説明

鉄錯体の回収方法

【課題】原子移動型ラジカル反応において、反応に使用された1,4,7−トリアザシクロノナン化合物を配位子に持つ2価又は3価の鉄錯体を、再度触媒として利用が可能な3価鉄錯体として回収する方法を提供すること。
【解決手段】鉄化合物に対して、特定の環状アミン化合物が配位してなる2価又は3価の鉄錯体を触媒とする原子移動型ラジカル反応において、
反応終了後、反応混合物に下記工程1)次いで工程2)を行うことにより、3価鉄錯体を回収する方法を提供する。
工程1)反応混合物を酸素により処理した後鉄錯体と反応混合物とを分離する工程
又は、
鉄錯体と反応混合物を分離した後該鉄錯体を酸素により処理する工程
工程2)上記1)工程により得られる鉄錯体をハロゲン化剤により処理する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4,7−トリアザシクロノナン化合物を配位子に持つ2価又は3価の鉄錯体を触媒とした原子移動型ラジカル反応において、反応終了後に使用済みの鉄錯体を3価の鉄錯体として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のラジカル重合と異なり、ポリマー成長末端が化学変換可能な活性を有するリビングラジカル重合は、ポリマーの分子量、モノマー残基序列、次元構造などを任意に制御できることから、この10年以来多くの注目を集めて来た。その中で、特に、金属錯体とハロゲン化合物との組み合わせによる原子移動型ラジカル重合反応(ATRP)はその広範に渡るモノマー種類の適応性が示され、それを用いるポリマーの精密制御方法は、ポリマーの合成だけではなく、基材表面・界面の化学修飾、デバイス構築にも広がるようになった。
【0003】
原子移動型ラジカル重合反応で用いられる金属触媒は、予め合成した金属錯体だけではなく、金属と配位子(例えばアミン類)とからなる化合物を重合反応系に混合してから用いる場合が多い。このような重合系では、重合後ポリマーからの金属や配位子の除去が大きな課題となっている。ある意味では、重合反応それ自体より、残留金属や配位子をポリマーから除去することがリビングラジカル重合実用化への現実的な問題でもある。
【0004】
残留金属や配位子の除去に関しては、1)重合終了後の溶液をそのまま(あるいは適当な溶剤で希釈した後)アルミナやシリカカラムに通す方法、2)イオン交換樹脂による銅成分の除去方法(非特許文献1)、3)重合溶液に水や貧溶媒を添加して、固体あるいは溶液状態のポリマーと触媒含有溶液とを分離する方法(特許文献1〜4)、4)金属錯化剤を利用する方法(特許文献5)が検討されている。
【0005】
一般に、原子移動型ラジカル重合反応に使用される触媒や配位子は比較的高価なものが多く、これらを効率的にポリマーから分離・回収し、触媒成分の再利用が可能となれば、製造コスト削減はもとより廃棄物削減の観点からも、工業的に優位な技術となり得る。しかしながら、該重合反応で使用する低原子価金属触媒は、一般に空気(酸素)酸化を受けやすく、不活性雰囲気での貯蔵、取扱いが必要となる。従って、上記方法では、ポリマーからの触媒成分の除去は可能であるが、それらを回収・再利用することは困難である。
本発明者により低原子価鉄触媒として、鉄(2価)−トリアザシクロノナン錯体を触媒とした重合において、重合後の簡便な操作でポリマーから鉄触媒を分離でき、更には分離した鉄触媒は重合触媒として再利用可能であることが開示されている。しかしながら2価の鉄化合物は酸化されやすく、不活性雰囲気での回収・再利用が必要となる等、工業的ポリマー合成の観点から課題も多い(特許文献6)。
【0006】
原子移動型ラジカル重合反応での活性ハロゲン化合物を、従来のラジカル発生剤(例えば、過酸化物やアゾ系化合物)に替えて行う重合反応を逆原子移動型ラジカル反応と呼ぶ。該重合反応では、使用する触媒は高原子価金属化合物であり、空気中で安定に存在する極めて取扱い易い化合物である。従来のラジカル重合プロセスにこの高原子価触媒を加えることで、リビングラジカル重合が可能となり、重合物の末端に反応性残基を導入することができ、それによるブロック共重合体の合成も可能である。従って、逆原子移動型ラジカル重合反応は、既存生産プロセスにて構造制御されたポリマーを得ることができる有用な製造法である。鉄錯体における高原子価触媒は3価の鉄錯体であり、例えば、本発明者により上述の鉄(2価)−トリアザシクロノナン錯体に対応する鉄(3価)−トリアザシクロノナン錯体触媒による逆原子移動型ラジカル重合反応が報告されている(特許文献7)。この場合も、ポリマーからの鉄触媒の分離、分離した鉄触媒の再利用が可能であるが、重合終了後には、鉄の価数は2価となっているため、上記と同様、回収・再利用工程を不活性雰囲気で実施する必要があった。
このように低原子価、高原子価錯体のいずれを用いた原子移動型ラジカル重合反応においても、再利用可能な触媒は低原子価であるが、触媒活性を損なうことなく高原子価錯体として触媒を安定的に回収し、再利用する報告はなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−356510
【特許文献2】特開2002−363213
【特許文献3】特開2004−002520
【特許文献4】特開2008−106094
【特許文献5】特開2005−105265
【特許文献6】特願2005−267584
【特許文献7】特開2006−257293
【非特許文献1】Matyjaszewskiら、Macromolecules,2000,33,1476
【非特許文献2】安藤ら、Macromolecules,1997,30,4507
【非特許文献3】Rauchfussら、Inorganic Chemistry,2000,39,3029
【非特許文献4】McGowanら、Inorganica Chimica Acta,2004,357,689
【非特許文献5】Neuseら、Journal of Crystallographic and Spectroscopic Research,1986,16,483
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、原子移動型ラジカル反応において、反応に使用された1,4,7−トリアザシクロノナン化合物を配位子に持つ2価又は3価の鉄錯体を、再度触媒として利用が可能な3価鉄錯体として回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式(1)で表される鉄化合物
【0010】
【化1】

【0011】
(式(1)中、FeはY価(Yは、2又は3の整数を表す。)であり、X1は1価のアニオン性官能基を示す。)に対して、一般式(2)で表される環状アミン化合物
【0012】
【化2】

【0013】
(式(2)中、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示す。)が配位してなるY価鉄錯体(Yは、2又は3の整数を表す。)を触媒とする原子移動型ラジカル反応において、
反応終了後、反応混合物に下記工程1)次いで工程2)を行うことにより、一般式(3)で表される鉄錯体を回収する方法を提供する。
工程1)反応混合物を酸素により処理した後鉄錯体と反応混合物とを分離する工程
又は、
鉄錯体と反応混合物を分離した後該鉄錯体を酸素により処理する工程
工程2)上記1)工程により得られる鉄錯体をハロゲン化剤により処理する工程
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Feは3価であり、X1は1価のアニオン性官能基を表し、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を表す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、原子移動型ラジカル反応において、反応に使用された1,4,7−トリアザシクロノナン化合物を配位子に持つ2価又は3価の鉄錯体を、簡便な方法で再度触媒として利用が可能な3価鉄錯体として回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明の原子移動型ラジカル反応に用いられる鉄触媒について説明する。
本発明では、一般式(1)で表される鉄化合物
【0018】
【化4】

