説明

鋳型の穴あけ方法及び穴あけ工具並びに鋳型の穴あけ装置

【課題】鋳型への穴あけを、鋳型の破損を抑制しつつ小さな荷重で実施できること。
【解決手段】中空構造で内側に空気を流す工具流路19が形成され、外周に、穴あけ工具15の先端15Aから基端15Bへ延びるスリット21が周方向に複数形成されると共に、これらのスリット21間に設けられた突出部22の先端に、内側に傾斜した刃23が形成された穴あけ工具15を用意し、この穴あけ工具15を支持パイプ13の先端に装着し、これらの穴あけ工具15及び支持パイプ13を軸方向に移動させて鋳型1の砂3に突き刺す際に、支持パイプ13から穴あけ工具の工具流路19に空気を流し、穴あけ工具15の刃23で鋳型1の砂3を穴あけ工具15の内側に崩し、工具流路19からスリット21内に流れる空気の作用で刃23により崩した砂3を、スリット21を経て鋳型1の外へ排出しながら鋳型1に穴をあけるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型(特に砂型)にガス抜き穴などの穴をあける鋳型の穴あけ方法及び穴あけ工具並びに鋳型の穴あけ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳型(砂型)にガス抜き穴などの穴をあける方法は、穴あけピン(ガス抜き針)をシリンダ装置により移動させて押し抜きにより形成するもの(特許文献1参照)と、穴あけドリルを回転させて切削により形成するものとがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−10284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
穴あけピンを押し抜くことにより鋳型にガス抜き穴を形成する方法では、図6(B)に示すように、穴あけピン101を鋳型102の砂103に挿入したとき、鋳型102の体積が変化しないので、この鋳型102内の砂103に過大な圧縮力Pが作用する。このため、穴あけピン101が鋳型102から抜ける際に、鋳型102の抜け際面104に圧縮力Pが集中して、この抜け際面104が破損し、破損砂105が落脱してしまう。従って、互いに接近した箇所に穴をあけると、穴どうしが繋がって穴の役目を果たせなくなり、また、湯口近傍に穴をあけたときには湯口が崩れてしまうことがある。
【0005】
更に、穴あけピン101の作用で鋳型102の砂103に過大な圧縮力Pが作用すると、その反作用で穴あけピン101が変形しやすくなり、従って小径の穴をあけることが困難になる。
【0006】
他方、ドリルにより切削して鋳型にガス抜き穴をあける方法では、ドリルへの負荷が高く、ドリルが破損する恐れがあるため、小径の穴を精度よく形成することができない。更に、ドリルを回転させるための回転機構が必要になり、設備が大型化してしまう。
【0007】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、鋳型への穴あけを、鋳型の破損を抑制しつつ小さな荷重で実施できる鋳型の穴あけ方法及び穴あけ工具並びに鋳型の穴あけ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鋳型の穴あけ方法は、中空構造で内側に流体を流す流路が形成され、外周に、穴あけ工具の先端から基端へ延びるスリットが周方向に複数形成されると共に、これらのスリット間に設けられた突出部の先端に、内側に傾斜した刃が形成された穴あけ工具を用意し、この穴あけ工具をパイプの先端に装着し、これらの穴あけ工具及びパイプを軸方向に移動させて鋳型の砂に突き刺す際に、前記パイプから前記穴あけ工具の前記流路に流体を流し、前記穴あけ工具の前記刃で前記鋳型の砂を前記穴あけ工具の内側に崩し、前記流路から前記スリット内に流れる流体の作用で前記刃により崩した砂を、前記スリットを経て前記鋳型外へ排出しながら前記鋳型に穴をあけることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係る鋳型の穴あけ工具は、パイプの先端に装着され、中空構造で内側に流体を流す流路が形成され、外周に、穴あけ工具の先端から基端へ延びるスリットが周方向に複数形成されると共に、これらのスリット間に設けられた突出部の先端に、内側に傾斜した刃が形成され、鋳型に穴をあける際に、前記刃は、穴あけ工具の軸方向への移動時に前記鋳型の砂を穴あけ工具の内側に崩すように作用し、前記スリットは、前記パイプから前記流路を経て流入する流体の作用で、前記刃により崩された砂を前記鋳型外へ排出するよう構成されたことを特徴とするものである。
