説明

鉛スプラッシュコンデンサ設備

【課題】空間閉塞や鉛スプラッシュの系外持ち去りロスを抑制しつつ、亜鉛回収効率であるコンデンサ効率を向上させることのできる鉛スプラッシュコンデンサ設備を提供する。
【解決手段】複列で、かつ、複数段のダブルスロータイプのロータ(9a〜9d)を有し、熔体鉛粒が飛散するガス空間内に少なくとも二段のバッフルプレート(11、12)が設けられ、コンデンサ本体(3)の他端側に設けられた最終段の鉛スプラッシュロータ(9d)よりも上流側に、側壁との間にガスが流れるように、第1のバッフルプレート(11)が配置され、最終段の鉛スプラッシュロータ(9d)の下流側に、2つの部材が側壁から垂直に伸長し、コンデンサ本体(3)の幅方向中央部に開口部を形成する第2のバッフルプレート(12)が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛・鉛熔鉱炉から排出され、亜鉛蒸気を含有する排ガスを、熔体鉛と接触させることにより、亜鉛蒸気を熔体鉛中に熔解させて回収するための鉛スプラッシュコンデンサ設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛を含む亜鉛精鉱から、鉛と亜鉛とを同時に回収する代表的な乾式亜鉛製錬法としてISP(Imperial Smelting Process)法がある。ISP法では、原料を焼結して焼結塊を得て、得られた焼結塊とコークスとを交互に溶鉱炉内に入れ、熔鉱炉下部の羽口より燃焼用空気を送り込んで、コークスを燃焼させる。コークスの燃焼によって、溶鉱炉内は還元雰囲気となり、焼結塊中の亜鉛酸化物は、揮発還元され、金属蒸気となり、他の排ガスと共に後工程の亜鉛蒸気回収工程に送られる。
【0003】
亜鉛蒸気回収工程では、熔体鉛を吸収剤とする鉛スプラッシュコンデンサ設備を用いる。従来の鉛スプラッシュコンデンサ設備は、概略平面図を示した図2のように、一端に溶鉱炉出口(1)が結合され、他端にガス排煙口(2)が設けられたコンデンサ本体(3)と、冷却樋(4;ロンダー)と、冷却樋(4)よりオーバーフローで流出する熔体に塩化アンモニウムを添加するフラックス炉(5)と、鉛と亜鉛とを分離する分離炉(6)と、回収した亜鉛の温度を一定に維持するための加熱炉(7)と、回収した熔体をコンデンサ本体(3)に戻すためのリターン炉(8)とから構成されている。
【0004】
また、コンデンサ本体(3)には、中央部に複数の鉛スプラッシュロータ(19a〜19d)と、第1段の鉛スプラッシュロータ(19a)よりガスの流れの上流側に熔体鉛でシールされたアンダーフロー構造のサンプ(10)と、サンプ(10)に接続される鉛ポンプ(図示せず)とが設けられている。
【0005】
なお、近年の鉛スプラッシュコンデンサ設備では、鉛スプラッシュロータは、ガスの流れに対して、複列で複数配置されることが主流となっている。図2の例では、2列で4段(19a〜19d)に配列されている。
【0006】
従来の鉛スプラッシュコンデンサ設備の操業に際しては、熔体鉛をサンプ(10)より鉛ポンプを用いて冷却樋(4)に供給し、リターン炉(8)より熔体鉛をコンデンサ本体(3)に戻すことにより、熔体鉛である循環鉛の循環系を構成している。
【0007】
このような熔体鉛の循環系を維持した状態で、コンデンサ本体(3)に溶鉱炉出口(1)より溶鉱炉排ガスを導入し、コンデンサ本体(3)に設けられた鉛スプラッシュロータ(19a〜19d)を用いて、溶鉱炉排ガスの温度より低温で循環している循環鉛をスプラッシュさせ、循環鉛を溶鉱炉排ガスと接触させる。これにより、排ガス中の亜鉛蒸気を、鉛スプラッシュの中に冷却溶解させる。
【0008】
