説明

銅汚染土壌における水稲の生育障害防止方法

【課題】「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の基準値を十分に満足するような土壌中の銅への抑制効果があり、それを長い期間に渡って安定して持続できる、水稲の銅による生育障害を防止する方法を提供すること。
【解決手段】水稲の銅による生育障害の防止方法であって、土壌に炭酸カルシウム、ケイカル肥料からなる石灰系資材と石膏系資材とを併せて施用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱山周辺地域等で銅に汚染された圃場での水稲の生育障害を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農用地の銅による土壌汚染は、鉱物資源が賦存する地域である鉱化地帯による影響や、鉱山等での事業活動による影響など、自然汚染及び人為汚染などが原因で生じる。昭和45年に制定され、翌46年6月5日に施行された「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」ではこの様な銅によって生じる水稲の生育障害を防止するため、土壌中の銅の濃度基準を125mg/kg(0.1N−HClでの溶出量を乾土当りに換算)と定めている。この値を超えた場合、法律上、地方自治体の長は当該圃場を指定地域として指定し、圃場の中で水稲の耕作に使われている作土層を、その更に下層の非汚染土壌と入れ替える方法である「天地返し」や排土客土等の工法を用いて土壌改良を実施することが出来る、とされている。但し、これらの改良には1ha当り約3,000万円と高額の費用が発生し、入れ替えた非汚染土壌が耕作に適する肥沃な土壌に復元するまでに多大の費用や労力を有するという欠点があった。
【0003】
そのため、土壌改良資材を用いる方法として、従来、軽量気泡コンクリート粉末肥料(ALC)、ケイカル肥料、及び炭酸カルシウムや消石灰等(石灰質肥料)などのアルカリ資材を圃場に投入して、土壌中の銅を不溶化し、水稲に吸収させない方法が考えられてきた(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照。)。
【非特許文献1】渋谷政夫 編著;土壌汚染の機構と解析−環境科学特論−;産業図書
【非特許文献2】渋谷政夫、小山雄生、渡辺久雄;重金属測定法 土壌汚染元素と定量法の解説;pp.73−93;昭和53年9月1日;博友社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のALC、ケイカル肥料、石灰質肥料などを用いて土壌中の銅を不溶化する場合、以下の1)から4)に示すような問題を有しており、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」での土壌中の銅の基準値を満足するまでに多量のアルカリ資材を投入すると銅汚染土壌に起こり易い水稲の鉄欠乏を助長し、生育を抑制してしまという欠点があった。
1)軽量気泡コンクリート粉末肥料(ALC)による方法にあっては、ALCが微細な空隙を有するケイ酸カルシウムの粉末からなり、適度な水への溶解性と土壌のpH調節効果があるため、土壌中の銅の不溶化方法としては期待が持てるものであるが、土壌中の銅濃度を「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の基準値以下に完全にはなし得ない。また、ALCは製造元が限られており、近年は生産量が低下しているため、その確保が難しく、また価格が高いという問題があった。
2)ケイカル肥料による方法にあっては、ケイカル肥料が、ALCと同様の成分を有しているが、ガラス質であるため水への溶解性が小さく、慣行施用量程度では土壌中の銅の不溶化には十分な期待ができないという問題があった。
3)石灰質肥料による方法にあっては、炭酸カルシウムを用いた場合、土壌中の銅の不溶化が出来ても、炭酸カルシウム自体が水稲に生育不良を発生させてしまうという大きな問題があった。
4)消石灰(水酸化カルシウム)を用いた場合は、一時的に土壌のpHを調整し、銅を不溶化する働きはあるものの土壌中の銅濃度を「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の基準値である125mg/kg以下にすることが難しく、また不溶化効果が持続しないため、土壌中の銅を長期に渡って抑制する効果が期待できないことと、多量に投入すると水稲へアルカリ障害を発生させる恐れがあるという問題があった。
