説明

銀インク組成物

【課題】フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の高粘度インクを使用する印刷法への適用に好適な銀インク組成物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表わされるβ−ケトカルボン酸銀と、下記一般式(2)で表わされるアセチレンアルコール類と、炭素数2〜25のアミン化合物及び/又はアンモニウム塩と、が配合されてなる混合物に、二酸化炭素ガスを供給して得られ、20℃における粘度が100mPa・s以上であることを特徴とする銀インク組成物。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等への適用に好適な銀インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銀は、記録材料や印刷刷版の材料として、また、導電性に優れることから高導電性材料として幅広く使用されている。
金属銀の一般的な製造方法としては、これまで、無機化合物である酸化銀を還元剤の存在下で加熱処理する方法が幅広く適用されている。このような条件下で加熱することにより、酸化銀が還元され、生じた金属銀が相互に融着して、金属銀を含む被膜が形成される。しかし、この方法では、還元剤が必要であり、約300℃程度と極めて高温で加熱する必要がある。さらに、金属銀を導電性材料として使用する場合には、抵抗を低減するために、微細な酸化銀粒子を使用する必要がある。
【0003】
これに対して、このような問題点を解決するために、ベヘン酸銀、ステアリン酸銀、α−ケトカルボン酸銀、β−ケトカルボン酸銀等の有機酸銀を使用した金属銀の製造方法が開示されている。例えば、β−ケトカルボン酸銀は、約210℃以下の低温で加熱処理しても速やかに金属銀を形成する(特許文献1参照)。このような優れた特性を生かして、β−ケトカルボン酸銀を溶媒に溶解させて銀インク組成物を調製し、これを基材上に印刷して、得られた印刷物を加熱(焼成)処理することで、金属銀を形成する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第07/004437号
【特許文献2】特開2009−114232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載の銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の沈降を伴うことなく調製できる濃度が比較的低く、高粘度のものが得られない。そのため、例えば、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等、高粘度インクを使用して基材上にインクを厚盛りすることが必要な印刷法へは適用できず、基材への印刷方法が限定されるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の高粘度インクを使用する印刷法への適用に好適な銀インク組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、下記一般式(1)で表わされるβ−ケトカルボン酸銀と、下記一般式(2)で表わされるアセチレンアルコール類と、炭素数2〜25のアミン化合物及び/又はアンモニウム塩と、が配合されてなる混合物に、二酸化炭素ガスを供給して得られ、20℃における粘度が100mPa・s以上であることを特徴とする銀インク組成物を提供する。
【0008】
【化1】

(式中、Rは一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R−CY−」、「CY−」、「R−CHY−」、「RO−」、「RN−」若しくは「(RO)CY−」で表される基であり;
Yはそれぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子であり;Rは炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基であり;Rは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり;Rは炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基であり;R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり;
Xはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N−フタロイル−3−アミノプロピル基、2−エトキシビニル基、又は一般式「RO−」、「RS−」、「R−C(=O)−」若しくは「R−C(=O)−O−」で表される基であり;Rは、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、チエニル基、又は一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基である。)
【0009】
【化2】

(式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、又は一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基である。)
【0010】
本発明の銀インク組成物においては、前記Rが直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、又はフェニル基であり、前記Xが水素原子、直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、又はベンジル基であることが好ましい。
本発明の銀インク組成物においては、前記β−ケトカルボン酸銀が、2−メチルアセト酢酸銀、アセト酢酸銀、2−エチルアセト酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、イソブチリル酢酸銀、2−n−ブチルアセト酢酸銀、2−ベンジルアセト酢酸銀、ピバロイル酢酸銀及びベンゾイル酢酸銀からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
本発明の銀インク組成物においては、前記アミン化合物として、2−エチルヘキシルアミン、2−フェニルエチルアミン、n−プロピルアミン、tert−ブチルアミン、エチレンジアミン、N−メチル−n−ヘキシルアミン、n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン、N−メチルベンジルアミン及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選択される一種以上が配合されたことが好ましい。
本発明の銀インク組成物においては、前記アセチレンアルコール類が、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2−メチル−3−ブチン−2−オール及び3−メチル−1−ペンチン−3−オールからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
本発明の銀インク組成物においては、粘度が10Pa・s以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の高粘度インクを使用する印刷法への適用に好適な銀インク組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜3における二酸化炭素ガスの供給時間と銀インク組成物の粘度との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1及び3の銀インク組成物を使用して形成した金属銀の抵抗値の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例1及び3の銀インク組成物を使用して形成した金属銀の光沢度の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例1及び4における二酸化炭素ガスの供給時間と銀インク組成物の粘度との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1及び5における二酸化炭素ガスの供給時間と銀インク組成物の粘度との関係を示すグラフである。
