説明

銀ベース合金

【課題】粘性、靭性、延性等の機械的性質と審美性に優れ、耐食性および耐変色性に優れた銀ベース合金を提供する。
【解決手段】銀をベースとし、インジウムを1質量%以上15質量%以下、パラジウムを1質量%以上15質量%以下、金を0.1質量%以上5質量%以下、白金を0.01質量%以上10質量%以下、レニウムを0.01質量%以上10質量%以下、銅を0.1質量%以上3質量%未満含有する。これにより、粘性、靭性、延性等の機械的性質と審美性に優れ、耐食性および耐変色性に優れ、食器、時計、眼鏡、宝飾、歯科医療、機械器具、触媒等に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食器、時計、眼鏡、宝飾、歯科医療、機械器具、触媒等に使用することができる銀ベース合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くから、宝飾品や食器などにおいて、銀が用いられてきたが、大気中に放置すると硫化皮膜ができて黒く変色することが欠点としてあげられていた。腐食や変色が起こると手入れが煩雑で、銀の美しい光輝性を維持するには大変な労力を要していた。
【0003】
そこで、宝飾品の分野では、鋳造物を製作する際に、変色防止をするため、銀にニッケルめっきを施すことが行われてきた。このような宝飾品では、ニッケルによって金属アレルギーを起す1つの原因とされてきた。また、めっきが剥がれるということも問題になっている。
【0004】
一方、アクセサリー等の装飾用、食器用、歯科医療用、医学用等として銀ベース合金が広く用いられ、例えば、下記の特許文献1および2に示すものが開示されている。
【0005】
下記の特許文献1は、金、白金、パラジウム、銀から選択された1種以上の金属を60重量%以上含むものを開示する。
【0006】
下記の特許文献2は、銀をベースとし、Re、またはReとIn、RhおよびPtのうち少なくとも1種を0.1〜3.0質量%、Cuおよび/またはPtおよび/またはTiおよび/またはAuおよび/またはAlおよび/またはTaおよび/またはSi0.1〜3.0質量%含むものを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004−505651号公報
【特許文献2】特開2004−244727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した銀ベース合金であっても、上述したような腐食や変色の問題を完全に解消するものではない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、粘性、靭性、延性等の機械的性質と審美性に優れ、耐食性および耐変色性に優れた銀ベース合金を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の銀ベース合金は、銀をベースとし、インジウム、パラジウム、金、白金、レニウム、銅を含有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
上記課題を解決するための研究の結果、銀において問題とされる性質の原因とされる合金組織を改善されるのに、レニウムの添加および金・白金を添加することによる固溶強化により特に強度を向上させた。しかも耐食性、耐変色性を向上させるために、インジウム、パラジウム、銅を添加した。
【0012】
本発明の銀ベース合金によれば、粘性、靭性、延性等の機械的性質と審美性に優れ、耐食性および耐変色性に優れ、食器、時計、眼鏡、宝飾、歯科医療、機械器具、触媒等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】サンプル1の変色試験結果を示す。
【図2】サンプル2の変色試験結果を示す。
【図3】サンプル3の変色試験結果を示す。
【図4】サンプル4の変色試験結果を示す。
【図5】サンプル5の変色試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の銀ベース合金の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明の銀ベース合金は、銀をベースとし、インジウム、パラジウム、金、白金、レニウム、銅を含有する。これら以外に、不可避的不純物をはじめとして、他の元素を含有することも含む趣旨である。
【0016】
インジウムの含有量は、1質量%以上15質量%以下が好ましい。
インジウムは、柔軟性および耐変色性を付与するために有効な元素である。
上限を超えると、不必要なコストアップとなり、反対に下限以下では、柔軟性および耐変色性が十分に得られない。
【0017】
パラジウムの含有量は、1質量%以上15質量%以下が好ましい。
