば上記特性を向上させるために無機フィラーの添加量を増大させた場合、樹脂組成物全体の延性が著しく低下し、力学的付加を加えた際の吸収エネルギーが低下し、特に衝撃強度が著しく低下する現象である。フィラー添加による脆化の問題に対し、一般的にマクロサイズの無機フィラーではマトリクス樹脂との界面結合力を調整することで、脱接合または引き抜きを生じさせ、破壊エネルギーを損失させることで衝撃強度を保持する手法が採られる。ナノサイズの無機フィラーではその表面エネルギーに打ち勝ち、均一分散させるためにマトリクス樹脂と強い相互作用を有する表面改質剤の使用が必須であるため、界面結合力の調整による衝撃強度の付与は難しく、未だ具体的な報告例がない。
【0008】
粒子が均一且つある濃度分散することで初めて発現される高弾性、低熱膨張性、表面平滑性、透明性、可撓性の物性と、樹脂組成物として用いるために必要な靭性、延性、耐衝撃性といったトレードオフ関係にある性質を高いレベルで両立することが求められている。
【特許文献1】特許第2519045号公報
【特許文献2】特公平7−47644号公報
【特許文献3】特開平10−30039号公報
【特許文献4】特公平6−17231号公報
【特許文献5】特開2004−149687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ナノサイズの金属酸化物フィラーが均一分散した透明性を有する樹脂組成物において、金属酸化物フィラー添加量の増加に伴う延性低下、耐衝撃性低下を抑制し、実使用時において力学的バランスに優れた樹脂組成物の製造方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記諸問題を解決すべく鋭意検討を実施した。その結果、以下のような事実を見出すに至った。
【0011】
上記目的を達成すべく本発明者らは、製造工程中の成形工程において、重合反応を促進させることで、ポリカーボネートの分子量低下を抑制する。具体的には、フェニル性末端のポリカーボネートもしくはジフェニルカーボネート、またはその両方をあらかじめ成形工程前の粗樹脂組成物に混合する手段を用いることで、ポリカーボネートの分子量低下を抑制し、上記諸問題を解決したものである。
【0012】
よって、本発明の目的は、金属酸化物とポリカーボネートからなる樹脂組成物の原料として、分子末端の40mol%以上がフェニル性末端であるポリカーボネートを用いる、もしくはポリカーボネートに対して1〜100wt%のジフェニルカーボネートと混合する、またはその双方であることを特徴とする樹脂組成物の製造方法により達成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、ナノサイズの金属酸化物フィラーが均一分散した透明性を有する樹脂組成物において、金属酸化物フィラー添加量の増加に伴う延性低下、耐衝撃性低下を抑制し、実使用時において力学的バランスに優れた樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、金属酸化物とポリカーボネートからなる樹脂組成物の原料として、分子末端の40mol%以上がフェニル性末端であるポリカーボネートを用いる、もしくはポリカーボネートに対して1〜100wt%のジフェニルカーボネートと混合する、またはその双方であることを特徴とするものである。
【0015】
以下、本発明その他の特徴及び利点について、発明を実施するための最良の形態に基づいて、発明の構成要件ごとに、詳細に説明する。
【0016】
(金属酸化物)
本発明には目的の力学特性を得るために、マトリックスであるポリカーボネートに対するフィラーとして、金属酸化物粒子を用いる。一般的に金属酸化物粒子には活性な水酸基が多く、これらが原因となって高温を要する樹脂組成物製造工程における分子量の著しい低下が起こる。金属酸化物粒子としては酸化鉄、酸化チタン(チタニア)、酸化銅、酸化亜鉛、酸化錫、酸化カルシウム(カルシア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化イットリア、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化ケイ素(シリカ)などである。この金属酸化物粒子の中でも機械的特性及び光学的特性を高い次元で両立させるにはシリカ、カルシア、アルミナ(ベーマイト)、酸化鉄(ヘマタイト)、チタニアが好ましく、中でも結晶性の良く、ナノサイズでありながら、アスペクト比の高い粒子を作ることができるアルミナが特に好ましい。なお、アルミナには、異なった結晶組成(α、γ、χ、η、δ、θ、κ、・・等)のアルミナのほか、ベーマイト等の水和物型(Al・nHO)のものも含むものとする。また、酸化鉄には、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(II,III)(Fe)、酸化鉄(III)(Fe)があるが、更にヘマタイト等の酸化鉄(III)(Fe)の鉱物形態やゲータイト、アカガネアイト、レピドクロサイト、フェリハイドライト等の鉄酸化・水酸化物(FeO(OH)等)の鉱物形態のものも含むものとする。同様に、他の金属酸化物粒子においても、異なった結晶組成のもの、水和物型のもの、鉱物形態のものなどを含むものとする。
【0017】
また、上記の金属酸化物粒子は任意の割合で組み合わせて用いても良いし、また特にこれらに限定されるものではない。
【0018】
上記の金属酸化物粒子の製造方法は粒子同士の癒着、結合の起こらないものであればいずれの製造方法でもよいが水熱合成、ゾルゲル法、逆ミセル法などの湿式合成法により得ることが好ましい。一方、気相合成、化学蒸着法、焼成処理により得られた粒子は粒子同士が癒着し、そのまま有機溶媒、樹脂に分散してしまうため所望の物性を得ることが難しくなる。
【0019】
また、上記の金属酸化物粒子として好適なアルミナ粒子は、下記の一般式により表される。
【0020】
【化1】

【0021】
式中のnが0のときは酸化アルミニウムを示し、異なった結晶組成のα、γアルミナまたはβ、ρ、χ、ε、γ、κ、κ’、θ、η、δ、λ型のアルミナである。式中のnが1のときはベーマイトを表す。また式中のnが1を越えて3未満である場合はベーマイトと非結晶構造のアルミナ水和物の混合物を示す。これは一般に疑ベーマイトと呼ばれている。さらにnが3以上では非結晶構造のアルミナ水和物を示す。本発明のアルミナ粒子はこれらのうちから選ばれる少なくとも1つであるが、結晶性や粒子安定性の面や入手の容易さからベーマイト、αアルミナ、γアルミナのいずれかが特に好ましい。
