説明

金属黒化処理液

【解決手段】本発明は、テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.5〜16重量%の範囲内にあり、塩酸濃度が9.5〜36重量%範囲内にあることを特徴とする銀、銅、金およびこれらの合金を黒化するための金属黒化処理液であり、さらに1重量%以下の量で有機酸を含有してもよい。
【効果】本発明によれば、一液性で、操作が簡単で、かつ安定である金属黒化処理剤が提供される。この金属黒化処理液は、宝飾品の銀、銅、またはこれらの合金の表面を黒化処理するのに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀、銅、金などの金属の表面を黒化するための金属黒化処理液に関する。さらに詳しくは本発明は、特に装飾品の銀、銅あるいはこれらの合金の黒化に好適に使用することができる金属黒化処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、宝飾品用の銀、銅、あるいはこれらの合金を含め貴金属の黒化処理することが行われている。このような黒化処理には、ヨウ素系の溶液、硫黄系の溶液(本発明においては、これらを「いぶし液」と記載する。)が使用されている。
【0003】
このような装飾用金属の黒化に従来から使用されているいぶし液を使用する際には、複数の液体成分を使用する必要があり、使用直前に複数の薬剤を混合し、さらにこの混合液および黒化対象物の温度を調整した後、この混合液に黒化する対象物の一部または全部を浸漬して、所定の時間放置して黒化していた。
【0004】
このように宝飾品の金属の黒化処理は、通常は、黒化処理液に、黒化処理の対象となる宝飾品を浸漬していたので、宝飾品全体が黒化してしまい、部分的に黒化処理するためには一旦黒化した部分を研磨する必要があり、この研磨工程に多大な時間を要していた。また、上記のようにして一旦宝飾品などの黒化に使用された処理液は、時間の経過と共に黒化処理能力が低下するために、このような黒化処理液は使用する度毎に調製し直す必要があり、経済的にも無駄が多い。
【0005】
また、このような浸漬による黒化処理の他に、上記のような黒化処理液を、宝飾品の黒化したい部分に筆で塗布する方法も採用されているが、黒化しようとする部分に何度も黒化処理液を筆で塗布する必要があり、しかも黒化したい部分に処理液を塗布して長時間放置しなければならず、このような部分的な黒化処理にはたいへん長時間を要した。
【0006】
上記のように宝飾品の黒化処理は複雑で長時間を要するものであるが、さらに浸漬法により不必要な部分まで黒化してしまった場合、さらに誤って必要としない部分を黒化してしまった場合、こうした部分を元に戻すための作業工程は長時間を要すると共に、技術的にたいへん困難であり、趣味として銀細工が普及しない要因の一つになっている。さらにこうした黒化処理に多大な時間を要するためにコスト高になり、銀製の宝飾品などの価格の高騰の原因ともなっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のように、例えば銀、銅、あるいはこれらを含有する金属合金を黒化処理するための黒化処理液を提供することを目的としている。
さらに本発明は、黒化処理部分に筆で塗布することにより、短時間で対象物の黒化処理を行うことを可能にした金属の黒化処理液を提供することを目的としている。
【0008】
また、本発明は、黒化対象物を繰り返し浸漬しても、液劣化しにくく、繰り返し使用が可能な黒化処理液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の銀、銅、金およびこれらの合金を黒化するための金属黒化処理液は、テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0
.5〜16重量%の範囲内にあり、塩酸濃度が9.5〜36重量%範囲内にあることを特徴としている。
【0010】
さらに本発明の金属黒化処理液は、テルルが溶解された有機酸・塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.5〜16重量%の範囲内にあり、塩酸濃度が9.5〜36重量%範囲内にあり、有機酸の濃度が1重量%以下であることを特徴としている。
【0011】
本発明の金属黒化処理液を用いて黒化処理される対象金属は、銀、銅、金およびこれらの合金などの貴金属であり、特に銀、銅あるいは銀および銅を含有する合金に対してたいへん有用性が高い。
【0012】
本発明の金属黒化処理液は、非常に端時間、例えば5秒程度で黒化処理を行うことがで
きる。さらに、本発明の金属黒化処理液は、浸漬法だけでなく、筆で塗布することにより対象物を容易に黒化処理することができ、しかも経時的な液の劣化が少なく、長期間にわたって使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属黒化処理液は、塩酸水溶液中にテルルが溶解されており、銀、銅、あるいはこれらを含有する合金などの貴金属を短時間で黒化処理することができる。さらに、本発明の金属黒化処理液に有機酸、特に酢酸を配合することにより、この有機酸の配合量によって得られる金属の黒化の状態を調整することができる。
