説明

金属酸化物ナノ粒子の製造方法

金属酸化物ナノ粒子を調製する方法を記載する。方法は、連続して、貫流する、管形反応器内で金属−カルボン酸塩錯体を熱分解することを含む。得られる金属酸化物ナノ粒子は鉄を含有し、磁性である、凝集していない、結晶性である、又はこれらの組み合わせであることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
金属酸化物ナノ粒子を調製する方法を記載する。
【背景技術】
【0002】
鉄を含有する金属酸化物のナノ粒子の調製について、種々のアプローチが提案されている。これらの方法の一部は、鉄含有錯体の形成及びそれに続く鉄含有錯体の熱分解を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、100グラム以上のような大量のナノ粒子が所望されるとき、これらの方法は、問題のあることが判明している。より具体的には、比較的均一な粒径分布を有する、約100ナノメートル以下の平均粒径を有する粒子のような、大量の鉄含有金属酸化物ナノ粒子を調製することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
鉄含有金属酸化物ナノ粒子の調製方法を記載する。方法は、連続して、貫流する、管形反応器内での鉄−カルボン酸塩錯体の熱分解を含む。得られる金属酸化物ナノ粒子は、磁性である、凝集していない、結晶性である又はこれらの組み合わせであることができる。
【0005】
(a)鉄−カルボン酸塩錯体を含む前駆体と、(b)第1カルボン酸、前記第1カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含む界面活性剤と、(c)第1有機溶媒とを含有する供給組成物を調製することを含む、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を調製する第1の方法を提供する。方法は、供給組成物を、連続する、管形反応器に通過させて、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含む反応器排水を形成することを更に含む。管形反応器は、鉄−カルボン酸塩錯体の分解温度を超える反応器温度で保持される。
【0006】
(a)鉄−カルボン酸塩錯体を含む前駆体と、(b)第1カルボン酸、前記第1カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含む界面活性剤と、(c)第1有機溶媒とを含有する供給組成物を調製することを含む、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を調製する第2の方法を提供する。方法は、供給組成物を、連続する、管形反応器に通過させて、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含有する反応器排水を形成することを更に含む。管形反応器は、鉄−カルボン酸塩錯体の分解温度を超える反応器温度で保持される。この方法では、供給組成物中の鉄−カルボン酸塩錯体は、(i)鉄含有塩と(ii)水性溶媒とを含有する鉄含有塩溶液を調製することを含むプロセスにより形成される。鉄−カルボン酸塩錯体を形成するプロセスは、錯化剤を鉄含有塩溶液と混合することを更に含む。錯化剤は、第2カルボン酸、前記第2カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含有する。鉄−カルボン酸塩錯体は、非極性有機溶媒に抽出される。
【0007】
(a)鉄−カルボン酸塩錯体を含む前駆体と、(b)第1カルボン酸、第1カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含む界面活性剤と、(c)第1有機溶媒と、(d)鉄含有金属酸化物シード粒子とを含有する供給組成物を調製することを含む、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を調製する第3の方法を提供する。方法は、供給組成物を、連続する、管形反応器に通過させて、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含有する反応器排水を形成することを更に含む。管形反応器は、鉄−カルボン酸塩錯体の分解温度を超える反応器温度で保持される。得られる鉄含有金属酸化物ナノ粒子は、鉄含有金属酸化物シード粒子の平均粒径を超える平均粒径を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
添付図面と併せて以下の本発明の様々な実施形態の「発明を実施するための形態」を検討することにより、本発明をより完全に理解することができる。
【図1】代表的な管形反応器システムの略図。
【図2】連続する、管形反応器で調製しなかった磁鉄鉱の透過電子顕微鏡写真である。倍率は50,000倍。
【図3】連続する、管形反応器で調製した第1の代表的な磁鉄鉱の透過電子顕微鏡写真である。倍率は300,000倍。
【図4】連続する、管形反応器で調製した第2の代表的な磁鉄鉱の透過電子顕微鏡写真である。倍率は100,000倍。
【図5】連続する、管形反応器で調製した第3の代表的な磁鉄鉱の透過電子顕微鏡写真である。倍率は100,000倍。
【図6】連続する、管形反応器で調製した第4の代表的な磁鉄鉱の透過電子顕微鏡写真である。倍率は100,000倍。
【発明を実施するための形態】
【0009】
鉄含有金属酸化物のナノ粒子を調製する方法を提供する。本明細書で使用するとき、「ナノ粒子」という用語は、1〜100ナノメートルの範囲の平均径を有する粒子を指す。「鉄含有金属酸化物ナノ粒子」及び「金属酸化物ナノ粒子」という用語は、本明細書では互換的に用いられ、典型的には、式Fe、MFe、MFeO、MFeOの化合物、又はこれらの混合物(式中、Mは、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、マンガン、チタン、バナジウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、又はこれらの混合物から選択され、Mは希土類であり、xは4以下の数字である)を指す。本明細書で使用するとき、「希土類」という用語は、ランタニド、イットリウム、スカンジウム、又はこれらの混合物から選択される元素を指す。いくつかの実施形態では、鉄含有金属酸化物は磁鉄鉱(Fe)である。
【0010】
方法は、連続して、貫流する、管形反応器内で、鉄−カルボン酸塩錯体を含有する前駆体を、鉄含有金属酸化物ナノ粒子に変換することを含む。本明細書で使用するとき、「管形反応器」、「連続する、管形反応器」及び「連続して、貫流する、管形反応器」という用語は、互換的に用いられる。任意の所望の量の鉄含有金属酸化物ナノ粒子を調製することができる。例えば、100グラム、200グラム、500グラム、又は1000グラムを上回る量を調製することができる。
【0011】
鉄含有金属酸化物ナノ粒子を調製する方法は、(a)鉄−カルボン酸塩錯体を含む前駆体と、(b)第1カルボン酸、前記第1カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含む界面活性剤と、(c)第1有機溶媒とを含有する供給組成物を調製することを含む。方法は、供給組成物を、連続する、管形反応器に通過させて、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含有する反応器排水を形成することを更に含む。管形反応器は、鉄−カルボン酸塩錯体の分解温度を超える反応器温度で保持される。
【0012】
本明細書で使用するとき、鉄−カルボン酸塩錯体のような金属−カルボン酸塩錯体に関連して「分解温度」という用語は、金属−カルボン酸塩錯体を金属酸化物に変換するのに必要な最低温度を意味し、金属酸化物はX線回折を用いて検出することができる。分解温度は、少なくとも200℃、少なくとも225℃、少なくとも250℃、又は少なくとも275℃であることが多い。
【0013】
本明細書で記載される種々の温度は、大気条件下の温度を指す。
【0014】
供給組成物中の前駆体は、鉄−カルボン酸塩錯体を含有する。鉄−カルボン酸塩錯体中のカルボン酸塩種は、典型的には、6〜30個の炭素原子を含有する。カルボン酸塩種は、少なくとも8個の炭素原子、少なくとも10個の炭素原子、少なくとも12個の炭素原子、少なくとも14個の炭素原子、少なくとも16個の炭素原子、又は少なくとも18個の炭素原子を含有することが多い。カルボン酸塩種は、脂肪族又は芳香族基であることができる。多くの例では、カルボン酸塩は、アルキル又はアルケニル基及びカルボキシ基(−COO)を含有する脂肪族基である。カルボン酸塩種の例としては、オレエート、ステアレート、オクタノエート、イソ−オクタノエート、ミリステート、カプロエート、ヘプタノエート、ラウレート、バレレート、バーサレート(versalate)、ネオデカノエート、ベンゾエート、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
いくつかの鉄−カルボン酸塩錯体は市販されている。例えば、以下の鉄−カルボン酸塩錯体、鉄(III)−オクタノエート(ミネラルスピリット中)、鉄(III)−ステアレート、及び鉄(II)−ステアレートは、ファルツ&バウアー(Pfaltz & Bauer)(ウォーターベリー(Waterbury)、コネチカット州)から入手可能である。鉄−オクタノエートはまた、シェパード・ケミカルズ(Shepherd Chemicals)(ノーウッド(Norwood)、オハイオ州)からも市販されている。
【0016】
市販されていないもののような鉄−カルボン酸塩錯体は、(i)鉄含有塩と(ii)水性溶媒とを含有する塩溶液を調製することを含むプロセスにより調製することができる。鉄−カルボン酸塩錯体を形成するプロセスは、カルボン酸塩含有錯化剤を、鉄含有塩溶液と混合することを更に含む。得られる鉄−カルボン酸塩錯体は、非極性有機溶媒に抽出される。
【0017】
より具体的には、鉄含有塩は、通常、水性溶媒に溶解して、鉄含有塩溶液を形成する。錯化剤は、通常、鉄含有塩溶液に添加される。錯化剤は、第2カルボン酸、第2カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含む。水性溶媒に混和性のない非極性有機溶媒が添加され、得られる混合物は、水性溶媒及び非極性有機溶媒の沸点を下回る温度で数時間保持されることが多い。加熱は、鉄−カルボン酸塩錯体の形成、及び鉄−カルボン酸塩錯体の非極性有機溶媒への抽出を促進する傾向がある。鉄−カルボン酸塩錯体及び非極性有機溶媒を含有する有機溶媒は、次いで、水相から分離される。
【0018】
鉄含有塩及び錯化剤は水性溶媒へ任意の順序で添加することができるが、錯化剤の添加前に鉄含有塩溶液を形成することが好ましいことが多い。つまり、鉄含有塩は、得られる溶液が錯化剤と混合される前に、水性溶媒に溶解することが多い。錯化剤は、この溶液に粒状物質として添加することができる、又は、水性溶媒若しくは非極性有機溶媒のような溶媒に溶解することができる。
