説明

鉄系重金属固定化剤の製造方法

【課題】第一鉄塩及び第二鉄塩を含む水溶液からなる鉄系重金属固定化剤を製造する方法に関し、硫酸第一鉄塩や第一鉄塩水溶液を原料として使用することなく、簡単な装置で且つ短時間のうちに安定して該鉄系重金属固定化剤を製造できるようにする。
【解決手段】第二鉄塩水溶液と還元剤とを接触させて第二鉄塩の一部を還元して第一鉄塩を生成することにより、鉄系重金属固定化剤を製造することを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ゴミ、産業廃棄物、下水汚泥等の廃棄物焼却炉(溶融炉を含む)や亜鉛回収プロセス、アルミニウム精錬プロセス、鉄鋼精錬プロセス等から排出される集塵灰の中間処理用薬剤、詳しく言えば、前記のような集塵灰に含まれる重金属類を不溶化乃至固定化するために用いる重金属固定化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミ、産業廃棄物、下水汚泥等の廃棄物焼却炉(溶融炉を含む)や、亜鉛回収プロセス、アルミニウム精錬プロセス、鉄鋼精錬プロセスなどから排出される排ガスから集塵装置で分離される集塵灰には、鉛、カドミウム、六価クロム、水銀、砒素、セレンなどの重金属類が含有されている。そのため、このような集塵灰は、特別管理一般廃棄物に分類されており、集塵灰を管理型最終処分場に処分する場合には、集塵灰中の重金属類が溶出しないように不溶化乃至固定化する処理が義務付けられている。
【0003】
集塵灰中の重金属類を固定化処理する方法としては、セメント固化法、酸その他の溶媒による抽出法、溶融固定化法、および薬剤添加法などが知られている。このうちの薬剤添加法は、他の方法に比べて装置並びに取り扱いが簡便なため、特に注目されている方法である。
【0004】
薬剤添加法とは、所定量の水と薬剤と集塵灰を混練して反応させ、重金属類を水に不溶として固定化する方法であり、薬剤添加法に用いられる薬剤としては、有機キレート重金属固定化剤と無機系重金属固定化剤が広く使用されている。
【0005】
前者の有機キレート重金属固定化剤としては、例えばジアルキルジチオカルバミン酸のアルカリ金属塩、ジアルキルジチオカルバミン酸基を分子内に2個以上有する化合物のアルカリ金属塩、具体的には、ジエチルジチオカルバミン酸のカリウム塩、N,N,N,N−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミンのナトリウム塩、ピペラジンビスジチオカルバミン酸のカリウム塩などが挙げられる。
このような有機キレート重金属固定化剤は、鉛、水銀、カドミウムなどの陽イオンを形成する重金属類の固定化は可能であるが、砒素又はセレンなどの重金属類を固定化することができない。その理由として、砒素又はセレンは、集塵灰中で砒酸イオン、亜砒酸イオン、セレン酸イオン、亜セレン酸イオンなどの陰イオンの形態で存在するためにキレート形成反応が起こらないことが考えられる。
【0006】
他方、後者の無機系重金属固定化剤としては、例えばリン酸、リン酸塩や鉄系薬剤などが挙げられる。中でも、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄などを組み合わせた“鉄系の重金属固定化剤”は、集塵灰の主な溶出金属である鉛のほかに六価クロム、砒素、セレン等も同時に溶出抑制できるという特長を有している。
【0007】
このような“鉄系の重金属固定化剤”としては、第2鉄塩単独薬剤や、第1鉄塩と第2鉄塩を混合した薬剤などがあり、中でも後者の第1鉄塩と第2鉄塩を混合した薬剤は、鉛、水銀、カドミウムなどの陽イオン以外にも、六価クロム、砒素、セレンなどの陰イオンの溶出抑制効果が高いという特徴を有している。
【0008】
鉄系の重金属固定化剤に関しては、例えば特許文献1において、第一鉄塩と第二鉄塩の混合物で、第一鉄(Fe2+)+第二鉄(Fe3+)に対する第一鉄(Fe2+)のモル比〔Fe2+/(Fe2++Fe3+)〕が0.2〜1.0である鉄塩が開示されており、当該鉄塩と焼却飛灰と水を混練して得られる混練物を、温度40〜150℃、相対湿度40%以上の環境にて大気と接触させて養生することを特徴とする焼却飛灰の安定化方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4363657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に開示されているような鉄塩、すなわち第一鉄塩と第二鉄塩を含む水溶液を得る方法として、第二鉄塩水溶液と第一鉄塩水溶液を混合して製造する方法が行われている。例えば、市販の製品があって入手し易いという理由で、市販の第二鉄塩水溶液と市販の第一鉄塩水溶液を混合して製造したり、市販されている粉体の硫酸第一鉄塩を水に溶解し、その硫酸第一鉄塩水溶液と第二鉄塩水溶液と混合して製造したりする方法が採られてきた。
【0011】
しかし、第一鉄塩水溶液は不安定で酸化し易いという課題を抱えていた。他方、粉体の硫酸第一鉄塩を水に溶解して硫酸第一鉄塩水溶液を作成する方法に関しては、硫酸第一鉄塩を水に溶解する溶解作業が必要であり、硫酸第一鉄塩の水への溶解性が低いため、溶解作業に時間がかかるという問題を抱えていた。そればかりか、硫酸第一鉄塩水溶液と第二鉄塩水溶液を混合すると第二鉄塩水溶液が希釈されることになるため、鉄濃度が低下してしまうという課題もあった。
