説明

金管楽器用ピッチ調整装置及び金管楽器

【課題】簡単な構造で、管路全長を調整して調律し音程補正が可能である。
【解決手段】
金管楽器用ピッチ調整装置100は、調律するための主管抜差1と楽器本体15との間に配置されて、楽器本体15の管路全長をスライドにより伸縮自在に変化させるスライド部110を有し、スライド部110は、楽器本体15に対して、外部から力が加わらない場合、スライド方向と平行な軸12の同軸上に配設された等価な一対の圧縮コイルバネ7,8が吊り合うことで楽器本体15からの距離を一定に保ち、一方、外部から力を加えた場合には、スライド方向に移動が可能となり、管路全長が調節可能となる。また、スライド部110が自動停止する位置を任意に決定可能にする調節部材を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管路全長を調整して調律可能な金管楽器用ピッチ調整装置及び金管楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
金管楽器は主管抜差を出し入れして、管路全長を変化させることで調律(チューニング)を行っている。すなわち、金管楽器はバルブなどの管路切替機構を使用しなくても、自然倍音と呼ばれる複数の音を演奏可能であるが、特に第5倍音は音程がやや低めになったり、第6倍音は逆にやや高めになる傾向がある。また、第7倍音は音程が低すぎて一般に使われない。
【0003】
演奏者は、それらの音程を唇の緊張度合いで調整するが、無理な状態の演奏となるので音色に影響してしまう場合がある。また、そのような状態で長時間演奏をすると疲労し耐久力も無くなってしまう。
【0004】
音程調節は、例えば、図6に示すように、楽器本体15に設けた主管抜差1を手で出し入れして行うものがあるが、演奏時に行う瞬時の音程調節は、従来の主管抜差1を手で出し入れする方法では不可能であった。
【0005】
演奏時に音程調節を行うことができるものとして、例えば、ピッチ調整装置が知られており、演奏時にスライド調管をスライドし、演奏されるピッチを調整する(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,512,233号公報
【特許文献2】米国特許第4,276,804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1のピッチを調整するものでは、スライド調管をスライドさせるために軸が2本用いられ、それぞれの軸にバネが配設される複雑な構造である。また、特許文献2のピッチを調整するものでは、作動体を回転することでロッドを介してスライド調管をスライドさせる同様に複雑な構造である。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、簡単な構造で、管路全長を調整して調律し音程補正が可能である金管楽器用ピッチ調整装置及び金管楽器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成した。
【0010】
請求項1に記載の発明は、調律するための主管抜差と楽器本体との間に配置されて、前記楽器本体の管路全長をスライドにより伸縮自在に変化させるスライド部を有し、前記スライド部は、前記楽器本体に対して、外部から力が加わらない場合、スライド方向と平行な軸の同軸上に配設された等価な一対の圧縮コイルバネが吊り合うことで前記楽器本体からの距離を一定に保ち、一方、外部から力を加えた場合には、スライド方向に移動が可能となり、前記管路全長が調節可能となることを特徴とする金管楽器用ピッチ調整装置である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記スライド部が自動停止する位置を任意に決定可能にする調節部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の金管楽器用ピッチ調整装置である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、調律するための主管抜差と楽器本体との間に、請求項1または請求項2に記載の金管楽器用ピッチ調整装置を備えることを特徴とする金管楽器である。
【発明の効果】
【0013】
前記構成により、この発明は、以下のような効果を有する。
【0014】
請求項1乃至請求項3に記載の発明では、調律するための主管抜差と楽器本体との間に、金管楽器用ピッチ調整装置を備え、楽器本体の管路全長をスライド部により伸縮自在に変化させる簡単な構成で、瞬時に音程補正が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態の金管楽器に備えた金管楽器用ピッチ調整装置を示す図である。
【図2】管路長を短くする方向に移動させた場合を示す図である。
【図3】管路長を長くする方向に移動させた場合を示す図である。
【図4】第2の実施の形態の金管楽器に備えた金管楽器用ピッチ調整装置を示す図である。
