説明

鋳型造型用粘結剤組成物

【課題】高温環境下での鋳型造型用粘結剤組成物の粘度上昇を抑制し、かつ鋳造時における二酸化硫黄ガス、塩化水素ガス、及びホルムアルデヒドガスの発生を抑制できる上、鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制でき、更には、調製時の水酸化カルシウムの溶解性を向上できる鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型用組成物を提供する。
【解決手段】フラン樹脂と、水酸化カルシウムと、レゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラン樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸硬化性自硬性鋳型は、ケイ砂等の耐火性粒子に、酸硬化性樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤と、有機スルホン酸、硫酸、リン酸等を含有する硬化剤とを添加し、これらを混練した後、得られた混練砂を木型等の原型に充填し、酸硬化性樹脂を硬化させて製造される。酸硬化性樹脂には、フラン樹脂やフェノール樹脂等が用いられており、フラン樹脂には、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、その他公知の変性フラン樹脂等が用いられている。得られた鋳型は、機械鋳物部品や建設機械部品あるいは自動車用部品等の鋳物を鋳造する際に使用される。
【0003】
鋳型造型用粘結剤であるフラン樹脂含有粘結剤組成物は、夏季等の高温環境下での貯蔵安定性に優れることが重要である。高温環境下において、従来の粘結剤組成物をタンクや貯蔵所等で保存すると、粘結剤組成物の粘度が上昇する場合がある。その結果、粘結剤組成物を用いて連続ミキサーで混練砂を調製する際の混練ムラの発生や、得られた鋳型の強度の低下が問題となる。あるいは得られた鋳型を用いて製造される鋳物が不良品になることもある。
【0004】
一方、鋳造時における作業環境については、酸硬化性自硬性鋳型の製造には硬化剤として有機スルホン酸、硫酸等の硫黄化合物が使用されるため、特に鋳造時における二酸化硫黄ガスや、塩化物等の添加剤に由来するその他の刺激性ガス(塩化水素ガス等)が作業環境を悪化させることがある。
【0005】
従って、鋳型造型用粘結剤組成物は、高温環境下での粘度上昇の抑制と、鋳造時における二酸化硫黄ガスや、塩化水素ガス等のその他の刺激性ガスの発生に起因する作業環境の悪化の改善が望まれる。
【0006】
特許文献1では、鋳型の強度を向上させるために、酸硬化性樹脂と金属の塩化物とを含む鋳型造型用粘結剤組成物が提案されている。また、特許文献2では、ホルムアルデヒド捕捉剤であるレゾルシンを添加し、且つフラン樹脂組成物のpHを7未満に調整することによって、混練造型時のホルムアルデヒドガスを低減でき、且つ尿素に起因する沈殿物の発生を抑制できる鋳型製造用フラン樹脂組成物を得ている。特許文献1,2では、硬化剤として硫酸やスルホン酸等の硫黄化合物を含むものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−29905号公報
【特許文献2】特開2010−12475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の鋳型造型用粘結剤組成物は、夏季等の高温環境下において、粘結剤組成物の粘度が上昇する可能性があることが本発明者らの検討により判明した。また、特許文献1記載の鋳型造型用粘結剤組成物を用いて得られた鋳型により鋳物を鋳造すると、条件によっては二酸化硫黄ガスや塩化水素ガスが発生し、その強い刺激臭により作業環境が著しく悪化する可能性があることが本発明者らの検討により判明した。
【0009】
また、特許文献2記載の鋳型製造用フラン樹脂組成物は、ホルムアルデヒド捕捉剤であるレゾルシンを添加することにより、ホルムアルデヒドガス及び尿素由来の沈殿物は低減できるものの、当該フラン樹脂組成物を用いて得られた鋳型により鋳物を鋳造すると、二酸化硫黄ガスの発生により作業環境が著しく悪化する可能性があることが本発明者らの検討により判明した。
【0010】
本発明は、高温環境下での鋳型造型用粘結剤組成物の粘度上昇を抑制し、かつ鋳造時における二酸化硫黄ガス、塩化水素ガス、及びホルムアルデヒドガス(以下、これらをまとめて「刺激性ガス」ともいう)の発生を抑制できる上、鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制でき、更には、調製時の水酸化カルシウムの溶解性を向上できる鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、フラン樹脂と、水酸化カルシウムと、レゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0012】
