説明

鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法

【課題】鋳造またはダイキャスト製品の表面に部分的な荷重を加えることにより製品材料に塑性流動変形を起こさせ、同製品内部に存在する空孔を容易に圧潰することができる、鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法を提供する。
【解決手段】鋳造またはダイカストにより成形された成形品の表面の一部分を加圧手段で部分加圧し、成形品に塑性変形を起こさせ、成形品の内部に形成されている空孔欠陥を圧潰する。この方法により、製品内部に発生している空孔(特に製品の表面に近い部分の空孔)を簡単に潰すことが可能となり、鋳造後に切削などにより製品の表面層を削り取ってしまう加工を行っても、内部の空孔欠陥により気密漏れを起こしてしまうという問題を解消できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造またはダイキャスト製品の表面に部分的な荷重を加えることにより製品材料に塑性流動変形を起こさせ、同製品内部に存在する空孔を容易に圧潰することができる、鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムの加工法の内、約20%を占めるのがダイキャストという鋳造法であり、アルミニウム合金はダイキャストの中で、最も多く用いられている合金である。
ダイキヤスト法は溶湯を圧入プランジャにより高速(毎秒20〜60m)、高圧(30〜200MPa)で金型内へ射出、充填し、急速に凝固させる鋳造方式である。その利点として、高い寸法精度の鋳物や複雑な形状の薄肉鋳物の生産が可能であり鋳肌も優秀なこと、さらに、高い生産性を有することなどがある。そのため、ダイキャスト製品は自動車用部品などを中心に多く利用されている。
反面、ダイキャストは、溶湯の射出速度が速く、充填時間が短い鋳造方式であるので、金型空間内の空気や反応ガスを巻き込み易く、それによる空孔欠陥(Polosity)が発生してしまう等の欠点もある。たとえば、コンプレッサー用のアルミダイキヤスト製品は、鋳造後に切削などの加工を行っているが、この加工により製品の表面層を削り取ってしまう為、製品の中には内部の空孔欠陥により気密漏れを起こしてしまうものがあった。
【0003】
こうした空孔を無くす技術として、以下のような特許文献が開示されている。
【特許文献1】特開平5−154644号公報
【特許文献2】特開平10−15654号公報
【特許文献3】特開2001−191170号公報
【特許文献4】特開2003−266168号公報
【特許文献5】特開2002−361399号公報 前記特許文献1〜4のものは、いずれも、鋳造後、金属が柔らかいうちに圧力をかけることで製品に発生するヒケやス(空孔)等の発生を防止する技術であるが、これらは、製品製造過程中で製品を加圧する工程が含まれるため、加圧操作タイミングの管理、凝固層の製品内部への侵入管理等種々の評価技術が必要となる等の問題がある。 また、特許文献5のものは、成形後に鍛造を行うことでピンホールやヒケ等の発生を防止しているが、鍛造は製品の形状に合わせた鍛造型を使用するため、わざわざ鍛造型を準備する必要があり、製造コストがアップする等の問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上述したような製品成形中に発生する空孔の除去技術を確立するために、アルミダイキャスト製品を用いて、製品内部の空孔を観察し、その分布を確認すると共に、内部の空孔を潰す方法について種々の研究を行ってきた。その結果、鋳造後の製品に部分的に荷重を加え製品を圧縮することで、製品材料に塑性流動変形を起こさせ、その変形により製品内部に発生している空孔を潰すことができる新しい空孔圧潰方法を見いだした。
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、鋳造またはダイカストにより成形された成形品の表面の一部分を加圧手段で部分加圧し、成形品に塑性変形を起こさせ、成形品の内部に形成されている空孔欠陥を圧潰することを特徴としている。この方法により、製品内部に発生している空孔(特に製品の表面に近い部分の空孔)を簡単に潰すことが可能となり、鋳造後に切削などにより製品の表面層を削り取ってしまう加工を行っても、内部の空孔欠陥により気密漏れを起こしてしまうという問題を解決することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明が採用した技術解決手段は、
