説明

鉄道車両の車載式の潤滑剤付与方法と装置

【課題】車輪を潤滑剤付与対象として、簡単かつ安価な装置で所定の潤滑剤付与位置に安定して潤滑剤付与できるようにする。
【解決手段】車載されて車輪1の踏面清掃をする踏面清掃具2に潤滑剤付与手段3を付帯させ、この踏面清掃具2に付帯した潤滑剤付与手段3によって車輪1の特定の部分1aに潤滑剤を付与することにより、上記の目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道車両の車載式の潤滑剤付与方法と装置に関し、詳しくは、車両が曲線路を走行しているとき車輪の特定の部分、例えば、フランジと踏面との境目に車両側から潤滑剤を付与する車載式の潤滑剤付与方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潤滑油を圧送する電磁ポンプとこの電磁ポンプによって圧送されてくる潤滑油を軌条または車輪の車輪軸線方向特定の部分に噴射させて潤滑剤を付与する潤滑剤付与ノズルとを車両に搭載した車載式の潤滑剤付与装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このものによれば、軌条の各曲線路について個別に潤滑剤付与装置を設置する方式での、1.設置上不経済である。2.車両の車輪と接触する形で近接配置することや、軌条の振動により動かされることがあって安全性に問題がある。3.潤滑剤付与装置の取り付け調整が微妙であって、その保守も大変である。といった問題を解消することができる。また、車載式であるが、車両のエアータンクに通じる電磁弁を開いて供給される圧縮エアーを利用して潤滑油タンク内の液体潤滑油を吸い上げ、車輪もしくは軌条に接近して配置した噴霧ノズルから噴霧し潤滑剤を付与する噴霧式での、1.潤滑油用の配管とエアー配管とが必要で配管構造が複雑になる。2.潤滑油を霧状にして噴霧するため、周囲の環境を汚損する。3.この飛散により狙いたい箇所以外の車輪の踏面や軌条の頂部などに潤滑剤付与してしまい、軌条に対する車輪の滑りを生じさせる。といった問題を解消することができる(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−173495号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鉄道車両と技術No.134の16、17頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来知られる車載式の潤滑剤付与装置は、上記のものを含めいずれも、軸箱や台車に搭載するのに、専用の取り付け構造を有しており、位置補正機構を装備する場合は特に構造や組立作業が複雑になって高価につくし、点検、補修などの作業も複雑になる。
【0007】
本発明の目的は、車輪を潤滑剤付与対象として、簡単かつ安価な装置で所定の潤滑剤付与位置に安定して潤滑剤付与できる鉄道車両の車載式の潤滑剤付与方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような目的を達成するために、本発明の鉄道車両の車載式の潤滑剤付与方法は、車載されて車輪の踏面清掃をする踏面清掃具に潤滑剤付与手段を付帯させ、この踏面清掃具に付帯した潤滑剤付与手段によって車輪の特定の部分に潤滑剤を付与する鉄道車両の車載式の潤滑剤付与方法であって、潤滑剤付与手段として、研摩子に付帯させた油を噴射する噴射具を用い、この噴射具を通じて車輪に油を噴射し潤滑剤を付与することを特徴とする。
【0009】
このような方法を達成する鉄道車両の車載式の潤滑剤付与装置としては、車載されて車輪の踏面を清掃する踏面清掃具と、この踏面清掃具に付帯されて車輪の特定の部分に潤滑剤を付与する潤滑剤付与手段と、この潤滑剤付与手段による潤滑剤付与と潤滑剤付与の停止とを制御する制御手段と、を備えた鉄道車両の車載式の潤滑剤付与装置であって、潤滑剤付与手段が、油を噴射する噴射具であり、制御手段が噴射具を通じた油の噴射を制御して潤滑剤付与と潤滑剤付与の停止とを制御することを特徴とする。
