説明

鋼、工具鋼、特に熱間加工鋼の熱伝導度の調整方法、並びに鋼製品

本発明は、以下の組成:0.26〜0.55重量%のC、<2重量%のCr、0〜10重量%のMo、0〜15重量%のW、但しWとMoとの含有量は合計で1.8〜15重量%となる、単独または合計で0〜3重量%の含有量を有する炭化物形成元素Ti,Zr,Hf,Nb,Ta、0〜4重量%のV、0〜6重量%のCo、0〜1.6重量%のSi、0〜2重量%のMn、0〜2.99重量%のNi、0〜1重量%のS、ならびに残り:鉄および不可避の不純物、を有する工具鋼、特に熱間加工鋼に関する。熱間加工鋼は、従来の工具鋼よりも有意に高い熱伝導度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼、工具鋼、特に熱間加工鋼の熱伝導度の調整方法、および工具鋼の使用に関する。さらに、本発明は鋼製品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間加工鋼は、鉄のほかに合金元素として特に炭素、クロム、タングステン、珪素、ニッケル、モリブデン、マンガン、バナジウム、コバルトを異なる割合で含む合金工具鋼である。
【0003】
熱間加工鋼から例えば工具などの熱間加工鋼製品が製造できるが、それらは特に圧力鋳造、押出しあるいは型鍛造における材料の加工に適している。そのような工具の例が、高い加工温度において優れた機械的強度特性を発揮しなければならない押出しダイス、鍛造型、圧力鋳造型、プレスポンチなどである。熱間加工鋼に対する別の適用分野は、プラスチック射出成形用工具である。
【0004】
工具鋼、特に熱間加工鋼およびそれらから製作される鋼製品の重要な機能性は、製造工程での使用に際して供給される、あるいは工程自体において発生する熱を十分に排出することにある。
【0005】
熱間加工鋼から製作される熱間加工工具は、高い加工温度における高い機械的安定性と共に、良好な熱伝導度および高い耐熱摩耗抵抗を持たなければならない。熱間加工鋼が有すべき他の重要な特性は、十分な硬さおよび強さと共に、高い加工温度における高い耐熱硬さおよび高い耐摩耗性である。
【0006】
工具を製作するために使用される熱間加工鋼の高い熱伝導度は、顕著な工程時間短縮に寄与するゆえに、多くの適用分野に対して極めて重要である。ワークピースの熱間成形に対する熱間成形装置の稼働は相当に高コストであるため、工程時間短縮により顕著なコスト低減が達成できる。さらに熱間加工鋼の高い熱伝導度は高圧鋳造において有利である、なぜならば、そこで使用される鋳造型は高度の温度耐久性のゆえに長期の寿命を有するからである。
【0007】
工具を製作するために常用される工具鋼が有する典型的な熱伝導度は、室温でおよそ18から24W/mKまでのオーダにある。一般的には、現在の技術水準から公知の熱間加工鋼の熱伝導度はおよそ16から37W/mKである。
【0008】
欧州特許第0632139A1号明細書から公知の熱間加工鋼は、例えばおよそ1,100°Cまでの温度において35W/mK以上の比較的高い熱伝導度を有する。この刊行物から公知の熱間加工鋼は、鉄および不可避の不純物のほかに以下の成分を含んでいる。
【0009】
0.30〜0.55重量%のC;
0.90重量%未満のSi;
1.0重量%以下のMn;
2.0〜4.0重量%のCr;
3.5〜7重量%のMo;
0.3〜1.5重量%のバナジウム、チタンおよびニオブの1または複数の元素。
【0010】
従来の熱間加工工具鋼は、典型的には2重量%よりも多いのクロム含量を有する。クロムは比較的安価な炭化物形成体であり、熱間加工鋼に優れた酸化耐性を付与する。さらに、クロムは極めて薄い二次炭化物を形成するため、従来の熱間加工工具鋼における靭性に対する機械的剛性の比率が極めて優れている。
【0011】
ドイツ特許第1014577B1号明細書から公知なのは、硬化性鋼合金を用いた熱間加工工具の製造方法である。該特許は、特に稼働中に硬化する熱間加工工具、特に高温における静的圧力負荷時の高い傷および破壊強さ並びに高い降伏点を有する熱間鍛造型の製造方法に関する。この刊行物に記載された熱間成形鋼は、とりわけ単純で比較的安価な化学的組成(0.15〜0.30%C,3.25〜3.50%Mo,クロムを含まず)および容易な焼入れ性を特徴とする。ここで対象とされているのは、熱間プレス型の製造方法およびそれに属する焼鈍処理(硬化)である。化学的組成に基づく特性については、説明されない。
【0012】
