説明

鉄系層状複水酸化物の製造方法

【課題】 アルカリの添加や加熱を必要とせずに、短時間で鉄系層状複水酸化物を製造することができる鉄系層状複水酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】 2価金属或いは3価金属の水酸化物、酸化物、塩、並びに、それらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含む原料水溶液と、鉄製の媒体用ボールとをボールミル内に充填する充填工程と、前記ボールミルを用いて原料水溶液をミリング処理することにより、M2+及び/又はM3+の一部が少なくともFeイオンとなる化学式(1)で表される鉄系層状複水酸化物を得るミリング処理工程と含むことを特徴とする。
[M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・yHO]x−・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、触媒、吸着剤、イオン交換体、体質顔料、複合材料の基材等に用いられる鉄系層状複水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中の金属イオン等を吸着除去するための水処理剤として、各種の層状複水酸化物が知られ且つ注目されている。例えば、パイロオーライト型構造を有する層状複水酸化物である鉄系複水酸化物の製造方法と、その鉄系複水酸化物を用いた水処理剤とが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
このような鉄系複水酸化物の製造方法によれば、アルカリ土類金属M(マグネシウム又はカルシウム)に対する鉄(Fe)のモル比(M/Fe)が1から4の間になるようにアルカリ土類金属塩水溶液と三価の鉄塩水溶液とを混合した原料水溶液を空気中で強く撹拌しながら(或いは、空気中で原料水溶液に超音波を加えながら)、pH13以上になるまでアルカリ水溶液を徐々に添加している。このようにして空気中の炭酸ガスを水溶液中に溶け込ませ、炭酸イオンを層架橋アニオンとして取り込むことにより、原料水溶液をゲル状態を経て結晶化させてパイロオーライト型構造の鉄系複水酸化物を得ている。
【0003】
しかしながら、このような鉄系複水酸化物の製造方法では、pH13以上の強アルカリ性を実現すべく副資材として多量のアルカリを必要とするので、製造コストが高くなるという問題点があった。
そこで、アルカリの使用量を少なくした鉄系複水酸化物の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。このような鉄系複水酸化物の製造方法では、二価鉄の鉄塩と、二価金属(二価鉄を除く)の金属塩とを溶解した原料水溶液を準備し、その原料水溶液にアルカリを添加してpH6.5〜10.0に調整し前駆体を24時間静置して沈殿させ、その前駆体を有酸素雰囲気中、80℃で24時間乾燥させることにより、鉄系層状複水酸化物を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−233619号公報
【特許文献2】特開2006−199518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような鉄系複水酸化物の製造方法でも、反応性が非常に低いため、アルカリの添加や加熱を必要とするので、製造コストが高くなるという問題点があった。また、沈殿時間(24時間)や乾燥時間(24時間)が長くなるという問題点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために、アルカリの添加や加熱を必要とせずに、短時間で鉄系層状複水酸化物を製造する方法について検討を行った。その結果、鉄製の媒体用ボールを充填したボールミルを用いて、金属化合物を含む水溶液をミリング処理することにより、媒体用ボールと媒体用ボールとの間の衝突エネルギー(メカノケミカル効果)により、媒体用ボールから鉄イオンが溶出するとともに、水が分解されて水酸化物イオンが生成して、鉄系層状複水酸化物を得ることができることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明の鉄系層状複水酸化物の製造方法は、下記化学式(1)で表される層状複水酸化物を得る鉄系層状複水酸化物の製造方法であって、2価金属或いは3価金属の水酸化物、酸化物、塩、並びに、それらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含む原料水溶液と、鉄製の媒体用ボールとをボールミル内に充填する充填工程と、前記ボールミルを用いて原料水溶液をミリング処理することにより、M2+及び/又はM3+の一部が少なくともFeイオンとなる化学式(1)で表される鉄系層状複水酸化物を得るミリング処理工程とを含むようにしている。
[M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・yHO]x−・・・(1)
式中、M2+は2価金属イオン、M3+は3価金属イオン、Aはアニオン、nはAの価数、xは0<x<1、yは0より大きい実数である。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明の鉄系層状複水酸化物の製造方法によれば、アルカリの添加や加熱を必要とせずに、短時間で層状複水酸化物を製造することができる。
【0009】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の鉄系層状複水酸化物の製造方法において、前記2価金属は、Co、Ni又はZnであるようにしてもよい。
また、本発明の鉄系層状複水酸化物の製造方法において、前記3価金属は、Alであるようにしてもよい。
また、本発明の鉄系層状複水酸化物の製造方法において、前記媒体用ボールの直径は、0.1mm以上50mm以下であるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】粉末X線回折の結果を示す図。