次いで、亜鉛を熔解した循環鉛を、サンプ(10)および鉛ポンプを介して冷却樋(4)に供給し、冷却樋(4)で冷却して、循環鉛中に熔解していた亜鉛を析出させる。さらに、オーバーフローによりフラックス炉(5)に移動させ、フラックス炉(5)で塩化アンモニウムを添加後、分離炉(6)で亜鉛と循環鉛とを分離させる。分離された亜鉛は、加熱炉(7)に導入され所定温度とされた後に、粗亜鉛として鋳造される。また、循環鉛は、リターン炉(8)を介して、コンデンサ本体(3)におけるガスの下流側に戻される。従って、ガス空間のガスの流れと、鉛浴の循環鉛の流れとは、反対であり、向き合う。
【0009】
この鉛スプラッシュコンデンサ設備の操業において、熔鉱炉排ガス中の亜鉛蒸気を循環鉛中へ移行させる効率、すなわちコンデンサ効率を良好に維持することは極めて重要である。鉛スプラッシュコンデンサ設備における亜鉛蒸気の急冷凝縮反応においては、鉛スプラッシュの表面への亜鉛分子の輸送過程が支配的になると考えられる。よって、コンデンサ効率を高めるためには、(1)反応界面である鉛スプラッシュの表面積を増加させること、および、(2)ガスが滞留する時間をできるだけ長くすることが重要となる。
【0010】
従来の鉛スプラッシュコンデンサでは、たとえば、コンデンサ本体(3)の内部で、各段の鉛スプラッシュロータ(19a〜19d)の前後に、少なくとも二段のバッフルプレートをガスの流れに垂直の方向(コンデンサ本体(3)の幅方向)に伸長するように設置している。たとえば、特許文献1では、形状の異なる2種類のバッフルプレート、すなわち、開口部が、該整流板とコンデンサ本体(3)の側壁との間に形成される第1のバッフルプレートと、2部材からなり、開口部が、コンデンサ本体(3)の幅方向中央部に形成される第2の整流板とを、各段の鉛スプラッシュロータの間に互い違いに設置している。また、特許文献1では、最終段の鉛スプラッシュロータの下流側に、開口部が、該整流板とコンデンサ本体(3)の側壁との間に形成される最終段のバッフルプレートを設置している。
【0011】
バッフルプレートは、ガスの流れおよび鉛浴循環の流れの両方に対して整流板として機能し、コンデンサ天井から炉底まで1枚の板で仕切る構造となっている。バッフルプレートは、コンデンサ本体内を複数の反応槽に仕切ることにより、鉛浴循環の流れを変化させ、鉛浴の淀みの発生を防止して、全体的にリフレッシュさせる効果を有している。また、同時に、ガスの主流の流れを妨げると共に、内部で渦を発生させて、ガスが滞留する時間を延長させるという機能を有している。
【0012】
また、特許文献1には、バッフルプレート以外に、ガス空間内に鉛衝突板を設置することで、鉛スプラッシュが鉛衝突板に衝突して微細化され、鉛スプラッシュの表面積を増加させると共に、ガス空間における鉛スプラッシュの密度を局所的に高めうることも記載されている。かかる鉛衝突板は、かかる衝突作用に特化しているため、ガス空間内に設置されるが、循環浴中まで浸漬されない構造となっている。また、ガスの流れに垂直に配置される必要もないため、衝突作用を十分に発揮できる位置、すなわちコンデンサ本体の内部に配置されている各段の2つの鉛スプラッシュロータの間、コンデンサの上流側と下流側の両端、および、鉛スプラッシュロータの攪拌羽根の上方などの任意の位置に設置される。
【0013】
一方、鉛スプラッシュロータ(19a〜19d)で跳ね上げられる鉛スプラッシュの量は、ロータの羽根形状、配置、鉛浴への浸漬深さ、回転数といった運転条件により大きく左右される。このため、これらの条件については、従来、それぞれの鉛スプラッシュコンデンサ設備において、適切な鉛スプラッシュ特性を得るために、種々の設定が試みられている。
【0014】
