説明

鉄道車輪とレール

【課題】カーブ走行時の振動を減少させることができる鉄道車輪とレールを提供する。
【解決手段】この発明の鉄道車輪は、円弧の一部をレール接触面とする鉄道車輪であって、鉄道車輪を両端に備える車輪軸の幅方向の中央を通る垂直線上の何れかの点と、レール接触面を結ぶ直線の当該レール接触面に直角に交差する線分を、円弧の半径とする。また、この発明のレールは、上記した鉄道車輪との接触面が凹面の円弧形状である。この鉄道車輪とレールは、従来の車輪の勾配面よりもその接触面に大きな傾斜角度を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉄道車輪とレールに関する。
【背景技術】
【0002】
図10に従来の鉄道車輪とレールを示す。図10(a)は鉄道車両の移動方向の正面から鉄道車輪とレールを見た図である。車輪51R,51Lは、内側に車輪フランジ51Ra,51Laと、車輪の外側に向けて除々に車輪の外径が小さくなる勾配面51Rb,51Lbを備える(非特許文献1)。図10(b)に、勾配面51Lbを拡大して示す。勾配面51Rb,51Lbとレール50R,50Lとを接触させて鉄道車両が走行する。
【0003】
勾配面51Rb,51Lbを備えるのは、鉄道車両がカーブを走行できるようにするためである。鉄道車両がカーブを走行する際、車輪51R,51Lを横滑りさせることでカーブの外側のレールと接触する勾配面の位置の車輪半径を、内側のレールと接触する勾配面の車輪半径よりも大きくすることで、左右の車輪が同じ回転数でも左右の車輪に適切に行路長の差(内側と外側のレールの長さの差によって生じる左右の行路長の差)を発生させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】谷藤他「鉄道車両軸の転走におけるカオス状振動」日本機械学会論文集(C編) 59巻562号(1993-6) pp.1633-1637.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した車輪の横滑りが、鉄道車両がカーブを通過する際に発生する振動の原因となる。従来からその振動は、鉄道車両がカーブを高速走行する上での障害となっている。
【0006】
この発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、従来の鉄道車輪よりも、カーブを走行する際の車輪の横滑り量を減少させることで振動の発生を少なくした鉄道車輪とレールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の鉄道車輪は、円弧の一部をレール接触面とする鉄道車輪であって、鉄道車輪を両端に備える車輪軸の幅方向の中央を通る垂直線上の何れかの点と、レール接触面を結ぶ直線の当該レール接触面に直角に交差する線分を、円弧の半径とする。また、この発明のレールは、上記した鉄道車輪との接触面が凹面の円弧形状である。
【発明の効果】
【0008】
この発明の鉄道車輪のレールとの接触面は円弧形状であり、従来の車輪の勾配面よりもその接触面に大きな傾斜角度を持たせても、鉄道車輪をレールが支持することができる。よって、車輪の少ない横滑り量で左右の車輪に大きな行路長の差を発生させることができ、カーブ走行中の鉄道車両の振動を減らすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】車輪軸の幅の中央を通る垂直線α上の点Oを中心として半径rの円弧のこの発明の鉄道車輪とレールを示す図。
【図2】半径rを固定で車輪軸の幅の中央を通る垂直線α上の点Oの位置を変えた場合のこの発明の鉄道車輪とレールを示す図。
【図3】車輪軸の幅の中央を通る垂直線α上の点Oを中心として半径rを変えた場合のこの発明の鉄道車輪とレールを示す図。
【図4】車輪軸の幅の中央を通る垂直線α上の点Oと半径rの両方を変えた場合のこの発明の鉄道車輪とレールを示す図。
【図5】カーブ部分におけるこの発明の鉄道車輪とレールを示す図。
【図6】この発明の鉄道車輪の他の例を示す図。
【図7】この発明のレールの形状を決定する方法を説明する図。
【図8】同一の鉄道車両が走行可能な軌道間隔の例を示す図であり、(a)は小さな軌道間隔δ、(b)は大きな軌道間隔εを示す図である。
【図9】この発明のレールの他の例を示す図。
【図10】従来の鉄道車輪とレールを示す図であり、(a)は鉄道車両の移動方向の正面から鉄道車輪とレールを見た図であり、(b)はレールの勾配面を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。複数の図面中同一のものには
同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
【実施例1】
【0011】