【0014】
しかも本発明の金属黒化処理液は、室温で使用することができ、従来のいぶし液のように液温の調整および被黒化物の温度の調整などの温度管理を行うことを必要とはしていない。
【0015】
また本発明の黒化処理液は、一液性であり、従来のいぶし液のように水による希釈、あるいは、他の薬液の混合を必要としておらず、操作が簡単であるとともに、安定して金属の黒化を行うことができる。
【0016】
さらに、本発明の金属黒化処理液は、経時的に安定であり、繰り返し使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明の金属黒化処理液について具体的に説明する。
本発明の金属黒化処理液は、テルルが溶解された塩酸溶液であり、このテルル供給源として、酸化テルルを用いることが好ましい。本発明でテルル供給源として使用される酸化テルルは、TeO2で表すことができる。本発明の金属黒化処理液(100重量%)中に
は、テルルは、酸化物換算で、0.5〜16重量%の範囲内の量、好ましくは1〜15重量%の量で含有されている。上記のような量でテルルを配合することにより、本発明の金属黒化処理液は、銀、銅、あるいはこれらの合金などを、非常に短時間で均一に黒化処理することができる。しかも、本発明では、テルルは塩酸に溶解した状態で処理液中に存在し、たいへん安定性がよく、本発明の金属黒化処理液を長時間放置した場合であっても配合物が析出しにくい。従って、本発明の金属黒化処理液を一液型の処理剤とすることができる。さらにこの一液型金属黒化処理液は、処理金属と接触させた後も、その安定性が低下しないので、繰返し使用することができる。
【0018】
本発明の金属黒化処理液で使用される酸化テルルとしては、工業的に提供される酸化テルルを使用することができるが、酸化テルルの純度が高いものを使用することが好ましく
、純度99〜100%の酸化テルルを使用することが特に好ましい。
【0019】
本発明の金属黒化処理液には、上記のような酸化テルルは、塩酸水溶液に溶解して配合されている。
この酸化テルルを溶解する塩酸水溶液は、通常は35%塩酸に水を配合することにより形成される。この塩酸水溶液中の塩酸濃度は、9.5〜36重量%の範囲内にあり、好ましくは9.9〜24重量%であり、このような濃度の塩酸水溶液を使用することにより、酸化テルルを完全に溶解することができ、しかも黒化対象の金属を短時間で黒化することができる。
【0020】
また、本発明の金属黒化処理液は、上記のような塩酸水溶液の他に、有機酸・塩酸水溶液であってもよい。この有機酸・塩酸水溶液は、上記のような塩酸水溶液に、有機酸を添加することにより調整することができる。
【0021】
本発明で使用することができる有機酸としては、有機カルボン酸、有機スルホン酸などを使用することができるが、本発明では、有機酸として有機カルボン酸が好ましい。本発明において、有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、シュウ酸、安息香酸などを挙げることができるが、特に本発明では、有機酸として酢酸を使用することが好ましい。
【0022】
本発明において、有機酸・塩酸水溶液を使用する場合、有機酸、好ましくは酢酸の濃度は、通常は1重量%以下、好ましくは0.01〜1重量%の範囲内にある。
本発明の金属黒化処理液において、上記テルル(酸化物としての換算重量配合量)、塩酸、および必要により配合される有機酸の合計を100重量%から引いた差分は、水の配合量である。
【0023】
このように有機酸・塩酸水溶液を使用することにより、金属の黒化の状態を調整することができる。特に酢酸・塩酸水溶液を使用することにより、酢酸の配合量を調整することにより、金属の黒化の状態を調整することができる。
【0024】
本発明の金属黒化処理液は、塩酸と水とを混合して塩酸水溶液を調製し、この塩酸水溶液に酸化テルルを配合して、酸化テルルを塩酸水溶液に完全に溶解させた後、さらに必要により有機酸を配合することにより調製することができる。
【0025】
本発明の金属黒化処理剤を金属と接触させることにより、金属の表面を黒化することができる。
本発明の金属黒化処理液を用いる金属は、例えば、銀、銅、金およびこれらの合金などの貴金属であり、特に銀、銅、あるいは、銀と銅とを含有する合金に対して有用性が高い。本発明の金属黒化処理液を適用する金属は、上記のような金属を用いたものであれば制限はないが、特に本発明の金属黒化処理液は、宝飾用銅、宝飾用銀あるいはこれらを含有する宝飾用金属の黒化処理液として使用することが好ましい。
【0026】
本発明の金属黒化処理液は、処理金属の表面に筆付け、または、 処理金属をディピングすることにより、上記金属と接触し、この接触面を黒化することができる。
本発明の金属黒化処理剤と金属との接触温度は、常温でよく、好ましくは10〜40℃の範囲内の温度である。このように本発明の金属黒化処理剤は、特に加熱する必要がなく、常温で金属と接触させることにより、金属を黒化することができるので、金属を安定に黒化処理することができる。
【0027】
上記のような温度条件において、金属と本発明の金属黒化処理剤との接触時間は、通常は30秒以下、好ましくは1〜20秒である。このように本発明の金属黒化処理液は、非