本発明の鋳型用組成物は、耐火性粒子と、上記本発明の鋳型造型用粘結剤組成物と、該鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させるフラン樹脂用硬化剤とを含有する鋳型用組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物によれば、高温環境下での鋳型造型用粘結剤組成物の粘度上昇を抑制し、かつ鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制できる上、鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制でき、更には、鋳型造型用粘結剤組成物を調製する際の水酸化カルシウムの溶解性を向上できる。また、本発明の鋳型用組成物によれば、混練ムラを抑制し、かつ鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制できる上、鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制できるため、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物(以下、単に「粘結剤組成物」ともいう)は、鋳型を製造する際の粘結剤として使用されるものである。以下、本発明の粘結剤組成物に含有される成分について説明する。
【0015】
<フラン樹脂>
フラン樹脂としては、例えば、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールと尿素の縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類の縮合物、及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるものや、これらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるものが使用できる。また、これらの群から選ばれる2種以上の共縮合物からなるものも使用できる。フルフリルアルコールは、非石油資源である植物から製造できるため、地球環境の観点からも、上記列挙したフラン樹脂を使用することが好ましい。コストの観点、及び鋳型強度の観点から、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物を使用するのが好ましく、該アルデヒド類としてはホルムアルデヒドを使用するのがより好ましい。
【0016】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール、テレフタルアルデヒド等が挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。鋳型強度の観点からは、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドを用いるのが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点からは、フルフラールやテレフタルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0017】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0018】
フラン樹脂の具体例として、カオーライトナーEF−5102、カオーライトナーEF−5501、カオーライトナーEF−5502(いずれも花王クエーカー社製)等の市販品が挙げられる。
【0019】
粘結剤組成物中のフラン樹脂の含有量は、鋳型強度を十分発現する観点から、好ましくは55〜99.9重量%であり、より好ましくは60〜95重量%であり、更に好ましくは65〜90重量%である。
【0020】
<水酸化カルシウム>
本発明の粘結剤組成物中には、高温環境下での粘結剤組成物の粘度上昇を抑制し、かつ鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制するために、水酸化カルシウムが含有される。水酸化カルシウムは、鋳造時に発生するSO等の発生源となる硫酸やスルホン酸等と反応してCaSO等の不溶性化合物を生成し、このものは熱に対して安定であるので、鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制できるものと推測される。
【0021】
水酸化カルシウムの添加方法としては、特に限定されず、フラン樹脂合成時に添加しても良く、フラン樹脂合成後に添加しても良い。なお、フラン樹脂の合成工程において、水酸化カルシウムの存在下で縮合反応を行う場合、縮合反応は水酸化カルシウムが存在しない場合と同様に行うことができる。
【0022】
粘結剤組成物における水酸化カルシウムの配合量は、鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制する観点から、カルシウムの含有量が、粘結剤組成物中、0.01〜0.70重量%となるように調整されることが好ましい。同様の観点から、水酸化カルシウムの配合量は、粘結剤組成物中のカルシウムの含有量が0.02重量%以上となるように調整されることがより好ましく、0.05重量%以上となるように調整されることが更に好ましく、0.10重量%以上となるように調整されることが更により好ましく、0.20重量%以上となるように調整されることが更により好ましい。また、水酸化カルシウムのフラン樹脂への良好な分散性を確保して、得られる鋳型の強度劣化を防止する観点から、水酸化カルシウムの配合量は、粘結剤組成物中のカルシウムの含有量が0.50重量%以下となるように調整されることがより好ましく、0.40重量%以下となるように調整されることが更に好ましい。上記観点を総合すると、水酸化カルシウムの配合量は、粘結剤組成物中のカルシウムの含有量が0.01〜0.70重量%となるように調整されることが好ましく、0.02〜0.70重量%となるように調整されることがより好ましく、0.02〜0.50重量%となるように調整されることが更に好ましく、0.05〜0.50重量%となるように調整されることが更により好ましく、0.10〜0.40重量%となるように調整されることが更により好ましく、0.15〜0.40重量%となるように調整されることが更により好ましい。