【0005】
以上のように、上記1)から4)の方法はそれぞれの効果があるものの、充分な量の確保が困難である、効果の発現が小さい、水稲の生育不良の発生、効果の持続性が小さい等の理由のため、効果的な抑制方法が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の基準値を十分に満足するような土壌中の銅への抑制効果があり、それを長い期間に渡って安定して持続できる、水稲の銅による生育障害を防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これまで銅による汚染土壌に対して種々のアルカリ資材を投入して土壌中の銅の不溶化、水稲への影響の抑制を研究してきたが、アルカリ資材を通常の慣行施用量程度で投入しても「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の基準値を満足する結果は得られず、また不溶化を促進するため例えば慣行施用量の10倍程度のかなり多量の資材量を投入するとALC以外は水稲に生育障害を起こすという欠点があった。
この様な経験を踏まえ、鋭意研究開発を進めた結果、石灰系資材と石膏系資材とを複合した資材を用いることにより、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の土壌基準値を満足し、なおかつ水稲の銅による生育障害の防止に効果のあることを見いだした。
【0008】
かかる課題を解決するため、請求項1にかかる発明は、水稲の銅吸収抑制方法であって、土壌に、炭酸カルシウム、ケイカル肥料の少なくとも1種からなる石灰系資材と石膏系資材とを併せて施用することを特徴とする。
【0009】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の水稲の銅による生育障害の防止方法であって、前記石灰系資材と前記石膏系資材との合計量に対して、前記石灰系資材の含有量が90〜99質量%、前記石膏系資材の含有量が1〜10質量%であることを特徴とする。
【0010】
請求項3にかかる発明は、請求項1又は2に記載の水稲の銅による生育障害の防止方法であって、前記石灰系資材が、炭酸カルシウムであることを特徴とする。
【0011】
請求項4にかかる発明は、請求項1又は2に記載の水稲の銅による生育障害の防止方法であって、前記石灰系資材が、ケイカル肥料であることを特徴とする。
【0012】
請求項5にかかる発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水稲の銅による生育障害の防止方法であって、前記石灰系資材を10aあたり2〜5t施用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水稲の銅による生育障害の防止方法によれば、十分に土壌中銅の抑制効果が発揮でき、これを長期に渡って安定して持続できるとともに銅による水稲の生育障害を回避することができる。また、施用するための資材の国内での安定供給が可能であるとともに、天地返しや排土客土等の工法と比較して、コストが約20分の1と安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いる石灰系資材は、炭酸カルシウム(CaCO)とケイカル肥料(CaO・SiOを主成分とするもの)の少なくとも1種を含有して構成されている。
例えば、炭酸カルシウムを含有するものとしては、石灰石を粉砕・細粒化したものや牡蠣・ホタテの貝殻等を用いることができる。
また、ケイカル肥料としては、高炉スラグ等(鉱さいケイ酸質肥料、可溶性ケイ酸10%以上の他にアルカリ分35%を保証するケイ酸質肥料)を用いることができる。
【0015】
本発明に用いる石膏系資材には、無機硫酸塩を含有する資材、無機亜硫酸塩を含有する資材、無機硫化物を含有する資材、及び土壌中で酸化還元反応によりこれらと同等の効果を有する資材等を用いることができる。無機硫酸塩を含有する資材としては、例えば、二水石膏(CaSO・2HO)、半水石膏(CaSO・0.5HO)、無水石膏(CaSO)等の石膏が挙げられる。また、硫酸、過リン酸石灰、苦土リン酸石灰、硫酸カリ苦土、硫酸アンモニウム等は、土壌に散布した後、溶解や稲作土壌の酸化還元反応によって石膏と同様の効果を発現することができる。そのなかでも、石膏が好ましい。
【0016】
炭酸カルシウムと石膏系資材とを併用するのは、炭酸カルシウムのみでは、水稲の生育が阻害されるためであり、一方、石膏系資材のみでは、銅の不溶化効果がないからである。