鋳造またはダイカストにより成形された成形品の表面の一部分を加圧手段で部分加圧し、成形品に塑性変形を起こさせることにより、成形品の内部に形成されている空孔欠陥を圧潰することを特徴とする鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法である。
また、前記加圧する際の製品温度は、温度約15°C〜500°Cで行うことを特徴とする鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法である。
また、前記加圧は開放金型内で行うことを特徴とする鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法である。 また、前記加圧は、製品の表面に形成した凸部部分を加圧することを特徴とする鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、製品の一部分を加圧することにより、製品材料に塑性流動変形を起こさせ、この変形により、空孔を潰すものであり、この手法により製品に発生している空孔を簡単に潰すことが可能となった。その結果、本空孔圧潰方法を適用した製品では、鋳造後に切削などにより製品の表面層を削り取ってしまう加工を行っても、内部の空孔欠陥により気密漏れを起こしてしまうという問題を解決することができる。また、塑性流動変形を起こさせやすくするために開放金型(開放ジグ)を使用しており、この結果、精密な加圧金型が不要となり、製造コストも減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、鋳造またはダイカストにより成形された成形品の表面の一部分を加圧手段で部分加圧し、成形品に塑性変形を起こさせることにより、成形品の内部に形成されている空孔欠陥を圧潰することを特徴としている。
【実施例】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る実施例を説明する。
図1、図2、図3は、本発明による鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法の説明図であり、図1は試料としてのアルミダイキャスト製品の平面図およびA−A断面図、図2はアルミダイキャスト製品を加圧する状態の説明図、図3はアルミダイキャスト製品を加圧する他の状態の説明図および同製品の一部拡大図である。
【0009】
図1、図2、図3において、1は内部に空孔を有する鋳造製品(ダイキャスト製品)、2は加圧金型、3は支持金型であり、前記加圧金型2、支持金型3は、いわゆる開放金型を構成している。加圧金型2は、本例では製品の上面を加圧できるように製品の上面形状に合わせた形状をしており、また支持金型3側には、加圧時にダイキャスト製品が移動せぬよう製品内部に挿入される位置決め手段3aが形成されている。この位置決め手段3aは、加圧時にダイキャスト製品の移動を禁止できるものであれば、図示のような位置決め突起に限定されることはない。
【0010】
空孔圧潰作業を行う際には、内部に空孔4を有するダイキャスト製品1を図2に示すように前記支持金型3上に載置する。そして、前記状態で図2に示す如く、加圧金型2でダイキャスト製品1の上面を加圧する。この加圧により、図1に示すダイキャスト製品1のB部に存在する空孔4を圧潰すことができる。また、図3(イ)に示すように、ダイキャスト製品1のC部を加圧金型2で部分加圧することにより、C部に存在する空孔4を圧潰すことができる。このC部を加圧する際に図3(イ)に示すように、非加圧側が浮き上がることを防止する適宜拘束部材5を配置することが好ましい。
【0011】
なお、ダイキャスト製品1側には、加圧部分に予め、図3(ロ)に示すような凸形状1aを形成しておくことができる。このように予め凸形状1aを形成しておくことにより、加圧金型により製品の表面に部分的な凹部が形成されることが防止できる。
図4に、ダイキャスト製品の空孔4が加圧により変形する様子を示す。加圧後(変形後)には図に示すように製品の厚さが減少するとともに、外側に変形を起こし、この結果内部の空孔4が図のように圧潰される。
【0012】
