説明

鉄製ケーブルドラム

【課題】鉄製ケーブルドラムの鍔を構成する環状波板の板厚を従来より薄くして、強度を低下させることなく、軽量化、コスト低減を図る。
【解決手段】円筒状の胴と、胴の両端に設けられた鍔2と、鍔を内周側から支える支柱3aを放射状に組み合わせたスパイダ3とを備える。鍔2は、放射状に波付けされた環状波板2aと、環状波板の内周に固定された内輪2bと、環状波板の外周に固定された外輪2cとを有するものからなる。スパイダ3の各支柱3aの外端が内輪2bの内周面に固定されている。このような鉄製ケーブルドラムにおいて、内輪2bと外輪2cの間の支柱3aの延長領域に環状波板2aの凹みに沿って補強部材4を取り付ける。これにより鍔2の下部にかかる荷重に耐えられるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄製ケーブルドラムに関し、特に長尺電力ケーブルのような重量ケーブルの巻取り・運搬に使用される鉄製ケーブルドラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄製ケーブルドラムは、図3に示すように、ケーブルが巻き付けられる円筒状の胴1と、胴1の両端に設けられた鍔2と、鍔2を内周側から支える支柱を放射状に組み合わせたスパイダ3とを備えている。何れも鉄製(鋼製を含む)である(特許文献1、2参照)。
【0003】
鉄製ケーブルドラムの鍔2は、放射状に波付けされた環状波板2aと、環状波板2aの内周に溶接等により固定された内輪2bと、環状波板2aの外周に溶接等により固定された外輪2cとから構成され、外輪2cの内周には、外輪補強リング2dが溶接等により固定されている。また、スパイダ3を構成する各支柱3aの外端は内輪2bの内周面に溶接等により固定されている。スパイダ3の中心には軸穴3bが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実願平4-69240号(実開平6-33874号)のCO−ROM
【特許文献2】実願昭57-78777号(実開昭58-180855号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄製ケーブルドラムの鍔には、鍔の強度を高めるため、前述のように環状波板が使用されている。鉄製ケーブルドラムの軽量化、コスト低減を図るためには、環状波板の板厚を薄くすることが効果的である。しかし、環状波板の板厚を薄くすると、重量ケーブルを巻いた状態で、吊り上げたドラムを床等に下ろす際に鍔の下部にかかる荷重や、輸送時の横揺れにより鍔の下部にかかる応力のため、環状波板が変形したり、環状波板と外輪の接合部が破損したりすることがある。このため、環状波板の板厚は、ある程度以上薄くすることができず、鉄製ケーブルドラムの軽量化、コスト低減に限界があった。
【0006】
本発明の目的は、環状波板の板厚を従来より薄くしても所要の強度を確保でき、軽量化、コスト低減が図れる鉄製ケーブルドラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、円筒状の胴と、胴の両端に設けられた鍔と、鍔を内周側から支える支柱を放射状に組み合わせたスパイダとを備え、前記鍔は、放射状に波付けされた環状波板と、環状波板の内周に固定された内輪と、環状波板の外周に固定された外輪とを有するものからなり、前記スパイダの各支柱の外端が前記内輪の内周面に固定された鉄製ケーブルドラムにおいて、前記内輪と外輪の間の前記支柱の延長領域に環状波板の凹みに沿って補強部材を取り付けたことを特徴とする鉄製ケーブルドラム。
【0008】
本発明に係る鉄製ケーブルドラムは、スパイダの支柱1本につき複数本の補強部材が、当該支柱の幅方向中心を通る平面に関して対称な位置に取り付けられていることが好ましい。
【0009】
本発明に係る鉄製ケーブルドラムにおいて、補強部材は、鍔の外面側及び内面側の一方又は双方に取り付けることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環状波板の、スパイダの支柱の延長領域にあたる部分が補強部材によって補強されるので、吊り上げた鉄製ケーブルドラムを床等に下ろす時には、補強部材によって補強された部分が下になるようにして下ろすことにより、環状波板の下部に加わる荷重を軽減することができる。同様に輸送時には、補強部材によって補強された部分が下になるように設置することにより、輸送時の横揺れにより環状波板の下部に加わる応力を低減することができる。したがって、環状波板の板厚を従来よりも薄くしてもドラムとしての所要の機械的強度を保つことができるので、鉄製ケーブルドラムの軽量化、コスト低減を図ることができる。