【図2】粉末X線回折の結果を示す図。
【図3】粉末X線回折の結果を示す図。
【図4】粉末X線回折の結果を示す図。
【図5】収率の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0012】
本実施形態に係る鉄系層状複水酸化物の製造方法は、金属化合物を含む原料水溶液と鉄製の媒体用ボールとをボールミル内に充填する充填工程(A)と、ボールミルを用いて原料水溶液をミリング処理するミリング処理工程(B)とを含む。
そして、本実施形態では、M2+及び/又はM3+の一部が少なくともFeイオンとなる下記化学式(1)で表される層状複水酸化物を得ることになる。
[M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・yHO]x−・・・(1)
式中、M2+は2価金属イオン、M3+は3価金属イオン、Aはアニオン、nはAの価数、xは0<x<1、yは0より大きい実数である。
【0013】
(A)充填工程
2価金属或いは3価金属の水酸化物、酸化物、塩、並びに、それらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含む原料水溶液と、鉄製の媒体用ボールとをボールミル内に充填する。
上記2価金属としては、例えば、Co、Ni、Cu、Zn等が挙げられ、水酸化物イオン等の生成しやすさの観点からCo、Ni、Zn等が好ましい、そして、各々の金属元素の水酸化物、酸化物、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等であってもよい。例えば、塩化亜鉛(ZnCl)、塩化ニッケル(NiCl)、塩化コバルト(CoCl)等が挙げられる。
上記3価金属としては、例えば、Al、Cr、Co、In等が挙げられ、水酸化物イオン等の生成しやすさの観点からAl等が好ましい、そして、各々の金属元素の水酸化物、酸化物、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等であってもよい。例えば、塩化アルミニウム(AlCl)等が挙げられる。
そして、原料水溶液は、0.1重量%以上10重量%以下の2価金属又は3価金属を含有することが好ましい。
【0014】
アニオンとしては、例えば、OH、F、Cl、NO、SO2−、CO2−、Fe(CN)4−、CHCOO、V10266−、ドデシルSO2−等が挙げられる。なお、アニオンの導入は、好ましくは、原料水溶液にアニオン源を供給することにより行われ、例えば、原料水溶液に酸の水溶液を添加する方法や、原料水溶液に炭酸ガスを接触させる方法等を挙げることができる。
【0015】
上記ボールミルとして、生成物の汚染防止のために、ミル容器がセラミック製、もしくは、内面がフッ素樹脂等の耐摩耗材料で被覆された金属製のものを使用することが好ましい。また、ボールミル内を不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。上記不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス等が挙げられる。
そして、本実施形態では、鉄製の媒体用ボールを用いることになる。上記媒体用ボールの直径は、0.1mm以上50mm以下であることが好ましく、1mm以上5mm以下であることがより好ましい。
【0016】
(B)ミリング処理工程
ボールミルを用いて溶液をミリング処理する。
ボールミルの回転速度は理論臨界回転速度の20%〜150%であることが好ましく、80%〜120%がより好ましい。また、ミリング処理時の温度は0℃〜40℃であることが好ましく、20℃〜30℃であることがより好ましい。
ミリング処理時間は、30分〜12時間であることが好ましく、1時間〜9時間であることがより好ましい。
【0017】
このようなミリング処理工程を実行すると、M2+及び/又はM3+の一部が少なくともFeイオンとなる化学式(1)で表される鉄系層状複水酸化物分散液を得ることができる。
そして、得られた鉄系層状複水酸化物分散液は、そのまま用いることもできるし、或いは、ウルトラフィルタ等を用いて鉄系層状複水酸化物をろ過し、必要に応じて洗浄、溶媒置換した分散液とした後、用いることもできるし、或いは、溶媒を除去、乾燥することによって粉末状の鉄系層状複水酸化物として用いることもできる。
【0018】
以上のように、本発明の鉄系層状複水酸化物の製造方法によれば、アルカリの添加や加熱を必要とせずに、30分〜12時間の短時間で層状複水酸化物を製造することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0020】
<実施例1>Fe−Al系層状複水酸化物
(A)充填工程
ボールミルとして、内径90mm、奥行き80mm、容量500mlであるステンレス鋼(SUS304)製の円筒型密閉容器を使用した。なお、ボールミルの内面は、フッ素樹脂で被覆されている。また、媒体用ボールとして、直径3mmである炭素鋼球を使用した。ボールミル内には、ボールミルの容量の40体積%相当量(970g)の媒体用ボールを充填した。
そして、媒体用ボールが充填されたボールミル内に、0.60gのAlClと60gの水とを含む原料水溶液を仕込んだ。
【0021】
(B)ミリング処理工程
ボールミルを、室温(20℃)、回転速度140rpm(理論臨界回転速度の100%に相当)、9時間、回転させることでミリング処理することにより、実施例1に係る分散液を得た。
【0022】
<実施例2>Ni−Fe系層状複水酸化物
充填工程(A)で、0.60gのAlClと60gの水とを含む原料水溶液を用いる代わりに、0.58gのNiClと60gの水とを含む原料水溶液を用い、ミリング処理工程(B)で9時間のミリング処理時間を3時間のミリング処理時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る分散液を得た。
