説明

鉄筋支持架台の設計方法および鉄筋支持架台

【課題】鉄筋コンクリート構造物における基礎鉄筋などの配筋作業において、鉄筋を支持するための鉄筋支持架台の合理的な設計方法と、その方法で得られる鉄筋支持架台を提供する。
【解決手段】鉄筋支持架台10は、異形鉄筋からなる上部支柱11とアングル材からなる下部支柱12で構成され、下部支柱12に対する上部支柱11の座屈強度比が0.85〜1.79の範囲内となるように、各支柱の素材、規格、長さなどを選定することにより、最大荷重を超えた荷重が負荷されたときに、局部的な座屈を生じることなく、上部支柱11と下部支柱12とが一体となって全体が湾曲するような形状に座屈することで、それぞれの支柱の性能を最大限に活用することができ、無駄の少ない設計が可能である。さらに、高さの適用範囲が隣接する種別間での適用範囲の重複を減らして少ない品揃えで対応することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄筋コンクリート構造物における基礎鉄筋などの配筋作業において、鉄筋を支持するために用いる鉄筋支持架台の設計方法と、この方法によって得られる鉄筋支持架台に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の配筋作業において、鉄筋を所定位置に支持するために鉄筋支持架台が用いられている。この種の鉄筋支持架台は、下部支柱と上部支柱とからなり、下部支柱の下端部に捨てコン上に固定するためのベースプレートが固着されるとともに、上部支柱の上端部にカンザシ筋等を介して基礎の梁鉄筋などを支持する鉄筋支持部が設けられ、上部支柱を昇降させて適宜の高さ位置で固定して使用するものである。ここで、上部支柱と下部支柱に適用する素材としては、アングル材、パイプ材および鉄筋などがある。鉄筋支持架台は、上下の支柱を同じ形状の素材で構成する場合、あるいは上下が異なる場合など、支柱材の形態とその規格とを様様に組み合わせた形態となっている(特許文献1〜4参照)。さらに、この種の製品においては、施工現場によって梁せい等の関係から使用する高さ(調整後の全長)が異なり、しかもその範囲が広い。このため、1種でこれに適応させることは不可能であるので、いずれの支柱形態にあっても所定の調整幅(0.3〜0.4m程度)を確保しながら、使用高さとして0.4m程度から2.1m程度までを複数の高さ範囲で区分し、高さの小さいものから大きいものまで、異なる適用範囲の種別を段階的に品揃えすることでこれに対応している。なお、本明細書で使用する適用範囲とは、上部支柱を最大限に延ばして使用することのできる高さと、上部支柱を最も低い位置まで下げたときの高さの間を意味する。
【特許文献1】特許第3342772号公報
【特許文献2】特開2001−262835号公報
【特許文献3】特開平7−269122号公報
【特許文献4】実公平7−47564号公報
【0003】
上記構成の鉄筋支持架台にあっては、上下の支柱の形態、並びにそれら材質および寸法等に由来する断面性能の差異、あるいは異なる支柱の組合せ形態によっては上部支柱と下部支柱の間で重心のずれが生じるので、各支柱の長さとそれらの座屈強度のバランスを考慮しながら使用高さの適用範囲ごとに各種別を設計することが行われている。図7に示した従来例の鉄筋支持架台1は、このバランスが崩れた場合を例示したもので、上部支柱2には異形鉄筋が、下部支柱3にはアングル材が使用された事例である。この場合には、座屈強度の低い上部支柱2のほうが先に座屈を起こし、それよりも座屈強度が高い下部支柱3については、その性能が最大限に活用されないまま鉄筋支持架台としての機能を喪失し、使用不能な状態に至ってしまうことになる。なお、一般的には上部支柱2側で座屈が生じるように設計される場合が多い。これは、座屈強度の低いほうの支柱をできるだけ長くしたほうが、コスト面で有利だからである。
【0004】
上記のような理由により、これまでの鉄筋支持架台は、下部支柱側が過剰品質の設計となりやすいという問題点があった。一方、使用高さの適用範囲に関係なく各種別で上部支柱の長さをすべて同一とし、適用範囲の大小に応じて下部支柱の長さを細かい間隔で段階的に変化させる設計も行われている。しかしながら、この場合には上下の支柱のバランスを実質的に考慮することなく機械的に長さを変えただけであるから、過剰品質の傾向がより顕著となるばかりか、適用範囲の種別が必然的に多くなり、在庫管理の点で問題がある。この場合には、隣接する適用範囲の種別間において、各々の適用範囲に部分的な重複が多々生じていることから、合理的な設計とは言い難いものである。このように、従来の鉄筋支持架台に係る設計手法では、製造コストや在庫管理などの面で改良の余地が残る製品しか得られなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上述した従来技術の問題点を解決するため、種々の観点から鋭意検討を重ねた結果、上部支柱と下部支柱との関係について、設計する上での最適条件を見出し、本発明に想到したのである。