【0023】
即ち、粘結剤組成物中の水酸化カルシウムの含有量は、粘結剤組成物中、0.018〜1.30重量%が好ましく、より好ましくは0.03〜1.30重量%であり、更に好ましくは0.03〜0.93重量%であり、更により好ましくは0.09〜0.93重量%であり、更により好ましくは0.18〜0.74重量%であり、更により好ましくは0.27〜0.74重量%である。
【0024】
<レゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂>
本発明の粘結剤組成物は、調製時に水酸化カルシウムをフラン樹脂中に溶解させるため、レゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂を含有する。従来、塩基性物質である水酸化カルシウムを粘結剤組成物に加えると、鋳型造型時に鋳型用組成物の硬化速度が低下する恐れがあったが、本発明の粘結剤組成物は、水酸化カルシウムと共にレゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂を含有するため、鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制することができ、鋳型生産性を向上させることができる。
【0025】
また、本発明では、レゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂を使用することにより、鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制できるため、粘結剤組成物を硬化させるフラン樹脂用硬化剤の使用量を低減できる。これにより、鋳造時において、フラン樹脂用硬化剤中の硫黄化合物に起因する二酸化硫黄ガスの発生を抑制できる。
【0026】
上記レゾルシン系樹脂とは、レゾルシン並びにホルムアルデヒド及び/又はフルフリルアルコールを含むモノマー混合物を反応させて得られる樹脂であり、例えば、レゾルシンとホルムアルデヒドとの反応によるレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合樹脂、レゾルシンとホルムアルデヒドとフェノールとの共縮合によるレゾルシン・フェノール・ホルムアルデヒド縮合樹脂、レゾルシンとフルフリルアルコールとの反応によるレゾルシン・フルフリルアルコール縮合樹脂、レゾルシンとホルムアルデヒドとフルフリルアルコールとの反応によるレゾルシン・ホルムアルデヒド・フルフリルアルコール縮合樹脂、これらの縮合樹脂をクレゾール、キシレノール、タンニン、リグニンなどで一部変性した変性樹脂等を挙げることができる。前記樹脂において、鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制する観点から、レゾルシン系樹脂中のレゾルシン残基の含有量が5〜95重量%であることが好ましく、10〜85重量%であることがより好ましく、20〜80重量%であることが更に好ましい。なお、本発明では、「レゾルシン残基」は、遊離レゾルシンも含むものとする。
【0027】
粘結剤組成物中のレゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂の含有量は、水酸化カルシウムの溶解性向上の観点、鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制する観点、及びホルムアルデヒドの発生抑制の観点から、好ましくは0.1〜30重量%であり、より好ましくは0.2〜20重量%であり、更に好ましくは0.5〜10重量%である。
【0028】
本発明の粘結剤組成物では、水酸化カルシウムの溶解性向上の観点から、水酸化カルシウム1モルに対して、レゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂中のレゾルシン残基を0.3モル以上含有することが好ましく、2モル以上含有することがより好ましく、4モル以上含有することが更に好ましい。一方、鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制する観点から、水酸化カルシウム1モルに対し、レゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂中のレゾルシン残基を0.1モル以上含有することが好ましく、0.2モル以上含有することがより好ましく、0.9モル以上含有することが更に好ましい。また、鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制する観点からは、水酸化カルシウム1モルに対するレゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂中のレゾルシン残基の含有量は、200モル以下であることが好ましく、100モル以下であることがより好ましく、50モル以下であることが更に好ましい。
【0029】
本発明で用いる水酸化カルシウム並びにレゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂のフラン樹脂への添加方法としては、それらを個別に添加してもよいが、以下に示すように、水酸化カルシウム並びにレゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂の混合物を予め調製しておいて、該混合物をフラン樹脂へ添加するのが好ましい。以下に、上記混合物の調製方法の具体例を示す。
