説明

針状体および針状体製造方法

【課題】付加する薬液量の制御が容易で、且つ薬液が高効率で生体内に送達される部位に選択的に薬液を保持することが可能な針状体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の針状体は、突起部の先端部は、親水性を示す領域であり、前記突起部の根底部および基板表面は、疎水性を示す領域であることを特徴とする。これにより、皮膚穿刺で最深部に到達する突起部の先端部を含む親水性領域に、選択的に生理活性物質を含む溶液を保持することが出来る。したがって、保持した生理活性物質を無駄無く高効率で生体内に送達することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状体および該針状体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生理活性物質の生体内への供給方法として、非経口投与が広く用いられている。また、非経口投与として、経皮投与が知られている。経皮経路で生理活性物質を供給する場合、角質層のバリア機能によって、生理活性物質の皮膚透過性が低下する。このため、経皮吸収型の生理活性物質は、比較的皮膚透過性能の高いものが選択されており、皮膚透過性の低い生理活性物質の経皮吸収生理活性物質への適用は難しいとされている。
【0003】
近年、生理活性物質を経皮投与する方法として、微細な針状体を用いて経皮投与する方法が注目を集めている。微細な針状体を用いてバリア性の高い角質層を穿孔することで、生理活性物質の通過経路を形成し、経皮投与の効率を向上することが出来るため、一般的に経皮投与で用いられる脂溶性の生理活性物質だけではなく、水溶性の生理活性物質を経皮投与に適用できるという利点を有する。このとき、微細な針状体が角質層を貫通し、毛細血管や神経まで到達しないように設計することで、使用時に出血や痛みを伴わないようにすることが出来る。
【0004】
上記経皮投与の目的で微細な針状体を用いる場合、微細な針状体は、皮膚を穿孔するための十分な細さ、および先端角、皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、を有していることが望ましく、具体的には、針状体の直径は数μmから100μm程度、針状体の先端角度は30°以下、針状体の長さは数十μmから数百μm程度、であることが望ましいとされている。
【0005】
経皮投与の目的で用いられる微細な針状体の多くは、針状体表面または針状体内部に形成される流路を含み、生理活性物質を含む溶液(以下、薬液と表記する)は、前記流路を介して供給する形態で適用される。また、針状体に含まれる薬液輸送のための経路に親水性を付与することで、流体の輸送を増強する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、薬液を針状体表面に供給し、乾燥皮膜を形成する方法によって生理活性物質を針状体の表面に適用する方法が開示されている。この場合、針状体表面に湿潤性を向上する処理を施すことで、均一な乾燥皮膜を形成することができる。表面処理の方法としては、化学的前エッチング、プラズマ処理、熱処理、アルカリ性洗剤による洗浄および湿潤剤による洗浄が挙げられる(特許文献2参照)。
【0007】
また、上述した微細な針状体を構成する材料としては、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが望ましく、材料としては医療用シリコン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等の生体適合性材料が有望視されている(特許文献3参照)。
【0008】
また、上述した微細な針状体を製造する方法として、機械加工により針状体の原版を作成し、原版から複製版を作り、転写加工成形を行う製造方法が提案されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特表2005−514179号公報
【特許文献2】特表2006−500974号公報
【特許文献3】特開2005−021677号公報
【特許文献4】特表2006−513811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