たとえば、すべての撹拌羽根が中心軸から等しい距離に配置される通常の鉛スプラッシュロータよりも、隣り合う撹拌羽根が互い違いに中心軸から異なる距離に配置されているいわゆるダブルスロータイプのロータを採用することで、より多くの鉛スプラッシュを発生させることができる。撹拌羽根によって溶融鉛がスプラッシュされるためには、撹拌羽根が回転する間に、スプラッシュされた跡である撹拌羽根が通過した位置へ、スプラッシュされるべき溶融鉛を流入させておく必要がある。すべての撹拌羽根が等しい鉛スプラッシュロータでは、同じ位置を撹拌羽根が通過する時間間隔は、ロータが1/4回転する時間であるのに対して、ダブルスロータイプのロータでは、隣り合う撹拌羽根の通過位置が異なるため、同じ位置を撹拌羽根が通過する時間間隔は、ロータが1/2回転する時間となり、より延長される。したがって、同じ運転条件下では、ダブルスロータイプのロータの方が、より多くのスプラッシュを発生させることが可能となる。
【0015】
以上のように、ISP法において、製造コストを圧縮し、亜鉛回収効率であるコンデンサ効率をいかに高くするかが、絶えざる課題となっており、炉ガスの流動特性や鉛スプラッシュの特性を変化させることにより、鉛スプラッシュコンデンサ設備におけるコンデンサ効率を向上させるための様々な試みがなされている。
【0016】
しかしながら、たとえば、特許文献1に記載の構成のように、これらの特性を変化させて、コンデンサ効率を向上させようとすると、コンデンサ本体(3)の内壁にコンデンサドロスが凝固して付着するベコの成長を助長するガス流れを発生させて、空間閉塞を起こしたり、バッフルプレートにより局所的に線流速が高まって、鉛スプラッシュの系外持ち去りロスが増加したりするという問題が生じてしまう。
【0017】
このような問題を回避しつつ、コンデンサ効率を向上させるため、鉛スプラッシュロータとバッフルプレートとの組合せ、バッフルプレートの最適な配置方法について、最適な提案は未だなされていないのが現状である。
【特許文献1】特開平08−188837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、以上に述べたような状況に鑑み、空間閉塞や鉛スプラッシュの系外持ち去りロスを抑制しつつ、熔鉱炉排ガス中の亜鉛蒸気を熔体鉛中に回収するコンデンサ効率を効果的に向上させることのできる鉛スプラッシュコンデンサ設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、課題を達成すべく、種々の検討を行った結果、複列で複数段のダブルスロータイプの鉛スプラッシュロータを備える鉛スプラッシュコンデンサ設備において、二段以上のバッフルプレートで側壁沿いにガス流を生成させ、かつ、最終段のバッフルプレートを側壁に連なるように設けることで、課題が達成できるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、一端が熔鉱炉の出口に結合され、他端に排煙道が設けられ、側壁を有するコンデンサ本体と、前記コンデンサ本体の内部に複列で前記側壁に沿って複数段に設けられた鉛スプラッシュロータとを有し、前記熔鉱炉の出口から排煙道に流れる亜鉛蒸気を含有した排ガスを、前記鉛スプラッシュロータにより飛散された熔体鉛粒と接触させ、前記亜鉛蒸気を該熔体鉛中に熔解させる鉛スプラッシュコンデンサ設備に係る。
【0021】
特に、本発明では、前記鉛スプラッシュロータが、ダブルスロータイプのロータであり、前記熔体鉛粒が飛散するガス空間内に少なくとも二段のバッフルプレートが設けられ、前記コンデンサ本体の他端側に設けられた最終段の鉛スプラッシュロータよりも上流側に、前記側壁との間にガスが流れるように、第1のバッフルプレートが配置され、該最終段の鉛スプラッシュロータの下流側に、2つの部材が前記側壁から垂直に伸長し、前記コンデンサ本体の幅方向中央部に開口部を形成する第2のバッフルプレートが配置されていることを特徴とする。
【0022】
なお、前記第1ののバッフルプレートは、1つの部材からなり、コンデンサ本体の幅方向に伸長するタイプのものでもよいが、2つの部材からなり、両ロータ間に配置され、前記コンデンサ本体の幅方向中央部および両側の側壁部に沿ってそれぞれ開口部を形成するバッフルプレートであることが好ましい。
【0023】
