説明

鋳造装置

【課題】スリーブ内に注ぎ込まれた射出前の溶湯を冷却し過ぎてしまうことなく、射出後の溶湯を速やかに冷却することが可能な技術を提供する。
【解決手段】本明細書が開示する鋳造装置は、スリーブ内に注ぎ込まれた溶湯をプランジャチップによって金型の内部へ射出する鋳造装置である。その鋳造装置は、前記プランジャチップの内部に形成された冷却媒体循環路と、前記冷却媒体循環路に冷却媒体を循環させるポンプと、前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量を調整する流量調整手段と、溶湯を射出する前に比べて、溶湯を射出した後の方が、前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量が大きくなるように、前記流量調整手段を制御するコントローラを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造装置に関する。特に、圧力を加えて金型に溶融金属(溶湯)を射出して製品を鋳造するいわゆるダイカストマシンに関する。本明細書でいう「鋳造装置」は「ダイカストマシン」を意味する。
【背景技術】
【0002】
鋳造装置は、典型的には、金型と、金型に流し込むための溶湯を一時的に収容するスリーブと、スリーブ内を摺動して溶湯を金型内のキャビティへ射出するプランジャチップを備えている。このような鋳造装置では、溶湯の熱によってスリーブやプランジャチップが熱変形して、スリーブとプランジャチップの間でカジリが発生するおそれがある。そこで、スリーブやプランジャチップを冷却して、カジリの発生を抑制する技術が従来から知られている。
【0003】
特許文献1には、スリーブとプランジャチップの熱変形に起因するカジリの発生を抑制する技術が開示されている。この技術では、スリーブとプランジャチップそれぞれの内部に冷却媒体が循環する流路を形成しておく。そして、スリーブの温度が常に250℃以下となるようにスリーブに供給される冷却媒体の循環速度を調整し、プランジャチップの温度が270℃〜190℃となるようにプランジャチップに供給される冷却媒体の循環速度を調整する。
【0004】
特許文献2にも、スリーブとプランジャチップの熱変形に起因するカジリの発生を抑制する技術が開示されている。この技術では、プランジャチップに印加される油圧を計測して、スリーブとプランジャチップの間の摺動抵抗の大きさを監視する。両者の間の摺動抵抗が大きい場合には、プランジャチップを循環する冷却媒体の流量を増大させて、プランジャチップを強く冷却する。これによって、プランジャチップの熱変形を抑制し、スリーブとプランジャチップの間のクリアランスを確保する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−15652号公報
【特許文献2】特開平6−198414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2の技術では、スリーブとプランジャチップの間のクリアランスを確保して、プランジャチップのカジリを防止することを目的としている。しかしながら、成形品の品質を悪化させる要因は、スリーブとプランジャチップの間のカジリ以外にも存在する。
【0007】
例えば、スリーブ内に注ぎ込まれた溶湯が、射出される前に過剰に冷却されてしまうと、成形品に湯皺や湯境、欠肉などの不良を生じてしまうおそれがある。また、キャビティ内に射出された後の溶湯の冷却が不足すると、溶湯を速やかに凝固させることができない。特に、溶湯のうちプランジャチップに隣接する部位は、他の部位に比べて肉厚に成形されることになるので、この肉厚の部位を速やかに凝固させる必要がある。スリーブ内に注ぎ込まれた射出前の溶湯を冷却し過ぎてしまうことなく、なおかつ射出後の溶湯を速やかに冷却することが可能な技術が期待されている。
【0008】