【0030】
加熱装置及び攪拌機を備えた1リットルフラスコの中に、25℃のイオン交換水347.3gを投入し、続いて水酸化カルシウム(和光純薬工業社製 純度96%品)52.1gを投入した後、直ちに加熱及び攪拌しながら、続いてレゾルシン600.6g(三井化学社製 純度99.9%品)を10分間かけて徐々に添加する。その後、液温が65℃になるように加熱しながら60分間攪拌し続けた後、25℃まで冷却することによって、上記混合物〔105℃で2時間乾燥後の固形分の濃度:65重量%、水酸化カルシウム1モルに対するレゾルシンのモル数(以下、レゾルシン/水酸化カルシウムのモル比と言う):8.07〕が得られる。
【0031】
本発明では、このように得られた混合物を、フラン樹脂へ添加することにより、粘結剤組成物を調製することができる。また溶媒として水の替わりに、一部、フルフリルアルコール等のアルコール類や、従来から用いられる一部のフラン樹脂、あるいはその他の溶剤も使用できる。レゾルシン/水酸化カルシウムのモル比や溶媒の量は、混合物の性状が液体状態になるように適宜調整することが望ましい。水酸化カルシウムの溶解性を向上させる観点、混合物の取り扱い性の観点、及びフラン樹脂へ混合物を添加する際の作業性の観点から、予め上記混合物を調製しておいてフラン樹脂へ添加する方法が、水酸化カルシウム並びにレゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂を個別にフラン樹脂へ添加する方法よりも好ましい。
【0032】
<硬化促進剤>
本発明の粘結剤組成物中には、鋳型強度を向上させる観点から、硬化促進剤が含まれていてもよい。硬化促進剤としては、鋳型強度を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(以下、硬化促進剤(1)という)、レゾルシン及びレゾルシン系樹脂以外のフェノール誘導体、並びに芳香族ジアルデヒドからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。なお、硬化促進剤は、フラン樹脂の一成分として含有されてもよい。
【0033】
【化1】

〔式中、X1及びX2は、それぞれ水素原子、CH3又はC25の何れかを表す。〕
【0034】
硬化促進剤(1)としては、2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、2,5−ビスメトキシメチルフラン、2,5−ビスエトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン、2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランが挙げられる。中でも、鋳型強度を向上させる観点から、2,5−ビスヒドロキシメチルフランを使用するのが好ましい。粘結剤組成物中の硬化促進剤(1)の含有量は、硬化促進剤(1)のフラン樹脂への溶解性の観点及び鋳型強度を向上させる観点から、0.5〜63重量%であることが好ましく、1.8〜50重量%であることがより好ましく、2.5〜50重量%であることが更に好ましく、3.0〜40重量%であることが更により好ましい。
【0035】
レゾルシン及びレゾルシン系樹脂以外のフェノール誘導体としては、例えば、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール等が挙げられる。なかでも、鋳型強度を向上させる観点から、フロログルシノールが好ましい。粘結剤組成物中の上記フェノール誘導体の含有量は、フェノール誘導体のフラン樹脂への溶解性の観点及び鋳型強度を向上させる観点から、1.5〜25重量%であることが好ましく、2.0〜15重量%であることがより好ましく、3.0〜10重量%であることが更に好ましい。
【0036】
芳香族ジアルデヒドとしては、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒド等、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。それらの誘導体とは、基本骨格としての2つのホルミル基を有する芳香族化合物の芳香環にアルキル基等の置換基を有する化合物等を意味する。鋳型強度を向上させる観点から、テレフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドの誘導体が好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。粘結剤組成物中の芳香族ジアルデヒドの含有量は、芳香族ジアルデヒドをフラン樹脂に十分に溶解させる観点、鋳型強度を向上させる観点、及び芳香族ジアルデヒド自体の臭気を抑制する観点から、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%であり、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0037】
<水分>
本発明の粘結剤組成物中には、さらに水分が含まれてもよい。例えば、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水分との混合物の形態で得られるが、このような縮合物を粘結剤組成物に使用するにあたり、合成過程に由来するこれらの水分をあえて除去する必要はない。また、粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的などで、水分をさらに添加してもよい。ただし、水分が過剰になると、フラン樹脂の硬化反応が阻害されるおそれがあるため、粘結剤組成物中の水分含有量は0.5〜30重量%の範囲とすることが好ましく、粘結剤組成物を扱いやすくする観点と硬化反応速度を維持する観点から1〜10重量%の範囲がより好ましく、3〜7重量%の範囲が更に好ましい。また、鋳型強度を向上させる観点から、10重量%以下とすることが好ましく、7重量%以下とすることがより好ましく、4重量%以下とすることが更に好ましい。
