説明

銅、クロムやヒ素を含有する薬剤で処理された木材の浄化方法

本発明は、銅を含有する薬剤で処理された木材から、当該薬剤成分を簡便且つ効率的に抽出することによって、当該木材を浄化することができる当該木材の浄化方法を提供する。具体的には、本発明は、銅を含有する薬剤で処理された木材を、モノカルボン酸のアルカリ金属塩及びジカルボン酸のアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液に浸漬させることにより、該木材から該薬剤成分を抽出することを特徴とする、上記木材の浄化方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、木材の浄化方法に関する。より詳細には、本発明は、銅を含有する薬剤で処理された木材を、簡便かつ効率的に浄化する方法に関する。
【背景技術】
今日、住宅、電柱材、枕木、土台、その他建造物に使用されている木材の多くは、その耐久性を高めるために防腐剤で処理されている。当該木材防腐剤の代表的なものとして、CCA(クロム・銅・ヒ素化合物系木材防腐剤)、CFKZ(クロム・銅・亜鉛化合物系木材防腐剤)、ACQ(銅・アルキルアンモニウム化合物系木材防腐剤)及びCUAZ(銅・ホウ素・アルキルアンモニウム化合物系木材防腐剤)等の水溶性木材防腐剤があり、これらには銅をはじめとする人体に有害な物質が使用されている。
近年、耐用年数が経過した防腐剤処理木材が世界中で増大しており、その廃棄方法が問題となっている。
防腐剤処理木材の廃棄において、単に埋め立てや焼却するのでは、該木材中の有害物質が終局的には環境中に排出される懸念がある。そのため、当該防腐剤処理木材を廃棄するために、当該木材を浄化して、当該木材中の有害成分が環境中に排出されるのを防止することが求められている。
これまでに、防腐剤処理木材から有害物質を除去する方法として、超臨界状態の溶媒ガスで抽出する方法や硫酸等の強酸で湿式抽出する方法が報告されている(例えば、特開平11−135563号公報参照)。
しかしながら、前者の方法は、特別な処理装置を要し、その工程制御も複雑であるという欠点がある。また、この方法は、経済的観点から見ても現実的とはいえない。
一方、後者の方法では、特段の処理装置を要せず、操作が簡便であるといった利点があるが、強酸によって木材成分の過度な分解が起こるため木材の回収が困難になるという欠点や有害物質の抽出効率が不十分であるという欠点がある。特に、防腐剤成分として含有されている木材中の銅やクロムは抽出されにくく、従来の湿式抽出技術では、これらを効率的に除去する技術が確立されていないのが現状である。
近年、シュウ酸を抽出溶媒として用いて防腐剤処理がなされた木材を浄化する方法が提案されているが、かかる方法では木材から幾つかの有害成分が除去できても、銅を十分に除去することができないという問題点がある(Kazi K.M.F.,Cooper P.A、「Solvent Extraction of CCA−C from Out−of−Service Wood」、International Research Group on Wood Preservation、Document No.:IRG/WP−98−50107、Maastricht,The Netherlands,IRG Secretariat(Sweden)、1998年、p.1−13参照)。
このような従来技術を背景として、銅やクロムを含有する薬剤で処理された木材から、有害物質、特に銅を、簡便且つ効率的に抽出し、これを除去することによって当該木材を浄化する技術の開発が望まれている。
【発明の開示】
そこで本発明の目的は、上記従来の問題を解決して、薬剤処理木材を浄化する方法を提供することである。具体的には、本発明は、銅を含有する薬剤で処理された木材から、当該薬剤成分を簡便且つ効率的に抽出することによって、当該木材を浄化することができる当該木材の浄化方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、抽出溶媒としてモノカルボン酸のアルカリ金属塩及び/又はジカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液を用いて、銅を含有する薬剤で処理された木材中の当該薬剤成分を抽出処理すると、該木材中から銅を含む薬剤成分を簡便且つ効率的に除去して、当該木材を浄化できることを見いだした。本発明は、このような知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる発明を提供するものである:
項1. 銅を含有する薬剤で処理された木材を、モノカルボン酸のアルカリ金属塩及びジカルボン酸のアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液に浸漬させることにより、該木材から該薬剤成分を抽出することを特徴とする、上記木材の浄化方法。