本発明は上記課題を解決する。本発明では、スリーブ内に注ぎ込まれた射出前の溶湯を冷却し過ぎてしまうことなく、射出後の溶湯を速やかに冷却することが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書が開示する鋳造装置は、スリーブ内に注ぎ込まれた溶湯をプランジャチップによって金型の内部へ射出する鋳造装置である。その鋳造装置は、前記プランジャチップの内部に形成された冷却媒体循環路と、前記冷却媒体循環路に冷却媒体を循環させるポンプと、前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量を調整する流量調整手段と、溶湯を射出する前に比べて、溶湯を射出した後の方が、前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量が大きくなるように、前記流量調整手段を制御するコントローラを備える。
【0010】
上記の鋳造装置では、スリーブ内に注ぎ込まれた溶湯を射出する前の段階では、冷却媒体循環路を小流量の冷却媒体が循環する。このため、プランジャチップは弱く冷却された状態となり、射出前の溶湯を冷却し過ぎてしまうことがない。成形品に湯皺や湯境、欠肉などの不良を生じてしまうことを抑制することができる。また、スリーブ内に注ぎ込まれた溶湯を射出した後の段階では、冷却媒体循環路を大流量の冷却媒体が循環する。このため、金型内に射出された溶湯を速やかに凝固させることができる。特に、射出された溶湯のうちプランジャチップに隣接する部位を、速やかに凝固させることができる。
【0011】
前記流量調整手段としては、様々なものを用いることができる。例えば、流量調整手段としては、流量制御弁を用いてもよい。あるいは、流量調整手段としては、ポンプの回転数を制御するインバータを用いてもよい。
【0012】
上記の鋳造装置においては、溶湯を射出する際に、前記プランジャチップが所定の位置に到達した時点で、前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量を増大させるように、前記コントローラが前記流量調整手段を制御することが好ましい。溶湯を射出する際のプランジャチップの位置は、比較的容易に検出することができる。上記の鋳造装置によれば、比較的簡易な構成で、溶湯の射出前後において、冷却媒体の流量を確実に切り換えることができる。
【0013】
あるいは、上記の鋳造装置においては、溶湯を射出する際に、前記プランジャチップの速度を切り換える時点で、前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量を増大させるように、前記コントローラが前記流量調整手段を制御することが好ましい。一般に、溶湯を射出する際には、最初はプランジャチップを低速で前進させて、途中から速度を切り換えて高速で前進させる。上記の鋳造装置によれば、比較的簡易な構成で、溶湯の射出前後において、冷却媒体の流量を確実に切り換えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋳造装置によれば、スリーブ内に注ぎ込まれた射出前の溶湯を冷却し過ぎてしまうことなく、射出後の溶湯を速やかに冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施例の鋳造装置2の構成を模式的に示す図である。
【図2】第1実施例の鋳造装置2を用いた鋳造プロセスのフローチャートである。
【図3】第1実施例の鋳造装置2でスリーブ10に溶湯Hを注ぎ込んでいる状態を示す図である。
【図4】第1実施例の鋳造装置2で溶湯Hをキャビティに射出した状態を示す図である。
【図5】第2実施例の鋳造装置102の構成を模式的に示す図である。
【実施例】
【0016】
(第1実施例)
図面を参照して第1実施例の鋳造装置2を説明する。本実施例の鋳造装置2は、圧力を加えて金型に溶融金属(溶湯)を射出して製品を鋳造する装置(ダイカストマシン)である。図1に示すように、鋳造装置2は、主な部品として、固定金型4と、固定金型4に密着及び離間する可動金型6と、固定金型4に固定されるスリーブ10と、スリーブ10内を往復移動するプランジャ12を備える。本実施例の鋳造装置2は、スリーブ10がその長手方向を略水平にして備えられ、スリーブ10内をプランジャ12が水平方向に往復移動する横型の鋳造装置である。
【0017】