【0022】
前記アルミナ粒子等の金属酸化物粒子の形状は、特に制限されるものではなく、球状のような等方性を示すものであってもよいが、繊維状、紡錘状、棒状、針状、筒状、柱状、板状などの異方性を示すことが好ましく、特には、短軸長さが1〜10nm、好ましくは2〜6nmであり、長軸長さが20〜700nm、好ましくは100〜500nmであり、アスペクト比が5〜200、好ましくは20〜150であるような高異方性を示すことが好ましい。透明性を有する樹脂組成物中での金属酸化物粒子の光の散乱を考慮に入れ、熱膨張抑制や弾性率向上といった力学的特性を向上させる場合、特に粒子サイズは短軸長さが6nm以下であり、長軸長さが500nm以下であることが好ましい。また、不定形粒子、たとえば粒子の前駆体となる水酸化物などのゲル状物質は、水を多量に含み、加水分解による自己縮合を招くため、適さない。
【0023】
ここで、金属酸化物粒子の短軸長さ、長軸長さ及びアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)は、いずれも後述の方法で測定した100個の粒子の平均値を意味する。図1Aに示すように、金属酸化物粒子11の長軸長さは、Lとして求められる。金属酸化物粒子11の短軸長さは、短軸方向の断面の長径Lおよび短径Lの平均値L=(L+L)/2として求められる。ここで、L≧Lであり、短軸方向の断面形状が円形の場合には、L=Lである。また、L≧Lであり、球状粒子の場合には、L=L(=L=L=粒子径)である。アスペクト比は、金属酸化物粒子の長軸長さと短軸長さとの比(L/L)として求められる。なお、金属酸化物粒子が中空形状や海島形状の場合でも、図1Aの中実粒子と同様に、図1Bに示すようにして、金属酸化物粒子の短軸長さ、長軸長さ及びアスペクト比を求めることができる。また、後述する金属酸化物粒子が中空形状や海島形状の場合の中空円筒もしくは中空角柱のサイズに関しても、中空円筒もしくは中空角柱の短軸の径Lは、短軸方向の中空断面の長径Lおよび短径Lの平均値(L+L)/2として求められる。中空円筒もしくは中空角柱の長さは、Lとして求められる。中空円筒もしくは中空角柱の両端は、図1Bに示すように開口していてもよいし、いずれか一端または両端が閉じていてもよい。
【0024】
前記アルミナ粒子等の金属酸化物粒子は、図1Bに示すように、粒子短軸の径(短軸長さL)の大きさに応じて0.5nm〜9.5nmの径L(=(L+L)/2)、長さLは粒子長軸径(長軸長さL)以下の5〜700nmの中空円筒を粒子内に有した中空粒子11であることが好ましい。これによって、前記アルミナ粒子等の金属酸化物粒子の比重を低減することができる。
【0025】
なお、アルミナ粒子等の金属酸化物粒子のモル数は一般式より求める。たとえば、アルミナ粒子を例にとれば、αアルミナ粒子は一般式Alより分子量は101.96とする。ベーマイト粒子の場合は例外的にAlO(OH)を分子量に適用して75.98を分子量とする。他の金属酸化物粒子のモル数に関しても同様に一般式より求めるものとし、ベーマイト粒子(AlO(OH))やゲータイト粒子(FeO(OH))のような金属の酸化・水酸化物の場合は、例外的に当該酸化・水酸化物の一般式を分子量に適用して求めるものとする。
【0026】
上述したアルミナ粒子等の金属酸化物粒子は、上記結晶系、形状、サイズのものが得られれば特に限定されず、水熱合成法やゾルゲル法など一般的な方法を用いることができる。
【0027】
前記金属酸化物粒子の樹脂組成物に対する配合量は、要求特性(例えば、剛性、耐熱性及び耐熱膨張性など)が得られるような量であれば特に制限されないが、得られる樹脂組成物に対し、総配合量が5〜30vol%、さらに10〜25vol%であることが好ましい。前記金属酸化物粒子の配合量が5vol%未満では、配合の効果が少なく、得られる樹脂組成物の剛性、耐熱性及び耐熱膨張性などの物性の向上がほとんど認められない場合がある。また、前記金属酸化物粒子の配合量が30vol%を超えると、比重の増加が無視できなくなるばかりでなく、コスト面でも不利となり、樹脂組成物のコスト及び比重が増大してしまうという問題が生じる場合がある。また、前記金属酸化物粒子の含有量の増大に伴い、得られる樹脂組成物の粘度が増大し、成形性が悪くなる場合がある。
【0028】
(原料ポリカーボネート)
原料ポリカーボネートは、樹脂組成物を作成するための原料としてジフェニルカーボネートと併用しない場合は、後述する高温処理中において、エステル交換反応を特徴とした重合反応が進行し得る構造のポリカーボネートを使用すること以外は特に限定されない。具体的には使用する原料ポリカーボネートの分子末端が下記構造式1で示されるフェニル性末端(−O−CO−O−Ph)の割合として、全末端数に対して40mol%以上が好ましく、さらには60mol%以上、なかでも70〜100mol%であることが特に好ましい。このようなポリカーボネートを末端フェニル性ポリカーボネートとする。このような特殊な構造を持つポリカーボネートを使用する理由として、高温処理中における重合反応は副生成物であるフェノールの脱離速度とフェニル性末端基の濃度によって律速され、同時に進行するカーボネート結合の加水分解反応ではフェノール性水酸基のみが生成されることが挙げられる。つまり、高温処理後に目的である力学強度を発現するのに必要な分子量を保持するために、全末端数に対して上記に規定した割合のフェニル性末端量が必要である。尚、該フェニル性末端量は、1H−NMR測定を行い、カーボネート結合を有する2価フェノールユニット、フェノール性水酸基を有する2価フェノールユニット、末端停止剤のユニット、およびフェニル性末端のユニットのモル比を算出し、それに基づきポリマー重量当りのフェニル性末端量に換算することで求められる。
【0029】
【化2】

【0030】
上記式中のRは、原料ポリカーボネート分子の一方のフェニル性末端(−O−CO−O−Ph;ここでPhはフェニル基を表す。)を除く原料ポリカーボネートの分子構造部位を表すものとする。
【0031】
原料ポリカーボネートは、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応の方法としては溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0032】
