説明

鉛蓄電池

【課題】負極活物質に添加する添加剤の種類及び添加量の最適化を図ることにより、充電受入性能及び高率放電性能の更なる向上を図った鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が12000以上、硫黄含有量が3.0wt%以上でかつその硫黄含有量のうち有機硫黄含有量が80%wt以上であるリグニンスルホン酸ナトリウム塩と、平均一次粒子径が0.8μmの硫酸バリウムと、かさ密度が0.27g/mL以上で比表面積が250m/g以上であるオイルファーネスブラックとを負極活物質に添加した。負極活物質に対するリグニンスルホン酸ナトリウム塩の添加量は、0.1wt%よりは多く、0.5wt%よりは少ない範囲とし、硫酸バリウムの添加量は、0.5wt%より多く、5.0wt%より少なくい範囲とし、負極活物質に対するオイルファーネスブラックの添加量は、0.1wt%より多く、1.2wt%以下の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池においては、その特性を改善するため、特許文献1に示されているように、負極活物質中に、リグニン、硫酸バリウム、カーボンなどの添加剤を加えることが行われている。リグニンは、通常リグニンスルホン酸ナトリウム塩の形で添加される。
【0003】
鉛蓄電池の充放電が繰り返されると、負極活物質が収縮して反応面積が減少するため、高率放電性能が低下するが、負極活物質にリグニンを添加すると、これが防縮剤として機能するため、負極活物質の収縮が抑制され、高率放電性能の低下が抑制される。
【0004】
また鉛蓄電池の充放電が繰り返されると、負極活物質中に不可逆性の硫酸鉛が蓄積され、その結晶が成長して粗大になると負極板の電子伝導度が低下して高率放電性能が低下する。そこで硫酸鉛の結晶の成長を抑制するために、負極活物質に硫酸バリウムを添加している。硫酸バリウムは電池の放電時に硫酸鉛の結晶生成の核となるため、硫酸鉛の結晶の微細化と、その分布の均一化とを促し、粗大な硫酸鉛の結晶が成長するのを抑制する。
【0005】
また負極活物質にカーボンを添加して、活物質中にカーボンを分散させておくと、カーボン粒子間で電子伝導が起こり、負極活物質中に導電ネットワークが形成されるため、硫酸鉛が充電され易くなり、充電受入性が向上する。
【特許文献1】特開2003−142086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、鉛蓄電池では、高率放電性能を向上させるために負極活物質中にリグニン及び硫酸バリウムを添加し、充電受入性を向上させるためにカーボンを添加している。しかし、充電受入性を向上させるための添加剤と、高率放電性能を向上させるための添加剤とは相反する作用する。
【0007】
例えば、20000から60000といった高い分子量を有するリグニンを負極活物質に添加することで高率放電性能を向上させることができるが、この場合、充電受入性能は低下してしまう。その理由は、リグニンの分子量が高いと、リグニン中に含まれる有機性硫黄(スルホニル基)が多いため、極板中の鉛に有機性硫黄が吸着し、これにより充電時のPb2+ が還元されて析出する際の電析面の活性点(充電初期にPb2+が析出する部分)が覆われて結晶成長が抑制されることや、リグニン自体が分解し難く、残存しやすいことにあると考えられている。
【0008】
またリグニンの添加量を増やすことによっても高率放電性能を向上させる効果を期待できるが、リグニンの添加量を増やすと、充電受入性が低下したり、ペースト物性値が変化したり、極板中の鉛量が減少したりするため、容量の低下を引き起こしてしまう。
【0009】
充電受入性能及び高率放電性能の双方を向上させるためには、リグニン、硫酸バリウム及びカーボンの3成分の添加量の最適化を図る必要がある。特許文献1に示された鉛蓄電池においては、これらの添加剤の配合比を工夫することで、充電受入性能及び高率放電性能を向上させているが、アイドリングストップ車に用いられる鉛蓄電池のように、充放電が頻繁に繰り返される非常に厳しい条件下で用いられる鉛蓄電池においては、充電受入性能及び高率放電性能の更なる向上を図ることが必要とされる。