固定金型4と可動金型6とは、ともに合金鋼製の金型である。固定金型4は、図示しない固定盤に固定されている。可動金型6は、図示しない可動盤に固定されている。可動盤の移動に伴って、可動金型6が固定金型4に密着/離間する。なお、金型同士を密着させることは「金型を閉じる」と称し、密着した金型を離間することは「金型を開く」と称する。図1は、金型を閉じたとき(可動金型6が固定金型4に密着したとき)の状態を示している。このとき、2つの金型4、6の間には、製品を鋳造するためのキャビティ(図示省略)と、そのキャビティとスリーブ10内の空間を連通する湯道8が形成される。スリーブ10から射出される溶湯は、湯道8を通過してキャビティに供給される。
【0018】
スリーブ10は、合金鋼製の円筒状部材である。スリーブ10の長手方向中央付近の上部には、外部からスリーブ10内に溶湯を供給するための溶湯供給孔14が形成されている。また、スリーブ10は、前方で上記の湯道8と連通している。スリーブ10の前端の上部には、湯道8とスリーブ10内とを連通する湯道孔16が開口している。なお、「スリーブ10の前方(後方)」とは、往復移動するプランジャ12の前進(後退)方向を意味する。
【0019】
プランジャ12は、プランジャチップ18と、プランジャロッド20と、アクチュエータ22を備えている。プランジャチップ18は、スリーブ10内の溶湯をキャビティへと押出すための合金鋼製の円柱状部材であり、その先端面がスリーブ10内の空間に面するようにスリーブ10内に配置される。プランジャチップ18は、プランジャチップ18の外周面と、スリーブ10の内周面とがほぼ隙間なく接する径(厳密には僅かに小さい径)を有しており、スリーブ10内を摺動可能である。
【0020】
プランジャロッド20は、プランジャチップ18の後側に配置されており、プランジャチップ18と油圧式のアクチュエータ22を連結している。アクチュエータ22がプランジャロッド20を前後に移動させることによって、プランジャチップ18はスリーブ10内を前後に進退する。アクチュエータ22には図示されないエンコーダが設けられており、プランジャロッド20の前後方向の移動量を検出することができる。アクチュエータ22は、エンコーダの検出値に基づいて、プランジャチップ18の先端面がスリーブ10内の所望の位置となるように、プランジャロッド20に印加する荷重を調整することができる。
【0021】
鋳造装置2は、さらに、スリーブ10内に鋳造に必要な量の溶湯を供給するための溶湯供給装置(図示省略)と、可動金型6、アクチュエータ22、溶湯供給装置等の動作を制御するメインコントローラ44を備えている。メインコントローラ44は、鋳造プロセスの進行過程に合わせて、それぞれの機器を制御する。
【0022】
プランジャチップ18の内部には、冷却媒体循環路24が形成されている。プランジャロッド20の内部には、冷却媒体往路26と冷却媒体復路28が形成されている。冷却媒体循環路24の一端は冷却媒体往路26に連通しており、冷却媒体循環路24の他端は冷却媒体復路28に連通している。冷却媒体往路26は、プランジャ12の外部に設けられた冷却媒体供給路30に連通し、冷却媒体復路28は、プランジャ12の外部に設けられた冷却媒体排出路32に連通している。冷却媒体供給路30には、電磁弁34とポンプ36が設けられている。冷却媒体排出路32には、流量計38と流量制御弁40が設けられている。
【0023】
電磁弁34、ポンプ36、流量制御弁40の動作は、サブコントローラ46によって制御される。サブコントローラ46が、電磁弁34を開いてポンプ36を駆動すると、タンク42から冷却媒体(例えば水)が吸い出され、冷却媒体が冷却媒体供給路30、冷却媒体往路26、冷却媒体循環路24、冷却媒体復路28、冷却媒体排出路32の順に循環して、タンク42に戻される。これにより、プランジャチップ18およびプランジャロッド20の冷却が行われる。さらに、サブコントローラ46は、流量計38で検出される流量に基づいて流量制御弁40の開度を調整することによって、冷却媒体を所望の流量で循環させることができる。なお、タンク42には、必要に応じて冷却媒体補給路48から冷却媒体が補給される。
【0024】
サブコントローラ46はメインコントローラ44と通信可能であり、鋳造プロセスの進行過程に応じて冷却媒体の循環を制御する。メインコントローラ44からサブコントローラ46へ、鋳造装置2による鋳造プロセスの進行過程を示す信号が供給される。サブコントローラ46は、メインコントローラ44からの信号に基づいて、電磁弁34、ポンプ36、流量制御弁40の制御を行う。
【0025】
図2は本実施例の鋳造装置2を用いて鋳造を行う場合の、鋳造プロセスのフローチャートである。