スイス特許第481222号明細書は、例えば鋳造用ダイスなどの工具を製造するための優れた冷間ホブ切り性を有するクロム・モリブデン・バナジウム合金製熱間加工鋼に関する。ここで示唆すべきは、合金元素特にクロム(1.00〜3.50%Cr)、モリブデン(0.50〜2.00%Mo)およびバナジウム(0.10〜0.30%V)の調整が所望特性、例えば低い焼鈍強さ(55kp/mm)、良好な流動特性、良好な熱伝導度などに対する決定的な影響を及ぼすことである。
【0013】
特開平4−147706号公報は、プラグ形状および合金の化学組成(0.1〜0.4%C,0.2〜2.0%Mn,0〜0.95%Cr,0.5〜5.0%Mo,0.5〜5.0W)による継目無鋼管製造用プラグの摩耗強さの改良について開示している。鋼の熱伝導度を高めるための特別な措置は、該公報の目的ではない。
【0014】
特開2004−183008号公報は、プラスチック鋳造用工具の価格の有利なフェライト・パーライト鋼合金(0.25〜0.45%C,0.5〜2.0%Mn,0〜0.5%Cr)について記載している。この場合の主対象は、加工性と熱伝導度との最適比である。
【0015】
特開2003−253383号公報に記載された鋼はフェライト・パーライト基本組織(0.1〜0.3%C,0.5〜2.0%Mn,0.2〜2.5%Cr,0〜0.15%Mo,0.01〜0.25%V)を持つプラスチック鋳造用予備焼入れ工具鋼を含有しており、該工具鋼では優れた加工性および溶接性が特徴である。
【0016】
圧延時の高い表面温度を特徴とする工具鋼におけるAc1変態温度を高めると共に、優れた被削性および僅少な流動応力を設定するために、特開平9−049067号公報では化学的組成(0.05〜0.55%C,0.10〜2.50%Mn,0〜3.00%Cr,0〜1.50%Mo,0〜0.50%V)の明細化および特に珪素含量(0.50〜2.50%Si)の増加を提案している。
【0017】
スイス特許165893号明細書は、特に熱間加工工具(鍛造型、ダイスなど)用に適しており、かつクロムが少なく(クロム無しを含む)またタングステン・コバルト・ニッケル含有(好ましくはモリブデンおよびバナジウムの添加物を含む)化学的組成を有する鉄合金に関する。クロム含量の低減および合金元素としてのクロムを完全に除去することは、重要な特性改良および有利な合金特性の獲得のために有効である。その際に確認されたのは、クロム割合を僅かに低減した場合でも、所望特性(例えば高い熱引裂き強さ、靭性および温度変動に対する抵抗性、それに伴う優れた熱伝導度)に対して、大量のタングステン、コバルトおよびニッケルを添加するよりもはるかに大きな影響を与えることである。
【0018】
欧州特許第0787813B1号明細書から公知なのは、低いCrおよびMn含量を有し、かつ高い温度においても優れた強さを有する耐熱フェライト鋼である。前記刊行物において開示された発明の目的は、高温での長期間の条件下で改良された時間耐久強さ並びに厚い製品においても改良された靭性、加工性および溶接性を有する低クロム含量の耐熱フェライト鋼を提供することであった。炭化物生成(粗大化)、析出および混合結晶強化に対する合金影響の説明により、フェライト鋼の構造安定化の必要性が解明される。クロム含量を3.5%以下へ低減することにより、550°C以上の温度における炭化クロムの粗大化による時間耐久強さの低下阻止並びに靭性、加工性および熱伝導度の向上が実現される。但し、少なくとも0.8%のクロムは高温における鋼の酸化および腐食靭性の維持のための前提とみなされる。
【0019】
ドイツ特許第19508947A1号明細書から公知なのは、耐摩耗性で耐焼き戻し性のある耐熱合金である。該合金は特に熱原形および熱成形技術における熱間加工工具に対する使用を意図しており、極めて高いモリブデン含量(10〜35%)およびタングステン含量(20〜50%)により特徴づけられる。さらに、前記の刊行物に記載された発明は、合金をまず溶融物から、あるいは粉末冶金法に基づいて生産するための単純でコストの有利な製造方法に関する。そのように大量のモリブデンおよびタングステンの含量は、混合結晶硬化および炭化物(または金属間相)の形成による焼き戻し耐性および耐熱性の増加により達成される。さらに、モリブデンは合金の熱伝導度を高めるが、熱膨張を抑制する。最終的に該刊行物においては、別の組成の基本体上に表面層を生成するための合金適性が説明されている(レーザ、電子、プラズマ光線および肉盛りによる溶接)。
【0020】
ドイツ特許第4321433C1号明細書は、1100°Cまでの温度における材料の原形、成形および加工(特に圧力鋳造、押出しプレス、型鍛造、剪断カッターなどの工程)に対して適用される熱間加工工具用鋼に関する。特徴的なのは、該鋼が400〜600°Cの温度範囲において35W/mK以上の熱伝導度(但し、これは基本的に合金含量の増加につれて低下する)および同時に高い摩耗抵抗(700N/mm2以上の引っ張り強さ)を有することである。極めて優れた熱伝導度は、一方では増加したモリブデン含量(3.5〜7.0%Mo)、他方では4.0%という最大クロム含量に起因する。