【0038】
<その他の添加剤>
また、粘結剤組成物中には、さらにシランカップリング剤等の添加剤が含まれていてもよい。例えばシランカップリング剤が含まれていると、得られる鋳型の強度を向上させることができるため好ましい。シランカップリング剤としては、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−α−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシランなどが用いられる。好ましくは、アミノシラン、エポキシシラン、ウレイドシランである。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、鋳型強度の観点から、0.01〜0.5重量%であることが好ましく、0.05〜0.3重量%であることがより好ましい。なお、シランカップリング剤は、フラン樹脂の一成分として含有されてもよい。
【0039】
本発明の粘結剤組成物は、水酸化カルシウムに起因する不溶物の発生を抑制して、粘結剤組成物の貯蔵安定性を向上させる観点から、pHが6.0以下であることが好ましく、5.5以下であることがより好ましい。また、粘結剤組成物の粘度上昇抑制の観点からは、pHが3.0以上であることが好ましく、3.5以上であることがより好ましく、4.0以上であることが更に好ましい。上記観点を総合すると、粘結剤組成物のpHは、3.0〜6.0であることが好ましく、3.5〜6.0であることがより好ましく、4.0〜6.0であることが更に好ましく、4.0〜5.5であることが更により好ましい。粘結剤組成物のpHを下げる場合は、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸(特に、p−ヒドロキシ安息香酸)等の有機酸や、塩酸、硝酸等の無機酸を粘結剤組成物に加えればよい。粘結剤組成物のpHを上げる場合は、粘結剤組成物中の水酸化カルシウムの含有量を増やせばよい。なお、上記pHの値は、後述する実施例に記載の測定方法で測定される値である。
【0040】
本発明の粘結剤組成物は、粘結剤組成物の貯蔵安定性を向上させる観点、及び鋳造時における二酸化硫黄ガスの発生を抑制する観点から、粘結剤組成物のpHが6.0以下であり、かつ粘結剤組成物中のカルシウムの含有量が0.10重量%以上であることが好ましい。同様の観点と、粘結剤組成物の粘度上昇を抑制する観点及び鋳型用組成物の硬化速度の低下を抑制する観点から、粘結剤組成物のpHが4.0〜6.0であり、かつ粘結剤組成物中のカルシウムの含有量が0.10〜0.70重量%であることがより好ましく、粘結剤組成物のpHが4.0〜6.0であり、かつ粘結剤組成物中のカルシウムの含有量が0.10〜0.40重量%であることが更に好ましく、粘結剤組成物のpHが4.0〜5.5であり、かつ粘結剤組成物中のカルシウムの含有量が0.15〜0.40重量%であることが更により好ましい。
【0041】
フラン樹脂は、一般的に長期間保存すると、粘度が上昇することがある。粘度が上昇すると、耐火性粒子とフラン樹脂を混合する際に混練ムラを発生させたり、フラン樹脂をポンプによって供給することができなくなる可能性がある。本発明の粘結剤組成物は、金属化合物として水酸化カルシウムを用いているため、塩化カルシウムを用いた場合に比べて粘度上昇率が低くなり、生産性に優れる。
【0042】
本発明の粘結剤組成物では、粘結剤組成物の保存安定性を維持するために、粘度を指標として、促進試験を行うことができる。つまり、製造直後から25℃の雰囲気温度で2時間保存した後の粘結剤組成物の25℃におけるブルックフィールド型粘度計(以下、B型粘度計ともいう)による粘度をηとし、製造直後から50℃の雰囲気温度で60日間保存し、引き続き25℃の雰囲気温度で2時間保存した後の粘結剤組成物の25℃におけるB型粘度計による粘度をηとしたときに、鋳型用組成物の混練ムラを防止する観点から、η/ηの値が5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。また、鋳型用組成物の混練ムラを防止する観点から、粘度変化がないことが好ましいので、η/ηの好ましい下限値は1である。また、同様の観点と、粘結剤組成物をポンプで供給する際の供給性の観点から、上記ηが150mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以下であることがより好ましい。また、鋳型用組成物の取り扱い性の観点から、上記ηの好ましい下限値は1mPaである。上記η/ηやηを上記好適な範囲に制御するには、カルシウムの含有量を上述した好適な範囲に調整すればよい。なお、上記粘度の値は、後述する実施例に記載の測定方法で測定される値である。
【0043】
本発明の粘結剤組成物は、耐火性粒子と、鋳型造型用粘結剤組成物と、該鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させるフラン樹脂用硬化剤とを含有する鋳型用組成物(混練砂)を、鋳型製造用の型に充填して、前記鋳型用組成物を硬化させる鋳型の製造方法に好適である。即ち、本発明の鋳型用組成物は、鋳型造型用粘結剤組成物として上記本発明の粘結剤組成物を使用する鋳型用組成物である。