【0019】
(式(1)中、FeはY価(Yは、2又は3の整数を表す。)であり、X1は1価のアニオン性官能基を示す。)に対して、一般式(2)
【0020】
【化5】

【0021】
(式(2)中、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示す。)が配位してなるY価鉄錯体(Yは、2又は3の整数を表す。)で表される環状アミン化合物を配位子として有することを特徴とし、2価又は3価の鉄イオンに、窒素原子に水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を有するトリアザシクロノナン基が配位され、かつアニオン性官能基を有することに特徴を有する。
X1であるアニオン性官能基としては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオン等のハロゲンイオン、R4COO−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)、又はR4SO3−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)のいずれかであることが好ましい。さらに、ハロゲンイオン、CH3COO−、C6H5COO−、CF3COO−、CH3SO3−、C6H5SO3−及びCF3SO3−からなる群より選ばれるいずれか一つの基を示すことがより好ましく、触媒活性の長期安定化のためには、それが塩素イオン、臭素イオンであることが特に好ましい。
【0022】
一般式(2)で表される環状アミン化合物は、置換基としてR1、R2及びR3を有するトリアザシクロノナン類である。ここで、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示すが、具体的には、
1)水素原子、
2)炭素数1〜20のアルキル基、並びに
3)芳香環の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基及び炭素数1〜40のポリオキシアルキレン基からなる群より選ばれるいずれか一つの基以上で置換されていてもよいベンジル基
からなる群より選ばれるいずれか一つの基であることが好ましい。より好ましくは、
1)水素原子、
2)炭素数1〜8のアルキル基、並びに
3)芳香環の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよいベンジル基
からなる群より選ばれるいずれか一つの基である。特に好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、芳香環の水素原子が炭素数1〜2のアルコキシ基で置換されていてもよいベンジル基であり、もっとも好ましくは、メチル基、エチル基、ベンジル基、又は4−メトキシベンジル基である。R1、R2及びR3は、同一でもあっても異なっていてもよい。
【0023】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖状アルキル基;i−プロピル基、i−ブチル基、i−ヘキシル基、i−オクタデシル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の分岐状アルキル基が挙げられる。上記ベンジル基としては、例えば、ベンジル基、4−メチルベンジル基、4−エチルベンジル基、4−n−プロピルベンジル基、4−イソプロピルベンジル基、4−n−ブチルベンジル基、4−イソブチルベンジル基、4−t−ブチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−エトキシベンジル基、4−n−プロポキシベンジル基、4−イソプロポキシベンジル基、4−n−ブトキシベンジル基、4−イソブトキシベンジル基、4−t−ブトキシベンジル基、4−トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0024】
本発明の2価鉄錯体は、より具体的には、下記一般式(4)〜(8)で表されるものを挙げることができる。
【0025】
【化6】

【0026】
(式(4)中、Feは2価であり、X2は1価のアニオン性官能基を示し、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を、An−はアニオンを、nは1〜3の整数を示す。)
X2であるアニオン性官能基は、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオン等のハロゲンイオン、R4COO−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)、又はR4SO3−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)のいずれかであることが好ましい。さらに、ハロゲンイオン、CH3COO−、C6H5COO−、CF3COO−、CH3SO3−、C6H5SO3−及びCF3SO3−からなる群より選ばれるいずれか一つの基を示すことがより好ましく、触媒活性の長期安定化のためには、それが塩素イオン、臭素イオンであることが特に好ましい。
【0027】
また、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示すが、具体的には、
1)水素原子、
2)炭素数1〜20のアルキル基、並びに
3)芳香環の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基及び炭素数1〜40のポリオキシアルキレン基からなる群より選ばれるいずれか一つの基以上で置換されていてもよいベンジル基
からなる群より選ばれるいずれか一つの基であることが好ましい。より好ましくは、
1)水素原子、
2)炭素数1〜8のアルキル基、並びに
3)芳香環の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよいベンジル基からなる群より選ばれるいずれか一つの基である。特に好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、芳香環の水素原子が炭素数1〜2のアルコキシ基で置換されていてもよいベンジル基であり、もっとも好ましくは、メチル基、エチル基、ベンジル基、又は4−メトキシベンジル基である。R1、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよい。nは1〜3の整数を示し、1又は2であることが好ましい。
【0028】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖状アルキル基;i−プロピル基、i−ブチル基、i−ヘキシル基、i−オクタデシル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の分岐状アルキル基が挙げられる。上記ベンジル基としては、例えば、ベンジル基、4−メチルベンジル基、4−エチルベンジル基、4−n−プロピルベンジル基、4−イソプロピルベンジル基、4−n−ブチルベンジル基、4−イソブチルベンジル基、4−t−ブチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−エトキシベンジル基、4−n−プロポキシベンジル基、4−イソプロポキシベンジル基、4−n−ブトキシベンジル基、4−イソブトキシベンジル基、4−t−ブトキシベンジル基、4−トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0029】
また、一般式(5)で表されるものが挙げられる。
【0030】
【化7】

【0031】
(式(5)中、Feは2価であり、X3は1価のアニオン性官能基を示し、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を、An−はアニオンを、nは1〜3の整数を示す。)
式(5)中、X3は、ハロゲンイオン、シアノ基、フェニルチオ基、R4COO−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)及びR4SO3−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)からなる群より選ばれるいずれか一つの基であることが好ましく、ハロゲンイオンがより好ましく、塩素イオン、臭素イオンが特に好ましい。
R1、R2及びR3は、上記一般式(2)の場合と同様である。nは1〜3の整数を示し、1又は2であることが好ましい。
上記一般式(4)及び(5)において、An−は、アニオンを表すが、具体的には、下記一般式(6)
【0032】
【化8】

【0033】
(式(6)中、Feは2価であり、X4は1価のアニオン性官能基を示し、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示す。)又は一般式(7)
【0034】
【化9】

