説明

鉄道車両用振り子台車及びそれを備えた鉄道車両

【課題】障害物との衝突時等のような過大な前後荷重が負荷された場合にも、車体と台車とが分離しないようにして、安全性を向上させた鉄道車両用振り子台車及びそれを備えた鉄道車両を提供する。
【解決手段】台車枠150側に設けられたコロ保持部144にはコロ140が回転自在に保持されている。振り子梁120は、コロ140と接触しているコロ受け130がコロ140を回転させながら移動することで、車体幅方向に揺動可能である。コロ保持部144には、コロ受け130に対して、受けとなるストッパ145が設けられている。ストッパ145は、コロ受け130との間で車体前後方向に隙間173以上の相対的な動きを制限するので、障害物等との衝突の際に車体長手方向への衝撃が働いて過大な前後荷重が負荷されたときにも、車体側のコロ受け130と、台車側の台車枠150とが分離することを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を揺動可能にして曲線軌道を高速で通過することを可能とした鉄道車両用振り子台車及びそれを備えた鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道車両用台車においては、台車枠上に配置された回転自在のコロの上に振り子梁を載せており、曲線部において振り子梁がコロ上を揺動することにより、振り子梁上に配置された空気バネを介して支持される車体を傾斜させて遠心力を減少させることで、曲線を高速で通過することを可能とした振り子式台車がある(特許文献1参照)。
【0003】
従来の振り子式鉄道車両では、車体が傾斜する構造上、振り子梁はコロ上に載せられているのみであり、台車に固定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−201670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の鉄道車両用振り子台車では、上記のように、台車と車体間が振り子機構によって車体幅方向に揺動可能に構成されているので、台車と車体間の前後力(車体長手方向に作用する力)の伝達は、台車枠に取り付けられた前後力を伝達する前後力伝達コロを介して振り子梁に伝えられる。しかしながら、基本的に振り子梁は台車に固定されていないので、従来の構造では、衝突等の予期せぬ過大な前後力が作用した場合、振り子梁が台車から分離してしまう懸念があった。
【0006】
そこで、台車が振り子台車である場合、振り子梁を台車に対して車体幅方向に揺動可能にしつつ、衝突等の過大な前後力に起因して振り子梁が台車から分離する方向に力が作用する場合であっても、振り子梁が台車から分離するのを抑制する点で解決すべき課題がある。
本発明の目的は、障害物との衝突時等のような過大な前後荷重が負荷された場合など、車体と台車とが分離する方向に力が作用する場合であっても、車体と台車とが分離しにくく、安全性を向上させた鉄道車両用振り子台車及びそれを備えた鉄道車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による鉄道車両用振り子台車は、台車を構成する台車枠と、前記台車枠と前記車体との間に備えられるとともに、前記車体をその幅方向に揺動可能に支持する振り子機構とを備える鉄道車両用振り子台車であって、前記振り子機構は、前記台車枠に回転自在に保持されたコロと、前記車体側に保持されており前記コロにころがり接触するコロ受けを備える振り子梁と、前記コロ受けの端部に転がり接触するとともに、前記台車と前記車体との間の前記車体の長手方向の力を伝達する前後力伝達コロと、を有する鉄道車両用振り子台車において、前記コロ受けの端部に対して前記車体の長手方向に隙間を置いて配置されるとともに、前記台車と前記コロ受けとの分離を抑制する受けを備えること、を特徴としている。
【0008】
この鉄道車両用振り子台車によれば、振り子梁に備わるコロ受けの端部に対して車体長手方向に隙間を設けるように、台車枠側に配置されている受けは、コロ受けとの隙間以上の車体長手方向への相対動きを制限するストッパの作用を奏する。したがって、障害物等との衝突などの際に車体長手方向に過大な前後荷重が負荷されたときにも、コロ受けと台車枠との間で生じようとする車体長手方向の相対変位は、受けが奏するストッパの作用で制限され、車体と台車とが分離することはない。
【0009】
