説明

鉄および鉄合金のためのクロミウム化成皮膜を調製する方法

【課題】室温以上(約120°F(48.9℃))で鉄およびその合金上に化成皮膜を調製する方法を提供する。
【解決手段】耐食性および接着結合性を改善するための鉄および鉄合金上にジルコニウム−クロム化成皮膜を調製する方法は、鉄および鉄合金をpHが約2.5〜5.5である酸性水溶液で処理することを含み、前記酸性水溶液が、1リットルあたり、約0.01〜22グラムの3価クロム化合物、約0.01〜12グラムのヘキサフルオロジルコン酸塩、約0.0〜12グラムの、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのフルオロ化合物、約0.0〜10グラムの少なくとも1つの2価亜鉛化合物、0.0〜約10グラムの水溶性増粘剤および0.0〜約10グラムの少なくとも1つの水溶性界面活性剤を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願明細書に記載されている本発明は、アメリカ合衆国政府に従事する者によってなされたものであり、特許権使用料を支払うことなく、政府によって、または、政府のために、若しくは、政府目的のために製造および使用することができる。
【0002】
継続出願本出願は、2005年に出願した同時係属出願第NC−96,347の一部継続出願である。
【0003】
この発明は、鉄および鉄合金上のジルコニウム−クロミウム化成皮膜を調製する方法に関する。その方法は、3価クロム化合物、少なくとも一つのヘキサフルオロジルコン酸塩、および、場合によっては、テトラフルオロホウ酸塩および/またはヘキサフルオロケイ酸塩、亜鉛化合物、界面活性剤、湿潤剤および/または増粘剤を含む有効量の酸性水溶液で鉄およびその合金を前処理することを含む。
【0004】
より詳しくは、この発明は、合金接着結合性および耐食性を改善するために鉄および鉄合金を前処理する方法に関する。この方法は、対象となる鉄およびその合金を、少なくとも1種類の水溶性の3価クロム化合物、水溶性のヘキサフルオロジルコン酸、水溶性のテトラフルオロホウ酸塩および/またはヘキサフルオロケイ酸塩、少なくとも1種類の水溶性の2価亜鉛化合物、および水溶性の増粘剤および/または水溶性の界面活性剤を含む有効量の酸性水溶液で処理する工程を有する。
【背景技術】
【0005】
鋼鉄のような合金の現在の表面処理には、その用途によって、様々な機械処理および化学処理が含まれる。歴史的に、燐酸被覆法は、塗料などの様々な外側皮膜の粘着性および鋼鉄の耐食性を改善するために用いられてきた。例えば、グリットブラストは、燐酸被覆法が現実的に適用されない場合、粘着性を改善するために用いられてきた。この場合、所望の塗料プライマーは、ダイレクトオンメタル(direct−to−metal)」方法と呼ばれるグリット仕上げの鋼鉄に直接塗布される。多くの機関は、最適な粘着性および耐食性のために6価クロム「洗浄」に頼っているため、燐酸被覆法の使用頻度を減らして、ダイレクトオンメタル技術に依存する。ダイレクトオンメタル皮膜が直接的であり、かつ、化学的に生成された皮膜に依存しないかわりに、最適な性質の塗装系を提供しない。化学的な前処理が実施されないと、系全体の耐食性を低下させる。これは、部分的に、鉄合金(例えば鋼鉄)を塗装するための非クロム酸プライマーが広範囲で使用されるためとなる部分であるからである。グリットブラストは、塗料の粘着性のために強固な機械ベースを与える一方、労働集約的であり、かつ、収集後に再利用又は廃棄しなければならない消費された大量のグリットを生成しながら、すべての鋼鉄面にグリットで塗装する必要がある。
【0006】
更に、ここで耐蝕性の化成皮膜が、鋼鉄などの鉄合金には存在せず、鋼鉄部分のグリットブラスト塗装または洗浄後、塗料の塗布前に発生する「フラッシュさび」の問題がある。フラッシュさびが生じないようにする要件は、スケジューリング上相当な負担となり、かつ、塗装前2、3時間以上成分を付着させることができない。これによって、一晩または週末の間、その部分または成分が付着しないようにすることから、シフトの終りまでに仕事が完了できず、特定のシフトが終わる前に塗装できない。これによって、通常必要とされる生産性よりも低い生産性が低くなる。更に、塗装前に出荷や移送を必要とする、塗装されるだけでなく処理される部分または成分には、次に、塗料の塗装前に、その後除去しなければならない精巧かつ高コストの保護皮膜が必要とされる。