石灰系資材と石膏系資材とを併用することにより、銅の溶出を制限するとともに水稲の生育障害を防止することができる。
【0017】
この石灰系資材と石膏系資材との混合割合については、石灰系資材と石膏系資材との合計量に対して、石灰系資材の含有量は、好ましくは90〜99質量%、より好ましくは95〜99質量%であり、石膏系資材の含有量は、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。石灰系資材と石膏系資材との合計量に対して、石膏系資材の含有量を1〜10質量%とするのは、この含有量が1質量%未満であると水稲の生育不良が発生するからであり、一方10質量%を超えると石膏系資材が過剰となることによる水稲の生育への悪影響が懸念されることや、石膏系資材が水への溶解度以上に供給されて経済性を欠くことになるからである。
【0018】
また、本発明では、この石灰系資材を10aあたり好ましくは2〜5t施用する。一般的な肥料の施用量は50〜300kg(0.05〜0.3t)であるのに対し、この施用量は大量施用に当たるが、水への溶解度が低いため、大量に施用することができる。石灰系資材を10aあたり2〜5t施用することにより、pH低下を防止できるため、土壌中の銅の不溶化効果を長期的に維持することができ、1度施用すれば以降の数年以上長期に亘って施用する必要はなく、また追肥を行う必要もない。
【0019】
また、石膏系資材の施用量は、10aあたり0.02〜0.50tであるのが好ましい。石膏系資材自体は肥料として一般に使用されているものであり、水稲の生育を促進する効果を有し、施用自体に問題はなく、必要に応じて少量の追肥をすればよい。
石灰系資材と石膏系資材の具体的な施用方法は、慣行法でよいが、少なくとも作土の深さ(15〜20cm程度)に施すのが好ましい。
【0020】
本発明では、水稲として、ひとめぼれ、ササニシキ、ササロマン、コシヒカリ、あきたこまち等を用いることができる。本発明の土壌中の銅不溶化方法では、水田への資材の鍬込みは、稲作の刈り取り後から作付け前の間に実施する。まず水田を耕起整地した後、土壌に石灰系資材と石膏系資材とをそれぞれ又は併せて施用する。田植後の水管理は、慣行管理による。具体的には、田植期から1月間程度は浅水した後、間断潅水を行い、次いで最高分げつ期の1週間前頃中干しを行う。最高分げつ期以降、幼穂形成期及び出穂期の間は、間断潅水を行う。その後、出穂25日以降に落水し、出穂後40〜50日頃籾の約90%程度が黄色となり、穂軸が1/3程度黄変した時期に刈り取りを行う。
【0021】
石灰系資材の施用は、水田土壌の酸性化を防止することにある。そのために石灰系資材の土壌への均一な分散が望まれるが、水田の耕作作業から見ると均一性分散には限界がある。したがって確実な土壌の酸性化防止効果を望むには、本発明のように石灰系資材の大量施用により石灰系資材分布の濃度を高くするのがよい。
【0022】
また、石膏系資材の施用により、石膏系資材から溶出した硫酸イオンは、還元条件下で硫化物に変化するが、銅イオンは硫化物として土壌中で不溶化しストックされ、また稲作作業上落水した場合もストックされた還元物質の効果により、銅は溶出しにくくなると推定される。
【0023】
また、化学便覧(丸善)によると、CaSO・2HOの溶解度は0.2080g/100gHO(25℃)、CuSO・5HOの溶解度は22.8g/100gHO(25℃)であるのに対し、CuSの溶解度は3.3×10−5g/100gHO(18℃)、Cu(OH)の溶解度は3.0×10−5g/100gHO(25℃)とこれらよりも低く、硫黄(S)が還元された硫化物態、水酸化物態等になることにより、銅の溶解度が低下するため、土壌中で銅が不溶化することになる。
【0024】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0025】
以下の実施例及び比較例において、使用した資材は以下の通りである。
炭酸カルシウムは、石灰石を微粉にした火力発電所向け排煙脱硫用の炭酸カルシウムを用いた。また、石膏は、硫酸を炭酸カルシウムで中和した二水石膏を用いた。ALC粉末肥料は、S社T工場の生産品を用いた。ケイカル肥料は市販品を用いた。
【0026】
[実施例1]
鉱山周辺地域における銅を含有する圃場で試験を行った。初期土壌の銅濃度農地用土壌汚染対策地域のCu検定法(昭和47年、総令66、0.1N−HClでの溶出量を乾土当りに換算)(以下、銅濃度測定法という)により測定したところ、192〜199mg/kgであった。