【0012】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、第一鉄塩及び第二鉄塩を含む水溶液からなる鉄系重金属固定化剤を製造する方法に関し、市販されている粉体としての硫酸第一鉄塩や、市販されている第一鉄塩水溶液を原料として使用することなく、簡単な装置で且つ短時間のうちに安定して該鉄系重金属固定化剤を製造することができる新たな方法を提案せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、第二鉄塩水溶液と還元剤を接触させて第二鉄塩の一部を還元して第一鉄塩を生成することにより、生成した第一鉄塩と前記一部の残りの第二鉄塩とを含む水溶液からなる鉄系重金属固定化剤を製造することを特徴とする鉄系重金属固定化剤の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提案する鉄系重金属固定化剤(「本薬剤」と称する)の製造方法によれば、不安定で酸化し易い第一鉄塩水溶液を原料として使用しないで済むばかりか、水への溶解作業に時間のかかる粉体としての硫酸第一鉄塩を原料として使用しないで済むため、より簡単な作業工程で、より短時間のうちに本薬剤を安定して製造することができる。
しかも、本薬剤の使用現場並びに輸送途中で、第二鉄塩水溶液と還元剤を接触させて還元反応させることで、本薬剤を製造することができるため、簡単な製造装置で製造することができる。
【0015】
さらに、本発明が提案する方法において、還元剤として鉄材を使用すれば、鉄系重金属固定化剤の第一鉄イオン(Fe2+)濃度や全鉄イオン濃度(第一鉄イオン(Fe2+)と第二鉄イオン(Fe3+)の合計濃度)を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】薬剤製造槽による混合方式を実施し得る装置の構成例を示した図である。
【図2】薬剤製造槽による混合方式を実施し得る装置において、ポンプ循環による製造設備の一例を示した図である。
【図3】充填塔方式、中でも下向流方式による製造設備の一例を示した図である。
【図4】充填塔方式、中でも上向流方式による製造設備の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例(「本実施形態」と称する)について説明する。
【0018】
<本薬剤>
本実施形態で製造する鉄系重金属固定化剤(「本薬剤」と称する)は、第一鉄塩と第二鉄塩を含む水溶液からなる鉄系重金属固定化剤である。
【0019】
本薬剤において、第一鉄塩と第二鉄塩の含有比率は、重金属の溶出抑制効果が高いという観点から、第一鉄イオン(Fe2+)及び第二鉄イオン(Fe3+)に対する第一鉄イオン(Fe2+)のモル比〔Fe2+/(Fe2++Fe3+)〕が0.2〜1.0であるのが好ましく、中でも0.2〜0.8、その中でも特に0.2〜0.4であるのがさらに好ましい。
【0020】
本薬剤は、例えば都市ゴミ、産業廃棄物、下水汚泥等の廃棄物焼却炉(溶融炉を含む)や亜鉛回収プロセス、アルミニウム精錬プロセス、鉄鋼精錬プロセスなどから排出される集塵飛灰(EP、BF、マルチサイクロン等で捕集されたばいじん)中の重金属の溶出防止用薬剤、すなわち重金属固定化剤として有効に用いることができる。
溶出防止の対象となる重金属元素としては、例えば鉛、カドミウム、水銀、クロム、砒素、セレンなどの有害な重金属類や、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、バナジウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スズ、アンチモン、モリブデン、ホウ素、フッ素などが挙げられる。
【0021】
本薬剤の使用方法の一例について説明する。例えば集塵灰を計量して混練機へ送り、そこで加湿水を添加する。この際、加湿水中に本薬剤を添加しておき、本薬剤を含有する加湿水を混練機へ供給し、混練機内にて集塵灰と本薬剤とを混合する。そして、混練機から出た混練物を、搬出コンベアで処理灰ピットへ送り、混練物を管理型廃棄物処分場に廃棄するという方法を実施することができる。但し、本薬剤の使用方法がこのような方法に限定されるものではない。
【0022】
<本製造方法>
本実施形態に係る鉄系重金属固定化剤の製造方法(「本製造方法」と称する)は、第二鉄塩水溶液と還元剤を接触させて第二鉄塩の一部を還元して第一鉄塩を生成することにより、生成した第一鉄塩と前記一部の残りの第二鉄塩とを含む水溶液からなる鉄系重金属固定化剤を製造することを特徴とする方法である。
【0023】
本製造方法によれば、不安定で酸化し易い第一鉄塩水溶液を原料として使用しないため、第一鉄塩水溶液の貯蔵管理及びそのための設備が不要である。そればかりか、粉末状の第一鉄塩を原料として使用しないため、粉末状の第一鉄塩を水に溶解するという時間のかかる溶解作業を省くことができ、さらには、本製造方法における還元反応は極めて短時間で終了するため、従来の製法に比べて極めて短時間のうちに本薬剤を製造することができる。
【0024】
(第二鉄塩水溶液)
本製造方法で使用可能な第二鉄塩水溶液としては、例えば硫酸第二鉄水溶液、塩化第二鉄水溶液、粉末の硝酸第二鉄を水に溶解して製造した硝酸第二鉄水溶液などを挙げることができる。いずれも強酸性鉄塩水溶液である。
中でも、硫酸第二鉄水溶液としてのポリ硫酸第二鉄水溶液は、入手し易い点で特に好ましい。例えばその市販品として日鉄鉱業株式会社製「ポリテツ」を挙げることができる。
【0025】
なお、還元剤として金属系還元剤、具体的には鉄系や亜鉛系還元剤を用いる場合には、金属鉄や亜鉛の溶解促進と第二鉄イオンの加水分解防止のために、ポリ硫酸第二鉄水溶液に硫酸乃至希硫酸を予め加えておくのが好ましい。