アルミニウムの前処理に類似する鉄などの鉄合金の化学的な前処理は、利用可能ではないが望ましい。かかる皮膜は、グリット仕上げされた表面を必要せずに、より優れた塗料の粘着性を鋼鉄基材に与えることから、塗装された鋼鉄の耐食性を増加させる。合金の前処理は、フラッシュさびを予防するのにも役立ち、塗装を必要とする前に鋼鉄部分のハンドリングタイムを長くすることができる。かかる前処理は、成分または鋼鉄部分を前処理された溶液のタンクに浸漬するのみによって、合金に溶液を噴霧することによって、あるいは、合金に溶液を塗りつけることによって実施することが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、室温以上(約120°F(48.9℃))で鉄およびその合金上に化成皮膜を調製する方法に関する。より詳しくは、この発明は、その耐食性および粘着性結合作用を改善するために鋼鉄のような鉄合金上に化成皮膜を調製する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の3価クロム化成処理(TCP)は、pHが約2.5〜5.5、好ましくは3.7〜4.0である酸性水溶液、酸性水溶液1リットルあたり、約0.01〜22グラムの水溶性3価クロム化合物、約0.01〜12グラムのアルカリ金属ヘキサフルオロジルコン酸塩、0.0〜12グラムの、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩およびそれらの様々な組合せまたは混合物からからなる群から選択される少なくとも1つのフルオロ化合物、0.0〜10グラムの少なくとも1つの水溶性2価亜鉛化合物、0.0〜10グラム、好ましくは0.5〜1.5グラムの水溶性増粘剤および/または0.0〜10、好ましくは0.5〜1.5グラムの少なくとも1つの水溶性の非イオン系、陽イオン系、および陰イオン系界面活性剤または湿潤剤を含む。
【0009】
従って、本発明の目的は、鉄合金を前処理するために、3価クロム化合物と、ヘキサフルオロジルコン酸塩と、テトラフルオロホウ酸塩および/またはヘキサフルオロケイ酸塩とを含み、耐食性および接着結合性を改善する酸性水溶液を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、pHが約2.5〜5.5の安定な酸性水溶液であって、鋼鉄などの鉄合金を前処理するために、3価クロム塩およびヘキサフルオロジルコン酸塩を含む酸性水溶液を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、実質的な変色を有し、グリット仕上げされた表面がない、より優れた粘着性が得られるように鋼鉄を被覆する前処理方法を提供することである。この発明の前処理方法もまた、ダイレクトオンメタル方法によって塗装される鋼鉄と比較して、塗装された鋼鉄の改善された耐食性を提供する。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、pHが約3.7〜4.0の安定な酸性水溶液であって、常温以上で鉄合金を処理するために3価クロムを含み、酸性水溶液は、実質的に6価クロムを含有しない酸性水溶液を提供することである。
【0013】
本発明のこれらの目的および他の目的は、付随する図1〜図6(写真)と合わせて考慮される際の詳述記載を参照して明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、接着結合性および耐食性を改善するために鉄およびその合金(例えば鋼鉄)に化成皮膜を形成するために、約2.5〜5.5、好ましくは約2.5〜4.5または3.7〜4.0の範囲内のpHを有する酸性水溶液を用いる方法に関する。この方法は、約120°F(48.9℃)以下の温度で、約0.01〜22グラム、好ましくは約0.01〜10グラム(例えば5.0〜7.0グラム)の、硫酸クロム等の少なくとも1種類の水溶性の3価クロム化合物と、約0.01〜12グラム、好ましくは約1.0〜8.0グラム(例えば6.0〜8.0グラム)の、少なくとも1種類のアルカリ金属ヘキサフルオロジルコン酸と、約0.0〜12グラム、好ましくは約0.12〜0.24グラム(例えば、約0.12〜2.4グラム)の、アルカリ金属テトラフルオロホウ酸塩、アルカリ金属ヘキサフルオロケイ酸塩、およびそれらの任意の割合での種々の混合物または組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種類のフッ素化合物と、約0.0〜10グラム、好ましくは約0.001〜10グラムまたは0.1〜5.0グラムの、硫酸亜鉛等の少なくとも1種類の2価亜鉛化合物とを含む酸性水溶液を用いて皮膜を形成する工程を有する。