【0026】
ステップS202では、可動盤の移動により、可動金型6を固定金型4に密着させて金型を閉じ、2つの金型4,6の間にキャビティおよび湯道8を形成する。このとき、プランジャチップ18の先端面は溶湯供給孔14より後方に位置している。ステップS202の開始時と終了時には、メインコントローラ44からサブコントローラ46へ、型締め開始信号と型締め完了信号がそれぞれ出力される。
【0027】
ステップS204では、溶湯供給装置によって、溶湯供給孔14からスリーブ10内に溶湯を供給する。ステップS204の開始時と終了時には、メインコントローラ44からサブコントローラ46へ、注湯開始信号と注湯完了信号がそれぞれ出力される。
【0028】
ステップS206では、アクチュエータ22を駆動して、プランジャチップ18を前進させる。これにより、スリーブ10内の溶湯が湯道孔16と湯道8を通ってキャビティ内に押し出される。
【0029】
本実施例では、プランジャチップ18の前進速度は、低速と高速の二段階で切換わる。具体的には、ステップS206でプランジャチップ18の前進を開始した時点では、プランジャチップ18の前面が所定の低速度で移動するように、アクチュエータ22を駆動する。その後、プランジャチップ18の前面が所定の速度切換位置に到達すると、プランジャチップ18の前面が所定の高速度で移動するように、アクチュエータ22を駆動する。さらにプランジャチップ18が前進して、所定の前進限界位置まで到達すると、プランジャチップ18の前面がその位置で停止するように、アクチュエータ22を駆動する。ステップS206の開始時と終了時には、メインコントローラ44からサブコントローラ46へ、射出開始信号および射出完了信号がそれぞれ出力される。また、ステップS206においてプランジャチップ18の前進速度を低速から高速へ切り換える時点で、メインコントローラ44からサブコントローラ46へ、速度切換信号が出力される。
【0030】
ステップS208では、アクチュエータ22によってプランジャチップ18の前面を前進限界位置に保持したまま、所定時間(ダイタイム)が経過するまで待機する。これによって、キャビティ内に射出された溶湯が加圧された状態で凝固していく。ステップS208の開始時と終了時には、メインコントローラ44からサブコントローラ46へ、ダイタイム開始信号とダイタイム完了信号がそれぞれ出力される。
【0031】
ステップS210では、可動盤の移動により、可動金型6を固定金型4から離間させて、金型を開く。ステップS210の開始時と終了時には、メインコントローラ44からサブコントローラ46へ、型開き開始信号と型開き完了信号がそれぞれ出力される。
【0032】
ステップS212では、可動金型6から、成形された粗材を取り出す。
【0033】
ステップS214では、可動金型6および固定金型4のキャビティ表面を洗浄し、離型剤のスプレー塗布およびエアブローによる水分除去を行う。
【0034】
ステップS216では、アクチュエータ22を駆動して、プランジャチップ18を後退させる。これにより、プランジャチップ18の前面がスリーブ10内を後退し、溶湯供給孔14より後方の位置まで戻る。ステップS216の開始時と終了時には、メインコントローラ44からサブコントローラ46へ、プランジャ後退開始信号とプランジャ後退完了信号がそれぞれ出力される。
【0035】
その後、ステップS202へ戻り、次のサイクルの鋳造が行われる。
【0036】
以下では、上記した一連の鋳造プロセスにおける、サブコントローラ46による冷却媒体の循環制御について説明する。
【0037】
図2の鋳造プロセスが開始すると、サブコントローラ46は電磁弁34を開き、ポンプ36を駆動して、冷却媒体の循環を開始させる。これによって、プランジャチップ18の冷却が行われる。この時点では、冷却媒体の目標流量は小流量に設定されており、プランジャチップ18は弱く冷却される。
【0038】
図2のステップS206で、メインコントローラ44から速度切換信号を受信すると、サブコントローラ46は冷却媒体の目標流量を大流量に変更する。これにより、プランジャチップ18は強く冷却される。
【0039】
図2のステップS216で、メインコントローラ44からプランジャ後退完了信号を受信すると、サブコントローラ46は冷却媒体の目標流量を小流量に変更する。これにより、プランジャチップ18は弱く冷却される。