また、この発明は、鉄道車両用振り子台車が適用された鉄道車両、即ち、当該鉄道車両用振り子台車に支持された車体を備えていることを特徴とする鉄道車両に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車体に備えられる振り子梁を台車に対して車体幅方向に揺動可能に保持しつつ、衝突等の過大な前後力に起因して振り子梁(車体)が台車から分離する方向に力が作用する場合であっても、振り子梁が台車から分離することを抑制できる高い安全性を備える鉄道車両用振り子台車及びそれを備えた鉄道車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による鉄道車両用振り子台車が適用される鉄道車両の一例を示す側面図である。
【図2】図1に示す鉄道車両のA−A断面図である。
【図3】図1、図2に示す鉄道車両に用いられる振り子機構の断面図である。
【図4】図3に示す振子装置の動作時を示す断面図である。
【図5】図2〜図4に示す鉄道車両用振り子台車のC部を拡大して示す詳細図である。
【図6】図5に示す鉄道車両用振り子台車のD−D断面図である。
【図7】図5に示す鉄道車両用振り子台車のE−E断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による鉄道車両用振り子台車の実施例を、図を参照しつつ説明する。図1は本発明による鉄道車両用振り子台車が適用された振子式鉄道車両の一例を示す側面図であり、図2は図1に示す鉄道車両のA−A断面図(台車中央位置で車体を横断して切断したときの断面図)である。
【0013】
図1に示すように、鉄道車両10は、先頭に乗務員室を備える先頭車両である。鉄道車両10は、車体11と、当該車体11の長手方向の両端部近傍の下部に設けられており車体11を支持し且つ軌道1を走行可能な台車(振り子式台車)100,100とを備えている。
【0014】
図2に図1のA−A断面図を示す。鉄道車両10の車体11は、車体の両側面を定めるように立設されており、窓や出入り口が形成された側構体12,12と、車体11の幅方向両端側で側構体12,12の上端部に載置され且つ結合されて屋根構体14と、車体11の幅方向両端側で側構体12,12の下端部にそれぞれ結合されていて車体11の床構造を構成する台枠16とを備えている。側構体12,12、屋根構体14及び台枠16の各構体はそれぞれ車体11の長手方向に延びており、図示はしないが、台枠16の長手方向の端部に立設されて側構体12,12と台枠16とに結合された妻構体(一方は、乗務員室)を備えていて、車体11をボックス構造に構成している。台車100,100は、軌道1と台枠16との間に配設されていて、車体11の荷重を支持しながら軌道1を車輪で走行可能にしている。
【0015】
図3は、図2における破線で囲んだ領域Bを拡大した鉄道車両用振り子式台車(振り子動作なし)の断面図である。図4は、図3に示す振り子式台車の振り子動作状態を示す断面図である。図3及び図4においては、台車は車輪を取り除いた状態で示されており、振り子梁とコロ受けとコロとを有する振り子装置を車両長手方向から見た態様で示されている。台車100は、輪軸(図示せず)により支持された台車枠150と、台車枠150上に配置された振り子梁120と、振り子梁120上に配置され且つ車体11を支持する一対の空気バネ110,110とを備えている。空気バネ110,110は、台車100の長手方向中央部において、振り子梁120上の左右(車体11の幅方向500)に配置されており、車体11は、空気バネ110,110を介して台車100に支持されている。振り子機構は、台車枠150と振り子梁120との間に配設されている。
【0016】
台車100は、鉄道車両が走行する軌道1(図1、2参照)に沿って車体幅方向500に離置される二本の側梁154,154と、当該両側梁154,154の長手方向中央部に配設されるとともに両側梁154,154を接続する横梁152とからなる台車枠150を備えている。台車100は、また、図3及び図4には示さないが、側梁154の長手方向の両端部に回動可能に支持される輪軸(車軸の両端部に車輪を備えたもの、図2参照)を備えている。台車100は、更に、振り子梁120と横梁152とを連結して車体11の台車100に対する傾斜を制御するシリンダ装置160を備えている。
【0017】
横梁152の各端部と当該端部に対応する側梁154との接続部の上面には、コロ140を回転自在に保持するコロ保持部144が備えられており、コロ保持部144には、円筒形状のコロ140がその軸を軌道1(車体11)の長手方向に沿って配置した態様で回転自在に保持されている。横梁152について車体11の幅方向両端に備わる一対のコロ140,140の上方には、台車枠150をなす横梁152の長手方向に沿う態様で振り子梁120が配設されており、振り子梁120は、その両端部の下面に、コロ140,140がころがり接触する滑らかに形成された曲面を持つように構成されたコロ受け130,130を備えている。振り子梁120は、当該曲面がコロ140,140を回転させながら移動することで車体幅方向に揺動することができる。コロ受け130,130を備える振り子梁120は、下に向けて凸状の形態をなしている。