【0010】
本発明の目的は、負極活物質に添加するリグニンの添加量、硫酸バリウムの粒径及びその最適添加量、並びに添加するカーボンの種類及びその添加量の最適化を行うことにより、充電受入性能及び高率放電性能の更なる向上を図った鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、鉛粉を主成分とするペースト状負極活物質を、鉛合金製の集電体に充填して作成されるペースト式負極板を用いる液式鉛蓄電池に係わるものである。
【0012】
本発明においては、質量平均分子量が12000以上であって、硫黄含有量が3.0wt%以上でかつその硫黄含有量のうち有機硫黄含有量が80wt%以上であるリグニンスルホン酸ナトリウム塩と、平均一次粒子径が0.8μm以下である硫酸バリウムと、かさ密度が0.27g/mL以上(mL:ミリリットル)で比表面積が250m/g以上であるオイルファーネスブラックとを負極活物質に添加する。
【0013】
鉛蓄電池の負極活物質に添加するリグニン、硫酸バリウム及びカーボンの種類を上記のように選定すると、それぞれの添加量を的確に設定することにより、充電受け入れ性能及び高率放電性能の双方を向上させることができ、鉛蓄電池の寿命性能の向上と軽量化とを図ることができることが実験により確認された。
【0014】
上記負極活物質に対するリグニンスルホン酸ナトリウム塩の添加量は、0.1wt%より多く、0.4wt%より少ない範囲に設定するのが好ましい。
【0015】
上記負極活物質に対する硫酸バリウムの添加量は、0.5wt%より多く、5.0wt%よりは少ない範囲に設定するのが好ましい。
【0016】
上記負極活物質に対するオイルファーネスブラックの添加量は、0.1wt%より多く、1.2wt%以下の範囲に設定するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、負極活物質に添加するリグニンの添加量、硫酸バリウムの粒径及びその最適添加量、添加するカーボンの種類及びその添加量の最適化を図ったことにより、鉛蓄電池の充電受入性能及び高率放電性能の双方を従来よりも向上させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
本発明においては、鉛蓄電池の充電受入性能と高率放電性能とを向上させるため、リグニンスルホン酸ナトリウム塩と、硫酸バリウムと、オイルファーネスブラックとを負極活物質に添加する。リグニンスルホン酸ナトリウム塩としては、重量平均分子量が12000以上であって、硫黄含有量が3.0wt%以上でかつその硫黄含有量のうち有機硫黄含有量が80wt%以上であるものを用いる。また硫酸バリウムとしては、平均一次粒子径が0.8μm以下であるものを用い、オイルファーネスブラックとしては、かさ密度が0.27g/mL以上で比表面積が250m/g以上のものを用いる。
【0019】
本発明者は、上記の結論を導くために、リグニンスルホン酸ナトリウム塩と、硫酸バリウムと、カーボンブラックとの負極活物質への添加量を種々変化させて、鉛蓄電池の充電受入性能と効率放電性能を検証する実験を行った。この実験では、表1及び表2に示すように、64種類の負極板を作製し、これらの負極板を用いて、64種類の2V単電池をサンプルとして製造した。なお表1及び表2において、「本発明品」は本発明に係わる電池で用いる負極板を示し、比較例1ないし63は本発明品と比較する電池で用いる負極板を示している。また表1及び表2において、「リグニン」は、リグニンスルホン酸ナトリウム塩の形で添加している。
【表1】

【表2】

【0020】
サンプルとして用いた各単電池は下記のようにして作製した。
[負極板の製造]
1.00kgの鉛粉に、0.2wt%のリグニンスルホン酸ナトリウム塩の粉末と、0.2wt%のカーボン粉末と、1.0wt%の硫酸バリウムと、グラスファイバ(カットファイバ)を0.1wt%とを添加した後、混練機にて約10分混練した。次に鉛粉に対して13wt%となる希硫酸(比重1.26,20℃)と鉛粉に対して12wt%となる水とを加えた後、混練を10分続けて負極活物質ペーストを作った。