【図6】実施例6及び7における二酸化炭素ガスの供給時間と銀インク組成物の粘度との関係を示すグラフである。
【図7】実施例8及び9における二酸化炭素ガスの供給時間と銀インク組成物の粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<銀インク組成物>
本発明の銀インク組成物は、下記一般式(1)で表わされるβ−ケトカルボン酸銀(以下、「β−ケトカルボン酸銀」と略記する)と、下記一般式(2)で表わされるアセチレンアルコール類(以下、「アセチレンアルコール類」と略記する)と、炭素数2〜25のアミン化合物及び/又はアンモニウム塩と、が配合されてなる混合物に、二酸化炭素ガスを供給して得られ、20℃における粘度が100mPa・s以上であることを特徴とする。
【0014】
【化3】

(式中、Rは一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R−CY−」、「CY−」、「R−CHY−」、「RO−」、「RN−」若しくは「(RO)CY−」で表される基であり;
Yはそれぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子であり;Rは炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基であり;Rは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり;Rは炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基であり;R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり;
Xはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N−フタロイル−3−アミノプロピル基、2−エトキシビニル基、又は一般式「RO−」、「RS−」、「R−C(=O)−」若しくは「R−C(=O)−O−」で表される基であり;Rは、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、チエニル基、又は一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基である。)
【0015】
【化4】

(式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、又は一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基である。)
【0016】
(β−ケトカルボン酸銀)
本発明において、β−ケトカルボン酸銀は、前記一般式(1)で表わされる。
【0017】
一般式(1)において、Rは一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R−CY−」、「CY−」、「R−CHY−」、「RO−」、「RN−」若しくは「(RO)CY−」で表される基である。
Rにおける炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状(脂肪族環式基)のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。また、前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。そして、前記脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜6であることが好ましい。Rにおける好ましい前記脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が例示できる。
【0018】
Rにおける直鎖状又は分枝鎖状の前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、3−エチルブチル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1,1−ジメチルペンチル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、4,4−ジメチルペンチル基、1−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、4−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、1−プロピルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、4−エチルヘキシル基、5−エチルヘキシル基、1,1−ジメチルヘキシル基、2,2−ジメチルヘキシル基、3,3−ジメチルヘキシル基、4,4−ジメチルヘキシル基、5,5−ジメチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基が例示できる。
Rにおける環状の前記アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基が例示できる。
【0019】
Rにおける前記アルケニル基としては、ビニル基(−CH=CH)、アリル基(2−プロペニル基、−CH−CH=CH)、1−プロペニル基(−CH=CH−CH)、イソプロペニル基(−C(CH)=CH)、1−ブテニル基(−CH=CH−CH−CH)、2−ブテニル基(−CH−CH=CH−CH)、3−ブテニル基(−CH−CH−CH=CH)1,3−シクロヘキサジエニル基、1,4−シクロヘキサジエニル基、シクロペンタジエニル基等の、Rにおける前記アルキル基の炭素原子間の一つの単結合(C−C)が二重結合(C=C)に置換された基が例示できる。
Rにおける前記アルキニル基としては、エチニル基(−C≡CH)、プロパルギル基(−CH−C≡CH)等の、Rにおける前記アルキル基の炭素原子間の一つの単結合(C−C)が三重結合(C≡C)に置換された基が例示できる。
【0020】
Rにおける炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基は、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよく、好ましい前記置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が例示できる。また、置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、すべての置換基が同一でも異なっていてもよく、一部の置換基だけが異なっていてもよい。
【0021】
Rにおけるフェニル基は、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよく、好ましい前記置換基としては、炭素数が1〜16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合した一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基(−OH)、シアノ基(−C≡N)、フェノキシ基(−O−C)等が例示でき、置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
置換基である前記脂肪族炭化水素基としては、炭素数が1〜16である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが例示できる。
【0022】
RにおけるYは、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子である。そして、一般式「R−CY−」及び「CY−」においては、それぞれ複数のYは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0023】
RにおけるRは、炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基(C−)であり、Rにおける前記脂肪族炭化水素基としては、炭素数が1〜19である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが例示できる。
RにおけるRは、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが例示できる。