すなわち本発明では、過剰設計を減らして製造コストの低減が可能であり、さらに適用範囲の部分的な重複を減らして製品の種別を少なくすることのできる鉄筋支持架台の設計方法と、この方法によって得られる鉄筋支持架台の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来技術の問題点を解決するため、本発明では、下部にベースプレートが固定された下部支柱と、上部に鉄筋支持部が固定されるとともに前記下部支柱に対して上下方向に位置調整可能に結合された上部支柱とを備え、使用する高さに対応してその適用範囲が段階的に複数の種別に区分される鉄筋支持架台の設計方法において、前記下部支柱に対する前記上部支柱の座屈強度比を0.85〜1.79に設定するという技術手段を採用した。さらに、この構成において、下部支柱をアングル材とし、上部支柱を異形鉄筋とすれば、製造コストの低減等に効果的である。なお、座屈強度の計算方法としては、建築基準法施行令に基づくω(オメガ)法などによる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る鉄筋支持架台では、上記のような構成を採用したことにより、次の効果が得られる。
(1)上部支柱と下部支柱との座屈強度比に基づく合理的な組合せ条件を見出したことにより、使用高さの適用範囲を段階的に異ならせた一連の種別から構成される鉄筋支持架台の設計において、隣接する種別間での適用範囲の重複部分を簡単に減らすことができる。このため、少ない種類で使用高さの小さいものから大きいものまでに対応が可能となるので、在庫管理の合理化につながる。
(2)最大荷重(座屈荷重)を超えた荷重が負荷された時には、局部的な座屈を生じることなく、上部支柱と下部支柱とが一体となって全体が湾曲するような形状で座屈するので、それぞれの支柱の性能が最大限に生かされ、材料に無駄の無い設計が可能である。
(3)上部支柱と下部支柱にそれぞれ異形鉄筋とアングル材を使用した場合には、下部支柱を捨てコン上に固定した後において、施工現場の配筋状況に応じて上部支柱を回転させ、その上部に設けられた鉄筋支持部の方向を最適な方向に変えることができるので、配筋作業の作業性向上に寄与するとともに、製造コストの低減にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る鉄筋支持架台においては、上部支柱と下部支柱の組合せについて、それらの形状、材質、寸法等の種々の観点から実験を進めたところ、両部材の座屈強度比が、ある条件の範囲内に設定されている場合に、上部支柱と下部支柱とがあたかも一体の部材として座屈(本明細書では、「全体座屈」という。)することを突き止めた。すなわち、本発明では、両支柱の座屈強度比の最適範囲を見出した点に大きな特徴があり、これにより無駄の少ない設計が可能になるのである。上部支柱と下部支柱の座屈強度比は、使用高さの適用範囲、隣接する高さ種別間での適用範囲の部分的な重複、製造コストなどの点から0.85〜1.79の範囲内で選択すればよい。この範囲内であるなら、本発明に係る鉄筋支持架台は、特殊な条件の施工現場を除き、小さい使用高さのものから大きいものまで、一般的な施工現場で求められる使用高さに対して、少ない品種で対応することができるのである。なお、本発明に適用する支柱の素材としては、基本的には異形鉄筋、アングル材およびパイプ材から選択され、これらを適宜組み合せて使用する。組合せ例としては、上下の支柱がいずれもアングル材、上部支柱が異形鉄筋で下部支柱がアングル材、上下の支柱がいずれもパイプ材の場合などが挙げられる。
【0009】
次に、本発明について、具体例を示しながら詳述する。図1に示した構成の鉄筋支持架台10を試験体とし、上部支柱11と下部支柱12の長さを変えることにより、上下の支柱間の座屈強度比(上部支柱の座屈強度/下部支柱の座屈強度)を変化させながら載荷実験を行った。なお、実験に用いた鉄筋支持架台10の構成は、上部支柱11が異形鉄筋(D19,SD345)からなり、下部支柱12がアングル材(L−40×40×3,SS400)からなるもので、下部支柱12の下端部には設置時に捨てコン等に固定するためのベースプレート13が設けられている。上部支柱11は、その上部に基礎梁の主筋等を受けるカンザシ筋14が挿入される鉄筋支持部15を備え、下部支柱12の上部に溶接された固定部16のストッパボルト17により、適宜の高さ位置で固定される。
【0010】
図2の(a),(b)は、それぞれ鉄筋支持架台10を最大高さに調整した場合と最小高さに調整した場合の正面図である。最大高さLuでは、上部支柱11がその下端部付近でストッパボルト17により下部支柱12に対して固定される。また、最小高さLdの場合には、上部支柱11の上端部に結合された鉄筋支持部15の下端面が、下部支柱12の上端面に当接した位置でストッパボルト17により固定され、これらLuとLdの間が適用範囲であり、その差が調整範囲となる。
【0011】