鉄系還元剤の場合には、鉄1質量部に対して、100%
硫酸換算で0.5〜5.0質量部、中でも1.0〜3質量部、特に1.5〜2.5質量部の硫酸乃至希硫を加えるように調整するのが好ましい。
亜鉛系還元剤の場合には、亜鉛1質量部に対して、100% 硫酸換算で0.5〜5.0質量部、中でも2.0〜3.0質量部、特に1.0〜2.0質量部の硫酸乃至希硫を加えるように調整するのが好ましい。
【0026】
(還元剤)
本製造方法で使用可能な還元剤は、上述のように第二鉄塩水溶液が強酸性であるため、酸性条件下で第二鉄塩を還元することのできる還元剤である必要がある。
【0027】
酸性条件下で第二鉄塩を還元することのできる還元剤としては、例えば塩化第一錫2水塩、無水塩化第一錫、硫酸第一錫、シュウ酸第一錫、塩化第一錫水溶液などの錫系還元剤、金属鉄などの鉄系還元剤、金属亜鉛などの亜鉛系還元剤のほか、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸塩、チオグリコール酸、塩酸ヒドロキシルアミン、ハイドロキノン、ハドロサルサルファイト、エリソルビン酸及びエリソルビン酸塩、チオ尿素、鋼材、金属アルミニウム、塩化セリウム、チオ硫酸ナトリウムなどを挙げることができる。
これらの中でも、優れた還元効率を得られる観点から、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸塩、エリソルビン酸及びエリソルビン酸塩、塩酸ヒドロキシルアミン、チオ尿素、錫系還元剤の2価錫化合物又は鉄系還元剤が好ましい。
その中でも、鉄濃度をより一層維持することができるという観点からは、鉄系還元剤が好ましい。
【0028】
鉄系還元剤としては、例えば還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、鋳物鉄粉、化学還元用鉄粉、カイロ用鉄粉、還元鉄、電解鉄、電解鉄粉などのほか、粒状や塊状、板状の金属鉄や、粒状や塊状、板状の軟鋼や鋳鉄など、酸化鉄や合金鉄でない鉄材を挙げることができる。
【0029】
金属鉄は、鉄含有率が90%以上で、且つ、鉛、ヒ素、セレン、アンチモン及びクロムの各含有率が1%未満で、且つ、カーボン、銅、マンガン、ニッケルの各不純物含有率が10%未満であるものが好適である。カーボン、銅、マンガン、ニッケルの各不純物含有率が10%を超えると、未溶解物が増えるためろ過などの工程が必要になるので、好ましくない。
【0030】
金属亜鉛や金属鉄を還元剤として用いた場合、該還元剤を溶解させるのに多少の時間が必要となるが、溶解と同時に第二鉄イオンの還元がおこるので、還元剤の溶解完了と同時に第二鉄イオンの還元反応が完了することになる。
他方、金属亜鉛及び金属鉄以外の還元剤は、例えば10分間程度で還元処理は完了して、本薬剤の製造作業は完了することになる。
このように瞬間的に還元反応が完結するので、撹拌時間は短くてよい。
【0031】
還元反応時の液温は、凍結しない温度であればよい。液温が10℃以上で還元反応が促進されるため、10℃以上であるのが好ましい。但し、還元剤の添加時の反応熱や金属亜鉛などの溶解熱によって5℃程度の液温上昇があるので、当初の液温が5℃以上であれば、反応によってすぐに10℃以上になるため、特に加温装置などを設ける必要はない。
【0032】
製造した本薬剤を輸送する途中或いは貯蔵保管時において、本薬剤と空気が接触して、空気酸化によって第一鉄イオン(Fe2+)が第二鉄イオンになった場合には、再度還元剤を添加することによって第二鉄イオンを第一鉄イオンに還元させて第一鉄塩と第二鉄塩との比率を所望の比率に調整するのが好ましい。
【0033】
<本製造方法を実施するための具体的方式>
本製造方法を実施するための具体的方式として、1)薬剤製造槽による混合方式、2)移動槽による方式、3)充填層通液方式の3種類を挙げることができる。但し、これらの方式に限定するものではない。
以下、ここで挙げた各方式について順次詳細に説明する。
【0034】
(薬剤製造槽による混合方式)
本製造方法は、薬剤製造槽を製造装置として用いて実施することができる。すなわち、薬剤製造槽内において、第二鉄塩水溶液と還元剤を接触させて第二鉄塩の一部を還元させる反応を実施することができる。
【0035】
具体的な一例を挙げると、図1に示すように、例えば入手した第二鉄塩水溶液を、必要に応じて原料貯留設備のタンクに一旦貯蔵した後、供給ポンプなどを介して薬剤製造槽内に投入し、薬剤製造槽内の第二鉄塩水溶液を撹拌すると共に、還元剤を添加して撹拌し、第二鉄塩水溶液中の第二鉄イオンの一部を還元させて第一鉄イオンを生成させることで本薬剤を製造することができる。
この際、還元剤は、市販の液状還元剤をポンプで添加したり、L-アスコルビン酸などの粉末品を水道水などの溶解した水溶液をポンプで添加したり、L-アスコルビン酸などの粉末品や粉末状の亜鉛末や粉末状の金属鉄を適宜添加したりすることができる。但し、液状還元剤と、粉末状の亜鉛末や金属鉄は、還元条件である量や撹拌時間などが異なるために同時に使用することはない。
そして、本薬剤の製造完了後は、薬剤製造槽から排出管を経由して、本薬剤を輸送用容器に充填して荷姿別の製品形態とすればよい。
【0036】
この方式に用いる薬剤製造槽は、図1に示すように、水槽部内の溶液を混合撹拌するための撹拌装置と、製造した薬剤を排出する排出管とを備えているのが好ましい。
【0037】
薬剤製造槽は、耐酸性であれば、市販のポリエチレン製タンク、ポリエチレン内容器付鋼製タンク、FRP製タンク、その他の材質からなるタンクでもよい。