【0044】
耐火性粒子としては、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等を使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収したものや再生処理したものなども使用できる。
【0045】
フラン樹脂用硬化剤としては、キシレンスルホン酸(特に、m−キシレンスルホン酸)やトルエンスルホン酸(特に、p−トルエンスルホン酸)等のスルホン酸系化合物、リン酸系化合物、硫酸等を含む酸性水溶液などを1種以上使用できる。硬化速度を向上させるためにフラン樹脂用硬化剤がスルホン酸系化合物や硫酸等の硫黄化合物を含有する場合、従来は、鋳造時において二酸化硫黄ガスの発生により作業環境が著しく悪化していたが、本発明では、上述した粘結剤組成物を使用することによって、二酸化硫黄ガスの発生を抑制できる。
【0046】
本発明の鋳型用組成物において、フラン樹脂用硬化剤が硫黄化合物を含有する場合、二酸化硫黄ガスの発生を抑制する観点から、フラン樹脂用硬化剤が、リン酸やリン酸エステル等のリン酸系化合物を更に含有することが好ましい。この場合、硫黄化合物中の硫黄元素とリン酸系化合物中のリン元素とのモル比(リン/硫黄)は、同様の観点から、0.1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、2〜4であることが更に好ましい。また、フラン樹脂用硬化剤が硫黄化合物を含有する場合にリン酸系化合物を更に含有すると、得られる鋳物における硫黄に起因する欠陥、即ち、鋳鋼の熱間割れ、ダクタイル鋳鉄組織中の黒鉛の球状化不良等に対する改善が認められる。
【0047】
更に、フラン樹脂用硬化剤には、アルコール類、エーテルアルコール類及びエステル類よりなる群から選ばれる1種以上の溶剤や、カルボン酸類を含有させることができる。これらの中でも、鋳型強度の向上の観点から、アルコール類、エーテルアルコール類が好ましく、エーテルアルコール類がより好ましい。また、上記溶剤やカルボン酸類を含有させると、フラン樹脂用硬化剤中の水分量が低減されるため、鋳型強度が更に向上する。前記溶剤や前記カルボン酸類のフラン樹脂用硬化剤中の含有量は、鋳型強度向上の観点から、5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。また、フラン樹脂用硬化剤の粘度を低減させる観点からは、メタノールやエタノールを含有させることが好ましい。
【0048】
鋳型強度の向上を図る観点から、前記アルコール類としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコールが好ましく、エーテルアルコール類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルが好ましく、エステル類としては、酢酸ブチル、安息香酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。カルボン酸類としては、鋳型強度向上及び臭気低減の観点から、水酸基を持つカルボン酸が好ましく、乳酸、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
【0049】
混練砂における耐火性粒子と粘結剤組成物とフラン樹脂用硬化剤との比率は適宜設定できるが、耐火性粒子100重量部に対して、粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部で、フラン樹脂用硬化剤が0.07〜1重量部の範囲が好ましい。このような比率であると、十分な強度の鋳型が得られやすい。更に、フラン樹脂用硬化剤の含有量は、鋳型に含まれる水分量を極力少なくする観点と、ミキサーでの混合効率の観点から、粘結剤組成物中のフラン樹脂100重量部に対して10〜80重量部であることが好ましく、20〜70重量部であることがより好ましく、30〜60重量部であることが更に好ましい。
【0050】
本発明の鋳型用組成物を用いて鋳型を製造する際は、従来の鋳型の製造方法のプロセスを利用して鋳型を製造することができる。例えば、上記本発明の粘結剤組成物と、この粘結剤組成物を硬化させるフラン樹脂用硬化剤とを耐火性粒子に加え、これらをバッチミキサーや連続ミキサーなどで混練することによって鋳型用組成物(混練砂)を調製し、これを木型等の鋳型製造用の型に充填して、前記鋳型用組成物を硬化させることにより鋳型を得ることができる。前記鋳型の製造方法では、可使時間を確保する観点から、フラン樹脂用硬化剤を耐火性粒子に添加した後、本発明の粘結剤組成物を添加することが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。
【0052】
<フラン樹脂>
表1〜4に記載のフラン樹脂としては、花王クエーカー社製 カオーライトナーEF−5102(フルフリルアルコールと尿素とホルムアルデヒドの縮合物のフルフリルアルコール溶液)のpHを4.5に調整したものを用いた。使用したフラン樹脂の物性等、及びその測定方法を以下に示す。
【0053】
<フラン樹脂の物性等>
遊離フルフリルアルコールの含有量:47重量%
シランカップリング剤(N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)の含有量:0.1重量%
窒素含有量:3重量%
粘度:25mPa・s(25℃)
pH:4.5
【0054】
<フラン樹脂中の窒素含有量の測定方法>
JIS M 8813に示されるケルダール法に基づいて測定を行った。
【0055】