項2. 銅を含有する薬剤が、更にヒ素及びクロムよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである、項1に記載の木材の浄化方法。
項3. 銅を含有する薬剤で処理された木材が、CCA、CFKZ、ACQ及びCUAZよりなる群から選択される少なくとも1種の水溶性木材防腐剤で処理されたものである、項1に記載の木材の浄化方法。
項4. カルボン酸のアルカリ金属塩を構成するカルボン酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、及びアジピン酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の木材の浄化方法。
項5. カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液におけるカルボン酸のアルカリ金属塩の濃度が0.01〜2モル/Lである、項1に記載の木材の浄化方法。
項6. カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液のpHが0.1〜5である、項1に記載の木材の浄化方法。
項7. カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液が、ジカルボン酸のアルカリ金属塩水溶液である、項1に記載の木材の浄化方法。
項8. カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液が、シュウ酸のアルカリ金属塩の水溶液である、項1に記載の木材の浄化方法。
項9. カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液が、シュウ酸のナトリウム塩の水溶液である、項1に記載の木材の浄化方法。
項10. カルボン酸のアルカリ金属塩水溶液中への木材の浸漬を30〜90℃の温度条件下で行う、項1に記載の木材の浄化方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、CCA処理木材の浄化(実施例1)において、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液(pH3.2)を使用した場合の抽出開始1〜6時間後の木材中に残存する銅、クロム及びヒ素の割合(未処理時の木材中の各金属元素の割合を100%として算出した割合)を示す図である。
図2は、ACQ処理木材の浄化(実施例2)において、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液(pH3.2)を使用した場合の抽出開始1〜6時間後の木材中に残存する銅の割合(未処理時の木材中の銅の割合を100%として算出した割合)を示す図である。
図3は、CUAZ処理木材の浄化(実施例3)において、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液(pH3.2)を使用した場合の抽出開始1〜6時間後の木材中に残存する銅の割合(未処理時の木材中の銅の割合を100%として算出した割合)を示す図である。
図4は、CCA処理木材、ACQ処理木材及びCUAZ処理木材の混合木材の浄化(実施例4)において、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液(pH3.2)を使用した場合の抽出開始1〜6時間後の木材中に残存する銅、クロム及びヒ素の割合(未処理時の木材中の各金属元素の割合を100%として算出した割合)を示す図である。
発明を実施するための形態
本発明の木材の浄化方法は、銅を含有する薬剤で処理された木材を、モノカルボン酸のアルカリ金属塩及びジカルボン酸のアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液に浸漬させることにより、該木材から該薬剤成分を抽出することを特徴とするものである。本発明でいう「木材の浄化」とは、木材から銅をはじめとする有害成分を除去することを意味する。
本発明において浄化の対象となる木材は、銅を含有する薬剤で処理されたものである。ここで、銅を含有する薬剤としては、木材に使用される薬剤であり、成分として銅を含有するものであれば、特に制限されない。このような薬剤の具体例としては、CCA(クロム・銅・ヒ素化合物系木材防腐剤)、CFKZ(クロム・銅・亜鉛化合物系木材防腐剤)、ACQ(銅・アルキルアンモニウム化合物系木材防腐剤)及びCUAZ(銅・アゾール系木材防腐剤)等の水溶性木材防腐剤を例示することができる。なお、本発明の浄化対象となる木材には、上記水溶性木材防腐剤の1種で処理されたものでもよく、また上記水溶性木材防腐剤を任意に2種以上組み合わせて処理されているものであってもよい。
特に、銅の他、クロムやヒ素についても効率的に除去することができるという本発明の効果に鑑みれば、本発明の浄化方法の対象となる木材として、好ましくはCCA又はCFKZ処理された木材、更に好ましくはCCA処理された木材を挙げることができる。