パラジウムは、耐久性などの機械的性質の確保、および耐変色性を付与するために有効な元素である。
上限を超えると、不必要なコストアップとなり、反対に下限以下では、耐久性や耐変色性が十分に得られない。
【0018】
金の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。
金は、機械的性質を確保するために有効な元素である。
上限を超えると、不必要なコストアップとなり、反対に下限以下では、十分な機械的性質が得られない。
【0019】
白金の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。
白金は、展性や延性を付与して脆化を防ぐだけでなく、表面張力を向上させて鋳造時の作業性を向上させ、さらには耐変色性を付与するために有効な元素である。
上限を超えると、不必要なコストアップとなり、反対に下限以下では、脆化を防止したり鋳造性を改善する十分な効果が得られない。
【0020】
レニウムの含有量は、0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。
レニウムは、結晶構造密度を細かくし、耐食性や耐変色性を付与するために有効な元素である。
上限を超えると、不必要なコストアップとなるうえ、固溶させた合金とすることが極めて困難であり、反対に下限以下では、十分な耐食性や耐変色性が得られない。
【0021】
銅の含有量は、0.1質量%以上3質量%未満が好ましい。
銅は、硬度を確保するために有効な元素である。
上限を超えると、不必要なコストアップとなり、反対に下限以下では、十分な硬度を得られなくなる。
【0022】
上記各元素を準備し、本発明の銀ベース合金は、例えばつぎのようにしてつくることができる。
【0023】
(1)粉末状のレニウムを白金箔に包んで加熱し、溶解して冷却する。
(2)上記(1)の地金をローラで0.2mm以下の厚さになるまで延ばして薄くする。
(3)上記(2)の地金を5mm角に切断し、パラジウムとともに加熱し、溶解して冷却する。
(4)上記(3)の地金をローラで0.2mm以下の厚さになるまで延ばして薄くする。
(5)上記(4)の地金を金とともに加熱して溶解し、冷却する。
(6)上記(5)の地金をローラで0.2mm以下の厚さになるまで延ばして薄くする。
(7)上記(6)の地金にインジウムおよび銅を加えて加熱し、セラミック棒で混ぜながら溶解し、冷却する。
(8)上記(7)の合金をローラで加圧して締める。
(9)上記(8)の合金を加熱して再度溶解する。
(10)上記(9)で合金を溶解したルツボ内に純銀を加え、加熱し溶解して冷却し、本発明の銀ベース合金とする。このとき、虹色の光輝性模様が表面にできる。
【0024】
このようにして得られた銀ベース合金は、融点が800℃近傍であり、溶解鋳造性、切削加工性、研磨加工性等の取り扱い性に優れ、耐食性、耐変色性は従来の銀合金に比べて群を抜いている。
【0025】
得られた銀ベース合金を鋳造する際は、融点は800℃近傍であるが鋳造温度は10000〜1600℃とすることが望ましい。また、1500℃以上の温度から急冷すると合金が飛散するおそれがあって危険なため、鋳込んだあとの鋳造物は急冷しないことが好ましい。ロストワックス法で鋳込む場合、あらかじめ1050〜1150℃に加熱しておき、鋳込んだ後に徐々に冷やす段階で製品を取り出すことが行われる。
【実施例】
【0026】
下記の表1に示す組成でサンプル1〜5の銀ベース合金を準備した。これらの銀ベース合金地金につき、JIS R6253に規定する800番耐水研磨紙で研磨した後、0.1%の硫化ナトリウム溶液に72時間、40℃で浸漬したのち、その変色の状態を観察した。
【0027】
【表1】

【0028】
図1〜5は、各サンプルの試験後の変色状態を示すものであり、その観察結果は下記のとおりであった。
サンプル1:表面には変色の形跡なし。
サンプル2:2時間後には黒く変色。
サンプル3:24時間後に変色。
サンプル4:24時間後に変色。
サンプル5:1時間後に変色。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀をベースとし、インジウム、パラジウム、金、白金、レニウム、銅を含有することを特徴とする銀ベース合金。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−158811(P2012−158811A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19753(P2011−19753)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(504106181)ササキジェム株式会社 (1)
【出願人】(511028401)