【0021】
特開昭61−030654号公報は、アルミニウム連続鋳造プラントにおけるロールシェルの製造用材料として高い熱傷および熱破壊強さ並びに大きな熱伝導度を有する鋼の使用に関するものである。この場合も、合金組成による熱傷および熱破壊強さ並びに熱伝導度の影響における対向的傾向が検討される。0.3%以上の珪素含量および4.5%以上のクロム含量は、特に熱伝導度に関して不利とみなされる。本発明に従った鋼合金から製作されるロールシェルの焼入れされたマルテンサイト微小構造を調整するために、可能な技法が開示されている。
【0022】
欧州特許第1300482B1号明細書は、高い温度における成形を行う特に工具用熱間加工鋼であって、同時に下記の特性を要する鋼に関する;大きな硬さ、強さおよび靭性、並びに高い温度における優れた熱伝導度、大きな耐摩耗性、および衝撃負荷における耐久時間延長。焼入れ時の炭素(0.451〜0.598%C)並びに特殊カーバイドおよびモノカーバイド形成元素(4.21〜4.98%Cr,2.81〜3.29%Mo,0.41〜0.69%V)の狭い限界の一定濃度により、所望の混合結晶焼入れ性が促進されること、また炭化物硬化およびマトリックス硬度を減じる粗大炭化物の硬度増大析出が顕著に抑制できることが、開示されている。炭化物割合の低減による熱伝導度の向上は、境界面動態および/または炭化物特性に基づくものであろう。
【0023】
現在の技術水準から公知の工具鋼、特に熱間加工鋼およびそれから製作される鋼製品の欠点は、多くの適用分野に対してそれらが不十分な熱伝導度しか有しないことにある。さらに、鋼特に熱間加工鋼の熱伝導度を的確に調整し、それぞれの適用目的に対して定義的に適合させることが、これまで不可能であった。
【発明の概要】
【0024】
この点が本発明の発端であり、本発明の目的は鋼特に熱間加工鋼の熱伝導度を的確に調整できる方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は従来技術から公知の工具鋼(特に熱間加工鋼)および鋼製品よりも高い熱伝導度を有する工具鋼特に熱間加工鋼および鋼製品を提供することにある。
【0025】
この目的は、方法に関しては、請求項1の特徴を持つ方法により、および請求項2の特徴を持つ方法により達成される。工具鋼に関しては、本発明の目的は請求項4の特徴を持つ工具鋼(特に熱間加工鋼)により、および請求項5の特徴を持つ工具鋼(特に熱間加工鋼)により、さらに請求項6の特徴を持つ工具鋼(特に熱間加工鋼)により達成される。鋼製品に関しては、本発明の目的は請求項25の特徴を持つ鋼製品により達成される。従請求項は、本発明の有利な構成に関する。
【0026】
請求項1に従えば、鋼特に熱間加工鋼の熱伝導度を調整するための本発明に従った方法は、鋼の内部構造が冶金学的に定義されて製造されること、またその炭化物成分が定義された電子およびフォノン密度を有すること、および/またはその結晶構造が的確に製造された格子欠陥により決定されるフォノンおよび電子の影響に対する平均自由行路長を有することを特徴とする。本発明に従った方法の長所は、鋼の内部構造が上記の方法において冶金学的に定義されて製造されることにより、鋼の熱伝導度が所望の大きさに的確に調整できることにある。本発明に従った方法は、例えば工具鋼および熱間加工鋼に対して適している。
【0027】
請求項2に従えば、鋼特に熱間加工鋼の熱伝導度を調整する、とりわけ熱伝導度を高めるための本発明に従った方法は、鋼の内部構造が冶金学的に定義されて製造されること、またその炭化物成分において高められた電子およびフォノン密度を有すること、および/または炭化物およびそれを囲む金属マトリックスの結晶構造における僅少な欠陥含量によって、フォノンおよび電子の影響に対する増大した平均自由行路長を有することを特徴とする。本発明に従ったこの措置により、鋼の熱伝導度は従来技術から公知の鋼に比べて定義された方法で調整できる、さらに特に公知の熱間加工鋼に比べて顕著に高めることができる。
【0028】
好ましい実施形態において、鋼の熱伝導度は室温で42W/mKよりも大きく、好ましくは48W/mKよりも大きく、特に55W/mKよりも大きく調整することができる。
【0029】
請求項4によると、本発明に従った工具鋼、特に熱間加工鋼は以下の組成を特徴とする。すなわち、
0.26〜0.55重量%のC、
<2重量%のCr、