【図5】第3の実施の形態の金管楽器に備えた金管楽器用ピッチ調整装置を示す図である。
【図6】従来の金管楽器に備えた金管楽器用ピッチ調整装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の金管楽器用ピッチ調整装置及び金管楽器の実施の形態について説明する。この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明はこれに限定されない。
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は金管楽器に備えた金管楽器用ピッチ調整装置を示す図である。この第1の実施の形態の金管楽器用ピッチ調整装置100は、調律するための主管抜差1と楽器本体15との間に配置されて、楽器本体15の管路全長をスライドにより伸縮自在に変化させるスライド部110を有し、このスライド部110により演奏されるピッチ(物理的に管内の空気が振動する周波数)を調整する。
【0018】
スライド部110は、第1の外管2、第2の外管3を有し、この第1の外管2にはトリガーリング4が固定され、第1の外管2と第2の外管3は、支柱5によって連結されている。
【0019】
主管抜差1は、U字状に形成され、一方の端部1aに第1の外管2の一方の端部2aが圧入され、他方の端部1bに第2の外管3の一方の端部3aが圧入されている。第1の外管2の他方の端部2bには、第1の中管13がスライド可能に挿入され、第2の外管3の他方の端部3bには、第2の中管14がスライド可能に挿入されている。第1の中管13及び第2の中管14は、それぞれ楽器本体15の口金10に固定されている。
【0020】
第1の外管2には、自由柱6が設けられ、この自由柱6には軸12が挿通されている。軸12は、固定柱11に固定され、この固定柱11は口金10に固定され、軸12はスライド方向と平行に設けられている。
【0021】
軸12の先端には、雄ねじ12aが形成され、この雄ねじ12aにダブルナット9が螺着されている。固定柱11と自由柱6との間に、第1の圧縮コイルバネ7が軸12に挿通して設けられ、ダブルナット9と自由柱6との間に、第2の圧縮コイルバネ8が軸12に挿通して設けられている。
【0022】
第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8の力が吊り合い、自由柱6が固定柱11とダブルナット9との間隔L1の中間で停止している。この第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8の力が吊り合った状態では、固定柱11が固定された口金10の端面と第1の外管2の端部2bの端面とが間隔L2になり、第1の中管13の先端部13aの端面と主管抜差1の端部1aの端面とが間隔L3になっており、同様に固定柱11が固定されない側の口金10の端面と第2の外管3の端部3bの端面とが間隔L2になり、第2の中管14の先端部14aの端面と主管抜差1の端部1bの端面とが間隔L3になっている。
【0023】
このように、スライド部110は、楽器本体15に対して、外部から力が加わらない場合、スライド方向と平行な軸12の同軸上に配設された等価な一対の第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8が吊り合うことで楽器本体15からの距離を一定に保ち、一方、トリガーリング4により外部から力を加えた場合には、スライド方向に移動が可能となり、管路全長が調節可能となる。
【0024】
また、ダブルナット9を回転して間隔L1を広くしたり、狭くすると、間隔L1に応じて第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8の力が吊り合い、自由柱6が固定柱11とダブルナット9との間隔L1の中間で停止し、スライド部110が自動停止する位置を任意に決定可能にし、ダブルナット9が調節部材を構成する。
【0025】
次に、金管楽器用ピッチ調整装置の作動を、図2及び図3に基づいて説明する。金管楽器は、調律するための主管抜差1と楽器本体15との間に、金管楽器用ピッチ調整装置100を備え、楽器本体15の管路全長をスライドにより伸縮自在に変化させることで、瞬時に音程補正が可能になる。
【0026】
図2は管路長を短くする方向に移動させた場合を示す図である。金管楽器用ピッチ調整装置100のスライド部110に外部から力が加わらない場合は、図1に示す状態であるが、図2に示すように、演奏者がトリガーリング4の中に指を入れて管路長を短くする方向に指を引けば、支柱5によって連結された第1の外管2と第2の外管3がスライドして移動し、主管抜差1も同時に移動する。
【0027】
