説明

銀の回収方法

【課題】 銀と他の金属が共存する銀含有水溶液から、抽出方法により銀を効率よく且つ選択的に分離、回収する方法を提供する。
【解決手段】 銀を含有する水溶液に無機酸を0.5〜2モル/リットルの濃度で添加し、該水溶液とクラウンエーテルを含む有機溶媒とを接触させて有機溶媒中に銀を抽出した後、該有機溶媒から銀を逆抽出して銀を回収する。クラウンエーテルとしては、6個の酸素を含む基を有するもの、例えば、ジシクロヘキサノ18C6クラウンエーテル、ベンゾ18C6クラウンエーテルなどが好ましい。また、無機酸としては、硝酸や過塩素酸などを好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀を含有する水溶液中から、抽出法により銀を選択的に分離回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メッキ工程からの洗浄排水、写真の現像排液、銅の電解排液などには銀が含まれているが、これら銀を含有する水溶液から銀を回収することは、有価金属の有効利用という点で重要である。また、銅の電解液には数ppmの銀が含まれているため、事前に銀だけを回収することで電気銅の品位向上も期待できる。
【0003】
従来から、銀を含有する水溶液から銀を回収する方法としては、電気分解法、沈殿法、イオン交換法、抽出法などが知られている。このうち抽出法によれば、銀への選択性の高い捕集剤を利用することで、他の金属イオンが共存する水溶液から銀を選択的に分離、回収することができる。
【0004】
例えば、特開昭60−228626号公報には、銀を含む硝酸性溶液をジアルキル燐酸とオキシムからなる混合抽出剤に接触させることで銀を溶媒抽出する方法が記載されている。しかし、他の金属が共存する場合の選択性については記載がなく、その影響は不明である。
【0005】
また、特開平08−169714号公報によれば、マンガン、ニッケル、亜鉛、鉄、カドミウム及び銅を含む銀含有水溶液を、O,O−ビス(2−エチルヘキシル)ハイドロジエンチオホスフェートを担持した多孔質樹脂と接触させて、これに銀を吸着させたのち有機溶剤で溶出させ、この銀を含む有機溶剤から銀を回収する方法が記載されている。しかし、水相中の塩酸が5モル/リットル程度存在しないと銀イオンと共に多くの銅が抽出されるため、多くの酸が必要である。更に、逆抽出剤としてチオ尿酸と塩酸を含む溶液を使用するため、取扱いが難しいという問題がある。
【0006】
また、銀の選択性の高い抽出剤として、クラウンエーテルが知られている。クラウンエーテルの配位子は環状構造を形成しているため、サイズ効果などにより高い選択性が期待できる。例えば、特開2002−97183号公報には、銀の選択的抽出試薬として、アルカノイルモノアザクラウンエーテルが開示されている。しかしながら、この公報には具体的な抽出条件に関する記載はない。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−228626号公報
【特許文献2】特開平08−169714号公報
【特許文献3】特開2002−97183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、銀と他の金属とが共存する銀含有水溶液から、抽出方法により銀を選択的に且つ効率よく分離、回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明が提供する銀の回収方法は、銀を含有する水溶液に無機酸を0.5〜2モル/リットルの濃度で添加し、該水溶液とクラウンエーテルを含む有機溶媒とを接触させて有機溶媒中に銀を抽出した後、該有機溶媒から銀を逆抽出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、銀と他の金属とが共存する銀含有水溶液から、抽出方法により、銀だけを選択的に且つ効率よく回収することができる。従って、メッキ工程からの洗浄排水、写真の現像排液、銅の電解排液などから貴重な銀の回収が可能となる。また、銅の電解液に適用すれば、銀の回収だけでなく、より高純度の電気銅の生産に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による銀の回収方法においては、クラウンエーテルを含む有機溶媒を用いて銀含有水溶液から有機溶媒中に銀を抽出する際に、その銀含有水溶液に無機酸を添加して、無機酸の濃度を0.5〜2モル/リットルの範囲に調製する。この無機酸濃度を調製した水溶液に、クラウンエーテルを溶解させた有機溶媒を接触させることによって、銀含有水溶液から銀を選択的に且つ効率よく抽出して有機溶媒中に移行させることができる。