本発明の浄化の対象となる木材は、銅を含有する薬剤で処理されたものであればよく、その銅の含有量については特に制限されない。本発明の浄化対象木材の一例を挙げると、木材中に銅が0.05ppm以上、好ましくは0.1ppm以上、更に好ましくは0.5ppm以上、特に好ましくは1ppm以上の割合で含まれているものを挙げることができる。また、本発明の浄化対象木材に含まれる銅の含有割合の上限については制限されないが、例えば10000ppm、好ましくは5000ppmを挙げることができる。
本発明に用いられるカルボン酸のアルカリ金属塩水溶液(以下、抽出溶媒という)は、モノカルボン酸のアルカリ金属塩及びジカルボン酸のアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液である。
当該抽出溶媒に用いられるカルボン酸のアルカリ金属塩を構成するカルボン酸としては、特に制限されないが、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸等のモノカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等のジカルボン酸を例示できる。
また、当該抽出溶媒に用いられるカルボン酸のアルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としては、特に制限されるものではないが、一例として、リチウム、ナトリウム、カリウム等を挙げることができる。
本発明に使用する当該抽出溶媒として、本発明の効果の観点からは、好ましくはジカルボン酸のアルカリ金属塩水溶液である。より好ましくはシュウ酸のアルカリ金属塩水溶液、特に好ましくはシュウ酸のナトリウム塩水溶液である。なお、ジカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液には、ジカルボン酸アルカリ金属、ジカルボン酸水素アルカリ金属、及びこれらの混合物の水溶液が含まれる。例えば、シュウ酸のナトリウム塩水溶液の場合であれば、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸水素ナトリウム、及びこれらの混合物の水溶液が含まれる。
当該抽出溶媒は、カルボン酸のアルカリ金属塩を1種単独で含むものであってもよく、2種以上のカルボン酸のアルカリ金属塩を組み合わせて含むものであってもよい。なお、2種以上のカルボン酸のアルカリ金属塩を組み合わせて使用する場合、その組み合わせ態様については特に制限されるものではなく、2種以上のモノカルボン酸のアルカリ金属塩の組み合わせ、2種以上のジカルボン酸のアルカリ金属塩の組み合わせ、又は少なくとも1種のモノカルボン酸のアルカリ金属塩と少なくとも1種のジカルボン酸のアルカリ金属塩の組み合わせのいずれであってもよい。
当該抽出溶媒中のカルボン酸アルカリ金属塩の濃度については、使用するカルボン酸アルカリ金属塩の種類によって異なり、一律に規定することはできないが、一例として、当該抽出溶媒においてカルボン酸アルカリ金属塩の濃度が0.01〜2モル/L、好ましくは0.05〜1モル/L、更に好ましくは0.1〜0.5モル/Lとなる範囲を挙げることができる。
当該抽出溶媒のpHについては、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されない。当該抽出溶媒のpHとしては、例えば0.1〜5、好ましくは1〜4.5、更に好ましくは2〜4となる範囲を挙げることができる。抽出溶媒を上記pH範囲に調整するには、例えば、カルボン酸の水溶液、及びアルカリ金属の水酸化物、炭酸水素化物又は炭酸化物の水溶液等をpH調整剤として用いて、常法に従って行えばよい。
なお、当該抽出溶媒は、本発明の効果を妨げないことを限度として、他のpH調整剤や緩衝剤等の上記以外の添加剤を含んでいてもよい。
当該抽出溶媒の調製方法は、カルボン酸のアルカリ金属塩が所望の割合で含有されるように調製される限り、特に制限されるものではない。例えば、当該抽出溶媒の調製方法として、所定濃度となるようにカルボン酸アルカリ金属塩を水に溶解し、必要に応じてpHを調整する方法を挙げることができる。
また、簡便には、当該抽出溶媒の調製方法として、所定量のカルボン酸を水に添加した水溶液中に、アルカリ金属の水酸化物、炭酸水素化物又は炭酸化物等のアルカリ金属を含有する化合物を適当量配合する方法等を例示することができる。具体的には、所定濃度のカルボン酸の水溶液(以下、水溶液1という。)に、アルカリ金属の水酸化物、炭酸水素化物又は炭酸化物等のアルカリ金属を含む化合物を溶解した水溶液を、該水溶液1のpHが上記範囲になるまで添加する方法を挙げることができる。かかる調製方法で得られる抽出溶媒として、具体的には、カルボン酸の濃度が0.01〜2モル/L、好ましくは0.05〜1モル/L、更に好ましくは0.1〜0.5モル/Lであり、かつアルカリ金属イオンを、カルボン酸に対するアルカリ金属イオンのモル比が0.01〜2、好ましくは0.01〜1.5、更に好ましくは0.1〜1となる割合で含有している水溶液を例示できる。