【0018】
図4は、図3に示す振り子梁120とコロ受け130及びコロ140とを有する振り子機構が振り子動作した時の拡大図である。振り子機構は、車体11をその長手方向に沿う軸周りに回転させて傾斜させるもので、車体11を台車100,100上で回転傾斜させる時の軸を車体11の床面の上方に設定するとともに、車体11の重心をその軸の下方に設定している。こうした回転軸と重心との配置によって、車両10(図1及び図2参照)が曲線軌道を通過する時に生じる遠心力又はシリンダ装置160の作動により、振り子梁120に備えられるコロ受け130,130がコロ140,140と接触し且つ回転させながら移動し、この振り子梁120の振り子動作によって車体11が傾斜する。
【0019】
図5は、図2及び図3において破線で囲んだ領域Cを拡大して、振り子機構の詳細を示す断面図である。また、図6は図5においてD−Dで示した切断面での断面図であり、図7は図5においてE−Eで示した切断面での断面図である。
【0020】
各コロ140は、コロ保持部144により台車枠150の側梁154と横梁152との接続部の上面に取り付けられている。具体的には、コロ保持部144は、車両長手方向510(図6参照)に延びる支持軸147をその長手方向に離間した端部148,148で保持している。コロ140は、支持軸147に対して軸受149,149を介して回転自在に支持されている。車体11は、車体側である振り子梁120に設けられているコロ受け130が回転自在なコロ140を介して支持されている。振り子梁120は、車体11が円滑に傾斜するためにコロ140上に載せられている構造となっている。
【0021】
上記構造によれば、振り子式鉄道車両が曲線軌道を通過する際に受ける遠心力又はシリンダ装置160によって傾くとき、コロ受け130がコロ140を回転させつつコロ140と接触しながら移動することで振り子動作をする。したがって、振り子式鉄道車両は、コロ140上を振り子梁120が揺動することで、車体11を円滑に傾斜することが可能である。また、前後方向の駆動力及びブレーキ力の伝達は、詳細は後述するが、前後力伝達コロ146にて行われる。
【0022】
コロ受け130、コロ140及び前後力伝達コロ146の構造だけの振り子機構であると、障害物との衝突時など車両10に予期せぬ過大な前後力が負荷された場合、後述するような前後力伝達コロ146のみで過大且つ衝撃的な前後力を支持することができず、またコロ受け130については、上下方向に拘束されていないことから、前後力と合わせて上下力(特に、台車100を車体11から引き離す方向の力)が負荷された場合、台車100から車体11が離脱してしまう懸念がある。
【0023】
そこで、上記問題を解決する手段として、図5から図7に示す本発明による鉄道車両用振り子台車の実施例では、振り子梁120の長手方向の両下面に備えられるコロ受け130,130の長手方向(車体幅方向500)に沿って、コロ受け130の幅方向(車体長手方向510)の端部と噛みあうように、受けとしてのストッパ145,145を配設している。なお、図5では、ストッパ145,145の間に1個の前後力伝達コロ146を備えているが、ストッパ145を3分割し、ストッパ145同士の間に2個の前後力伝達コロを備えても良い。
【0024】
各コロ保持部144は、軸受149,149を介してコロ140を回転自在に支持する支持軸147を保持するために軸保持部170,170と、当該軸保持部170,170から一体的に且つコロ140から離れる方向(車体長手方向510の方向)に延びる延長部171,171とを備えている。各延長部171には、前後力伝達コロ146がボルトなどで回転自在に固定されている。車両10が発車(加速)したり停車(減速)したりする際に生じる車体長手方向510に沿う前後方向の力が作用する場合には、延長部171に備えられる前後力伝達コロ146がコロ受け端部131に当接して、これらの力を台車100から車体11へと伝達する。車体11が振り子動作する際には、前後力伝達コロ146はコロ受け130の幅方向(車体長手方向510に沿う方向)の端部のコロ受け端部131を回動可能に案内する。
【0025】
振り子機構の組立て状態では、コロ受け端部131とストッパ145との間には車体長手方向510の方向に隙間173を設けた状態でストッパ145は延長部171に取付けボルト172で固定されている。このため、車両10が振り子動作時にはコロ受け130が車体幅方向へ揺動する動作、即ち、車体の傾斜動作を阻害しない構造となっている。
【0026】
