説明

銅の表面酸化物の除去

本発明は銅基合金から成る物質の品質を向上させる方法に関するものであり、本方法において、物質は少なくとも酸化物除去装置(3)で処理し、酸化物除去装置にて酸化物をカソード還元によって物質の表面から除去する。本発明はまた、銅基合金の物質の品質を向上させるために、請求項1に記載の方法を実現する装置に関するものであり、本装置は少なくとも酸化物除去装置を含む。本装置は、カソード還元を実現するアノード(6)、カソード(5)および電解液(11)などの要素を含み、これらによって、アノードで発生した酸素は、酸素不透過性の薄膜(18)によって、カソードへの接触を防止される。

【発明の詳細な説明】
【詳細な説明】
【0001】
本発明は、独立請求項に記載の、銅基合金から成る物質の品質を向上させる方法および装置に関するものである。
【0002】
銅もしくは銅基合金から成る物質の表面には、例えば鋳造や様々な焼鈍処理などの製造工程において、後続の処理に支障をきたす酸化膜が生成されることがある。そのため表面に堆積した酸化膜をしばしば除去する必要がある。銅表面の酸化膜を確認ないし測定するのは困難であり、また、特定の機材なしでは必ずしも識別できるとは限らない。銅表面の厚い酸化膜の除去は比較的簡単であるが、その一方で、最後の分子層を除去するのは結局困難であることが分かっている。しかし、明確に視認できない酸化膜であっても、銅製品の品質に問題を起こす。銅表面の酸化膜は例えば押出成形の妨げとなり、酸化膜の除去時に有害な押出成形屑が生じてしまう。押出成形屑の処理および再循環は費用を嵩ませる。銅線を押出成形で製造する場合、完全無酸化物供給ワイヤを用いれば、より良好な作業が可能となり、製品としてほぼ完璧な品質が得られる。
【0003】
銅金属の表面の洗浄には通常エッチングが適用される。すなわち酸化膜を溶解することで金属表面を化学的に洗浄する。エッチングする前にあらゆる油脂や油を製品の表面から除去しておくべきことは一般に知られている。通常、銅金属のエッチングは硫酸水溶液中で行われ、表面に形成された酸化物の大半が除去される。従来の硫酸エッチングでは、エッチング工程直後には酸化膜を低レベルにできるが、実際には、酸中に溶解した酸素と最終洗浄の低速さとのために、乾燥後に酸化膜が倍増してしまう。
【0004】
例えば表面剥離や研磨といった機械的処置は、洗浄すべき物質の表面を破損する可能性があり、精度が要求される表面洗浄工程に適しているとはいえない。
【0005】
銅物質の表面に酸化物が生成されるのを防止する1つの方法として、酸化防止用の保護ガス雰囲気中に銅物質を隔離する方法がある。
【0006】
国際公開公報WO 02/32595号の機構によると、アルミニウムもしくは銅の物質の表面に生じた酸化膜などの不純物が除去されるよう、表層が機械的にこすり落とされる。しかし、表面を機械洗浄するとアルミニウムや銅自体の著しい物質損失を招きかねない。また、物質表面が機械削によって損傷しかねない。削られた表層を回収し後続の処理を施すことも、必要以上の手間となる。
【0007】
本発明は、従来技術の欠点を解消し、銅基合金から成る物質の品質を向上させる新たな解決手段を提供することを目的とする。本発明は特に、銅基合金物質の表面からカソード還元によって酸化物を除去することで銅基合金物質の品質を向上させることを目的とする。
【0008】
本発明は独立請求項の特徴段の記載事項を特徴とする。本発明の他の好ましい実施例はその他の請求項の記載事項を特徴とする。
【0009】
本発明による方法は多くの利点を有する。本発明は銅基合金から成る物質の品質を向上させる方法に関するものであり、本方法において、物質は少なくとも酸化物除去装置で処理し、酸化物除去装置にて酸化物をカソード還元によって物質の表面から除去する。酸化膜が銅物質の表面から除去されるよう、カソード還元によって銅表面上の酸化物を銅に還元する。本発明の好ましい実施例では、カソード還元に用いる電解液は炭酸ナトリウム溶液である。本発明の他の好ましい実施例では、カソード還元に用いる電解液は硫酸溶液である。
【0010】
本発明の好ましい実施例によれば、カソード還元に用いるカソードは銅基合金から成る物質であり、アノードは例えば白金アノードや白金メッキチタン・アノードなどの非溶解性物質を用いる。他にアノードに適している物質として、例えば鉛や酸化イリジウムで被覆したチタンがある。カソード還元では、アノードに酸素が発生し、カソードに銅が生成される。アノードには、酸素を排出するための少なくとも1つの排気孔が設けられている。本発明の好ましい実施例によれば、カソード還元に酸素不透過性のイオン選択性薄膜を用いている。この薄膜は、酸素がアノードからカソードに移動するのを防ぐために、アノードとカソードとの間に設けるのが好ましい。アノードと薄膜とのスペースから、溶液循環路に沿って、あるいは排気孔を通して、酸素が排出される。好ましい実施例によれば、薄膜はカソードの周囲に対称的に配置され、カソード全体を取り囲んでいる。この方法によって酸化・還元反応を円滑に行ない、槽全体に電圧を均等に分布させる。
【0011】
本発明の好ましい実施例では、銅基合金から成る物質はカソード還元の前に予備洗浄する。他の実施例では、銅基合金から成る物質にカソード還元の前に硫酸によるエッチングを施す。これによって最厚の酸化膜はカソード還元前に迅速に除去される。必要に応じて硫酸膜は機械乾燥によって除去する。本発明の好ましい実施例において、物質はカソード還元後に高速加圧水洗浄する。
【0012】
本発明によれば、酸化物除去装置での処理後に残る酸化膜の厚さは0.001〜0.01ナノメートル程度が望ましく、酸化膜がほぼ完全に除去されることが好ましい。本発明の好ましい実施例によれば、物質は、酸化物除去装置処理後に、連続式押出処理などの作業工程で処理する。酸化物除去装置および作業工程は保護ガスによって周囲から隔離されている。
【0013】
本発明はまた、銅基合金から成る物質の品質を向上させる請求項1に記載の方法を実現する装置に関するものであり、本装置は少なくとも酸化物除去装置と、カソード還元を実現するアノード、カソードおよび電解液などの要素とを含む。これらによって、アノードで発生した酸素は、酸素不透過性の薄膜によって、カソードへの接触を防止される。
【0014】
全体として、本発明を利用することにより、表面に付着する酸化物が除去されると、銅の連続押出しが容易で迅速になり、また、工程からの回収が改善される。押出し屑が出ず、装置の耐用年数も延びる。有害な酸化膜が除去されると銅製品の品質も向上する。
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明による方法をブロック図で示す。銅から成る円形のワイヤ状物質1は、酸化物除去装置3に案内する。酸化物除去装置3は、カソード還元装置を含む。酸化物除去装置によって得られる無酸化銅線2は、連続押出処理4などの作業工程に案内する。酸化物除去装置および作業工程装置は保護ガスによって周囲から隔離する。
【0017】
