説明

鉛蓄電池

【課題】鉛蓄電池の入力性能を低下させずに出力性能を向上させる。
【解決手段】
鉛蓄電池の負極板にビスフェノールスルホン酸ポリマーを混ぜ込み添加をして、その乾燥極板表面に芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を塗布した極板を用いる。ペースト中及び極板表面上の有機エキスパンダの合計添加量は、負極の鉛粉量に対して0.1重量%より多く0.4重量%より少ないことを特徴とする。
また、液式鉛蓄電池の場合、負極の鉛粉量に対してカーボン粉末量を0.2重量%以上2.0重量%以下、密閉式鉛蓄電池では0.2重量%以上8.0重量%以下添加すると入力性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池の負極板の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の負極活物質には従来から数種類の添加剤が負極ペースト錬合時に添加されている。このうち、有機エキスパンダとして通常添加されているリグニンは負極活物質防縮剤として機能しており、鉛粒子に吸着して充電時に鉛が凝集するのを抑える効果がある。リグニンには、その官能基や量、分子量、立体構造により入力性能や出力性能に優れた様々なリグニンが報告されている。しかし、近年、エンジン始動と停止が繰り返されるいわゆるアイドリングストップ車のような使用形態で鉛蓄電池が使用されると、常に充電性不足状態に陥っているため、早期に寿命の低下を招いてしまうことが知られている。このことを防ぐため、特に入力性能を向上させる特許文献1のような方法が最近試みられてきた。
【0003】
一方で鉛蓄電池の高温特性、高率放電特性に優れた有機エキスパンダとしてして特許文献2ではナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、またはその誘導体を使用することが記載されている。
また、特許文献3ではビスフェノール類とホルムアルデヒド縮合物を併せて添加することで性能向上を狙っている。
【0004】
【特許文献1】特願2001―119274号公報
【特許文献2】特開平4−65062号公報
【特許文献3】特開平11−121008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このように高温特性、高率放電特性に優れている有機エキスパンダは有機性硫黄(スルホニル基)が多く存在しているため、充電時のPb2+が還元されて析出する際に電析面の活性点つまり充電初期にPb2+が析出する部分を覆って結晶成長を抑制することや、有機エキスパンダ自体、分解し難くなるため、活物質中での反応性が低下してしまう。そのため鉛蓄電池の入力性能が大きく低下してしまうことが知られている。
【0006】
また、高率放電特性を向上させるためナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を負極板に添加することで入力性能は大きく低下してしまう。これはナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物が鉛に強く吸着してしまうことから、充電時に電解液の硫酸と硫酸鉛の接触面積が低下することによる鉛への還元反応が低下してしまうためである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、ナフタレンスルホン酸の誘導体をペースト中に混ぜ込んで作製した負極板表面上に、ビスフェノール類化合物を存在させた負極板、つまり2種の異なる有機エキスパンダを異なる添加方法で極板に存在させることで、それぞれの添加剤が各性能に効率よく効果を発揮できることができ、入力性能の低下を抑えたまま、高率放電特性が向上した鉛蓄電池を提供することができる。
【0008】
さらに、カーボンを添加することで入力性能を高めることができるので、上記添加方法に加え、カーボン粉末量を増量することで入力性能のさらなる向上が図れる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により鉛蓄電池の入力性能、高率放電性能が向上し、その結果、鉛蓄電池の入力性能の低下をすることなく出力特性が向上し、様々な用途に耐えうる鉛蓄電池を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下具体例をあげ、本発明を更に詳しく説明するが、発明の主旨を越えない限り、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0011】
以下、本発明の実施例を比較例と共に詳述する。
(負極板の作製)
(実施例1)
鉛粉1.00kgに0.1重量%のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物と0.2重量%のカーボン粉末と1.0重量%の硫酸バリウム、およびグラスファイバ(カットファイバ)を0.1重量%添加した後、混練機にて10分間混練した。次に、ペースト水分量が鉛粉に対して12重量%になるように水を加えた後、10分間混練した。その後、硫酸濃度が13重量%になるよう希硫酸(比重1.26、20℃換算)を添加した後、混練を10分間続けることにより負極活物質ペーストを作製した。この負極活物質ペースト50gを鉛−カルシウム合金の格子体からなる集電体に充填した後、温度50℃,湿度95%の恒温槽中に18時間放置することにより熟成してから、温度60℃で16時間乾燥させ、未化成の乾燥負極板を作製した。