【0015】
従来の機械的技術または化学的技術によって、鉄合金(例えば鋼鉄基材)を洗浄およぼ脱酸素またはピクリングした後、溶液は、アルミニウム前処理で使用される方法と類似の浸漬、噴霧またはワイプオン技術を用い、基材に約常温で塗布される。溶液浸透時間は、約1.0〜10分である。この溶液によれば、1.0〜10分の浸透時間は、変色、塗料の粘着性および耐食性が得られる最適フィルムが得られる。本発明にとってさらに重要なことは、1.0〜10分の浸透時間によって、主に水溶液の化学組成物によって、紺青色から青灰色の成膜直後の皮膜に、かなりの変色が得られる。次に、残留した溶液を、水道水または脱イオン水により基材から洗浄除去される。更に後処理を行う必要はない。前処理皮膜は、次の塗装まで、完全に乾燥状態にすることができる。
【0016】
ある方法において、独特な特徴は、物理的な大きさの鉄合金の基材のような鉄合金の物理的性質に応じて、溶液の蒸発を遅らせて、噴霧および拭き仕上げによる塗布の際に最適な皮膜の形成を助けるための増粘剤の添加である。これにより、塗料の付着を妨げる粉末状の堆積物の形成も緩和される。更に、増粘剤の添加により、大面積上に塗布する場合にも適切な皮膜の形成が容易になり、処理中の前工程から基材上に残存する洗浄水による希釈効果が緩和される。この特徴より、むらがなく、着色および耐食性に改善された皮膜が得られる。セルロース化合物等の水溶性の増粘剤は、酸性水溶液中に、1リットル当たり約0.0〜10グラム、好ましくは0.5〜1.5グラム、または例えば、水溶液1リットル中に約1.0グラム存在する。
【0017】
鉄合金の性質に応じて、有効量の、しかし少量の、少なくとも1種類の水溶性の界面活性剤または湿潤剤を、酸性溶液中に、1リットル当たり約0.0〜10グラム、好ましくは0.5〜1.5グラム、例えば、酸性溶液1リットル中に1.0グラムの量で加えてもよい。公知の水溶性の界面活性剤は多数存在するので、本発明の目的のために、界面活性剤は、非イオン系、陽イオン系、および陰イオン系界面活性剤よりなる群から選択できる。3価クロムは、水溶性の3価クロム化合物、好ましくは3価クロム塩として溶液に添加される。特に、本発明の酸性水溶液の調製において、クロム塩は、クロムの価数が+3であれば、都合よく水溶性の塩として溶液に添加してもよい。例えば、数種の好ましいクロム化合物は、Cr(SO、(NH)Cr(SO、またはKCr(SOおよびこれらの化合物の混合物として溶液中に含まれる。3価クロム塩の好ましい濃度は、水溶液1リットル当たり約5.0〜7.0グラムである。溶液中の3価クロム塩の濃度が好ましい範囲内にあるとき、これらの方法により特に好結果が得られることがわかった。処理によっては、1リットル当たり0.01グラム以上かつ化合物の溶解度の上限までの量のテトラフルオロホウ酸アルカリ金属塩および/またはヘキサフルオロケイ酸アルカリ金属塩を、酸性溶液に添加してもよい。例えば、フルオロジルコン酸塩の重量に対して約50重量%のフルオロケイ酸塩を添加する。換言すると、1リットル当たり8.0グラムのフルオロジルコン酸塩に対し、1リットル当たり約4.0グラムのフルオロケイ酸を溶液に添加する。或いは、フルオロジルコン酸塩の重量に対して約0.01〜100重量%のフルオロホウ酸塩を添加する。例えば、フルオロジルコン酸塩の重量に対して約1.0〜10重量%のフルオロホウ酸塩を添加してもよい。具体例では、約6.0〜8.0グラム/リットルのヘキサフルオロジルコン酸カリウム、約5.0〜7.0グラム/リットルの硫酸クロム(III)、約1.0〜5.0グラム/リットルの硫酸亜鉛(II)、および約0.12〜0.24グラム/リットルのテトラフルオロホウ酸カリウムを含む。安定剤であるフルオロホウ酸塩および/またはフルオロケイ酸塩の添加による重要な結果は、pHが約2.5〜5.5に保たれると共に溶液が安定化することである。しかし、場合によっては、pHを約2.5〜5.5、好ましくは2.5〜4.5または3.7〜4.0に保つために、有効量の希釈した酸または塩基を加えて多少pHを調節する必要がある。
【0018】