即ち、別の観点から、本発明の浄化方法に使用される抽出溶媒として、以下の(1)及び(2)の工程を含む方法により調製された水溶液を挙げることができる:(1)水にカルボン酸を最終濃度(調製後の抽出溶媒中に濃度)が0.01〜2モル/L、好ましくは0.05〜1モル/L、更に好ましくは0.1〜0.5モル/Lとなるように添加してカルボン酸水溶液を得る工程、及び(2)該カルボン酸水溶液に、アルカリ金属の水酸化物、炭酸水素化物又は炭酸化物等のアルカリ金属塩(必要に応じて、水溶液の状態に調製したもの)を添加してpHを0.1〜5、好ましくは1〜4.5、更に好ましくは2〜4に調整する工程。
本発明の方法において、上記抽出溶媒中に、上記浄化対象の木材を浸漬して、該木材中の薬剤成分を抽出することにより当該薬剤成分が除去され、当該木材が浄化される。
本発明によれば、薬剤成分である銅を上記木材から効率的に除去することが可能である。更に本発明では、銅以外にクロムやヒ素等の木材防腐剤に含まれる他の成分が木材に存している場合には、これらの薬剤成分についても併せて除去することができる。
上記浄化対象の木材中の上記薬剤成分を抽出するに際して、該木材は廃材のままの形状であってもよいが、抽出効率を一層高める観点からは、該木材を粉砕し、その大きさを例えば縦、横、厚さがそれぞれ5cm、5cm、2cm程度以下の範囲となるように調整することが望ましい。
また、上記木材中の上記薬剤成分を抽出する際に、必要に応じて、上記抽出溶媒中に浸漬している浄化対象の木材に、加圧若しくは減圧を行ってもよい。これによって、上記薬剤成分の抽出効率が上昇し、当該薬剤成分の除去をより効果的に行うことが可能になる。このように上記抽出溶媒中への含浸、加圧、減圧を繰り返す方法は、浄化対象の木材が比較的大きな形状若しくは角材そのものである場合に、特に有効である。このような加圧若しくは減圧を伴う処理は、減圧・加圧釜を使用して行うことができる。
上記浄化対象の木材を上記抽出溶媒中に含浸させて上記薬剤成分を抽出除去する場合であれば、具体的には、当該木材1kgを上記抽出溶媒10〜100L中、好ましくは上記抽出溶媒20〜50L中に浸漬させることによって、抽出処理を行う方法を例示できる。
また、上記薬剤成分の抽出における抽出温度としては、該薬剤成分の抽出を妨げない範囲である限り特に制限されない。かかる抽出温度として、例えば15〜100℃の範囲を挙げることができる。抽出効率を上げて抽出時間を短縮するという観点からは、抽出温度が30〜90℃、特に50〜75℃の範囲内にあることが望ましい。
上記薬剤成分の抽出において、抽出時間としては、使用する抽出溶媒の種類、浄化対象の木材の種類や大きさ、抽出方法、抽出温度、期待される抽出率等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば1〜10時間、好ましくは3〜8時間、更に好ましくは4〜6時間を挙げることができる。
このように薬剤成分が抽出処理により取り除かれた木材は、無毒化されているので、焼却や埋立等の任意の方法で廃棄することができ、またリサイクル木材として再利用することもできる。また、抽出された薬剤成分は、更に分離、精製等を行って、各種防腐剤成分等として有効利用することもできる。
【実施例】
以下、実施例及び試験例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はかかる実施例等によって何ら制限されるものではない。
実施例1 CCA処理木材の浄化
CCA(クロム・銅・ヒ素化合物系木材防腐剤)で処理された木材(1gの乾燥木材中にCu 5.10mg、As 4.64mg、Cr 8.32mg含有)を用いて、以下の評価試験を行った。
シュウ酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液をpHが3.2になるまで添加して、シュウ酸・ナトリウム水溶液(シュウ酸の最終濃度は0.125モル/L)を調製した。かくして調製したシュウ酸・ナトリウム水溶液200ml中に、約2.5cm×2.5cm×1cmの形状のチップに調製した上記CCA処理木材を10g浸漬させて、75℃で6時間抽出処理を行った。かかる抽出処理において、1時間毎の当該木材中の銅、クロム及びヒ素の残存割合を蛍光X線分析装置(JSX−3220 ELEMENT ANALYZER,XRF)を用いて測定し、CCA処理木材の浄化の程度を評価した。
得られた結果を図1に示す。図1には、抽出溶媒としてシュウ酸ナトリウム水溶液(pH3.2)を使用した際の抽出開始1〜6時間後の木材中に残存する銅、クロム及びヒ素の割合(未処理時の木材中の各金属元素の割合を100%として算出した割合)を示す。
図1から明らかなように、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液を使用すると、銅、クロム及びヒ素の全ての残存割合を効果的に低減できることが確認された。以上の結果から、本発明の方法によって、CCA処理木材から銅、クロム及びヒ素を効率的に除去して、該CCA処理木材を効果的に浄化できることが明らかとなった。