【0012】
この後、上記手法により作製した未化成の乾燥負極板を水中に1分間浸漬した後、ビスフェノールスルホン酸ポリマー5%水溶液をスポイトなどを用いて滴下し、極板表面上に存在させるようにしてから乾燥させた極板を実施例1とした。このときのナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物とビスフェノールスルホン酸ホルマリン縮合物は同量になるようにした。極板中の有機エキスパンダの総量は負極の鉛粉量に対して0.2重量%となる。
【0013】
極板表面上に有機エキスパンダを存在させる方法は、有機エキスパンダ水溶液を霧吹きなどにより定量噴霧する方法でも同様な効果が得られる。また、未化成負極板を水中に浸漬することで、一度極板内部の空孔を水で埋めることによりに有機エキスパンダが極板内部に入り込まず、表面にのみ存在するさせることが可能である。
(従来例)
鉛粉1.00kgに0.1重量%のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物と0.1重量%のビスフェノールスルホン酸ポリマーと0.2重量%のカーボン粉末と1.0重量%の硫酸バリウム、およびグラスファイバ(カットファイバ)を0.1重量%添加した後、混練機にて10分間混練した。次に、ペースト水分量が鉛粉に対して12重量%になるように水を加えた後、10分間混練した。その後、硫酸濃度が13重量%になるよう希硫酸(比重1.26,20℃換算)を添加した後、混練を10分間続けることにより負極活物質ペーストを作製した。この負極活物質ペースト50gを鉛−カルシウム合金の格子体からなる集電体に充填した後、温度50℃,湿度95%の恒温槽中に18時間放置することにより熟成してから、温度60℃で16時間乾燥させ、未化成の乾燥負極板を作製した。
(比較例)
比較例1は鉛粉1.00kgに0.1重量%のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物と0.2重量%のカーボン粉末と1.0重量%の硫酸バリウム、およびグラスファイバ(カットファイバ)を0.1重量%添加した後、混練機にて10分間混練した。次に、ペースト水分量が鉛粉に対して12重量%になるように水を加えた後、10分間混練した。その後、硫酸濃度が13重量%になるよう希硫酸(比重1.26、20℃換算)を添加した後、混練を10分間続けることにより負極活物質ペーストを作製した。この負極活物質ペースト50gを鉛−カルシウム合金の格子体からなる集電体に充填した後、温度50℃,湿度95%の恒温槽中に18時間放置することにより熟成してから、温度60℃で16時間乾燥させ、未化成の乾燥負極板を作製した。
【0014】
この後、上記手法により作製した未化成の乾燥負極板を、水中に1分間浸漬した後、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物5%水溶液をスポイトなどを用いて滴下し、極板表面上に前記ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物と同量存在させるようにしてから乾燥させた極板を比較例1とした。
【0015】
比較例2は鉛粉1.00kgに0.1重量%のビスフェノールスルホン酸ポリマーと0.2重量%のカーボン粉末と1.0重量%の硫酸バリウム、およびグラスファイバ(カットファイバ)を0.1重量%添加した後、混練機にて10分間混練した。次に、ペースト水分量が鉛粉に対して12重量%になるように水を加えた後、10分間混練した。その後、硫酸濃度が13重量%になるよう希硫酸(比重1.26、20℃換算)を添加した後、混練を10分間続けることにより負極活物質ペーストを作製した。この負極活物質ペースト50gを鉛−カルシウム合金の格子体からなる集電体に充填した後、温度50℃、湿度95%の恒温槽中に18時間放置することにより熟成してから、温度60℃で16時間乾燥させ、未化成の乾燥負極板を作製した。
【0016】
この後、上記手法により作製した未化成の乾燥負極板を水中に1分間浸漬した後、ビスフェノールスルホン酸ポリマー5%水溶液をスポイトなどを用いて滴下し、極板表面上に前記ビスフェノールスルホン酸ポリマーと同量存在存在させるようにしてから乾燥させた極板を比較例2とした。
【0017】
上記手法により作製した乾燥負極板中に存在する有機エキスパンダ総量は負極の鉛粉量に対して0.2重量%とした。
(正極板の作製)
1.0kg鉛粉に対して13重量%の希硫酸(比重1.26、20℃換算)と12重量%の水とを混練して正極活物質ペーストを作製した。次に、正極活物質ペースト67gを鉛−カルシウム合金の格子体からなる集電体に充填し、温度50℃、湿度95%中に18時間放置して熟成し、温度60℃で16時間放置して乾燥させ、未化成正極板を製造した。
(電池の組立・化成)