また、前記第1のバッフルプレートのほかにも、その上流側であって、前記コンデンサ本体の中間部に、さらにバッフルプレートを設けることは任意である。その設計に際しては、ガスの流れ、鉛翼の循環流れを考慮して、ベコの発生の基点が生じないように配慮する必要はある。
【0024】
また、本発明に係る構造において、鉛粒が飛散するガス空間であって、異なる段の鉛スプラッシュロータの間(ただし、前記バッフルプレートが設置されていない個所に限る)、各段の複列の鉛スプラッシュロータの間、前記コンデンサ本体の一端側に設けられた第1段の鉛スプラッシュロータよりも前記排ガスの流れの上流側、および、各鉛スプラッシュロータの攪拌羽根の上方のうち、いずれかの位置またはすべての位置に鉛粒衝突板をさらに配置してもよい。
【0025】
かかる鉛粒衝突板は、板状、パンチプレート状、または垂らした鎖状のうち任意の形状を取り得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明において、ダブルスロータイプの鉛スプラッシュロータを採用すると共に、かつ、コンデンサ本体の中間部において、ガス流が側壁に沿って流れるようにすると共に、最終段のバッフルプレートを両側の側壁からコンデンサ本体の幅方向に伸長する2つの部材により構成し、ガスの流れをコンデンサ本体の幅方向中央部に制限する、すなわち、側壁に沿って流れない構造とすることにより、ベコの発生を極力抑制すると共に、効率的な物質および熱の移動を行わせることができ、鉛スプラッシュ持ち去りロスが低減され、亜鉛回収効率であるコンデンサ効率を飛躍的に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図面を参照して、本発明の一実施例を説明する。図1は、本発明の一実施例の鉛スプラッシュコンデンサ設備を概略平面図で示す。
【0028】
本発明の鉛スプラッシュコンデンサ設備は、亜鉛蒸気を含有したガスを、熔体鉛が飛散した鉛スプラッシュと接触させることにより、亜鉛蒸気を熔体鉛中に溶解させる。
【0029】
本発明の鉛スプラッシュコンデンサ設備の基本的な構成は、従来のものと同様である。一端に熔鉱炉出口(1)が結合され、他端にガス排煙道(2)が設けられたコンデンサ本体(3)と、冷却樋(4;ロンダー)と、冷却樋(4)よりオーバーフローで流出する熔体に塩化アンモニウムを添加するフラックス炉(5)と、鉛と亜鉛とを分離する分離炉(6)と、回収した亜鉛の温度を一定に維持するための加熱炉(7)と、回収した熔体をコンデンサ本体(3)に戻すためのリターン炉(8)とから構成されている。
【0030】
また、コンデンサ本体(3)には、中央部に複数の鉛スプラッシュロータ(9a〜9d)と、鉛スプラッシュロータ(9a)よりガスの流れの上流側において、熔体鉛でシールされアンダーフロー構造のサンプ(10)と、サンプ(10)に接続される鉛ポンプ(図示せず)とが設けられている。
【0031】
なお、図示の例では、コンデンサ本体(3)の内部に、コンデンサ本体の側壁に沿って、排ガスの流れる方向における上流側から下流側に向けて、複列(2台並列)で4段の計8台の鉛スプラッシュロータ(9a〜9d)を配置している。基本的には、本発明は、複列の配置を前提としているが、段数については、少なくとも2段(計4台)あれば適用でき、5段以上の構成にも適用可能である。
【0032】
本発明のコンデンサ設備においては、第1に、これらの鉛スプラッシュロータとして、ダブルスロータイプのロータを採用する点に特徴がある。
【0033】
ダブルスロータイプのロータとは、隣り合う攪拌羽根が互い違いに中心軸から異なる距離に配置されているロータをいう。かかる構成により、すべての撹拌羽根が中心軸から等しい距離に配置される通常の鉛スプラッシュロータと異なり、より多くの鉛スプラッシュを発生させることができる。
【0034】