【0010】
更に、本発明に係る鋳型の穴あけ装置は、鋳型を載置する定盤と、この定盤の上方に配置され、取付プレートを前記定盤に対して昇降させる昇降手段と、前記取付プレートに垂設された中空形状のパイプと、このパイプに流体を供給する流体供給源と、前記発明における鋳型の穴あけ工具と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る鋳型の穴あけ方法及び穴あけ工具並びに鋳型の穴あけ装置によれば、穴あけ工具の刃が、鋳型の砂を穴あけ工具の内側に崩し、この崩れた砂が、穴あけ工具の流路からスリット内に流れる流体によって鋳型外へ排出されるので、鋳型への穴あけ時に、この鋳型の砂に過大な圧縮力が作用しない。このため、鋳型への穴あけ時に鋳型への負荷を低減でき鋳型の破損を抑制できると共に、穴あけ工具に小さな荷重を作用することで鋳型に穴をあけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る鋳型の穴あけ装置の一実施形態を示す全体構成図。
【図2】図1の穴あけ工具を支持パイプと共に示し、(A)が側断面図、(B)が図2(A)のII矢視図。
【図3】図1の穴あけ工具を示し、(A)、(B)がそれぞれA仕様、B仕様の側面図、(C)がC仕様の側面図及び底面図。
【図4】図1の穴あけ工具を示す斜視図。
【図5】図3における穴あけ工具の形状を仕様毎にまとめた図表。
【図6】(A)は図1の穴あけ工具の作用を、(B)は従来の穴あけ工具の作用をそれぞれ示す概略側断面図。
【図7】図3の各仕様における穴あけ工具を用いた複数回の実験例において、穴あけ時間を比較して示す図表。
【図8】図3の各仕様における穴あけ工具を用いた複数回の実験例において、形成された穴径を比較して示す図表。
【図9】図3の各仕様における穴あけ工具を用いた複数回の実験例において、穴あけ時間のばらつきを示し、(A)がA仕様の場合を、(B)がB仕様の場合を、(C)がC仕様の場合をそれぞれ示すグラフ。
【図10】図3の各仕様における穴あけ工具の用いた複数回の実験例において、形成された穴径のばらつきを示し、(A)がA仕様の場合を、(B)がB仕様の場合を、(C)がC仕様の場合をそれぞれ示すグラフ。
【図11】図7の穴あけ時間と図8の穴径とにおける平均値と標準偏差を、穴あけ工具の各仕様毎にまとめて示す図表。
【図12】横軸を穴あけ時間とし、縦軸を穴径として図11の結果を表わしたグラフ。
【図13】図1の鋳型の構造を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明に係る鋳型の穴あけ工具の一実施形態を示す全体構成図である。この図1に示す鋳型の穴あけ装置10は、鋳型1にガス抜き穴9(図13)などの穴をあける装置であり、定盤11、昇降手段としてのシリンダ装置12、支持パイプ13、流体供給源としてのエアコンプレッサ14、及び鋳型の穴あけ工具としての穴あけ工具15を有して構成される。
【0015】
ここで、図1に示す鋳型1は、図13に示す上型1Aまたは下型1B(本実施形態では上型1A)であり、例えば金枠などの鋳枠2内に砂(鋳物砂)3が充填されて構成される。この鋳型1(上型1A、下型1B)には、鋳物製品を形作るキャビティ4が形成されると共に、このキャビティ4内へ溶湯5を導くための湯道6が形成される。特に上型1Aには、湯道6に連通してトリベ5Aから溶湯5が注がれる湯口7と、初期溶湯や異物をキャビティ4内に留めずに吐き出させるための揚がり8が形成される。
【0016】