皮膜の色および耐食性を、亜鉛を含まない組成物よりも向上させるために、溶液は少なくとも1種類の2価亜鉛化合物を含んでいてもよい。皮膜に付与される色を調節するために、Zn+陽イオンの量が約0.001〜10グラム/リットル、例えば、0.1〜5.0となるよう亜鉛化合物の量を変化させてもよい。2価亜鉛は、水溶性を有し、水溶液中の他の成分に適合性を有する塩などの任意の化合物として供給することができる。所望の濃度範囲で水溶性を有する2価亜鉛化合物としては、好ましくは、酢酸亜鉛、テルル酸亜鉛、テトラフルオロホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、ヘキサフルオロケイ酸亜鉛等、またはこれらの任意の割合での組み合わせが挙げられる。
【0019】
鉄合金の前処理は、溶液温度が大気温度(例えば、常温付近)以上かつ約120°F(48.9℃)以下、または約200°F(93.3℃)以下等の種々の温度で行うことができる。しかしながら、加熱装置が不要になる点において常温が好ましい。皮膜は、オーブン乾燥、強制風乾、赤外線ランプの照射等の任意の公知の方法を用いて空気乾燥することができる。本発明の目的を達成するために、用語「鉄合金」には、任意の鉄合金(例えば少量であるが有効量の様々な他の金属を含有する鋼鉄)および非金属(例えば炭素など)が含まれる。
【0020】
以下の実施例を用いて、本発明の安定な溶液、およびこの溶液を用いて、鉄およびその合金に対し、色の認識が可能で、接着結合性が向上し、耐食性を有する皮膜を形成する方法について説明する。
【実施例】
【0021】
実施例1
約3.4〜4.0のpHを有し、鋼鉄を前処理して合金上に耐食性および色識別性を有する皮膜を形成するための安定な酸性水溶液は、溶液1リットル当たり約3.0グラムの塩基性硫酸クロム(III)、約4.0グラムのヘキサフルオロジルコン酸カリウム、および約1.0グラムの硫酸亜鉛を含んでいる。
【0022】
実施例2
鋼鉄を処理して耐食性および色識別性を有する皮膜を形成するための安定な酸性水溶液は、溶液1リットル当たり約3.0グラムの塩基性硫酸クロム(III)、約4.0グラムのヘキサフルオロジルコン酸カリウム、約0.12グラムのテトラフルオロホウ酸カリウムを含んでいる。
【0023】
実施例3
鋼鉄を処理して耐食性および色識別性を有する皮膜を形成するための安定な酸性水溶液は、溶液1リットル当たり約3.0グラムの塩基性硫酸クロム(III)、約4.0グラムのヘキサフルオロジルコン酸カリウム、約0.12グラムのテトラフルオロホウ酸カリウム、および約2.0グラムの硫酸亜鉛(II)を含んでいる。
【0024】
以下の実施例ならびに表1および表2のデータは、Mil−P−53022エポキシプライマーおよび4130鋼鉄試験クーポンを用いた皮膜の塗料の粘着性能を示す。Mil−P−53022プライマーは、様々な国防省のシステムのおける鋼鉄に通常用いられる。皮膜は、対照皮膜と比較して、塗料の粘着性のかなりの増加が得られることが、表のデータから明白である組成物または溶液を、一般的な環境条件で使用され、反応速度を増加させるために高温で塗布してもよい。
【0025】
実施例A
鉄合金の化成皮膜としてのTCP/TCP−CCの処理データおよび実施例。化成皮膜を、以下の通りに4130鋼に塗布した。4130鋼製の試験クーポンを、140〜160°F(60〜71.1℃)から10分間、標準のアルカリ性洗浄剤(Turco HTC)で洗浄した。次いで、クーポンを洗浄除去し、被験液に直接浸漬した。溶液は、1リットルにつき約6.0グラムの塩基性硫酸クロムおよび1リットルにつき8.0グラムのヘキサフルオロジルコン酸カリウム(TCP−P)の水溶液を含んでいた。クーポンをTCP−Pにほぼ10分浸透させ、除去し、脱イオン水で完全に洗浄除去する。
【0026】
次いで、クーポンを、周囲条件下でラック内で乾燥させた。得られた皮膜は、(容易に実験室で可視できる)濃紺青色であった。これは、処理装置に皮膜の完了を知らせる方法となる、処理の品質管理における重要指標である。TCP−P被覆された4130鋼に加えて、4130の対照群を上記の溶液で洗浄(Turco HTC)して調整した。これらの鋼鉄板またはクーポンのサブセットを、1.0〜1.5ミルの平均プロフィール(ダイレクトオンメタル塗装の標準)を生成するために、アルミナグリット媒体によってグリットブラスティングした。次いで、これらの鋼鉄クーポンに、ほぼ1.0ミルの厚さまでMIL−C−53022プライマーによって塗装した。クーポンの1つのサブセットを、プライマーの前にAqua Zen「ウォッシュプライマー」によって塗装した。Aqua Zenは、粘着性を促進し、塗装系の腐食性能を改善するために用いられる業界基準の皮膜である。