RにおけるRは、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基であり、炭素数が1〜16である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが例示できる。
RにおけるR及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基である。すなわち、R及びRは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数が1〜18である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが例示できる。
【0024】
Rは、上記の中でも、直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、又はフェニル基であることが好ましい。
【0025】
一般式(1)において、Xはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基(C−CH−)、シアノ基、N−フタロイル−3−アミノプロピル基、2−エトキシビニル基(C−O−CH=CH−)、又は一般式「RO−」、「RS−」、「R−C(=O)−」若しくは「R−C(=O)−O−」で表される基である。
Xにおける炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様である。
【0026】
Xにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できる。
Xにおけるフェニル基及びベンジル基は、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよく、好ましい前記置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ニトロ基(−NO)等が例示でき、置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
XにおけるRは、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、チエニル基(CS−)、又は一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基(ビフェニル基、C−C−)である。Rにおける前記脂肪族炭化水素基としては、炭素数が1〜10である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが例示できる。また、Rにおけるフェニル基及びジフェニル基の前記置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が例示でき、置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
がチエニル基又はジフェニル基である場合、これらの、Xにおいて隣接する基又は原子(酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、カルボニルオキシ基)との結合位置は、特に限定されない。例えば、チエニル基は、2−チエニル基及び3−チエニル基のいずれでもよい。
一般式(1)において、二つのXは、二つのカルボニル基で挟まれた炭素原子と二重結合を介して一つの基として結合していてもよく、このようなものとしては式「=CH−C−NO」で表される基が例示できる。
【0027】
Xは、上記の中でも、水素原子、直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、又はベンジル基であることが好ましく、少なくとも一方のXが水素原子であることが好ましい。
【0028】
前記β−ケトカルボン酸銀は、2−メチルアセト酢酸銀(CH−C(=O)−CH(CH)−C(=O)−OAg)、アセト酢酸銀(CH−C(=O)−CH−C(=O)−OAg)、2−エチルアセト酢酸銀(CH−C(=O)−CH(CHCH)−C(=O)−OAg)、プロピオニル酢酸銀(CHCH−C(=O)−CH−C(=O)−OAg)、イソブチリル酢酸銀((CHCH−C(=O)−CH−C(=O)−OAg)、2−n−ブチルアセト酢酸銀(CH−C(=O)−CH(CHCHCHCH)−C(=O)−OAg)、2−ベンジルアセト酢酸銀(CH−C(=O)−CH(CH)−C(=O)−OAg)、ピバロイル酢酸銀((CHC−C(=O)−CH−C(=O)−OAg)又はベンゾイル酢酸銀(C−C(=O)−CH−C(=O)−OAg)であることが好ましい。これらβ−ケトカルボン酸銀は、前記一般式(1)で表わされるものの中でも、加熱(焼成)処理により形成された金属銀において、残存する原料や不純物の濃度をより低減できる。原料や不純物が少ない程、例えば、形成された金属銀同士の接触が良好となり、導通が容易となり、抵抗率が低下する。
【0029】
本発明において、β−ケトカルボン酸銀は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0030】
(アセチレンアルコール類)
本発明において、アセチレンアルコール類は、前記一般式(2)で表わされる。
【0031】
一般式(2)において、R’及びR’’は、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、又は一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基である。
R’及びR’’における炭素数1〜20のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状(脂肪族環式基)のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。R’及びR’’における前記アルキル基としては、Rにおける前記アルキル基と同様のものが例示できる。
【0032】
R’及びR’’におけるフェニル基の水素原子が置換されていてもよい前記置換基としては、炭素数が1〜16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合した一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、シアノ基、フェノキシ基等が例示でき、Rにおけるフェニル基の水素原子が置換されていてもよい前記置換基と同様である。そして、置換基の数及び位置は特に限定されず、置換基の数が複数である場合、これら複数の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0033】
R’及びR’’は、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましい。
【0034】
好ましい前記アセチレンアルコール類としては、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2−メチル−3−ブチン−2−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オールが例示できる。
【0035】
本発明において、アセチレンアルコール類は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合で、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0036】
前記混合物におけるアセチレンアルコール類の配合量は、β−ケトカルボン酸銀の配合量1モルあたり0.03〜0.7モルであることが好ましく、0.06〜0.3モルであることがより好ましい。下限値以上とすることで、アセチレンアルコール類の使用効果がより高くなり、上限値以下とすることで、より良好に金属銀を形成できる。
【0037】
(アミン化合物、アンモニウム塩)
本発明における炭素数2〜25のアミン化合物は、第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンのいずれでもよい。また、炭素数2〜25のアンモニウム塩とは、かかる炭素数の第4級アンモニウム塩である。前記アミン化合物及びアンモニウム塩は、鎖状及び環状のいずれでもよい。また、アミン又はアンモニウム塩を形成している窒素原子の数は一つでもよいし、二つ以上でもよい。