上記の二価フェノールの代表的な例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンなどを挙げることができる。その他1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの二価の脂肪族アルコールを共重合することも可能である。
【0033】
上記のカーボネート前駆体としては、カーボネートエステル等が使用され、具体的にはジフェニルカーボネートが挙げられる。
【0034】
上記二価フェノールと上記カーボネート前駆体を溶融エステル交換法によって反応させて原料ポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤等を使用してもよい。また原料ポリカーボネートは三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネートであってもよい。三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンなどが使用できる。
【0035】
分岐ポリカーボネートを生ずる多官能性化合物を含む場合、かかる多官能性化合物の割合は、ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.5モル%、特に好ましくは0.01〜0.3モル%である。多官能性化合物の割合がポリカーボネート全量中、0.001モル%以上であれば熱安定性が向上することから好ましく、また1モル%以下であれば、延性を顕著に低下させないことから好ましい。また特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合があるが、かかる分岐構造量についても、ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.5モル%、特に好ましくは0.01〜0.3モル%であるものが好ましい。分岐構造の分岐ポリカーボネート量がポリカーボネート全量中、0.001モル%以上であれば熱安定性が向上することから好ましく、また1モル%以下であれば、延性を顕著に低下させないことから好ましい。尚、かかる割合についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0036】
更に芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。脂肪族の二官能性カルボン酸としては、例えば炭素数8〜20、好ましくは10〜12の脂肪族の二官能性カルボン酸が挙げられる。かかる脂肪族の二官能性のカルボン酸は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。芳香族の二官能性カルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ビス−(4−カルボキシ)−ジフェニル、ビス−(4−カルボキシフェニル)−エーテル、ビス−(4−カルボキシフェニル)−スルホン、ビス−(4−カルボキシフェニル)−カルボニル、ビス−(4−カルボキシフェニル)−メタン、ビス−(4−カルボキシフェニル)−ジクロロメタン、1,2−および1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)−エタン、1,2−および2,2−ビス−(4−カルボキシフェニル)−プロパン、1,2−および2,2−ビス−(3−カルボキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(4−カルボキシフェニル)−1,1−ジメチルプロパン、1,1−および2,2−ビス−(4−カルボキシフェニル)−ブタン、1,1−および2,2−ビス−(4−カルボキシフェニル)−ペンタン、3,3−ビス−(4−カルボキシフェニル)−ヘプタン、2,2−ビス−(4−カルボキシフェニル)−ヘプタン;および脂肪族酸、例えば、蓚酸、アジピン酸、コハク酸、マロン酸、セバチン酸、グルタール酸、アゼライン酸、スペリン酸等が挙げられる。かかる芳香族の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸及びテレフタル酸あるいはこれらの誘導体の混合物が好ましく挙げられる。
【0037】
更にポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0038】
原料ポリカーボネートは、上述した各種二価フェノールの異なるポリカーボネート、分岐成分を含有する分岐ポリカーボネート、各種のポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体、末端フェニル性ポリカーボネートなど各種のポリカーボネートの2種以上を混合したものであってもよい。更に下記に示す製造法の異なるポリカーボネートなど各種についても2種以上を混合したものが使用できる。
【0039】
溶融エステル交換法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃、好ましくは150〜310℃の範囲である。反応温度が120℃以上であれば、エステル交換反応の活性化エネルギーを得ることが可能となるため、反応が促進されることから好ましく、また350℃以下であればビスフェノールAの熱分解生成物で着色物質であるイソプロペニルフェノール誘導体の生成が抑制されることから好ましい。反応後期には系を1.33×10以下で1.33×10〜13.3Pa程度、好ましくは133〜13.3Pa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応後期の系内圧力が1.33×10Pa以下であれば、副生成物であるフェノールが除去され、反応平衡が重合側に傾くため、高分子量化が促進されることから好ましい。また反応後期の系内圧力の下限値は特に制限されないが、13.3Pa以上であれば高真空状態を作り出すポンプが不要となるため、コスト低減が図れることになることから好ましい。ここで、反応後期とは、粘度平均分子量が5000g/mol以上となった状態をいうものとし、粘度、GPC測定などによりかかる減圧開始時期=反応後期になった状態を検知ないし感知することができる。反応時間は通常1〜4時間程度、好ましくは1〜2時間である。反応時間が1時間以上であれば、十分に重合反応が進行するため高分子量化が促進されることから好ましく、また4時間以下であれば、ビスフェノールAの熱分解生成物で着色物質であるイソプロペニルフェノール誘導体の生成が抑制されることから好ましい。