【0019】
水性溶媒に溶解することができる鉄含有塩のいずれかは、鉄−カルボン酸塩錯体を調製するために用いることができ、また鉄(II)、鉄(III)、又はこれらの混合物を含むことができる。いくつかの代表的な鉄含有塩は、ハロゲン化物(例えば、臭化物又は塩化物)、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、又は酢酸塩から選択されるアニオンを有する。より具体的な鉄塩としては、塩化鉄(III)、塩化鉄(II)、硫酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、酢酸鉄(II)、及び硝酸鉄(III)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの鉄含有金属塩の混合物を用いることができる。鉄含有塩は、水和している、部分的に水和している、又は無水であることができる。
【0020】
鉄−カルボン酸塩錯体を調製するために用いられる水性溶媒は完全に水であることができる、又は、水に混和性である極性有機溶媒を含有することができる。極性有機溶媒は、水性溶媒への錯化剤の溶解度を上昇させるために添加されることが多い。好適な極性有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。いくつかの実施形態では、極性有機溶媒は、6個以下の炭素原子、5個以下の炭素原子、4個以下の炭素原子、3個以下の炭素原子、又は2個以下の炭素原子を有するアルコールである。水と極性有機溶媒との任意の体積比を用いることができる。いくつかの実施形態では、水と極性有機溶媒との体積比は、1:10〜1:0.1の範囲である。例えば、水と極性有機溶媒との体積比は、1:5〜1:0.5、又は1:2〜1:0.2の範囲であることができる。
【0021】
任意の濃度の、水性溶媒に可溶性である鉄含有塩を用いることができる。水性溶媒中の鉄の濃度は、0.05〜1モル/リットルの範囲であることが多い。例えば、鉄の濃度は、0.1〜1モル/リットルの範囲、0.1〜0.8モル/リットルの範囲、又は0.1〜0.5モル/リットルの範囲であることができる。
【0022】
第2カルボン酸、第2カルボン酸の塩、又はこれらの混合物は、錯化剤として鉄含有塩溶液に添加される。カルボン酸の塩のための好適なカチオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンが挙げられる。錯化剤は、6〜30個の炭素原子を含有することが多い。例えば、錯化剤は、少なくとも8個の炭素原子、少なくとも10個の炭素原子、少なくとも12個の炭素原子、少なくとも14個の炭素原子、少なくとも16個の炭素原子、又は少なくとも18個の炭素原子を含有することができる。錯化剤は、脂肪族又は芳香族化合物のいずれかであることができるが、錯化剤は、アルキル又はアルケニルのような非極性基に結合したカルボキシ基を有することが多い。代表的な錯化剤としては、ステアリン酸若しくはその塩、オレイン酸若しくはその塩、又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、錯化剤は、オレイン酸、オレイン酸の塩、又はこれらの混合物である。
【0023】
錯化剤と鉄とのモル比は、典型的には、鉄イオンの価数と等しくなるように選択される。例えば、鉄含有塩が鉄(III)を含む場合、錯化剤と鉄とのモル比は3である(すなわち、錯化剤3モルに対して鉄(III)1モル)。
【0024】
鉄−カルボン酸塩錯体は、非極性有機溶媒に抽出される。非極性溶媒は、典型的には、水性溶媒に混和性ではない。非極性有機溶媒は、通常、この溶媒への鉄−カルボン酸塩錯体の溶解度が、水性溶媒への溶解度よりも大きくなるように選択される。好適な非極性有機溶媒は、脂肪族又は芳香族炭化水素であることが多い。代表的な非極性有機溶媒としては、アルカン類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ヘキサデカン及びドデカンのような4〜24個の炭素原子を有するアルカン類)、アルケン類(例えば、エイコセン及びオクタデセンのような4〜24個の炭素原子を有するアルケン類)、及び芳香族類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びメシチレンのような6〜10個の炭素原子を有する芳香族類)が挙げられるが、これらに限定されない。多くの実施形態では、これらの非極性溶媒は、鉄−カルボン酸塩錯体の抽出後、有機相から容易に除去できるため、ヘキサン又はヘプタンのようなアルカン類が用いられる。
【0025】
非極性有機溶媒の体積は、典型的には、鉄−カルボン酸塩錯体の全てに至らなくとも、大部分を抽出するよう選択される。水性溶媒と第1非極性有機溶媒との体積比は、典型的には、1:10(すなわち、10ミリリットルの非極性有機溶媒ごとに1ミリリットルの水性溶媒)〜10:1(すなわち、1ミリリットルの非極性溶媒ごとに10ミリリットルの水性溶媒)の範囲、2:10〜10:2の範囲、5:10〜10:5の範囲、8:10〜10:8の範囲、又は9:10〜10:9の範囲である。いくつかの例では、水性溶媒と非極性有機溶媒との体積比は、5:10〜10:5の範囲であり、水性溶媒は少なくとも30体積パーセントの極性有機溶媒、少なくとも40体積パーセントの極性有機溶媒、少なくとも50体積パーセントの極性有機溶媒、又は少なくとも60体積パーセントの極性有機溶媒を含有する。
【0026】
金属−カルボン酸塩錯体は、いくつかの実施形態では室温で形成することができるが、反応混合物は、水性溶媒及び非極性有機溶媒の沸点を下回る温度で加熱されることが多い。例えば、反応混合物は、90℃以下、80℃以下、70℃以下、60℃以下、又は50℃以下の温度で、少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、又は少なくとも6時間に等しい期間、加熱することができる。反応混合物は、30℃〜80℃の範囲、30℃〜60℃の範囲、又は40℃〜60℃の範囲の温度で、1時間〜8時間の範囲、2〜8時間の範囲、又は2〜6時間の範囲の期間、加熱することができる。
【0027】
水相は、次いで、金属−カルボン酸塩錯体の大部分、及び非極性有機溶媒を含有する有機相から分離される。有機相は、所望により水相で洗浄し、例えば有機相中のあらゆる不純物を除去することができる。有機相は、所望により、濃縮して、非極性溶媒の少なくとも一部を除去することができる。多くの実施形態では、非極性有機溶媒の大部分が除去され、濃縮された有機相は、主に鉄−カルボン酸塩錯体を含有する。実質的に全ての非極性有機溶媒が除去された場合、残りの鉄−カルボン酸塩錯体濃縮物は粉末、油、又はろうであることができる。錯体の物理的状態は、用いられる具体的な錯化剤に非常に依存する。例えば、鉄−オレエート錯体は通常油であるが、鉄−ステアレート錯体は通常粉末である。
【0028】
反応時間、反応温度、及び非極性溶媒を調節して、少なくとも80収量パーセントの金属−カルボン酸塩錯体を提供することができる。多くの実施形態では、収量パーセントは、少なくとも85パーセント、少なくとも90パーセント、少なくとも92パーセント、又は少なくとも95パーセントである。
【0029】
鉄−カルボン酸塩錯体を製造するプロセスに含まれる非極性有機溶媒は、連続する、管形反応器で用いるのに好適であってもよく、好適でなくてもよい。除去されない任意の非極性有機溶媒は、管形反応器用の供給組成物に含まれる溶媒(すなわち、第1有機溶媒)の全て又は一部として機能することができる。
【0030】
非極性有機溶媒の沸点が約100℃未満である場合、非極性有機溶媒の一部又は実質的に全ては、典型的には、管形反応器用の供給組成物を調製する前に除去される。このような溶媒の存在は、管形反応器内で許容できないほど高い圧力を生じさせることができる。非極性有機溶媒の沸点が100℃以上であったとしても、管形反応器用の供給組成物を調製する前にこの溶媒の全て又は一部を除去することが望ましいことがある。例えば、いくつかの実施形態では、この溶媒の沸点が鉄−カルボン酸塩錯体の分解温度を下回る場合、非極性有機溶媒を除去することが望ましいことがある。
【0031】
管形反応器用の供給組成物を調製する前に非極性有機溶媒の一部又は実質的に全てを除去する実施形態では、非極性有機溶媒は、しばしば、約200℃未満、150℃未満、120℃未満、100℃未満、又は80℃未満の沸点を有するよう選択される。任意の好適なプロセスを用いて、非極性有機溶媒の一部又は実質的に全てを除去することができる。例えば、非極性有機溶媒は、蒸発又は蒸留により除去することができる。これらのプロセスは、より低温度を用いて非極性有機溶媒を除去できるように、真空条件下で実施されることが多い。
【0032】
鉄−カルボン酸塩錯体を作製する方法のいくつかの具体的な実施形態では、非極性有機溶媒はアルカン、アルケン、又はこれらの混合物である。アルカン又はアルケンは、10個以下の炭素原子、8個以下の炭素原子、又は6個以下の炭素原子を有することができる。例えば、非極性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、又はこれらの混合物が挙げられる。これらの実施形態では、非極性有機溶媒の実質的に全てが、管形反応器用の供給組成物を調製する前に除去される。非極性有機溶媒の除去に関して本明細書で使用するとき、「実質的に全て」という用語は、少なくとも90重量パーセント、少なくとも95重量パーセント、少なくとも97重量パーセント、少なくとも98重量パーセント、又は少なくとも99重量パーセントの非極性有機溶媒が有機相から除去されることを意味する。
【0033】
鉄−カルボン酸塩錯体に加えて、連続する、管形反応器用の前駆体は、所望により、金属種が鉄以外の遷移金属、希土類元素、アルカリ土類元素、又はこれらの混合物から選択される、追加の金属−カルボン酸塩錯体を含有することができる。例えば、追加の金属−カルボン酸塩は、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、マンガン、チタン、バナジウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、又は希土類元素から選択される金属種を含むことができる。
【0034】