0〜10重量%のMo、
0〜15重量%のW、但しWとMoとの含有量は合計で1.8〜15重量%となる、
単独または合計で0〜3重量%の含有量を有する炭化物形成元素Ti,Zr,Hf,Nb,Ta、
0〜4重量%のV、
0〜6重量%のCo、
0〜1.6重量%のSi、
0〜2重量%のMn、
0〜2.99重量%のNi、
0〜1重量%のS、
残り:鉄および不可避の不純物
である。
【0030】
炭素は、所謂炭素と等価値の成分である窒素(N)またはホウ素(B)によって少なくとも一部置き換えることができるので、請求項5の特徴ないし請求項6の特徴を有し、下記に記述された化学組成を有する工具鋼、特に熱間加工鋼は、本発明の基礎となる課題の同価値の解決法を提供する。
【0031】
請求項5によると、本発明に従った工具鋼、特に熱間加工鋼は、以下の組成を特徴とする。すなわち、
合計で0.25〜1.00重量%のCおよびN、
<2重量%のCr、
0〜10重量%のMo、
0〜15重量%のW、但しWとMoとの含有量は合計で1.8〜15重量%となる、
単独または合計で0〜3重量%の含有量を有する炭化物形成元素Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、
0〜4重量%のV、
0〜6重量%のCo、
0〜1.6重量%のSi、
0〜2重量%のMn、
0〜2.99重量%のNi、
0〜1重量%のS、
残り:鉄および不可避の不純物
である。
【0032】
請求項6によると、その他の本発明に従った工具鋼、特に熱間加工鋼は、以下の組成を特徴とする。すなわち、
合計で0.25〜1.00重量%のC、NおよびB、
<2重量%のCr、
0〜10重量%のMo、
0〜15重量%のW、但しWとMoとの含有量は合計で1.8〜15重量%となる、
単独または合計で0〜3重量%の含有量を有する炭化物形成元素Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、
0〜4重量%のV、
0〜6重量%のCo、
0〜1.6重量%のSi、
0〜2重量%のMn、
0〜2.99重量%のNi、
0〜1重量%のS、
残り:鉄および不可避の不純物
である。
【0033】
本発明に従った工具鋼の特別な長所は、まず第一に、従来技術から周知の工具鋼および熱間加工鋼に比べて劇的に上昇した熱伝導度にある。本発明に従った工具鋼は、主成分としての鉄以外に元素C(ないし請求項5に従えばCおよびN、請求項6に従えばC、NおよびB)、Cr、MoおよびWを上述の範囲で、および不可避の不純物を含むことが明らかである。残りの合金元素(合金トランプ元素)は、その含有量が場合によっては0重量%にもなり得るので、したがって工具鋼の任意の成分である。
【0034】
ここに記述されている解決法の重要な観点は、炭素および好ましくはクロムも、固溶体状態で鋼マトリックスから十分にさし出し、FeC炭化物をより高い熱伝導度を有する炭化物に置き換えることにある。クロムは、これがそもそも存在しないことによってのみマトリックスからさし出すことができる。炭素は、特に炭化物形成体と結合し、その場合にMoおよびWは最も安価な元素であり、元素としても炭化物としても比較的高い熱伝導度を有する。
【0035】
工具鋼および特に熱間加工鋼に関する量子力学的シミュレーションモデルは、固溶体状態の炭素およびクロムがマトリックス変形を招き、その結果としてフォノンの平均自由行程が短縮されることを示している。その結果弾性率はより大きくなり、熱膨張率はより高くなる。電子散乱およびフォノン散乱に対する炭素の影響は、適切なシミュレーションモデルを用いて同様に調べられる。それによって、炭素並びにクロムを顧慮して、欠乏したマトリックスの、熱伝導度上昇に関する長所を立証することができた。電子流によってマトリックスの伝導度が優勢となる一方で、炭化物の導電性はフォノンによって決められる。固溶体状態では、クロムは電子流によって達成された熱伝導度に対して激しくマイナスに作用する。
【0036】
請求項4、5および6にかかる本発明に従った工具鋼(特に熱間加工鋼)は、室温で42W/mKよりも大きい熱伝導度、好ましくは48W/mKよりも大きい熱伝導度、特に55W/mKよりも大きい熱伝導度を有することができる。驚くことに、50よりも大きい、特に約55〜60W/mKおよびそれ以上の規模の熱伝導度が達成され得ることが示された。したがって本発明の熱間加工鋼の熱伝導度は、従来技術から周知の熱間加工鋼のもののほぼ2倍の大きさになり得る。したがってここで記述される鋼は特に、高い熱伝導度が必要とされる使用にも適している。したがって従来技術から周知の解決法に対する本発明に従った工具鋼の特別な長所は、劇的に改良された熱伝導度にある。