【0040】
カーボネートエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0041】
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができる。かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物などの触媒を用いることができる。更にアルカリ(土類)金属のアルコキシド類、アルカリ(土類)金属の有機酸塩類、ホウ素化合物類、ゲルマニウム化合物類、アンチモン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。重合触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10−8〜1×10−3当量、より好ましくは1×10−7〜5×10−4当量の範囲で選ばれる。重合触媒の使用量が原料の二価フェノール1モルに対し、1×10−8当量以上であれば、触媒による活性化エネルギーの低減効果のため反応が促進されることから好ましく、また1×10−3当量以下であれば余剰分の触媒量を低減することで、ポリカーボネートとの接触分解を抑制できることから好ましい。
【0042】
溶融エステル交換法による反応ではフェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期あるいは終了後に、例えば、2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることができる。ここで、重縮反応の後期とは、粘度平均分子量が5000g/mol以上となった状態をいうものとし、粘度、GPC測定などによりかかる重縮反応の後期の状態を検知ないし感知することができる。また重縮反応の終了時は粘度平均分子量が13000g/mol以上となった状態をいうものとし、粘度、GPC測定などによりかかる重縮反応の終了時の状態を検知ないし感知することができる。重縮反応の終了後とは、上記重縮反応の終了時以降であれば特に制限されるものではないが、重縮反応の終了時から1時間以内に上記化合物を加えるのが望ましい。
【0043】
さらに溶融エステル交換法では触媒の活性を中和する失活剤を用いないことが好ましい。失活剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩などのホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェートなどのアンモニウム塩などが挙げられる。失活剤を用いない理由としては、成形工程中における重合反応を促進させるためである。
【0044】
原料ポリカーボネートの数平均分子量Mnは特に限定されないが、本発明においては13,000以上、好ましくは13,000〜150,000の範囲が好適であり、より好ましくは15,000〜60,000の範囲である。原料ポリカーボネートの数平均分子量が13,000未満であると強度などが低下し、更に得られる樹脂組成物の熱安定性が低下する場合がある。一方、原料ポリカーボネートの数平均分子量の上限値は特に制限されないが、150,000を超えるとフェニル性末端の濃度が不足し、成形工程中における重合反応が不十分になる。数平均分子量は、後述する実施例の測定方法を用いて算出した。
(ジフェニルカーボネート)
本発明における樹脂組成物の原料としては、上述の原料ポリカーボネートに加えてジフェニルカーボネートを併用、もしくは通常末端のポリカーボネートに対して添加してもよい。ジフェニルカーボネートの添加量については特に制限されるものではないが、原料ポリカーボネートに対して1〜100wt%、好ましくは1〜50wt%、より好ましくは1〜20wt%である。ジフェニルカーボネートの添加量が1wt%未満では効果が微少であり、100wt%を超えると未反応物の可塑効果により、樹脂組成物の物性を低下させる恐れがあるためである。
【0045】
(改質剤)
上記金属酸化物粒子をポリカーボネート中に均一分散させるためには、金属酸化物粒子表面にポリカーボネートとの親和性を向上させるための改質剤が結合した金属酸化物粒子複合体の形態をとることが好ましい。粒子表面に化学的に結合する有機スルホン酸、有機リン化合物、シランカップリング剤はその分散効果が高く、特に好ましい。金属酸化物粒子に対する解膠能力は、有機スルホン酸が高く、特にp−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸が最も高い。有機リン化合物は特に限定されないが、金属酸化物粒子表面への反応性、化合物としての安定性、入手の容易さなどの理由から、モノフェニルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、モノブトキシエチルアシッドホスフェート、モノベンジルアシッドホスフェートが特に望ましい。シランカップリング剤は特に限定されないが、入手の容易さなどの理由から、メトキシトリメチルシラン、アセトキシトリメチルシラン、t−ブチルジメチルメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルジメチルメトキシシランが特に望ましい。
【0046】
これらの有機スルホン酸、有機リン化合物、シランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ここでいう「2種以上」とは、例えばブトキシエチルアシッドホスフェートとp−トルエンスルホン酸のように化学種の異なるものを組み合わせてもよいし、また例えば、下記化学式(3)
【0047】
【化3】

【0048】
(式中、nは1または2である。)で表されるブチルアシッドホスフェートにおいて、式中のnが1のものと2のものを混合して用いてもよいことを意味している。
【0049】
なお、本発明の目的を達成することが出来る限りにおいて、前記有機スルホン酸、有機リン化合物、シランカップリング剤は、前記金属酸化物粒子に対して、共有結合、配位縮合、水素結合、静電気的な結合などのいずれの態様で結合していても良いし、前記有機スルホン酸、有機リン化合物の総てがこのような態様で結合している必要はなく、少なくとも一部が結合していれば良い。
【0050】