【0038】
前記第1級アミンとしては、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいモノアルキルアミン、モノアリールアミン、モノ(ヘテロアリール)アミン、ジアミン等が例示できる。
【0039】
前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、Rにおける前記アルキル基と同様のものが例示でき、炭素数が1〜19の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3〜7の環状のアルキル基であることが好ましい。
好ましい前記モノアルキルアミンとして、具体的には、n−プロピルアミン、2−エチルヘキシルアミン、tert−ブチルアミン、n−オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、シクロヘキシルアミンが例示でき、n−プロピルアミン、2−エチルヘキシルアミン、tert−ブチルアミンがより好ましい。
【0040】
前記モノアリールアミンを構成するアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が例示でき、炭素数が6〜10であることが好ましい。
【0041】
前記モノ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基は、芳香族環を構成する原子として、ヘテロ原子を有するものであり、前記ヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、ホウ素原子が例示できる。また、芳香族環を構成する前記へテロ原子の数は特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよい。二つ以上である場合、これらへテロ原子は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、これらへテロ原子は、すべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部だけ異なっていてもよい。
前記ヘテロアリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、その環員数(環の骨格を構成する原子の数)も特に限定されないが、3〜12員環であることが好ましい。
【0042】
前記ヘテロアリール基で、窒素原子を1〜4個有する単環状のものとしては、ピロリル基、ピロリニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピペリジニル基、ピラゾリジニル基、ピペラジニル基が例示でき、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1個有する単環状のものとしては、フラニル基が例示でき、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1個有する単環状のものとしては、チエニル基が例示でき、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1〜2個及び窒素原子を1〜3個有する単環状のものとしては、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、モルホリニル基が例示でき、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1〜2個及び窒素原子を1〜3個有する単環状のものとしては、チアゾリル基、チアジアゾリル基、チアゾリジニル基が例示でき、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、窒素原子を1〜5個有する多環状のものとしては、インドリル基、イソインドリル基、インドリジニル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、インダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、テトラゾロピリジル基、テトラゾロピリダジニル基、ジヒドロトリアゾロピリダジニル基が例示でき、7〜12員環であることが好ましく、9〜10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1〜3個有する多環状のものとしては、ジチアナフタレニル基、ベンゾチオフェニル基が例示でき、7〜12員環であることが好ましく、9〜10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1〜2個及び窒素原子を1〜3個有する多環状のものとしては、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基が例示でき、7〜12員環であることが好ましく、9〜10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1〜2個及び窒素原子を1〜3個有する多環状のものとしては、ベンゾチアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基が例示でき、7〜12員環であることが好ましく、9〜10員環であることがより好ましい。
【0043】
前記ジアミンは、アミノ基を二つ有していればよく、二つのアミノ基の位置関係は特に限定されない。好ましい前記ジアミンとしては、前記モノアルキルアミン、モノアリールアミン又はモノ(ヘテロアリール)アミンにおいて、アミノ基(−NH)を構成する水素原子以外の一つの水素原子が、アミノ基で置換されたものが例示できる。
前記ジアミンは炭素数が1〜10であることが好ましく、より好ましいものとしてはエチレンジアミンが例示できる。
【0044】
前記第2級アミンとしては、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいジアルキルアミン、ジアリールアミン、ジ(ヘテロアリール)アミン等が例示できる。
【0045】
前記ジアルキルアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1〜9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3〜7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、ジアルキルアミン一分子中の二つのアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
好ましい前記ジアルキルアミンとして、具体的には、N−メチル−n−ヘキシルアミンが例示できる。
【0046】
前記ジアリールアミンを構成するアリール基は、前記モノアリールアミンを構成するアリール基と同様であり、炭素数が6〜10であることが好ましい。また、ジアリールアミン一分子中の二つのアリール基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0047】
前記ジ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基は、前記モノ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基と同様であり、6〜12員環であることが好ましい。また、ジ(ヘテロアリール)アミン一分子中の二つのヘテロアリール基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0048】
前記第3級アミンとしては、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいトリアルキルアミン、ジアルキルモノアリールアミン等が例示できる。
【0049】
前記トリアルキルアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1〜19の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3〜7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、トリアルキルアミン一分子中の三つのアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、三つのアルキル基は、すべてが同じでもよいし、すべてが異なっていてもよく、一部だけが異なっていてもよい。