ガラス繊維からなるセパレータを介して、1枚の未化成負極板と2枚の未化成正極板とではさみこんだ構成の2V単板電池を組立てた。この未化成電池を1.0Aで15時間、化成した後、電解液を排出し、再び比重1.28(20℃換算)の希硫酸電解液を注入して完成とした。
(評価方法1)
上記方法にて組立てた2V単板電池について入力性能および高率放電性能を調べた。入力性能は電池の充電状態(SOC)が90%になった状態、つまり満充電状態から電池容量の10%を放電した電池を2.33Vの定電圧充電した際の5秒目電流値で評価した。このときの電流値が大きいほど初期の充電容量が高く、入力性能が良い電池といえる。また、高率放電性能はは6C電流で放電した時の電池電圧が1.0Vに達するまでの放電持続時間により評価した。この結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】

比較例1、比較例2ではともに入力性能、出力性能どちらかを極端に増加させることが可能であるが、一方の性能低下を招いてしまう。
【0020】
本発明では同種の有機エキスパンダを同量で比較しても従来例の入力、出力の合計を上回る結果を得た。また、ビスフェノールスルホン酸ポリマーとナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の合計添加量は、負極の鉛粉量に対して通常のリグニン添加量範囲である0.1重量%より少ないと添加剤の効果が発現せず、0.4重量%より多いと過剰な添加剤が充放電反応を阻害する。よって、負極の鉛粉量に対して合計添加量が0.1より多く0.4重量%より小さいと添加量が最適となる。
【0021】
なお、上述した本発明の効果は、鉛蓄電池の用途や形状等に限定されることなく、前記ペーストに芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、その誘導体の縮合物、リグニンあるいはリグニン誘導体といった有機エキスパンダを用いた場合でも同様の効果を発揮する。
(評価方法2)
前記評価方法1で、負極に添加するカーボン粉末量を、負極の鉛粉量に対して0.1重量%から2.4重量%まで変化させて、表1と同様の試験を実施した。その結果を図1に示す。これより、従来の入力性能を=100としたときに、カーボン粉末添加量が0.2重量%以上2.0重量%で100以上となることが分かる。カーボン粉末添加量が0.2重量%より少ないとカーボンの効果が発現せず、また、2.0重量%より多いと、式鉛蓄電池の場合では、かさ高いカーボンによって活物質間の接触面積が低下するため、入力性能が低下すると考えられる。密閉式鉛蓄電池などカーボン増量しても極板の耐久性の影響が小さければ、カーボン添加量は0.2重量%以上8.0重量%まで増量しても入力性能向上に効果が期待できる。
【0022】
よって、カーボン粉末量は、液式鉛蓄電池の場合は負極の鉛粉量に対して0.2重量%以上2.0重量%以下、密閉式鉛蓄電池の場合は0.2重量%以上8.0重量%以下で入力性能向上に効果があることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】カーボン粉末添加量と入力性能の比較図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛粉を主成分とするペースト状活物質を、鉛合金製の集電体に充填して作製するペースト式負極板を用いる液式鉛蓄電池において、前記ペーストに芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、その誘導体の縮合物、リグニンあるいはリグニン誘導体といった有機エキスパンダを添加し、且つ、極板表面上に有機エキスパンダであるビスフェノールスルホン酸ポリマーが存在していることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
ペースト中及び極板表面上の有機エキスパンダの合計添加量は、負極の鉛粉量に対して0.1重量%より多く0.4重量%より少ないことを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記ペーストに、さらにカーボン粉末を添加したことを特徴とする請求項1又は2記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記カーボン粉末量は、負極の鉛粉量に対して0.2重量%以上2.0重量%以下であり、かつ前記鉛蓄電池が液式鉛蓄電池であることを特徴とする請求項3記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記カーボン粉末量は、負極の鉛粉量に対して0.2重量%以上8.0重量%以下であり、かつ前記鉛蓄電池が密閉式鉛蓄電池であることを特徴とする請求項3記載の鉛蓄電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−277244(P2008−277244A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294305(P2007−294305)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】