予め針状体表面に薬液を付加して使用される針状体は、薬液供給のための流路や薬液を送液するための機構を必要としないため、比較的簡便に作製することができる。したがって、針状体の製造費用を抑制可能である。しかしながら、針状体表面に付加された薬液が完全に生体内に送達されることは無く、薬液のかなりの部分は使用後も針状体の表面、特に基板上に残留し、またその残留程度は、針状体の穿刺状況や皮膚の状態などに左右される。したがって、厳密に管理されるべき生理活性物質の投与量が不安定であるという問題があった。また、使用後に針状体に残留する生理活性物質の量を予め見込んで、実際に必要とされる量以上の生理活性物質を針状体に付加する必要があるために、特に高価な生理活性物質を用いる場合に、患者の費用負担が大きくなるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、付加する薬液量の制御が容易で、且つ薬液が高効率で生体内に送達される部位に選択的に薬液を保持することが可能な針状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の本発明は、微細な針状体において、基板と、前記基板上に設けられた突起部と、を備え、前記突起部の先端部は、親水性を示す領域であり、前記突起部の根底部および基板表面は、疎水性を示す領域であることを特徴とする針状体である。
なお、本明細書において、「針状体」とは、突起部が一本の場合に限定されず、突起部が複数本規則的に配列(例えば、アレイ状に配列)された構造体をも含むものとして定義する。
【0012】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の針状体であって、親水性を示す領域について、水の接触角が90度未満であり、疎水性を示す領域について、水の接触角が90度以上であることを特徴とする針状体である。
【0013】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または2のいずれかに記載の針状体であって、親水性を示す領域は光触媒を付加した領域であることを特徴とする針状体である。
【0014】
請求項4に記載の本発明は、請求項1から3のいずれかに記載の針状体であって、突起部がポリ乳酸よりなることを特徴とする針状体である。
【0015】
請求項5に記載の本発明は、微細な針状体の製造方法において、基板上に突起部を形成する工程と、前記突起部が形成された前記基板上に、前記突起部の長さよりも膜厚が短いマスクを配置する工程と、前記マスクを貫通した前記突起部の先端部を親水性に改質する工程と、前記マスクを取り除く工程と、を備えたことを特徴とする針状体製造方法である。
【0016】
請求項6に記載の本発明は、微細な針状体の製造方法において、基板上に突起部を形成する工程と、前記突起部の先端部に、マスクを配置する工程と、前記突起部の根底部および基板表面を疎水性に改質する工程と、前記マスクを取り除く工程と、を備えたことを特徴とする針状体製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の針状体は、突起部の先端部は、親水性を示す領域であり、前記突起部の根底部および基板表面は、疎水性を示す領域であることを特徴とする。これにより、皮膚穿刺で最深部に到達する突起部の先端部を含む親水性領域に、選択的に生理活性物質を含む溶液を保持することが出来る。したがって、保持した生理活性物質を無駄無く高効率で生体内に送達することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明による針状体の説明を行う(図1)。
本発明の針状体は、
基板と、
前記基板上に設けられた突起部と、を備え、
前記突起部の先端部は、親水性を示す領域であり、
前記突起部の根底部および基板表面は、疎水性を示す領域であること
を特徴とする。
【0019】
基板は、突起部を支持するために設けられる。基板は、突起部を支持するだけの機械的強度があれば特に限定はされない。突起部と同一の材料から形成されても、突起部とは異なる材料から形成されても良いが、生体に対して低刺激の材質であることが好ましい。また、曲面に対しても面に対して均一な押圧が出来るように柔軟性を持つことが好ましい。
【0020】
本発明の針状体においては、突起部の形状、突起部の寸法、突起部を構成する材料等は制限されることは無い。経皮投与の目的で微細な針状体を用いる場合、突起部の直径は数μmから数百μm、長さは数十μmから数百μm程度のものであることが望ましい。
【0021】
突起部を形成する材料については特に限定されないが、針状体を生体の皮膚に対して使用する場合、生体に悪影響を及ぼさない材質で突起部が形成されることが好ましい。医療用シリコン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン、Mg系化合物、Ti系化合物等の生体適合材料が好適に用いられる。
【0022】
本発明の針状体は、突起部の先端部は、親水性を示す領域であり、前記突起部の先端部を除く突起部表面および基板表面は、疎水性を示す領域を特徴とする。
例えば、具体的には、前記親水性領域について、水の接触角は90度未満が好ましく、50度未満であることがより好ましい。また、前記疎水性領域について、水の接触角は90度以上であることが好ましく、130度以上であることがより好ましい。