好ましい前記トリアルキルアミンとして、具体的には、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンが例示できる。
【0050】
前記ジアルキルモノアリールアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3〜7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、ジアルキルモノアリールアミン一分子中の二つのアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
前記ジアルキルモノアリールアミンを構成するアリール基は、前記モノアリールアミンを構成するアリール基と同様であり、炭素数が6〜10であることが好ましい。
【0051】
前記第4級アンモニウム塩としては、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいハロゲン化テトラアルキルアンモニウム等が例示できる。
前記ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1〜19であることが好ましい。また、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム一分子中の四つのアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、四つのアルキル基は、すべてが同じでもよいし、すべてが異なっていてもよく、一部だけが異なっていてもよい。
前記ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムを構成するハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が例示できる。
好ましい前記ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムとして、具体的には、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラドデシルアンモニウムブロミドが例示できる。
【0052】
ここまでは、主に鎖状のアミン及びアンモニウム塩について説明したが、前記アミン化合物及びアンモニウム塩は、アミン又はアンモニウム塩を形成している窒素原子が環構造(複素環構造)の一部であるようなヘテロ環化合物であってもよい。すなわち、前記アミン化合物は環状アミンでもよく、前記アンモニウム塩は環状アンモニウム塩でもよい。この時の環(アミン又はアンモニウム塩を形成する窒素原子を含む環)構造は、単環状及び多環状のいずれでもよく、その環員数(環の骨格を構成する原子の数)も特に限定されず、脂肪族環及び芳香族環のいずれでもよい。
環状アミンであれば、好ましいものとして、ピリジンが例示できる。
【0053】
前記第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン及び第4級アンモニウム塩において、「置換基で置換されていてもよい水素原子」とは、アミン又はアンモニウム塩を形成している窒素原子に結合している水素原子以外の水素原子である。この時の置換基の数は特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよく、前記水素原子のすべてが置換基で置換されていてもよい。置換基の数が複数の場合には、これら複数の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、複数の置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部だけが異なっていてもよい。また、置換基の位置も特に限定されない。
【0054】
アミン化合物及びアンモニウム塩における前記置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、トリフルオロメチル基(−CF)等が例示できる。ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できる。
【0055】
前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基が置換基を有する場合、かかるアルキル基は、置換基としてアリール基を有する、炭素数が1〜9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は置換基として好ましくは炭素数が1〜5のアルキル基を有する、炭素数が3〜7の環状のアルキル基が好ましく、このようなモノアルキルアミンとして、具体的には、2−フェニルエチルアミン、ベンジルアミン、2,3−ジメチルシクロヘキシルアミンが例示できる。
【0056】
前記モノアリールアミンを構成するアリール基が置換基を有する場合、かかるアリール基は、置換基としてハロゲン原子を有する、炭素数が6〜10のアリール基が好ましく、このようなモノアリールアミンとして、具体的には、2−ブロモベンジルアミンが例示できる。ここで、前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できる。
【0057】
前記ジアルキルアミンを構成するアルキル基が置換基を有する場合、かかるアルキル基は、置換基として水酸基又はアリール基を有する、炭素数が1〜9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が好ましく、このようなジアルキルアミンとして、具体的には、ジエタノールアミン、N−メチルベンジルアミンが例示できる。
【0058】
前記アミン化合物は、2−エチルヘキシルアミン、2−フェニルエチルアミン、n−プロピルアミン、tert−ブチルアミン、エチレンジアミン、N−メチル−n−ヘキシルアミン、n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン、N−メチルベンジルアミン又はN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンであることが好ましい。
【0059】
本発明においては、アミン化合物のみを使用してもよいし、アンモニウム塩のみを使用してもよく、アミン化合物及びアンモニウム塩を併用してもよいが、アミン化合物のみを使用することが好ましい。
【0060】
前記アミン化合物及びアンモニウム塩は、いずれも一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合で、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0061】
前記混合物におけるアミン化合物及びアンモニウム塩の総配合量は、β−ケトカルボン酸銀の配合量1モルあたり1〜5モルであることが好ましく、1.5〜4モルであることがより好ましい。下限値以上とすることで、アミン化合物及びアンモニウム塩の使用効果がより高くなり、上限値以下とすることで、より良好に金属銀を形成できる。
【0062】
(その他の成分)
前記混合物は、前記β−ケトカルボン酸銀、アセチレンアルコール類、並びにアミン化合物及び/又はアンモニウム塩以外に、本発明の効果を妨げない範囲内において、これらに該当しないその他の成分がさらに配合されていてもよい。
前記その他の成分は特に限定されず、目的に応じて任意に選択でき、好ましいものとして溶媒が例示できる。
前記溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、一つ以上の水素原子がシアノ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素又は脂肪族炭化水素等の各種有機溶媒や、水が例示できる。ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できる。
【0063】
(混合物の調製)
前記混合物は、前記β−ケトカルボン酸銀、アセチレンアルコール類、アミン化合物及び/又はアンモニウム塩、並びに必要に応じて前記その他の成分を配合することで得られる。
各成分の配合時には、すべての成分を添加してからこれらを混合してもよいし、一部の成分を順次添加しながら混合してもよく、すべての成分を順次添加しながら混合してもよい。