塗装されたクーポンを、環境条件下で14日間付着し、塗料を硬化させることができた。硬化後、クーポンに対して、塗装後の粘着性試験および塗装後の腐食試験を実施した。表1は、塗料の粘着性の結果を記載する。等級4および5は合格であり、等級0〜3不合格とみなされる。データで示すように、鋼鉄がグリットブラスティングされたか否かに関わらず、TCP−P皮膜は4130鋼に優れた塗料の粘着性を与える。TCP−P皮膜もまた、国防総省の施設に通常用いられる2枚の対照板と比較して、全体的により優れた性能を示す。この試験において、TCP−P皮膜は、Aqua Zen処理に比べてより良好であり、MIL−C−53022プライマーを用い、グリットブラストを用いない場合に優れた性能を示し、プライマーを用いた場合には、塗料の粘着性が極めて劣っている。図1〜6(写真)は、表1に記載されている塗装系ごとに、7日間の湿ったテープの粘着性の実施例を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例B
化成皮膜を、以下の通りに4130鋼に塗布した。試験クーポンを、実施例Aと同じ方法で調製した。組成物(TCP−CC)溶液は、1リットルにつき3.0グラムの塩基性硫酸クロムと、1リットルにつき6.0グラムのヘキサフルオロジルコン酸カリウムと、1リットルにつき0.18グラムのテトラフルオロホウ酸カリウムと、1リットルにつき2.0グラムの硫酸亜鉛を含んでいた。
【0029】
表2は、表1の結果と比較できるこれらの皮膜形成されたクーポンからの塗料の粘着性の結果を記載する。データから分かるように、このTCP(すなわち変色組成物(TCP−CC)から形成される皮膜は、定着剤としてのTCP−Pと同様の性能である。
【0030】
【表2】

【0031】
本発明の酸性溶液の調整の際、水溶性の界面活性剤が、3価クロム溶液に、1リットル当たり約0〜10グラム、好ましくは0.5〜約1.5グラム添加されていてもよい。界面活性剤は、表面張力を低下させることによって濡れ性を向上させ、それにより鉄合金基材の表面を完全に被覆し、より均一な薄膜を形成するために水溶液に添加される。界面活性剤としては、非イオン性、陰イオン性、および陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種類の水溶性の界面活性剤が挙げられる。周知の水溶性界面活性剤のいくつかには、モノカルボキシルイミドアゾリン、アルキル硫酸ナトリウム塩(DUPONOL(登録商標))トリデシルオキシポリ(アルキレンオキシエタノール)、エトキシル化またはプロピキシル化アルキルフェノール(IGEP AL(登録商標))アルキルスルホンアミド、アルカリルスルホン酸塩、パルミチカルカノール(palmiticalkanol)アミド(CENTROL(登録商標))オクチルフェニルポリエトキシエタノール(TRITON(登録商標))ソルビタンモノパルミテート(SPAN(登録商標))ドデシルフェニルポリエチレングリコールエーテル(例えばTERGITROL(登録商標))アルキルピロリドン、ポリアルコキシル化脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩およびそれらの混合物が挙げられる。他の公知の水溶性界面活性剤には、脂肪アミンを有するアルキルフェノールアルコキシレート、好ましくはノニルフェノールエトキシレートおよびエチレンオキシドの付加物が挙げられ、また、刊行物「Surfactants and Detersive Systems」(John Wiley & Sops in Kirk−Othmer’s Encyclopedia of Chemical Technology(第3編)によって公開)を参照されたい。
【0032】
表面が大きいため浸漬が不可能な場合、または垂直な表面に噴霧する場合には、水溶液が表面上で十分な接触時間を保持するために増粘剤を添加できる。増粘剤は、既知の無機および好ましくは有機の水溶性の増粘剤であり、3価クロム溶液に、有効量、例えば酸性溶液1リットル当たり約0〜10グラム、好ましくは0.5〜1.5グラムの適当な濃度となるように添加できる。いくつかの好ましい増粘剤の具体例としては、ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel等)、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースまたはメチルセルロースおよびこれらの混合物等のセルロース化合物が挙げられる。他の水溶性の増粘剤としては、コロイド状シリカ、ベントナイト等の粘土、デンプン、アラビアゴム、トラガカントゴム、寒天および 種々の混合物が挙げられる。