【0011】
また、補強部材は環状波板の凹みに組み込まれるので、環状波板から出っ張ることがなく、鍔の外面側又は内面側に接触する物を傷つけるおそれがない。
【0012】
また、スパイダの支柱1本につき複数本の補強部材を、スパイダの支柱の幅方向中心を通る平面に関して対称な位置に設けることにより、鍔の下部に加わる荷重をバランスよく分散させることができ、より効果的にドラムの機械的強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る鉄製ケーブルドラムの一実施例を示す、(A)は一部切開側面図、(B)は(A)のB−B線矢視断面図。
【図2】図1のドラムの要部を、環状波板の波形を省略し、外輪補強リングを省略して示す側面図。
【図3】従来の鉄製ケーブルドラムの一例を示す、(A)は一部切開正面図、(B)は側面図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0014】
図1及び図2は本発明の一実施例を示す。この鉄製ケーブルドラムも、鉄製の胴1と鍔2とスパイダ3を備えている点、鍔2が、環状波板2aと、内輪2bと、外輪2cとから構成され、外輪2cが外輪補強リング2dで補強されている点、スパイダ3の各支柱3aの外端が内輪2bの内周面に固定されている点では、従来の鉄製ケーブルドラム(図3)と同じである。
【0015】
この鉄製ケーブルドラムの特徴は、内輪2bと外輪2cの間の、スパイダ3の支柱3aの延長領域に、環状波板2aの凹み(谷部)に沿って補強部材4を組み込み、補強部材4の一端を内輪2bに、他端を外輪2c及び外輪補強リング2dの一方又は双方に溶接等により固定したことである。この実施例では、補強部材4として、鉄製(鋼製を含む)の板材を使用したが、アングル材やチャンネル材などの形鋼や、パイプ等を使用することもできる。また、補強部材4は溶接ではなく締め付け部材(ボルトナット等)により固定することもできる。また、強部材4は環状波板2aに溶接又は締め付け部材により固定することもできる。
【0016】
補強部材4は、図示のように、スパイダ3の1本の支柱3aにつき2本用意し、スパイダの支柱3aの幅方向中心を通る平面P(図2参照)に関して対称な位置に取り付けることが好ましい。このようにすれば、鍔2の下部にかかる荷重をバランスよく分散させることができ、より効果的にドラムの機械的強度を高めることができる。
【0017】
補強部材4は、スパイダ3の全ての支柱3aに対応するように組み込むこともできるが、一部の支柱3aの延長領域にだけ組み込んでもよい。いずれにしても吊り上げたドラムを床等に下ろす時には、補強部材4を組み込んだ部分が下になるようにする。図示の例では、スパイダ3の6本の支柱3aのうち、5本の支柱3aの延長領域に補強部材4を組み込み、もう1本の支柱3aの延長領域には補強部材を組み込まない構成としたが、これは補強部材を組み込まない領域の付近がケーブル巻き始め端になっているからである。鉄製ケーブルドラムを床などに設置する場合は、ケーブル巻き始め端を下側にしないことになっているので、ケーブル巻き始め端付近の支柱の延長領域には補強部材を設ける必要がない。
【0018】
上記の実施例では、補強部材4を環状波板2aの外面側の凹みに組み込んだが、補強部材4は環状波板2aの内面側の凹みに組み込むこともでき、外面側の凹みと内面側の凹みの双方に組み込むこともできる。
【0019】
次に鉄製ケーブルドラムの試作・試験について説明する。
従来、30tを超すような電力ケーブルを巻き取る鉄製ケーブルドラムは、鍔外径が例えば3,920mm、胴外径が2,520mmにもなり、鍔用の環状波板の板厚は3.2mm程度必要であった。そこで、鉄製ケーブルドラムの軽量化、コスト低減を目指して、鍔の環状波板の板厚が2.3mm(従来の3割減)の鉄製ケーブルドラムを試作し(その他の条件は従来と同じ)、30t相当の荷重をかけて、ドラム下ろし時の応力、ドラムを傾けた時の応力、海上輸送に相当する揺れ、を加えて、強度を調べた。
