説明

銅及び銅合金表面処理剤、その水溶液、表面処理された銅及び銅合金、及び銅及び銅合金の表面処理方法

【課題】結露が発生するような厳しい腐食環境でも、銅及び銅合金の変色防止が十分にでき、かつ、乾燥しても残渣が残らない水溶性銅用表面処理剤、その水溶液、その水溶液によって表面処理された銅及び銅合金、及び銅及び銅合金の表面処理方法を提供する。
【解決手段】トリアゾール系化合物と、下記一般式〔I〕で示されるアルケニルコハク酸群の中から選ばれる1種以上のアルケニルコハク酸とを含有するものである。
(化4) CHCOOH

R−CH−COOH ・・・・・〔I〕
(式中、Rは炭素原子数6〜30のアルケニル基を表す。)
また、1種以上のアミン類及び/又は1種以上のグリコール類をさらに含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅で形成される電気部品や銅で回路を形成されるプリント配線板、その他銅のメッキを表面に形成した部品等において、銅の腐食変色を防止する水溶性の銅及び銅合金用表面処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、銅又は銅合金で形成される電気部品や銅又は銅合金で回路を形成されるプリント配線板、その他銅のメッキを表面に形成した部品等において、銅及び銅合金の表面は用意に腐食されて変色されるために、変色防止剤での処理により、腐食変色を防止することが行われている。この銅及び銅合金の変色防止剤としては、ベンゾトリアゾール等を含む溶液が用いられている(例えば、下記特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−41167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のものは、結露が発生するような厳しい腐食環境では、変色防止作用が不十分なために、銅及び銅合金の変色が発生する場合がある。また、変色防止剤が乾燥することで、その残渣が銅及び銅合金の表面に残ることもあり、美観の点や絞りロール等に付着する等の後工程等において問題となることがあった。
【0004】
そこで、本発明の目的は、結露が発生するような厳しい腐食環境でも、銅及び銅合金の変色防止が十分にでき、かつ、乾燥しても残渣が残らない水溶性銅用表面処理剤、その水溶液、この水溶液によって表面処理された銅及び銅合金、及び銅及び銅合金の表面処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る水溶性の銅及び銅合金用表面処理剤は、1種以上のトリアゾール系化合物と、下記一般式〔I〕で示されるアルケニルコハク酸群の中から選ばれる1種以上のアルケニルコハク酸とを含有するものである。
(化2) CHCOOH

R−CH−COOH ・・・・・〔I〕
(式中、Rは炭素原子数6〜30のアルケニル基を表す。)
また、本発明に係る水溶性の銅及び銅合金用表面処理剤は、1種以上のアミン類及び/又は1種以上のグリコール類をさらに含有することが好ましい。また、前記1種以上のトリアゾール系化合物の濃度が1ppm以上であることが好ましく、また、5000ppm未満であることが好ましいが、さらに100〜400ppmであることが好ましい。また、前記1種以上のアルケニルコハク酸の濃度が5ppm以上であることが好ましく、また、5000ppm未満であることが好ましいが、さらに100〜400ppmであることが好ましい。
【0006】
また、上記の銅及び銅合金用表面処理剤を用いる場合には、水溶液として用いることが好ましい。また、本発明の銅又は銅合金は、上記の銅及び銅合金用表面処理剤の水溶液により表面処理されたものであることが好ましい。また、本発明の銅又は銅合金の表面処理方法は、上記の水溶液を銅又は銅合金の表面に塗布又は散布し、若しくは、上記の水溶液に銅又は銅合金を浸漬することによって、銅又は銅合金の表面の処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
上記構成により、銅及び銅合金の変色防止性能を従来よりも格段に高めることができ、しかも使用後の乾燥残渣のない水溶性の銅及び銅合金用表面処理剤を提供できる。
また、本発明の銅及び銅合金用表面処理剤の水溶液及び表面処理方法を用いることによって、高い変色防止性能を有する銅及び銅合金を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態に係る銅及び銅合金用表面処理剤は、1種以上のトリアゾール系化合物と、下記一般式〔I〕で示されるアルケニルコハク酸群の中から選ばれる1種以上のアルケニルコハク酸とを含有するものである。
(化3) CHCOOH