撹拌羽根によって溶融鉛がスプラッシュされるためには、撹拌羽根が回転する間に、スプラッシュされた跡である撹拌羽根が通過した位置へ、スプラッシュされるべき溶融鉛を流入させておく必要がある。すべての撹拌羽根が等しい鉛スプラッシュロータでは、同じ位置を撹拌羽根が通過する時間間隔は、ロータが1/4回転する時間であるのに対して、ダブルスロータイプのロータでは、隣り合う撹拌羽根の通過位置が異なるため、同じ位置を撹拌羽根が通過する時間間隔は、ロータが1/2回転する時間となり、より延長される。
【0035】
したがって、同じ運転条件下では、ダブルスロータイプのロータの方が、より多くのスプラッシュを発生させることが可能となる。
【0036】
さらに、本発明に係る鉛スプラッシュコンデンサ設備においては、前記コンデンサ本体(3)の内部において、鉛スプラッシュロータ(9a〜9d)により熔体鉛浴より跳ね上げられた熔体鉛粒が飛散するガス空間内に少なくとも二段のバッフルプレート(11、12)を設けている。
【0037】
具体的には、前記コンデンサ本体の他端側に設けられた最終段の鉛スプラッシュロータ(9d)よりも上流側に、前記側壁との間にガスが流れるように、第1のバッフルプレート(11)が中間部のバッフルプレートとして配置され、該最終段の鉛スプラッシュロータ(9d)の下流側に、2つの部材が前記側壁から垂直に伸長し、前記コンデンサ本体の幅方向中央部に開口部を形成する第2のバッフルプレート(12)が最終段のバッフルフレートとして配置される。
【0038】
第1のバッフルプレート(11)は、コンデンサ本体(3)の幅方向に伸長する1つの部材からなり、側壁との間にガスの主流が流れるようにする構成でもよい。また、2つの部材からなり、両ロータ間に配置され、前記コンデンサ本体の幅方向中央部および両側の側壁部に沿ってそれぞれ開口部を形成し、ガス流が、側壁との間と中央部を流れるようにする構成でもよい。
【0039】
なお、バッフルプレート(11、12)の素材としては、SUS、ボイラー鋼板、熔融Znめっき用鋼板を採用できる。
【0040】
本発明においては、コンデンサ本体(3)の中間部において、排ガスの流れが側壁に沿って流れる構造となるように、第1のバッフルプレート(11)が設けられ、最終段のバッフルプレートとして、2つの部材が前記側壁から垂直に伸長し、前記コンデンサ本体の幅方向中央部に開口部を形成する第2のバッフルプレート(12)を配置する点に特徴がある。
【0041】
最終段のバッフルプレート(12)は、最終段の複列の鉛スプラッシュロータ(9d)の間と、該鉛スプラッシュロータ(9d)とコンデンサ本体(3)の両側壁の間を下流側に進行する熔鉱炉排ガスの流れを変化させる。すなわち、図3(a)に示すように、特に鉛スプラッシュロータ(9d)とコンデンサ本体(3)の両側壁の間を進行するガスの流れ(主流)を、バッフルプレート(12)の手前で変化させて、鉛スプラッシュロータ(9d)のロータ軸を回り込むように流動させる。なお、コンデンサ本体の内部では、側壁に沿ったガスの流れが主流となる。
【0042】
さらに、最終段のバッフルプレート(12)に、鉛スプラッシュロータ(9d)から飛散する鉛スプラッシュが、衝突・遮蔽されて、バッフルプレート(12)の手前から鉛スプラッシュロータ(9d)のロータ軸との間の空間にかけて、鉛スプラッシュの密度を局所的に高めることができる。よって、コンデンサ本体(3)の側壁と、最終段のバッフルプレート(12)と、鉛スプラッシュロータ(9d)の回転軸にはされまれた空間において、熔体鉛粒の密度が高くなると共に、熔体鉛粒の表面積が大きくなり、さらに、そのように密度が高い局所空間を排ガス粒の主流が通ることから、従来よりも効率的な気液接触が可能となる。加えて、かかる空間では、ロータがダブルスロータイプであることから、従来よりもロータ軸周辺におけるスプラッシュ分布率が向上している。これにより、最も効率的な物質熱移動が達成されることになる。
【0043】
