説明

銅条又は銅合金条の変色防止方法及び銅条又は銅合金条

【課題】設備面での大改造を行わずに、予めBTA処理された銅条又は銅合金条間にTTA布を巻き付けることにより、容易に銅条又は銅合金条表面にBTA皮膜とTTA皮膜との複合皮膜による防錆皮膜を形成することができる銅条又は銅合金条の変色防止方法及び銅条又は銅合金条を提供する。
【解決手段】TTAを含ませたTTA布7を作製し、該TTA布7をBTA処理した銅条又は銅合金条8間に接触させることにより前記銅条又は銅合金条8表面にBTA皮膜とTTA皮膜との防錆皮膜を形成させることを特徴とする銅条又は銅合金条の変色防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、湿気の多い時期に対する新規な銅条又は銅合金条の変色防止方法及び銅条又は銅合金条に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、銅条又は銅合金条は、アンコイラーから送り出され、ラインの終わりの部分を通過し、リコイラーで巻き取られる。
【0003】
特許文献1には、銅又は銅合金板をスリッタによって切断する製造ラインにおいて、スリッタ工程前、スリッタ工程中又はスリッタ工程後に、銅又は銅合金板にベンゾトリアゾール(BTA)、トリトリアゾール(TTA)等の防錆剤を気化させた気体と接触させて防錆処理を施す銅又は銅合金条の防錆処理方法が示されている。
【0004】
特許文献2には、減圧された環境下でBTAを加熱して昇華したBTAを銅管、銅条、銅帯、銅棒等の銅製品の表面に蒸着させる防錆剤塗布方法が示されている。
【0005】
特許文献3には、銅又は銅合金からなるリードフレームと半導体素子とワイヤボンデングしてなる半導体装置において、そのリードフレーム表面に銀とBTA、TTA等の有機系インヒビターとを有する水溶液中に浸漬させて、その後に水洗いして乾燥させて有機皮膜を形成することにより酸化膜の形成を抑制して組み立て信頼性を向上させることが示されている。
【0006】
非特許文献1には、銅及び銅合金の腐食抑制剤(インヒビター)として、BTA水溶液に浸漬させてその表面に形成されたCuBTA皮膜の保護性が処理温度と共に増大すること、又、BTAとTTAを混合させると優れた抑制効果が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−113184号公報
【特許文献2】特開2001−220660号公報
【特許文献3】特昭63−261735号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】能登谷武紀、防食技術、27、661−670(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3、非特許文献1においては、防錆処理(BTA処理)は水溶液による処理であるため、一部乾燥不具合(水滴残り)があると、その部分が変色してしまう。また、湿気は、変色を促進する作用があるため、湿気の多いところに銅条又は銅合金条をさらしておくと、ある一部の部分(湿気の多い部分)から、変色が発生するという問題がある。
【0010】
これらの問題を解消できる技術として、特許文献1、2においては、減圧下や加熱下で防錆処理を施す例や、気化防錆槽を設けることが知られているが、このような方法をとる場合、設備面での大改造が必要となってしまう。
【0011】
又、リコイラーで巻き取った後、複数の条にスリッタ加工されるが、条の側面は防錆処理が施されておらず、銅条又は銅合金条が酸化する虞がある。
【0012】
本発明の目的は、設備面での大改造を行わずに、予めBTA処理された銅条又は銅合金条間にTTA布を巻き付けることにより、容易に銅条又は銅合金条表面にBTA皮膜とTTA皮膜との複合皮膜による防錆皮膜を形成することができる銅条又は銅合金条の変色防止方法及び銅条又は銅合金条を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、TTAを含ませたTTA布を作製し、該TTA布をBTA処理した銅条又は銅合金条間に接触させることにより前記銅条又は銅合金条表面にBTA皮膜とTTA皮膜との防錆皮膜を形成させることを特徴とする銅条又は銅合金条の変色防止方法にある。
【0014】
又、本発明においては、前記銅条又は銅合金条をアンコイラーからリコイラーへ一定速度で送り出し、前記リコイラーの部分で前記銅条又は銅合金条を巻き取る際に、前記銅条又は銅合金条と前記リコイラーとの間に前記TTA布を挟み込むこと、又、前記TTA布には吸水性ポリマーをその全面に均一に塗布することが好ましい。