なお、前記加圧金型の形状は、製品形状に合わせて作成するが、製品内に空孔が発生する部位を集中的に部分加圧する金型形状(図3参照)を採用することもできる。また、加圧は、予め加圧温度、加圧荷重、加圧速度、製品厚さなどを変えながら、製品内の空孔を圧潰できる最適条件を実験で求めておき、その条件で加圧をおこなう。この加圧操作により製品の加圧部は製品材料の塑性流動変形により変形し、この変形によって製品内部の空孔が圧潰される。このように開放金型を使用することで、製品に塑性流動変形を起こさせることが本発明の大きな特徴である。また、加圧による製品の変形量は、製品の精度に大きな影響を与えるものでなく、僅か0.5mm〜3mm程度の変形でも、空孔を圧潰することができる。
【0013】
また、加圧時の製品温度は常温でもよいが、アルミダイキャスト製品等では例えば室温である15°C〜500°C、さらには350°C〜450°程度が好ましい。また加圧荷重は約10トン〜150トンの範囲で行うことが好ましいが、実際の加圧荷重は製品のサイズ、加圧目的に応じて前記範囲の中で最適な荷重を選択することになる。
【0014】
実験例
アルミダイキャスト製品内部の空孔の観察
図5はアルミダイキャスト製品を示す写真、図6は樹脂によって固定された製品内に発生している空孔を示す図(図中白抜き部が製品の断面であり、その中に空孔が存在している)、図7は気密漏れが発生している周辺の断面の写真である。
図5に示す、気密漏れが発生しているコンプレツサー用アルミダイキヤスト製品の内部の空孔を観察すると、12分割した試料の内部には肉眼で確認出来る程の空孔4があり、最も大きな空孔の直径は1mm以上にもなっている。図5に示すような空孔欠陥のある製品を切削加工すれば気密漏れが発生してしまう可能性は十分に考えられる。
【0015】
実験では先ず、図8(イ)に示すアルミダイキャスト製品を使用し、図8(ロ)に示すように閉鎖ジグ内で荷重を加えて圧縮し、内部の空孔を潰す作業を行った。圧縮(加圧)時の温度、荷重などの条件を変えて幾つかの試料を圧縮した。しかし、その結果はどの条件においても空孔はほとんど潰れず、効果は確認出来なかった。ただ、一つの試料では、表面に微細な結晶粒の表面層が出来たものがあったが、その層の厚さば40〜80μmmで、気密漏れを改善出来る程のものではなかった。
【0016】
つぎに、円盤状で、側面にわずかに勾配のついた単純な形状のダイキャスト品(図9参照)を用いて(φ36×φ40×厚さ10.2mm)を圧縮する実験を行った。
方法は、試料の変形を許す開放ジグ、即ち、標準治具(図10参照)にて圧縮を行った。図12に示す13種類の圧縮条件(加圧条件)で実験を行い、未処理試料と共に断面を撮影し、比較することにより、圧縮の効果を検証した。なお、図11は製品よりも加圧面積が大きな治具(反転治具)を使用した例を示しているが、この場合には製品は加圧時に左右方向に変形することで、空孔圧潰状況は図10の場合と同じである。
【0017】
試料を四分割した断面で、その断面の画像を横方向に二ヶ所(図13(イ)参照)、縦方向に三ヶ所(図13(ロ)参照)取り込んだ。その画像を二値化し、空孔部分を黒、それ以外の部分を白で表した画像を作成し(図13(ハ)参照)、観察位置の黒の割合(空孔率)のグラフを作成し、結果を比較した。
【0018】
横方向の空孔率は、試料上部では未処理も圧縮後も空孔率に大きな変化はなく、上部は空孔の絶対量が少ないので製品に悪影響を及ぼす程ではない(図14参照)。試料中心部は最も空孔の多い部分であるので、各試料における中心部全体の空孔率のグラフで圧縮の効果を比較する(図15参照)。
【0019】
この結果、未処理試料は上下方向の中心部に明らかに空孔が多いが、圧縮後は特に中心部の空孔が減少し、空孔の分布が分散している様子を確認できた。
【0020】
図15のグラフにより、中心部の空孔率を比較するとNo.11,13,15,19,21の空孔率が小さい。しかし、No,19,21は常温下(図12参照)での圧縮であるため、亀裂発生(図14参照)をしているものがある。つまり、350°Cの下で圧縮したものの結果が良好であった。次に圧縮時の温度が異なるが試料の変形率が近いNo.11,17,23を比較する。これでも350°Cの結果が最も良好で、次いで450°C、常温の順である。よって圧縮時の温度には最適温度が存在することを確認した。
【0021】
実験結果の考察
ダイキャスト製品内部の空孔欠陥を、圧縮実験にて製品を変形させずに潰すことは出来なかった。しかし、単純な形状のダイキャスト製品ではあるが、製品の変形を許せば圧縮実験にて空孔欠陥を潰すことが出来た。未処理試料二つの中心部の空孔率(2.80%と6.22%)に対して、実験で得られた、亀裂などが発生していない製品の圧縮実験による効果は次の通りである。
【0022】
1)350°C(製品温度)の温度のもとで、41トンの荷重で圧縮した場合(試料No.11)の中心部の空孔率は0.15%に減少(図14参照)。