本発明の針状体においては、親水性領域を包囲する疎水性領域によって、親水性領域に保持された薬液が流出するのを抑制する効果を有しており、親水性領域と疎水性領域水の接触角の差が大きいほど、薬液の保持効果が大きくなる。
【0023】
本発明による針状体は、表面の濡れ性を制御した領域を選択的に配置することで、所望の領域に薬液を選択的に保持することを可能とするものであるが、針状体表面へ所望量の薬液を供給した後に、薬液の表面への保持状態を強化する処置を施しても構わない。例えば、薬液中の溶媒をある程度放出するための処置を施すことで、薬液自体の粘性が高くなることを利用して、針状体表面の薬液付着状態を補強しても良い。薬液中の溶媒をある程度放出するための処置としては、例えば、減圧や加熱などを行っても良い。
【0024】
図1に示す本発明の針状体の概略図においては、全ての突起部において先端を含む領域が親水性表面である例を示しているが、必ずしも全ての突起部に親水性表面が形成されていなくても良い。親水性表面を形成する突起部の割合を変えることで、針状体全体における薬液保持量を制御することも可能である。また、同様の薬液保持量制御性を、突起部に形成する親水領域の面積制御によって付与することも可能である。
【0025】
本発明の針状体は、薬液が油系の場合、発明の効果は得られない。この場合、本発明の親水性領域と疎水性領域の配置を入れ替えることで、本発明と同様の、突起部先端を含む領域における薬液の選択的保持効果が得られる。
【0026】
本発明による微細な針状体への薬液の供給方法は特に制限されない。親水性領域に選択的に薬液を供給してもよく、また、突起部が形成された面に一様に薬液を供給しても良い。この場合、疎水性領域に付加された薬液は、表面張力によって概球形を保とうとするため、基板を傾ける、或いは窒素や空気を軽くブローするだけで、容易に基板上から除去される。除去された薬液は回収され、別の針状体への付加に用いられることが好ましい。
【0027】
以下、本発明の針状体の製造方法について、図2を用いながら具体的に説明を行う。
本発明の針状体の製造方法は、本発明の針状体の製造方法は、針状体にマスクを施し、マスク外の表面を親水性/疎水性に表面加工を行うことを特徴とする。
【0028】
図2(a)に示す微細な針状体の作製には、針状体の形状に応じて適宜公知の製造方法を用いて良い。このとき、微細加工技術として、例えば、リソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、サンドブラスト法、レーザー加工法、精密機械加工法などを用いても良い。また、前記微細加工技術により母型を作製し、この母型と成形材料とを用いて、転写成形法によって微細な針状体を作製することもできる。また、母型から複製型を作製し、この複製型と成形材料とを用いて、転写成形法によって微細な針状体を作製することも可能である。転写成形法としては適宜公知の製造方法を用いて良く、例えば、射出成形法、押し出し成形法、インプリント法、キャスティング法等を、好適に用いることが出来る。
【0029】
針状体表面の所望の領域に対し選択的に表面処理を実施するために、所望の領域に対応する開口を有するマスクを準備する。マスクの材質や形態は特に制限されない。針状体表面を親水性、または疎水性に改質する表面処理に対して、パターン部と遮蔽部が十分な選択性を有していれば良い。例えば、親水処理を施す領域に対応した開口を有するマスクを準備し、図2(b)に示すように前記マスクを突起部上の所定の位置に配置した後に、図2(c)に示すように親水処理を施すことで、図2(d)に図示される、前記マスクの開口部に対応した領域のみに親水性領域を形成することが出来る。針状体が容易に穿刺可能な材料を用いれば、所望の領域に開口を形成せずに、突起部の先端部のみをマスクから露出させることも可能である。例えば、針状体で容易に穿刺できるシリコン樹脂を準備し、シリコン樹脂に対して針状体を穿刺して貫通させ、突起部の先端領域のみをシリコン樹脂から露出させればよい。この場合、例えば高さ150μmの突起部に対し、突起部先端から50μmだけの高さをシリコン樹脂から露出させるためには、突起部の高さと露出させたい先端部の高さの差である100μmの厚さを持つシリコン樹脂を用意し、突起部でシリコン樹脂を完全に貫通して、シリコン樹脂から50μmだけ、突起部先端を露出させることができる。
【0030】
また、疎水処理を施す領域に対応したマスクを準備し、疎水処理を施すことで、所望の領域のみに疎水領域を形成することも可能である。この場合、図3に示すように突起部を所望の深さだけシリコン樹脂に穿刺してマスクを施し、突起部の根底部および基板表面を疎水処理してもよい。例えば、高さ150μmの突起部に対し、突起部先端の50μmだけを疎水処理から保護する場合は、突起部を50μmの深さだけシリコン樹脂に穿刺し、疎水処理を施してもよい。