【0035】
(式(7)中、X5は1価のアニオン性官能基を示し、mは0又は1であり、mが0のときnは1であり、mが1のときnは1又は2を示す。)で表される基を示す。
上記式(6)中、X4は、ハロゲンイオン、シアノ基、フェニルチオ基、R4COO−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)及びR4SO3−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)からなる群より選ばれるいずれか一つの基であることが好ましく、ハロゲンイオンがより好ましく、塩素イオン、臭素イオンが特に好ましい。
R1、R2及びR3は、上記一般式(2)の場合と同様である。nは1〜3の整数を示し、1又は2であることが好ましい。
上記式(7)中、X5は、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンであることが好ましく、塩素イオン、臭素イオンであることが特に好ましい。
【0036】
かかる鉄錯体のうち、以下が最も好ましい。
(i)一般式(4)及び一般式(6)において、R1、R2及びR3がメチル基であり、X2及びX4が塩素イオンであり、nが1である鉄錯体。
(ii)一般式(4)及び一般式(6)において、R1、R2及びR3がメチル基であり、X2及びX4が臭素イオンであり、nが1である鉄錯体。
(iii)一般式(4)及び一般式(6)において、R1、R2及びR3がエチル基であり、X2及びX4が塩素イオンであり、nが1である鉄錯体。
(iv)一般式(4)において、R1、R2及びR3がエチル基であり、X2が臭素イオンであり、nが1であり、一般式(7)において、X5が臭素イオンであり、mが1であり、nが1である鉄錯体。
(v)一般式(4)において、R1、R2及びR3がベンジル基であり、X2が臭素イオンであり、nが1であり、一般式(7)において、X3が臭素イオンであり、mが1であり、nが1である鉄錯体。
(vi)一般式(4)において、R1、R2及びR3が4−メトキシベンジル基であり、X2が塩素イオンであり、nが1であり、一般式(7)において、X5が塩素イオンであり、mが0であり、nが1である鉄錯体。
(vii)一般式(4)において、R1、R2及びR3が4−メトキシベンジル基であり、X2が塩素イオンであり、nが2であり、一般式(7)において、X5が塩素イオンであり、mが1であり、nが2である鉄錯体。
(viii)一般式(4)において、R1、R2及びR3がn−ブチル基であり、X2が塩素イオンであり、nが1であり、一般式(7)において、X5が塩素イオンであり、mが1であり、nが1である鉄錯体。
【0037】
本発明によれば、窒素原子上に種々の置換基を有するトリアザシクロノナン化合物と、FeCl2又はFeBr2を適宜組み合わせて使用することにより、上記一般式(4)〜(7)で表されるようなアニオン部分(A)が異なるカチオン型二核鉄錯体を良好な収率で得ることができる。かかる合成法により、上記一般式(4)〜(7)中のR1、R2及びR3の炭素数を増大させることで、重合性モノマーや有機溶剤に対して高い溶解性を有する鉄錯体を提供することができる。
さらに、一般式(8)で表される構造のものが挙げられる。
【0038】
【化10】

【0039】
(式(8)中、Feは2価であり、R1、R2及びR3は、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示し、X6は1価のアニオン性官能基を示す。)
R1、R2及びR3は、上記一般式(2)の場合と同様であるが、好ましくは、イソプロピル基、シクロヘプチル、又はフェニルエチル基等の2級アルキル基である置換基が特に好ましい。
X6は、ハロゲンイオン、シアノ基、フェニルチオ基、R4COO−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)及びR4SO3−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)からなる群より選ばれるいずれか一つの基であることが好ましく、ハロゲンイオンがより好ましく、塩素イオン、臭素イオンが特に好ましい。
さらに、一般式(9)で表される構造のものが挙げられる。
【0040】
【化16】

(式(9)中、Feは2価であり、R1、R2及びR3は、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示し、X7は1価のアニオン性官能基を示す。)
【0041】
本発明で用いられる2価鉄錯体において、上記一般式(4)〜(9)のうち、2価鉄錯体がどの構造をとるかはR1、R2及びR3の種類、組み合わせによって異なるが、本発明で使用される2価鉄錯体の構造に特に制限があるわけではない。
【0042】
上記一般式(4)〜(9)中のR1、R2及びR3の炭素数を増大させることで、重合モノマーや有機溶剤に対して高い溶解性を有する鉄錯体を提供することができる。より具体的には、Fe(X1)2と溶媒の懸濁液にN−R1,N‘−R2,N“−R3−1,4,7−トリアザシクロノナン溶液を室温で加えて撹拌し、エーテル等を加えて静置することにより調製することができる。
【0043】
具体的には、一般式(4)は、例えば、以下の一般式(4’)及び一般式(4”)で表される錯体を挙げることができる。
【0044】
【化17】

【0045】
(式(4’)中、Feはいずれも2価であり、X8はフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンのいずれかを表し、X9はハロゲンイオン、シアノ基、フェニルチオ基、R4COO−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)及びR4SO3−(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)からなる群より選ばれるいずれか一つの基を表し、R1、R2及びR3は、式(2)の場合と同じである。)。このうち、X8及びX9は塩素イオン又は臭素イオンであることが好ましい。
【0046】
【化18】

【0047】
(式(4”)中、Feはいずれも2価であり、X8はフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンのいずれかを表し、X10はハロゲンイオンを表し、R1、R2及びR3は、式(2)の場合と同じである。mは0又は1であり、mが0のときnは1であり、mが1のときnは1又は2を示す。)。このうち、X8及びX10は塩素イオン又は臭素イオンであることが好ましい。
【0048】
一方、本発明の3価鉄錯体は、下記式(10)で表されるものが挙げられる。
【0049】
【化19】