【0010】
このような構成では、車輪の踏面清掃具に付帯させた潤滑剤付与手段から車輪に潤滑剤を付与するので、潤滑剤付与手段を車両に搭載する専用の取り付け構造が不要で、踏面清掃具自体が車輪の踏面に対向して車輪の軸線方向に対しては位置ずれせず、軸線に直角な向きにもほとんど位置ずれしないか位置補正する機構を有した支持構造にて車両に搭載されることから、潤滑剤付与手段を踏面清掃具に付帯させているだけで、車輪に対する潤滑剤付与の重要ポイントとなる軸線方向特定の部分に対して踏面清掃具の位置精度そのままに安定に向け続けられるので、簡単かつ安価な装置で車輪の所定位置に安定して潤滑剤を付与することができる。
【0011】
また、車輪の特定部分への潤滑剤の付与が非接触にて行えるので、摩耗などによるメンテナンスが不要となる。しかも、非接触であるが研摩子に付帯していることによって車輪に極く近い位置からより狙いを外さず、また無駄やまわりを汚すことなく潤滑剤を付与することができる。
【0012】
本発明のそれ以上の目的および特徴は、以下の詳細な説明および図面の記載によって明らかになる。本発明の各特徴は、それ単独で、あるいは可能な限りにおいて種々な組合せで複合して採用することができる。
【発明の効果】
【0013】
潤滑剤付与手段に専用の取り付け構造なしに、車輪の特定部分に対して踏面清掃具の位置精度そのままに安定に向け続けられて、簡単かつ安価な装置で車輪の所定位置に安定して潤滑剤を付与することができる。組立て、点検、補修などの作業も簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の車載式の潤滑剤付与装置の1つの例を示すブレーキ装置部の側面図である。
【図2】図1の装置の背面図である。
【図3】図1の装置の平面図である。
【図4】図1の装置の車輪踏面清掃具部を示す横断平面図である。
【図5】図4の車輪踏面清掃具の研摩子部を示す側面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の車載式の潤滑剤付与装置の別の例を示すブレーキ装置部の側面図である。
【図7】図6の装置の平面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の車載式の潤滑剤付与装置の他の例を示すブレーキ装置部の側面図である。
【図9】図8の装置の平面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の車載式の潤滑剤付与装置の今1つの例を示す研摩子部の一部を断面して見た平面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の車載式の潤滑剤付与装置のさらに別の例を示す研摩子部の一部を断面して見た平面図である。
【図12】本発明の噴射具を用いる図1〜図5の装置、図6、図7の装置、図8、図9の装置に適用される潤滑剤付与に関する制御回路図およびつなぎ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る鉄道車両の車載式の潤滑剤付与方法と装置の実施の形態につき、図1〜図12を参照しながら詳細に説明し、本発明の理解に供する。
【0016】
本実施の形態の鉄道車両の車載式の潤滑剤付与方法は、図1〜図5に示す例の潤滑剤付与装置、図6、図7に示す例の潤滑剤付与装置、図8、図9に示す例の潤滑剤付与装置を参照して説明すると、車載されて車輪1の踏面清掃をする踏面清掃具2に潤滑剤付与具3を付帯させ、この踏面清掃具2に付帯した潤滑剤付与具3によって車輪1の特定の部分、主として踏面1aとフランジ1bとの図3に示すような境目1cに潤滑剤を付与する。これにより、車輪1の踏面清掃具2に付帯させた潤滑剤付与具3から車輪1に潤滑剤を付与するので、潤滑剤付与具3を車両に搭載する専用の取り付け構造が不要で、踏面清掃具2自体が車輪1の踏面1aに対向して車輪1の軸線16の方向に対しては位置ずれせず、軸線16に直角な向きにもほとんど位置ずれしないか位置補正する機構を有した支持構造にて車両に搭載されることから、潤滑剤付与具3を踏面清掃具2に付帯させているだけで、車輪1に対する潤滑剤付与の重要ポイントとなる特定の部分、つまり前記境目1cなどに対して踏面清掃具2の位置精度そのままに安定に向け続けられるので、簡単かつ安価な装置で車輪1の所定位置、例えば前記した極く限られた境目1cなどに安定して潤滑剤を付与することができる。また、組立て、点検、補修の作業も簡単になる。