混合方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法、ミキサーを使用して混合する方法、超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
【0064】
配合成分は、混合物中ですべて溶解していてもよいし、一部の成分が溶解せずに分散した状態であってもよい。
【0065】
配合時の温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、0〜30℃であることが好ましい。
【0066】
(二酸化炭素ガスの供給)
本発明の銀インク組成物は、20℃における粘度が100mPa・s(0.1Pa・s)以上となるように、前記混合物に二酸化炭素(CO)ガスを供給して得られたものである。二酸化炭素ガスが前記混合物中に供給され、溶け込み、混合物中の成分に作用することで、得られる銀インク組成物の粘度が上昇すると推測される。
【0067】
二酸化炭素ガスの供給は、液体中にガスを吹き込む公知の各種方法で行えばよく、適した供給方法を適宜選択すればよい。例えば、配管の一端を前記混合物中に浸漬し、他端を二酸化炭素ガスの供給源に接続して、この配管を通じて二酸化炭素ガスを混合物に供給する方法が例示できる。この時、配管の端部から直接二酸化炭素ガスを供給してもよいが、例えば、多孔質性のものなど、ガスの流路となり得る空隙部が多数設けられ、導入されたガスを拡散させて微小な気泡として放出することが可能なガス拡散部材を配管の端部に接続し、このガス拡散部材を介して二酸化炭素ガスを供給してもよい。このようにすることで、前記混合物又は銀インク組成物の粘度をより効率的に上昇させることができる。
【0068】
二酸化炭素ガスの供給量は、供給先の混合物の量や、目的とする銀インク組成物の粘度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。例えば、20℃における粘度が10Pa・s以上である銀インク組成物を5〜15g程度得るためには、二酸化炭素ガスを5L以上供給することが好ましく、7L以上供給することがより好ましい。また、同様の粘度の銀インク組成物を50〜150g程度得るためには、二酸化炭素ガスを50L以上供給することが好ましく、70L以上供給することがより好ましい。
【0069】
二酸化炭素ガスの流量は、必要とされる二酸化炭素ガスの供給量を考慮して適宜調節すればよいが、混合物1gあたり2mL/分以上であることが好ましく、4mL/分以上であることがより好ましい。流量の上限値は特に限定されないが、取り扱い性等を考慮すると、混合物1gあたり40mL/分であることが好ましい。
そして、二酸化炭素ガスの供給時間は、必要とされる二酸化炭素ガスの供給量や、流量を考慮して適宜調節すればよい
【0070】
二酸化炭素ガス供給時の前記混合物又は銀インク組成物の温度は、5〜70℃であることが好ましく、7〜60℃であることがより好ましく、10〜50℃であることが特に好ましい。下限値以上とすることで、より効率的に粘度を上昇させることができ、上限値以下とすることで、不純物が少ないより良好な品質の銀インク組成物が得られる。
【0071】
二酸化炭素ガスの流量及び供給時間、並びに二酸化炭素ガス供給時の前記温度は、それぞれの値を相互に考慮しながら適した範囲に調節すればよい。例えば、前記温度を低めに設定しても、二酸化炭素ガスの流量を多めに設定するか、二酸化炭素ガスの供給時間を長めに設定することで、あるいはこの両方を行うことで、効率的に粘度を上昇させることができる。また、二酸化炭素ガスの流量を少なめに設定しても、前記温度を高めにするか、二酸化炭素ガスの供給時間を長めに設定することで、あるいはこの両方を行うことで、効率的に粘度を上昇させることができる。すなわち、二酸化炭素ガスの流量、二酸化炭素ガス供給時の前記温度として例示した上記数値範囲の中の数値を、二酸化炭素ガスの供給時間も考慮しつつ柔軟に組み合わせることで、良好な品質の銀インク組成物が効率的に得られる。
【0072】
二酸化炭素ガスの供給は、前記混合物又は銀インク組成物を撹拌しながら行うことが好ましい。このようにすることで、供給した二酸化炭素ガスがより均一に前記混合物又は銀インク組成物中に拡散し、より効率的に粘度を上昇させることができる。
この時の撹拌方法は、混合物調製時の前記混合方法と同様でよい。
【0073】
本発明において、銀インク組成物の20℃における粘度は、100mPa・s以上であり、150mPa・s以上であることが好ましく、0.4Pa・s以上であることがより好ましく、1Pa・s以上であることがさらに好ましく、10Pa・s以上であることが特に好ましい。粘度が100mPa・s以上であることで、銀インク組成物は、基材上にインクを厚盛りすることが必要な印刷法に適したものとなり、例えば、フレキソ印刷法に好適である。そして特に、20℃における粘度が10Pa・s以上である銀インク組成物は、スクリーン印刷法に好適である。スクリーン印刷法では、さらに粘度が20〜40Pa・s等の、20Pa・s以上でより高粘度のインクを使用することがあるが、本発明の銀インク組成物は、二酸化炭素ガスの供給量を増大させることで、このようなより高粘度のものも容易に得られる。そして、銀インク組成物の粘度の上限値は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されない。なお、ここでは銀インク組成物の20℃における粘度について説明したが、銀インク組成物の使用時の温度は、20℃に限定されるものではなく、任意に選択できる。
【0074】
本発明の銀インク組成物は、例えば、80℃〜200℃等の温度で加熱(焼成)処理することにより、β−ケトカルボン酸銀を熱分解させ、容易に金属銀を形成できる。したがって、例えば、銀インク組成物をフレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の各種印刷法に適用し、得られた印刷パターンを加熱処理することで、金属銀のパターンを形成できる。加熱温度は、β−ケトカルボン酸銀の種類に応じて、適宜調節すればよい。また、加熱時間は、加熱温度に応じて適宜調節すればよい。
【0075】
本発明の銀インク組成物の保存温度は、−20〜25℃であることが好ましく、0〜10℃であることがより好ましい。このような範囲とすることで、より良好な品質を長期間維持できる。
【0076】
液状のアミン化合物に二酸化炭素ガスを供給することで、アミン化合物は粘度が上昇することが知られている。しかし、アミン化合物と他の成分が配合された混合物に二酸化炭素ガスを供給した場合、得られる組成物は、必ずしも安定した品質で高粘度のものになるとは限らない。これは、二酸化炭素ガスを供給する混合物の組成によって、得られる組成物の特性が変化することを示している。例えば、実施例で後述するように、アセチレンアルコール類と、前記アミン化合物及び/又はアンモニウム塩とが配合され、β−ケトカルボン酸銀は配合されていない混合物に、二酸化炭素ガスを供給し、その後にβ−ケトカルボン酸銀を配合すると、得られる銀インク組成物は発泡し、二酸化炭素ガスが組成物から抜けてしまうことが確認されている。そして、組成物の粘度の値は比較的小さい段階で限界(上限値、例えば、1Pa・s未満)に達する。すなわち、組成物中の二酸化炭素ガスの濃度が十分に上昇しないことで、粘度の上限値が低くなると推測される。このように、二酸化炭素ガスの供給時期によっては、所望の高粘度が得られず、かつ品質が安定しないものとなってしまう。
これに対して、本発明の銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀、アセチレンアルコール類、前記アミン化合物及び/又はアンモニウム塩が配合された混合物に二酸化炭素ガスを供給して得ることで、所望の高粘度と安定した品質を有するものとなる。
【0077】
本発明の銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の沈降を伴うことなく、粘度を向上させることができるので、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の、高粘度インクを使用して基材上にインクを厚盛りすることが必要な印刷法に適しており、微細なパターンを高精度に印刷できる。そして、得られた印刷パターンを加熱処理することで、容易に金属銀のパターンを形成できる。
【実施例】