また、薬剤製造槽の容量は、製造量などを考慮して有効容量を適宜選択するのが好ましい。その際、小規模の水槽を複数基配備して有効容量に対応することもできる。
【0038】
薬剤製造槽の撹拌手段としては、例えば機械撹拌(図1参照)、空気撹拌、ポンプによる循環撹拌(図2参照)などを挙げることができる。
【0039】
機械撹拌の場合には、インバーターや減速機で撹拌強度が任意に変更できるものが好適である。
機械撹拌を採用する場合、水槽部の上部は開放しているのが好適である。
他方、ポンプ循環による撹拌では、薬剤製造槽での薬剤の滞留時間は10〜30分間とするのが好ましい。10分間以上の滞留時間であれば、ポンプ流量を顕著に高くする必要がないから、過大なポンプが必要になることもない。他方、30分間以下であれば、作業時間がそれほど長くなることもない。
ポンプによる循環撹拌を作用する場合は、水槽部の上部はマンホールなどで密閉できるものでもよい。
なお、空気撹拌は、薬剤が空気酸化するため好ましくない。
【0040】
薬剤製造槽は、必要に応じて払い出し設備としての耐酸ポンプなどを配備してもよい。また、図1に示すように、第二鉄塩水溶液の酸度調整のための希硫酸注入設備を配備してもよい。この際、希硫酸注入設備は、例えば希硫酸貯留設備と耐酸性の注入ポンプなどの供給設備とから構成することができる。
【0041】
薬剤製造槽による混合方式において、還元剤として金属鉄を使用する場合、2mm以下の平均粒子径(D50)の金属鉄を使用するのが好適である。2mmを超えると、金属鉄が沈みやすくなり、薬剤製造槽での撹拌が不十分となる。その結果、還元処理に時間がかかるようになるばかりか、品質の安定化も難しくなる。安価な金属鉄として鋼材や鉄スクラップなど使用できるが、形状がまちまちで、還元処理に時間がかかったり、未溶解物が製品に残留したり、品質の安定化が難しくなってしまうため、好ましくない。
【0042】
(移動槽による方式)
本製造方法は、上記のように薬剤製造槽のような固定された反応槽で実施することができるほか、輸送用コンテナやタンクローリーなどのように移動可能な反応槽(「移動槽」と称する)で実施することもできる。
このような移動槽で本製造方法を実施するようにすれば、本製造方法を実施するための大型設備を準備する必要がないばかりか、例えば第二鉄塩水溶液を積み込む際に還元剤を添加することにより、移動槽を移動している間に本薬剤を製造することもできるし、また、本薬剤の使用場所に移動槽を移動させることで、本薬剤の使用場所において本薬剤を適宜調整しながら製造することもできる。よって、薬剤の貯蔵設備をも無くすことができる。
【0043】
ここで、移動可能な反応槽としては、例えば輸送用コンテナ、タンクローリー、ポリ缶、ポリタンク、BIB容器(ポリエチレンの内袋とそれを収納、保護するダンボール箱で構成された容器、通常10〜20kg入り)、ケミカルドラムなどを挙げることができる。
輸送用コンテナとしては、例えばポリエチレン製コンテナ(有効容量0.5m3〜1m3)を例示することができる。
【0044】
移動槽による方式で用いる還元剤は、移動槽では十分な撹拌手段を設けることが困難であるため、市販の液状の還元剤や粉末品の還元剤を水溶液に調製したものを使用するのが好ましい。
市販の液状の還元剤としては、例えば塩化第一錫水溶液がある。粉末のL−アスコルビン酸などの水溶液を挙げることができる。
このような液状還元剤を反応槽内に添加する方法としては、コンテナのマンホールから、液状還元剤のポリ缶などを用いて手作業で直接投入してもよいし、液状還元剤の貯留設備から耐酸ポンプで所定量をコンテナに供給するようにしてもよい。
【0045】
移動槽による方式を採用する場合、例えば移動槽の輸送中に本製造方法を実施した際に、第一鉄塩と第二鉄塩との比率が所望の比率にならなかった場合には、移送先或いは移送途中において、第二鉄塩水溶液を追加したり、或いは、液状還元剤を加えて再還元させたりして、第一鉄塩と第二鉄塩との比率を所望の比率に調整することができる。
【0046】
(充填層通液方式)
本製造方法は、図3及び図4に示すように、還元剤を充填してなる充填層を備えた設備を用いて実施することもできる。すなわち、還元剤を充填してなる充填層に第二鉄塩水溶液を通液することで実施することもできる。
このような充填層通液方式によれば、酸化鉄や合金鉄でない安価な還元剤である鉄材を充填した充填層に第二鉄塩水溶液を通液することで、充填層の鉄材表面で第二鉄塩水溶液の第二鉄イオンの一部を還元させることができ、第二鉄塩水溶液中に第一鉄イオンを生成させることができる。
【0047】
具体的には、充填塔内部に還元剤を充填して充填層を形成し、充填塔の上部又は下部から第二鉄塩水溶液を連続的に供給すればよい。
図3に示すような下向流方式を採用する場合には、充填塔の上部から第二鉄塩水溶液を供給し、充填塔下部から本薬剤を流出させるようにすればよい。
逆に、図4に示すような上向流方式を採用する場合には、充填塔の下部から第二鉄塩水溶液を供給し、充填塔上部から本薬剤を流出させるようにすればよい。
また、還元時に発生する水素ガスを充填層から追い出すために、第二鉄塩水溶液の供給方向を上下交互に繰り返すようにして通液してもよい。
【0048】
充填層通液方式を採用する際の設備としては、図3及び図4に示すように、例えば還元剤を充填する充填層を有する充填塔と、第二鉄塩水溶液を貯留する設備としてのタンクと、充填塔に第二鉄塩水溶液を供給するための第二鉄塩水溶液供給ポンプと、充填塔の上部又は下部から第二鉄塩水溶液を供給するための第二鉄塩水溶液供給部と、本薬剤を充填塔の下部又は上部から排出させる本薬剤排出部とを備えた設備を例示することができる。