【0015】
更に、本発明は、銅条又は銅合金条の表面に形成されたBTA皮膜上にTTA皮膜が形成されていることを特徴とする銅条又は銅合金条にある。
【0016】
本発明のより具体的な防錆処理方法は、BTA処理→水切ロール→乾燥室(ドライヤー)の工程を経た後に、リコイラーの部分でTTA布を銅条又は銅合金条間に挟みこんでいくことにより、銅条又は銅合金条の表面に強力な防錆皮膜を形成させるものであり、このBTAとTTAとを併用することにより更に優れた腐食抑制効果(変色抑制効果)を示すものである。
【0017】
即ち、先ず、BTA処理終了後、リコイラーに銅条又は銅合金条を巻取る際、TTA(トリトリアゾール)溶液にコットン状の布を浸漬させ、乾燥させて、TTA布を形成させ、このTTA布を銅条又は銅合金条とリコイラーとの間に挟みこみ、銅条又は銅合金条を巻き取ると同時にTTA布も巻き取り、BTA処理面にTTA布を接触させることにより、予めBTA処理された銅条又は銅合金条表面のBTA皮膜とTTA布から昇華し狭着したTTA皮膜との形成により優れた防錆皮膜を形成させることができる。TTAは、ナフタレンと構造式の形が似ているため、常温で昇華する(昇華性を有する)ことが可能な腐食抑制剤である。
〔TTA布の作製方法〕
【0018】
TTAを水やメチルアルコールに溶解して、TTA液を調製し、その調製したTTA溶液(防錆溶液)にコットン状の布を一定時間浸漬後、布を取り出し、常温で乾燥させることによりTTA布が作製される。
〔吸水性ポリマーの種類〕
【0019】
TTAが塗布されたコットン状の布には、吸水性ポリマーのポリアクリル酸ナトリウム等を塗布させる。この吸水性ポリマーにより一部乾燥不具合があった場合の銅条又は銅合金条表面に残留したBTA水溶液の水滴残りを除去することが可能である。
〔TTA布の銅条又は銅合金条間への挟み込みによるTTA皮膜の形成〕
【0020】
アンコイラーから送り出された銅条又は銅合金条は、BTA処理、水切ロール、乾燥室(ドライヤー)を経て、リコイラーに2〜3周巻きつけた後、銅条又は銅合金条とリコイラーとの間にTTA布を挟みこむことにより、銅条又は銅合金条をリコイラーにより巻き取ると同時にTTA布を銅条又は銅合金条間に巻き付ける。
【0021】
TTA布が条間に巻回された銅条又は銅合金条は、スリッター工程で一定幅にスリット加工され、次いで、スリット加工した銅条又は銅合金条は所定のドラムに巻き取ると共に、銅条又は銅合金条からTTA布を専用のロールに巻き取り回収される。
【0022】
このスリット切断されTTA布を巻いた銅条又は銅合金条の表面では、その工程中に予めBTA処理工程で吸着したBTAとTTA布から昇華したTTAの吸着により、BTA皮膜とTTA皮膜の複合皮膜による強力な防錆皮膜を形成させることができる。
〔銅条又は銅合金条の側面への防錆皮膜の形成〕
【0023】
TTAの昇華性を利用して、スリット加工後のコイル状に巻回された銅条又は銅合金条の側面は裸の銅条又は銅合金条が剥き出しになるので、コイルの側面にドーナツ状のTTA布の貼り付けることにより銅条又は銅合金条の側面に防錆皮膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、設備面での大改造を行わずに、予めBTA処理された銅条又は銅合金条間にTTA布を巻き付けることにより、容易に銅条又は銅合金条表面にBTA皮膜とTTA皮膜との複合皮膜による防錆皮膜を形成することができる銅条又は銅合金条の変色防止方法及び銅条又は銅合金条を提供するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の銅条又は銅合金条の表面にBTA皮膜とTTA皮膜との防錆皮膜を形成させる防錆皮膜形成装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の銅条又は銅合金条の表面にBTA皮膜とTTA皮膜との防錆皮膜を形成させる防錆皮膜形成装置を示す断面図である。
【0027】
図1に示すように、厚さ0.1〜0.5mm、幅480〜640mmを有する銅条又は銅合金条8をアンコイラー1から一定速度で送り出され、約60℃、0.25%のベンゾトリアゾールのBTA水溶液10を有するBTA処理装置2への浸漬、BTA水溶液10の水切ロール3、乾燥室(ドライヤー)4を順次通過させた後、リコイラー9に銅条又は銅合金条8を2〜3周巻きつける。その後に、棒5にトリトリアゾールのTTAが塗布されたTTA布7を巻き付けたTTAロール6からTTA布7を引っ張りだし、銅条又は銅合金条8とリコイラー9との間にTTA布7を挟みこみ、銅条又は銅合金条8をリコイラー9に巻き取ると同時にTTA布7を条間に巻いていく。