【0017】
図1〜図5に示す例では、踏面清掃具2は台車4に装備したディスクブレーキ装置5に装備してあり、車輪1の踏面1aに対してその軸線方向には勿論、軸直角方向にも振れないように位置決めして取り付けられている。具体的には、ディスクブレーキ装置5は車輪1の両側面に設けられた左右一対のブレーキディスク部6と、台車4上に支持され、かつ、アクチュエータ7によって開閉される一対の制輪子8を持ったU字支持枠9を有して、前記制輪子8間で前記ブレーキディスク部6を挟み付けることにより制動を掛けるようになっている。踏面清掃具2はこのディスクブレーキ装置5に対し、それに設けた空間12を利用して互いに干渉し合わないように配置し、踏面清掃具2における研摩子14の進退軸線15がほぼ水平でかつ車輪1の軸線16をほぼ通る向きにて、ディスクブレーキ装置5における制輪子8の支持部材としてのU字支持枠11を台車4に支持するブラケット13に取り付け、研摩子14を車輪1の踏面1aに対向させている。もっとも、制輪子8の支持部材はU字支持枠11に代えて図示しないアクチュエータによって制輪子を伴い開閉される一対のブレーキテコを採用したものでもよいのは勿論である。制輪子8の支持形態や開閉機構、支持部材の台車4への取り付け構造は特に問わない。踏面清掃具2は前記ブラケット13に限らずU字支持枠11などの支持部材に取り付けることもできるし、ブラケット13および支持部材の双方に亘って取り付けることもできる。場合によっては台車4にも跨って、または台車4自体に単独に取り付けることもできる。
【0018】
ブラケット13は台車4の側梁21間に、車軸22に平行に架設した横梁23に溶接などして固定され、制輪子8の上下対称軸24が車輪1の軸線16をほぼ通る位置に支持し、油圧シリンダなどのアクチュエータ7によって開閉するようにしている。ブラケット13は車軸22よりもやや高い位置にある横梁23から車輪1側に向け上面がほぼ水平で下面が斜め下方に傾斜した広がり形状を持って張り出したボックス形状をなし、横梁23よりも下の部分の前後に窓26、27を有してブラケット13を前後に貫通しU字支持枠11の基部貫通窓20から二股部間へと繋がった空間12を形成している。つまり、ディスクブレーキ装置5の全体を前後に貫通する空間12を形成している。
【0019】
なお、踏面清掃具2は図1〜図4に示すように、取り付け部31を有したシリンダ32と、このシリンダ32に伸縮できるよう挿入された研摩子受ロッド33とを備え、この研摩子受ロッド33のシリンダ32からの突出端に研摩子14を支持している。このトルク受ロッド33にはシリンダ32に内蔵した図4に示す戻しばね30が働かされている。給気口36からシリンダ32の図示しない空気室内に空気が送り込まれると、トルク受ロッド33は戻しばね30に抗し伸張され研摩子14を車輪1の踏面1aに押し当てて清掃を行う。前記空気室内の空気を開放するとトルク受ロッド33は戻しばねの付勢によって研摩子14を伴い復帰されて、研摩子14を車輪1の踏面1aから引き離す。なお、踏面清掃具2には図4に示すような研摩子受ロッド33の後退位置を規制するラッチ装置38も設けられている。
【0020】
踏面清掃具2の取り付け部31は、シリンダ32の外周面から図1に示すように例えばH型断面をなして立ち上がるように脚部31aを溶接付けしてあり、この脚部31aの先端にほぼ四角形な取り付け座31bを当てがい溶接付けし、この取り付け座31bには取り付け穴を設けてある。これによって、ディスクブレーキ装置5の空間12内に配した踏面清掃具2の取り付け部31の取り付け座31bを、ディスクブレーキ装置5のブラケット13の底部に図1、図2に示すように上方より当てがい、前記取り付け穴とボルト37とによって締結し取り付けている。