これらの追加の金属−カルボン酸塩錯体の一部は市販されている。例えば、以下の金属−カルボン酸塩錯体はファルツ&バウアー(Pfaltz & Bauer)(ウォーターベリー(Waterbury、コネチカット州)から入手可能である:コバルト−ラウレート、コバルト−ベンゾエート、コバルト−ステアレート、ニッケル−ステアレート、ニッケル−ベンゾエート、銅−ステアレート、亜鉛−ヘプタノエート、亜鉛−ミリステート、亜鉛−カプロエート、亜鉛−ラウレート、亜鉛−ベンゾエート、亜鉛−バレレート、亜鉛−ステアレート、クロム−オレエート、クロム−ステアレート、マンガン−オレエート、マンガン−オクタノエート(ミネラルスピリット中)、マンガン−ステアレート、マンガン−ベンゾエート、バリウム−オレエート、バリウム−ステアレート、バリウム−ラウレート、マグネシウム−ステアレート及びマグネシウム−ベンゾエート。他の金属−カルボン酸塩錯体は、シェパード・ケミカルズ(Shepherd Chemicals)(ノーウッド(Norwood)、オハイオ州)から入手可能である:クロム−イソオクタノエート、クロム−オクタノエート、コバルト−ネオデカノエート、コバルト−オクタノエート、コバルト−ステアレート、マンガン−ステアレート、マンガン−バーサレート、ニッケル−オクタノエート、ストロンチウム−オクタノエート、亜鉛−カプリレート、亜鉛−オレエート、及び亜鉛−ネオデカノエート。
【0035】
追加の金属−カルボン酸塩錯体はまた、鉄−カルボン酸塩錯体を調製するための上記方法と同様の方法を用いて調製することができる。より具体的には、他の金属塩(すなわち、鉄以外の遷移金属、アルカリ土類元素、又は希土類元素を含有する塩)を、鉄含有金属塩の代わりに用いることができる。水性溶媒に可溶性である任意の金属塩を用いることができる。これらの任意の金属塩のアニオンは、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、又は酢酸塩から選択されることが多い。より具体的な任意の金属塩としては、塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、硝酸コバルト(III)、酢酸コバルト(III)、硫酸コバルト(III)、硝酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、ニッケル(酢酸)、塩化銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化クロム(III)、塩化マンガン(II)、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、酢酸セリウム(III)、塩化セリウム(III)、硝酸セリウム(III)及び硫酸セリウム(III)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの任意の金属塩は、水和している、部分的に水和している、又は無水であることができる。
【0036】
管形反応器用の供給組成物の説明に戻ると、管形反応器用の供給組成物中の前駆体(すなわち、鉄−カルボン酸塩錯体と任意の追加の金属−カルボン酸塩錯体を加えたもの)の濃度は、主に凝集していない金属酸化物ナノ粒子の形成をもたらす任意の量であることができる。「凝集した」及び「凝集体」という用語は、互いに堅く結合し、高剪断でのみ分離することができるナノ粒子の集団又は固まりを指す。同様に、「凝集していない」という用語は、凝集体を実質的に含まないナノ粒子を指す。粒子の凝集は、透過電子顕微鏡のような技術を用いて検出できることが多い。
【0037】
前駆体の濃度は、典型的には、錯体中の金属種の観点で(例えば、鉄−カルボン酸塩錯体中の鉄種に追加の金属−カルボン酸塩錯体中の任意の金属種を加えたものの観点で)表される。供給組成物中の金属種の濃度は、10〜500ミリモルの範囲であることが多い。より少量の金属種を用いる場合、反応器排水は、望ましくないほど低い濃度の金属酸化物ナノ粒子を含有する場合がある。しかしながら、より多量の金属種を用いる場合、反応器排水は、望ましくない量の凝集した金属酸化物ナノ粒子を含有する場合がある。いくつかの実施形態では、金属種の濃度は、少なくとも10ミリモル、少なくとも20ミリモル、又は少なくとも50ミリモルである。金属種の濃度は、500ミリモル以下、400ミリモル以下、300ミリモル以下、200ミリモル以下、150ミリモル以下、又は100ミリモル以下であることが多い。
【0038】
前駆体は鉄−カルボン酸塩錯体のみを含むことが多い。他の追加の金属−カルボン酸塩錯体が存在する実施形態では、少なくとも10モルパーセントの前駆体が、通常鉄−カルボン酸塩錯体である。例えば、少なくとも20モルパーセント、少なくとも30モルパーセント、少なくとも40モルパーセント、少なくとも50モルパーセント、少なくとも60モルパーセント、少なくとも70モルパーセント、少なくとも80モルパーセント、又は少なくとも90モルパーセントの前駆体が、鉄−カルボン酸塩錯体である。
【0039】
管形反応器用の供給組成物中に含まれる界面活性剤は、第1カルボン酸、前記第1カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含有する。界面活性剤は、管形反応器中で形成される金属酸化物ナノ粒子の凝集を防ぐ、又は最低限に抑える働きをする。界面活性剤として用いられるカルボン酸又はその塩は、8〜30個の炭素原子を含有することが多い。界面活性剤は、少なくとも10個の炭素原子、少なくとも12個の炭素原子、少なくとも14個の炭素原子、少なくとも16個の炭素原子、又は少なくとも18個の炭素原子を有することが多い。多くの実施形態では、カルボン酸塩は、アルキル又はアルケニル基に結合したカルボキシ基を有する脂肪族基である。錯化剤の例としては、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、これらのカルボン酸の任意の塩、又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、錯化剤は、オレイン酸、オレイン酸の塩、又はこれらの混合物である。カルボン酸の塩に好適なカチオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンが挙げられる。カルボン酸の塩のカチオンは、遷移金属、希土類元素、又はアルカリ土類元素のイオンのような金属種ではない。
【0040】
界面活性剤は、前駆体中に含まれるカルボン酸塩種と同じであってもよく、異なってもよい。つまり、界面活性剤は、鉄−カルボン酸塩錯体又は任意の追加の金属−カルボン酸塩錯体を調製するために用いられる錯化剤と同じであっても、異なってもよい。多くの実施形態では、同じカルボン酸、カルボン酸の塩、又はこれらの混合物が界面活性剤として、及び錯化剤として用いられる。いくつかの例では、界面活性剤及び錯化剤は、オレイン酸若しくはその塩、ステアリン酸若しくはその塩、又はこれらの混合物である。
【0041】
前駆体の濃度の変化に加えて、金属酸化物ナノ粒子の凝集の程度は、連続する、管形反応器用の供給組成物中の界面活性剤の濃度を変化させることにより制御できる。界面活性剤の量が多くなると、典型的には、金属酸化物ナノ粒子の凝集が少なくなりやすい。しかしながら、過剰な量の界面活性剤は、前駆体の金属酸化物ナノ粒子への分解に悪影響を与える場合がある。更に、過剰な量の界面活性剤は、許容可能な純度水準を有する金属酸化物ナノ粒子を提供するために、反応器排水から除去される必要がある場合がある。
【0042】
前駆体(すなわち、鉄−カルボン酸塩錯体に任意の追加の金属−カルボン酸塩錯体を加えたもの)と界面活性剤とのモル比は、典型的には、1:10〜10:1の範囲、1:5〜5:1の範囲、1:3〜3:1の範囲、又は1:2〜2:1の範囲である。いくつかの代表的な供給組成物の例では、前駆体と界面活性剤とのモル比は、約1:1である。
【0043】
前駆体及び界面活性剤は両方、第1有機溶媒に溶解する。第1有機溶媒は、望ましくは室温で液体であり、管形反応器を通して注入するのに好適な粘度を有する。第1有機溶媒は、1つには、その金属−カルボン酸塩錯体を溶解する能力に基づいて選択される。第1有機溶媒は、好ましくは、前駆体を鉄含有金属酸化物ナノ粒子に変換するのに用いられる温度ではそれ自体は分解反応を受けない。第1有機溶媒が分解する場合、管形反応器内の圧力は、望ましくないほど高い場合がある。
【0044】
いくつかの実施形態では、第1有機溶媒は、前駆体の分解温度を超える沸点を有するよう選択される。前駆体が鉄−カルボン酸塩錯体のみを含有する場合、第1有機溶媒は、通常、鉄−カルボン酸塩錯体の分解温度を超える沸点を有するよう選択される。前駆体が追加の金属−カルボン酸塩錯体を含有する場合、第1有機溶媒は、通常、鉄−カルボン酸塩錯体及び追加の金属−カルボン酸塩錯体の両方の分解温度を超える沸点を有するよう選択される。
【0045】
第1有機溶媒は、少なくとも14個の炭素原子、又は少なくとも16個の炭素原子を有する脂肪族化合物であることが多い。第1有機溶媒の混合物を用いることができる。好適な第1有機溶媒は、14〜30個の炭素原子、16〜30個の炭素原子、又は16〜24個の炭素原子を有することが多い。いくつかの代表的な第1有機溶媒は、少なくとも16個の炭素原子を有する直鎖アルカン類のようなアルカン類である。好適な具体的なアルカン類としては、287℃の沸点を有するヘキサデカン、又は317℃の沸点を有するオクタデカンが挙げられるが、これらに限定されない。他の代表的な第1有機溶媒は、274℃の沸点を有する1−ヘキサデセン、317℃の沸点を有する1−オクタデセン、又は330℃の沸点を有する1−エイコセンのような、少なくとも16個の炭素原子を有する直鎖アルケン類である。更に他の代表的な第1有機溶媒は、264℃の沸点を有するトリヘキシルアミン及び365℃の沸点を有するトリオクチルアミンのような、少なくとも6個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を有するトリアルキルアミン類である。更に他の代表的な第1有機溶媒は、287℃の沸点を有するオクチルエーテルのような、少なくとも8個の炭素原子を有する直鎖アルキル基を有するアルキルエーテルである。
【0046】
いくつかの実施形態では、供給組成物は更にシード粒子を含む。つまり、供給組成物は、前駆体、界面活性剤、シード粒子、及び第1有機溶媒を含有することができる。例えば、より大きな平均粒径を有するナノ粒子を調製するために、第1管形反応器内で調製された鉄含有金属酸化物ナノ粒子を、第2管形反応器用の供給組成物にシード粒子として添加することができる。
【0047】
連続する、管形反応器用の供給組成物は、1〜25重量パーセントの範囲の固形分パーセントを有することが多い。固形分パーセントは、固形分重量を溶液の総重量で除し、次いで100を乗じることにより算出される。固形分重量は、典型的には、前駆体(すなわち、鉄−カルボン酸塩錯体及び任意の追加の金属−カルボン酸塩錯体)の重量に、界面活性剤の重量を加えたものに等しい。溶液の総重量は、通常、前駆体の重量と、界面活性剤の重量と、第1有機溶媒の重量を加えたものに等しい。固形分が少なすぎる場合、得られる金属酸化物粒子は、境界がはっきりせず、無定形である傾向がある。しかしながら、固形分が多すぎる場合、供給組成物を注入することが難しい場合があり、管形反応器の壁に微粒子が付着することがある。しかしながら、より大きな直径を有する管形反応器を用いることにより、又は、より多い流量でより長い管形反応器を用いることにより、微粒子の付着を最低限に抑えることができる。更に、固形分が多すぎる場合、凝集した金属酸化物ナノ粒子が管形反応器に内で形成される可能性が高まる。つまり、希釈溶液は、凝集していないナノ粒子を形成しやすい傾向がある。いくつかの代表的な供給組成物では、固形分パーセントは、5〜25重量パーセント、5〜20重量パーセント、又は10〜20重量パーセントの範囲であることができる。