【0021】
このとき、リグニンスルホン酸ナトリウム塩として、表1に示したように、重量平均分子量が12000以上のものと、表2に示したように、重量平均分子量が12000よりも小さいものとを用意し、重量平均分子量が12000以上のものとして、硫黄含有量が3.0wt%以上で、かつその硫黄含有量のうち有機硫黄の含有量が80wt%以上のものと、硫黄含有量が3.0wt%以上で、かつその硫黄含有量のうち有機硫黄の含有量が80wt%よりも少ないものと、硫黄含有量が3.0wt%よりも少なく、かつその硫黄含有量のうち有機硫黄の含有量が80wt%以上のものと、硫黄含有量が3.0wt%よりも少なく、かつその硫黄含有量うち有機硫黄の含有量が80wt%よりも少ないものとの4種類のものを用意した。
【0022】
同様に、重量平均分子量が12000よりも小さいものとしても、硫黄含有量が3.0wt%以上で、かつその硫黄含有量のうち有機硫黄の含有量が80wt%以上のものと、硫黄含有量が3.0wt%以上で、かつその硫黄含有量のうち有機硫黄の含有量が80wt%よりも少ないものと、硫黄含有量が3.0wt%よりも少なく、かつその硫黄含有量のうち有機硫黄の含有量が80wt%以上のものと、硫黄含有量が3.0wt%よりも少なく、かつその硫黄含有量うち有機硫黄の含有量が80wt%よりも少ないものとの4種類のものを用意し、合計で8種類のリグニンスルホン酸ナトリウム塩の粉末を用意した。
【0023】
またカーボンブラックとしては、オイルファーネスブラックを用い、かさ密度が0.27g/ml以上で比表面積が250m/g以上のものと、かさ密度が0.27g/ml以上で、比表面積が250m/gよりも小さいものと、かさ密度が0.27g/mlよりも小さく、比表面積が250m/g以上のものと、かさ密度が0.27g/mlよりも小さく、比表面積が250m/gよりも小さいものとの4種類のものを用意した。
更に硫酸バリウムとしては、粒径が0.8μmよりも大きいものと、粒径が0.8μm以下のものとの2種類を用意した。
【0024】
上記8種類のリグニンスルホン酸ナトリウム塩の粉末と、4種類のカーボンブラックと、2種類の硫酸バリウムとを組み合わせて、負極活物質への添加剤の組成を異ならせた64種類の負極活物質ペーストを作成し、各負極活物質ペースト45gを鉛−カルシウム合金の格子体からなる集電体に充填した後、温度50℃、湿度95%の恒温槽中に18時間放置して熟成し、更に温度60℃で16時間放置して乾燥させて、表1及び表2に示す64種類の未化成負極板を製造した。
【0025】
[正極板の製造]
1.00kgの鉛粉に対して13wt%の希硫酸(比重1.26,20℃)と12wt%の水とを加えたものを混練して正極活物質ペーストを作製した。この正極活物質ペースト67gを鉛−カルシウム合金の格子体からなる集電体に充填し、温度50℃、湿度95%の雰囲気中に18時間放置して熟成した後、湿度60℃で16時間放置して乾燥させ、未化成正極板を作製した。
【0026】
[電池の組立及び化成]
ガラス繊維からなるセパレータを介して1枚の未化成負極板を2枚の未化成正極板で挟み込んだ構造の2Vの単電池を組み立てた。これらの未化成の単電池を1.0Aで15時間化成した後、電解液を排出し、再び比重1.28(20℃)の希硫酸を注入して、表1及び表2に示した64種類の負極板をそれぞれ用いた64種類の仕様の単電池を完成した。
【0027】
上記のようにして作製した2Vの単電池について充電受入性能及び高率放電性能を調べた。充電受入性能は、充電状態(SOC)が90%になった状態、つまり満充電状態から、電池容量の10%を放電した電池を2.33Vの定電圧で充電した際の5秒目電流値で評価した。このときの電流値が大きいほど初期の充電容量が高く、充電受入性能がよい電池といえる。また高率放電性能は、6C電流で放電した時の電池電圧が1.0Vに達するまでの放電持続時間により評価した。
【0028】