これにより、図1に示すスライド部110に外部から力が加わらない場合は、中間停止時で、第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8の力が吊り合い、自由柱6が固定柱11とダブルナット9との間隔L1の中間で停止していたが、自由柱6により第1の圧縮コイルバネ7が圧縮され、第2の圧縮コイルバネ8が伸び、固定柱11が固定された口金10の端面と第1の外管2の端部2bの端面との間隔L2が狭くなり、第1の中管13の先端部13aの端面と主管抜差1の端部1aの端面との間隔L3も狭くなり、同様に固定柱11が固定されない側の口金10の端面と第2の外管3の端部3bの端面との間隔L2が狭くなり、第2の中管14の先端部14aの端面と主管抜差1の端部1bの端面との間隔L3も狭くなり、管路長が短くなるので音程が上昇する(高くなる)。
【0028】
特に、良く使う第5倍音の音程が低くなるのを、管路長を短くする方向に移動させることで、容易に音程の補正が可能になる。その結果、演奏者は唇で音程調整をする必要が無くなるので、耐久力が増し、得られる音も無理の無い良好な音色となる。また、第7倍音など、一般に使用されない倍音でも演奏が可能となる。その結果、使用可能な倍音が増加する。また、その倍音に係わる替え指の選択肢も増加する。
【0029】
図3は管路長を長くする方向に移動させた場合を示す図である。金管楽器用ピッチ調整装置100のスライド部110に外部から力が加わらない場合は、図1に示す状態であるが、図3に示すように、トリガーリング4の中に指を入れて管路長を長くする方向に押せば、支柱5によって連結された第1の外管2と第2の外管3がスライドして移動し、主管抜差1も同時に移動する。
【0030】
これにより、図1に示すスライド部110に外部から力が加わらない場合は、中間停止時で、第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8の力が吊り合い、自由柱6が固定柱11とダブルナット9との間隔L1の中間で停止しているが、自由柱6により第2の圧縮コイルバネ8が圧縮され、第1の圧縮コイルバネ7が伸び、固定柱11が固定された口金10の端面と第1の外管2の端部2bの端面との間隔L2が広がり、第1の中管13の先端部13aの端面と主管抜差1の端部1aの端面との間隔L3も広がり、同様に固定柱11が固定されない側の口金10の端面と第2の外管3の端部3bの端面との間隔L2が広がり、第2の中管14の先端部14aの端面と主管抜差1の端部1bの端面との間隔L3も広がり、管路長が長くなるので音程が下降する(低くなる)。
【0031】
したがって、例えば、ジャズなどではブルーノートと呼ばれる4分の1音(半音の半分)低い音を使うことがあるが、管路長を長くする方向に移動させれば、容易にブルーノート演奏も可能となる。
【0032】
このように、楽器本体15の管路全長をスライドにより伸縮自在に変化させることで、例えば、オーケストラの演奏者などは、音程に対して厳しい要求がされるが、全ての音に対して音程補正が可能となる。
【0033】
すなわち、金管楽器では、温度の変化などの影響で調律(チューニング)は、演奏前や演奏中に何度も行うが、トリガーリング4によりスライド部110に外部から力を与える簡単な操作で、瞬時に楽器本体15の管路全長を変化させることができる。
【0034】
また、トリガーリング4は、第1の外管2に直接固定されており、確実にスライド部110をスライドさせることができ、しかも配置スペースの確保が容易である。
【0035】
[第2の実施の形態]
図4は金管楽器に備えた金管楽器用ピッチ調整装置を示す図である。この第2の実施の形態の金管楽器用ピッチ調整装置100は、調律するための主管抜差1と楽器本体15との間に配置されて、楽器本体15の管路全長をスライドにより伸縮自在に変化させるスライド部110を有し、第1の実施の形態と同じ構成は同じ符号を付して説明を省略する。
【0036】
口金10には、自由柱6が設けられ、この自由柱6には軸12が挿通されている。軸12は、固定柱11に固定され、この固定柱11は第1の外管2に固定され、軸12はスライド方向と平行に設けられている
【0037】
固定柱11と自由柱6との間に、第1の圧縮コイルバネ7が軸12に挿通して設けられ、ダブルナット9と自由柱6との間に、第2の圧縮コイルバネ8が軸12に挿通して設けられている。
【0038】
第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8の力が吊り合い、自由柱6が固定柱11とダブルナット9との間隔L1の中間で停止している。この第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8の力が吊り合った状態では、自由柱6が固定された口金10の端面と第1の外管2の端部2bの端面とが間隔L2になり、第1の中管13の先端部13aの端面と主管抜差1の端部1aの端面とが間隔L3になっており、同様に自由柱6が固定されない側の口金10の端面と第2の外管3の端部3bの端面とが間隔L2になり、第2の中管14の先端部14aの端面と主管抜差1の端部1bの端面とが間隔L3になっている。
【0039】