【0048】
供給組成物は、必要に応じて、管形反応器に導入する前に濾過することができる。これは、供給組成物中に存在する比較的大きな任意の不溶性物質が存在する場合、有利であり得る。少なくともいくつかの実施形態では、不溶性物質は、得られる金属酸化物ナノ粒子の粒径分布に悪影響を与える場合がある。不溶性物質は、供給組成物の濾過又は遠心分離により除去することができる。いくつかの実施形態では、供給組成物は、5マイクロメートル未満、3マイクロメートル未満、2マイクロメートル未満、又は1マイクロメートル未満の孔径を有するフィルタを通過することができる。孔径は、一般に、供給組成物中に含まれるあらゆるシード粒子が濾過により除去されないよう選択される。好適なフィルタとしては、0.45マイクロメートル又は1.2マイクロメートルの孔径を有する、商品名「マグナ・ナイロン(MAGNA NYLON)」としてミクロン・セパレーションズ社(Micron Separations, Inc.)(ウェストバラ(Westborough)、マサチューセッツ州)から市販されているものが挙げられるが、これらに限定されない。供給組成物は、供給組成物の表面に圧力を適用することにより、フィルタを通過することができる。あるいは、供給組成物は、濾過された供給組成物用の受容器上で真空に引くことにより、フィルタを通過することができる。
【0049】
供給組成物の調製後、供給組成物は、連続する、管形反応器を通過して、金属酸化物ナノ粒子を含有する反応器排水を形成する。管形反応器は、前駆体の分解温度を超える反応器温度で保持される。得られる金属酸化物ナノ粒子は鉄を含有する。多くの実施形態では、鉄含有金属酸化物ナノ粒子は、Fe、MFe、MFeO、MFeO又はこれらの混合物(式中、Mは、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、マンガン、チタン、バナジウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、又はこれらの混合物であり、Mは希土類元素であり、xは4以下の数である)である。いくつかの実施形態では、金属酸化物ナノ粒子は、磁鉄鉱(Fe)を含む。
【0050】
代表的な連続して、貫流する、管形反応器システム100を、図1に模式的に示す。供給組成物110は、供給組成物タンク115内に収容される。供給組成物タンクは、管又はパイプ117でポンプ120に連結している。同様の管又はパイプを用いて、管形反応器システムの他の構成要素を連結することができる。ポンプ120を用いて、供給組成物110を管形反応器130に導入することができる。つまり、ポンプ120を管形反応器130の入口に連結することができる。管形反応器130は、図1では管のコイルとして示され、管形反応器は任意の好適な形状であることができる。管形反応器の形状は、管形反応器の所望の長さ及び管形反応器を加熱するために用いられる方法に基づいて選択されることが多い。例えば、管形反応器は、直線、U字形、又はコイル状であることができる。
【0051】
図1に示すように、管形反応器130は、加熱媒質容器150内の加熱媒質140内に定置される。加熱媒質140は、例えば、鉄−カルボン酸塩錯体の分解温度を超える温度に加熱することができる油、砂、塩等であることができる。好適な油としては、例えば、ピーナッツオイル及びキャノーラ油のような植物油が挙げられる。一部の植物油は、油の酸化を防ぐ又は最低限に抑えるため、好ましくは、加熱されたとき窒素下で保持される。他の好適な油としては、デュラサーム・エクステンディッド・フルーイズ(Duratherm Extended Fluids)(ルイストン(Lewiston)、ニューヨーク州)から、商品名「デュラサームS(DURATHERM S)」として市販されているもののようなポリジメチルシロキサンが挙げられる。好適な塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、又はこれらの混合物が挙げられる。加熱媒質容器150は、加熱媒質を保持し、管形反応器130に用いられる加熱温度に耐えることができる任意の好適な容器であることができる。加熱媒質容器150は、任意の好適な手段を用いて加熱することができる。多くの実施形態では、加熱媒質容器150は、電気的に加熱されたコイルの内部に位置する。
【0052】
管形反応器130は、用いられる温度及び分解反応中に生じる圧力に耐えることができる任意の物質で作製することができる。いくつかの実施形態では、管形反応器は、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、カーボン系鋼等で作製することができる。管形反応器130の第2末端は、通常冷却装置160に連結している。任意の好適な冷却装置を用いることができる。いくつかの実施形態では、冷却装置は、冷却水のような冷却媒質が充填された外側ジャケットを備える管、又はパイプの部分を含む熱交換器である。他の実施形態では、冷却装置は、冷却水を収容する容器内に定置された管、又はパイプのコイル状部分を含む。これらの実施形態のいずれかでは、反応器排水は管の部分を通過し、反応器温度から、100℃以下、80℃以下、60℃以下、又は40℃以下の温度に冷却される。ドライアイス又は冷蔵コイルを収容する他の冷却装置を用いることもできる。冷却後、反応器排水は、製品回収容器180に排出することができる。反応器排水は、好ましくは、製品回収容器180に排出される前に、第1有機溶媒の凝固点を下回る温度には冷却されない。
【0053】
管形反応器内部の圧力は、背圧弁170により制御することができ、これは、一般に、冷却装置160とサンプル回収容器180との間に位置する。背圧弁170は、反応器システム100の出口で圧力を制御し、管形反応器130内の圧力を制御するのを補助する。背圧は、少なくとも689kPa(100psi)であることが多い。
【0054】
任意の他の既知の設計の連続、管形反応器を用いることができる。例えば、他の好適な連続、管形反応器は、アドスキリ(Adschiri)ら、J.Am.Ceram.Soc.75巻4号1019〜1022頁(1992年)による文献、及び米国特許第5,453,262号明細書(ドーソン(Dawson)らに発行)に記載されている。これらの設計では、管は直線であり、管形反応器を取り囲む電気耐性加熱器で加熱される。例えば、誘導加熱器、マイクロ波加熱器、燃料加熱炉及び蒸気コイルのような他の種類の加熱器を用いることができる。
【0055】
管形反応器の寸法は変化することができ、供給組成物の流量と併せて、管形反応器内の反応物質に好適な滞留時間を提供するように選択することができる。任意の好適な長さの管形反応器を用いることができるが、但し、滞留時間は、金属−カルボン酸塩錯体を金属酸化物ナノ粒子に変換するのに十分である。管形反応器は、少なくとも0.5メートル、少なくとも1メートル、少なくとも2メートル、少なくとも3メートル、少なくとも5メートル、少なくとも10メートル、少なくとも20メートル、少なくとも30メートル、少なくとも40メートル、又は少なくとも50メートルの長さを有することが多い。いくつかの実施形態では管形反応器の長さは、500メートル未満、400メートル未満、300メートル未満、200メートル未満、150メートル未満、120メートル未満、100メートル未満、80メートル未満、又は60メートル未満である。
【0056】
比較的小さな内径を有する管形反応器が、典型的には好ましい。例えば、約3センチメートル以下の内径を有する管形反応器が用いられることが多く、それはこれらの反応器で実現できる供給組成物の加熱速度が速いためである。また、より大きな内径を有するものに比べて、より小さな内径を有する反応器の場合、管形反応器全域の温度勾配がより小さい。管形反応器の内径が大きくなるにつれて、この反応は不本意にバッチ反応器により類似する。しかしながら、その管形反応器の内径が小さすぎる場合、反応器の壁への物質の付着から生じる、操作中反応器が詰まる、又は部分的に詰まる可能性が高まる。管形反応器の内径は、少なくとも0.1センチメートル、少なくとも0.15センチメートル、少なくとも0.2センチメートル、少なくとも0.3センチメートル、少なくとも0.4センチメートル、少なくとも0.5センチメートル、又は少なくとも0.6センチメートルであることが多い。いくつかの実施形態では、管形反応器の直径は、3センチメートル以下、2.5センチメートル以下、2センチメートル以下、1.5センチメートル以下、又は1.0センチメートル以下である。一部の管形反応器は、0.1〜0.3センチメートルの範囲、0.2〜2.5センチメートルの範囲、0.3〜2センチメートルの範囲、0.3〜1.5センチメートルの範囲、又は0.3〜1センチメートルの範囲の内径を有する。
【0057】
管形反応器の内径を増加させるのではなく、平行な様式で配置された、より小さな内径を有する複数の管形反応器を用いることが好ましい場合がある。例えば、大量の鉄含有金属酸化物を製造するために、管形反応器の内径を増加させるのではなく、約3センチメートル以下の内径を有する複数の管形反応器を同時に操作することができる。
【0058】
滞留時間が前駆体を金属酸化物ナノ粒子に変換するのに十分長い限り、任意の好適な流量で供給組成物を管形反応器に通過させることができる。処理量を増加させるために、流量がより多いことが望ましい。流量は、前駆体を分解し、金属酸化物ナノ粒子を形成するのに必要な滞留時間に基づいて選択されることが多い。反応器の長さが増加したとき、又は、反応器の長さ及び直径が両方増加したとき、より多い流量を用いることができることが多い。反応器を通る流動は、層流又は乱流のいずれかであることができる。
【0059】
管形反応器は、前駆体の分解温度を超える温度で保持される。第1有機溶媒は、通常、それが前駆体の分解温度を超える沸点を有するように選択される。反応器の温度は、第1有機溶媒の沸点を上回る、又は下回るよう選択することができる。いくつかの実施形態では、管形反応器内の圧力を最低限に抑えるために、第1有機溶媒の沸点を下回る反応器温度を選択することが望ましい場合がある。他の実施形態では、第1有機溶媒の沸点を上回る反応器温度を選択することが望ましい場合がある(すなわち、反応器はソルボサーマル条件下で操作することができる)。
【0060】
典型的には、第1有機溶媒の分解反応より低い反応器温度を選択することが望ましい。第1有機溶媒の分解により、少なくともいくつかの実施形態では、管形反応器内に望ましくない大きな圧力が生じる場合がある。更に、第1有機溶媒の分解は、金属酸化物ナノ粒子と第1有機溶媒の分解産物との間の反応を生じさせることができる。例えば、第1有機溶媒の分解産物に応じて、金属酸化物ナノ粒子は還元反応を受ける場合がある。
【0061】