【0033】
皮膜が形成される鉄合金を常法により処理した後、浸漬、噴霧、または拭き仕上げ技術により溶液を塗布する。TCP溶液は、皮膜の耐食性を更に向上させるために、65℃以下に昇温し、場合によっては浸漬によって塗布してもよい。溶液の滞留時間は、80°F(26.7℃)で約1〜60分間、好ましくは5〜15分間である。滞留後、残留した溶液を、水道水または脱イオン水により鉄合金基材から完全に洗浄除去される。優れた性能を得るために、堆積した薄膜に対して更に化学的操作を行う必要はない。しかし、強い酸化剤の溶液を塗布すると、更に耐食性が向上した薄膜が得られる。耐食性の向上は、フィルム中で3価クロムから6価クロムの形成によると考えられる。水溶液を、浸漬タンクの代替品として設計された噴霧タンク装置から噴霧してもよい。この概念により、活性試薬の量を、約1000ガロンから約30〜50ガロンに低減することができる。この発明の他の特徴は、この方法が、硫酸、クロムまたはホウ酸−硫酸の組成物によって生成される他の公知の皮膜より良好または同等の耐食性を有する皮膜を提供するということである。
【0034】
いくつかの具体的な実施例によって本発明を説明したが、特許請求の範囲に記載された発明の本質および範囲を逸脱することのない種々の変形例および改造例が存在することは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】グリットブラストを用いない鋼鉄上のMIL−C−53022プライマーの写真である。
【図2】TCP−P皮膜を用い、グリットブラストを用いない鋼鉄上のMEL−C−53022プライマーの写真である。
【図3】Aqua Zen処理を用い、グリットブラストを用いない鋼鉄上のMIL−C−53022プライマーの写真である。
【図4】グリットブラストを用いる鋼鉄上のMIL−C−53022プライマーの写真である。
【図5】TCP−P皮膜を用い、グリットブラストを用いる鋼鉄上のMEL−C−53022プライマーの写真である。
【図6】Aqua Zen処理を用い、グリットブラストを用いる鋼鉄上のMIL−C−53022プライマーの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐食性および接着結合性を改善するための鉄および鉄合金上にジルコニウム−クロム化成皮膜を調製する方法であって、鉄および鉄合金をpHが約2.5〜5.5である酸性水溶液で処理することを含み、前記酸性水溶液が、1リットルあたり、約0.01〜22グラムの3価クロム化合物、約0.01〜12グラムのヘキサフルオロジルコン酸塩、約0.0〜12グラムの、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのフルオロ化合物、約0.0〜10グラムの少なくとも1つの2価亜鉛化合物、0.0〜約10グラムの水溶性増粘剤および0.0〜約10グラムの少なくとも1つの水溶性界面活性剤を含む方法。
【請求項2】
前記水溶液のpHが約3.7〜4.0であり、前記鉄合金が鋼鉄である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記3価クロム塩が約0.01〜10グラムの水溶性化合物であり、前記フルオロジルコン酸塩が約0.01〜8.0グラムの水溶性化合物であり、前記フッ素化合物が、約0.01〜1.2グラムの水溶性化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記増粘剤が約0.5〜1.5グラムであり、前記界面活性剤が約0.5〜1.5グラムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
耐食性および接着結合性を改善するための鉄および鉄合金上にジルコニウム−クロム化成皮膜を調製する方法であって、鉄および鉄合金をpHが約3.7〜4.0である酸性水溶液で処理することを含み、前記酸性水溶液が、1リットルあたり、約0.01〜10グラムの3価クロム塩、約0.01〜8.0グラムのヘヘキサフルオロジルコン酸塩、約0.01〜1.2グラムの、アルカリ金属テトラフルオロホウ酸塩、アルカリ金属ヘキサフルオロケイ酸塩およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのフルオロ化合物、約0.001〜10グラムの少なくとも1つの2価亜鉛化合物、約0.5〜1.5グラムの水溶性増粘剤および0.5〜約1.5グラムの少なくとも1つの水溶性界面活性剤を含む方法。