上記64種類の各サンプルについて、リグニンスルホン酸ナトリウム塩の添加量、カーボンの添加量及び硫酸バリウムの添加量をそれぞれ個別に変化させた場合の充電受入性能試験の結果と高率放電性能試験の結果との合計比の分布範囲を図1に示した。合計比は、各サンプル単電池に対して行った充電受入性能試験で得られた測定値aの、従来仕様の単電池に対して行った充電受入性能試験で得られた測定値bに対する比a/bと、各サンプルの単電池に対して行った高率放電性能試験で得られた測定値cの、従来仕様の単電池に対して行った高率放電性能試験の測定値dに対する比c/dとの合計値(a/b)+(c/d)であり、従来品の合計比は2.0となる。すなわち、合計比が2.0を超えていれば、充電受入性能及び高率放電性能が従来品よりも改善されていると評価できる。
【0029】
なお実験で用いた従来仕様の単電池においては、1.00kgの鉛粉に、分子量が数千のリグニンスルホン酸ナトリウム塩0.2wt%と、かさ密度が0.27g/mL以上、比表面積が250m/g以上であるオイルファーネスブラック0.2wt%と、平均一次粒子径が0.7μmの硫酸バリウム1.0wt%とを添加したものを混練機にて10分混練した後、鉛粉に対して13wt%となる希硫酸(比重1.26,20℃)と鉛粉に対して12wt%となる水とを加えて更に10分混練することにより得られた負極活物質ペースト45gを、鉛−カルシウム合金の格子体からなる集電体に充填して、前記と同じ条件で熟成、乾燥させて作製した負極板を用いた。正極板としては前記の各サンプルで用いたものと同じものを用いた。
【0030】
図1から明らかなように、表1及び表2に示した比較例1ないし63の負極板を用いた場合には、負極活物質に添加する添加剤の量を如何なる範囲に設定しても、合計比が従来仕様の単電池の値2.00を超えることはなかったのに対し、本発明品の負極板を用いた場合には、負極活物質に添加する添加剤の量を適当な範囲に選ぶことにより、合計比が2.00を超える単電池を得ることができた。これより、負極活物質に添加する添加剤のうち、リグニンスルホン酸ナトリウム塩としては、重量平均分子量が12000以上、硫黄含有量が3.0wt%以上でかつその硫黄含有量のうち有機硫黄含有量が80wt%以上であるものを用い、硫酸バリウムとしては、平均一次粒子径が0.8μm以下であるものを用いるのが好ましいことが明らかになった。またオイルファーネスブラックとしては、かさ密度が0.27g/mL以上で比表面積が250m/g以上のものを用いることが好ましいことが明らかになった。
【0031】
次に本発明に係わる鉛蓄電池において負極活物質に添加する各添加剤の最適添加量を求めるために行った実験の結果について説明する。実験では、先ずカーボンの添加量及び硫酸バリウムの添加量を一定として、リグニンスルホン酸ナトリウム塩の添加量のみをそれぞれ0.05wt%,0.1wt%,0.2wt%,0.4wt%及び0.6wt%とした5種類の負極活物質を前記の方法と同じ方法で作製し、これらの負極活物質を前記と同じ集電体に充填して作製した5種類の負極板をそれぞれ前記の実験で用いた正極板と同じように作製した正極板と組み合わせて5種類の2V単電池を組み立てた。これらの単電池について充電受入性能試験及び高率放電性能試験を行った結果を表3に示した。
【表3】

【0032】
通常、リグニンの添加量が増えるほど高率放電性能が向上するが、リグニンの添加量が多いと、極板中の鉛に有機性硫黄が吸着することにより起こる反応阻害のために、充電受入性能が低下すると考えられているが、負極活物質に対するリグニンスルホン酸ナトリウム塩の添加量が、0.1wt%より多く、0.4wt%より少ない範囲では、充電受入性能の低下率よりも高率放電性能の向上率の方が高くなるため、充電受入性能と高率放電性能の合計比が2.00を超える値を示す。これより、充電受入性能と高率放電性能の両性能を効果的に引き出すためには、負極活物質に対するリグニンスルホン酸ナトリウム塩の添加量が、0.1wt%より多く、0.4wt%より少ない範囲に設定するすることが好ましいことが明らかになった。
【0033】