比較例1及び2
実施例1で使用したCCA処理木材を用いて、以下の抽出処理を行った。
0.125モル/Lのシュウ酸水溶液(pH1.2)200ml中に、約2.5cm×2.5cm×1cmの形状のチップに調製した上記CCA処理木材を10g浸漬させて、75℃で3時間抽出処理を行った(比較例1)。
また、上記比較例1の抽出処理後のCCA処理木材を水洗した後、該木材を0.125モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液(pH12.6)200ml中に75℃で3時間抽出処理を行った(比較例2)。
これらの抽出処理後のCCA処理木材(比較例1及び比較例2)の浄化の程度を実施例1と同様の方法で評価した。
得られた結果を表1に示す。なお、表1中の残存率(%)とは、抽出処理後に木材中に残存する銅、クロム及びヒ素の割合(未処理時の木材中の各金属元素の割合を100%として算出した割合)を示す。表1には、抽出処理3時間後の実施例1の結果についても併せて記す。この結果から、シュウ酸水溶液で処理した場合(比較例1)、及びシュウ酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液で順次処理した場合(比較例2)では、CCA木材から銅を十分に除去できないことが分かった。

実施例2 ACQ処理木材の浄化
ACQ(銅・アルキルアンモニウム化合物系木材防腐剤)で処理された木材(1gの乾燥木材中にCu 2.69mg含有)を使用する以外は、実施例1と同様の方法で、ACQ処理木材の浄化評価試験を行った。
得られた結果を図2に示す。図2には、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液(pH3.2)を使用した場合の抽出開始1〜6時間後の木材中に残存する銅の割合(未処理時の木材中の銅の割合を100%として算出した割合)を示す。
図2から明らかなように、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液を使用すると、木材中の銅は抽出処理1時間後には既に低い残存割合を示している。以上の結果から、本発明の方法によれば、ACQ処理木材から銅を効率的に除去して、該ACQ処理木材を効果的に浄化できることが確認された。
実施例3 CUAZ処理木材の浄化
CUAZ(銅・ホウ素・アルキルアンモニウム化合物系木材防腐剤)で処理された木材(1gの乾燥木材中にCu 1.63mg含有)を使用する以外は、実施例1と同様の方法で、CUAZ処理木材の浄化評価試験を行った。
得られた結果を図3に示す。図3には、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液(pH3.2)を使用した場合の抽出開始1〜6時間後の木材中に残存する銅の割合(未処理時の木材中の銅の割合を100%として算出した割合)を示す。
図3から明らかなように、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液を使用すると、木材から銅を十分に抽出除去できている。以上の結果から、本発明の方法によれば、CUAZ処理木材から銅を効率的に除去して、該CUAZ処理木材を効果的に浄化できることが確認された。
実施例4 CCA処理木材、ACQ処理木材及びCUAZ処理木材の混合木材の浄化
上記実施例1で使用したCCA処理木材、上記実施例2で使用したACQ処理木材、及び上記実施例3で使用したCUAZ処理木材をそれぞれ約1:1:1の重量比で混合した木材(1gの該乾燥木材中にCu 3.04mg、As 1.6mg、Cr 2.96mg含有)を用いて、実施例1と同様の方法で、該混合木材の浄化評価試験を行った。
得られた結果を図4に示す。図4には、抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液(pH3.2)を使用した場合の抽出開始1〜6時間後の木材中に残存する銅の割合(未処理時の木材中の銅の割合を100%として算出した割合)を示す。
抽出溶媒としてシュウ酸・ナトリウム水溶液を使用すると、銅、クロム及びヒ素の全ての残存割合が効果的に低減されており、当該木材が十分に浄化できていた(図4)。以上の結果から、本発明の方法によれば、使用された薬剤の種類毎に木材を分別することなく、銅を含有する薬剤で処理された木材から、銅、クロム、ヒ素等の有害物質を抽出除去でき、該木材を簡便且つ効率的に浄化できることが分かった。
【実施例5】
酢酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液をpHが3.2になるまで添加して、酢酸ナトリウム水溶液(酢酸の最終濃度は0.125モル/L)を調製する。該水溶液を抽出溶媒として用いて、実施例1と同様の方法で、CCA処理木材から銅、クロム及びヒ素を抽出し、該木材を浄化する。
