説明

鉛蓄電池用負極板及びそれを用いた鉛蓄電池

【課題】 負極の充電受入性を向上させる目的で蓄電池負極に含まれるカーボン成分の負極からの流出を防止するもので、流出するカーボン成分による短絡現象を防ぎ、信頼性が高い蓄電池用負極を提供する
【解決手段】 負極既化成活物質中に、平均粒子径が1μm以下のカーボンを0.5mass%以上、5.0mass%以下含有し、かつコロイダルシリカを0.1mass%以上、1.0mass%以下含有し、その含有するコロイダルシリカの平均粒子径が、0.2μm以下することを特徴とする鉛蓄電池用負極板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池の負極板に関するもので、特に近年の満充電されずに充放電サイクルを繰り返される用途に用いられているカーボン成分を含む負極板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉛蓄電池の負極活物質には活物質の導電性向上などを目的として、カーボン成分が0.1mass%程度添加されているが、近年のアイドリングストップ車用や太陽光、風力発電用など新しい用途への鉛電池の使用に際して、これらの用途では満充電されない状態で充放電サイクルを繰り返されることが多く、そのために負極活物質のサルフェーションが生じて鉛蓄電池が寿命に至ることが問題視されていた。このため、負極の充電受入性を向上させる目的でカーボンを従来よりも多量に添加する試みがなされている(特許文献1、2など参照)。
【0003】
このように鉛蓄電池の負極板にカーボンを多量に添加した場合、カーボンの粒子径やその添加量にもよるが、充電時の水素ガス発生時に負極板表面からガスと共にカーボンが吐き出されて電解液中に流出し、この流出したカーボンによって電解液が黒く濁ったり、電池の内部短絡が生じるという問題が発生することがあった。具体的には、平均粒子径が1μm以下のカーボンを0.5mass%以上含有する場合に、カーボンの流出による問題が発生することが多かった。すなわち、負極活物質の最大細孔直径は1μm前後であるため、平均粒子径が1μmより大きいカーボンは活物質外に流出しがたい。一方、カーボン量が0.5mass%より少ない場合は、そのカーボン量が少ないために活物質外に流出しても特に問題を起こさないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−63905号公報
【特許文献2】特開2008−153128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような問題に鑑み、本発明はなされたものであり、負極の充電受入性を向上させる目的で負極に含まれるカーボン成分の負極からの流出を防止するもので、流出するカーボン成分による短絡現象を防ぎ、信頼性が高い蓄電池用負極と蓄電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、希硫酸と反応してゲル状となる性質を持つコロイダルシリカを化成前の負極活物質に混入させておき、化成の際、負極活物質と希硫酸が触れるときに、負極活物質中に混入されていたコロイダルシリカと希硫酸との反応によって活物質内の電解液をゲル化させ、活物質中のカーボン粒子を流動し難くし、負極から流出するのを防止しようとするもので、本発明は、負極既化成活物質中に、平均粒子径が1μm以下のカーボンを0.5mass%以上含有し、かつコロイダルシリカを0.1mass%以上、1mass%以下含有することを特徴とする鉛蓄電池用負極板であり、そのコロイダルシリカの平均粒子径は、0.2μm以下であり、負極既化成活物質に含まれるカーボンの含有量が、5mass%以下であることを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明のもう一つの発明は、本発明に係る鉛蓄電池用負極板を用いた鉛蓄電池である。
【発明の効果】
【0008】
負極活物質中に含まれる適量のコロイダルシリカによって、電解液をゲル化し、流動し難くすることにより、負極板内のカーボンが負極から流出するのを防止するもので、カーボンによる短絡などを予防し、鉛蓄電池電池の信頼性を向上させるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、希硫酸と反応してゲル状となる性質を持つ適量のコロイダルシリカを、化成前の負極活物質に混入し、化成処理の際に負極活物質と希硫酸が触れるときに、負極活物質中に混入しておいたコロイダルシリカと希硫酸との反応によって活物質内の電解液をゲル化させ、活物質中のカーボン粒子を流動し難くし、負極から流出するのを防止しようとするものである。ここで、本発明における化成処理のタイミングは、負極板を電池に組み込んだ後に電槽内で化成する場合(この場合をケースフォーメーションと称す。)、あるいは負極板を化成処理した後に電池に組み込む場合(この場合をタンクフォーメーションと称す。)のどちらであっても良い。