【0049】
充填塔の内部、第二鉄塩水溶液を貯留する設備、第二鉄塩水溶液供給ポンプ及び第二鉄塩水溶液供給部はいずれも、強酸性の第二鉄塩水溶液と接触するため、耐酸性の材質で形成するのが好ましい。
【0050】
還元剤を充填する充填層の高さは、0.5m〜2mとするのが好ましい。0.5m以上であれば、第二鉄塩水溶液の短絡を防止して還元処理を十分に実施することができる。また、2m以下であれば、設備的に装置が過大になることがなく、発生する水素が充填層に滞留するのを抑制することができ、第二鉄塩水溶液が短絡して充填層を通過するのを防止することができる。
【0051】
還元剤として鉄材を使用する場合、その鉄材としては、平均粒径(D50)2mm〜20mmの粒状のもの、或いは、20mm〜50mmの塊状のもの、或いは、厚さ1mm〜10mmmmで、幅や長さが10mm〜50mmの不定形の板状のものなど任意の形状が使用できる。また、鉄廃材や市販の構造用鋼材などが使用できる。
この際、平均粒径(D50)が2mm以下の鉄材では、細かすぎるため、第二鉄塩水溶液を充填層内に均一に接触させることが難しくなる。
【0052】
第二鉄塩水溶液供給量は、例えば第二鉄塩水溶液供給ポンプの流量をインバーター又はバルブで調整すればよい。
充填層への第二鉄塩水溶液供給量は、SV2h−1〜30h−1が好適である。
SV2h−1未満では、充填層で滞留時間が長いので還元処理が過度に起こり、第二鉄塩水溶液の第二鉄イオンの全部を還元する可能性が高い。
また、100h−1を超えると、供給される第二鉄塩水溶液が充填層で短絡が起こり、第二鉄塩水溶液の第二鉄イオンの十分な還元が得られない。
【0053】
本薬剤は、第二鉄塩水溶液の第二鉄イオンと、第二鉄塩水溶液の第二鉄イオンの一部還元して得られる第一鉄イオンとを含むもので、第一鉄イオンの生成量は、上記SVの設定により調整することができる。例えば本薬剤における第二鉄イオンを多くしたり、第一鉄イオンを少なくしたりする場合には、SVをより速くすればよい。逆に、第二鉄イオンを少なくしたり、第一鉄イオンを多くしたりする場合には、SVを遅くすればよい。
このように第二鉄塩水溶液の供給量をSV(空塔速度)で調整することにより、第一鉄(Fe2+)+第二鉄(Fe3+)に対する第一鉄(Fe2+)のモル比〔Fe2+/(Fe2++Fe3+)〕の比率を任意に調整することができ、本薬剤を容易に製造することができる。
【0054】
上述したように、還元剤として鉄系材料を用いた場合には、金属鉄や亜鉛の溶解促進と第二鉄イオンの加水分解防止のために、第二鉄塩水溶液に硫酸乃至希硫酸を加えるなどして、第二鉄塩水溶液の酸度を調整するのが好ましい。
例えば、酸度調整剤として希硫酸を用いる場合であれば、希硫酸を貯留するための希硫酸貯留タンク、希硫酸注入ポンプ、第二鉄塩水溶液酸度調整部などを上記設備に付設すればよい。
【0055】
ここで、第二鉄塩水溶液酸度調整部は、例えばラインミキサーを採用し、第二鉄塩水溶液供給ポンプの吸込部又は吐出部に設置し、第二鉄塩水溶液供給ポンプの運転開始に合わせて、希硫酸注入ポンプを運転し、希硫酸を供給してラインミキサー内で第二鉄塩水溶液と希硫酸を混合するようにすればよい。
【0056】
ラインミキサーとしては、例えばノリタケ社製「スタティックミキサーN10-331型(内径27mmmm、全長275mm)」などを挙げることができる。
第二鉄塩水溶液酸度調整部は、ラインミキサーのほか、耐酸性の水槽を用いることもでき、当該水槽内に第二鉄塩水溶液を一定量又は一定流量で供給し、希硫酸を一定量又は一定流量で添加して混合すればよい。
また、硫酸注入ポンプとしては、例えばイワキ社製「イワキマグネットポンプ MD−F型(流量130リットル/分)」などを挙げることができる。
【0057】
<用語の説明>
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」および「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0058】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
有効容量1mのダイライトタンク(ポリエチレン内容器付鋼製タンクMD-1000型、ダイライト(株)製、直径1m、高さ1.5m、以下、薬剤製造槽)に、ポリ硫酸第二鉄水溶液(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgを投入し、薬剤製造槽に付帯した混合装置(サタケポータブルミキサーA520型、佐竹化学機械工業(株)製、0.2kw)で薬剤製造槽を撹拌しつつ、塩化第一錫二水和物(和光純薬工業(株)製品、試薬一級品、粉体)を塩化第一錫換算で19kg〜168kgを添加し、液温15℃で60分間撹拌して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
【0060】
還元剤としての塩化第一錫二水和物の添加量と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表1に示した。なお、「全鉄濃度」は、第一鉄イオン濃度と第二鉄イオン濃度の合計値である。
表1の結果から、ポリ硫酸第二鉄と塩化第一錫二水和物を各割合で混合することで、第一鉄イオン(Fe2+)と第二鉄イオン(Fe3+)のモル比を容易に調整できることが分かった。
【0061】
【表1】