【実施例6】
コハク酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液をpHが3.5になるまで添加して、コハク酸・ナトリウム水溶液(コハク酸の最終濃度は0.125モル/L)を調製する。該水溶液を抽出溶媒として用いて、実施例1と同様の方法で、CCA処理木材から銅、クロム及びヒ素を抽出し、該木材を浄化する。
【産業上の利用可能性】
上記実施例から明らかなように、モノカルボン酸のアルカリ金属塩及び/又はジカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液を抽出溶媒として使用することによって、モノカルボン酸及び/又はジカルボン酸の水溶液では不可能であった木材からの銅の抽出除去が可能となる。それ故、本発明の木材の浄化方法によれば、銅を含有する薬剤で処理された木材から、従来の方法では抽出することが困難であった銅を簡便且つ効率的に抽出し、当該木材を浄化することが可能となる。
更に、本発明の木材の浄化方法によれば、上記実施例1で示されているように、銅以外に、クロムやヒ素についても、抽出し、これらを除去できるので、銅、クロムやヒ素等の木材防腐剤成分を含有する木材からこれらの有害成分を一括して抽出し、除去することが可能となる。
なお、本発明の方法によって浄化された木材は、焼却や埋立等の廃棄処分することもでき、また人体にとって安全な木材として再利用することも可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含有する薬剤で処理された木材を、モノカルボン酸のアルカリ金属塩及びジカルボン酸のアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液に浸漬させることにより、該木材から該薬剤成分を抽出することを特徴とする、上記木材の浄化方法。
【請求項2】
銅を含有する薬剤が、更にヒ素及びクロムよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである、請求項1に記載の木材の浄化方法。
【請求項3】
銅を含有する薬剤で処理された木材が、CCA、CFKZ、ACQ及びCUAZよりなる群から選択される少なくとも1種の水溶性木材防腐剤で処理されたものである、請求項1に記載の木材の浄化方法。
【請求項4】
カルボン酸のアルカリ金属塩を構成するカルボン酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、及びアジピン酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の木材の浄化方法。
【請求項5】
カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液におけるカルボン酸のアルカリ金属塩の濃度が0.01〜2モル/Lである、請求項1に記載の木材の浄化方法。
【請求項6】
カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液のpHが0.1〜5である、請求項1に記載の木材の浄化方法。
【請求項7】
カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液が、ジカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液である、請求項1に記載の木材の浄化方法。
【請求項8】
カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液が、シュウ酸のアルカリ金属塩の水溶液である、請求項1に記載の木材の浄化方法。
【請求項9】
カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液が、シュウ酸のナトリウム塩の水溶液である、請求項1に記載の木材の浄化方法。
【請求項10】
カルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液中への木材の浸漬を30〜90℃の温度条件下で行う、請求項1に記載の木材の浄化方法。

【国際公開番号】WO2004/103515
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506302(P2005−506302)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000846
【国際出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成15年1月31日エネルギー・資源学会主催の「第19回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス」において文章をもって発表
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】