【0078】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0079】
<銀インク組成物の製造及び評価>
[実施例1]
2−エチルヘキシルアミン(55.2g)、及び3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール(エアープロダクツジャパン社製「サーフィノール61」)(2.4g)をフラスコ内に添加して撹拌し、さらにここへ、氷冷下2−メチルアセト酢酸銀(42.4g)を添加して撹拌することで、混合物を得た。得られた混合物の粘度を下記方法で測定した。なお、撹拌は、SUS製で長さ25mmの撹拌片を3枚供えた撹拌翼を使用して行った。各成分の配合量(モル数)を表1に示す。
次いで、得られた混合物(100g)を15℃において、撹拌速度100rpmで撹拌しながら、ここへ650mL/分の流量で二酸化炭素(CO)ガスを供給(バブリング)し、銀インク組成物を得た。二酸化炭素ガスは、直径10mm、高さ180mmの円柱形エアストーンを介して、微細な気泡状として供給した。二酸化炭素ガスのその他の供給条件を表2に示す。この間、二酸化炭素ガスの供給開始から所定時間ごとに銀インク組成物の粘度を下記方法で測定し、二酸化炭素ガスの供給時間(h)と銀インク組成物の粘度との関係を調べた。この時の測定結果を、二酸化炭素ガスの供給開始前(すなわち、混合物)の粘度と共に図1に示す。図1中、「CO供給時間0(ゼロ)(h)」は、二酸化炭素ガスが供給前であることを示す。
【0080】
(粘度の測定方法)
温度20℃の環境下で、測定対象物である5gの前記混合物又は銀インク組成物中に、超音波式粘度計(CBC社製「VISCOMATE VM−10A」)のセンサー(振動体)を挿入して、前記混合物又は銀インク組成物の粘度を測定した。
【0081】
さらに、得られた銀インク組成物を、4℃で30日間冷蔵保存し、保存前(製造直後)及び保存後の銀インク組成物について、それぞれ上記と同様の方法で粘度を測定した。その結果、保存前の粘度は10.8Pa・s、保存後の粘度は10.7Pa・sであり、保存の前後で粘度は安定していた。そして、保存の前後を通じて、β−ケトカルボン酸銀の沈降は認められなかった。
また、保存前及び保存後の銀インク組成物をそれぞれ使用して、ポリエチレンナフタレート(PEN)製の基材に対してスクリーン印刷を行った。スクリーン版としては、カレンダー処理を行ったステンレス製のものを使用し、乳剤厚10μm、線径18μmの条件で印刷した。そして、得られた印刷パターンを、80℃で30分間の熱風吹き付けによる加熱処理、300℃で100秒間の遠赤外線照射による加熱処理、150℃で30分間の熱風吹き付けによる加熱処理を順次行い、長さが30mm、線幅が0.1mm、0.3mm及び0.5mmの細線パターンをそれぞれ含む金属銀のパターンを形成した。そして、そのうち、異なる4箇所の部位における30mm×0.5mmの細線パターンについて、下記方法により抵抗値を測定した。測定結果を図2に示す。なお、図2中の(1)〜(4)は、抵抗値を測定した金属銀の部位を示す。また、金属銀の光沢度を下記方法で測定した。測定結果を図3に示す。
【0082】
(抵抗値の測定)
テスター(SANWA社製「PC5000a」)を使用し、その端子を長さ30mmの細線の両端に接触させて、抵抗値を測定した。
(光沢度の測定)
光沢度計(GARDNER社製「micro−tri−gloss」)を使用し、金属銀のベタ面において、測定角度条件を85°として、光沢度を測定した。
【0083】
[実施例2]
二酸化炭素ガスの供給を、15℃に代えて30℃で行ったこと以外は、実施例1と同様に銀インク組成物を製造し、混合物と銀インク組成物の粘度を測定した。測定結果を図1に示す。なお、銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の沈降が認められなかった。
【0084】
[実施例3]
二酸化炭素ガスの供給を、15℃に代えて40℃で行ったこと以外は、実施例1と同様に銀インク組成物を製造し、混合物と銀インク組成物の粘度を測定した。測定結果を図1に示す。
さらに、実施例1と同様に銀インク組成物を保存し、保存前後の粘度を測定したところ、実施例1と同じ結果が得られた。また、銀インク組成物は、保存の前後を通じて、β−ケトカルボン酸銀の沈降が認められなかった。
さらに、実施例1と同様に保存前後の銀インク組成物をそれぞれ使用して、金属銀のパターンを形成し、細線パターンの抵抗値を測定した。測定結果を図2に示す。また、金属銀の光沢度を測定した。測定結果を図3に示す。
【0085】
図1から明らかなように、上記各実施例の銀インク組成物は、二酸化炭素ガスの供給時間が長くなるに従い、特に2時間以降において、粘度の上昇率が高くなる傾向が見られた。そして、同じ供給時間で比較すると、二酸化炭素ガス供給時の温度が高いほど、高粘度になった。
また、図2から明らかなように、実施例1及び3のいずれにおいても、金属銀の細線パターンの抵抗値は、印刷部位によらず、そして銀インク組成物の保存前後によらず、ほぼ同じ値を示していた。さらに、実施例1及び3で互いにほぼ同じ値を示していた。
また、図3から明らかなように、金属銀の光沢度は、実施例1及び3のいずれにおいても、銀インク組成物の保存前後によらず、ほぼ同じ値を示していた。さらに、実施例1及び3で互いにほぼ同じ値を示していた。
このように、本発明の銀インク組成物は、二酸化炭素ガス供給時の温度が異なっていても、品質が極めて安定しており、線幅0.1〜0.5mm程度の微細な金属銀のパターンを再現性よく形成できた。
【0086】
[比較例1]
2−エチルヘキシルアミン(55.2g)、及び3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール(エアープロダクツジャパン社製「サーフィノール61」)(2.4g)をフラスコ内に添加し、15℃において、撹拌速度100rpmで撹拌しながら、ここへ650mL/分の流量で二酸化炭素ガスを供給(バブリング)して、比較用の混合物を得た。
次いで、この混合物に、氷冷下2−メチルアセト酢酸銀の添加を試みたが、少量添加しただけで激しく発泡し、2−メチルアセト酢酸銀を全量添加できず、目的とする銀インク組成物が得られなかった。これは、2−メチルアセト酢酸銀の添加時に、供給した二酸化炭素ガスが抜けてしまっているためである。なお、得られた銀インク組成物の粘度は、約300mPa・sであった。
このように、二酸化炭素ガスの供給時期が変わるだけで、目的とする銀インク組成物が得られなくなってしまうことを確認した。
【0087】
[実施例4]
二酸化炭素ガスの流量を650mL/分に代えて1040mL/分としたこと以外は、実施例1と同様に銀インク組成物を製造し、混合物と銀インク組成物の粘度を測定した。測定結果を実施例1のものと共に図4に示す。
図4から明らかなように、二酸化炭素ガスの流量を増加させることで、同じ二酸化炭素ガスの供給時間で比較すると、銀インク組成物の粘度がさらに向上することを確認できた。また、銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の沈降が認められなかった。
【0088】
[実施例5]
二酸化炭素ガス供給時の撹拌翼での撹拌速度を100rpmに代えて300rpmとしたこと以外は、実施例1と同様に銀インク組成物を製造し、混合物と銀インク組成物の粘度を測定した。測定結果を実施例1のものと共に図5に示す。
図5から明らかなように、回転数を増加させることで、同じ二酸化炭素ガスの供給時間で比較すると、銀インク組成物の粘度がさらに向上することを確認できた。また、銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の沈降が認められなかった。
【0089】
[実施例6]
実施例1と同様の方法で混合物を調製し、混合物の使用量を100gに代えて7gとし、二酸化炭素ガスの流量を650mL/分に代えて200mL/分としたこと以外は、実施例1と同様に銀インク組成物を製造し、混合物と銀インク組成物の粘度を測定した。測定結果を図6に示す。図6中、「CO供給時間0(ゼロ)(min)」は、二酸化炭素ガスが供給前であることを示す。
図1及び6から明らかなように、混合物の単位使用量あたりの二酸化炭素ガスの流量を増加させることで、同じ二酸化炭素ガスの供給時間で比較すると、銀インク組成物の粘度がさらに向上することを確認できた。また、銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の沈降が認められなかった。