更に上型1Aには、キャビティ4内の滞留空気や、鋳型1を固めるためのバインダから発生したガスを鋳型1外へ排出するガス抜き穴9が形成されている。このガス抜き穴9は、鋳型1の成形後にキャビティ4側から工具(本実施形態では鋳型の穴あけ装置10における穴あけ工具15)を挿入することで形成される。
【0017】
図1に示すように、鋳型の穴あけ装置10の定盤11は、鋳型1を直接または鋳枠2を介して載置するものであり、この定盤11の上方にシリンダ装置12が配置される。このシリンダ装置12は、図示しないピストンロッドの先端に固定された可動プレート16を進退動作させることで、この可動プレート16に取り付けられた取付プレート17を、定盤11に対して昇降可能とする。この取付プレート17に支持パイプ13が、定盤11に対し直交して垂設される。
【0018】
支持パイプ13は、図2(A)に示すように中空形状に構成されて、内側にパイプ流路18が形成される。また、この支持パイプ13の先端に穴あけ工具15がねじ結合されて装着される。更に、支持パイプ13にはエアコンプレッサ14が接続され、このエアコンプレッサ14からパイプ流路18内へ流体としての空気が供給される。この空気は、パイプ流路18から穴あけ工具15へ導かれる。
【0019】
さて、穴あけ工具15は、図2〜図4に示すように中空構造に構成され、内側に流体である空気を流す工具流路19が形成されている。また、この工具流路19の内面に雌ねじ20が形成され、この雌ねじ20が支持パイプ13の先端の雄ねじ(不図示)に螺装されることで、穴あけ工具15が支持パイプ13の先端に装着される。穴あけ工具15が支持パイプ13に装着された状態で、工具流路19は支持パイプ13のパイプ流路18に連通する。
【0020】
穴あけ工具15の外周には、この穴あけ工具15の先端15Aから基端15Bへ延びるスリット21が周方向に複数(本実施形態では6つ)形成されると共に、これらのスリット21間に設けられた突出部22の先端に刃23が形成される。これらの刃23は、図2(A)及び図6(A)に示すように、穴あけ工具15の内側に傾斜して形成される。そして、これらの刃23は、鋳型1にガス抜き穴9を形成すべく穴あけ工具15をその軸O方向に移動させたときに、鋳型1の砂3を穴あけ工具15の内側(穴あけ工具15の軸O側)へ崩すように作用する。
【0021】
スリット21は、図2(B)及び図3(C)に示すように、周方向に隣接する突出部22の互いに対向する両側面24により形成される。これらのスリット21内に、支持パイプ13のパイプ流路18から穴あけ工具15の工具流路19に導かれた空気が、図6(A)の矢印に示すように流入する。この空気は、スリット21内を穴あけ工具15の先端15Aから基端15Bへ向かって流れる間に、刃23により崩された鋳型1の砂3を、スリット21内に流動させた後、鋳型1外へ排出する。
【0022】
穴あけ工具15の外周に設けられた突出部22は、図3(A)及び(B)に示すように、穴あけ工具15の軸O方向に対して所定のひねり角度θだけ傾斜して形成される。図3(A)に示すA仕様の穴あけ工具15ではθ=5.5°に設定され、図3(B)に示すB仕様の穴あけ工具15ではθ=13.4°に設定される。これらの傾斜した突出部22の側面24は、鋳型1にガス抜き穴9を形成すべく穴あけ工具15を軸O方向に沿って移動させたときに、スリット21内に存在する砂3をスリット21内に徐々に崩す刃として機能する。また、突出部22は、図3(C)に示すC仕様の穴あけ工具15では、この穴あけ工具15の軸O方向に対し平行(θ=0°)に形成されている。
【0023】
穴あけ工具15の外周で隣接する突出部22間に形成されるスリット21は、突出部22が軸O方向に対し傾斜して形成された場合には、同様にして、穴あけ工具15の軸O方向に対し突出部22と同一のひねり角度θで傾斜して設定され、突出部22が軸O方向と平行に形成された場合には、同様にして、穴あけ工具15の軸O方向に対し平行に設定される。スリット21が穴あけ工具15の軸O方向に対しひねり角度θだけ傾斜した場合には、穴あけ工具15の工具流路19からスリット21内へ流入した空気は、穴あけ工具15の先端15Aから基端15Bへ向かってスリット21内を旋回して流れる。