管形反応器の温度は、少なくとも250℃であることが多い。より低い温度が用いられる場合、前駆体は分解を受けてよい、又は、部分的な分解のみを受けてよい。代表的な反応器温度は、少なくとも260℃、少なくとも270℃、少なくとも275℃、少なくとも280℃、少なくとも290℃、又は少なくとも300℃であることが多い。管形反応器の温度は、典型的には、400℃以下である。より高い温度が用いられる場合、第1有機溶媒は分解を受けてよい。更に、形成された粒子が大きすぎる(例えば、100ナノメートル超又は1000ナノメートル超)場合があり、それらは凝集する可能性がより高い。更に、より高い温度では安全上の懸念がより問題になる。代表的な反応器の温度は、375℃以下、350℃以下、340℃以下、330℃以下、325℃以下、320℃以下、310℃以下、又は300℃以下であることが多い。いくつかの具体的な実施形態では、反応器の温度は、250℃〜350℃の範囲、250℃〜325℃の範囲、275℃〜325℃の範囲、又は300℃である。より大きな金属酸化物ナノ粒子は、典型的には、管形反応器の温度を上昇させることにより製造され得る。
【0062】
管形反応器中の供給組成物の加熱速度は、粒径分布に影響を与えることができる。いくつかの実施形態では、加熱速度は、望ましくは、少なくとも250℃/分、少なくとも300℃/分、少なくとも350℃/分、少なくとも400℃/分、少なくとも500℃/分、少なくとも600℃/分、少なくとも800℃/分、又は少なくとも1000℃/分である。供給組成物は、典型的には、加熱要素又は加熱媒質内に位置する管形反応器の一部に入る前に、30℃以下、40℃以下、60℃以下、80℃以下、100℃以下、110℃以下で保持される。
【0063】
管形反応器中の加熱速度は、無限円柱での伝導による不安定状態の熱伝達の古典的結果を用いて算出することができる。熱伝達は、管形反応器内の強制及び自然対流により向上し得るという事実は、計算では考慮されず、これはウェルティ(Welty)らによる、運動量、熱及び質量移動の原理、290〜293頁及び別表F、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and Sons, Inc.)、1969年の実例及び参考文献の部分に更に記載されている。
【0064】
理論に縛られるものではないが、管形反応器内の加熱速度が急速であれば、ほぼ同時に前駆体の分解及び金属酸化物ナノ粒子の核生成/成長をもたらすことができる。分解反応を用いる金属酸化物の形成に関する当該技術分野の多くは、核生成/成長反応から分解反応を分離することの利点を教示する。当該技術分野において、分解は、典型的には、様々な温度における反応物質の緩やかな加熱又は反応物質の多段階加熱を含む。反応物質の濃度、反応物質の比、及び溶媒の沸点のような変数は、熱分解方法で粒径を制御するために当該技術分野において用いられる。
【0065】
思いがけないことに、本明細書で用いられる連続する、管形反応器では、加熱速度が速い場合、加熱速度が遅い場合に比べて、得られる鉄含有金属酸化物ナノ粒子の粒径分布が狭くなる傾向がある。これは、様々な前駆体濃度及び様々な前駆体と界面活性剤との比で見られる。例えば約200℃/分を下回るように加熱速度が遅い場合、粒径分布は管形反応器内の滞留時間に相関してもよい。つまり、粒径分布は、滞留時間が長くなると広くなる傾向がある。理論に縛られるものではないが、粒径分布の広がりは、オズワルド熟成(Oswald ripening)の結果であってよい。小さな粒子は溶解し、次いでより大きな粒子を再形成する(すなわち、溶解した物質はより大きな粒子に加えられる傾向がある)。しかしながら、加熱速度が速い場合、粒径分布は、通常滞留時間の増加とともに広がらない。つまり、オズワルド熟成の効果は少ない。一旦形成されると、粒子の大きさはそれほど変化しない。
【0066】
約3センチメートル以下の内径を有する管形反応器は、供給組成物の急速加熱に特によく適している。これらの管形反応器内の供給組成物のこの加熱速度は、1000mLを超える体積を有するバッチ反応器のようなバッチ反応器内の供給組成物の加熱速度よりも著しく速い場合がある。更に、本明細書に記載したもののような管形反応器は、1000mLを超える体積を有するもののようなバッチ反応器に比べて、反応器全域により均一な温度プロファイルを提供する傾向がある。バッチ反応器内で調製される量に匹敵する金属酸化物ナノ粒子の量を調製するために、複数の平行な管形反応器を用いることができる。
【0067】
管形反応器内の加熱された部分での滞留時間は、典型的には、少なくとも1分、少なくとも2分、少なくとも3分、少なくとも5分、又は少なくとも10分である。滞留時間が短すぎる場合、鉄−カルボン酸塩錯体の分解反応及び鉄含有金属酸化物ナノ粒子の形成が完了しない場合がある。滞留時間は、典型的には、60分未満、40分未満、30分未満、又は20分未満である。滞留時間は、管形反応器の直径及び管形反応器を通る流量を変更することにより、変化させることができる。
【0068】
管形反応器からの排水は、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含む。反応器排水は、更に加工することができる。いくつかの実施形態では、第1有機溶媒を、金属酸化物ナノ粒子の最終用途に好適な別の有機溶媒に置換することができる。他の実施形態では、第1有機溶媒を除去して、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を濃縮する、又は単離する。第1有機溶媒を置換する又は第1有機溶媒を除去するための任意の既知の方法を用いることができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、第1有機溶媒は、接線流濾過を用いて反応器排水から除去される、又は置換される。この濾過技術では、反応器排水は、濾過膜の表面に接線方向に注入される。ナノ粒子とともに用いるのに好適な任意の濾過膜を用いることができる。例えば、スペクトル・ラボズ(Spectrum Labs)(ランチョ・ドミンゲス(Rancho Dominguez)、カリフォルニア州)から市販されている、ポリスルホン中空繊維フィルタモジュールを用いることができる。適用される圧力は、反応器排水の一部を濾過膜を通して押し込む。溶媒のようなより小さな分子種並びに過剰な界面活性剤及び可溶性分解産物のような可溶性不純物は、濾過膜を通過することができるが、一方、金属酸化物ナノ粒子は濾過膜に接線方向である流動中で再循環する。流体流中の金属酸化物ナノ粒子の濃度は、第1有機溶媒の除去により上昇することができる。流体流中の固形分パーセントは、適切に注入され得る任意の量まで上昇することができる。
【0070】
接線流濾過の使用を含む多くの実施形態では、第1有機溶媒を流体流から除去するとき、第2有機溶媒を流体流に添加することができる。添加される第2有機溶媒の量は、除去される第1有機溶媒の量以下であることができる。第1有機溶媒を、第1有機溶媒に比べて、蒸発、蒸留又は乾燥のようなプロセスにより容易に除去される第2溶媒に置換することができる。つまり、第1有機溶媒に比べて比較的低い沸点又は比較的高い蒸気圧を有する第2有機溶媒を選択することができる。あるいは、第2有機溶媒は、金属酸化物ナノ粒子の具体的な用途に、より適合性のあるように選択することができる。第2有機溶媒は非極性溶媒であることが多く、これは、一部の極性溶媒が、接線流濾過設備の種々の構成要素に適合しない場合があるためである。好適な第2有機溶媒としては、例えば、ヘキサン及びヘプタンのようなアルカン類が挙げられる。
【0071】
いくつかの他の実施形態では、金属酸化物ナノ粒子は、金属酸化物ナノ粒子を凝集させる別の溶媒の添加により反応器排水から単離することができる。この溶媒は、典型的には、効率よく金属酸化物ナノ粒子を分散させないものが選択され、また逆溶媒(antisolvent)とも呼ぶことができる。凝集を引き起こすことのできる溶媒としては、例えば、アセトン、並びに、メタノール、エタノール及びイソプロパノールのような1〜4個の炭素原子を有するアルコール類が挙げられる。凝集した金属酸化物ナノ粒子は沈殿する傾向があり、第2有機溶媒、凝集溶媒、又はこれらの混合物から濾過又は遠心分離することができる。濾過又は遠心分離された金属酸化物ナノ粒子を乾燥して、その後別の溶媒に分散する粉末を形成することができる。この他の溶媒は極性又は非極性であることができ、例えばコーティング組成物のような金属酸化物ナノ粒子の具体的な用途に適合性のあるよう選択されることが多い。コーティング組成物用の代表的な溶媒としては、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、塩化メチレン、トルエン、又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
(a)鉄−カルボン酸塩錯体を含む前駆体と、(b)第1カルボン酸、前記第1カルボン酸の塩、又はこれらの組み合わせを含む第1界面活性剤と、(c)第1有機溶媒と、(d)鉄含有金属酸化物シード粒子とを含有する供給組成物を調製することを含む、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を調製する別の方法を提供する。方法は、供給組成物を、連続する、管形反応器に通過させて、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含有する反応器排水を形成することを更に含む。管形反応器は鉄−カルボン酸塩錯体の分解温度を超える反応器温度で保持される。得られる鉄含有金属酸化物ナノ粒子は、鉄含有金属酸化物シード粒子の平均粒径を超える平均粒径を有する。前駆体、界面活性剤、及び第1有機溶媒は、上記と同じである。
【0073】
この方法では、鉄含有金属酸化物シード粒子は、任意の既知のプロセスにより調製することができる。しかしながら、多くの実施形態では、鉄含有金属酸化物シード粒子は、第1供給組成物を、連続する、管形反応器に通過させることにより製造される。第1供給組成物中の前駆体は、第2供給組成物中の鉄含有金属酸化物シード粒子として用いられる鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含有する第1反応器排水に変換される。つまり、第2供給組成物は、前駆体、界面活性剤、及び第1有機溶媒と併せて、鉄含有金属酸化物シード粒子を含む。第2供給組成物中でシード粒子として用いられる鉄含有金属酸化物ナノ粒子は、反応器排水の他の構成成分から任意の金属酸化物ナノ粒子を単離することのない、第1管形反応器からの反応器排水であることができる。あるいは、シード粒子として用いられる鉄含有金属酸化物ナノ粒子は、第2供給組成物の他の構成成分と組み合わせる前に、第1管形反応器内で生成される副生成物から単離又は分離することができる。
【0074】