R−CH−COOH ・・・・・〔I〕
(式中、Rは炭素原子数6〜30のアルケニル基を表す。)
また、本発明の実施の形態に係る銅及び銅合金用表面処理剤は、1種以上のアミン類及び/又は1種以上のグリコール類をさらに含有することが好ましい。
【0009】
ここで、トリアゾール系化合物としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、クロロベンゾトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、ナフトトリアゾール等が挙げられる。なお、トリアゾール系化合物の濃度は5ppm以上であることが好ましく、また、5000ppm未満であることが好ましいが、さらに100〜400ppmであることが好ましい。濃度が5000ppm以上であると、変色防止効果が飽和して不経済となるためで、100〜400ppmであることが好ましいのは、防錆効果を得るのに最適な濃度だからである。
【0010】
また、上記式〔I〕で示されるアルケニルコハク酸群としては、具体的には、へキセニルコハク酸、オクテニルコハク酸、デセニルコハク酸、ドデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸、エイコセニルコハク酸等の群が挙げられる。なお、1種以上からなるアルケニルコハク酸の濃度は5ppm以上であることが好ましく、また、5000ppm未満であることが好ましいが、さらに100〜400ppmであることが好ましい。濃度が5000ppm以上であると、変色防止効果が飽和して不経済となるためで、100〜400ppmであることが好ましいのは、防錆効果を得るのに最適な濃度だからである。
【0011】
また、アミン類としては、アンモニア、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエチレントリアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ヘキサヒドロアニリン、ペンタエチレンヘキサミン、アリルアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノール、4−アミノブタノール、4−メチルアミノブタノール、エチルアミノエチルアミン等が挙げられる。
グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルジグリコール、アリルグリコール、イソブチルグリコール、ブチルジグリコール、イソブチルジグリコール、メチルトリグリコール、ブチルトリグリコール、グリセリン、ブチルプロピレングリコール、フェニルプロピレングリコール、メチルテトラグリコール、ポリグリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
【0012】
なお、本実施形態の銅及び銅合金用表面処理剤を水溶液として、これを銅又は銅合金の表面に塗布又はスプレー等による散布、若しくは、上記の水溶液に銅又は銅合金を浸漬することにより、表面処理することが好ましいものである。
【実施例】
【0013】
以下に実施例により本発明をさらに説明する。本発明に係る銅及び銅合金用表面処理剤の配合の代表的な組合せ及び添加量と、変色防止性能を評価する結露サイクル試験及び耐硫化ガス試験の結果と、乾燥残渣性を評価するスポット試験の結果とを表1〜8に示す。また、表9〜12に、比較例の銅及び銅合金用表面処理剤の配合の代表的な組合せ及び添加量と、変色防止性能を評価する結露サイクル試験及び耐硫化ガス試験の結果と、乾燥残渣性を評価するスポット試験の結果とを示す。
【0014】
次に、上記各試験について詳細に説明する。
なお、結露サイクル試験及び耐硫化ガス試験の前処理として、以下の変色防止処理を行うこととする。まず、試験に必要な数の銅及び銅合金試験片を20重量%硫酸に室温にて30秒浸漬させた後、流水10秒、イオン交換水3秒で洗い流し、ブロア乾燥する。その後、これらの試験片を60℃の表1〜12に示した各表面処理剤の水溶液につき1つずつ3秒間浸漬させた後、試験片表面から布で表面処理剤の水溶液を拭取り、ブロア乾燥する。
【0015】
(結露サイクル試験の方法)
上記変色防止処理に用いた銅及び銅合金用表面処理剤の種類毎に、上記変色防止処理した、それぞれ100mm×100mm×0.3mm片の無酸素銅、リン青銅及び黄銅の3枚の試験片を重ね合わせ、上下方向に9.8×10Paの圧力をかけた状態とし、図1に示すグラフ(1サイクルを示している)の条件のサイクル試験環境に放置して、変色が認められるまでのサイクル数を計測した。
【0016】
(耐硫化ガス試験の方法)
JEIDA25に準拠する方法を行った。具体的には、デシケータ中に2±1ppmのHSガスを発生させ、上記変色防止処理した20mm×80mm×0.3mm片の無酸素銅、リン青銅及び黄銅のそれぞれを40℃で20分間放置し、変色部分の面積を測定した。
【0017】
(スポット試験の方法)
20重量%の硫酸で酸洗した試験片に各銅及び銅合金用表面処理剤の水溶液を0.1ml滴下し、60℃で60分間乾燥させて、表面に残る残渣を観察した。
【0018】
なお、表1〜12における特性評価結果の表示は、以下のような基準によった。また、無酸素銅、リン青銅及び黄銅のそれぞれの試験結果は同様のものとなったので、1つにまとめて表示した。即ち、それぞれの記号には、無酸素銅、リン青銅及び黄銅の3つの試験結果が含まれていることとなっている。
(結露サイクル試験:表1〜12では「結露」と表している)
◎:31サイクル以上変色なし ○:21〜30サイクルで変色
△:11〜20サイクルで変色 ×:10サイクル以下で変色
(耐硫化ガス試験:表1〜12では「耐HS」と表している)
◎:0〜20%変色 ○:21〜40%変色
△:41〜60%変色 ×:61%以上変色
(スポット試験:表1〜12では「スポット」と表している)
◎:全く残渣は認められない ○:ごく僅かの残渣が認められる
△:少量の残渣が認められる ×:明らかな残渣が認められる
【0019】
また、各表において、BTはベンゾトリアゾール、TTはトリルトリアゾール、CBTはカルボキシベンゾトリアゾール、TEAはトリエタノールアミン、DIPAはジイソプロパノールアミン、PGはプロピレングリコール、MDGはメチルジグリコールを示す。また、各物質の数値の単位はppmである。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
【表6】