本発明の金属酸化物粒子における有機スルホン酸、有機リン化合物、シランカップリング剤の含有量は特に制限されない。しかしながら、樹脂組成物に対して0.5wt%以上が好ましく、さらに好ましくは1.0wt%以上、特に好ましくは1.0〜10wt%の範囲である。有機スルホン酸、有機リン化合物、シランカップリング剤の含有量が0.5wt%未満の場合には、後述する樹脂組成物において分散効果が十分に得られない恐れがある。尚、上記に規定する有機スルホン酸、有機リン化合物、シランカップリング剤の含有量は、これらを単独で用いる場合には、当該化合物の含有量を表わし、2種以上を併用して用いる場合には、それらすべての化合物の合計含有量を言うものとする。尚、有機スルホン酸、有機リン化合物の含有量は、TG−DTA、IR、NMR、GC−MSなどの装置を組み合わせて定性、定量することができる。シランカップリング剤の含有量は、後述するXPSで定性、定量することができる。
【0051】
(有機溶剤)
本発明に用いる有機溶剤はその使用工程において、目的の構成成分に対して必要十分な溶解性を持つものであれば特に限定されない。例えば通常ポリカーボネート、原料ポリカーボネート、金属酸化物粒子複合体、ジフェニルカーボネートを溶解・分散するのに適する溶媒として、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチレンクロライド、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。特に後述の樹脂組成物の製造方法中の第一段階においては、原料の金属酸化物粒子は水ゾルの状態から改質剤を用い、沸点差を利用して有機溶剤ゾルへ溶媒交換されるが、その際に用いる有機溶剤は高沸点溶媒が望ましい。具体的には沸点100℃以上のシクロヘキサノン、1,4−ジオキサンなどの高沸点溶媒が挙げられる。
【0052】
(樹脂組成物の製造方法)
目的とする樹脂組成物は次の3段階の製法によって好適に作成される。第一段階として、前記金属酸化物粒子を所定の有機溶剤中に前記改質剤を用いて分散させた金属酸化物粒子複合体分散ゾルを作成する。第二段階として、金属酸化物粒子複合体分散ゾルもしくはその乾燥粉末を溶媒に溶解し、均一化後に溶媒を除去することで粗樹脂組成物を作成する。第三段階として、粗樹脂組成物などに対して、混練もしくは射出成形を含む成形工程によって目的の樹脂組成物を得る。
【0053】
上記第一段階の目的として、このようなゾルを経ることで、金属酸化物粒子表面の改質率を向上させることができる。また、ゾルに用いる溶媒に原料ポリカーボネートやジフェニルカーボネートに対して溶解性のあるものを選択することで、樹脂組成物の構成原料を均一に混合することができ、金属酸化物粒子複合体の分散性や成形時の重合反応性の向上効果が得られる。尚、ジフェニルカーボネートと金属酸化物粒子複合体の混合ゾルの乾燥品を得た場合は、第二段階を経ずして、第三段階にて原料ポリカーボネートもしくは通常のポリカーボネートと溶融混練することで、所定の重合反応を発現させて目的の樹脂組成物を得ることも可能である。
【0054】
第二段階の目的として、有機溶剤中に構成成分を分散させることにより、前期第一段階と同様な金属酸化物粒子分散性や成形時の重合反応性の向上効果が挙げられる。第二段階において原料ポリカーボネートやジフェニルカーボネートを添加することは可能である。
【0055】
第三段階の目的は、上述の粗樹脂組成物の状態から、溶融混練もしくは射出成形を行うことで、目的の樹脂組成物を成形することである。この際に、混練機は、二軸押出成形機、真空微量混練押出機、ラボプラストミル等を用いることができ、前記金属酸化物粒子複合体の種類などにより適宜選択する。この際の温度としては、生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、重合反応を進めるために、通常120〜350℃、好ましくは200℃〜300℃、より好ましくは250〜300℃の範囲で行う。さらに、この際の圧力としては、系を1.33×10Pa以下の減圧、好ましくは1.33×10〜13.3Pa程度、より好ましくは133〜13.3Pa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせることが極めて効果的である。反応時間は系が均一になるのに必要な混練時間に合わせる。通常0.1〜0.6時間程度、好ましくは0.2〜0.5時間である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例により本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本発明において採用した分析方法および分析機器は下記の通りである。
【0057】
(1)粒子形状、粒子径(短軸長さ、長軸長さ)の分析方法および分析機器について
透過型電子顕微鏡(TEM)にて、粒子形状を観察した。
【0058】
<観察方法1(粒子形状)>
透過型電子顕微鏡にて撮影した写真を市販のスキャナーで電子データとして取り込み、市販のパソコン上で長さを測るソフトを用いて粒子径を測定した。短軸径、長軸径、厚さ、一辺の長さ共にそれぞれ無作為に100個体選び、測定した。尚、粒子の長軸に垂直方向の断面形状に関する寸法は10万倍拡大のTEM画像中にて画像面に対して長軸が垂直の位置関係にある粒子(前処理のミクロトームにより、粒子が切断されて断面構造がわかるもの)を無作為に10個体選び、測定した。
【0059】
ソフト名:Scion Image for Whindows(登録商標)Scion corp.
<観察方法2(樹脂組成物中の二次凝集)>
成形後の試験片の一部をウルトラミクロトームを用い超薄切片を作成した。透過型電子顕微鏡にてその試料の電子顕微鏡像を200kV、10万倍にて撮影して、観察した。
【0060】
<観察方法1、2の共通の条件>
・TEM用銅メッシュ:マイクログリット150−Bメッシュ、カーボン補強済み 応研商事株式会社製
・透過型電子顕徹鏡:JEOLJEM−1200EXII 日本電子株式会社製
<観察方法1(粒子形状)>
透過型電子顕微鏡にて撮影した写真を市販のスキャナーで電子データとして取り込み、市販のパソコン上で長さを測るソフトを用いて粒子径(短軸長さ、長軸長さ)を測定した。短軸長さ、長軸長さ共にそれぞれ無作為に100個体選び、測定した。
【0061】
ソフト名:Scion Image for Whindows(登録商標)Scion corp.