上記方法のいずれかを用いて調製される金属酸化物ナノ粒子は、典型的には、1〜100ナノメートルの範囲の平均粒径を有する。ナノ粒子は主に球形であるため、粒径は粒子の直径に一致する。一部の代表的な金属酸化物粒子は、1〜75ナノメートル、1〜50ナノメートル、1〜40ナノメートル、1〜30ナノメートル、1〜20ナノメートル、3〜50ナノメートル、3〜30ナノメートル、3〜20ナノメートル、5〜50ナノメートル、5〜30ナノメートル、5〜20ナノメートル、又は5〜15ナノメートルの範囲の平均径を有する。
【0075】
金属酸化物ナノ粒子は、典型的には結晶性である。金属酸化物ナノ粒子の結晶性性質は、X線回折又は電子線回折のような技術を用いて特徴付けることができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、金属酸化物ナノ粒子は磁性であることができる。約25〜30ナノメートル未満の粒子は超常磁性であることが多い。粒子が約25〜30ナノメートルより大きな場合、それらは常磁性であることが多い。
【0077】
本明細書に記載した方法のいずれかで生成される金属酸化物ナノ粒子は、更に反応して、管形反応器内で形成されるものとは異なる酸化状態を有するナノ粒子を生成することができる。いくつかの実施形態では、金属酸化物ナノ粒子は酸化されることができる。例えば、磁鉄鉱(Fe)のような鉄(II)を含有する金属酸化物ナノ粒子は、γ−酸化鉄又はα−酸化鉄に酸化されることができる。金属酸化物ナノ粒子を酸化する任意の既知の方法を用いることができる。代表的な酸化反応は、空気中で粉末化した金属酸化物ナノ粒子を加熱することにより、又は、スラリーに可溶性である酸化剤でナノ粒子のスラリーを処理することにより実施できる。他の実施形態では、金属酸化物ナノ粒子を還元することができる。例えば、鉄(II)又は鉄(III)を含有する金属酸化物ナノ粒子を、鉄含有金属に還元することができる。金属酸化物ナノ粒子を還元する任意の既知の方法を用いることができる。代表的な還元反応は、水素中で粉末化した金属酸化物ナノ粒子を加熱することにより、又は、スラリーに可溶性である還元剤でナノ粒子のスラリーを処理することにより実施できる。
【0078】
本明細書に記載する方法は、バッチ反応器内の分解反応を用いて金属酸化物を製造する方法に対して、多くの利点を有する。バッチプロセスを用いて大量の金属酸化物ナノ粒子を調製するために、比較的大きな直径の反応器が選択される可能性が最も高い。大きなバッチ反応器を通じた熱伝達は、問題がある場合がある。このような反応器全域の温度勾配は、攪拌されているときでさえ、約3センチメートル以下の内径を有する管形反応器のような貫流管形反応器の直径にわたる温度勾配より著しく大きい傾向がある。反応器の温度の均一性は、前駆体分解条件の均一性及びナノ粒子形成に影響を及ぼす。
【0079】
更に、小さなバッチ反応器に好適な条件は、著しく異なる直径を有するバッチ反応器にスケールアップすることが困難な場合がある。対照的に、小さいバッチ反応器と大きなバッチ反応器との間の温度プロファイルに比べて、小さい管形反応器と大きな管形反応器との間の温度プロファイルはより類似しているため、大きな管形反応器に必要な条件は、小さな管形反応器で用いられる条件から予測することがより容易である。更に、管形反応器の直径を増加させることではなく、複数のより小さな直径の管形反応器を、処理量を増加させるために平行して操作することができる。複数の反応器を平行して使用すると、管形反応器システムを通して加工される体積の増加に応じて、反応条件を変化させる必要がなくなる。
【0080】
更に、供給組成物は、典型的には、バッチ反応器内で必要とされるわずかな時間で、管形反応器内で室温から反応温度に加熱することができる。反応温度にする時間が短いほど、反応器システムを通る処理量全体を増加させることができる。上述のように、管形反応器内の加熱速度が速いと、バッチ反応器に比べて、改善された粒径分布の金属酸化物ナノ粒子の生成を導くことができる場合が多い。
【0081】
本明細書に記載の方法で生成される金属酸化物ナノ粒子は、例えば多くの用途で用いることができる。金属酸化物ナノ粒子の磁気特性が粒径依存性であるため、本明細書に記載の方法により調製される実質的に凝集していない粒子は、超常磁性物質を必要とする用途で特に有利であり得る。例えば、超常磁性金属酸化物ナノ粒子は、種々の生物学的分離用途で用いることができる。超常磁性ナノ粒子は、種々の化学物質を用いて関心の生物学的物質に付着することができる。磁気力を用いて、生物学的物質を濃縮する、又は、他の物質から関心生物学的物質を分離することができる。
【実施例】
【0082】
これらの実施例は単にあくまで例示を目的としたものであり、添付の特許請求の範囲に限定することを意味するものではない。特に記載のない限り、実施例に記載される部、百分率、比率等は全て、重量による。
【0083】
エタノール(95%)、ヘキサン、アセトン、イソプロパノール及びトルエンは、EMD(サンディエゴ(San Diego)、カリフォルニア州)から入手した。他の試薬は全て、特に断りのない限り、シグマ・アルドリッチ・ケミカルカンパニー(Sigma-Aldrich Chemical Company)(ミルウォーキー(Milwaukee)、ウィスコンシン州)から入手した。
【0084】
試験方法
透過電子顕微鏡(TEM)
レーシーカーボン(lacey carbon)(テッド・ペラ社(Ted Pella Inc.)(レディング(Redding)、カリフォルニア州)のメッシュ上の超薄炭素基材とともに400メッシュの銅TEMグリッド上に、未希釈のサンプルの液滴を定置することにより、又は、希釈したサンプル(2部のヘキサンと混合した一部のサンプル)の液滴を定置することにより、TEM画像化用のサンプルを調製した。液滴の一部を、濾紙とともにグリッドの側部又は底部に接触させることにより除去した。残りを乾燥させた。これにより、超薄炭素基材上に粒子を残し、基材からの干渉を最小にして画像化することができる。
【0085】
TEM画像をグリッドの全域の複数の箇所で記録した。最低500〜1000個の粒子の大きさを測るのに十分な画像を記録した。適応される場合、同じグリッドを用いて、制限視野電子線回折パターンを得た。
【0086】
300KVで作動している日立(Hitachi)H−9000高解像度透過電子顕微鏡(LaB源を備える)を用いて、TEM画像を得た。画像を、ガタン・ウルトラスキャンCCDカメラ(Gatan Ultrascan CCD camera)(モデル番号895、2k×2kチップ)を用いて記録した。50,000倍及び100,000倍の倍率で画像を撮った。いくつかのサンプルについては、300,000倍の倍率でも画像を撮った。
【0087】
200KVで作動しているJEOL 200CX透過電子顕微鏡(LaB源を備える)で、制限視野電子線回折パターン用のTEM解析を実施した。100cmのカメラ長を用いてネガティブフィルム(コダック(Kodak)4489)にパターンを記録し、次いで、エプソン・パーフェクション4870スキャナ(Epson Perfection 4870 scanner)を用いてスキャンして、パターンをデジタル画像に変換した。
【0088】
結晶構造及び大きさ(X線回折解析)
金属酸化物(酸化鉄)のサンプルを、単一結晶石英から構成されるゼロバックグラウンド試料ホルダ上の薄層として観察した。必要に応じて、粗粒子を含有する酸化鉄のサンプルを、めのう乳鉢及び乳棒を用いて手で粉砕することにより還元し、均一な薄層を製造した。
【0089】
反射データ収集形状を有するフィリップス縦型回折計(パナリティカル(Panalytical)、ナティック(Natick)、マサチューセッツ州、米国)、銅Kα放射線及び散乱線の比例検出器レジストリを用いて、酸化鉄のサンプルのX線回折スキャンを得た。回折計に、可変入射ビームスリット、固定回折ビームスリット、及びグラファイト回折ビームモノクロメータを取り付けた。
【0090】
調査スキャンを、0.04°のステップサイズ及び8秒のドウェル時間を用いて、10〜100°の2シータ(2θ)から記録した。X線発生器の設定は、45kV及び35mAを用いた。観察された回折ピークは、国際回折データセンター(ICDD)の粉末回折データベース(ニュートン・スクエア(Newton Square)、ペンシルバニア州)に収録され、適切な酸化鉄相に由来する参照回折パターンと比較することにより特定した。各酸化鉄相の量は、相対的な基準で評価し、最も強い回折ピークを有する酸化鉄相に強度値100を割り当てた。残った結晶性酸化鉄形態の最強の線を、最も強い線を基準としてスケール変更し、1〜100の値を与えた。
【0091】
磁鉄鉱により観察された回折最大値のピーク幅を、プロファイルフィッティングにより測定した。以下の磁鉄鉱ピーク幅:磁鉄鉱(ICDD PDF 0−19−629、立方体、Fd−3m):(220)、(311)、(400)、(422)、(511)、及び(440)を評価した。
【0092】
サンプルのピークは、コランダム機器較正からの機器幅値の補間により機器の広がりに対して補正され、ラジアンの単位に変換されたピーク幅を補正した。補正されたサンプルのピーク幅(β)を用いて、シェラー(Scherrer)等式の適用により、初晶(微結晶)サイズを評価した。
【0093】
微結晶サイズ(D)=Kλ/β(コサインθ)
式中、βは、機器の広がりについて補正した後の算出されたピーク幅(ラジアン)を指し、[算出されたピークFWHM−機器の幅](ラジアンに変換された)に等しく;Kは形状因子(ここでは0.9)に等しく;λは波長(1.540598Å)に等しく;θはピーク位置の半分(錯乱角(°))に等しい。FWHMは、ピークの最大高さの半分における回折ピークの全幅を指す。
【0094】
磁鉄鉱相の相加平均は、磁鉄鉱(220)、(311)、(400)、(422)、(511)、及び(440)の回折最大値の個々の値を用いて算出した。
【0095】
つまり、磁鉄鉱の平均微結晶サイズは、
[D(220)+D(311)+D(400)+D(422)+D(511)+D(440)]/6に等しい。
【0096】
全てのプロファイルフィッティング評価では、Kα1及びKα2波長のピアソンVIIピーク形状モデルに加えて、直線バックグラウンドモデルを用いた。幅は、度の単位を有するピーク半値全幅(FWHM)として求められた。プロファイルフィッティングは、JADE(バージョン7.2、マテリアルズ・データ社(Materials Data Inc.)、リバーモア(Livermore)、カリフォルニア州)回折ソフトウェア一式の機能を用いて行った。
【0097】
管形反応器
3種の異なる管形反応器を実施例1〜8で用いた。管形反応器の詳細を表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
反応器A、B、及びCからの排水は、典型的には、冷却の目的で水浴中に浸漬していた、外径0.3175m(0.125インチ)及び壁の厚さ0.0711cm(0.028インチ)を有する、更なる6メートル(20フィート)のステンレス鋼の管のコイルを通過した。背圧調整弁を用いて、少なくとも689ka(100psig)の出口圧を維持した。
【0100】
加熱速度の決定