常に短時間で金属の表面を黒化することができる。なお、30秒を超えて接触させることも可能であるが、30秒を超えて金属と接触させてもこれ以上黒化は進行しない。
【0028】
しかも、本発明の金属黒化処理液は、上記のように一液性であり、使用前に他の成分を添加する必要がなく、金属黒化処理液の組成が常に一定している。
従って、本発明の金属黒化処理液を使用することにより、一定の条件で、かつ短時間で金属の表面を黒化処理することができる。
【0029】
また、本発明の金属黒化処理液は、たいへん安定しており、特にこの金属黒化処理剤が金属と接触した後も安定であり、一度金属と接触した金属黒化処理液を再度使用することができる。従って本発明の金属黒化処理剤は経済性に優れている。
【0030】
本発明の金属黒化処理液は、上記のように、塩酸水溶液、さらに必要により有機酸を含有する水溶液に、テルルが溶解されてなり、さらに他の成分を必要とするものではないが、いぶし液(金属黒化処理剤)に通常配合される成分を含んでいてもよい。このような他の成分の例としては、金属黒化処理剤の表面張力を調整するための界面活性剤、いぶし液による孔蝕などを防止するインヒビターなどを挙げることができる。
【0031】
〔実施例〕
次に本発明の金属黒化処理液を実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
水50gに36%塩酸40gを加えて塩酸の水溶液を調製した。次いで、この塩酸水溶液90gに酸化テルル3gを加えた。酸化テルルが塩酸水溶液に完全に溶解したことを視覚確認した後、この塩酸水溶液に酢酸5gを加え、さらに水を加えて全量を100gとして、黒色化溶液を調製した。
【0033】
こうして得られた黒色化溶液を、宝飾品の銀の表面に筆で塗布して目視観察したところ、この宝飾品の銀の表面は5秒間で黒化した。
【実施例2】
【0034】
実施例1において、酢酸の量を2gに変え、得られた溶液に水を加えて100gとした以外は同様にして、黒色化溶液を調製した。
こうして得られた黒色化溶液を、宝飾品の銀の表面に筆で塗布して目視観察したところ、この宝飾品の銀の表面は3秒間で黒化した。
【実施例3】
【0035】
実施例1において、酢酸を使用しなかった以外は同様にして黒色化溶液を調製した。
こうして得られた黒色化溶液を、宝飾品の銀の表面に筆で塗布して目視観察したところ、この宝飾品の銀の表面は1秒間で黒化した。
【実施例4】
【0036】
水90%〜47%に塩酸9.5%から36%を混ぜ、次に酸化テルルを0.5%から16%を溶かす。酸化テルルが塩酸溶液に溶解したことを目で確認し、酢酸を0%〜1%混ぜ、それぞれの割合の合計が100%になるように溶液を作成する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の金属黒化処理剤は、塩酸水溶液中にテルルが溶解されており、銀、銅、あるいはこれらを含有する合金などの貴金属を短時間で黒化処理することができる。
さらに、本発明の金属黒化処理液に有機酸、特に酢酸を配合することにより、この有機酸の配合量によって得られる金属の黒化の状態を調整することができる。
【0038】
また本発明の黒化処理液は、一液性であり、従来のいぶし液のように水による希釈、あるいは、他の薬液の混合を必要としておらず、操作が簡単であるとともに、安定して金属の黒化を行うことができる。
【0039】
さらに、本発明の黒化処理液は、経時的に安定であり、繰り返し使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.5〜16重量%の範囲内にあり、塩酸濃度が9.5〜36重量%範囲内にあることを特徴とする銀、銅、金およびこれらの合金を黒化するための金属黒化処理液。
【請求項2】
テルルが溶解された有機酸・塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.5〜16重量%の範囲内にあり、塩酸濃度が9.5〜36重量%範囲内にあり、有機酸の濃度が1重量%以下であることを特徴とする請求項第1項記載の金
属黒化処理液。
【請求項3】
上記テルルが、酸化テルルを溶解することにより供給されたものであることを特徴とする請求項第1項または第2項記載の金属黒化処理液。
【請求項4】
上記有機酸が、酢酸であることを特徴とする請求項第2項記載の金属黒化処理液。
【請求項5】
上記金属黒化処理剤が、筆付け、または、ディッピングして、被処理金属と、金属黒化処理液とを接触させるものであることを特徴とする請求項第1項または第2項記載の金属黒化処理液。
【請求項6】
上記金属黒化処理液が、装飾用銀、装飾用銅、あるいはこれらの金属を含有する装飾用金属を黒化するための処理液であることを特徴とする請求項第1項乃至第5項記載のいず
れかの項記載の金属黒化処理液。

【公開番号】特開2006−233327(P2006−233327A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333508(P2005−333508)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(505070966)
【Fターム(参考)】