【0037】
特に有利な実施形態では、工具鋼の熱伝導度は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法によって調整することができる。それによって工具鋼の熱伝導度は、使用に特有に、合目的に適合および調整することができる。
【0038】
工具鋼は、炭化物形成元素Ti、Zr、Hf、Nb、Taを単独または合計で3重量%までの割合で任意に含むことができる。元素Ti、Zr、Hf、Nb、Taは、冶金学においては強炭化物形成体として知られている。それ自体が強炭化物形成体は、これが固溶体状態の炭素をマトリックスから取り除く、より優れた能力を有するので、工具鋼の熱伝導度上昇を顧慮してプラスの影響を及ぼすことが示された。高い熱伝導度を有する炭化物は、工具鋼の導電性をさらに強化することができる。下記の元素は炭化物形成体であることが冶金学からよく知られていて、その場合にその炭素親和力は順に上昇するように配される。すなわち、Cr、W、Mo、V、Ti、Nb、Ta、Zr、Hfとなる。
【0039】
これに関連して、工具鋼の全熱伝導度は負の限界作用を含む混合則に従うので、比較的大きく、それによって長く伸張した炭化物の生成が特に有利である。炭素に対する元素の親和力が強ければ強いほど、比較的大きい一次炭化物を形成する傾向が強くなる。確かに大きい炭化物は、工具鋼の幾つかの機械的性質、特にその粘性に幾らか不利に作用するので、それぞれ工具鋼の使用目的に対して、所望の機械的性質と熱的性質との間で適切な妥協を見出す必要がある。
【0040】
工具鋼は、合金元素であるバナジウムを4重量%までの含有量で任意で含むことができる。すでに先に記述したように、バナジウムは微細な炭化物網状組織を築く。それによって多くの使用目的に対する工具鋼の多数の機械的性質を改良することができる。バナジウムはモリブデンに比べて、そのさらに高い炭素親和力を特徴とするだけでなく、さらにその炭化物がより高い熱伝導度を有するという長所を有する。さらにバナジウムは、比較的安価な元素である。しかしながらモリブデンに対するバナジウムの短所は、固溶体状態で残るバナジウムが、工具鋼の熱伝導度に非常に大きいマイナスの影響を及ぼすことにある。このことから、工具鋼をバナジウム単独で合金にするのは有利ではない。
【0041】
工具鋼は、固溶体を凝固させるために1つまたは複数の元素、特にCo、Ni、Siおよび/またはMnを任意で含むことができる。そのようにして、工具鋼がMnを2重量%までの含有量でさらに有してもよい。工具鋼の高温安定性を改良するために、具体的な使用に関しては、例えば6重量%までのCo含有量が好ましい。この工具鋼は、その他の好ましい実施形態では、Coを3重量%までの含有量、好ましくは2重量%までの含有量で有してもよい。
【0042】
低温における工具鋼の粘性を上げるために、熱間加工鋼がSiを1.6重量%までの含有量で有するようにすることが任意でできる。
【0043】
工具鋼の加工性を改良するために、工具鋼は任意で硫黄Sを1重量%までの含有量で含むことができる。
【0044】
本発明を根本的に理解できるようにするために、以下に本発明の方法の基礎ともなる、高い熱伝導度を有する工具鋼(熱間加工鋼)に関する新式の冶金造形戦略の幾つかの重要な観点を詳しく説明する。
【0045】
図1に略図で示されている、ある工具鋼の金属組織学的に作製された試料の与えられた断面に関して、光学画像解析技術を用いてミクロ構造の構成体を光学または走査型電子顕微鏡で観察する場合に、炭化物Aおよびマトリックス材料Aの面積比を定量的に把握することが可能である。その際大面積の炭化物は一次炭化物1と呼ばれ、および小面積の炭化物は二次炭化物2と呼ばれる。背景に示されたマトリックス材料は、図1では関連記号3で表している。
【0046】
その他のミクロ構造成分(封入物など)を無視して、工具鋼の全表面の面積Atotは以下の方程式にしたがって良好な近似で算出することができる。
tot=A+A
【0047】
単純な数学的な式の変形によって、以下の方程式が得られる。
(A/Atot)+(A/Atot)=1
【0048】
この方程式の被加数は、混合則の式のための重み係数として適している。
マトリックス材料3および炭化物1、2がその熱伝導度のために異なる性質を有することから出発すると、この系の積算された全熱伝導度λintはそのような混合則の式にしたがって以下のように表される。
λint=(A/Atot)*λ+(A/Atot)*λ
【0049】
その場合にλはマトリックス材料3の熱伝導度であり、λは炭化物1、2の熱伝導度である。
【0050】