【0050】
(式(10)中、Feは3価であり、X11は1価のアニオン性官能基を表し、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を表す。)
11は、アニオン性官能基のうちハロゲンイオンがより好ましく、塩素イオン、臭素イオンが特に好ましく、R1、R2及びR3は、炭化水素基の場合は、メチル基、エチル基等の低級アルキル基が好ましく、芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基の場合は、置換基を有しないベンジル基又は4−メトキシベンジル基等の低級アルコキシ基で置換されたベンジル基が特に好ましい。
【0051】
上記一般式(4)〜(9)で示される触媒を用いて、ラジカル重合性モノマーの重合反応を行う場合、その重合反応において使用する有機ハロゲン化合物としては、例えば、α−ハロゲノカルボニル化合物、α−ハロゲノカルボン酸エステル、α−ハロゲノアルキルアレーン、ハロゲン化スルホニル、及びポリハロゲン化アルカンからなる群から選ばれる少なくとも一種の有機ハロゲン化合物であることが好ましい。より詳しくは、2−クロロアセトフェノン、2−ブロモアセトフェノン、2,2−ジクロロアセトフェノン、2,2−ジブロモアセトフェノン、1−クロロ2−2−プロパノン、1−ブロモ−2−プロパノン、1,1−ジクロロ−2−プロパノン、1,1−ジブロモ−2−プロパノン、などのカルボニル類化合物、又は2−クロロプロピオン酸メチル、2−ブロモプロピオン酸エチル、ジクロロ酢酸メチル、ジブロモ酢酸エチル、2−ブロモ−イソ酪酸エチル、1−クロロ−1−フェニル酢酸エチル、1−ブロモ−1−フェニル酢酸エチル、2−ブロモ−イソ酪酸アントラセニルメチル、2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル、1,2−ビス(2−ブロモイソブチリルオキシ)エタンの如くエステル類、ベンゼンスルホン酸クロリド、p−トルエンスルホン酸クロリド、p−トルエンスルホン酸ブロミドなどのハロゲン化スルホニル類、(1−クロロエチル)ベンゼン、(1−ブロモエチル)ベンゼン、(1−ヨードエチル)ベンゼン、α,α−ジクロロトルエン、α,α−ジブロモトルエン、の如くα−ハロゲノアルキルアレーン類又は四塩化炭素、四臭化炭素の如くポリハロゲン類の化合物などがあげられる。
【0052】
有機ハロゲン化合物として、三つ以上の活性点を有する活性ハロゲン化合物を用いることで、星型ポリマーを簡単に合成することできる。例としては、1,3,5−トリス(クロロメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(ブロモメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(1−クロロエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(1−ブロモエチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(クロロメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼン、1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(クロロメチル)ベンゼン、1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンの如くα−ハロゲノアルキルアレーン類化合物などがあげられる。
【0053】
また、上記ハロゲン化合物残基をポリマーの末端又は側鎖に有するポリマーを重合開始剤として用いることもできる。例えば、ポリメタアクリレート類、ポリアクリレート類、ポリアクリルアミド類、ポリスチレン類、ポリビニルピリジン類、ポリエチレングリコール類、ポリエーテル類ポリマーの片末端又は両末端に上記ハロゲン化合物残基、例えば、α−ハロゲノカルボニル、α−ハロゲノカルボン酸エステル残基が結合したポリマーを好適に用いることができる。また、例えば、エポキシ樹脂類、ポリビニルアルコール類、多糖類などポリマーの如く側鎖に水酸基を持ち、その水酸基にハロゲン化合物残基、例えばα−ハロゲノカルボン酸残基が結合したポリマーを用いることもできる。このようなポリマーをハロゲン化合物として用いた場合、ブロックポリマー又は櫛型ポリマーを容易に得ることができる。
【0054】
上記一般式(4)〜(9)で示される鉄錯体と、有機ハロゲン化合物とを組み合わせて使用する場合には、錯体/有機ハロゲン化合物で表されるモル比が0.1〜1の範囲での割合で使用することができるが、鉄触媒活性の高さから考えた場合、有機ハロゲン化合物が錯体より過剰であることが好ましい。
【0055】
本発明での上記一般式(10)で示される鉄錯体を用いる重合反応では、ラジカル発生剤としては、通常、ビニル系単量体類のラジカル重合に際して用いられているようなものであれば、いずれをも使用し得ることは勿論ではあるが、それらのうちでも特に代表的なものを例示すれば、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどのパーオキシエステル、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどのパーオキシケタール等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物等があげられる。
【0056】
また、ラジカル発生剤として、水溶性過酸化物、水溶性アゾ化合物を用いることもできる。例えば、ヒドロキシ−t−ブチルパーオキサイド、過酸化硫酸アンモニウム、過酸化硫酸カリウム、過酸化水素如く過酸化物、また例えば、アゾ系重合開始剤であるVA−046B,VA−057,VA−060,VA−067,VA−086,VA−044,V−50,VA−061,VA−080などを挙げることができる。特にアゾ系水溶性開始剤を用いることで、ポリマーの片末端に、開始剤残基由来の有用な官能基を導入することができる。
【0057】
本発明の鉄錯体による原子移動型ラジカル反応は、ラジカル重合性モノマー全般に適応できる。重合性モノマーの例としては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリアミド類、スチレン類、ビニルピリジン類などを取りあげることができる。より詳しくは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのメタクリレート類モノマー、又は、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレートなどのアクリレート類モノマー、又は、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドなどアクリルアミド類モノマー、又は、スチレン、2−クロロメチルスチレン、3−クロロメチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−ビニル安息香酸エステル、p−ビニルフェニルスルホン酸エステルなどスチレン類モノマー、又はp−ビニルピリジン、o−ビニルピリジンなどのビニルピリジン類モノマーを用いることができる。
【0058】
これらのモノマーは単独又は二種類以上のモノマーを同時に用いることもできる。また、二種類以上のモノマーを重合反応の一定時間毎に加えて使用することもできる。第一モノマーが消費されてから次のモノマーを加えることで、得られるポリマーをジブロック、又はトリブロック、あるいはそれ以上のブロック共重合体の構造とすることができる。
【0059】
ブロック共重合体での合成において、重合性モノマーをスチレン系と(メタ)アクリレート系から選定することで、その二つのポリマー骨格からなるブロック共重合体を得ることができる。また、親水性モノマーと疎水性モノマーを用いることで、親水性ポリマー骨格と疎水性ポリマー骨格からなる両親媒性ブロック共重合体を得ることができる。
【0060】
また、ブロック共重合体を得る方法として、末端にハロゲン残基を有するポリマーをマクロ開始剤として用いることで、重合性モノマーを重合させることもできる。
【0061】
ブロック共重合体を得る際に、重合性モノマーとして塩基性モノマーを用いた場合、塩基性ポリマー骨格と他のポリマー骨格から構成されるブロック共重合体を得ることができる。
【0062】
重合性モノマーと有機ハロゲン化合物もしくはラジカル発生剤を混合し、重合を行う際、重合性モノマー/ハロゲン化合物もしくはラジカル発生剤で表されるモル比は10〜10000であればよく、重合度をよりよく制御するためには、そのモル比50〜1000であれば更に好ましい。
【0063】
本発明での重合開始剤系を用いて重合反応を行う際、反応温度を室温以上に設定できるが、30〜120度の温度範囲で反応を行うことが好ましい。
【0064】
反応時間は、1〜48時間の範囲で十分であるが、ハロゲン化合物やラジカル発生剤の種類、オレフィンモノマーの種類及び反応温度によりその反応時間を短く又は長く設定することができる。更に、反応時間の設定は、得られる共重合体の分子量制御に合わせて、設定することが望ましい。
【0065】
本発明における共重合反応においては、溶媒なしでのバルク重合、又は溶媒存在下での溶液重合、又はアルコール類溶剤、水性媒体中の重合などの異なる重合方法が適用できる。
【0066】
本発明の重合反応に用いることができる溶剤としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸ブチル、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、シアノベンゼン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等が挙げられるが、アセトニトリル、酢酸ブチル、トルエン、アニソールが好ましい。
【0067】
また、水性媒体中での重合では、水と任意の割合で混合できる有機溶剤類であることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどを用いることができる。
【0068】
さらに、完全水中にて、水溶性モノマーの重合を行うこともできる。また、水中にて疎水性モノマーを分散して重合を行うこともできる。
【0069】
次に、原子移動型ラジカル反応終了後の鉄錯体の回収方法について説明する。
【0070】
本発明の回収方法では、一般式(1)で表される鉄化合物
【0071】
【化20】

【0072】
(式(1)中、FeはY価(Yは、2又は3の整数を表す。)であり、X1は1価のアニオン性官能基を示す。)に対して、一般式(2)で表される環状アミン化合物
【0073】
【化21】

【0074】
(式(2)中、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示す。)が配位してなるY価鉄錯体(Yは、2又は3の整数を表す。)を触媒とする原子移動型ラジカル反応において、
反応終了後、反応混合物に下記工程1)次いで工程2)を行うことにより、一般式(3)で表される鉄錯体を回収することに特徴を有する。
工程1)反応混合物を酸素により処理した後鉄錯体と反応混合物とを分離する工程
又は、
鉄錯体と反応混合物を分離した後該鉄錯体を酸素により処理する工程
工程2)上記1)工程により得られる鉄錯体をハロゲン化剤により処理する工程
【0075】
【化22】