これに対して、図3(b)に示すように、最終段の鉛スプラッシュロータ(9d)の下流側にバッフルプレート(12)が設けられない場合、鉛スプラッシュロータ(9d)から飛散する鉛スプラッシュは、下流側に広く拡散することになる。また、鉛スプラッシュロータ(9d)とコンデンサ本体(3)の側壁の間を通る排ガスの流れは、側壁に沿って直進し、鉛スプラッシュロータ(9d)のロータ軸の周辺に巻き込まれることがなくなる。このため、本発明に係る図3(a)の構成よりも気液接触の効率が低下することは明らかである。
【0044】
一方、図3(c)に示すように、最終段の鉛スプラッシュロータ(9d)の下流側に、1つの部材からなり、両側壁との間に開口部を形成するように構成されたバッフルプレートを設置した場合、鉛スプラッシュの飛散する範囲は限定されるものの、鉛スプラッシュロータ(9d)とコンデンサ本体(3)との間を流れる排ガスの流れの主流は、直進してしまい、鉛スプラッシュロータ(9d)のロータ軸の周辺に巻き込まれることはない。また、側壁に衝突・反射した鉛スプラッシュはかかる排ガスの流れの主流によって、下流側に流されて系外に持ち出される。さらに、最終段のバッフルプレートに衝突して、反射した鉛スプラッシュの一部も、2つの鉛スプラッシュロータ(9d)の間を流れるガス流によって、鉛スプラッシュロータ(9d)のロータ軸周辺に巻き込まれることなく、系外に持ち出されてしまう。このため、本発明に係る図3(a)の構成よりも気液接触の効率が低下することは明らかである。
【0045】
このように、本発明では、中間部において、側壁に沿ってガス流が生じている構成において、最終段において、該側壁に沿って進むガス流を、最終段の鉛スプラッシュロータ(9d)から飛散する鉛スプラッシュと十分に接触できる範囲を進むようにしている。また、側壁と、最終段の鉛スプラッシュロータ(9d)と、その前段の鉛スプラッシュロータ(9c)とに、スプラッシュした鉛粒を積極的に衝突させ、2次飛散させることにより、鉛粒をより微細化して表面積の増加を図り、コンデンサ効率の向上を図っている。
【0046】
すなわち、溶鉱炉排ガスと鉛スプラッシュとにおける、亜鉛蒸気から鉛粒の中への吸収反応は、前述したように、主に飛散された鉛粒とガスとの界面で進行するが、両者の接触機会が多いほど、また、両者の接触面積である鉛粒の表面積が大きいほど、吸収反応の効率がよくなり、コンデンサ効率もよくなり、それと共にガスの冷却効率もよくなる。
【0047】
このように、本発明の構成では、バッフルプレートを徒に増設する必要はないため、ベコの発生を抑制しつつ、コンデンサ効率の向上を図ることができる。
【0048】
なお、本発明では、中間部のバッフルプレート(11)と、最終段のバッフルプレート(12)の配置および構成が特徴であり、それ以外のバッフルプレートの設置については、ベコの発生が問題とならない限り可能である。たとえば、図1に示すとおり、中間部のバッフルプレートとして、第1のバッフルプレート(11)を二段に配置することは可能である。中間部において、さらにバッフルプレートを設けてもよい。たとえば、さらに上流側に最初段のバッフルプレートとして、第1のバッフルプレート(11)または第2のバッフルプレート(12)のいずれかを配置してもよい。ただし、第2のバッフルプレート(12)を連続的に配置するとベコ発生の基点となるため、好ましくない。よって、最終段のバッフルプレート(12)の一つ上流側のバッフルプレートは、第1のバッフルプレートである必要がある。
【0049】
また、本発明においても、鉛粒の微細化を図るために、衝突作用のみを有する鉛衝突板(図示せず)を、鉛粒が飛散するガス空間内の任意の位置に適宜配置して、鉛粒とガスの接触効率を向上させることは可能である。かかる鉛衝突板は、ガスの整流およびベコの発生に関与しないため、バッフルプレートと干渉しない限りにおいて、異なる段の鉛スプラッシュロータの間(たとえば、9aと9bの間)、各段の複列の鉛スプラッシュロータの間(たとえば、9bで示す2つのロータの間で、コンデンサ本体(3)の長手方向)、前記コンデンサ本体の一端側に設けられた第1段の鉛スプラッシュロータ(9a)よりも前記排ガスの流れの上流側、および、各鉛スプラッシュロータ(9a〜9d)の攪拌羽根の上方のうち、いずれかの位置またはすべての位置に任意に配置可能である。