図1に、この発明の鉄道車輪とレールを示す。図1は、図示するのを省略している鉄道車両の移動方向の正面から見た図である。2本のレール1Rと1Lとで軌道を構成し、右側の鉄道車輪2Rと左側の鉄道車輪2Lとは、それぞれの中心が車輪軸3で連結されている。なお、車輪軸3の太さの中心を表す一点鎖線で見て線対称となる車輪軸3と鉄道車輪2R,2Lの、上半分の部分の表記を図1では省略している。
【0012】
鉄道車輪2R,2Lのレール接触面2Ra,2Laの形状は、円弧の一部である。その円弧の半径rは、車輪軸3の幅方向の中央を通る垂直線αの上の何れかの点と、レール接触面2Ra,2Laを結ぶ直線の当該レール接触面2Ra,2Laに直角に交差する線分の長さである。半径rの円弧の中心は、この例では車輪軸3よりレール1R,1L側に、ある長さ下がったO点である。
【0013】
レール1R,1Lの断面は、四角形の軌道内側上の角が、レール接触面2Ra,2Laと同じ円弧形状で切り欠かれて車輪接触面1Ra,1Laを持つ形状である。この車輪接触面1Ra,1Laで、レール接触面2Ra,2Laを介して、図示を省略している鉄道車両を支持する。レール接触面2Ra,2Laが円弧形状であること以外は、従来の鉄道車輪と車輪軸3の周りの構造に変わるところは無いので、従来の鉄道車両と同様に動力装置や台車などの機構を組み込むことが出来る。
【0014】
このように鉄道車輪とレールを構成することで、鉄道車輪とレールの接触面の傾斜角度を従来の車輪の勾配面よりも大きくすることが可能である。その結果、少ない横滑り量で左右の車輪に大きな行路長の差を発生させることができ、カーブ走行中の鉄道車両の振動を減らすことが出来る。
【0015】
この発明の鉄道車輪は、色々な変形が可能であり図1の例に限定されない。次に、その変形例を説明する。図2に、円弧の半径rを固定として垂直線α上のO点の位置を変えた場合の鉄道車輪2R,2Lを示す。
【0016】
図2中のO点は、図1のO点と同じ位置である。また、実線で示す鉄道車輪2R,2Lも図1と同じである。そのO点の位置を、任意の長さm分レール1R,1L側に移動させたのがO′点である。そのO′点を中心に半径rの円弧を描くレール接触面2La′を破線で示す。そのレール接触面2La′は、長さm分下がった位置になる。そのレール接触面2La′と対を成すレール接触面は、図が煩雑になるので省略している。
【0017】
逆に、O点の位置を車輪軸3側に長さp分移動させたのがO″点である。O″点を中心に半径rの円弧を描くレール接触面2Ra″を二点鎖線で示す。レール接触面2Ra″の位置は、レール接触面2Raよりも長さp分車輪軸3側に移動する。
【0018】
このように、円弧の中心であるO点の位置をレール側に設けるとレール1R,1Lと車輪軸3との間隔は大きくなる。言い換えれば、鉄道車輪2R,2Lの外径が大きくなる。
逆に、O点を車輪軸3に近づけると鉄道車輪2R,2Lの外径は小さくなる。一方、鉄道車輪とレールの接触面の傾斜角度と軌道間隔は固定である。
【0019】
図3に、円弧の中心であるO点の位置を固定として半径rを変えた例を示す。図3中のO点と実線で示す鉄道車輪2R,2Lは、図1と同じである。半径をrより短い長さのr′とした場合の鉄道車輪2R′と2L′を破線で示す。O点の位置を変えずに半径の長さを短くすると、鉄道車輪の外径は小さくなり、軌道間隔も狭くなる。しかし、半径rとr′が重なる場合は、鉄道車輪とレールの接触面の傾斜角度は変わらない。半径r′が半径rより下側になる(半径r′と車軸のなす角が大きくなる)と、鉄道車輪とレールの接触面の傾斜角度は小さくなる。図示するのは省略するが、半径rの長さを長くすると、鉄道車輪の外径は大きくなる。しかしここでも、半径rとr′が重なる場合は、鉄道車輪とレールの接触面の傾斜角度は変わらない。
【0020】
図4に、円弧の中心O点を車輪軸3よりも車両側に設け、半径も例えば2倍の長さにした例を示す。図4中のO点と実線で示す鉄道車輪2R,2Lは、図1と同じである。O′点は、車輪軸3を挟んでレール1R,1Lの反対側に位置し、半径の長さは図1の2倍の長さ2rである。この場合のレール接触面2Ra′と2La′を破線で示す。鉄道車輪の外径は大きくなると共に軌道間隔も広がる。そして鉄道車輪とレールの接触面の傾斜角度は小さくなる。
【0021】
以上、図1〜図4を参照して変形例を説明したように、この発明の鉄道車輪は、要求される仕様、例えば車両の大きさや軌道間隔等に自在に適応させることが可能である。上記した図1〜図4に共通して言えるこの発明の鉄道車輪の特徴は、円弧の一部をレール接触面とする鉄道車輪であって、鉄道車輪を両端に備える車輪軸の幅方向の中央を通る垂直線上の何れかの点と、レール接触面を結ぶ直線の当該レール接触面に直角に交差する線分を、上記円弧の半径とすることである。
【0022】
この特徴によって、カーブ走行中の鉄道車両の振動を減らすことが出来る。図5に、カーブを走行時のこの発明の鉄道車輪とレールを正面から見た様子を示す。図5は、鉄道車両が右カーブを走行中の様子を示す。カーブ外側のレール1Lには、カーブ内側のレール1Rよりも位置を高くするカント(Cant)が付けられている。
【0023】