【0062】
次に、実施例1のNo1及びNo.3で得られた鉄系重金属固定化剤(サンプル)について、長期保管した際の組成変化を検討した。
実施例1のNo1及びNo.3で得られた鉄系重金属固定化剤(サンプル)を、製造直後に容量250ccのポリエチレン製容器に充填し、20℃の恒温槽にて450日間保管し、30日、300日及び450日経過時点で鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成をそれぞれ測定し、表2に示した。
その結果、実施例1で得られた鉄系重金属固定化剤(サンプル)を長期間保管しても組成に変化が認められないことが分かった。
【0063】
【表2】

【0064】
<実施例2>
実施例1で用いた還元剤、すなわち塩化第一錫二水和物(和光純薬工業(株)製品、試薬一級品、粉体)を水道水に溶解して、塩化第一錫含有率10〜45%wt/wtに調整した塩化第一錫水溶液を作製した。
そして、実施例1の混合装置付きの薬剤製造槽に、実施例1と同様にポリ硫酸第二鉄(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgを投入し、薬剤製造槽に付帯した混合装置(サタケポータブルミキサーA520型、佐竹化学機械工業(株)製、0.2kw)で薬剤製造槽を撹拌しつつ、上記のように調製した塩化第一錫水溶液を塩化第一錫換算で19kg〜168kg添加し、液温15℃で10分間撹拌して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
還元剤としての塩化第一錫の添加量と製造条件と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表3に示した。
【0065】
【表3】