管形反応器では、加熱速度は、加熱される液体のカラムの半径の二乗に反比例する。実施例1〜10の加熱速度は、参考文献の、ウェルティ(Welty)ら、運動量、熱及び質量伝達の原理(Fundamentals of Momentum, Heat, and Mass Transfer)、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and Sons, Inc.)、1969年の18章(290〜293頁)に記載のように算出した。熱伝導率は、オレイン酸から推定した(0.00055cal/[秒−cm−(C/cm)])。供給組成物の密度は、0.8g/cmと測定された。熱容量は、0.5cal/[g−C]と推定された。比較例1に用いるバッチ反応器では、溶液の温度は熱電対により直接モニタし、溶液温度が指定された温度に達する時間を記録した。
【0101】
単純幾何学形状(Simple Geometric Shapes)の温度−時間チャート(上記参考文献の別表Fに見られる)を用いるために、ユーザがチャートから第4無次元パラメーターを決定することを可能にする、3つの無次元パラメーターを特定しなければならない。第1パラメーターは、本例では(300−299)/(300−20)=0.0036である、未達成の温度変化である。第2パラメーターは、管の中心が0である、相対位置(0〜1の範囲)である。第3パラメーターは、熱伝達に対する相対抵抗であり、これはシステム中の導電性熱伝達と対流熱伝達との比である。この場合、対流熱伝達は、導電性熱伝達より非常に大きく、よって相対抵抗も0である。第4パラメーターは相対時間であり、これは二乗した円筒の半径で除した時間を乗じた熱拡散率に等しい。上述のチャートから、この値は1.1であると決定された。上記物理的特性から算出されたオクタデセンの熱拡散率(熱拡散率=熱伝導率/密度/熱容量=0.00055/0.8/0.5)は、0.001375cm/秒である。それ故、半径rの円筒の中心が最終温度に達する時間は、t=800×r秒(式中、rはcmで測定される)である。平均加熱速度は、次いで、(300−20)/(t/60)℃/分と算出される。管の半径が1ミリメートル(0.1cm)である場合、時間tは8秒と算出され、平均加熱速度は(=16800/8)2100℃/分である。
【0102】
粒子単離法1
接線流濾過(TFF)装置は、クロスフロ(KrosFlo)(登録商標)リサーチIITFFシステム:製品情報及び操作説明書(スペクトラム・ラボズ(Spectrum Labs)、ランチョ・ドミンゲス(Rancho Dominguez)、カリフォルニア州)に記載のように組み立てた。マスターフレックス(MASTERFLEX)L/S 16 VITON管(コール・パーマー(Cole Parmer)、バーノンヒルズ(Vernon Hills)、イリノイ州、P/N 06412−16)を用いた。この濾過方法は、中空繊維フィルタモジュールを通して溶液を再循環させる。適用される膜貫通圧は、再循環流動方向に対して接線方向のフィルタモジュールを通して溶液の一部を押し込む。再循環した溶液は濃縮水と呼ばれ、膜壁を通過する溶液は透過水と呼ばれる。可変分画分子量のフィルタモジュールを用いて、大きさに基づいて溶液の構成成分の分離を達成してよい。装置はダイアフィルトレーションモードで操作してよい(透過水を新鮮な溶媒と置換し、濃縮水を一定の体積で維持する)。装置はまた、コンセントレートモードで操作してもよい(透過水を置換せず、それ故体積の減少により濃縮水の濃度が上昇する)。
【0103】
乾燥モジュールを調製するために、イソプロパノールを、300mLの透過水が得られるまで、445mL/分でモジュールを通して再循環させた。次いで、イソプロパノールをヘプタンで置換し、これを少なくとも700mLの透過水が得られるまで、445mL/分で再循環させた。
【0104】
管形反応器からの排水(すなわち、製品ゾル)を、ヘキサン又はヘプタンにより1:1vol/volで希釈し、中空繊維フィルタモジュール(スペクトル・ラボズ(Spectrum Labs)、ランチョ・ドミンゲス(Rancho Dominguez)、カリフォルニア州、P/N X21S−300−02N、145cmフィルタ領域、10キロダルトン分画)を用いて、TFF装置を通して処理した。流量は、13449秒−1の剪断力値が得られるよう設定した。分散液を、置換溶媒としてヘプタンを用いるダイアフィルトレーションモードのTFFを用いて、1体積当量のヘキサン又はヘプタンで洗浄した。次いで、分散液を、反応器排水の体積の4分の1〜2分の1に濃縮した。分散液を、ダイアフィルトレーションモードのTFFを用いて、4体積当量のヘプタンで洗浄した。分散液から粒子を単離するために、アリコートを除去し、溶媒を真空下で蒸発させた。
【0105】
粒子単離法2
粒子を沈殿させるために、凝集溶媒(アセトン又はエタノール)を、生成物分散液に添加した。凝集溶媒と反応器排水との体積比は、2.5〜1であった。サンプルを遠心分離して粒子を定着させ、上清を廃棄し、残留物をヘキサンに分散させた。凝集溶媒の添加及び遠心分離工程を繰り返した。次いで、物質を別の溶媒に所望の濃度になるよう分散させた。
【0106】
予備実施例1:Fe−オレエート前駆体の調製
3Lの3つ口丸底フラスコに、攪拌子、冷却管、及びIRサーモウォッチ(THERMOWATCH)に連結した熱電対を装備した。300mLの蒸留したHOと400mLのエタノール(EtOH)を、均質になるまで混合することにより、溶媒混合物を調製した。次いで、54.08グラムのFeCl6HOを溶媒混合物に添加し、攪拌して、オレンジ色の透明な溶液を形成した。オレイン酸ナトリウム(合計182.67グラム)の4つのアリコート(それぞれ約45g)を、2分間隔で添加した。固体をすぐに反応させ、暗赤色の物質を形成した。次いで、700mLのヘキサンをゆっくりと添加した。反応混合物を54℃で4時間加熱した。暗赤色の有機層を無色の水性層から分離した。有機層を水(2×225mL)で洗浄した。周囲温度で高真空を用いて、有機層を深紅の油に濃縮した。収量:182グラム。
【0107】
比較例1
丸底フラスコに、予備実施例1のFe−オレエート前駆体(15.36グラム)を充填した。オクタデセン、90%(アルファ・エーサー(Alfa Aesar)、ワードヒル(Ward Hill)、マサチューセッツ州)(85グラム)及び、次いでオレイン酸(MPバイオメディカルズ社(MP Biomedicals, Inc.)、ソロン(Solon)、マサチューセッツ州)(2.41g)を前駆体に添加した。反応フラスコに、冷却管及びIRサーモウォッチに連結した熱電対を装備した。溶液を3℃/分で320℃に加熱した。溶液を320℃で30分間保持した。生成物は黒色ゾルであった。粒子を単離法2を用いて単離した。粒子をヘキサンに分散させ、1mg/mLのゾルを形成し、TEMを用いて評価した。代表的なTEM画像を図2に示す。倍率は50,000倍であった。
【0108】
(実施例1)
予備実施例1で記載したように調製したFe−オレエート前駆体(161.2グラム)をプラスチックの容器に添加することにより、供給組成物を調製した。オクタデセン(750mL)及び次いでオレイン酸(25.3グラム)を添加した。
【0109】
供給組成物を、表1に記載のように管形反応器Aを通して2mL/分の速度で注入した。管形反応器を、300℃に加熱したデュラサームS油の槽に浸漬した。滞留時間(すなわち、反応流が油に浸漬された管の一部に存在した時間)は38分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0110】
反応生成物中の粒子を単離法1に従って洗浄した。2滴の得られた分散液を2mLのヘキサンで希釈した。このサンプルをTEM及びXRDを用いて評価した。代表的なTEM画像を図3に示す。倍率は300,000倍であった。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0111】
(実施例2)
予備実施例1で記載したように調製したFe−オレエート前駆体(92.4グラム)をプラスチックの容器に添加することにより、供給組成物を調製した。オクタデセン(412グラム)及び次いでオレイン酸(14.2グラム)を添加した。
【0112】
供給組成物を、表1に記載のように形反応器Aを通して2mL/分の速度で注入した。管形反応器を、300℃に加熱したデュラサームS油の槽に浸漬した。滞留時間は38分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0113】
反応器排水の液滴を1〜10滴/mLの濃度に、ヘキサンで希釈した。このサンプルをTEMを用いて評価した。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0114】
(実施例3)
予備実施例1で記載したように調製したFe−オレエート前駆体(92.4グラム)をプラスチックの容器に添加することにより、供給組成物を調製した。オクタデセン(412グラム)及び次いでオレイン酸(14.2グラム)を添加した。
【0115】
供給組成物を、表1に記載のように管形反応器Aを通し4mL/分の速度で注入した。管形反応器を、300℃に加熱したデュラサームS油の槽に浸漬した。滞留時間は19分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0116】
反応器排水の液滴を1〜10滴/mLの濃度に、ヘキサンで希釈した。このサンプルをTEMを用いて評価した。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0117】
(実施例4)
予備実施例1で記載したように調製したFe−オレエート前駆体(93.01グラム)をプラスチックの容器に添加することにより、供給組成物を調製した。オクタデセン(415グラム)及び次いでオレイン酸(16.0グラム)を添加した。
【0118】
供給組成物を、表1に記載のように管形反応器Aを通し4mL/分の速度で注入した。管形反応器を、300℃に加熱したデュラサームS油の槽に浸漬した。滞留時間は19分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0119】
反応器排水中の粒子を単離法1に従って洗浄した。得られた分散液のうち2滴を2mLのヘキサンで希釈した。このサンプルをTEMを用いて評価した。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0120】
(実施例5)
予備実施例1で記載したように調製したFe−オレエート前駆体(90.12グラム)をプラスチックの容器に添加することにより、供給組成物を調製した。オクタデセン(790グラム)及び次いでオレイン酸(34.5グラム)を添加した。
【0121】
供給組成物を、表1に記載のように管形反応器Aを通し4mL/分の速度で注入した。管形反応器を、300℃に加熱したデュラサームS油の槽に浸漬した。滞留時間は19分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0122】