【請求項6】
前記鉄合金が鋼鉄である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記増粘剤が、セルロース化合物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記クロム塩が、硫酸クロム(III)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルキル金属ジルコン酸塩が、ヘキサフルオロジルコン酸カリウムである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記3価クロム塩が約5.0〜7.0グラムであり、前記ヘキサフルオロジルコン酸塩が約0.01〜8.0グラムであり、前記テトラフルオロホウ酸塩が約0.12〜0.24グラムである、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記増粘剤が、水溶性アルキルセルロース化合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記亜鉛化合物が酢酸亜鉛である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記クロム酸塩が硫酸クロム(III)であり、前記2価亜鉛化合物が硫酸亜鉛である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記界面活性剤が、水溶性の非イオン性、陰イオン性および陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記硫酸亜鉛が、約0.001〜100グラムの量で前記水溶液に存在する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記亜鉛化合物が、約0.1〜5.0グラムの硫酸亜鉛(II)である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記クロム塩が、5.0〜7.0グラムの量で前記水溶液に存在し、前記アルカリ金属テトラフルオロホウ酸塩および前記アルカリ金属ヘキサフルオロケイ酸塩の混合物が、約0.5〜1.5グラムの量で前記水溶液に存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項18】
前記亜鉛化合物が、約0.001〜10グラムの量で前記水溶液に存在する硫酸亜鉛(II)である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項2に記載の方法によって得られた皮膜形成される鉄合金。
【請求項20】
請求項6に記載の方法によって得られた皮膜形成される鉄合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−530360(P2008−530360A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555077(P2007−555077)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/041413
【国際公開番号】WO2006/088518
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(505277484)ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ アズ レプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー オブ ザ ネイビー エト アル. (7)
【氏名又は名称原語表記】THE UNITED STATES OF AMERICA,as represented by THE SECRETARY OF THE NAVY,et al.
【住所又は居所原語表記】Building 435,Suite A,Naval Air Warfare Center Aircraft Division,47076 Liljencrantz Road,Patuxent River,MD,U.S.A.
【Fターム(参考)】