【0076】
(式中、Feは3価であり、X1は1価のアニオン性官能基を表し、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を表す。)
【0077】
本発明の回収方法では、まず、反応混合物を酸素による処理を行う。酸素は、酸素ガスを用いることもできるし、酸素を含むガス、例えば空気を用いることもできる。酸素による処理は、反応終了後の反応混合物と酸素を接触させることによって行うことができる。接触させる方法としては、反応混合物を含む反応容器内に酸素を導入し酸素雰囲気下とした後に、反応混合物を混合することによっても行うことができるが、酸素を導入する管を反応混合物に投入し、管を通じて酸素を反応混合物に注入させることによっても行うことができる。
酸素による処理を行うことにより、例えば、下記錯体1を用いた場合には、下記錯体3で表される酸化架橋錯体とすることができる。
【0078】
【化23】

【0079】
本工程における酸素処理における好ましい温度は20〜40℃であり、処理時間は、通常0.5〜1時間である。
酸化架橋錯体は通常反応混合物から析出するので、ろ過或いは遠心分離等の通常公知の方法により容易に単離することが可能である。
また、反応混合物と鉄錯体の分離を行った後、酸素処理を実施しても良く、例えば、重合終了後、再沈殿操作により、重合物と2価鉄錯体を含む溶液を分離した後、この溶液を酸素雰囲気下にし、酸化を行ってもよい。
次に、酸素処理により得られた酸化架橋錯体をハロゲン化剤により処理することにより、前記一般式(3)で表される鉄錯体とする。
用いられるハロゲン化剤としては、トリメチルクロロシランやトリメチルブロモシラン等のトリアルキルシリルハライドや、塩化水素や臭化水素等のハロゲン化水素を使用することができる。ハロゲン化水素としては、塩化水素又は臭化水素等のハロゲン化水素が好ましい。該ハロゲン化水素は含水でも無水でも好ましく用いることができるが、無水である方が得られる前記一般式(3)で表される3価鉄錯体が高収率であることからより好ましい。
無水ハロゲン化水素を用いる場合には、アルコール、エーテル、ハロアルカン等に溶解させ、溶液の状態で使用することが望ましい。塩化水素を用いる場合には、塩化水素メタノール溶液や塩化水素ジエチルエーテル溶液を用いても良いし、ハロゲン化水素として臭化水素を用いる場合には、臭化水素クロロホルム溶液を用いることもできる。
本工程におけるハロゲン化水素処理における好ましい温度は、20〜40℃であり、処理時間は、通常0.5〜1時間である。
処理後、一般式(3)で表される3価鉄錯体は通常反応混合物から析出するので、ろ過或いは遠心分離等の通常公知の方法により容易に単離することが可能である。その際、回収率の向上のために、一般式(3)で表される3価鉄錯体に対する貧溶媒である有機溶媒を添加してもよい。
本発明の回収方法により得られた3価鉄錯体は、原子移動型ラジカル反応における重合触媒として、調整後反応に未使用の3価鉄触媒と同等の触媒能を有する。
【0080】
本発明の製造方法により得られた重合体及びブロック共重合体は、種々の用途、例えばインキ、顔料分散、カラーフィルター、フィルム、塗料、成形材料、接着剤、電気・電子品部材、医療用部材など広範に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下に実施例および比較例を持って本発明をより詳しく説明する。
【0082】
実施例中における測定は、以下の方法で行った。
(GPC測定法)
高速液体クロマトグラフィー(Waters社製GPC610示差屈折計システム)、UV及びRI検出器、使用カラム:Showdex KF802×1本+KF803×1本+KF804×2本、溶媒THF、流速:1.0mL/min、温調:40℃にて測定した。
(NMR測定)
H−NMRの測定は、日本電子(株)製のLambda300にて行った。
【0083】
(合成例1)鉄錯体1の合成
(参考文献:Inorganic Chemistry 2000年、39巻、3029頁)
100mLシュレンク管に、FeCl(317mg、2.50mmol)とアセトニトリル20mLを加えて懸濁させた反応溶液に1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(441.1mg、2.58mmol)を加え、2時間撹拌した後、濾過で不溶物を除去した。減圧下で反応溶液の体積が5mL程度になるまで濃縮した後、50mLのエーテルを添加すると、白色の固体が沈殿した。この固体をアセトニトリル/エーテルから再結晶して、664mgの鉄錯体1を得た(収率89%)。
【0084】
【化24】

【0085】
(合成例2)鉄錯体2の合成
攪拌器、滴下漏斗、還流管を備えた500mLの4ツ口フラスコに、アルゴン雰囲気下、無水FeCl(2.43g、15mmol)と無水ジエチルエーテル200mLを加え、完全に溶解させた後、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(3.08g、18mmol)の無水ジエチルエーテル溶液50mLを室温でゆっくり滴下し、1時間撹拌した後、鉄錯体1を含む粗生成物をろ過により分離した。この固体をアセトニトリル500mLに加熱溶解させ不溶物をろ過により除去した後、ろ液を濃縮して、橙色の鉄錯体2を得た。(収量:4.50g、収率90%)。錯体の構造は単結晶X線構造解析により確認した。
【0086】
【化25】

【0087】
(実施例1)
<工程1:2価の鉄錯体の酸素処理による酸素架橋鉄錯体3の生成>
上記合成例1にて合成した2価鉄錯体1(260mg、0.261mmol)を、アルゴン雰囲気下、50mLのシュレンク管に仕込み、脱水アセトニトリル20mLに溶解させた。この時、溶液の様子は淡黄色均一溶液であった。この溶液を減圧脱気した後、室温下でバルーンを用いて1気圧の酸素雰囲気下にすると直ちに溶液は暗緑色へと変化し、さらに5分程度攪拌すると、橙色の結晶性粉末が析出した。このときの上澄みの色も橙色であった。15分攪拌した後、溶液を静置し、上澄みをシリンジで抜き取った後、残った粉末をジエチルエーテル20mLで二回洗浄し、減圧乾燥させると茶色粉末状の鉄錯体3を収率86%(220mg、0.359mmol)で得た。鉄錯体3のIRスペクトルを図1に示す。
(参考文献:Inorganic Chemistry 2000年、39巻、3029頁)
【0088】
【化26】

【0089】
<工程2:鉄錯体3の塩化水素処理による鉄錯体2の合成>
20mLのシュレンク管に、上記鉄錯体3(30mg、0.049mmol)と脱水メタノール8mLを加え、10分間攪拌し、均一溶液とした。この時、溶液の色は橙色であった。この溶液に1mol/Lの塩化水素ジエチルエーテル溶液0.5mL(0.5mmol)を室温下で加えると、直ちに溶液の色が黄色へ変色し、少量の黄色粉末が析出した。10分間攪拌した後、反応溶媒を減圧留去した。得られた黄色粉末のIR測定を行い、鉄錯体2が定量的に生成していることを確認した後、この黄色粉末を5mLのジエチルエーテルで二回洗浄し、減圧乾燥させ、30mgの鉄錯体2を得た(収率92%、0.09mmol)。鉄錯体2のIRスペクトルを図1に示す。
【0090】
【化27】