【0090】
[実施例7]
2−メチルアセト酢酸銀に代えて、アセト酢酸銀を同じモル数使用したこと以外は、実施例6と同様に銀インク組成物を製造し、混合物と銀インク組成物の粘度を測定した。測定結果を図6に示す。
図6から明らかなように、異なる種類のβ−ケトカルボン酸銀を使用しても、銀インク組成物の粘度が同様に向上することを確認できた。また、銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の沈降が認められなかった。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
<銀インク組成物の製造及び評価>
[実施例8]
2−エチルヘキシルアミン(3.86g)、及び3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール(エアープロダクツジャパン社製「サーフィノール61」)(0.17g)をフラスコ内に添加して撹拌し、さらにここへ、氷冷下ピバロイル酢酸銀(3.26g)を添加して撹拌することで、混合物を得た。得られた混合物の粘度を下記方法で測定した。なお、撹拌は、SUS製で長さ25mmの撹拌片を3枚供えた撹拌翼を使用して行った。各成分の配合量(モル数)を表3に示す。
次いで、得られた混合物(7.29g)を15℃において、撹拌速度300rpmで撹拌しながら、ここへ200mL/分の流量で二酸化炭素(CO)ガスを供給(バブリング)し、銀インク組成物を得た。二酸化炭素ガスは、実施例1の場合と同様に、微細な気泡状として供給した。二酸化炭素ガスのその他の供給条件を表4に示す。この間、二酸化炭素ガスの供給開始から所定時間ごとに銀インク組成物の粘度を、実施例1と同様の方法で測定し、二酸化炭素ガスの供給時間(分)と銀インク組成物の粘度との関係を調べた。この時の測定結果を、二酸化炭素ガスの供給開始前(すなわち、混合物)の粘度と共に図7に示す。図7中、「CO供給時間0(ゼロ)(min)」は、二酸化炭素ガスが供給前であることを示す。また、図7の縦軸(粘度)は、対数表示である。
【0094】
さらに、得られた銀インク組成物を使用して、実施例1と同様の方法で金属銀のパターンを形成し、測定部位を4箇所に代えて3箇所としたこと以外は、実施例1と同様の方法でその抵抗値及び光沢度を測定した。測定結果を表5に示す。
【0095】
図7から明らかなように、さらに異なる種類のβ−ケトカルボン酸銀を使用しても、銀インク組成物の粘度が同様に向上することを確認できた。また、銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の沈降が認められなかった。
さらに、表5から明らかなように、金属銀の抵抗値及び光沢度は、印刷部位によらず、ほぼ同じ値を示していた。
【0096】
[実施例9]
ピバロイル酢酸銀に代えて、ベンゾイル酢酸銀を同じモル数使用したこと以外は、実施例8と同様に銀インク組成物を製造し、混合物と銀インク組成物の粘度を測定した。測定結果を図7に示す。
図7から明らかなように、さらに異なる種類のβ−ケトカルボン酸銀を使用しても、銀インク組成物の粘度が同様に向上することを確認できた。また、銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の沈降が認められなかった。
【0097】
実施例8及び9に示すように、本発明の銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀の種類が異なっていても、品質が極めて安定しており、金属銀のパターンを再現性よく形成できた。
【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の、高粘度インクを使用する印刷法で利用可能であり、微細な金属銀のパターン形成に特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるβ−ケトカルボン酸銀と、下記一般式(2)で表わされるアセチレンアルコール類と、炭素数2〜25のアミン化合物及び/又はアンモニウム塩と、が配合されてなる混合物に、二酸化炭素ガスを供給して得られ、20℃における粘度が100mPa・s以上であることを特徴とする銀インク組成物。
【化1】

(式中、Rは一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R−CY−」、「CY−」、「R−CHY−」、「RO−」、「RN−」若しくは「(RO)CY−」で表される基であり;Yはそれぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子であり;Rは炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基であり;Rは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり;Rは炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基であり;R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり;
Xはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N−フタロイル−3−アミノプロピル基、2−エトキシビニル基、又は一般式「RO−」、「RS−」、「R−C(=O)−」若しくは「R−C(=O)−O−」で表される基であり;Rは、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、チエニル基、又は一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基である。)
【化2】

(式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、又は一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基である。)
【請求項2】
前記Rが直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、又はフェニル基であり、前記Xが水素原子、直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、又はベンジル基であることを特徴とする請求項1に記載の銀インク組成物。
【請求項3】
前記β−ケトカルボン酸銀が、2−メチルアセト酢酸銀、アセト酢酸銀、2−エチルアセト酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、イソブチリル酢酸銀、2−n−ブチルアセト酢酸銀、2−ベンジルアセト酢酸銀、ピバロイル酢酸銀及びベンゾイル酢酸銀からなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀インク組成物。
【請求項4】
前記アミン化合物として、2−エチルヘキシルアミン、2−フェニルエチルアミン、n−プロピルアミン、tert−ブチルアミン、エチレンジアミン、N−メチル−n−ヘキシルアミン、n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン、N−メチルベンジルアミン及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンからなる群から選択される一種以上が配合されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の銀インク組成物。
【請求項5】
前記アセチレンアルコール類が、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2−メチル−3−ブチン−2−オール及び3−メチル−1−ペンチン−3−オールからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の銀インク組成物。
【請求項6】
粘度が10Pa・s以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の銀インク組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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