図2は酸化物除去装置で行なわれるカソード還元処理を断面図で示す。この実施例によれば、銅線は酸素除去前に洗浄する。その後、銅線は硫酸で予備エッチングし、これによって最厚の酸化膜を除去する。エッチング後に残留する硫酸膜は、例えば機械乾燥によって除去する。しかる後、カソード還元を行なう。銅線5は炭酸ナトリウム溶液11を満たした槽9に入れ、この槽に電流を流す。銅線5はカソードの役割を果たし、このカソード上で酸化銅を銅に還元し、これによって酸化物を銅表面からほぼ完全に取り除く。用いるアノード6は非溶解性白金アノードであり、このアノードに酸素が発生する。水溶液11は槽9いっぱいに満たされている。アノードで発生した酸素は、望ましくはカソード全体を包囲する酸素不透過性のイオン選択性薄膜8によって、接触を防止される。薄膜の覆いとして絶縁性の有孔筒10を用い、これによって流動結合を維持する。薄膜はカソードの周囲に対称的に配置するのが好ましく、そうすることによって還元および酸化反応が均等に行われる。アノード6には酸素排出孔7が設けられていて、そこを通ってアノードに発生した酸素は装置から排出される。
【0018】
当業者にとって、本発明の多様な実施例が上述の実施例に限定されるものでなく特許請求の範囲において様々に改良し得るものであることは、明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による方法の原理の模式図である。
【図2】カソード還元装置の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅基合金から成る物質の品質を向上させる方法であって、該物質を少なくとも酸化物除去装置(3)で処理する方法おいて、前記酸化物除去装置では酸化物を前記物質の表面からカソード還元によって除去することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、カソード還元で使用する電解液(11)は炭酸ナトリウム溶液とすることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、カソード還元で使用する電解液(11)は硫酸溶液とすることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の方法において、カソード還元で使用するカソード(5)は銅基合金から成る物質とし、アノード(6)は非溶解性物質とすることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、使用する前記アノード(6)はプラチナなどの非溶解性物質とすることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の方法において、カソード還元では、前記アノード(6)に酸素を発生させ、前記カソード(5)に銅を生成することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかに記載の方法において、前記アノード(6)に、酸素を排出するための少なくとも1つの排気孔を設けることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法において、カソード還元では、酸素不透過性のイオン選択性薄膜(8)を使用することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記薄膜は、酸素が前記アノードから前記カソードへ移動するのを防止するよう、前記アノードと前記カソードとの間に設けることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法において、前記薄膜(8)は、前記カソード(5)全体を取り囲むよう、前記カソードの周囲に対称的に配置することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の方法において、銅基合金から成る物質は、カソード還元の前に予備洗浄することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法において、銅基合金から成る物質に、カソード還元の前に硫酸によるエッチングを施すことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、硫酸膜は機械乾燥によって除去することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の方法において、カソード還元後に前記物質を高速加圧水洗浄することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の方法において、前記酸化物除去装置(3)の後に、銅基合金から成る物質は、連続押出処理などの作業工程(4)に案内することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記酸化物除去装置(3)および作業工程(4)は、保護ガスによって周囲から隔離することを特徴とする方法。
【請求項17】
少なくとも酸化物除去装置を含み、銅基合金から成る物質の品質を向上させる請求項1に記載の方法を実現する装置において、該装置はカソード還元を実現するアノード(6)、カソード(5)および電解液(11)などの要素を含み、前記アノードで発生した酸素は、酸素不透過性の薄膜(8)によって、前記カソードへの接触を防止されることを特徴とする装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅基合金から成る連続した物質を製造する方法であって、該連続した物質を少なくとも酸化物除去装置(3)で処理し、前記酸化物除去装置では酸化物を前記連続した物質の表面からアノード(6)、カソード(5)および電解液(11)などによるカソード還元によって除去する方法において、前記酸化物除去装置(3)の後に、前記銅基合金から成る連続した物質は、連続押出処理(4)に案内することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、カソード還元で使用する電解液(11)は炭酸ナトリウム溶液とすることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、カソード還元で使用する電解液(11)は硫酸溶液とすることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の方法において、カソード還元で使用するカソード(5)は銅基合金から成る物質とし、アノード(6)は非溶解性物質とすることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、使用する前記アノード(6)はプラチナなどの非溶解性物質とすることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の方法において、カソード還元では、前記アノード(6)に酸素を発生させ、前記カソード(5)に銅