次にカーボンブラックの添加量の最適範囲について検討するための実験を行った。この実験では、リグニンスルホン酸ナトリウム塩の添加量及び硫酸バリウムの添加量を一定として、カーボンブラック(オイルファーネスブラック)の添加量をそれぞれ0.05wt%,0.1wt%,0.2wt%,0.4wt%,0.6wt%,1.0wt%,1.2wt%及び1.4wt%とした8種類の負極活物質を前記の方法と同じ方法で作製し、これらの負極活物質を前記と同じ集電体に充填して作製した8種類の負極板をそれぞれ前記の実験で用いた正極板と同じように作製した正極板と組み合わせて8種類の2V単電池を組み立てた。これらの単電池について充電受入性能試験及び高率放電性能試験を行った結果を表4に示した。
【表4】

【0034】
表4に示したように、カーボンブラックの添加量を0.1wt%よりも多くすると、充電受入性能及び高率放電性能の双方が向上し、充電受入性能及び高率放電性能の合計比が2.00を超えるが、カーボンブラックの添加量を1.2wt%よりも多くすると、負極活物質が脆弱になり、その脱落が激しくなる。これより、カーボンブラックの添加量は、0.1wt%よりも多く、1.2wt%以下の範囲に設定するのが好ましいことが明らかになった。
【0035】
次に硫酸バリウムの最適範囲について検討するため、リグニンスルホン酸ナトリウム塩の添加量及びカーボンの添加量を一定として、硫酸バリウムの添加量をそれぞれ0.4wt%、0.5wt%、1.0wt%、2.0wt%、4.0wt%及び5.0wt%とした6種類の負極活物質を前記の方法と同じ方法で作製し、これらの負極活物質を前記と同じ集電体に充填して作製した6種類の負極板をそれぞれ前記の実験で用いた正極板と同じように作製した正極板と組み合わせて、6種類の2V単電池を組み立てた。これらの単電池について充電受入性能試験及び高率放電性能試験を行った結果を表5に示した。
【表5】

【0036】
表5の結果から、硫酸バリウムの添加量を0.5wt%よりも多く、5.0wt%よりも少ない範囲に設定することにより、充電受入性能及び高率放電性能の合計比を2.00よりも大きくすることができることが分かる。これより、硫酸バリウムの添加量は、0.5wt%よりも多く、5.0wt%よりも少ないの範囲に設定するのが好ましいことが明らかになった。
【0037】
なお負極物質中の添加剤は、以下の方法により定性、定量することが可能である。
(a)カーボン及び硫酸バリウムの分析
負極活物質を粉砕して50gを80℃程度の熱希硫酸(1:3)100mL中に投入し、約2時間加熱する。溶解せずに残ったPbSO 及びカットファイバを含む溶液を、175メッシュのNi金網を4枚重ねて作製したフィルタでろ過してPbSO (灰白色)をろ別することによりカットファイバをろ別する。このろ過液に過剰の酢酸アンモニウムを加えるとPbSOが錯塩を形成して溶解し、澄んだ黒色の溶液が得られる。この溶液をガラスフィルタ(11G4)でろ過、水洗及び乾燥したものがカーボンとBaSOの混合物である。この混合物を坩堝(るつぼ)内に採取して秤量し、500℃以上の温度で約1時間赤熱することにより、カーボンを完全に燃焼させてその減少分から、ろ過物中のカーボン含有量を算出する。このときの残渣はBaSO(X線分析で確認される)であり、これを電子顕微鏡で観察することにより、その粒子径を求めることが可能である。カーボンの種類を特定する際には、分析過程のカーボンを顕微鏡で観察して、その形状、粒子径から判断する。
【0038】
(b)リグニンの分析
カーボン、硫酸バリウムと異なり、リグニンは有機高分子物質であるため、極板中に添加した後、化成が終了する頃には、リグニン自体が分解されたり、熱により変形したりして、初期の状態と大きく状態が異なってしまう。そのため、化成した負極板中のリグニンの正確な分析は困難であるが、従来品で添加量が既知である極板と比較することで、おおよその添加量や分子量を特定することができる。
【0039】
