説明

鉄道車両用空調装置

【課題】車両室内の雰囲気を外気と遮断するエアカーテンを安定して形成することができる鉄道車両用空調装置を簡易な構成で安価に提供する。
【解決手段】車両室内10の空調のために天井部10R内に形成され、空調機25から吹き出される空気流が通過する室内空調用流路20Cと、天井部10R内に形成され、空調用流路20Cから分岐して車両室10端部の乗降扉30に伸びる分岐流路20Dと、天井部10R内にて、空調用流路20Cと分岐流路20Dとの連通/遮断を切り換える流路切り換え手段SWとを備え、分岐流路20Dには、空調機25からの空気が吹き出される吹き出し口20Daが乗降扉30の上部に設けられていると共に、流路切り換え手段SWは、乗降扉30の開放動作と連動して室内空調用流路20Cと分岐流路20Dとを連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用の空調装置に関するものであり、特に、乗降扉が開放された際に、車両室内の雰囲気を外気と遮断するエアカーテンを生成する鉄道車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の天井部には、空調機が配設されており、かかる空調機により車両室内を所定の温度・湿度に調整するようになっている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、特許文献1には、開扉指令信号を受けて、車両天井中央部に設けられた送風機の吹き出し口を、開扉される乗降扉側に向けた位置で停止させる鉄道車両用送風装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−83223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された先行技術では、車両天井の略中央部に設けられた吹き出し口と開放される乗降扉との間に乗客や荷物等の多くの不測の障害物が存在するため、室内雰囲気を外気から遮断するエアカーテンを安定して形成することが困難であった。
【0006】
また、送風機から吹き出された空気流は、車両室内に拡散して風量損失の増大を招くと共に、車両側端部に位置する乗降扉部分に向けて空気流を噴射して当該乗降扉部分に到達させるためには、多大な風量が必要となり、送風機が過度に大型化し、かつ、コストアップするといった問題が生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、上述のような従来技術の問題点に鑑みて、車両室内の雰囲気を外気と遮断するエアカーテンを安定して形成することができる鉄道車両用空調装置を簡易な構成で安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る鉄道車両用空調装置は、車両室の天井部に設置された空調機を備えた鉄道車両用空調装置であって、前記車両室内の空調のために天井部内に形成され、前記空調機から吹き出される空気流が通過する室内空調用流路と、前記天井部内に形成され、前記空調用流路から分岐して車両室端部の乗降扉に伸びる分岐流路と、前記天井部内にて、前記空調用流路と分岐流路との連通/遮断を切り換える流路切り換え手段とを備え、前記分岐流路には、前記空調機からの空気が吹き出される吹き出し口が前記乗降扉の上部に設けられていると共に、前記流路切り換え手段は、前記乗降扉の開放動作と連動して前記室内空調用流路と分岐流路とを連通させることを特徴とするものである。
【0009】
このように構成した場合には、乗降扉上部から空気流を噴出することにより、車両室内の雰囲気を外気と遮断するエアカーテンを安定して形成することができる。
【0010】
また、前記流路切り換え手段が、前記室内空調用流路と分岐流路とを連通させる際には、前記空調機の風量を増大させてもよい。
【0011】
このように構成した場合には、エアカーテンをより安定して形成することができる。
【0012】
さらに、前記吹き出し口から空気を吹き出し始めるタイミングは、前記乗降扉が開放動作を開始する直前であってもよい。
【0013】
このように構成した場合には、乗降扉の扉面を利用して、効率的に安定してエアカーテンを形成することができる。
【0014】
また、前記吹き出し口は、前記乗降扉の内面側に空気流を吹き付けることができる。
【0015】
このように構成した場合には、風等の外部環境の影響を受けずに安定してエアカーテンを形成すると共に、乗降客に対する注意喚起を促すことができる。
【0016】