【0050】
ただし、鉛粒が衝突する状態によって、鉛スプラッシュの分布が疎となる空間を形成することは望ましくない。例えば、コンデンサ本体の側壁とロータとの間に、側壁と平行に鉛衝突板を設置すると、鉛衝突板が鉛スプラッシュの障害物となり、鉛衝突板と側壁との間の空間は、鉛スプラッシュの分布が疎となるため、ガスと鉛スプラッシュとの効率的な接触が妨げられてしまうので、当該個所への配置は好ましくない。
【0051】
その機能から、鉛粒衝突板は、板状、パンチプレート状、および垂らした鎖状のうち任意の形状を採りうる。また、鉛衝突板の素材としても、SUS、ボイラー鋼板、熔融Znめっき用鋼板を採用できる。
【0052】
なお、本発明においては、コンデンサ効率の評価は、熔鉱炉排ガスの冷却効率および鉛スプラッシュコンデンサ設備の操業結果に基づいて評価する。具体的には、冷却効率は、コンデンサ出口のガス温度とリターン部(図1の8)における鉛浴温との差である平均温度差ΔTを測定することで行う。
【0053】
すなわち、ΔTの値が小さい場合には、溶鉱炉排ガス中より、亜鉛が鉛浴中に物質移動すると共に、伝熱移動がなされた状態、すなわち、コンデンサ効率が高いことを意味し、ΔTの値が大きい場合には、溶鉱炉排ガス中からの物質移動・伝熱移動が十分でないために、コンデンサ本体の下流側におけるガスと鉛浴の温度が大きくなってしまった状態、すなわち、コンデンサ効率が低いことを意味する。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
図1に概略を示す鉛スプラッシュコンデンサ設備を使用して、2週間の試験操業を行った。コンデンサ本体(3)(長さ10.8m、幅5.5m、炉天井から路程までの高さ1.5m、炉天井から鉛浴表面までの高さ1m)の内部には、8台のダブルスロータイプのロータ(9a〜9d)を設け、さらに、該コンデンサ本体(3)の側壁から一定の距離(1.25m)だけ離間し、かつ、コンデンサ本体(3)の幅方向の中央付近に一定の距離(0.7mの開口部)をおくように、並列に2枚1組でバッフルプレート(11;「第1段および第2段のバッフルプレート」)を設けた。各バッフルプレート(11)のそれぞれの部材には、幅1035mm×高さ1100mm×厚さ50mmのステンレススチール(SS)板を用いた。
【0055】
また、ガスの流れに対して最も下流側で、最終段の2台の鉛スプラッシュロータ(9d)と排煙道(2)との間のコンデンサ本体(3)の側壁の上に、互いに対向する2枚1組のバッフルプレート(12;「最終段のバッフルプレート」)を設けた。
【0056】
最終段のバッフルプレート(12)のそれぞれの部材には、幅1035mm×高さ1100mm×厚さ50mmのステンレススチール(SS)板を用いた。また、ロータ(9a〜9d)の回転数を50rpmとし、浸漬深さを200mmとした。
【0057】
コンデンサ出口ガス温度と鉛浴温との差である平均温度差ΔTを測定したところ、平均温度差ΔTは7℃であった。また、操業結果からコンデンサ効率を算出されたコンデンサ効率は90.6%であった。
【0058】
また、本実施例においては、コンデンサに付着したベコの異常成長は見られなかった。
【0059】
(比較例1)
図2に概略平面図を示した鉛スプラッシュコンデンサ設備を使用したこと以外は、実施例1と同様に、2週間の試験操業を行った。
【0060】
その結果、平均温度差ΔTが22℃であった。また、操業結果から算出されたコンデンサ効率は89.6%であった。なお、コンデンサに付着したベコの異常成長は見られなかった。
【0061】
(比較例2)