【0027】
この土壌を耕起整地し、耕起深度20cmで炭酸カルシウム3,000kg(3t)/10a、石膏を150kg(0.150t)/10a施用した。水稲は、あきたこまちを用い、6月2日に水稲作付けし、水管理は慣行管理で行った。
【0028】
苗が活着後は浅水管理で、6月下旬から7月上旬に中干しをした。中干し以降間断灌水をし、穂ばらみ期から出穂期の間は浅水灌水で管理した。その後は間断潅水を行い、出穂25日以降に落水し、出穂後45日頃収穫した。
【0029】
水稲作付け前日(6月1日)と、6月23日と、7月21日と、収穫時(9月15日)に、土壌を採取するとともに上記銅濃度測定法により銅濃度を測定した。それぞれに時期における、土壌の銅濃度を表1に示す。
【0030】
また、水稲を栽培し、収穫時(9月15日)における稈長(茎の長さ)、1株あたりの穂数、藁の重量、玄米の重量を測定した。資材の種類と施用量、収穫時(9月15日)における稈長(cm)、穂数(本/株)、藁重量(g/m)、玄米重量(g/m2)を、表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
[比較例1〜5]
石灰系資材の種類と石膏との施用量を変えた以外は実施例1と同様に水稲を栽培し、実施例1と同じ条件(銅濃度測定法、時期)にて土壌中の銅濃度を測定するとともに、実施例1と同時期に収穫し、稈長、1株あたりの穂数、藁の重量、玄米の重量を測定した。
これら比較例1〜5における資材の種類と施用量、土壌における銅濃度を表1に、資材の種類と施用量、収穫時(9月15日)における稈長(cm)、穂数(本/株)、藁重量(g/m)、玄米重量(g/m2)を、表2に示す。
【0033】
[実施例2]
石灰系資材の種類を変えたこと以外は実施例1と同様であり、実施例2における資材の種類と施用量、土壌中の銅濃度を表1に、資材の種類と施用量、収穫時(9月15日)における稈長(cm)、穂数(本/株)、藁重量(g/m)、玄米重量(g/m2)を、表2に示す。
【0034】
[実施例3]
石灰系資材として炭酸カルシウム及びケイカル肥料を混合したものを用いたこと以外は実施例1と同様であり、実施例2における資材の種類と施用量、土壌中の銅濃度を表1に、資材の種類と施用量、収穫時(9月15日)における稈長(cm)、穂数(本/株)、藁重量(g/m)、玄米重量(g/m2)を、表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表1、表2の結果から、
何も施用しない比較例1(対照)では、土壌中の銅濃度は164mg/kgと基準値(125mg/kg)を上回り、収穫された玄米の重量は496g/mと、比較例3に次いで2番目に少なかった。
ALC粉末肥料のみを施用した比較例2では、土壌中の銅濃度は114mg/kgとほぼ基準値と同等の濃度であり、十分な不溶化効果はみられなかった。なお、収穫された玄米の重量はALCの肥料効果で668g/mと、比較例1(対照)を上回った。
【0037】
また、炭酸カルシウムのみを施用した比較例3では、土壌中の銅濃度は13mg/kgと、基準以下まで大幅に減少したものの、収穫された玄米の重量は418g/mと、比較例1(対照)よりも更に少ない収穫量となった。
ALC粉末肥料と石膏系資材とを併用した比較例5では、比較例2と同様にALCの肥料効果で玄米重量は758g/mと比較例1(対照)を上まわったが、土壌中の銅濃度はあまり減少せず149mg/kgと基準以上であった。
【0038】
これらに対し、炭酸カルシウムと石膏とを併用した実施例1では、土壌中の銅濃度は13mg/kgと、基準以下まで大幅に減少するとともに、玄米重量が639g/mと比較例1(対照)や比較例3を大幅に上回った。
また、ケイカル肥料と石膏系資材とを併用した実施例2では、土壌中銅濃度は36mg/kgと、基準値以下となり、玄米重量は673g/mとなり、比較例1(対照)や比較例4を大幅に上回った。
【0039】
ケイカル肥料のみの比較例4は、土壌中銅濃度は63mg/kgと基準値以下となっているが、水稲体の生育量は、総合的に判断すると、比較例1(対照)とあまり差異のない値であった。
【0040】
また、炭酸カルシウムとケイカル肥料とを混合した石灰系資材と、石膏系資材とを併用した実施例3では、土壌中銅濃度は25mg/kgと、基準値以下となり、玄米重量は650g/mとなり、実施例2を下回ったものの、比較例1(対照)やケイカル肥料のみの比較例4を大幅に上回った。
【0041】
[実施例4]