このように、スライド部110は、楽器本体15に対して、外部から力が加わらない場合、スライド方向と平行な軸12の同軸上に配設された等価な一対の第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8が吊り合うことで楽器本体15からの距離を一定に保ち、一方、トリガーリング4により外部から力を加えた場合には、スライド方向に移動が可能となり、管路全長が調節可能となる。
【0040】
[第3の実施の形態]
図5は金管楽器に備えた金管楽器用ピッチ調整装置を示す図である。この第3の実施の形態の金管楽器用ピッチ調整装置100は、調律するための主管抜差1と楽器本体15との間に配置されて、楽器本体15の管路全長をスライドにより伸縮自在に変化させるスライド部110を有し、第1の実施の形態と同じ構成は同じ符号を付して説明を省略する。
【0041】
それぞれの口金10は、自由柱6で連結され、この自由柱6には軸12が挿通されている。軸12は、固定柱11に固定され、この固定柱11は第1の外管2と第2の外管3を連結し、軸12はスライド方向と平行に設けられている。軸12の頭部には、トリガーリング4が固定されている。
【0042】
固定柱11と自由柱6との間に、第1の圧縮コイルバネ7が軸12に挿通して設けられ、ダブルナット9と自由柱6との間に、第2の圧縮コイルバネ8が軸12に挿通して設けられている。
【0043】
第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8の力が吊り合い、自由柱6が固定柱11とダブルナット9との間隔L1の中間で停止している。この第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8の力が吊り合った状態では、自由柱6が固定された口金10の端面と第1の外管2の端部2bの端面とが間隔L2になり、第1の中管13の先端部13aの端面と主管抜差1の端部1aの端面とが間隔L3になっており、同様に自由柱6が固定されない側の口金10の端面と第2の外管3の端部3bの端面とが間隔L2になり、第2の中管14の先端部14aの端面と主管抜差1の端部1bの端面とが間隔L3になっている。
【0044】
このように、スライド部110は、楽器本体15に対して、外部から力が加わらない場合、スライド方向と平行な軸12の同軸上に配設された等価な一対の第1の圧縮コイルバネ7と第2の圧縮コイルバネ8が吊り合うことで楽器本体15からの距離を一定に保ち、一方、トリガーリング4により外部から力を加えた場合には、スライド方向に移動が可能となり、管路全長が調節可能となる。
【0045】
また、トリガーリング4は、軸12の頭部に固定され、確実にスライド部110をスライドさせることができ、しかも配置スペースの確保が容易である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明は、管路全長を調整して調律可能な金管楽器用ピッチ調整装置及び金管楽器に適用でき、簡単な構造で、管路全長を調整して調律し音程補正が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 主管抜差
2 第1の外管
3 第2の外管
4 トリガーリング
5 支柱
6 自由柱
7 第1の圧縮コイルバネ
8 第2の圧縮コイルバネ
9 ダブルナット
10 口金
11 固定柱
12 軸
13 第1の中管
14 第2の中管
15 楽器本体
100 金管楽器用ピッチ調整装置
110 スライド部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
調律するための主管抜差と楽器本体との間に配置されて、前記楽器本体の管路全長をスライドにより伸縮自在に変化させるスライド部を有し、
前記スライド部は、前記楽器本体に対して、
外部から力が加わらない場合、スライド方向と平行な軸の同軸上に配設された等価な一対の圧縮コイルバネが吊り合うことで前記楽器本体からの距離を一定に保ち、
一方、外部から力を加えた場合には、スライド方向に移動が可能となり、前記管路全長が調節可能となることを特徴とする金管楽器用ピッチ調整装置。
【請求項2】
前記スライド部が自動停止する位置を任意に決定可能にする調節部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の金管楽器用ピッチ調整装置。
【請求項3】
調律するための主管抜差と楽器本体との間に、請求項1または請求項2に記載の金管楽器用ピッチ調整装置を備えることを特徴とする金管楽器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−155208(P2012−155208A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15519(P2011−15519)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【特許番号】特許第4902792号(P4902792)
【特許公報発行日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(300024818)株式会社 ベストブラス (9)