【0010】
そこで、活物質内の電解液をゲル化させるためには、コロイダルシリカを活物質量に対して0.1mass%以上含有することが望ましい。
しかし、1.0mass%を超えると活物質細孔内のコロイダルシリカが多くなりすぎて細孔内に含有できる電解液量を少なくして、放電容量が少なくなってしまう。また0.1mass%未満では、電解液をゲル化する作用が弱く、カーボンの流出を抑制することができないためである。したがって、コロイダルシリカの含有量は、0.1〜1mass%が望ましい。
さらに、コロイダルシリカの平均粒子径は、電解液のゲル化のし易さと関係があり、大きすぎるとゲル化するのに長時間を要する傾向があるため、0.2μm以下であることが好ましい。
【0011】
ところで、引用文献2ではシリカを含む例が示されているが、特許文献2の明細書段落[0022]〜[0023]に記載されるように、カーボンの一部をシリカと置き換えても、カーボンのみの場合と同程度の吸油量もつ多孔質構造を形成できることから、このシリカはカーボンと同様に粉体であると考えられる。また、カーボンと共に多孔質構造を構成することから、活物質中に浸透してきた電解液を保有することは可能であるが、電解液を非流動化させる効果はない。
【0012】
なお、カーボンの添加量を増やしすぎると、負極活物質ペーストを調製する際にペーストが硬くなり、極板の作製が困難となるため、カーボンの含有量は、負極既化成活物質中において、5mass%以下とすることが望ましい。
【実施例】
【0013】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
先ず、コロイダルシリカの添加量の影響に関して、負極活物質中に平均粒子径が0.05μmのカーボンを1mass%添加し、平均粒子径が0.02μmのコロイダルシリカを0〜2mass%の範囲で変化させて添加した負極板を用いて未注液の鉛電池を組立て、これに希硫酸を注液した後、化成して、自動車用鉛蓄電池を作製した。
【0014】
化成後における電解液中へのカーボンの流出度合を3段階(○:ほとんど流出なし、△:若干の流出が見られる、×:多量に流出)で評価した。
【0015】
電池の放電性能については、負極性能の違いを明確にするために低温高率放電試験で評価した。従来例の放電性能を100として、98を超えた場合を○、98〜95を△、95未満を×と評価した。
【実施例1】
【0016】
負極活物質中に平均粒子径が0.05μmのカーボンを負極既化成活物質中において1mass%となるように添加し、さらに平均粒子径が0.02μmのコロイダルシリカを負極既化成活物質中において0.1mass%となるように添加した実施例1に係る負極板を作製した。(カーボン含有量:1mass%、コロイダルシリカ含有量:0.1mass%を示す。)
次に、この負極板を用いて未注液の鉛電池を組立て、さらに希硫酸を注液した後、化成して、自動車用鉛蓄電池を作製した。
作製した自動車用鉛蓄電池の「電解液中へのカーボンの流出度合」、「放電性能」を測定して、その結果を表1に示す。
【実施例2】
【0017】
負極活物質中に平均粒子径が0.05μmのカーボンを負極既化成活物質中において1mass%となるように添加し、さらに平均粒子径が0.02μmのコロイダルシリカを負極既化成活物質中において0.2mass%となるように添加した実施例2に係る負極板を作製した。
次に、この負極板を用いて未注液の鉛電池を組立て、さらに希硫酸を注液した後、化成して、自動車用鉛蓄電池を作製した。
作製した自動車用鉛蓄電池の「電解液中へのカーボンの流出度合」、「放電性能」を測定して、その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0018】
負極活物質中に平均粒子径が0.05μmのカーボンを負極既化成活物質中において1mass%となるように添加し、さらに平均粒子径が0.02μmのコロイダルシリカを負極既化成活物質中において0.5mass%となるように添加した実施例3に係る負極板を作製した。
次に、この負極板を用いて未注液の鉛電池を組立て、さらに希硫酸を注液した後、化成して、自動車用鉛蓄電池を作製した。
作製した自動車用鉛蓄電池の「電解液中へのカーボンの流出度合」、「放電性能」を測定して、その結果を表1に示す。
【実施例4】
【0019】
負極活物質中に平均粒子径が0.05μmのカーボンを負極既化成活物質中において1mass%となるように添加し、さらに平均粒子径が0.02μmのコロイダルシリカを負極既化成活物質中において1.0mass%となるように添加した実施例4に係る負極板を作製した。