土壌中の銅濃度が約700mg/kgと非常に高い銅濃度の土壌に資材を投入し、ポット内にて約4ヶ月を経過した時点で土壌を採取して、土壌中の銅濃度を上記銅濃度測定法にて測定した。
【0042】
石灰系資材の種類と石膏との施用量を変えた以外は実施例1と同様であるが、実施例4においては、水稲の栽培をせずに資材を施用した土壌がポット内で約4ヶ月を経過した時点の土壌のpH、及び銅の濃度を測定した。
資材の種類と施用量、経時後の土壌pH、銅濃度を、表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
[比較例6〜16]
石灰系資材の種類と石膏との施用量を変えた以外は実施例4と同様にして、土壌のpH、及び銅濃度を測定した。資材の種類と施用量、経時後の土壌pH、銅濃度を、表3に示す。
【0045】
また、表3の結果によると、
何も施用しなかった比較例6は、土壌pHが6.6、銅濃度が685mg/kgであり、比較例6と、実施例4、及び比較例7〜16について対比、検討する。
【0046】
比較例7は、ALC粉末肥料3000kg/10aと、石膏系資材150kg/10aを施用したものであり、土壌pHが6.6、銅濃度が525mg/kgであり、土壌pHに変化はなく、また、銅濃度の低下に対しての効果もあまり認められず、基準値以上であった。
【0047】
比較例8は、消石灰250kg/10aと、石膏系資材12.5kg/10aを施用したものであり、土壌pHが7.0、銅濃度が485mg/kgであり、銅濃度の低下に対してあまり効果は認められず、基準以上であった。
【0048】
炭酸カルシウムのみを施用した比較例9〜11は、土壌pHが7.2〜7.4とアルカリ性に傾き、銅濃度が2.8mg/kg〜198mg/kgと大幅に減少しており、炭酸カルシウムは銅濃度の低下に大きな効果が認められた。また、炭酸カルシウムを単独で用いた場合、2000kg/10a以上、施用することで銅濃度の低下に著しい効果が認められる。
【0049】
次に、ALC粉末肥料のみを施用した比較例12〜14は、土壌pHが7.3〜6.8、銅濃度が517mg/kg〜551mg/kgであり、ALC粉末肥料の施用量が大きい程、銅濃度の低下に対して効果が認められるが、その効果は大きくなく、全て基準以上であった。
【0050】
次に、消石灰のみを施用した比較例15、16は、土壌pHが6.6、銅濃度が623mg/kg〜753mg/kgであり、消石灰の施用量に関わらず土壌pHに変化はなく、銅濃度の低下に対しての効果がほとんど認められず、全て基準以上であった。
【0051】
実施例4は、炭酸カルシウム4000kg/10aと、石膏系資材200kg/10aを施用したものであり、土壌pHが7.5、銅濃度が3.7mg/kgであり、銅濃度の低下に対しては著しい効果が認められた。
【0052】
以上の結果から、本発明の銅汚染土壌における水稲の生育障害防止方法は、炭酸カルシウムを単独で用いた場合と遜色ない土壌の銅溶出を抑制効果が発揮できるとともに、水稲の生育を促進できることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌に、炭酸カルシウム、ケイカル肥料の少なくとも1種からなる石灰系資材と石膏系資材とを併せて施用することを特徴とする水稲の銅による生育障害の防止方法。
【請求項2】
前記石灰系資材と前記石膏系資材との合計量に対して、前記石灰系資材の含有量が90〜99質量%、前記石膏系資材の含有量が1〜10質量%であることを特徴とする請求項1に記載の水稲の銅による生育障害の防止方法。
【請求項3】
前記石灰系資材が、炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水稲の銅による生育障害の防止方法。
【請求項4】
前記石灰系資材が、ケイカル肥料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水稲の銅による生育障害の防止方法。
【請求項5】
前記石灰系資材を10aあたり2〜5t施用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の水稲の銅による生育障害の防止方法。


【公開番号】特開2007−202419(P2007−202419A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21994(P2006−21994)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】