2)常温の下、72tの荷重で圧縮した場合(試料No.19)の中心部の空孔率は0.11%に減少(図14参照)。
以上のことから、空孔欠陥を圧縮により効果的に減少させるには、常温で高い荷重を加えるか、高温下で荷重を加えるかであるが、常温での圧縮は亀裂発生の可能性が高いことから、今回の実験では350°Cでの圧縮が最も高い効果があった。
【0023】
以上、本発明の実施例について説明したが、空孔を圧潰する製品としてはアルミダイキャスト製品に限らず、鋳造製品でも同様に空孔を圧潰することができる。また加圧条件は製品に応じて種々変更することができることは当然である。たとえば、製品に対する加圧の範囲、加圧荷重、加圧温度などは製品内の空孔の存在状態によって、適宜変更することができる。本発明をアルミダイキャスト製品に適用する場合の最適条件としては、加熱温度約350°C、加圧荷重約40トン程度が好ましいことを確認している。なお、加圧速度には大きな制限はない。さらに、加圧手段としては、プレスによる加圧以外にも、同様な効果を発揮できる加圧手段(たとえば製品表面を叩く等)を採用することもできる。
また本発明はその精神また主要な特徴から逸脱することなく、他の色々な形で実施することができる。そのため前述の実施例は単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。更に特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法に利用することができる。特に、塑性流動変形の起こり易い材料を使用した製品の内部欠陥除去に利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】試料としてのアルミダイキャスト製品の平面図およびA−A断面図である。
【図2】アルミダイキャスト製品を加圧する状態の説明図である。
【図3】アルミダイキャスト製品を加圧する他の状態の説明図および同製品の一部拡大図である。
【図4】アルミダイキャスト製品の加圧前、加圧後の製品および内部空孔の状態の説明図である。
【図5】アルミダイキャスト製品の斜視図である。
【図6】同製品の断面中に存在する空孔を示す図である。
【図7】同製品の断面図である。
【図8】実験に用いた試料の斜視図および密閉金型を使用して試料に荷重を負荷する状態の説明図である。
【図9】円盤状試料の斜視図である。
【図10】試料を加圧する状態の説明図である。
【図11】試料を加圧する状態の他の説明図である。
【図12】試料に加えた圧縮(加圧)の条件を示す表である。
【図13】試料の断面の観察位置を示す図および二値化画像である。
【図14】試料の空孔率を示す表である。
【図15】試料中心部の空孔率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1 鋳造製品
1a 凸形状
2 加圧金型
3 支持金型
3a 位置決め手段
4 空孔
5 拘束手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造またはダイカストにより成形された成形品の表面の一部分を加圧手段で部分加圧し、成形品に塑性変形を起こさせることにより、成形品の内部に形成されている空孔欠陥を圧潰することを特徴とする鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法。
【請求項2】
前記加圧する際の製品温度は、温度約15°C〜500°Cで行うことを特徴とする請求項1に記載の鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法。
【請求項3】
前記加圧は開放金型内で行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法。
【請求項4】
前記加圧は、製品の表面に形成した凸部部分を加圧することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鋳造またはダイキャスト製品内部の空孔の圧潰方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2006−61933(P2006−61933A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246076(P2004−246076)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(304016804)グンダイ株式会社 (5)