さらに、前記吹き出し口は、前記乗降扉の内面側及び外面側に向かって吹き付けるように、乗降扉の直上に設けることができる。
【0017】
このように構成した場合には、乗降扉の内側と外側とで二重のエアカーテンを形成し、車両室内の雰囲気をより安定して外気から遮断することができる。
【0018】
さらにまた、前記吹き出し口は、吹き出された空気流が前記乗降扉面に沿うようにガイドするガイド部材を備えていてもよい。
【0019】
このように構成した場合には、吹き出し口から吹き出される空気流をより円滑に扉面に沿わせて効率的にエアカーテンを形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、車両室内の雰囲気を外気と遮断するエアカーテンを簡易な構成で安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係る鉄道車両用空調装置の通常運転時における流路構成を説明するための模式図である。
【図2】本実施の形態に係る鉄道車両用空調装置のエアカーテン生成時における流路構成を説明するための模式図である。
【図3】本実施の形態に係る鉄道車両用空調装置の室内空調用流路と分岐流路との構成を説明するための模式図である。
【図4】本実施の形態に係る空調装置の吹き出し口を乗降扉の直上に設けた場合のエアカーテンの形成状態を説明するための模式図である。
【図5】本実施の形態に係る空調装置の吹き出し口に空気流のガイド部材を設けた形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る鉄道車両用空調装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
本発明に係る鉄道車両用空調装置は、車両客室内の空調を行うと共に、乗降扉が開放した際に、客室内と外気との交流を遮断する、いわゆるエアカーテンを生成するものである。ここで、図1は、乗降扉が閉鎖している状態での客室内の空気の流れを示す模式図であり、図2は、乗降扉が開放している状態での空気の流れを示す模式図である。
【0024】
図1及び図2に模式的に示すように、本実施の形態に係る鉄道車両用空調装置1は、車両室10の天井部10Rに配設された空調機25と、かかる天井部10R内に形成され、空調機25から吹き出される空気流の経路(流路)としての風道20等とを備えている。
【0025】
本実施の形態に係る空調機25は、不図示のコンプレッサー、コンデンサー等の熱交換器を備え、外気を取り込みながら車両室内10の空調を行う外気取り込みモードと、外気を取り込まずに車両室内10の空気を循環させて空調を行う室内循環モードとを有している。
【0026】
上記風道20は、車両室10の天井部10R内の略中央に形成され、主に車両室内10を空調するための空気流路である室内空調用流路20Cと、乗降扉30に対応して設けられ、室内空調用流路20Cから車両室10の側端部(乗降扉30が設置されている側の端部)に向かって分岐して乗降扉30の上部に至る分岐流路20Dとで構成されている。
【0027】
また、上記室内空調用流路20Cと分岐流路20Dとの境界には、図3に最も良く示されるように、支点SW0を中心に回転可能に形成され、乗降扉30の動作と連動して回転し、室内空調用流路20Cと分岐流路20Dとの連通/遮断を行う流路切り換え手段としての流路切り換え板SWが配設されている。
【0028】
上記室内空調用流路20Cには、車両室内10の長手方向(車両進行方向)に沿って隣接する流路切り換え板SW,SWの間に、空調機25からの空気流を車両室内10へ吹き出す客室側吹き出し口20Caが設けられている。なお、当該客室側吹き出し口20Caについては、車両室内10の長手方向全域に渡ってより多数の吹き出し口20Caを形成してもよい。
【0029】
一方、車両室内10の側端部まで延在する分岐流路20Dには、乗降扉30の上部に、空調機25からの空気を吹き出してエアカーテンACを生成するエアカーテン用吹き出し口20Daが設けられている。
【0030】
なお、本実施の形態において、上記分岐流路20Dは、客室側吹き出し口20Caを形成する開口部までが一体に形成されており、当該分岐流路20Dを乗降扉30に対応させて室内空調用流路20Cに隣接配置することにより、中央部の上記室内空調用流路20Cに隣接する天井側部が形成されると共に、室内空調用流路20Cと略同等の高さを有して乗降扉30へ伸びる流路(空間)が形成されるようになっている(図3参照)。
【0031】