鉛スプラッシュロータを、すべての撹拌羽根が等しいタイプに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、2週間の試験操業を行った。
【0062】
その結果、平均温度差ΔTが15℃であった。また、操業結果から算出されたコンデンサ効率は90.1%であった。コンデンサに付着したベコの異常成長は見られなかった。
【0063】
以上より、実施例1は、従来の構造の比較例1および通常の鉛スプラッシュロータを用いた比較例2に対して、高いコンデンサ効率を備えることが理解される。なお、実施例1では、比較例1と比較すると、ベコの生成や鉛スプラッシュ持去りロスが若干上がっていたが、問題となる増加量ではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の鉛スプラッシュコンデンサ設備の一実施例を示す概略平面図である。
【図2】従来の鉛スプラッシュコンデンサ設備を示す概略平面図である。
【図3】本発明の実施例と従来例とにおいて、鉛スプラッシュの及ぶ範囲とガスの流れを示した平面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 溶鉱炉出口
2 ガス排煙口
3 コンデンサ本体
4 冷却樋
5 フラックス炉
6 分離炉
7 加熱炉
8 リターン炉
9a、9b、9c、9d ロータ
10 サンプ
11 中間部のバッフルプレート
12 最終段のバッフルプレート
19a、19b、19c、19d ロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が熔鉱炉の出口に結合され、他端に排煙道が設けられ、側壁を有するコンデンサ本体と、前記コンデンサ本体の内部に複列で前記側壁に沿って複数段に設けられた、鉛スプラッシュロータとを有し、前記熔鉱炉の出口から排煙道に流れる亜鉛蒸気を含有した排ガスを、前記鉛スプラッシュロータにより飛散された熔体鉛粒と接触させ、前記亜鉛蒸気を該熔体鉛中に熔解させる鉛スプラッシュコンデンサ設備において、
前記鉛スプラッシュロータが、ダブルスロータイプのロータであり、前記熔体鉛粒が飛散するガス空間内に少なくとも二段のバッフルプレートが設けられ、前記コンデンサ本体の他端側に設けられた最終段の鉛スプラッシュロータよりも上流側に、前記側壁との間にガスが流れるように、第1のバッフルプレートが配置され、該最終段の鉛スプラッシュロータの下流側に、2つの部材が前記側壁から垂直に伸長し、前記コンデンサ本体の幅方向中央部に開口部を形成する第2のバッフルプレートが配置されている、鉛スプラッシュコンデンサ設備。
【請求項2】
前記第1のバッフルプレートが、2つの部材からなり、両ロータ間に配置され、前記コンデンサ本体の幅方向中央部および両側の側壁部に沿ってそれぞれ開口部を形成するバッフルプレートである、請求項1に記載の鉛スプラッシュコンデンサ。
【請求項3】
鉛粒衝突板が、前記熔体鉛粒が飛散するガス空間であって、異なる段の鉛スプラッシュロータの間、各段の複列の鉛スプラッシュロータの間、前記コンデンサ本体の一端側に設けられた第1段の鉛スプラッシュロータよりも前記排ガスの流れの上流側、および、各鉛スプラッシュロータの攪拌羽根の上方のうち、いずれかの位置またはすべての位置にさらに配置される、請求項1に記載の鉛スプラッシュコンデンサ。
【請求項4】
前記鉛粒衝突板が、板状、パンチプレート状、および垂らした鎖状のうちいずれかの形状を有する、請求項3に記載の鉛スプラッシュコンデンサ設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−293090(P2009−293090A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149101(P2008−149101)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】