【0012】
クラウンエーテルによる銀の抽出の際に無機酸の共存が有効な理由は以下のとおりである。上記抽出工程において銀含有水溶液とクラウンエーテルを含む有機溶媒とが接触すると、一部のクラウンエーテルが水溶液中に分配し、そのクラウンエーテルと銀とがカチオンの錯体を形成し、続いて、その錯体がアニオンとイオン対を形成して有機溶媒中に移行する。従って、錯体とイオン対を形成するアニオンの濃度が大きくなるほど、平衡はイオン対を形成する方に傾く、即ち水溶液中の銀は有機溶媒に抽出されやすくなる。
【0013】
上記錯体とイオン対を形成するアニオンとしては、分子容が大きく、水和しにくい方が抽出性はよいため、一般的には有機アニオンの方が無機アニオンよりも優れているといえるが、扱い易さや廃棄などの後処理を考慮すると、無機アニオンが好適に使用できる。無機アニオン源としては、無機酸、カリウム塩、ナトリウム塩などが考えられる。しかし、カリウムやナトリウムはイオン半径が銀に近く、銀の抽出を妨害するため、無機酸が望ましい。更に、無機酸としては、硝酸や過塩素酸などが好適に使用できる。
【0014】
銀含有水溶液中の無機酸の濃度は、0.5〜2モル/リットルの範囲とすることが必要である。水溶液中の無機酸の濃度が2モル/リットルを超えると、無機酸から生成するオキソニウムイオン(化学式:HO+)が銀の抽出を妨害し、抽出効率が低下する。また、水溶液中の無機酸の濃度が0.5モル/リットルよりも少ないと、選択的な銀の抽出効果が期待できない。好ましい銀含有水溶液中の無機酸の濃度は1〜2モル/リットルである。
【0015】
銀の抽出に使用するクラウンエーテルは、環状構造を形成している酸素原子や窒素原子などの配位子を有し、その空孔径と近い半径を有するイオンと高い親和力を持っている。従って、クラウンエーテルを用いることで、銅、カドミウム、鉄、亜鉛などはイオン半径が大きすぎたり、小さすぎたりするため、相互の親和力が小さくなるので抽出されず、イオン半径が同程度の銀のみを選択的に抽出することができる。
【0016】
更には、銀のイオン半径は約1.3オングストロームであることから、6個の配位子を有し、空孔半径がほぼ1.3〜1.4オングストロームであるクラウンエーテルが好ましい。また、一般的な配位子と銀との親和性は、イオウ原子が最も高く、続いて窒素原子、酸素原子である。しかし、イオウ原子を含むクラウンエーテルは、有機溶媒への溶解性が悪いため十分な濃度を得られない。また、窒素原子は、酸性溶液ではプロトンとの高い親和性のため、銀との反応性が低下する。
【0017】
このような理由から、本発明で用いるクラウンエーテルとしては、6個の酸素を含む基を有するものが特に望ましい。このようなクラウンエーテルの具体例としては、ジシクロヘキサノ18C6クラウンエーテル、ベンゾ18C6クラウンエーテルなどがある。
【0018】
クラウンエーテルを溶解させる有機溶媒としては、クラウンエーテルの溶解度が高く、水への溶解度が低いものであればよく、例えば、オクタノールなどのアルコール類、オクタンなどのアルカン類、トルエンやクロロホルムなどの有機塩素化合物などを好適に用いることができる。
【0019】
本発明方法では、上記抽出工程において銀含有水溶液とクラウンエーテルを含む有機溶媒を接触させて有機溶媒中に銀を抽出した後、有機相と水相を分離し、分離した有機相(有機溶媒)に逆抽出液を接触させて、逆抽出液中に銀を逆抽出する。逆抽出液としては、純水や薄い鉱酸などの扱いやすい水溶液を用いることが可能である。この逆抽出液中には銀以外の金属イオンがほとんど存在しないため、その後電解などを行うことにより、液中の銀を高純度の金属銀として回収することができる。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