を生成することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかに記載の方法において、前記アノード(6)に、酸素を排出するための少なくとも1つの排気孔を設けることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法において、カソード還元では、酸素不透過性のイオン選択性薄膜(8)を使用することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記薄膜は、酸素が前記アノードから前記カソードへ移動するのを防止するよう、前記アノードと前記カソードとの間に設けることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法において、前記薄膜(8)は、前記カソード(5)全体を取り囲むよう、前記カソードの周囲に対称的に配置することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の方法において、銅基合金から成る物質は、カソード還元の前に予備洗浄することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法において、銅基合金から成る物質に、カソード還元の前に硫酸によるエッチングを施すことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、硫酸膜は機械乾燥によって除去することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の方法において、カソード還元後に前記物質を高速加圧水洗浄することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記酸化物除去装置(3)および作業工程(4)は、保護ガスによって周囲から隔離することを特徴とする方法。
【請求項16】
少なくとも酸化物除去装置を含み、銅基合金から成る連続した物質を製造する請求項1に記載の方法を実現する装置において、該装置はカソード還元を実現するアノード(6)、カソード(5)および電解液(11)などの要素を含み、前記アノードで発生した酸素は、酸素不透過性の薄膜(8)によって、前記カソードへの接触を防止され、該装置は連続押出処理手段(4)を含むことを特徴とする装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅基合金から成る連続した物質を製造する方法であって、該連続した物質を少なくとも酸化物除去装置で処理し、前記酸化物除去装置では酸化物を前記連続した物質の表面からアノード、カソードおよび電解液などによるカソード還元によって除去する方法において、前記酸化物除去装置の後に、前記銅基合金から成る連続した物質は、連続押出処理に案内することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、カソード還元で使用する電解液は炭酸ナトリウム溶液とすることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、カソード還元で使用する電解液は硫酸溶液とすることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の方法において、カソード還元で使用するカソードは銅基合金から成る物質とし、アノードは非溶解性物質とすることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、使用する前記アノードはプラチナなどの非溶解性物質とすることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の方法において、カソード還元では、前記アノードに酸素を発生させ、前記カソードに銅を生成することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかに記載の方法において、前記アノードに、酸素を排出するための少なくとも1つの排気孔を設けることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法において、カソード還元では、酸素不透過性のイオン選択性薄膜を使用することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記薄膜は、酸素が前記アノードから前記カソードへ移動するのを防止するよう、前記アノードと前記カソードとの間に設けることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法において、前記薄膜は、前記カソード全体を取り囲むよう、前記カソードの周囲に対称的に配置することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の方法において、銅基合金から成る物質は、カソード還元の前に予備洗浄することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法において、銅基合金から成る物質に、カソード還元の前に硫酸によるエッチングを施すことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、硫酸膜は機械乾燥によって除去することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の方法において、カソード還元後に前記物質を高速加圧水洗浄することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記酸化物除去装置および作業工程は、保護ガスによって周囲から隔離することを特徴とする方法。
【請求項16】
少なくとも酸化物除去装置を含み、銅基合金から成る連続した物質を製造する請求項1に記載の方法を実現する装置において、該装置はカソード還元を実現するアノード、カソードおよび電解液などの要素を含み、前記アノードで発生した酸素は、酸素不透過性の薄膜によって、前記カソードへの接触を防止され、該装置は連続押出処理手段を含むことを特徴とする装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2006−501362(P2006−501362A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−523829(P2004−523829)
【出願日】平成15年7月17日(2003.7.17)
【国際出願番号】PCT/FI2003/000572
【国際公開番号】WO2004/011699
【国際公開日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【出願人】(591064047)オウトクンプ オサケイティオ ユルキネン (21)
【氏名又は名称原語表記】OUTOKUMPU OYJ