【0091】
(実施例2)
1mol/Lの塩化水素ジエチルエーテル溶液の代わりに、クロロトリメチルシラン(Me
SiCl)(54.3mg、0.5mmol)を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。鉄錯体2は定量的に生成し、29mgの鉄錯体2を得た(収率89%、0.087mmol)。得られた鉄錯体2のIRスペクトルの比較を図2に示す。
【0092】
(試験例)ポリスチレンの重合における鉄錯体の価数の変化の確認
スリ付き試験管に攪拌子、合成例2より合成した鉄錯体2(16mg,0.048mmol)、AIBN(4mg,0.024mmol)、スチレンモノマー(1g,9.6mmol)を加え、アルゴンガスを1時間吹き込んだ後、容器を密閉して100℃の油浴で30時間攪拌した。このときの転化率は95%であった。このポリマーを、アルゴン雰囲気下、予め脱気したTHF(2mL)に溶解させて、予め脱気したメタノール(20mL)に滴下して再沈殿精製を行った。沈澱したポリマーと、触媒を含む溶液部分をそれぞれ減圧下で乾燥させ、ほぼ無色のポリスチレン980mg(Mn=23000、Mw/Mn=1.3)と、鉄錯体を含有する黄色固体18mgを回収した。この黄色固体の1H−NMRを測定したところ、鉄錯体1に類似したカチオン性の2価の鉄錯体であった。H−NMRスペクトルの比較を図3に示す。
アルゴン雰囲気下、スリ付き試験管に攪拌子、上記で回収した触媒含有固体18mg、予め脱気したスチレンモノマー(1.04g,10mmol)、1−クロロエチルベンゼン(5.6mg,0.04mmol)を加えた。容器を密閉して120℃の油浴で20時間攪拌した。転化率は90%であり、生成したポリスチレンはMn=25000、Mw/Mn=1.4であった。
本試験例により、反応終了後、鉄錯体は2価で存在することが確認された。
【0093】
3価の鉄錯体を触媒とした重合反応では、重合終了後には、2価の鉄錯体として反応系中に存在しており、該2価鉄錯体は、次の重合触媒として再利用できることを確認した。
【0094】
(実施例3)重合反応における3価の鉄錯体2の回収
(スチレンモノマーの重合反応)
攪拌器、還流管を備えた200mLの反応容器に、合成例2より合成した鉄錯体2(1.0g、3.0mmol)、スチレンモノマー(62.4g、0.6mol)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(367mg、1.5mmol)を仕込み、アルゴンガスを1時間吹き込んだ後、アルゴン雰囲気下、120℃で16時間攪拌した。このときの転化率は95%以上であり、反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=22600、Mw/Mn=1.28であった。
【0095】
【化28】

【0096】
(工程1:空気処理による酸素架橋鉄錯体3の分離)
上記反応混合物を100℃まで冷却した後、予めアルゴンガスを吹き込んだトルエン(240g)を追加し、ポリマーを溶解させた。次いで、このトルエン溶液を室温まで冷却し、攪拌下、空気を2時間吹き込んだ。このとき、トルエン溶液は黄色均一溶液から茶色不均一溶液へと変化した。この溶液をろ過し、茶色固体と黄色溶液に分離した。得られた茶色固体を少量のトルエンで洗浄した後、減圧下で乾燥し、877mgの茶色粉末を得た。この茶色粉末のIRスペクトルを測定したところ、実施例1における酸素架橋鉄錯体3とほぼ一致した。酸素架橋錯体としての鉄錯体の回収率は95%であった。IRスペクトルを図4に示す。
【0097】
(工程2:鉄錯体3の塩化水素処理による鉄錯体2の再生)
50mLのシュレンク中に、上記鉄錯体2(92mg、0.15mmol)と脱水メタノール24mLを加え、30分間攪拌した。この時、溶液の色は橙色であった。この溶液に1.25mol/Lの塩化水素メタノール溶液1.2mL(1.5mmol)を室温下で加え、一晩攪拌したところ、黄色不均一系溶液となった。この溶液をろ過し、得られた固体を20mLのジエチルエーテルで2回洗浄し、減圧乾燥させ、76mgの黄色粉末を得た。IRスペクトルを測定したところ、3価の鉄錯体4とほぼ一致し、鉄錯体2が再生できることが判明した。(収率76%、0.23mmol)。再生前後の鉄錯体2のIRスペクトルを図4に示す。
【0098】
(再生した3価の鉄錯体を用いたスチレンモノマーの重合反応)
50mLの反応容器に、上記で得られた再生鉄錯体2(83.3mg、0.25mmol)、スチレンモノマー(5.12g、50mmol)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(30.5mg、0.125mmol)を仕込み、アルゴンガスを1時間吹き込んだ後、アルゴン雰囲気下、120℃で16時間攪拌した。このときの転化率は95%以上であり、反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=23600、Mw/Mn=1.29であった。
【0099】
【化30】

【0100】
図5に、合成した鉄錯体2を用いた重合(上)と再生した鉄錯体2を用いた重合(下)のGPCチャートを示す。このように、再生した鉄錯体を再度重合に使用でき、再利用したものであっても好適に重合反応が可能であった。
【0101】
(実施例4)メタクリル酸メチルの重合反応における3価の鉄錯体2の回収
アルゴン雰囲気下で、スリ付き試験管に攪拌子、鉄錯体2(33.3mg,0.1mmol)、AIBN(8.2mg、0.05mmol)を入れ、メタクリル酸メチル(2.0g,20mmol)、アセトニトリル2mLを加えた。アルゴンガスを1時間吹き込んだ後、容器を密閉して80℃で14時間攪拌した。このときの転化率は95%以上であり、反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=29300、Mw/Mn=1.42であった。反応混合物をトルエン15mLで希釈し、攪拌下、空気を1時間吹き込んだ。このとき、トルエン溶液は茶色不均一溶液へと変化した。この溶液をろ過し、茶色固体と黄色溶液に分離した。得られた茶色固体を少量のトルエンで洗浄した後、減圧下で乾燥し、32mgの茶色粉末を得た。
次いで、50mLのシュレンク中に、この茶色固体全量と脱水メタノール10mLを加え、30分間攪拌した。この時、溶液の色は橙色であった。この溶液に1.25mol/Lの塩化水素メタノール溶液0.4mL(0.5mmol)を室温下で加え、一晩攪拌したところ、黄色不均一系溶液となった。この溶液をろ過し、得られた固体を20mLのジエチルエーテルで2回洗浄し、減圧乾燥させ、28mgの黄色粉末を得た。IRスペクトルを測定したところ、3価の鉄錯体2とほぼ一致した。
【0102】
(合成例3)鉄錯体4の合成
20mLシュレンク管に、無水FeCl26mg(0.2mmol)とアセトニトリル10mLを加えて懸濁させた反応溶液に1,4,7−トリス(4−メトキシベンジル)−1,4,7−トリアザシクロノナン100mg(0.2mmol)を加え、14時間撹拌した。減圧下で反応溶液の体積が5mL程度になるまで濃縮した後、15mLのジエチルエーテルを加えると、白色の固体が沈殿した。この固体をアセトニトリル/ジエチルエーテルから再結晶して、2種類の混合物として鉄錯体4(化32、化33の錯体の混合物)を得た(86mg)。錯体の構造は単結晶X線構造解析により確認した。それを図6、図7に示す。
【0103】
【化31】