<観察方法2(樹脂組成物中の二次凝集)>
透過型電子顕微鏡にて撮影した写真を市販のスキャナーで電子データとして取り込み、市販のパソコン上で長さを測るソフトを用いて二次凝集径を測定した。1.5μm四方の範囲内にて短軸方向に100nm以上の凝集径を持つものの有無を測定した。
【0062】
ソフト名:Scion Image for Whindows(登録商標)Scion corp.
(2)粒子表面改質量の定性、定量に用いた分析方法および分析機器について
TG−DTA、NMRを用いて行なった。
【0063】
<分析条件>
示差熱・熱重量同時測定(TG−DTA):セイコーインスツルメンツ(株)製TG−DTA20にて、室温〜900℃、昇温速度10℃/分の条件で樹脂中の灰分を測定した。
【0064】
NMR(核磁気共鳴)測定:日本電子(株)製JNMLA−400にて、H、13Cスペクトルを測定し、定性した。測定溶媒として重クロロホルムを用いた。
【0065】
(3)機械的物性、光学的物性測定に用いた分析方法および分析機器について
得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、加熱プレス成形して厚さ4mmの試験片フィルムを得る。得られたシートについて曇価、破断伸度、曲げ弾性率、熱線膨張係数、IZOD衝撃強度を測定した。力学試験に関しては、以下の分析機器にて計測した。
【0066】
・曇価は、へーズメーター(村上色彩研究所製 HM−65)で計測した。
【0067】
・曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠し、オートグラフ(島津製作所(株)製 DSC−10T)で計測した。
【0068】
・破断伸度は、引張試験機(インストロン(株)製デジタル材料試験機5881型)を用いて、JIS K7161準拠し、試験速度1mm/min(±20%)にて測定した。
【0069】
・熱線膨張係数は、熱機械測定装置(セイコー電子工業(株)製 TMA120C)で計測した。
【0070】
・IZOD衝撃強度は、JIS K7110に準拠し、IZOD衝撃試験装置(安田精機社製 95−LFR)で切欠き入り、23℃にて測定した。
【0071】
(4)分子量測定に用いた分析方法および分析機器について
得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、加熱プレス成形したものを測定試料として、クロロホルムに溶解し、0.25wt%の溶液を作成した。本溶液を0.5μmフィルターでろ過した溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下GPC)に供試し、分子量を測定した。測定条件はトーソー(株)製TOSOシステム8000、カラムPL GEL mixd−D×2本、流速1ml/min、UV(254nm)検出、移動相クロロホルム、注入量200μlにて行った。平均分子量の算出は、標準ポリスチレンの検量線から行った。
【0072】
以下、本発明の実施例および比較例に用いた各原材料の合成方法について、説明する。
【0073】
(5)末端フェニル性ポリカーボネートの合成について
(i)末端フェニル性ポリカーボネートの合成
機械攪拌機を備えたガラス製フラスコにビスフェノールA53.6g(0.235mol)、ジフェニルカーボネート101g(0.470mol)、炭酸ナトリウム0.006gを混合し、200℃、0.01MPaにて120分保持し、大部分のフェノールを除去した。次に300℃、1.3×10−4MPaで60分保持することで高分子量の末端フェニル性ポリカーボネートと未反応ジフェニルカーボネートの混合物を得た。得られた混合物をヘプタン溶液中に6時間浸漬させた後、ヘプタンを除去する操作を3回行い、未反応ジフェニルカーボネートを除去し、末端フェニル性ポリカーボネート60gを得た。
【0074】
上記合成により得られた本樹脂(末端フェニル性ポリカーボネート)の数平均分子量は上記方法による分子量測定の結果、17000g/molであった。また、フェニル性末端比率は、試料を重クロロホルムで溶解し、日本電子(株)製JNMLA−400にて、H、13Cスペクトルを測定し、カーボネート結合を有する2価フェノールユニット、フェノール性水酸基を有する2価フェノールユニット、末端停止剤のユニット、およびフェニル性末端のユニットのモル比を算出し、それに基づき本樹脂(ポリマー)の重量当りのフェニル性末端量に換算することで求めた結果、70mol%であることが判った。
【0075】
(6)金属酸化物粒子の合成について
(i)針状ベーマイト粒子の合成
機械攪拌機を備えたテフロン製ビーカーに塩化アルミニウム六水和物(2.0M,40ml,25℃)を入れ、恒温槽で10℃に保ちつつ、攪拌(700rpm)しながら水酸化ナトリウム(5.10M,40ml,25℃)を約6分かけて滴下した。滴下終了後さらに10分間攪拌を続け、攪拌終了後、溶液のpHを測定した(pH=7.08)。溶液をテフロンライナーを備えたオートクレーブに代え密栓し、オーブンで120℃、24時間経時させた(第1の熱処理)。第1の熱処理の終了後、前記オートクレーブをオイルバスヘ移し、180℃、30分間加熱した(第2の熱処理)。第2の熱処理終了後、前記オートクレーブを流水へ入れ、急速冷却(約10℃)をした(第3の熱処理)。第3の熱処理終了後、前記オートクレーブを再びオーブンヘ入れ150℃で、1日加熱を続けた(第4の熱処理)。その後、前記オートクレーブを流水で冷やし、遠心分離(30000rpm,30min)で上澄み除去後、遠心水洗3回、水メタノール混合溶液(体積比 水:メタノール、0.5:9.5)遠心洗浄を1回行った。その後、凍結乾燥機を用いて乾燥させることにより無色結晶(A)を得た。
【0076】