【0040】
サブコントローラ46が上記のように冷却媒体の循環を制御することで、以下のような効果を奏する。スリーブ10内に溶湯が供給されて射出が行われる前の段階では、プランジャチップ18は弱い冷却がなされている。従って、射出される前の溶湯を冷却し過ぎてしまうことがない。
【0041】
その後、プランジャチップ18を前進させて溶湯の射出が行われると、プランジャチップ18の前進速度を低速から高速に切り換えるタイミングで、冷却媒体の循環流量が小流量から大流量に切り換えられる。従って、キャビティ内に射出された溶湯を加圧しながら凝固させる際には、プランジャチップ18は強く冷却される。これにより、溶湯を速やかに凝固させることができる。特に、溶湯のうちプランジャチップ18に隣接する部位について、速やかに凝固させることができる。
【0042】
以上のように、本実施例の鋳造装置2によれば、図3に示すように、溶湯Hをスリーブ10内に注ぎ込んでいる射出前の段階では、プランジャチップ18を弱く冷却しているので、スリーブ10内に注ぎ込まれた射出前の溶湯Hを冷却し過ぎてしまうことがない。成形後の粗材に湯皺や湯境、欠肉などの不良が発生することを抑制することができる。また、本実施例の鋳造装置2によれば、図4に示すように、スリーブ10からキャビティに溶湯Hを射出した後の段階では、プランジャチップ18を強く冷却しているので、キャビティ内の溶湯Hを速やかに凝固させることができる。
【0043】
なお、サブコントローラ46が冷却媒体の目標流量を小流量から大流量へ切り換えるトリガーとしては、上記した速度切換信号以外にも、様々なものを用いることができる。例えば、ステップS206においてメインコントローラ44が射出開始信号を出力した時点で、サブコントローラ46が冷却媒体の目標流量を小流量から大流量へ切り換える構成としてもよい。あるいは、ステップS206においてメインコントローラ44が射出完了信号を出力した時点で、サブコントローラ46が冷却媒体の目標流量を小流量から大流量へ切り換える構成としてもよい。あるいは、ステップS206でプランジャチップ18が所定の流量切換位置まで到達した時点で、メインコントローラ44からサブコントローラ46へ流量切換信号を出力するようにしておいて、その流量切換信号をトリガーとしてサブコントローラ46が冷却媒体の目標流量を小流量から大流量へと切り換える構成としてもよい。いずれの場合についても、ステップS204で溶湯をスリーブ10内へ注ぎ込む段階では、プランジャチップ18は弱く冷却されているので、スリーブ10内に注ぎ込まれた射出前の溶湯を冷却し過ぎてしまうことがなく、ステップS208で溶湯を加圧凝固する段階では、プランジャチップ18は強く冷却されているので、スリーブ10からキャビティに射出された溶湯を速やかに凝固させることができる。
【0044】
また、上記の実施例では、サブコントローラ46が冷却媒体の目標流量を小流量と大流量の二段階で切り換える構成について説明したが、冷却媒体の目標流量をより多くの段階で切り換える構成としてもよい。例えば、ステップS204の注湯の時点では、冷却媒体の目標流量を第1流量に設定しておき、ステップS206でメインコントローラ44から射出開始信号が出力された時点で、サブコントローラ46が冷却媒体の目標流量を第1流量より大きい第2流量に切り換え、メインコントローラ44から速度切換信号が出力された時点で、冷却媒体の目標流量を第2流量より大きい第3流量に切り換え、メインコントローラ44から射出完了信号が出力された時点で、冷却媒体の目標流量を第3流量より大きい第4流量に切り換え、ステップS216でプランジャ後退完了信号が出力された時点で、冷却媒体の目標流量を第4流量から第1流量へ戻す構成としてもよい。あるいは、ステップS206において、プランジャチップ18が段階的に設定された複数の流量切換位置に到達する度に、メインコントローラ44がサブコントローラ46に流量切換信号を送信するようにしておいて、これらの流量切換信号を受信する度にサブコントローラ46が冷却媒体の目標流量を段階的に増加させていく構成としてもよい。
【0045】
(第2実施例)