【0021】
以上のように、車輪踏面清掃23をディスクブレーキ装置5内の空間12内に配してディスクブレーキ装置5のブラケット13に取り付けることにより、踏面清掃具2単独の取り付けブラケットおよび艤装スペースに加え、補助支持機構が不要となる。従って、支持構造が簡略化し、艤装スペースが従来よりも小さくなる。しかも、ディスクブレーキ装置5の上下対称軸24が車輪1の軸線16をほぼ通る設置条件を邪魔することなく、踏面清掃具2の研摩子14の進退軸線15がほぼ水平でかつ車輪1の軸線16をほぼ通る向きに働かせることができる。従って、ディスクブレーキ装置5の必要設置条件はもとより、踏面清掃具2の最良の設置条件を満足して、ブレーキ機能および踏面清掃機能共に安定した信頼性の高いものとなる。
【0022】
また、空間12がディスクブレーキ装置5をその反車輪1側から車輪1側に貫通していることにより、踏面清掃具2はディスクブレーキ装置5のブラケット13から図1に示すように前後にはみ出してよく、通常形態で車輪1に働かせられる。従って、踏面清掃具2自体は取り付け座31bをブラケット13に合わせるぐらいで、特別な設計変更が不要となる。
【0023】
図6、図7に示す別の例では、踏面清掃具2は制輪子8の支持部材であるU字支持枠11に取付けてある。具体的には、踏面清掃具2のシリンダ32に有した取り付け部31をU字支持枠11の基部貫通窓20の底部壁20aにボルト37によりボルト止めしている。他の構造は先の例と特に変わるところはなく、共通する部材には同一の符号を付し重複する説明は省略する。
【0024】
図8、図9に示す他の例では、台車4の側梁間に渡した横梁に溶接付けなどして固定したブラケット41によってディスクブレーキ装置5を支持し、このディスクブレーキ装置5の直上に踏面清掃具2を設けて前記ブラケット41の最上部に上方からボルト42により取り付け、研摩子14の進退軸線15が車輪1の軸線16をほぼ通る向きにしてある。
【0025】
これにより、車輪1がどちらの側に回転しても研摩子14は振れの負荷少なく安定して踏面1aに働く。また、ディスクブレーキ装置5もその上下の対称軸24がほぼ水平でかつ車輪1の軸線16をほぼ通る向きにしてあり、これによって台車4と車輪1とが上下に相対移動してもずれ少なく安定して働く。また、台車4と車輪1とが上下に相対移動すると、研摩子14と車輪1との隙間が変動するので、その時々で研摩子14の車輪1の踏面1aへの押し付け力が変動し、研摩子14が不安定になるが、研摩子14を別の補助支持機構44により吊持って対応している。従って、本例においても踏面清掃具2は車輪1に対してほぼ安定した位置関係を保って働く。
【0026】
図1〜図5に示す例、図6、図7に示す例、図8、図9に示す例のいずれも、潤滑剤付与装置は、潤滑剤付与具3として、研摩子14に埋め込むなどして付帯させた油を噴射する噴射具51を用い、この噴射具51を通じて車輪1の特定部分に油を噴射し潤滑剤を付与するようにしている。これにより、車輪1の特定部分への潤滑剤の付与が非接触にて行えるので、摩耗などによるメンテナンスが不要となる。しかも、非接触であるが研摩子に付帯していることによって車輪に極く近い位置からより狙いを外さず、また、無駄やまわりを汚すことなく潤滑剤を付与することができる。なお、噴射具51を研摩子14に埋め込むと、他に邪魔なく車輪1の前記境目1cなどの必要な特定箇所に対して直近から正確に対向させやすい利点がある。
【0027】
ところで、研摩子14の研摩面が摩耗により経時的に後退することに対し、研摩子14の後退位置を前記ラッチ装置38にて規制することで車輪1に対するギャップを安定させるが、これに連動して、あるいは別に噴射具51の研摩子14に対する位置を後退させると、車輪1に対する距離が安定するようになる。このような後退作業は手作業によってもできる。しかし、噴射具51を踏面清掃具2のシリンダ32などの固定部材に付帯させればそのような配慮は不要となるが、研摩子14の清掃動作と干渉しないようにする必要がある。これには研摩子14に噴射具51を避けるような局部的な逃げ部を設ければ簡単に対応できる。