【0024】
また、突出部22の側面24は、図2(B)及び図3(C)に示すように、突出部22の基部22Bが突出部22の先端面22Aよりも幅が狭くなるように、先端面22Aの側縁αから基部22B側に傾斜して形成される。これにより、側面24が刃として機能する場合(図3(A)の仕様A、図3(B)の仕様B)にも、刃として機能しない場合(図3(C)のC仕様)にも、スリット21内の砂3の外側(穴あけ工具15の横断面の径方向外側)の砂3が崩されることが抑制される。
【0025】
ここで、A仕様、B仕様及びC仕様の各穴あけ工具15の形状を図5に示す。図5中の「外径」は、穴あけ工具15における対向する突出部22の先端面22A間寸法であり、「軸長」は穴あけ工具15の軸O方向に沿う長さである。また、「ひねり角度」は、前述の突出部22及びスリット21における穴あけ工具15の軸O方向に対するひねり角度θであり、「切り込み数」はスリット21の数である。更に、「切り込み幅」は、スリット21の幅W(図2(B)、図3(C))であり、「空気吹き込み面積」は、穴あけ工具15の工具流路19における流路面積である。また、「排砂面積」は、各スリット21の面積の総和である。尚、これらの穴あけ工具15は、例えば工具鋼SKD61で構成されている。
【0026】
次に、鋳型の穴あけ装置10の作用を説明する。
図1に示す支持パイプ13の先端に穴あけ工具15が装着された鋳型の穴あけ装置10の定盤11に鋳枠2を接触させることで、キャリッジ4を上方に向けて鋳型1(上型1A)を定盤11に載置する。次に、シリンダ装置12を作動させて取付プレート17を下降させ、支持パイプ13及び穴あけ工具15を軸方向に下降させて、穴あけ工具15を鋳型1の砂3に突き刺す。少なくとも支持パイプ13及び穴あけ工具15を下降させる際にエアコンプレッサ14を作動させ、図6(A)に示すように、支持パイプ13のパイプ流路18を経て穴あけ工具15の工具流路19へ空気を供給する。
【0027】
これにより、穴あけ工具15の刃23が鋳型1の砂3を穴あけ工具15の内側に崩し、工具流路19からスリット21内に流れる空気の作用で、刃23により崩された砂3を、スリット21を通して鋳型1外へ排出させる。A仕様(図3(A))及びB仕様(図3(B)の穴あけ工具15では、この穴あけ工具15が下降する際に、突出部22の側面24が刃として機能して、スリット21内の砂3を徐々に崩す。この砂は、刃23により崩された砂3と共に、空気の作用でスリット21を通って鋳型1外へ排出される。このようにして、鋳型1にガス抜き穴9を形成する。
【0028】
次に、A仕様とB仕様とC仕様の各穴あけ工具15の特性(穴あけ時間、形成した穴径)について、図7〜図12を用いて比較する。
【0029】
穴あけ時間を比較する実験例も、穴径を比較する実験例も共に32回行われ、各実験例での穴あけ工具15は図5に示す仕様の工具が使用された。また、このとき、エアコンプレッサ14から穴あけ工具15へ供給される空気圧は0.3MPa、シリンダ装置12が穴あけ工具15をその軸O方向に沿って移動させる力は27.4kNであり、また、鋳型1の厚さは280mmである。
【0030】
図7に示すように、穴あけ時間を比較するために32回行われた実験例での平均穴あけ時間は、A仕様の穴あけ工具15が4.2秒で、他の仕様の穴あけ工具15よりも短い。また、穴あけ時間の標準偏差も、A仕様の穴あけ工具10が0.9で、他の仕様の穴あけ工具15よりも小さい。この標準偏差が表す穴あけ時間のばらつきは、図9に示すグラフからも判定できる。
【0031】
つまり、図7に示す穴あけ時間のデータのうち、3.0秒以下の範囲の実験例の数(例えばA仕様の場合には2個)と、3.0秒を越え3.5秒以下の範囲の実験例の数(例えばA仕様の場合は9個)と、3.5秒を越え4.0秒以下の範囲の実験例の数(例えばA仕様の場合には3個)と、4.0秒を越え4.5秒以下の範囲の実験例の数(例えばA仕様の場合は7個)と、以下同様に0.5秒毎に設定した範囲での実験例の数とを各仕様についてグラフ化すると、図9に示すようになる。この図9から、穴あけ時間のばらつきは、A仕様の穴あけ工具15が最も小さく優れていることが判る。