<実施例3>Zn−Fe系層状複水酸化物
充填工程(A)で、0.60gのAlClと60gの水とを含む原料水溶液を用いる代わりに、0.61gのZnClと60gの水とを含む原料水溶液を用い、ミリング処理工程(B)で9時間のミリング処理時間を6時間のミリング処理時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る分散液を得た。
<実施例4>Co−Fe系層状複水酸化物
充填工程(A)で、0.60gのAlClと60gの水とを含む原料水溶液を用いる代わりに、0.58gのCoClと60gの水とを含む原料水溶液を用い、ミリング処理工程(B)で9時間のミリング処理時間を6時間のミリング処理時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る分散液を得た。
【0023】
<実施例5>Ni−Fe系層状複水酸化物
ミリング処理工程(B)で3時間のミリング処理時間を、1〜24時間(1、3、9、24時間)のミリング処理時間に変化させたこと以外は実施例2と同様にして、実施例5に係る分散液を得た。
<実施例6>Co−Fe系層状複水酸化物
ミリング処理工程(B)で6時間のミリング処理時間を1〜24時間(1、3、6、9、15、24時間)のミリング処理時間に変化させたこと以外は実施例4と同様にして、実施例6に係る分散液を得た。
【0024】
<比較例1>
充填工程(A)で、0.60gのAlClと60gの水とを含む原料水溶液を用いる代わりに、0.29gのCoClと60gの水と0.36gのFeClとを含む原料水溶液を用い、ミリング処理工程(B)で9時間のミリング処理時間を24時間のミリング処理時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る分散液を得た。
<比較例2>
充填工程(A)で、0.60gのAlClと60gの水とを含む原料水溶液を用いる代わりに、60gの水を用い、ミリング処理工程(B)で9時間のミリング処理時間を24時間のミリング処理時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る分散液を得た。
【0025】
<物性評価>
粉末X線回折装置(XRD、株式会社リガク製、「RINT−1500」)を用いて、実施例1〜6及び比較例1〜2に係るものの粉末X線回折を測定した。なお、分散液は蒸発乾固後、サンプルミルで粉砕して測定した。実施例1〜6及び比較例1〜2の測定結果をそれぞれ図1、図2、図3、図4に示す。
図1に示すように、実施例1〜4では、回折角2θ=11度及び23度付近に強い回折が見られ、鉄系層状複水酸化物が得られた。また、図2に示すように、実施例5においてミリング処理時間が1時間で均一なNi−Fe系層状複水酸化物が得られた。また、図3に示すように、実施例6においてミリング処理時間が6時間未満でもCo−Fe系層状複水酸化物が得られるが6時間以上で均一なCo−Fe系層状複水酸化物が得られた。
一方、図4に示すように、比較例1ではCo−Fe系層状複水酸化物とマグネタイト(Fe)とマグヘマイト(γ−Fe)との混合物が得られ、比較例2ではマグネタイトが得られた。
【0026】
<収率評価>
実施例6に係るCo−Fe系層状複水酸化物の収率を算出した。図5は、実施例6におけるCo−Fe系層状複水酸化物のミリング処理時間と、収率との関係を示すグラフを示す。図5に示すように、ミリング処理時間の経過とともにCo−Fe系層状複水酸化物の収率は増加した。
【0027】
以上のように、本発明の鉄系層状複水酸化物の製造方法によれば、アルカリの添加や加熱を必要とせずに、1時間〜9時間の短時間で層状複水酸化物を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、鉄系層状複水酸化物の製造等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される層状複水酸化物を得る鉄系層状複水酸化物の製造方法であって、
2価金属或いは3価金属の水酸化物、酸化物、塩、並びに、それらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含む原料水溶液と、鉄製の媒体用ボールとをボールミル内に充填する充填工程と、
前記ボールミルを用いて原料水溶液をミリング処理することにより、M2+及び/又はM3+の一部が少なくともFeイオンとなる化学式(1)で表される鉄系層状複水酸化物を得るミリング処理工程とを含むことを特徴とする鉄系層状複水酸化物の製造方法。
[M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・yHO]x−・・・(1)
式中、M2+は2価金属イオン、M3+は3価金属イオン、Aはアニオン、nはAの価数、xは0<x<1、yは0より大きい実数である。
【請求項2】
前記2価金属は、Co、Ni又はZnであることを特徴とする請求項1に記載の鉄系層状複水酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記3価金属は、Alであることを特徴とする請求項1に記載の鉄系層状複水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記媒体用ボールの直径は、0.1mm以上50mm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鉄系層状複水酸化物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−229140(P2012−229140A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98399(P2011−98399)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】