【0026】
【表7】

【0027】
【表8】

【0028】
【表9】

【0029】
【表10】

【0030】
【表11】

【0031】
【表12】

【0032】
【表13】

【0033】
【表14】

【0034】
表1〜9(実施例)と表10〜14(比較例)とを比較すると、実施例に係る各銅及び銅合金用表面処理剤の水溶液は、比較例のものより変色防止性能を格段に高めることができることがわかる。乾燥残渣については、比較例に比べ、実施例のものは同等又はほとんどないものとなった。これにより、変色防止性能が付加された銅及び銅合金を提供できることがわかる。
【0035】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
銅及び銅合金の表面処理時に残る銅及び銅合金用表面処理剤の水溶液を温風で吹き飛ばせば、表面にシミを残すことなく除去できる。また、表面処理によって銅及び銅合金の表面に変色防止皮膜ができるわけだが、この皮膜はアルカリ樹脂液や薄い酸で簡単に除去することができる。したがって、後行程の半田付け工程やメッキ工程に悪影響を及ぼすことがない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】結露サイクル試験の条件を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のトリアゾール系化合物と、下記一般式〔I〕で示されるアルケニルコハク酸群の中から選ばれる1種以上のアルケニルコハク酸とを含有する銅及び銅合金用表面処理剤。
(化1) CHCOOH

R−CH−COOH ・・・・・〔I〕
(式中、Rは炭素原子数6〜30のアルケニル基を表す。)
【請求項2】
1種以上のアミン類及び/又は1種以上のグリコール類をさらに含有する請求項1記載の銅及び銅合金用表面処理剤。
【請求項3】
前記トリアゾール系化合物の濃度が1ppm以上である請求項1又は2に記載の銅及び銅合金用表面処理剤。
【請求項4】
前記1種以上のアルケニルコハク酸の濃度が5ppm以上である請求項1〜3のいずれかに記載の銅及び銅合金用表面処理剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の銅及び銅合金用表面処理剤の水溶液。
【請求項6】
請求項5記載の水溶液により表面処理された銅又は銅合金。
【請求項7】
請求項5記載の水溶液を銅又は銅合金の表面に塗布又は散布し、若しくは、請求項5記載の水溶液に銅又は銅合金を浸漬することによって、銅又は銅合金の表面の処理を行う銅又は銅合金の表面処理方法。

【図1】
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