【0032】
図8に示すように、穴径を比較するために32回行われた実験例での平均穴径は、A仕様の穴あけ工具15が約10.5mmで、B仕様及びC仕様の穴あけ工具15よりも小さい。また、穴径の標準偏差も、A仕様の穴あけ工具15が約0.12で、他の仕様の穴あけ工具15よりも小さい。この標準偏差が表す穴径のばらつきは、図10に示すグラフからも判定できる。
【0033】
つまり、図8に示す穴径のデータのうち、10mmを越え10.2mm以下の範囲の実験例の数(例えばA仕様の場合は1個)と、10.2mmを越え10.4mm以下の範囲の実験例の数(例えばA仕様の場合は6個)と、10.4mmを越え10.6mm以下の範囲の実験例の数(例えばA仕様の場合は23個)と、以下同様に0.2mm毎に設定した範囲の実験例の数とを各仕様についてグラフ化すると、図10に示すようになる。この図10から、形成した穴径のばらつきは、A仕様の穴あけ工具15が最も小さく優れていることが判る。
【0034】
図7に示す穴あけ時間の平均値及び標準偏差と、図8に示す穴径の平均値及び標準偏差とを、各仕様の穴あけ工具15についてまとめたものを図11に示す。図12は、横軸に穴あけ時間を、縦軸に穴径をとり、図11の穴あけ時間と穴径を各仕様毎にプロットしたものである。この図12からも、穴あけ時間及び穴径においてA仕様の穴あけ工具15が最適な形状であることが判る。
【0035】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(4)を奏する。
【0036】
(1)穴あけ工具15の刃23が、図6(A)に示すように、鋳型1の砂3を穴あけ工具15の内側に崩し、この崩れた砂3が、穴あけ工具15の工具流路19からスリット21内に流れる空気によって鋳型1外へ排出されるので、鋳型1にガス抜き穴9を形成するときに、この鋳型1の砂3に過大な圧縮力が作用しない。このため、鋳型1の穴あけ時に鋳型1の負荷を低減でき、鋳型の破損、特に穴あけ工具15の抜き際面25での破損を防止できる。更に、鋳型1の穴あけ時に鋳型1に過大な圧縮力が作用しないので、穴あけ工具15に小さな荷重を作用することで鋳型1にガス抜き穴9を形成でき、穴あけ工具15及び支持パイプ13の破損を防止できる。これらの結果、小径のガス抜き穴9を鋳型1に多数形成することが可能になる。
【0037】
尚、鋳型1の破損については、例えば図6(B)に示す穴あけピン101による穴径では、穴あけピン101の抜け際面104に、直径約100mmで深さ約30mmの砂崩れが(破損砂105)が穴の近傍に発生したが、本実施形態の特にA仕様の穴あけ工具15を使用した場合には、鋳型1の抜け際面25に、直径約30mmで深さ約10mmの砂崩れが穴近傍に生じた程度であった。
【0038】
(2)図3に示すように、穴あけ工具15における突出部22及びスリット21が穴あけ工具15の軸O方向に対して所定のひねり角度θ(θ=5.5°、θ=13.4°)で形成されたので、穴あけ工具15の軸O方向に沿う移動時に、スリット21内に存在する鋳型1の砂3を、突出部22の側面24によって徐々に崩すことができると共に、スリット21内を流れる空気が旋回流になって砂3の排出性能が向上する。これらの結果、特にA仕様及びB仕様の穴あけ工具15を用いた場合には、鋳型1の穴あけを精度良く実施できる。
【0039】
特に、穴あけ工具15における突出部22及びスリット21のひねり角度θがθ=5.5°の場合には、スリット21内を流れる空気による排砂性能がより一層向上するので、鋳型1の穴あけをより一層高精度に実施できる。
【0040】
(3)図2(B)及び図3(C)に示すように、穴あけ工具15における突出部22の側面24が、突出部22の先端面22Aの側縁αから吐出部22の基部22B側へ傾斜して形成されたので、スリット21内の砂3の外側の砂3が崩されることを防止でき、形成される穴(ガス抜き穴9)が大径化することを防止できる。この観点からも、鋳型1の穴あけ精度の向上を実現できる。