この式は、明らかに簡略化された系の表示方法を表しているが、本発明を現象学的に理解するためにも完全に適している。
【0051】
全ての系の積算された熱伝導度の、より現実に忠実な数学的モデル化は、例えば所謂有効媒体理論(EMT)を使用して行うことができる。そのような式を用いて、結合系としての工具鋼のミクロ構造組成は、等方性の熱伝導度を有する、炭化物の性質を作り出す球状の単独構造要素から構成され、同じく等方性の別の熱伝導度を有するマトリックス材料中に埋め込まれているこの等方性の熱伝導度は、
λint=λ+f*λint*(3*(λ−λ)/(2*λint+λ
で表される。
【0052】
この方程式でfは炭化物1、2の体積比を表す。
もっともこの方程式は、明確に解くことができず、したがって制限付きでのみ合目的に系を形成するために使用できる。系の熱伝導度λintの最大化が重要である場合には、個々の系の成分の熱伝導度λおよびλがそれぞれ最大になる場合に、予め公式化された混合則から、系の熱伝導度λintのそのような最大化が達成され得ることが基本的に導き出される。
【0053】
その場合に本発明に関して、最終的に2つの熱伝導度λおよびλのどちらがより有意味かを炭化物の体積比fが決定することが特に重要である。
【0054】
炭化物の量は、最終的には工具鋼の機械的耐性および特に耐摩耗性に対する、使用に特有な要求によって決められる。したがってとりわけ本発明によって開発された工具鋼の異なる主要の使用分野に関する炭化物構造を顧慮して、全く異なる造形設定が生じる。
【0055】
アルミニウムダイカストの分野では、摩耗応力は、接触に限定された摩耗機構、特に磨損によってわずかに際立つだけである。したがって、高い耐摩耗性ミクロ構造成分として大面積一次炭化物を存在させることは、必ずしも必要ではない。それによって炭化物の体積比fは、主に二次炭化物によって確定される。したがってfの値は比較的小さい。
【0056】
加圧硬度および成形硬度の概念的な異形をも含む熱間板成形では、工具は、凝着鋳造においてもアブレシブ鋳造においても接触に限定された摩耗機構による高い応力を受ける。したがって大面積一次炭化物は、この摩耗機構に対する耐性を向上させることができるので、この炭化物が非常に望ましい。そのような一次炭化物が豊富なミクロ構造の結果として、fの値が高くなる。
【0057】
炭化物構造とは関係なく、最終的には全ての系の成分の熱伝導度を最大にすることが重要である。しかしながら炭化物鋳造に対する、使用に特有な造形設定によって、系の成分の熱伝導度の、全ての系の積算された熱伝導度への影響が付加される。
【0058】
このアプローチ方法は、熱伝導度が常に積算された物理的な材料の性質と見なされる従来技術から、すでに劇的に区別されている。従来技術で個々の合金元素の熱伝導度への影響を把握することが重要な場合には、したがってこの特徴的な方法は、積算された性質を決定することによってでも行われる。そのような合金元素の、ミクロ構造鋳造、すなわち炭化物構造およびマトリックス並びにこのミクロ構造系の元素に対してそこから生じる物理的性質の変化への影響をこれまで観察することはなく、したがって従来技術では、工具鋼のための冶金学的な造形構想の出発点も一度も存在しなかった。
【0059】
そのような積算された造形の観点に関して、クロム含有量の減少とモリブデン含有量の上昇が、積算された熱伝導度の改良を招くことが立証できた。そのような冶金学的な造形の式にしたがって開発された工具鋼は、通常30W/mKの熱伝導度を有していて、これは24W/mKの熱伝導度に対して25%の上昇を表す。そのような上昇は、従来技術ではすでに有効な性質の改良と見なされる。
【0060】
これまでは、クロム含有量をさらに減少させても熱伝導度はさらに有意には改良されないということが出発点であった。クロム含有量をさらに減少させることは、追加で熱間加工鋼の耐食性の低下につながるので、対応する冶金学的調合は、新式の工具鋼の造形を顧慮してさらには検査も転換もされなかった。
【0061】
請求項4、5もしくは6の組成を有する本発明に従った工具鋼に関して、劇的に改良された熱伝導度を達成するために、完全に新式の冶金学的構想が使用され、これはミクロ構造の系の成分の熱伝導度を正確に決められた方法で作り、それによって工具鋼の積算された熱伝導度を劇的に改良するものである。ここで提案された冶金学的構想の重要な主旨は、好ましい炭化物形成体はモリブデンおよびタングステンであることと、すでにこの炭化物中にわずかな量のクロムが溶解している結果として、純粋な炭化物の結晶構造内に生じる妨害によってフォノンの平均自由行程が延長されるために、熱伝達の性質に不利な影響が及ぼされることである。
【0062】