この無色結晶(A)はX線回折の結果、針状ベーマイトであることが判明した。また、TEMを用いて粒子のサイズを調べたところ、長軸長さ125±13nm、短軸長さ(径)5.2±0.6nm、アスペクト比が約24の針状であることが判明した。
【0077】
(7)金属酸化物粒子複合体分散溶液の合成について
(i)針状ベーマイト粒子複合体分散溶液(B);実施例1,2,3,比較例2の原料シクロヘキサノンゾル
上記(6)の合成にて得た無色結晶(A)である針状ベーマイト粒子をシクロヘキサノン(和光純薬工業株式会社製)に添加し、針状ベーマイト粒子5wt%の分散溶液としたものをよく攪拌した後、超音波分散機に40分間かけた。そこヘパラトルエンスルホン酸一水和物(和光純薬工業株式会社製)を粒子重量に対して15wt%の割合で添加し、よく攪拌した後、超音波分散機に90分間かけた。その後、得られた溶液をさらに高圧乳化装置で50MPaの圧力で処理することにより、シクロヘキサノンに分散した針状ベーマイト粒子複合体分散溶液(B)を得ることができた。また、前記分散溶液を濃縮、乾燥し、TG−DTAを用いて粒子上に吸着している改質剤量を確認すると、粒子重量に対して14wt%であった。
【0078】
(ii)ガラス繊維分散液(C);比較例3の原料溶液
サンゴバン・セラミック・マテリアルズ株式会社製 ガラス繊維サーフェストランドREV4(直径13μm、長さ70μm)をシクロヘキサノンに添加し、粒子5wt%の分散溶液としたものをよく攪拌した後、超音波分散機に40分間かけ、ガラス繊維分散液(C)を得た。この分散液は懸濁状態であった。
【0079】
(8)粗樹脂組成物の合成について
(i)針状ベーマイト粒子複合体分散溶液(D);実施例1,3の原料ジフェニルカーボネートゾル
針状ベーマイト粒子複合体分散溶液(B)200gとジフェニルカーボネート200gを混合し、窒素気流下0.01MPaのエバポレーター内にて3時間保持し、シクロヘキサノンを留去することで針状ベーマイト粒子複合体分散溶液(D)を得た。
【0080】
(ii)針状ベーマイト粒子複合体の粗樹脂組成物(E);実施例1の粗樹脂組成物
針状ベーマイト粒子複合体分散溶液(D)にポリカーボネート(株式会社三菱エンジニアリングプラスチックス製ノバレックス7030A)23.3gを加え、250℃窒素気流下大気圧にて40分保持した後、1.3×10−3MPa、2.5時間減圧し、シクロヘキサノンとジフェニルカーボネートの一部を留去し、粗樹脂組成物(E)を得た。
【0081】
(ii)針状ベーマイト粒子複合体の粗樹脂組成物(G);実施例3の粗樹脂組成物
針状ベーマイト粒子複合体分散溶液(D)200gに末端フェニル性ポリカーボネート23.3gを加え、250℃窒素気流下大気圧にて40分保持した後、1.3×10−3MPa、2.5時間減圧し、シクロヘキサノンとジフェニルカーボネートの一部を留去し、粗樹脂組成物(G)を得た。
【0082】
(iii)針状ベーマイト粒子複合体の粗樹脂組成物(H);実施例2の粗樹脂組成物
針状ベーマイト粒子複合体分散溶液(B)200gに末端フェニル性ポリカーボネート23.3gを加え、130℃、1.3×10−3MPa、2.5時間減圧しシクロヘキサノンを留去し、粗樹脂組成物(H)を得た。
【0083】
(iv)針状ベーマイト粒子複合体の粗樹脂組成物(I);比較例1の粗樹脂組成物
シクロヘキサノン200gにポリカーボネート(株式会社三菱エンジニアリングプラスチックス製ノバレックス7030A)23.3gを加え、攪拌し溶解後、130℃、1.3×10−3MPa、2.5時間減圧しシクロヘキサノンを留去し、粗樹脂組成物(I)を得た。
【0084】
(v)針状ベーマイト粒子複合体の粗樹脂組成物(J);比較例2の粗樹脂組成物
針状ベーマイト粒子複合体分散溶液(B)200gにポリカーボネート(株式会社三菱エンジニアリングプラスチックス製ノバレックス7030A)23.3gを加え、130℃、1.3×10−3MPa、2.5時間減圧しシクロヘキサノンを留去し、粗樹脂組成物(J)を得た。
【0085】
(vi)針状ベーマイト粒子複合体の粗樹脂組成物(K) 比較例3の粗樹脂組成物
ガラス繊維分散液(C)200gにポリカーボネート(株式会社三菱エンジニアリングプラスチックス製ノバレックス7030A)23.3gを加え、130℃、1.3×10−3MPa、2.5時間減圧しシクロヘキサノンを留去し、粗樹脂組成物(K)を得た。
【0086】
(9)樹脂組成物の成形について
実施例1試料の成形
得られた粗樹脂組成物(E)を乾燥して粒状にし、これを真空微量混練押出機(井元製作所製、IMC−1170B型)を用いて溶融混練した。混練条件は真空チャンバー内0.01MPa以下の減圧度、炉内及びローター温度300℃、ローター回転速度15rpmで30分間行った。混練後、得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、プレスにて4mm厚のシート状に成形し、実施例1の試料を得た。この試料を上記の機械的物性、光学的物性測定、分子量測定に用いた。
【0087】
実施例2試料の成形
得られた粗樹脂組成物(H)を乾燥して粒状にし、これを真空微量混練押出機(井元製作所製、IMC−1170B型)を用いて溶融混練した。混練条件は真空チャンバー内0.001MPa以下の減圧度、炉内及びローター温度280℃、ローター回転速度15rpmで30分間行った。混練後、得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、プレスにて4mm厚のシート状に成形し、実施例2の試料を得た。この試料を上記の機械的物性、光学的物性測定、分子量測定に用いた。
【0088】
実施例3試料の成形
得られた粗樹脂組成物(G)を乾燥して粒状にし、これを真空微量混練押出機(井元製作所製、IMC−1170B型)を用いて溶融混練した。混練条件は真空チャンバー内0.001MPa以下の減圧度、炉内及びローター温度300℃、ローター回転速度15rpmで30分間行った。混練後、得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、プレスにて4mm厚のシート状に成形し、実施例3の試料を得た。この試料を上記の機械的物性、光学的物性測定、分子量測定に用いた。