車輪軸3で連結された鉄道車輪2Rと2Lは、カーブ走行時も同じ回転数である。しかし、カーブ外側のレール1Lの行路長は、カーブ内側のレール1Rの行路長よりも長い。その行路長の差を埋め合わせるために、鉄道車両はこの例ではカーブの外側に当たるレール1L側に横滑りする。
【0024】
その結果、外側の車輪である鉄道車輪2Lとレール1Lの接触面は、車輪軸3から遠ざかる外径の大きい方向に移動する。内側の鉄道車輪2Rとレール1Rの接触面は、車輪軸3寄りの外径の小さい方向に移動する。接触面の軌道内側の外側車輪と内側車輪の行路長を、それぞれ破線の直線βとγで表す。外側車輪の行路長を表す直線βの方が、直線γよりも長く、カーブ走行時の左右車輪の行路長の差が発生していることが分かる。なお、この行路長差は、軌道外側の行路長で比較しても、外側車輪の行路長が内側車輪のそれよりも大きな関係は変わらない。
【0025】
この発明の鉄道車輪とレールでは、接触面の傾斜角度が従来の勾配角よりも大きいので行路長差を得るために鉄道車両が横滑りする量が少なくて済み、カーブ走行時の振動を減らすことができる。
【実施例2】
【0026】
図6にこの発明の鉄道車輪の他の例を示す。図6に示す鉄道車輪4R,4Lは、車輪軸3の回転中心軸の中点に円弧の中心であるO点を設け、車輪軸3の太さよりも大きな外径のストッパ突起4Ra,4Laが、車輪軸2を中心として車輪の外側に形成されたものである。このように、円弧の中心であるO点を車輪軸3の範囲に設けても良い。
【0027】
ストッパ突起4Ra,4Laは、車両傾斜時にレール1R,1Lに接触することで脱輪するのを防止するためのものである。また、鉄道車輪4R,4Lの外径の最も大きい車輪の内側に、従来の車輪フランジ51Ra,51Laに相当するストッパ突起4Rc,4Lcを設けても良い。
【0028】
〔レール〕
図7に、この発明のレール1R,1Lの形状を決定する方法を示す。図7は、レール延伸方向に直交する方向の断面図である。レール1R,1Lの鉄道車輪と接触する車輪接触面1Ra,1Laは、凹面の円弧形状である。
【0029】
その円弧形状は、鉄道車輪のレール接触面を構成する円(円弧)の半径をrとし、2本のレール1R,1Lとレール接触面との接点をそれぞれA及びBとしたとき、当該AとBを結ぶ直線よりも車輪軸3側で、且つ、そのAとBからの距離が共にrとなる点を中心とする半径rの円の円弧よりも半径の大きい円弧形状である。
【0030】
この発明のレールを用いることで、この発明の一組の鉄道車輪に対して軌道間隔を、所定の範囲内で可変することが出来る。つまり、図8に示すように同一の鉄道車両を、例えば軌道間隔δ(図8(a))から軌道間隔ε(図8(b))のレールに、連続して走行させることが可能である。
【0031】
このようにこの発明の鉄道車輪とレールは、軌道間隔の自由度を広げる効果も奏する。なお、レールの円弧形状の車輪接触面の両端の縁を滑らかに面取りすると良い。図9に、その面取りした例を示す。車輪接触面の両端の縁を滑らかに面取りすることで、車輪接触面の両端で発生する磨耗を防止することができ、騒音の発生も抑制することが可能である。
【0032】
以上述べたように、この発明の鉄道車輪とレールによれば、レール接触面と車輪接触面に従来の車輪の勾配面よりも大きな傾斜角度を持たせることが可能で、カーブ走行時の左右車輪の行路長差を、少ない車輪の横滑り量で得ることが出来る。その結果、カーブ走行中の鉄道車両の振動を減らすことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧の一部をレール接触面とする鉄道車輪であって、
上記鉄道車輪を両端に備える車輪軸の幅方向の中央を通る垂直線上の何れかの点と、上記レール接触面を結ぶ直線の当該レール接触面に直角に交差する線分を、上記円弧の半径とする鉄道車輪。
【請求項2】
請求項1に記載した鉄道車輪において、
上記車輪軸の太さよりも大きな外径のストッパ突起が、上記車輪軸を中心として車輪の外側に形成されていることを特徴とする鉄道車輪。
【請求項3】
請求項1又は2に記載した鉄道車輪との車輪接触面が、凹面の円弧形状であるレール。
【請求項4】
請求項3に記載したレールにおいて、
上記円弧形状は、上記鉄道車輪の接触面断面を構成する円の半径をrとし、2本のレールと上記鉄道車輪との接点をそれぞれA及びBとしたとき、当該A,Bを結ぶ直線よりも車輪軸側で、且つ、そのA,Bからの距離が共にrとなる点を中心とする半径rの円の円弧よりも半径の大きい円弧形状であることを特徴とするレール。
【請求項5】
請求項3又は4に記載したレールにおいて、
上記円弧形状の車輪接触面の両端の縁が滑らかに面取りされていることを特徴とするレール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−25316(P2012−25316A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167768(P2010−167768)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)