この新式の冶金学的造形の式を用いて、好ましい方法で室温で66W/mKまでと、それ以上の熱間加工鋼の積算された熱伝導度を達成することができる。これは、従来技術で周知の全構想の上昇率をほぼ10倍上回る。従来技術で発見できる式のいずれも熱伝導度の改良を目標設定とした熱間加工鋼に関する、クロム含有量の匹敵する減少を考慮していない。
【0063】
本発明に従って記述された、同じように低いクロム含有量の化学組成が考慮される場合に関しては、熱伝導度の影響は明確には重要ではなく、例えば特開平4−147706号公報における、この領域の耐酸化性の減少により鋼表面に酸化膜を合目的に形成することなどの、その他の機能的な目標設定が重要である。
【0064】
従来技術では、材料の純度レベルが高ければ高いほどその熱伝導度も高くなることがよく知られている。どんな不純物も、すなわち金属材料の場合には全ての合金元素の添加物も含まれるが、必然的に熱伝導度の減少を招く。例えば純粋な鉄は80W/mKの熱伝導度を有し、わずかに不純な鉄は、すでに70W/mK未満の熱伝導度を有する。炭素(0.25体積パーセント)およびマンガン(0.08体積パーセント)などのその他の合金元素を最小量添加しただけで、鋼の場合にはすでに60W/mKの熱伝導度となる。
【0065】
それにもかかわらず、本発明の措置方法を用いて驚くことに、モリブデンまたはタングステンなどの別の合金元素を添加しても、70W/mKまでの熱伝導度が達せられることが可能になる。この予期しなかった効果の原因は、本発明によって、炭素をマトリックス内で出来る限り広範に溶解させるのではなく、強炭化物形成体によってこれを炭化物内へ結びつけ、高い熱伝導度を有する炭化物を使用することが目標設定であることにある。
【0066】
ここで炭化物に対する考察に集中すると、最終的に熱伝導度を制するのはフォノン導電性ということになる。これを改良しようとすると、正確にこの位置で造形的に介入することが肝要である。しかしながら特にW6CまたはMo3Cなどの高い金属含有量を有する高溶解炭化物など幾つかの炭化物は、非常に高い伝導電子密度を有する。近年の研究で、クロムをそのような炭化物に非常に少量添加することですでに結晶格子構造の著しい乱れを招き、それによってフォノン流の平均自由行程が劇的に延長されることが立証された。その結果熱伝導度が減少する。このことは、クロム含有量を出来る限り減少させることが、工具鋼の熱伝導度の改良に結びつくという明白な結論につながる。
【0067】
さらにモリブデンおよびタングステンは、好ましい炭化物形成体として考慮すべきである。モリブデンはタングステンより遙かに強炭化物形成体であるので、これに関してモリブデンが特に好ましい。モリブデンをマトリックス内に蓄積する効果は、マトリックス内の電子伝導度の改良を引き起こし、それによって全系の積算された熱伝導度のさらなる改良に寄与する。
【0068】
すでに先に記述したように、あまりに少ないクロム含有量は、同時に工具鋼の耐食性の低下を招く。このことは特定の使用に関して不利になり得るが、ここでは追加の防食作用および防食措置が、いずれにしても現存する操作進行の構成要素であるので、本発明にしたがって造形された工具鋼の主な使用に対する比較的高い酸化傾向は、真の機能的な短所ではない。
【0069】
したがって例えばアルミニウムダイカストで使用する場合には、液体アルミニウム自体は十分に防食であり、熱間板成形の分野においては、これは工具を摩耗防止のために窒化した表面縁膜である。防食潤滑剤並びに冷却剤および分離剤は、同じく防食に対して応分に寄与する。追加で非常に薄い保護膜を、メッキまたは真空薄膜形成方法で装着することができる。
【0070】
ここで記述される工具鋼(特に熱間加工鋼)の、鋼製品、特に熱間加工工具を製造するための材料としての本発明の使用は、これまで相応の熱間加工鋼製品のための材料として使用されてきた、従来技術から周知の熱間加工鋼に比べて数多くの、一部殊の外重要な長所を提供する。
【0071】
本発明に従った工具鋼(特に熱間加工鋼)から製造された工具の比較的高い熱伝導度は、例えば加工品材料を加工/製造する際の工程時間の短縮を認める。その他の長所は、工具の表面温度の著しい低下並びに表面温度勾配の低下にあり、そのことから、工具の長い寿命に対する著しい作用が生じる。これは特に、工具の損傷が第一に熱疲労、熱衝撃または溶接に起因する場合である。このことは、特にアルミニウムダイカスト使用のための工具を顧慮した場合である。
【0072】