【0104】
【化32】

【0105】
【化33】

【0106】
(合成例4)鉄錯体5の合成
攪拌機、滴下漏斗を備えた200mLの反応容器に、アルゴン雰囲気下、無水FeCl422mg(2.6mmol)と無水ジエチルエーテル80mLを加え、完全に溶解させたのち、1,4,7−トリス(4−メトキシベンジル)−1,4,7−トリアザシクロノナン978mg(2.0mmol)の無水ジエチルエーテル溶液15mLを室温でゆっくり滴下し、1時間撹拌した後、錯体5を含む粗生成物をろ過により分離した。この固体を塩化メチレン130mLに溶解させ不溶物をろ過により除去した後、ろ液を濃縮して、山吹色の鉄錯体5(化35)を得た(1.22g、収率94%)。錯体の構造は単結晶X線構造解析により確認した。それを図8に示す。
【0107】
【化34】

【0108】
【化35】

【0109】
(実施例5)2価の鉄錯体から3価の鉄錯体への変換
(工程1:2価の鉄錯体の酸素処理による酸素架橋鉄錯体6の合成)
合成例3にて合成した鉄錯体4(50mg)をアセトニトリル(5mL)に溶解し、酸素雰囲気下とし、15分間撹拌を続けた。その間に溶液の色が赤褐色へと変化し、さらに5分程撹拌を続けると、沈殿が析出し始めた。上澄み溶液を抜き取り、固体をジエチルエーテルにて2回程洗浄を行った後、乾燥させ、鉄錯体6を得た(25mg)。得られた錯体の構造はX線結晶構造解析により明らかとした。その構造を図9に示す。
【0110】
【化36】

【0111】
(工程2:鉄錯体6の塩酸処理による鉄錯体5の合成)
20mLシュレンク管に、鉄錯体6(25mg、0.02mmol)、メタノール(5mL)、ベンゼン(6mL)を加えて溶解させた。得られた黄色溶液に1mol/Lの塩化水素ジエチルエーテル溶液0.1mL(0.1mmol)を室温にて加えると直ちに色が変化した。10分間、撹拌を続けたのち、溶媒を留去すると、黄色固体として鉄錯体5が定量的に得られた(26mg)。得られた錯体の構造は、塩化メチレン、トルエン、エーテルによる再結晶の後、X線結晶構造解析により明らかとした。酸素架橋鉄錯体6、並びに、再生前後の鉄錯体5のIRスペクトルを図10に示す。
【0112】
【化37】

【0113】
(実施例6)2価の鉄錯体4を用いた重合反応における3価の鉄錯体5の回収
(ポリスチレンの合成)
窒素雰囲気下で、シュレンク管に攪拌子、合成例3にて合成した鉄錯体4(24mg,0.02mmol)、1−クロロエチルベンゼン(5.6mg,0.04mmol)を入れ、スチレン(1.04g,10mmol)を加えた。容器を密閉して120℃の油浴で26時間攪拌した。転化率は95%以上であり、生成したポリスチレンはMn=23000、Mw/Mn=1.27であった。
【0114】
(工程1:空気処理による酸素架橋鉄錯体6の分離)
上記反応混合物を100℃まで冷却した後、予めアルゴンガスを吹き込んだトルエン(4g)を追加し、ポリマーを溶解させた。次いで、このトルエン溶液を室温まで冷却し、攪拌下、空気を1時間吹き込んだ。このとき、トルエン溶液は黄色均一溶液から茶色不均一溶液へと変化した。この溶液をろ過し、茶色固体と黄色溶液に分離した。得られた茶色固体を少量のトルエンで洗浄した後、減圧下で乾燥し、14mgの茶色粉末を得た。一方、ポリスチレンを含む黄色溶液を攪拌下にメタノール24gに滴下し、沈殿したポリスチレンをろ過により分離した後、このろ液を濃縮し、茶色固体を得た。これをジエチルエーテルで洗浄後、減圧乾燥し、9mgの茶色粉末を得た。これらの茶色粉末のIRスペクトルを測定したところ、実施例3における酸素架橋鉄錯体6とほぼ一致した。酸素架橋錯体としての鉄錯体の回収率は95%であった。
【0115】
(工程2:鉄錯体6の塩酸処理による鉄錯体5の再生)
実施例5において鉄錯体6の代わりに、この茶色固体を用いた以外は、実施例5と同様に実施したところ、黄色固体が得られた(25mg)。得られた固体のIRスペクトルを測定したところ、実施例5における鉄錯体5とほぼ一致した。
(再生した3価の鉄錯体を用いたスチレンモノマーの重合反応)
アルゴン雰囲気下で、シュレンク管に攪拌子、上記の再生鉄錯体5(25mg,0.02mmol)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(2.4mg、0.01mmol)、予め脱気したスチレンモノマー(832mg、8mmol)を仕込み、アルゴン雰囲気下、120℃で16時間攪拌した。このときの転化率は95%以上であり、反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=23000、Mw/Mn=1.21であった。
【0116】
【化38】

【0117】
(実施例7)重合反応における3価の鉄錯体5の回収
(スチレンモノマーの重合反応)
攪拌機、還流管を備えた200mLの反応容器に、合成例4より合成した鉄錯体5(652mg、1.0mmol)、スチレンモノマー(20.8g、0.2mol)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(122mg、0.5mmol)を仕込み、アルゴンガスを1時間吹き込んだ後、アルゴン雰囲気下、120℃で16時間攪拌した。このときの転化率は95%以上であり、反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=22600、Mw/Mn=1.22であった。
【0118】
【化39】