【0066】
<実施例3>
実施例1の混合装置付きの薬剤製造槽に、実施例1と同様にポリ硫酸第二鉄(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgとL-アスコルビン酸(ビタミンC、和光純薬工業(株)製品、試薬一級品、粉体)17kg〜156kgを添加し、液温15℃で30分間撹拌して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
還元剤としてのL-アスコルビン酸添加量と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表4に示した。
【0067】
【表4】

【0068】
<実施例4>
実施例1の薬剤製造槽に、実施例1と同様にポリ硫酸第二鉄(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgとエリソルビン酸ナトリウム一水和物(和光純薬工業(株)製品、試薬一級品、粉体)20kg〜176kgを添加し、液温15℃で30分間撹拌して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
還元剤としてのエリソルビン酸ナトリウム一水和物添加量と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表5に示した。
【0069】
【表5】

【0070】
<実施例5>
実施例1の薬剤製造槽に、実施例1と同様にポリ硫酸第二鉄(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgと塩酸ヒドロキシルアミン(和光純薬工業(株)製品、試薬一級品、粉体)7kg〜61kgを添加し、液温15℃で30分間撹拌して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
還元剤としての塩酸ヒドロキシルアミン添加量と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表6に示した。
【0071】
【表6】

【0072】
<実施例6>
実施例1の薬剤製造槽に、実施例1と同様にポリ硫酸第二鉄(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgとチオ尿素(和光純薬工業(株)製品、試薬一級品、粉体)15kg〜135kgを添加し、液温15℃で30分間撹拌して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
還元剤としてのチオ尿素添加量と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表7に示した。
【0073】
【表7】

【0074】
<実施例7>
実施例1の混合装置付きの薬剤製造槽に、塩化第二鉄水溶液(純度37%wt/wt、昭和化学工業(株)製品)1000kgを投入し、実施例1と同様に塩化第一錫二水和物(和光純薬工業(株)製品、試薬一級品、粉体)を、塩化第一錫換算で22kg〜195kg添加し、液温15℃で60分間撹拌して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
還元剤としての塩化第一錫二水和物の添加量と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表8に示した。
【0075】
【表8】

【0076】
<比較例1>
実施例1の混合装置付きの薬剤製造槽に、実施例1と同様にポリ硫酸第二鉄水溶液(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgを投入し、硫酸第一鉄七水和物(硫酸第一鉄七水和物として92%以上、富士チタン工業(株)製)を61〜990kg添加し、液温15℃で8時間又は30℃で3時間の溶解作業を行って鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
【0077】
製造条件と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表9及び表10に示した。
表9に示すように、液温15℃では8時間の溶解作業時間が必要であり、8時間未満では硫酸第一鉄七水和物の未溶解分が残留したために、製造物である鉄系重金属固定化剤(サンプル)中に沈殿物が確認された。
また、表10に示すように、30℃では3時間の溶解作業時間が必要であり、3時間未満では硫酸第一鉄七水和物の未溶解分が残留した。添加した硫酸第一鉄七水和物質量に対し55〜20%残留した。製品液量を半分にして撹拌強度をアップさせても、溶解時間の短縮はできなかった。
【0078】
【表9】

【0079】
【表10】

【0080】
<実施例8>
有効容量1mのポリエチレン製コンテナ容器に、実施例1と同様にポリ硫酸第二鉄水溶液(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgを投入し、その液面に、実施例2と同様に調製した塩化第一錫水溶液(45%wt/wt)を42kg〜373kg添加して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。10分間経過後に、別の空の有効容量1mのポリエチレン製コンテナに薬剤全量を移し替えた。その後、物性測定用のサンプルを液面表層、中間部から採取したものを同量コンポジットとして物性測定した。
還元剤としての塩化第一錫水溶液の添加量と、鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を、表11に示した。
【0081】
【表11】