そして、図1に模式的に示すように、乗降扉30が閉じている車両走行状態等では、上記流路切り換え板SWは閉じており(室内空調用流路20Cと分岐流路20Dとを遮断する遮断ポジションに位置しており)、室内空調用流路20Cと分岐流路20Dとの連通を遮断している(図中、流路切り換え板SW左右での空気流の交流を遮断している)。これにより、通常の風量(例えば、90〜120m3/min程度)にて空調機25による車両室内10の冷暖房が行われるようになっている。
【0032】
一方、図2に模式的に示すように、車両がプラットホームに到着して乗降扉30が開放された際には、この乗降扉30の開放動作と連動して、上記流路切り換え板SWが支点SW0を中心に回転して開放動作(本例では、図中、上方に回転して室内空調用流路20Cと分岐流路20Dとを連通させる連通ポジションに移動)し、室内空調用流路20Cと分岐流路20Dとが連通するようになっている。そして、空調機25から吹き出された調和空気が室内空調用流路20Cから分岐流路20Dへ進入して、乗降扉30上部に設けられた分岐流路20Dのエアカーテン用吹き出し口20Daから噴出し、乗降扉30の上部から下方に向かって裾が広がった断面略三角形状のエアカーテンACが形成されるようになっている。これにより、乗降扉30が開放された際でも、車両室内10と外気との交流を上記エアカーテンACが遮断し、車両室内10の環境(雰囲気)を一定に保つことが可能となる。
【0033】
なお、上記エアカーテンACを生成する際の空調機25の風量は、通常の風量(例えば、90〜120m3/min程度)と同等でも形成可能であるが、より安定してエアカーテンACを形成するという観点からは、風量を増大させることが好ましい。具体的には、エアカーテンAC生成時には、空調機25の風量が上記通常の風量の105〜110%に増大するように、流路切り換え板SWの開放動作と連動させて空調機25の風量を切り替えるように構成することが好ましい。
【0034】
また、図2では、乗降扉30が開放した後のエアカーテンACの形成状態を模式的に示しているが、上記エアカーテンACを生成する際に、流路切り換え板SWを開放動作させるタイミングは、乗降扉30が閉じた状態でエアカーテン用吹き出し口20Daから空気流が吹き出されるように、乗降扉30が開放動作を開始するよりタイミングよりも若干早い(乗降扉30が開放動作を開始するタイミングの直前である)ことが好ましい。
【0035】
具体的には、例えば、列車情報管理システム等から得られる車両のプラットホームへの進入を検知する信号やホームドアが車両の扉を検知する信号等に基づいて、乗降扉30が開放動作を開始する直前(約1〜2秒前)に流路切り換え板SWを開放動作させるように構成してもよい。
【0036】
このように構成した場合には、エアカーテン用吹き出し口20Daから空気流が噴射される際には、未だ乗降扉30が閉じているので、この乗降扉30の扉面に沿って空気流が噴出されることとなり、空気流の拡散を防いで、より指向性、収束性の高いエアカーテンACを形成することができる。
【0037】
なお、上記エアカーテン用吹き出し口20Daは、乗降扉30の直上、若しくは若干内側(車両室内10側)に配設することが好ましい。
【0038】
図2に例示したように、乗降扉30の若干内側にエアカーテン用吹き出し口20Daを設けた場合には、乗降扉30の内面に沿って空気流を噴射して、外気の影響を受けずに安定してエアカーテンACを形成することができる。また、乗降扉30近傍に存在する乗客に対して、当該乗降扉30が開放することを事前に注意喚起して安全性の向上に寄与することができる。
【0039】
一方、乗降扉30の直上から空気流が吹き出すようにエアカーテン用吹き出し口20Daを設けた場合には、図4に模式的に示すように、乗降扉30が閉じた状態で、当該乗降扉30の内面及び外面に沿って空気流が噴出され、いわゆる二重のエアカーテンが形成されることとなる。そして、乗降扉30が開くにつれて内面側のエアカーテンACiと外面側のエアカーテンACoとが一体化し、より効果的に車両室内10への外気の浸入を遮断することができる。
【0040】
なお、上述したような二重のエアカーテンを形成するためには、上記エアカーテン用吹き出し口20Daを、乗降扉30面と直交する方向(車両進行方向と直交する方向)に沿って複数列設けてもよい。
【0041】
また、エアカーテン用吹き出し口20Daから吹き出された空気流を乗降扉30面に沿って円滑に流してエアカーテンACを効率的に形成するという観点からは、エアカーテン用吹き出し口20Daからの空気流は、乗降扉30面に向かうように、傾斜して噴射されることが好ましい。例えば、エアカーテン用吹き出し口20Da自体を乗降扉30面に向かうように鉛直方向に対して傾斜配置してもよいし、図4に模式的に示すように、エアカーテン用吹き出し口20Daから吹き出された空気流が乗降扉30面に沿うようにガイドするガイド部材20gを吹き出し口20Daの出口側に設けてもよい。