【0031】
針状体表面を親水性、または疎水性に改質する方法は、所望する表面特性に応じて適宜公知の処理方法を用いて良い。このとき、表面処理方法として、例えばオゾン照射、紫外線やX線等の電磁波照射、電子線照射、プラズマ照射、表面への特性改質物質付加、光触媒の付加等を好適に用いることができる。
【0032】
生体適合性材料であるポリ乳酸から作製された微細な針状体では、突起部の形成された面の所望の領域にオゾン処理を実施することで、処理表面を施した領域を、水の接触角が90度以下の親水性に容易に改質できる。表面処理が施されない表面は、水の接触角が100度程度のポリ乳酸の疎水性表面が維持され、本発明による針状体が得られる。
【0033】
また、表面親水処理を、親水性を促進する物質の付加により実施することも可能である。この方法により、表面改質による親水性の付加が困難な物質に対して、本発明を適用できるようになる。ただし、突起部を生体の皮膚に対して用いる場合は、前記親水性を促進する物質が生体に悪影響を及ぼさない物質であることが望ましい。親水性物質の付加方法については特に制限されず、適宜公知の処理方法を用いて良い。このとき、例えばスプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、蒸着法、グラフト重合法等を好適に用いることが出来る。親水性を促進する物質としては、例えばポリビニルアルコール、リン脂質化合物等が挙げられる。
【0034】
表面親水処理を、光触媒効果によって実施することも可能である。酸化チタンに代表される光触媒を、針状体表面の所望の領域に付加し、励起光を照射することで、所望の領域の親水性を向上することができる。または、針状体表面全面に光触媒を付加し、マスクを用いて励起光の照射領域を限定することで、所望の領域への選択的な親水処理を施すことも可能である。このとき、マスクとしては励起光を遮光する性能を満たす必要がある。
【0035】
また、所望の領域に疎水処理を施すことも可能である。例えば、水系薬液に対する疎水領域を設ける場合、フッ素系ガス処理による表面フッ化を用いることも出来る。フッ化された表面は、水系薬液に対し疎水性を示す。
【0036】
石英から形成される微細な針状体表面は、親水性を示す。同様に、表面に存在する自然酸化膜のために、シリコンから成る微細な針状体表面も、親水性を示す。石英または自然酸化膜が形成されたシリコン表面の親水性を疎水性に改質する場合、例えば、ヘキサメチルジシラザン溶液による表面処理によって表面にメチル基を付与し、疎水性表面を得ることが可能である。また、例えば、自然酸化膜が形成されたシリコン表面を、フッ酸水溶液で処理することで、表面の自然酸化膜を除去し、表面のシリコン原子のダングリングボンドを水素原子で終端して、疎水性表面を得ることも可能である。したがって、マスクを用いて、所望の領域に上記の疎水処理を実施することで、疎水性領域を選択的に形成することが可能である。
【0037】
上記の通りマスクを介して所望の領域に表面改質処理した後に、マスクを取り除くことによって、図2(e)に示す通りの本発明による針状体が得られる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の針状体の製造方法の実施の一例として、具体的に図2を用いながら説明を行う。当然のことながら、本発明の針状体の製造方法は下記実施例に限定されず、類推できる他の製造方法をも含むものとする。また、本発明の針状体は、下記の実施例にて作製された針状体に限定されるものではない。
【0039】
まず、精密機械加工を用いて、シリコン基板に、正四角錐の突起部(高さ:150μm、底面:60μm×60μm)が、1mm間隔で、5列5行の格子状に25本配列した針状体を形成した。25本の突起部は、一辺が約4mmの正方形領域内に配置された。
【0040】
次に、前記シリコン基板で形成された針状体に、スパッタ法によりニッケル導電層を100nmの厚さに形成した。この導電層は、続いて行う電解メッキにおけるシード層となる。
次に、前記シード層上に、電解メッキ法によってニッケル膜を500umの厚さに形成した。
次に、90℃に加熱した重量パーセント濃度30%の水酸化カリウム水溶液によって前記シリコン基板をウェットエッチングして完全に除去することにより、ニッケルから成る針状体の複製型を作製した。
次に、前記複製型を用い、インプリント法によってポリ乳酸への針状体転写成形を実施し、ポリ乳酸から複製型を剥離した。
【0041】
以上により、図2(a)に示す、基板1と突起部2から成る、ポリ乳酸製の針状体10が得られた。針状体10は、一辺が約8mmの正方形の基板1上に、正四角錐(高さ:150μm、底面:60μm×60μm)の突起部2が、1mm間隔で、5列5行の格子状に25本配列した形態で作製された。
【0042】