上記載荷実験では、適用範囲の最大高さを揃えた5試験体を一組とし、異なる最大高さの三組(試験体1〜15)について、垂直荷重を上方からカンザシ筋14を介して鉄筋支持部15に負荷し、上下支柱間の座屈強度比の座屈状態に対する影響を調べた。表1は、その実験結果であり、これから明らかなように、いずれの組においても座屈強度比が0.85〜1.79の範囲内では全体座屈することが判明した。図3は、鉄筋支持架台10の全体座屈の状況を示した斜視図である。図から明らかなように、上部支柱11がほぼ最大高さの位置で固定された鉄筋支持架台10は、上部支柱11と下部支柱12が一体となって湾曲した形状に変形している。なお、表1における上部座屈(試験体1,6,11)とは、上部支柱11の部分で座屈が生じ、また下部座屈(試験体5,10,15)とは、下部支柱12の部分で座屈が生じたことを表している。すなわち、座屈強度比が0.85以下では上部支柱11が座屈することで使用不能となり、座屈強度比が1.79以上ではこれとは逆に下部支柱12が先に座屈してしまい、いずれの場合も両方の部材の機能を有効に活用できないものとなっている。これに対して、座屈強度比が0.85〜1.79の範囲内に設計された試験体では、上下の支柱11,12がほぼ同時に座屈することから、両者の性能が最大限に活用されるので、無駄の無い設計となっていることがわかる。
【0012】
【表1】

【0013】
図4は、上記試験体の座屈強度比と適用範囲との関係を示した図である。この図から明らかなように、前記座屈強度比を考慮しながら上部支柱と下部支柱の長さや規格などを選択し、例えば使用高さの小さいものから順番に適用範囲を決定することにより、隣接する種別間での適用範囲の重複を排除することができる。この場合には、図中に網掛けで表示した試験体2,8,14の組合せが最も合理的となる。なお、これらの組合せにおいて、隣接する種別間で適用範囲の最大高さと最小高さの一部が40mm程度重なるように設定しているが、これは捨てコンの不陸など、施工現場の状況によって多少の延び代が必要となる場合が多いためである。もちろん重複部分を無くすことは可能である。
【0014】
図5は、鉄筋支持架台の別の実施形態を示した正面図である。図示の鉄筋支持架台20は、上部支柱21にはL−35×35×5(SS400)のアングル材が使用されるとともに、下部支柱22にはL−40×40×3(SS400)のアングル材が使用され、これら両支柱は双方の内隅部すなわち内面側が互いに対向するように重ね合わせた状態で、上下に昇降できるように構成されている。この場合、一辺の長さが短い上部支柱21の側端面が、下部支柱22の内面に当接することになる。なお、(a),(b)はそれぞれ最大高さに調整した場合と最小高さに調整した場合の正面図である。
【0015】
表2は、上記構成の鉄筋支持架台20について、上部支柱21と下部支柱22の長さを変えることにより、上下の支柱間の座屈強度比の異なるものを用意し、前記実施形態と同様な載荷実験を行った結果である。この表から明らかなように、上部支柱を異形鉄筋からアングル材に変更した場合でも同様な傾向が確認された。図6は、試験体の座屈強度比と適用範囲との関係を示した図であり、この場合には、図中に網掛けで表示した試験体17,23,28の組合せが最も合理的となる。
【0016】
【表2】

【0017】
なお、いずれの実施形態においても使用高さの適用範囲が800mm〜1800mm程度の鉄筋支持架台について実験結果を示しているが、この範囲に需要が集中するためであり、1800mmを超える高さであっても同様な傾向が見られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る鉄筋支持架台の斜視図である。
【図2】図1の鉄筋支持架台の最大高さと最小高さの状態を示した正面図である。
【図3】図1の鉄筋支持架台の全体座屈状態を示した斜視図である。
【図4】図1の鉄筋支持架台の座屈強度比と適応範囲との関係を示した図表である。
【図5】本発明に係る鉄筋支持架台の他の実施形態を示した正面図である。
【図6】図5の鉄筋支持架台の座屈強度比と適応範囲との関係を示した図表である。
【図7】鉄筋支持架台の上部座屈状態を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1,10,20…鉄筋支持架台、2,11,21…上部支柱、3,12,22…下部支柱、13…ベースプレート、14…カンザシ筋、15…鉄筋支持部、16…固定部、17…ストッパボルト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部にベースプレートが固定された下部支柱と、上部に鉄筋支持部が固定されるとともに前記下部支柱に対して上下方向に位置調整可能に結合された上部支柱とを備え、使用する高さに対応してその適用範囲が段階的に複数の種別に区分される鉄筋支持架台の設計方法であって、前記下部支柱に対する前記上部支柱の座屈強度比を0.85〜1.79に設定したことを特徴とする鉄筋支持架台の設計方法。
【請求項2】
下部にベースプレートが固定された下部支柱と、上部に鉄筋支持部が固定されるとともに前記下部支柱に対して上下方向に位置調整可能に結合された上部支柱とを備える鉄筋支持架台において、前記下部支柱に対する前記上部支柱の座屈強度比が0.85〜1.79の範囲にあることを特徴とする鉄筋支持架台。
【請求項3】
前記下部支柱がアングル材からなり、前記上部支柱が異形鉄筋からなることを特徴とする請求項2に記載の鉄筋支持架台。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−156130(P2010−156130A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334364(P2008−334364)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)