【0042】
さらに、上記エアカーテン用吹き出し口20Daは、乗降扉30の側面に設けてもよい。具体的には、分岐流路20Dを乗降扉30の戸袋側面にまで延長し、乗降扉30の左右の戸袋内にエアカーテン用吹き出し口20Daを設けてもよい。
【0043】
なお、本実施の形態において、前述した空調機25の外気取り込みモード、室内循環モードのいずれにおいても上記エアカーテンACを生成することができるが、車両室内10の雰囲気を外気から遮断するという観点からは、エアカーテンAC生成時に自動的に空調機25の運転モードを室内循環モードへ切り換えることが好ましい。
【0044】
また、本発明の技術的範囲は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨に逸脱しない範囲において多様な変更もしくは改良を加え得るものである。例えば、エアカーテン用吹き出し口20Daを乗降扉30の周囲(上方及び側方)に設けて、これらのエアカーテン用吹き出し口20Daから同時に空気流を噴射してより迅速にエアカーテンACを形成するように構成してもよいし、流路切り換え板SWの回転方向を下方から上方に回転するように設定して流路切り換え板SWと分岐流路20Dとを一体に形成(流路切り換え板SWの回転支点SW0を分岐流路20Dと一体に形成)してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1:鉄道車両用空調装置、10:車両室、10R:天井部、20:風道、20C:室内空調用流路、20Ca:客室側吹き出し口、20D:分岐流路、20Da:エアカーテン用吹き出し口、20g:ガイド部材、25:空調機、30:乗降扉、AC:エアカーテン、SW:流路切り換え板、SW0:回転支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両室の天井部に設置された空調機を備えた鉄道車両用空調装置であって、
前記車両室内の空調のために天井部内に形成され、前記空調機から吹き出される空気流が通過する室内空調用流路と、
前記天井部内に形成され、前記空調用流路から分岐して車両室端部の乗降扉に伸びる分岐流路と、
前記天井部内にて、前記空調用流路と分岐流路との連通/遮断を切り換える流路切り換え手段と
を備え、
前記分岐流路には、前記空調機からの空気が吹き出される吹き出し口が前記乗降扉の上部に設けられていると共に、前記流路切り換え手段は、前記乗降扉の開放動作と連動して前記室内空調用流路と分岐流路とを連通させることを特徴とする鉄道車両用空調装置。
【請求項2】
前記流路切り換え手段が、前記室内空調用流路と分岐流路とを連通させる際には、前記空調機の風量を増大させることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用空調装置。
【請求項3】
前記吹き出し口から空気を吹き出し始めるタイミングは、前記乗降扉が開放動作を開始する直前であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両用空調装置。
【請求項4】
前記吹き出し口は、前記乗降扉の内面側に空気流を吹き付けることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鉄道車両用空調装置。
【請求項5】
前記吹き出し口は、前記乗降扉の内面側及び外面側に向かって吹き付けるように、乗降扉の直上に設けられていることを特徴とする1ないし4のいずれかに記載の鉄道車両用空調装置。
【請求項6】
前記吹き出し口は、吹き出された空気流が前記乗降扉面に沿うようにガイドするガイド部材を備えていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の鉄道車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−106589(P2012−106589A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256492(P2010−256492)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(391024951)東日本トランスポ−テック株式会社 (24)