次に、この負極板を用いて未注液の鉛蓄電池を組立て、さらに希硫酸を注液した後、化成して、自動車用鉛蓄電池を作製した。
作製した自動車用鉛蓄電池の「電解液中へのカーボンの流出度合」、「放電性能」を測定して、その結果を表1に示す。
【0020】
(比較例1)
負極活物質中に平均粒子径が0.05μmのカーボンを負極既化成活物質中において1mass%となるように添加し、さらに平均粒子径が0.02μmのコロイダルシリカを負極既化成活物質中において0.05mass%となるように添加した比較例1に係る負極板を作製した。
次に、この負極板を用いて未注液の鉛電池を組立て、さらに希硫酸を注液した後、化成して、自動車用鉛蓄電池を作製した。
作製した自動車用鉛蓄電池の「電解液中へのカーボンの流出度合」、「放電性能」を測定して、その結果を表1に示す。
【0021】
(比較例2)
負極活物質中に平均粒子径が0.05μmのカーボンを負極既化成活物質中において1mass%となるように添加し、さらに平均粒子径が0.02μmのコロイダルシリカを負極既化成活物質中において2.0mass%となるように添加した比較例2に係る負極板を作製した。
次に、この負極板を用いて未注液の鉛電池を組立て、さらに希硫酸を注液した後、化成して、自動車用鉛蓄電池を作製した。
作製した自動車用鉛蓄電池の「電解液中へのカーボンの流出度合」、「放電性能」を測定して、その結果を表1に示す。
【0022】
(従来例)
コロイダルシリカを含まず、負極活物質中に平均粒子径が0.05μmのカーボンを負極既化成活物質中において1mass%となるように添加した従来例の負極板を作製した。
次に、この負極板を用いて未注液の鉛電池を組立て、さらに希硫酸を注液した後、化成して、自動車用鉛蓄電池を作製した。
作製した自動車用鉛蓄電池の「電解液中へのカーボンの流出度合」、「放電性能」を測定して、その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から明らかなように、コロイダルシリカ含有量が本発明の範囲内にある実施例1から4では、負極板に含まれるカーボンの流出は見られず、放電性能もほぼ従来例と同一であった。一方、コロイダルシリカ含有量が0.05mass%と少ない比較例1では、放電性能には影響はなかったが、負極板からのカーボンの流出を完全には止められず、流出がみられた。また、コロイダルシリカ含有量が多い、比較例2ではカーボンの流出は抑制されたが、放電性能の低下がみられた。
【0025】
[実施例3、実施例5〜実施例12]
次に、コロイダルシリカの含有量を負極既化成活物質中において0.5mass%と一定にして、負極既化成活物質中における、コロイダルシリカの粒子径、カーボン含有量、及びカーボン粒子径の影響に関して、表2に示す組み合せによる負極板を作製し、先の実施例と同様に、「電解液中へのカーボンの流出度合」、「放電性能」を測定した。その結果を合わせて表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2から本発明の範囲内では、カーボンの流出を防ぎ、放電性能を維持する効果を示すことは明らかである。
なお、本発明は、電槽内で化成する(ケースフォーメーション)電池に最適だが、化成してから電池に組み立てる(タンクフォーメーション)電池に適用することも可能である。
【0028】
また、カーボン及びコロイダルシリカの粒子径は、負極活物質から分離したカーボン及びコロイダルシリカを、電子顕微鏡で観察して粒子の大きさを測定し、ランダムに選んだ100個の粒子の平均を採用した平均粒子径で表示している。
さらに、添加するカーボンの種類は特に限定するものではないが、アセチレンブラックやファーネスブラックなどの導電性カーボンブラックが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極既化成活物質中に、平均粒子径が1μm以下のカーボンを0.5mass%以上含有し、かつコロイダルシリカを0.1mass%以上、1mass%以下含有することを特徴とする鉛蓄電池用負極板。
【請求項2】
前記コロイダルシリカの平均粒子径が、0.2μm以下である請求項1に記載の鉛蓄電池用負極板。
【請求項3】
前記カーボンの含有量が、5mass%以下である請求項1又は2に記載の鉛蓄電池用負極板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用負極板を用いた鉛蓄電池。

【公開番号】特開2012−124056(P2012−124056A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274748(P2010−274748)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】