<フラン樹脂の粘度の測定方法>
東京計器社製のB型粘度計(型式:BM形粘度計)により、No.3のロータを用いて、回転数60rpmの条件で測定を行った。
【0056】
<フラン樹脂のpHの測定方法>
測定対象であるフラン樹脂5gと、イオン交換水5gとを混合して、25℃にてpHメーターを用いて測定した。
【0057】
<レゾルシン系樹脂>
表1に記載のレゾルシン系樹脂としては、オーシカ社製 ディアノールD−33N(レゾルシンとフェノールとホルムアルデヒドの縮合物を50重量%の含有量で含む樹脂)を用いた。使用したレゾルシン系樹脂の物性等を以下に示す。なお、以下に示すレゾルシン系樹脂の粘度は、上述したフラン樹脂の場合と同様の測定方法で測定した。
【0058】
<レゾルシン系樹脂の物性等>
レゾルシン残基の含有量:40重量%(遊離レゾルシンの含有量は20重量%)
遊離フェノールの含有量:1.5重量%
固形分:61.6重量%
粘度:0.61Pa・s(25℃)
【0059】
<粘結剤組成物の調製>
表1,2に示す粘結剤組成物の成分配合量で各成分を混合し、60℃で30分間攪拌した後、30℃まで冷却して、粘結剤組成物を得た。なお、いずれの実施例及び比較例においても、使用したレゾルシン、p−ヒドロキシ安息香酸及び金属化合物は和光純薬工業社製の試薬を用いた。また、表1,2に示す粘結剤組成物の各成分の含有量は、粘結剤組成物(100重量%)中における含有量である。
【0060】
<粘結剤組成物の粘度>
粘結剤組成物500gを製造直後に遅滞なく500mLの広口ガラス瓶に入れ、25℃に設定された水槽に上記粘結剤組成物が入った広口ガラス瓶を2時間浸漬させた後、粘結剤組成物を取り出して、25℃にて上述した<フラン樹脂の粘度の測定方法>と同様の方法で粘度を測定し、得られた粘度を粘度ηとした。別途、粘結剤組成物500gを製造直後に遅滞なく広口ガラス瓶に入れ、50℃に設定された恒温器内で上記粘結剤組成物が入った広口ガラス瓶を60日間保存し、引き続き25℃に設定された水槽に上記粘結剤組成物が入った広口ガラス瓶を2時間浸漬させた後、粘結剤組成物を取り出して、25℃にて上記<フラン樹脂の粘度の測定方法>と同様の方法で粘度を測定し、得られた粘度を粘度ηとした。そして、η/ηの値を求め、粘結剤組成物の粘度上昇度を評価した。
【0061】
<硫黄化合物を含有する硬化剤を用いた鋳型用組成物の調製>
25℃、相対湿度60%の条件下で、珪砂〔山川産業社製、フリーマントル新砂〕2kgに対し、キシレンスルホン酸及び硫酸を含む硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 TK−1 4.0gと、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 EC−11 4.0gとの混合物〕8.0g(硫黄含有量は9.90重量%)を添加した後、混練し、次いで表1,2に示す粘結剤組成物20.0gを添加し、これらを混合して鋳型用組成物(混練砂)を得た。
【0062】
得られた鋳型用組成物について、以下に示す評価を行った。結果を表1,2に示す。
【0063】
<1時間後の鋳型強度>
製造直後の鋳型用組成物を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。充填後5時間経過した時に抜型を行い、25℃、相対湿度60%の条件下で1時間放置した後、JIS Z 2604−1976に記載された方法で圧縮強度を測定し、得られた測定値を1時間後の鋳型強度とした。
【0064】
<分解ガス発生量測定>
上記鋳型強度の評価で用いたテストピースを20メッシュ篩でばらした混練砂5.00gを、磁製の燃焼ボート(エムエム化学陶業社製、型式997−CB−2:幅15mm、高さ10mm、長さ90mm)に充填し、測定試料を作製した。その後、500℃に調整した環状炉(アドバンテック東京社製、TYPE 07−V9:9kW、環状炉内径60mm、長さ600mm、一方はアルミ箔遮蔽)のヒーター中央部に、前記測定試料を挿入し、下記に示す所定の測定時間中に、ガス検知器(ガステック社製、型番GV−100S)により燃焼時に発生する塩化水素ガス(検知管種類14Lを使用)と二酸化硫黄ガス(検知管種類5Lを使用)とホルムアルデヒドガス(検知管種類91を使用)の濃度を測定した。なお、表1,2の塩化水素ガスの欄の「−」は、塩化水素ガスが検出されなかった場合をさす。後述する表3においても同様である。また、ガス検知管の測定時間は、以下のとおりとした。
塩化水素ガスの場合:測定試料を挿入して0.5分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して2分間経過した後から1分間で1回採取し、それぞれの測定値を合計した。
二酸化硫黄ガスの場合:測定試料を挿入して0.5分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して2分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して4分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して6分間経過した後から1分間で1回採取し、それぞれの測定値を合計した。
ホルムアルデヒドガスの場合:測定試料を挿入して0.5分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して2分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して4分間経過した後から1分間で1回採取し、それぞれの測定値を合計した。
【0065】