【0020】
その結果、鍔の環状波板の板厚が2.3mmの鉄製ケーブルドラムでは、次のような問題があることが判明した。
(1)吊り上げたドラムを床に下ろす時の静荷重だけで、環状波板の板材の降伏応力ぎりぎり(240MPa)の応力がかかる。この状況に揺れによる変動応力が加わると、ドラム破損に至る可能性が高い。
(2)応力はスパイダの支柱のうち真下を向く支柱の下(置き位置の真下)に集中して生じる。
(3)海上輸送時の揺れのレベルでは、10MPa程度の変動応力上昇であり、ドラム下ろし時の荷重や、傾けた時の偏荷重による応力の方が厳しい。
【0021】
そこで、同じく鍔外径3,920mm、胴外径2,520mm、鍔の環状波板の板厚2.3mmの鉄製ケーブルドラムについて、鍔を補強するため、内輪と外輪の間の、スパイダの1本の支柱の延長領域に、厚さ12mm、幅65mmの2枚の鉄板(補強部材)を、その支柱の幅方向中心面に関して対称な位置に、環状波板の凹みに沿って組み込み、鉄板の一端を内輪に他端を外輪に溶接して固定した。このようにして鍔を補強した鉄製ケーブルドラムについて強度試験を行った。ちなみに、このドラムの内輪は厚さ9mm×幅125mm、外輪は厚さ16mm×幅75mm、外輪補強リングは厚さ6mm×幅75mm、環状波板の山数は72、胴は板厚3.2mm、スパイダの支柱は 幅200mm×深さ75mm×厚さ4.5mmのC型チャンネル材で、これらのサイズは従来の鉄製ケーブルドラムと同じである。
【0022】
強度試験では、補強した部分が真下になるようにドラムを床面に設置し、30t相当の静荷重をかけて、各部の応力を測定した。その結果、応力が最大になる部分でも146MPa程度の応力しかかからず、鉄板2枚で十分な補強効果が得られることが確認された。
【0023】
この試験結果をもとに、図1に示すような、鍔の5箇所を鉄板で補強した鉄製ケーブルドラムを試作した。このドラムは補強を施した部分を真下にして設置、運搬することで実用的に問題のない強度が得られることが確認された。これにより、鍔の環状波板を従来よりも3割程度薄くすることが可能となり、鉄製ケーブルドラムの軽量化、コスト低減を図ることができる。
【0024】
以上の実施例では、スパイダの1本の支柱につき2本の補強部材を用いる場合を説明したが、補強部材は鍔の内輪と外輪の間の突っ張り部材として機能するものであるから、座屈強度が高いものであれば、1本の支柱につき1本でもよい。
【符号の説明】
【0025】
1:胴
2:鍔
2a:環状波板
2b:内輪
2c:外輪
2d:外輪補強リング
3:スパイダ
3a:支柱
3b:軸穴
4:補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴と、胴の両端に設けられた鍔と、鍔を内周側から支える支柱を放射状に組み合わせたスパイダとを備え、前記鍔は、放射状に波付けされた環状波板と、環状波板の内周に固定された内輪と、環状波板の外周に固定された外輪とを有するものからなり、前記スパイダの各支柱の外端が前記内輪の内周面に固定された鉄製ケーブルドラムにおいて、前記内輪と外輪の間の前記支柱の延長領域に環状波板の凹みに沿って補強部材を取り付けたことを特徴とする鉄製ケーブルドラム。
【請求項2】
スパイダの支柱1本につき複数本の補強部材が、当該支柱の幅方向中心を通る平面に関して対称な位置に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の鉄製ケーブルドラム。
【請求項3】
補強部材が、鍔の外面側及び内面側の一方又は双方に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の鉄製ケーブルドラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−95586(P2013−95586A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242941(P2011−242941)
【出願日】平成23年11月5日(2011.11.5)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【Fターム(参考)】