ストッパ145は、コロ受け130のコロ受け端部131を上下方向に拘束する構造を備えている。即ち、ストッパ145は、例えばコロ受け130のコロ140と接触する側とは反対側において、コロ受け端部131に係合する係合部174を備えている。係合部174は、コロ受け130がコロ140から離れる方向への動きを拘束する。なお、係合部174は、コロ受け130を上下方向に拘束する機能を備えていれば良く、図示のような形状・構造に限られず、例えばコロ受け130内の溝に係合するなどの構造でもよい。本構造によれば、車両が障害物に衝突するなど、過大な前後力が負荷された場合においても、ストッパ145がコロ受け130との間で前後力を吸収すると同時に、係合部174がコロ受け130を上下方向にも拘束することから、台車100と車体11が分離することない。そのため、従来構造に対して衝突時等の予期せぬ過大な力が車体11と台車100との間に生じた場合であっても、車体11と台車100との分離を抑制することができるため安全性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0027】
1:軌道
10:車両
11:車体
12;側構体
14:屋根構体
16:台枠
100,100:台車
110,110:空気バネ
120:振り子梁
130,130:コロ受け
131,131:コロ受け端部
140,140:コロ
144:コロ保持部
145:ストッパ(受け)
146:前後力伝達コロ
150:台車枠
152:横梁
154,154:側梁
160:シリンダ装置
170,170:軸保持部
171,171:延長部
172:取付けボルト
173:隙間
174:係合部
500:車体幅方向
510:車体長手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車を構成する台車枠と、
前記台車枠と前記車体との間に備えられるとともに、前記車体をその幅方向に揺動可能に支持する振り子機構とを備える鉄道車両用振り子台車であって、
前記振り子機構は、
前記台車枠に回転自在に保持されたコロと、
前記車体側に保持されており前記コロにころがり接触するコロ受けを備える振り子梁と、
前記コロ受けの端部に転がり接触するとともに、前記台車と前記車体との間の前記車体の長手方向の力を伝達する前後力伝達コロと、
を有する鉄道車両用振り子台車において、
前記コロ受けの端部に対して前記車体の長手方向に隙間を置いて配置されるとともに、前記台車と前記コロ受けとの分離を抑制する受けを備えること、
を特徴とする鉄道車両用振り子台車。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用振り子台車において、
前記振り子機構は、前記台車枠に取り付けられるとともに、前記コロを回転自在に保持するコロ保持部を備えており、
前記受けは、前記コロ保持部に取り付けられていること、
を特徴とする鉄道車両用振り子台車。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道車両用振り子台車において、
前記コロ保持部は、軸受けを介して前記コロを回転自在に支持する支持軸を保持する軸保持部と、当該軸保持部から一体的に前記コロから離れる方向に延びる延長部とを備えており、前記コロ保持部は、前記延長部において前記受けを取り付けていること、
を特徴とする鉄道車両用振り子台車。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の鉄道車両用振り子台車において、
前記受けは、前記コロ受けが前記コロから離れる方向への動きを拘束する係合部を備えていること、
を特徴とする鉄道車両用振り子台車。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道車両用振り子台車において、
前記台車枠は、車体幅方向に離置される二本の側梁と当該両側梁を接続する横梁とを備えており、
前記コロ保持部は、前記横梁の両端部と当該端部に対応する前記側梁との接続部の上面に取り付けられていること、
を特徴とする鉄道車両用振り子台車。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の鉄道車両用振り子台車と、当該鉄道車両用振り子台車に支持された車体とを備えていること
を特徴とする鉄道車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−254683(P2012−254683A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127926(P2011−127926)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)