【0089】
比較例1試料の成形
得られた粗樹脂組成物(I)を乾燥して粒状にし、これを真空微量混練押出機(井元製作所製、IMC−1170B型)を用いて溶融混練した。混練条件は真空チャンバー内0.01MPa以下の減圧度、炉内及びローター温度280℃、ローター回転速度15rpmで30分間行った。混練後、得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、プレスにて4mm厚のシート状に成形し、比較例1の試料を得た。この試料を上記の機械的物性、光学的物性測定、分子量測定に用いた。
【0090】
比較例2試料の成形
得られた粗樹脂組成物(J)を乾燥して粒状にし、これを真空微量混練押出機(井元製作所製、IMC−1170B型)を用いて溶融混練した。混練条件は真空チャンバー内0.01MPa以下の減圧度、炉内及びローター温度280℃、ローター回転速度15rpmで30分間行った。混練後、得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、プレスにて4mm厚のシート状に成形し、比較例2の試料を得た。この試料を上記の機械的物性、光学的物性測定、分子量測定に用いた。
【0091】
比較例3試料の成形
得られた粗樹脂組成物(K)を乾燥して粒状にし、これを真空微量混練押出機(井元製作所製、IMC−1170B型)を用いて溶融混練した。混練条件は真空チャンバー内0.01MPa以下の減圧度、炉内及びローター温度280℃、ローター回転速度15rpmで30分間行った。混練後、得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、プレスにて4mm厚のシート状に成形し、比較例3の試料を得た。この試料を上記の機械的物性、光学的物性測定、分子量測定に用いた。
【0092】
(評価結果)
各実施例、比較例の評価結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
*1) 粒子濃度:αアルミナ換算
*2) 二次凝集:TEM観察における短軸方向への100nm以上の凝集
*3) DPC:ジフェニルカーボネートの略
本発明の樹脂組成物は必要に応じて、例えば、相溶化剤、酸化防止剤及び熱安定剤(例えばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、チオエーテル、及びこれらの置換体及びその組み合わせを含む)、紫外線吸収剤(例えばレゾルシノール、サリシレート、べンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等)、滑剤、離型剤(例えばシリコン樹脂、モンタン酸及びその塩、ステアリン酸及びその塩、ステアリルアルコール、ステアリルアミド等)、染料(例えばニトロシン等)、顔科(例えば硫化カドミウム、フタロシアニン等)を含む着色剤、添加剤添着液(例えばシリコンオイル等)、結晶核剤(例えばタルク、カオリン等)、及び触媒(例えば金属、有機金属錯体)などを単独又は適宜組み合わせて添加することができ、さらに他の樹脂と任意の比率でブレンドしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の金属酸化物粒子の短軸長さ及び短軸長さの取り方を模式的に表した概略図である。このうち、図1Aは、異方性を示す中実粒子の短軸長さ及び短軸長さの取り方を模式的に表した概略図である。図1Bは、異方性を示す中空粒子の短軸長さ及び短軸長さ、中空円筒の長さ及び中空円筒の短軸の径の取り方を模式的に表した概略図である。
【符号の説明】
【0096】
11 金属酸化物粒子、
金属酸化物粒子の長軸長さ、
金属酸化物粒子の短軸長さ、
金属酸化物粒子の中空円筒の長さ、
金属酸化物粒子の中空円筒の短軸の径、
金属酸化物粒子の短軸方向の断面の長径、
金属酸化物粒子の短軸方向の断面の短径、
金属酸化物粒子の中空円筒の短軸方向の中空断面の長径、
金属酸化物粒子の中空円筒の短軸方向の中空断面の短径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物とポリカーボネートからなる樹脂組成物の原料として、分子末端の40mol%以上がフェニル性末端であるポリカーボネートを用いる、もしくはポリカーボネートに対して1〜100wt%のジフェニルカーボネートと混合する、またはその双方であることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子とポリカーボネートの複合物に対して200℃〜300℃における混練および/または射出成形を含む高温処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記高温処理中において、1.33×10Pa以下の減圧処理を並行させることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記高温処理中に重合を進行させることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一つに記載の樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−163230(P2008−163230A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355464(P2006−355464)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】