反応器排水の液滴を1〜10滴/mLの濃度に、ヘキサンで希釈した。このサンプルをTEMを用いて評価した。代表的なTEM画像を図4に示す。倍率は100,000倍であった。単離法2を用いて、XRD解析用の粒子を提供した。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0123】
(実施例6)
供給組成物を形成するために、400mLの実施例5の供給組成物を、200mLの実施例5からの反応器排水と混合した。
【0124】
供給組成物を、表1に記載のように管形反応器Aに通し4mL/分の速度で注入した。管形反応器を、280℃に加熱したデュラサームS油の槽に浸漬した。滞留時間は19分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0125】
反応器排水の液滴を1〜10滴/mLの濃度に、ヘキサンで希釈した。このサンプルをTEMを用いて評価した。単離法2を用いて、XRD解析用の粒子を提供した。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0126】
(実施例7)
予備実施例1で記載したように調製したFe−オレエート前駆体(90.08グラム)をプラスチックの容器に添加することにより、供給組成物を調製した。オクタデセン(789グラム)及び次いでオレイン酸(34.52グラム)を添加した。
【0127】
供給組成物を、表1に記載のように管形反応器Bを通し16mL/分の速度で注入した。管形反応器を、300℃に加熱したデュラサームS油の槽に浸漬した。滞留時間は7.8分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0128】
反応器排水の液滴を1〜10滴/mLの濃度に、ヘキサンで希釈した。このサンプルをTEMを用いて評価した。単離法2を用いて、XRD解析用の粒子を提供した。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0129】
(実施例8)
供給組成物を、表1に記載のように管形反応器Bを通し8mL/分の速度で注入したことを除き、実施例8は実施例7と同様である。滞留時間は16分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0130】
反応器排水の液滴を1〜10滴/mLの濃度に、ヘキサンで希釈した。このサンプルをTEMを用いて評価した。代表的なTEM画像を図5に示す。倍率は100,000倍であった。単離法2を用いて、XRD解析用の粒子を提供した。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0131】
(実施例9)
供給組成物を実施例1に記載のように調製した。供給組成物を、表1に記載のように管形反応器Cを通し15mL/分の速度で注入した。管形反応器を、300℃に加熱したデュラサームS油の槽に浸漬した。滞留時間は9.6分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0132】
反応器排水の液滴を1〜10滴/mLの濃度に、ヘキサンで希釈した。このサンプルをTEMを用いて評価した。単離法2を用いて、XRD解析用の粒子を提供した。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0133】
(実施例10)
供給組成物を実施例1に記載のように調製した。供給組成物を、表1に記載のように管形反応器Cを通し9.4mL/分の速度で注入した。管形反応器を、300℃に加熱したデュラサームS油の槽に浸漬した。滞留時間は15.3分であった。反応器の条件を表2に要約する。生成物は黒色ゾルであった。
【0134】
反応器排水の液滴を1〜10滴/mLの濃度に、ヘキサンで希釈した。このサンプルをTEMを用いて評価した。代表的なTEM画像を図6に示す。倍率は100,000倍であった。単離法2を用いて、XRD解析用の粒子を提供した。特徴付けの結果を表3に要約する。
【0135】
【表2】

【0136】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有金属酸化物ナノ粒子を調製する方法であって、
a)鉄−カルボン酸塩錯体を含む前駆体と、
b)第1カルボン酸、前記第1カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含む界面活性剤と、
c)第1有機溶媒と、を含む供給組成物を調製する工程と、
前記供給組成物を、鉄−カルボン酸の分解温度を超える反応器の温度で保持された、連続する、管形反応器に通過させて、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含む反応器排水を形成する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記前駆体が、金属−カルボン酸塩錯体を更に含み、前記金属−カルボン酸塩錯体中の金属種が、鉄以外の遷移金属、希土類元素、又はアルカリ土類元素から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記管形反応器中の供給組成物の加熱速度が、少なくとも250℃/分である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記管形反応器の温度が、前記第1有機溶媒の沸点より低い、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記管形反応器の温度が、前記第1有機溶媒の沸点以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記鉄含有金属酸化物ナノ粒子が、Fe、MFe、MFeO、MFeO、又はこれらの組み合わせ
(式中、Mは、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、マンガン、チタン、バナジウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、又はこれらの組み合わせであり、
は希土類元素であり、
xは4以下の数である)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
鉄含有金属酸化物がFeを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記鉄−カルボン酸塩錯体が、鉄−オレエート錯体と、オレイン酸、前記オレイン酸の塩、又はこれらの組み合わせを含む界面活性剤とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記供給組成物を管形反応器に通過させることが、層流速を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記管形反応器の生成物を接線流濾過法に供することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記反応器生成物中の第1有機溶媒が、より低い沸点を有する第2有機溶媒に交換される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
鉄含有金属酸化物ナノ粒子を調製する方法であって、
a)鉄−カルボン酸塩錯体を含む前駆体であって、前記鉄−カルボン酸塩錯体が、
i)鉄含有塩と、
ii)水性溶媒と、を含む鉄含有塩溶液を調製する工程と、
錯化剤と前記鉄含有塩溶液とを混合する工程であって、錯化剤が第2カルボン酸、前記第2カルボン酸の塩、又はこれらの組み合わせを含む工程と、
前記鉄−カルボン酸塩錯体を非極性有機溶媒に抽出する工程と、を含む方法により形成される前駆体と、
b)第1カルボン酸、前記第1カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含む界面活性剤と、
c)第1有機溶媒と、を含む供給組成物を調製する工程と、
前記供給組成物を、鉄−カルボン酸の分解温度を超える反応器温度で保持された、連続する、管形反応器に通過させて、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含む反応器排水を形成する工程と、を含む方法。
【請求項13】
前記前駆体が、金属−カルボン酸塩錯体を更に含み、前記金属−カルボン酸塩錯体中の金属種が、鉄以外の遷移金属、希土類元素、又はアルカリ土類元素から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記管形反応器中の供給組成物の加熱速度が、少なくとも250℃/分である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記管形反応器の生成物を接線流濾過法に供することを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記反応器生成物中の第1有機溶媒が、より低い沸点を有する第2有機溶媒に交換される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
鉄含有金属酸化物ナノ粒子調製する方法であって、
a)鉄−カルボン酸塩錯体を含む前駆体と、
b)第1カルボン酸、前記第1カルボン酸の塩、又はこれらの混合物を含む界面活性剤と、
c)第1有機溶媒と、
d)鉄含有金属酸化物シード粒子と、を含む、供給組成物を調製する工程と、
前記供給組成物を、鉄−カルボン酸の分解温度を超える反応器温度で保持された、連続する、管形反応器に通過させて、鉄含有金属酸化物ナノ粒子を含む反応器排水を形成する工程であって、前記鉄含有金属酸化物ナノ粒子が、前記鉄含有金属酸化物シード粒子の平均粒径を超える平均粒径を有する工程と、を含む、方法。
【請求項18】
前記管形反応器中の供給組成物の加熱速度が、少なくとも250℃/分である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記管形反応器の生成物を接線流濾過法に供することを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記鉄含有金属酸化物シード粒子が、第1鉄−カルボン酸塩錯体を含む第1供給組成物を、連続する、管形反応器に通過させて、前記第1鉄−カルボン酸塩錯体を分解し、前記鉄含有金属酸化物シード粒子を形成することを含むプロセスにより形成される、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−502088(P2011−502088A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551776(P2009−551776)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/053247
【国際公開番号】WO2008/121438
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】