【0028】
特に、潤滑剤の付与は、車両が曲線路に進入する条件において、そのときの進入速度またはおよび通過速度との関係から、自動的に判定しあるいは予め定められたプログラムに従った必要なタイミングで自動的に行うことになるが、図12にそのような条件を自動判定して潤滑剤を塗布する制御手段52の一例を示している。
【0029】
これについて説明すると、図12に示すように貯油タンク111に、速度に応じて高圧電磁弁122を入切することで、貯油タンク111にかかる背圧を最適圧に調整された油113を車輪1の特定部分に噴射して潤滑剤を付与する噴射具51と、この噴射具51の電磁弁121を開閉するためのエアの供給を曲線検出器114aからの情報の基に制御する電磁弁制御手段114と、車両101のヨーレートを受けてこれを非接触に検出する非接触型のジャイロセンサ103からの検出情報から左右進行方向を判別する左右進行方向判別手段146と、を車両101に備えている。特に、制御手段52はジャイロセンサ103が検出したヨーレートから曲線検出器114によって曲線を判定するとともに、この判定に応じて前記油113の噴射を行わせる。これにより、非接触型のジャイロセンサ103による車両101のヨーレートの検出に基づく的確な潤滑剤付与が自動的に安定して行える。
【0030】
好適には、車両101の速度を検出する速度センサ115と、雰囲気温度を検出する温度センサ116を備え、制御手段52は、前記電磁弁制御手段114により、それに入録される曲線検出器114aからの曲線と速度と雰囲気温度との情報に応じて前記油113の噴射を行わせるようにする。これにより、速度の違いによる潤滑剤付与タイミングのずれ潤滑剤付与量の過不足、雰囲気温度の違いによる油粘度の変化、潤滑剤付与量の過不足を回避し、タイミングずれや過不足のない最適な潤滑剤付与を常に保証することができる。これら貯油タンク111、給油手段112、および各種のセンサ103、115、116を始め、制御手段52を構成する進行方向判別手段146、曲線検出器114などを車両101の床下機器117として集約装備している。
【0031】
ここで、噴射具51は左側の車輪1用と右側の車輪1用とがあり、いずれも左右電磁弁121に制御された、供給されるエアにより開閉されるものとし、給油手段112は貯油タンク111内の油113を加圧空気によって常に供給しておき、電磁弁121を開けば油113が即時に噴射でき、給油路途中の増圧用の電磁弁122によって車両101の速度に応じた増圧を行い車両の速度に応じた噴射速度で潤滑剤付与できるようにしてある。給油手段112は空気タンク124に貯められた圧縮空気を減圧弁125によって潤滑剤付与基準圧に減圧したものを貯油タンク111に供給するようにしている。これにより、他の用途に用いられる既存の空気タンク124を共用して潤滑剤付与基準圧を持った圧縮空気を得、特別な圧縮空気源を必要としないで自動潤滑剤付与が行える。もっとも、油113の噴射方式は以上の場合に限られることはなく、噴射具51を通じた油113の噴射は特許文献1に記載された電磁ポンプなどのポンプにより圧送して噴射する方式を採用することができる。また、噴射具51は各踏面清掃具2に対して、具体的には研摩子14に対して複数、具体的には2つ付帯させた例を示しているが、増減することができ、1つでも、あるいは3つ以上でもよい。
【0032】
図10に示す例は、潤滑剤付与具3として、研摩子14に付帯させた含油物などの潤滑体61を用い、研摩子14の動作によって潤滑体61を車輪1に接触させて潤滑剤の付与を行うようにしている。これにより、潤滑体61自体を車輪1に接触して潤滑剤の付与を行うのに、その潤滑体61を研摩子14に付帯させたことによって、研摩子14の動作で車輪1に離接させて潤滑剤付与とその停止とが行え、専用の動作機構なしに潤滑剤の付与が行える。含油物としてはフェルトのような軟質保油材や焼結金属など連続気泡を有した硬質保油材を用いることができる。また、材質によっては研摩子14を兼ねることもできる。潤滑体61は含油状態としたものを用いてもよいし、潤滑油の補給を図って所定の含油状態を保ちながら用いてもよい。