【0119】
(鉄錯体5の回収)
上記反応混合物を100℃まで冷却した後、予めアルゴンガスを吹き込んだトルエン(80g)を追加し、ポリマーを溶解させた。次いで、このトルエン溶液を室温まで冷却し、攪拌下、空気を2時間吹き込んだ。このとき、トルエン溶液は黄色均一溶液から茶色不均一溶液へと変化した。この溶液をろ過し、茶色固体と黄色溶液に分離した。得られた茶色固体を少量のトルエンで洗浄した後、減圧下で乾燥し、367mgの茶色粉末を得た。一方、ポリスチレンを含む黄色溶液を攪拌下にメタノール800gに滴下し、沈殿したポリスチレンをろ過により分離した後、このろ液を濃縮し、茶色固体290mgを得た。これをメタノールとジエチルエーテルで洗浄した後、減圧乾燥し、230mgの茶色粉末を得た。これらの茶色粉末のIRスペクトルを測定したところ、実施例3における酸素架橋鉄錯体6とほぼ一致した。酸素架橋錯体としての鉄錯体の回収率は定量的であった。
100mLのシュレンク中に、上記茶色粉末(187mg、0.15mmol)と脱水メタノール30mLを加え、30分間攪拌した。この時、溶液の色は茶色であった。この溶液に1.25mol/Lの塩化水素メタノール溶液1.2mL(1.5mmol)を室温下で加え、一晩攪拌したところ、黄色不均一系溶液となった。この溶液をろ過し、得られた固体を20mLのジエチルエーテルで2回洗浄し、減圧乾燥させ、160mgの黄色粉末を得た。IRスペクトルを測定したところ、3価の鉄錯体5とほぼ一致し、鉄錯体5が再生できることが判明した。(収率80%)。
【0120】
(再生した3価の鉄錯体を用いたスチレンモノマーの重合反応)
50mLの反応容器に、上記で得られた再生鉄錯体5(163mg、0.25mmol)、スチレンモノマー(5.12g、50mmol)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(30.5mg、0.125mmol)を仕込み、アルゴンガスを1時間吹き込んだ後、アルゴン雰囲気下、120℃で16時間攪拌した。このときの転化率は95%以上であり、反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=23600、Mw/Mn=1.23であった。
【0121】
【化40】

【0122】
表1に、再生前後の3価に鉄錯体を用いたスチレンモノマーの重合結果を示す。下記の如く、再生鉄錯体を使用しても触媒活性を損なうことなく重合反応が進行し、触媒の再利用したものであっても好適に重合が可能であった。
(スチレンモノマー:鉄触媒:ラジカル開始剤=200:1:0.5(モル比))
【0123】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】実施例1におけるIRスペクトルの比較
【図2】実施例2における鉄錯体のH−NMRの比較
【図3】実施例3におけるIRスペクトルの比較
【図4】実施例3におけるGPCスペクトルの比較
【図5】合成例3における鉄錯体(化1)のORTEP図
【図6】合成例3における鉄錯体(化2)のORTEP図
【図7】合成例4における鉄錯体(化3)のORTEP図
【図8】実施例6における酸素架橋鉄錯体5のORTEP図
【図9】実施例6におけるIRスペクトルの比較

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される鉄化合物
【化1】

(式(1)中、FeはY価(Yは、2又は3の整数を表す。)であり、X1は1価のアニオン性官能基を示す。)に対して、一般式(2)で表される環状アミン化合物
【化2】

(式(2)中、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示す。)が配位してなるY価鉄錯体(Yは、2又は3の整数を表す。)を触媒とする原子移動型ラジカル反応において、
反応終了後、下記工程1)次いで工程2)を行うことにより、下記一般式(3)で表される鉄錯体を回収する方法。
工程1)反応混合物を酸素により処理した後鉄錯体と反応混合物とを分離する工程
又は、
鉄錯体と反応混合物を分離した後該鉄錯体を酸素により処理する工程
工程2)上記1)工程により得られる鉄錯体をハロゲン化剤により処理する工程
【化3】

(式中、Feは3価であり、Xは1価のアニオン性官能基を表し、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を表す。)
【請求項2】
前記Y価鉄錯体が、一般式(4)
【化4】

(式(4)中、Feは2価であり、X2は1価のアニオン性官能基、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基、An−はアニオン、nは1〜3の整数を示す。)
で表される請求項1に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項3】
前記Y価鉄錯体が、一般式(5)
【化5】

(式(5)中、Feは2価であり、X3は1価のアニオン性官能基、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基、An−はアニオン、nは1〜3の整数を示す。)
で表される請求項1に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項4】
An−が、一般式(6)
【化6】

(式(6)中、Feは2価であり、X4は1価のアニオン性官能基、R1、R2及びR3は、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示す。)
又は一般式(7)
【化7】

(式(7)中、X5は1価のアニオン性官能基を示し、mは0又は1であり、mが0のときnは1であり、mが1のときnは1又は2を表す。)
で表される請求項2又は3に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項5】
一般式(1)において、X1は、ハロゲンイオン、R4COO(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)及びR4SO3(R4は炭素原子上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素原子上の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)からなる群より選ばれるいずれか一つの基を示し、一般式(2)において、R1、R2及びR3は、
1)水素原子、
2)炭素数1〜20のアルキル基、並びに
3)芳香環の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基及び炭素数1〜40のポリオキシアルキレン基からなる群より選ばれるいずれか一つの基以上で置換されていてもよいベンジル基
からなる群より選ばれるいずれか一つの基を示す、請求項1に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項6】
一般式(1)において、X1は、ハロゲンイオン、CH3COO、C6H5COO、CF3COO、CH3SO3、C6H5SO3及びCF3SO3からなる群より選ばれるいずれか一つの基を示し、一般式(2)において、R1、R2及びR3は、
1)水素原子、
2)炭素数1〜8のアルキル基、並びに
3)芳香環の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよいベンジル基
からなる群より選ばれるいずれか一つの基を示す、請求項1に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項7】
一般式(4)において、X2が塩素原子又は臭素原子であり、R1、R2及びR3が同一であって、メチル基、エチル基、n−ブチル基、ベンジル基及び4−メトキシベンジル基からなる群より選ばれるいずれか一つの基を表し、nが1である請求項2に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項8】
一般式(5)において、X3が塩素原子又は臭素原子であり、R1、R2及びR3が同一であって、メチル基、エチル基、n−ブチル基、ベンジル基及び4−メトキシベンジル基からなる群より選ばれるいずれか一つの基を表し、nが1である請求項3に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項9】
一般式(6)において、X4が塩素原子又は臭素原子であり、R1、R2及びR3がメチル基又はエチル基であり、nが1である請求項4に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項10】
一般式(7)において、X5が塩素原子又は臭素原子であり、mが1であり、nが1である請求項4に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項11】
前記Y価鉄錯体が、一般式(8)
【化8】

(式(8)中、Feは2価であり、R1、R2及びR3は、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基、X6は1価のアニオン性官能基を示す。)
で表される請求項1に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項12】
前記Y価鉄錯体が、一般式(9)
【化9】

(式(9)中、Feは2価であり、R1、及びR2は、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基、X7は1価のアニオン性官能基を示す。)
で表される請求項1に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項13】
前記Y価鉄錯体が、一般式(10)
【化10】

(式(10)中、Feは3価であり、Xは1価のアニオン性官能基を表し、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は芳香環上に炭素数1〜40の置換基を有していてもよいベンジル基を示す。)
で表される請求項1に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項14】
前記一般式(10)中のR、R及びRが、ベンゼン環上の4位に炭素数1〜8の置換基を有するベンジル基である請求項13に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項15】
前記置換基が炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数1〜8のフッ素化アルキル基である請求項14に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項16】
前記アニオン性官能基が、塩素イオン又は臭素イオンである請求項13乃至15のいずれか一項に記載の鉄錯体を回収する方法。
【請求項17】
前記ハロゲン化剤が、トリメチルクロロシラン、塩化水素又は臭化水素である請求項1乃至16のいずれか一項に記載の鉄錯体を回収する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−95623(P2010−95623A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267387(P2008−267387)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】