次に、前記針状体10の表面状態を調べるため、接触角の測定を実施した。前記針状体10を水平なステージ上に静置し、純水を滴下して測定した結果、前記針状体10の表面に対する水の接触角は、約100度であった。
【0043】
次に、マスクを準備した。一辺が10mmの正方形で、厚さ100μmのシリコン樹脂をマスクとして準備し、図2(b)に示す通り、突起部2によってシリコン樹脂4を穿刺し、シリコン樹脂4から突起部2の先端を露出させた。このとき、シリコン樹脂4から露出した突起部2の高さ3は、約50μmであった。
【0044】
次に、図2(c)に示すように、表面親水化手段の一つであるオゾン処理5を、シリコン樹脂4から露出した突起部2の先端部に選択的に実施し、図2(d)に図示される、突起部先端に親水性領域56を形成した。
次に、針状体10からシリコン樹脂4を取り外し、図2(e)に示す通りの、突起部先端に親水性領域56が形成された、本発明による針状体11が得られた。
【0045】
続いて、本発明の効果を確認するため、蛍光粒子を分散した水系の薬液に、針状体11を完全に浸漬した。1分間後、針状体11を薬液から引き上げた。その後、蛍光粒子の励起光を照射しながら光学顕微鏡で針状体11表面を観察したところ、突起部2の先端から約50μmの領域に蛍光発光が集中的に確認され、一方それ以外の領域では蛍光発光は確認されなかった。この結果から、突起部2先端の約50μmの領域に、選択的に薬液が保持されたことを確認した。
【0046】
次に、針状体11と同様の工程を経て作製したポリ乳酸平板試料を二つ準備し、そのうちの一方にオゾンによる親水処理を施した。これらの試料を水平なステージ上に静置し、純水を滴下して測定した結果、オゾン処理を施した試料表面における水の接触角は約40度であり、オゾン処理を施していない試料表面おける水の接触角は約100度であった。この結果から、本実施例によって作製した針状体11において、突起部先端に形成された親水性領域は水の接触角が40度程度の親水性を呈し、一方、それ以外の領域は水の接触角が100度程度の疎水性を呈しているものと測定された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の針状体の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態による針状体の製造工程の一例を経時的に説明するための概略部分断面図である。
【図3】本発明の実施の形態による針状体の製造工程におけるマスク配置の一例を示す概略部分断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1……基板
2……突起部
3……マスクから露出した突起部の根底部の高さ
4……マスク
5……表面改質手段
6……改質された表面
10……針状体
11……針状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な針状体において、
基板と、
前記基板上に設けられた突起部と、を備え、
前記突起部の先端部は、親水性を示す領域であり、
前記突起部の根底部および基板表面は、疎水性を示す領域であること
を特徴とする針状体。
【請求項2】
請求項1に記載の針状体であって、
親水性を示す領域について、水の接触角が90度未満であり、
疎水性を示す領域について、水の接触角が90度以上であること
を特徴とする針状体。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の針状体であって、
親水性を示す領域は光触媒を付加した領域であること
を特徴とする針状体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の針状体であって、
突起部がポリ乳酸よりなること
を特徴とする針状体。
【請求項5】
微細な針状体の製造方法において、
基板上に突起部を形成する工程と、
前記突起部が形成された前記基板上に、前記突起部の長さよりも膜厚が短いマスクを配置する工程と、
前記マスクを貫通した前記突起部の先端部を親水性に改質する工程と、
前記マスクを取り除く工程と、
を備えたことを特徴とする針状体製造方法。
【請求項6】
微細な針状体の製造方法において、
基板上に突起部を形成する工程と、
前記突起部の先端部に、マスクを配置する工程と、
前記突起部の根底部および基板表面を疎水性に改質する工程と、
前記マスクを取り除く工程と、
を備えたことを特徴とする針状体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−228959(P2008−228959A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72227(P2007−72227)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】