【0033】
なお、潤滑剤は潤滑油のほか潤滑体61を形成している滑り性成分そのものでもよく、いわゆる滑石をそのような潤滑体61として用いることができる。滑石はろう石としても知られ、その1つの用途に潤滑剤がある。滑石はその硬度が1と石類の中で最も軟らかく、車輪1の特定部分に擦り付けるとその成分が削り取られて車輪1の特定部分の表面に付着し、車輪1が走行する軌条との間の潤滑剤として働く。
【0034】
図10に示す例では、滑石などの硬質保油材を用いた潤滑体61を、研摩子14の一部を切欠いた部分への嵌め合わせや接着、またはおよび研摩子基台14aへの接着、鋲螺類、保持金具により取り付けて双方面一な状態で用いている。この場合、潤滑体61は研摩子14が車輪1の踏面1aに押し付けられて研摩し、清掃するのと同時に働き、2つの機能を個別に制御しなくてよい利点がある。また、潤滑体61の硬度、耐摩耗度が研摩子14のそれよりも低いと、研摩子14による踏面清掃の通常機能を損なわないし、潤滑体61の摩耗が接触面積が広く硬度、耐摩耗度の高い研摩子14の摩耗量に合わせられる。潤滑体61は研摩子14の摩耗量を越えて摩耗することもない。硬度、摩耗度の関係が前記と逆であると接触面積が大きくかつ硬度の低い研摩子14が潤滑体61に先んじて摩耗し車輪1の踏面1aへの研摩作用が邪魔されるきらいがある。
【0035】
図11に示す例では、研摩子基台14aに設けたソレノイドなどのアクチュエータ71によって潤滑体61を研摩子14から出没させるようにしてある。これによって、車輪1への潤滑剤の付与を、研摩子14が踏面清掃を行う動作と同時にも、独立しても行えるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は曲線路での車輪と軌条との潤滑を図るのに実用でき、踏面清掃具を利用して有利に実施できる。
【符号の説明】
【0037】
1 車輪
1a 踏面
1b フランジ
1c 境目
2 踏面清掃具
3 潤滑剤付与具
4 台車
5 ディスクブレーキ装置
14 研摩子
51 噴射具
52 制御手段
61 潤滑体
101 車両
113 油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載されて車輪の踏面清掃をする踏面清掃具に潤滑剤付与手段を付帯させ、この踏面清掃具に付帯した潤滑剤付与手段によって車輪の特定の部分に潤滑剤を付与する鉄道車両の車載式の潤滑剤付与方法であって、
前記潤滑剤付与手段として、研摩子に付帯させた油を噴射する噴射具を用い、この噴射具を通じて車輪に油を噴射し潤滑剤を付与することを特徴とする鉄道車両の車載式の潤滑剤付与方法。
【請求項2】
車載されて車輪の踏面を清掃する踏面清掃具と、この踏面清掃具に付帯されて車輪の特定の部分に潤滑剤を付与する潤滑剤付与手段と、この潤滑剤付与手段による潤滑剤付与と潤滑剤付与の停止とを制御する制御手段と、を備えた鉄道車両の車載式の潤滑剤付与装置であって、
前記潤滑剤付与手段は、油を噴射する噴射具であり、前記制御手段は噴射具を通じた油の噴射を制御して潤滑剤付与と潤滑剤付与の停止とを制御することを特徴とする鉄道車両の車載式の潤滑剤付与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−75666(P2013−75666A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−18344(P2013−18344)
【出願日】平成25年2月1日(2013.2.1)
【分割の表示】特願2008−287119(P2008−287119)の分割
【原出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000163372)近畿車輌株式会社 (108)