銀を0.04モル/リットル又は0.1モル/リットル含む各水溶液に硝酸を添加して、硝酸濃度を0.0001〜5モル/リットルの範囲で変化させた。これら硝酸濃度を変化させた各銀含有水溶液10ミリリットルに、ジシクロヘキサノ18C6クラウンエーテルを銀濃度の1.5倍モル溶解させたクロロホルム溶液10ミリリットルを加え、撹拌振盪しながら10分間接触させて銀を抽出した。
【0021】
次に、それぞれ有機相と水相を分離し、各水溶液中に残留する銀の濃度を測定して、銀の分配比を求め、その結果を図1に示した。尚、銀の分配比=有機相に移行した銀濃度/水溶液中に残存する銀濃度であり、分配比が大きいほど銀の抽出率が高くなることを意味する。図1に示す結果から、水溶液中の硝酸濃度が0.5モル/リットル付近から濃度の上昇と共に銀の分配比が増加するが、硝酸濃度が2モル/リットルを超えると分配比が逆に減少することが分る。
【0022】
[比較例1]
0.04モル/リットルの銀を含む水溶液に、硝酸カリウム溶液又は硝酸ナトリウムを添加したこと以外は上記実施例1と同様にして、銀の抽出を行った。各水溶液中に残留する銀の濃度を測定し、上記実施例1と同様に銀の分配比を求め、その結果を上記実施例1の結果と併せて図1に示した。
【0023】
図1から分るように、硝酸カリウムの場合、その濃度の増加と共に銀の分配比が低下した。また、硝酸ナトリウムの場合には、その濃度の増加と共に銀の分配比は増加するが、上記実施例1の硝酸を添加した場合に比べてはるかに低い分配比であった。
【0024】
[実施例2]
0.001モル/リットルの銀の他に、同じ濃度の銅、カドミウム、ニッケル、亜鉛、マグネシウムを含む水溶液を準備した。この銀含有水溶液に、硝酸又は過塩素酸を1.5モル/リットルの濃度となるように添加した。各銀含有水溶液10ミリリットルに、ジシクロヘキサノ18C6クラウンエーテルを銀濃度の1.5倍モル溶解させたクロロホルム溶液10ミリリットルを加え、撹拌振盪しながら10分間接触させて銀を抽出した。
【0025】
次に、有機相と水相を分離し、分離したクロロホルム溶液に純水10ミリリットルを加え、撹拌振盪しながら10分接触させて、クロロホルム溶液に抽出された成分を水相に逆抽出させた。その後、有機相と水相を分離し、水溶液中に残留する各金属の濃度と逆抽出された銀の濃度を測定した。
【0026】
その結果、銀の抽出率は、銀含有水溶液に硝酸を添加した場合は98%、過塩素酸を添加した場合は99%であり、どちらの場合も他の金属成分は全く抽出されなかった。また、抽出後の銀含有水溶液中に残留した銀量と逆抽出された銀量との和は、最初に銀含有水溶液中に存在していた0.001モル/リットルとほぼ同じであり、純水により銀の逆抽出が可能であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】銀含有水溶液の硝酸化合物濃度とAg分配比との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を含有する水溶液から銀を選択的に抽出して回収する方法であって、銀を含有する水溶液に無機酸を0.5〜2モル/リットルの濃度で添加し、該水溶液とクラウンエーテルを含む有機溶媒とを接触させて有機溶媒中に銀を抽出した後、該有機溶媒から銀を逆抽出することを特徴とする銀の回収方法。
【請求項2】
前記クラウンエーテルが6個の酸素を含む基を有することを特徴とする、請求項1に記載の銀の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−285691(P2008−285691A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128754(P2007−128754)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】