【0041】
(4)穴あけ工具15は、支持パイプ13を介してシリンダ装置12(図1)により軸O方向に移動されるものであり、回転されるものではないので、穴あけ工具15を回転させる機構が不要になり、鋳型の穴あけ装置10の設備をコンパクト化できる。
【0042】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。例えば、本実施の形態は、穴あけ工具15のスリット21内に流す流体が空気の場合を述べたが、空気以外の他の気体、または水などの液体であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 鋳型
3 砂
9 ガス抜き穴
10 鋳型の穴あけ装置
11 定盤
12 シリンダ装置(昇降手段)
13 支持パイプ
14 エアコンプレッサ(流体供給源)
15 穴あけ工具
15A 先端
15B 基端
17 取付プレート
18 パイプ流路
19 工具流路
21 スリット
22 突出部
22A 先端面
22B 基部
23 刃
24 側面
O 穴あけ工具の軸
θ ひねり角度
α 側縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造で内側に流体を流す流路が形成され、外周に、穴あけ工具の先端から基端へ延びるスリットが周方向に複数形成されると共に、これらのスリット間に設けられた突出部の先端に、内側に傾斜した刃が形成された穴あけ工具を用意し、
この穴あけ工具をパイプの先端に装着し、
これらの穴あけ工具及びパイプを軸方向に移動させて鋳型の砂に突き刺す際に、前記パイプから前記穴あけ工具の前記流路に流体を流し、
前記穴あけ工具の前記刃で前記鋳型の砂を前記穴あけ工具の内側に崩し、前記流路から前記スリット内に流れる流体の作用で前記刃により崩した砂を、前記スリットを経て前記鋳型外へ排出しながら前記鋳型に穴をあけることを特徴とする鋳型の穴あけ方法。
【請求項2】
前記鋳型の穴がガス抜き穴であることを特徴とする請求項1に記載の鋳型の穴あけ方法。
【請求項3】
パイプの先端に装着され、中空構造で内側に流体を流す流路が形成され、外周に、穴あけ工具の先端から基端へ延びるスリットが周方向に複数形成されると共に、これらのスリット間に設けられた突出部の先端に、内側に傾斜した刃が形成され、
鋳型に穴をあける際に、前記刃は、穴あけ工具の軸方向への移動時に前記鋳型の砂を穴あけ工具の内側に崩すように作用し、前記スリットは、前記パイプから前記流路を経て流入する流体の作用で、前記刃により崩された砂を前記鋳型外へ排出するよう構成されたことを特徴とする鋳型の穴あけ工具。
【請求項4】
前記突出部は、穴あけ工具の軸方向に対し所定角度傾斜して形成されて、スリットを形成する側面が鋳型の砂をスリット内に崩す刃として機能するよう構成されたことを特徴とする請求項3に記載の鋳型の穴あけ工具。
【請求項5】
前記突出部におけるスリットを形成する側面は、前記突出部の先端面の側縁から前記突出部の基部側へ傾斜して形成されたことを特徴とする請求項3に記載の鋳型の穴あけ工具。
【請求項6】
前記流体が空気であることを特徴とする請求項3に記載の鋳型の穴あけ工具。
【請求項7】
前記鋳型の穴がガス抜き穴であることを特徴とする請求項3に記載の鋳型の穴あけ工具。
【請求項8】
鋳型を載置する定盤と、
この定盤の上方に配置され、取付プレートを前記定盤に対して昇降させる昇降手段と、
前記取付プレートに垂設された中空形状のパイプと、
このパイプに流体を供給する流体供給源と、
請求項3乃至7のいずれか1項に記載の鋳型の穴あけ工具と、を有することを特徴とする鋳型の穴あけ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−115849(P2012−115849A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265670(P2010−265670)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】