図5を参照して、第1実施例と異なる点を中心に、第2実施例の鋳造装置102について説明する。本実施例の鋳造装置102は、第1実施例の鋳造装置2とは異なり、流量制御弁40を備えていない。その代わりに、鋳造装置102のサブコントローラ146は、ポンプ36の回転数を調整するインバータ104を内蔵している。サブコントローラ146は、流量計38の検出値に基づいてポンプ36の回転数を調整することによって、冷却媒体の循環流量を所望の目標流量に制御することができる。このような構成としても、第1実施例の鋳造装置2と同様にして、鋳造プロセスの進行過程に応じて、適切にプランジャチップ18を冷却することができる。スリーブ10内に注ぎ込まれた射出前の溶湯を冷却し過ぎてしまうことなく、なおかつ射出後の溶湯を速やかに冷却することができる。
【0046】
なお本実施例では、サブコントローラ146が、流量計38によって冷却媒体の流量を検出して、検出される流量が目標流量と一致するように、ポンプ36の回転数を調整する構成について説明した。上記とは異なり、例えば流量計38の代わりに冷却媒体の圧力を検出する圧力計を設けておいて、その圧力計で検出される冷却媒体の圧力が目標とする圧力となるように、サブコントローラ146がポンプ36の回転数を調整する構成としてもよい。このような構成としても、冷却媒体の流量を適切に調整することができる。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0048】
例えば、上記の実施例では、メインコントローラ44とサブコントローラ46,146が別個のものとして構成されている場合について説明したが、サブコントローラ46,146が果たしている機能をメインコントローラ44に担わせることで、サブコントローラ46,146を省略する構成としてもよい。
【0049】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0050】
2,102 鋳造装置
4 固定金型
6 可動金型
8 湯道
10 スリーブ
12 プランジャ
14 溶湯供給孔
16 湯道孔
18 プランジャチップ
20 プランジャロッド
22 アクチュエータ
24 冷却媒体循環路
26 冷却媒体往路
28 冷却媒体復路
30 冷却媒体供給路
32 冷却媒体排出路
34 電磁弁
36 ポンプ
38 流量計
40 流量制御弁
42 タンク
44 メインコントローラ
46,146 サブコントローラ
48 冷却媒体補給路
104 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリーブ内に注ぎ込まれた溶湯をプランジャチップによって金型の内部へ射出する鋳造装置であって、
前記プランジャチップの内部に形成された冷却媒体循環路と、
前記冷却媒体循環路に冷却媒体を循環させるポンプと、
前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量を調整する流量調整手段と、
溶湯を射出する前に比べて、溶湯を射出した後の方が、前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量が大きくなるように、前記流量調整手段を制御するコントローラを備える鋳造装置。
【請求項2】
前記流量調整手段が、流量制御弁である請求項1の鋳造装置。
【請求項3】
前記流量調整手段が、前記ポンプの回転数を制御するインバータである請求項1の鋳造装置。
【請求項4】
溶湯を射出する際に、前記プランジャチップが所定の位置に到達した時点で、前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量を増大させるように、前記コントローラが前記流量調整手段を制御する請求項1の鋳造装置。
【請求項5】
溶湯を射出する際に、前記プランジャチップの速度を切り換える時点で、前記冷却媒体循環路を流れる冷却媒体の流量を増大させるように、前記コントローラが前記流量調整手段を制御する請求項1の鋳造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−106278(P2012−106278A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259042(P2010−259042)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)