例えば、既化成負極板中のリグニンの残存量は、リグニンの基本骨格であるフェニルプロパンをUVスペクトル法で測定することにより定量することが可能である。このときリグニンはpH2.0〜2.2においてフェニルプロパンの吸収極大が270〜280nmを示す。pHは水酸化ナトリウム水溶液と塩酸によって調整する。化成された後の極板中のリグニンの正確な定量は不可能であるが、従来品と比較してUVスペクトルで270〜280nmのピーク高さを比較することで、添加されたリグニンの量を算出することが可能である。
【0040】
具体的なリグニン溶液試料の調整は、活物質2gを氷酢酸と過酸化水素水との9:1の混合溶液20mLに溶解することにより行う。この溶液を遠心分離機を用いて分離して上澄み液を分離し、その上澄み液2mLに5N−NaOHを加えてアルカリ性にする。その中に二酸化マンガン約10mgを加えて1時間攪拌し、これをろ過して得たろ液5mlをUV(292nm)の紫外可視分光光度計で分析することにより、リグニン溶液の吸光度を求めることができる。標準溶液から作製した検量線によりリグニン溶液の濃度を算出することができ、その濃度から極板中のリグニン残量を求めることができる。
【0041】
リグニン中の硫黄分は、無機硫黄と、有機スルホン酸と、他の有機結合されている硫黄との3つに大きく分類される。硫黄の全量を算出する際には、先ずリグニンを過塩素酸と酸化反応させて、完全に硫黄をスルホン酸に変化させる。その後、塩化バリウムを沈殿させて、その不溶沈殿物を定量することにより硫黄の全量を算出することができる。硫黄の全量中に含まれる無機硫黄(硫酸塩)の量は、塩化バリウムと反応させてその不溶沈殿物を定量することにより算出することができる。また硫黄の全量中に含まれる有機硫黄分は、全硫黄量から無機硫黄量の差を求めることにより算出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係わる鉛蓄電池は、充電受入性能及び高率放電性能の双方に優れているので、通常の始動用電池として高性能であり、またアイドリングストップを行う車両に搭載するバッテリとしても最適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】充電受入性能及び高率放電性能の従来値に対する比の合計(合計比)の分布範囲を、本発明品と比較例とについて示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛粉を主成分とするペースト状負極活物質を、鉛合金製の集電体に充填して作成されたペースト式負極板を用いる液式鉛蓄電池において、
重量平均分子量が12000以上であって、硫黄含有量が3.0wt%以上でかつその硫黄含有量のうち有機硫黄含有量が80wt%以上であるリグニンスルホン酸ナトリウム塩と、平均一次粒子径が0.8μm以下である硫酸バリウムと、かさ密度が0.27g/mL以上で比表面積が250m/g以上であるオイルファーネスブラックとを前記活物質に添加してなる鉛蓄電池。
【請求項2】
前記負極活物質に対する前記リグニンスルホン酸ナトリウム塩の添加量は、0.1wt%よりは多く、0.4wt%よりは少ない範囲に設定されることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記負極活物質に対する前記硫酸バリウムの添加量は、0.5wt%より多く、5.0wt%より少ないことを特徴とする請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記負極活物質に対する前記オイルファーネスブラックの添加量は、0.1wt%より多く、1.2wt%以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の鉛蓄電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−152955(P2008−152955A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337047(P2006−337047)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】