【0082】
<実施例9>
実施例1の混合装置付きの薬剤製造槽に、実施例1と同様にポリ硫酸第二鉄水溶液(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgを投入し、亜鉛末(和光純薬工業(株)製、亜鉛純度95%、平均粒径(D50)5μm〜8μm)を6.4kg〜58kgを添加し、液温15℃で30分間撹拌して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
還元剤としての亜鉛末の添加量と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表12に示す。
【0083】
【表12】

【0084】
<実施例10>
実施例1の混合装置付きの薬剤製造槽に、実施例1と同様にポリ硫酸第二鉄水溶液(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)1000kgを投入し、次に示す鉄粉を所定量添加し、液温15℃で30分間撹拌して鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。
電解鉄粉:和光純薬工業(株)製化学品、金属鉄純度90%以上、
還元鉄粉:パウダーテック工業(株)製、カイロ用鉄粉金属鉄純度92%以上、平均粒径(D50)45μm〜75μm
還元剤としての鉄粉の添加量製造条件と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表13に示す。
【0085】
【表13】

【0086】
<実施例11>
フレーク状電解鉄(鉄粒子の長さ3mm〜155mm、鉄粒子の厚さ3mm〜7mm、純度99%以上、東邦亜鉛(株)製)20kgを、薬剤製造塔(直径0.5m、充填高さ1.0m、塔長2m)の内部に充填した。当該薬剤製造塔の上部から、ポリ硫酸第二鉄水溶液(鉄換算の純度11%の硫酸第二鉄水溶液、日鉄鉱業(株)製品「ポリテツ」)をSV2〜50h−1で液温15〜35℃で連続的に通液し、塔下部からして鉄系重金属固定化剤(サンプル)を得た。通液により充填した金属鉄が消費されるので、充填高さ1.0m±0.2mで、電解鉄を上部から補給した。
なお、充填層に供給するポリ硫酸第二鉄水溶液には、予め所定量の希硫酸(75%)を添加した後、充填層に連続的に通液した。
【0087】
充填層から流出する本発明品を採取して、全鉄と第1鉄濃度測定した。
製造条件と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を表14に示す。
【0088】
【表14】

【0089】
<実施例12>
SV2h−1と、SV5h−1で一定、その他実施例11と同じ条件でポリ硫酸第二鉄を上向流で通液し、時間経過後に上向流から下向流に切り替えて通液した。この繰り返しで連続的に充填層に通液し、条件変更から約2時間の全製品を容器に受けて、この製品の物性を調査し、その結果を表15に製造条件と鉄系重金属固定化剤(サンプル)の組成を示す。
希硫酸(75%)添加量は、SV2h−1で52kg/h、SV5h−1で130kg/hであった。
なお、例えばNo.1については、上向流で10分間通液した後、下向流で10分間通液を行い、この繰り返しで上向流と下向流を交互に行った。他のNo.2−8についても同様である。
【0090】
【表15】

【0091】
<実施例13>
産業廃棄物焼却飛灰(集塵灰)に対し、上記実施例で得た鉄系重金属固定化剤(「本薬剤」と称する)を用いて溶出抑制試験を行った。
試験に使用した集塵灰の性状は、鉛(PbO)含有量が0.2%、鉛(Pb)溶出濃度15mg/L、溶出液pHが11.9であった。
含有量の分析方法は蛍光X線分析により行い、溶出濃度は、環境庁告示13号法により調製した溶出液を測定した。
【0092】
重金属溶出試験方法は、次のように行った。
500mLのプラスチック製ビーカーに、飛灰100g、水30g及び所定量の本薬剤を添加して5分間混練し、粘土状にした後、常温で24時間養生した。その後、サンプルを5mm以下に粉砕し、環境庁告示第13号試験法に基づいて重金属類の溶出試験を行った。表16に重金属溶出試験結果を示す。
本薬剤は、従来品と同等の重金属溶出抑制効果を確認することができた。
【0093】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二鉄塩水溶液と還元剤を接触させて第二鉄塩の一部を還元して第一鉄塩を生成することにより、生成した第一鉄塩と前記一部の残りの第二鉄塩とを含む水溶液からなる鉄系重金属固定化剤を製造することを特徴とする鉄系重金属固定化剤の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤として、酸性条件下で第二鉄塩を還元する物質を用いることを特徴とする請求項1記載の鉄系重金属固定化剤の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤として、2価錫化合物、L―アスコルビン酸、エリソルビン酸塩、塩酸ヒドロキシルアミン、チオ尿素を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄系重金属固定化剤の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤として、金属鉄を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄系重金属固定化剤の製造方法。
【請求項5】
第二鉄塩水溶液と還元剤を接触させる方法として、還元剤を充填してなる充填層に第二鉄塩水溶液を通液する方法を用いることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の鉄系重金属固定化剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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