【0028】
TTA布は、TTAを水やメチルアルコールに溶解し、調整されたTTA溶液にコットン状の布を一定時間浸漬後、布を取り出し、常温で乾燥させ、次いで、コットン状の布に吸水性ポリマーのポリアクリル酸ナトリウムを塗布する。この吸水性ポリマーにより一部乾燥不具合があった場合の銅条又は銅合金条8表面に残留したBTA水溶液10の水滴残りを除去することが可能である。
【0029】
リコイラー9では、銅条又は銅合金条8の上下面にTTA布7が介在しており、次工程のスリット加工までの間にTTA布7からの常温でのTTAの昇華によりBTA皮膜上に更にTTA皮膜が形成される。
【0030】
その後、銅条又は銅合金条8間にTTA布7が巻かれた銅条又は銅合金条8は、スリッター工程で一定幅にスリット加工される。スリット加工した銅条又は銅合金条8は製品コイルとして所定のドラムに巻き取ると同時に、TTA布7は専用のロールに巻き取り回収する。スリット加工された銅条又は銅合金条8には、BTA皮膜とTTA皮膜の複合皮膜が形成される。
【0031】
スリッター工程では、銅条又は銅合金条8をスリット切断し、製品として巻き取ったコイルのエッジ部分は、金属が剥き出しになっているので、前述のTTA布7と同様にドーナッツ状のTTA布の防錆布を作製し、製品コイルの側面に貼り付けることにより、エッジ部分にTTA皮膜による防錆処理を形成させた。
【0032】
以上の本実施例によれば、BTA処理した銅条又は銅合金条間に吸水性ポリマーの塗布による湿気対策を付加したTTA布を挟みこみ、TTAの昇華性を利用して銅条又は銅合金条表面に強力なBTA皮膜とTTA皮膜の複合皮膜による防錆皮膜を形成させることができる。
【0033】
即ち、本実施例においては、昇華によるTTAよって予め銅条又は銅合金条表面に付着したBTA皮膜に付着させることにより銅条又は銅合金条表面にBTA皮膜とTTA皮膜の複合皮膜による優れた腐食抑制効果を有する強力な防錆皮膜を容易に形成させることができる。又、条側面も同様に防錆被膜を形成させることができる。
【0034】
従って、本実施例においては、銅条又は銅合金条の表面の変色に対する品質の信頼性を向上させることができる。
【0035】
そして、本実施例においては、TTAは、BTAの構造式中のベンゼン環のオルト位にメチル基が共有結合した化合物であり、又、BTAもTTAもナフタレンと構造式の形が類似しているため、昇華性を示し、物の自然な性質を利用しているため、特別なエネルギーを必要とせず、又、従来あるBTA処理装置にTTAロールを設けるだけのTTA処理のための大掛かりな設備的な改造を行う必要がなく、BTA皮膜とTTA皮膜の複合皮膜による防錆被膜を形成させることができる。
【符号の説明】
【0036】
1…アンコイラー、2…BTA処理装置、3…水切ロール、4…乾燥室(ドライヤー)、5…TTA布巻き付ける棒、6…TTAロール、7…TTA布、8…銅条又は銅合金条、9…リコイラー、10…BTA溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TTAを含ませたTTA布を作製し、該TTA布をBTA処理した銅条又は銅合金条間に接触させることにより前記銅条又は銅合金条表面にBTA皮膜とTTA皮膜との防錆皮膜を形成させることを特徴とする銅条又は銅合金条の変色防止方法。
【請求項2】
請求項1において、前記銅条又は銅合金条をアンコイラーからリコイラーへ一定速度で送り出し、前記リコイラーの部分で前記銅条又は銅合金条を巻き取る際に、前記銅条又は銅合金条と前記リコイラーとの間に前記TTA布を挟み込むことを特徴とする銅条又は銅合金条の変色防止方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記TTA布には、吸水性ポリマーをその全面に均一に塗布することを特徴とする銅条又は銅合金条の変色防止方法。
【請求項4】
銅条又は銅合金条の表面に形成されたBTA皮膜上にTTA皮膜が形成されていることを特徴とする銅条又は銅合金条。

【図1】
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【公開番号】特開2012−180580(P2012−180580A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45847(P2011−45847)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】