<鋳型用組成物調製時の混練ダマ発生の確認>
上記粘度ηの測定に用いた粘結剤組成物を用いて、上述した<硫黄化合物を含有する硬化剤を用いた鋳型用組成物の調製>と同様の方法で鋳型用組成物(混練砂)を調製する際に、混練ダマが発生するか否かを確認した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
表1,2に示すように、実施例は、何れの評価項目についても良好な結果が得られた。一方、比較例は、少なくとも1つの評価項目について、実施例に比べて顕著に劣る結果であった。なお、表1,2に示す各粘結剤組成物のpHは、上述した<フラン樹脂のpHの測定方法>と同様の方法で測定した。
【0069】
<硫黄化合物及びリン酸系化合物を含有する硬化剤を用いた鋳型用組成物の調製>
25℃、相対湿度60%の条件下で、珪砂〔山川産業社製、フリーマントル新砂〕2kgに対し、キシレンスルホン酸、硫酸及びリン酸を含む硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 NC−501 4.4gと、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 NC−521 3.6gとの混合物〕8.0g(硫黄含有量は4.29重量%、リン含有量は13.77重量%)を添加した後、混練し、次いで粘結剤組成物20.0gを添加し、これらを混合して鋳型用組成物(混練砂)を得た。上記粘結剤組成物としては、表1の実施例4、表1の比較例4、表2の実施例11,14,15を用いた。
【0070】
得られた鋳型用組成物を用いて、鋳型強度及び分解ガス発生量の測定を行った。なお、鋳型強度については、上述した<1時間後の鋳型強度>の測定方法において、抜型後の放置時間を2時間(つまり2時間後の鋳型強度)としたこと以外は同様の方法で測定した。また、分解ガス発生量については、2時間後の鋳型強度の評価で用いたテストピースについて、上述した<分解ガス発生量測定>と同様の方法で測定した。結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示すように、実施例16〜19は、何れの評価項目についても比較例5に比べ、良好な結果が得られた。
【0073】
<粘結剤組成物の貯蔵安定性評価>
表4に記載の粘結剤組成物500gを製造直後に遅滞なく500mLの広口ガラス瓶に入れ、25℃に設定された水槽に上記粘結剤組成物が入った広口ガラス瓶を3日間浸漬させた後、粘結剤組成物中における水酸化カルシウムに起因する不溶物の有無を確認した。別途、表4に記載の粘結剤組成物500gを製造直後に遅滞なく広口ガラス瓶に入れ、50℃に設定された恒温器内で上記粘結剤組成物が入った広口ガラス瓶を3日間保存した後、粘結剤組成物中における水酸化カルシウムに起因する不溶物の有無を確認した。結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表4に示すように、25℃で3日間保存した場合について、レゾルシンを含有していない比較例4では水酸化カルシウムに起因する不溶物が発生したのに対し、実施例の粘結剤組成物は、いずれも水酸化カルシウムに起因する不溶物の発生を抑制できた。また、粘結剤組成物のpHが6.0以下である実施例9,10,14,15については、50℃で3日間保存した場合でも、水酸化カルシウムに起因する不溶物の発生を抑制できた。よって、粘結剤組成物のpHを6.0以下に調整することにより、貯蔵安定性が高い粘結剤組成物を提供できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラン樹脂と、水酸化カルシウムと、レゾルシン及び/又はレゾルシン系樹脂とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項2】
前記水酸化カルシウム1モルに対し、前記レゾルシン及び/又は前記レゾルシン系樹脂中のレゾルシン残基を0.1モル以上含有する請求項1記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項3】
カルシウムの含有量が、前記鋳型造型用粘結剤組成物中、0.01〜0.70重量%である請求項1又は2記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項4】
pHが6.0以下である請求項1〜3の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項5】
製造直後から25℃の雰囲気温度で2時間保存した後の前記鋳型造型用粘結剤組成物の25℃におけるブルックフィールド型粘度計による粘度をηとし、製造直後から50℃の雰囲気温度で60日間保存し、引き続き25℃の雰囲気温度で2時間保存した後の前記鋳型造型用粘結剤組成物の25℃におけるブルックフィールド型粘度計による粘度をηとしたときに、η/ηの値が5以下である請求項1〜4の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項6】
耐火性粒子と、請求項1〜5の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物と、フラン樹脂用硬化剤とを含有する鋳型用組成物。

【公開番号】特開2011−245487(P2011−245487A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117587(P2010−117587)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】