本発明に従った工具鋼(特に熱間加工鋼)のその他の機械的および/または熱的性質が、従来技術から周知の工具鋼に比べて改良されたか、または少なくとも不変のままであることは、同じく驚くことである。例えば弾性率を減少させることができ、本発明の工具鋼(特に熱間加工鋼)の密度は、従来の熱間加工鋼に比べて上昇し、熱膨張率は減少させることができた。多くの使用に関して、高温での機械的強度の向上または耐摩耗性の向上などさらなる改良が達成された。
【0073】
好ましい実施形態では、工具鋼は、1.5重量%未満のCr、好ましくは1重量%未満のCrを有することが提案される。特に好ましい実施形態では、工具鋼は、0.5重量%未満のCr、好ましくは0.2未満、特に0.1重量%未満のCrを有してもよい。
【0074】
前述のように、クロムが固溶体状態で工具鋼のマトリックス内に存在することは、その熱伝導度にマイナスの影響を及ぼす。工具鋼中のクロム含有量が増大することによる、熱伝導度へのこのマイナス作用の強度は、0.4重量%未満のCrの区間に関して最大となる。工具鋼の熱伝導度への不利な作用の強度試験における区間段階は、0.4重量%よりも大きいが1重量%未満と、1重量%よりも大きく2重量%未満の2つの区間が好ましい。工具鋼(熱間加工鋼)の耐酸化性が重要な役割を演じる使用に関しては、例えば熱伝導度および耐酸化性を顧慮して工具鋼に課せられ、クロムの最適な重量パーセント比を反映する要求が慎重に考量される。通常約0.8重量%のクロム含有量が、工具鋼に良好な防食をもたらす。約0.8重量%のこのクロム含有量を超える添加は、結果として炭化物中のクロムの望まれない溶解を招き得ることが示された。
【0075】
好ましい実施形態では、工具鋼のモリブデン含有量は0.5〜7重量%、特に1〜7重量%となってもよい。より安価な炭化物形成体では、モリブデンは比較的高い炭素親和力を有する。さらに炭化モリブデンは、炭化鉄および炭化クロムより高い熱伝導度を有する。さらに工具鋼の熱伝導度に対する固溶体状態のモリブデンの不利な作用は、固溶体状態のクロムに比べて著しく小さい。このことからモリブデンは、多くの使用に適する炭化物形成体に属する。しかしながら高い粘性を必要とする使用に関しては、バナジウム(モリブデンにおける200nmまでの大きさのコロニーに対して約1〜15nmの大きさのコロニー)などの比較的小さい二次炭化物を有する別の炭化物形成体がより有利な選択である。
【0076】
モリブデンは、多くの使用でタングステンに置き換えることができる。タングステンの炭素親和力は幾らか小さく、炭化タングステンの熱伝導度は著しく大きい。
【0077】
その他の特に有利な実施形態では、Mo、WおよびVの含有量が合計で2〜10重量%となってもよい。この合わせた3元素の含有量は、その場合特に所望の炭化物数、すなわちそれぞれ使用要求に関連している。
【0078】
工具鋼、特に熱間加工鋼の不純物は、元素Cu、P、Bi、Ca、As、SnまたはPbの1つまたは複数を、単独または合計で最大1重量%の含有量で含むことができる。特にCuは、Co、Ni、SiおよびMn以外で固溶体の凝固に適したもう1つの元素であるので、合金中の少なくとも少量のCuは場合によっては有利になり得る。選択で最大1重量%の含有量で存在し得るS以外に、元素Ca、BiまたはAsも工具鋼の加工性を容易にすることができる。
【0079】
合金形成炭化物が高温の場合には、工具鋼の機械的安定性が同じく重要である。これに関連して、例えば炭化Moも炭化Wも機械的安定性の性質および強度の性質を顧慮して炭化クロムおよび炭化鉄より有利である。マトリックス内の炭素含有量の減少に伴うクロムの欠乏は、特にこれが炭化タングステンおよび/または炭化モリブデンによって起こる場合には、熱伝導度の改良につながる。
【0080】
ここで提案された工具鋼(特に熱間加工鋼)を製造する方法は、その熱的性質および機械的性質に対して同じく重要な役割を演じる。製造方法を合目的に選択することによって、工具鋼の機械的性質および/または熱的性質を合目的に変化させ、それによってそれぞれ使用目的に適合させることができる。
【0081】
本発明の範囲で記述された工具鋼は、例えば粉末冶金法(高温静水圧圧縮)によって製造することができる。本発明の工具鋼を、例えば真空誘導溶解または炉内溶解によって製造してもよい。驚くことに、すでに詳述されたように、そちら側では工具鋼の熱伝導度と機械的性質に影響を及ぼす、それぞれ選択された製造方法が、結果として生じる炭化物の大きさに影響し得ることが示された。
【0082】
工具鋼はさらに、周知の精錬方式、例えばVAR法(VAR=Vacuum Arc Remelting;真空アーク再溶解)、AOD法(AOD=Argon Oxygen Decarburation;アルゴン−酸素脱炭)または所謂ESR法(ESR:Electro Slag Remelting)などによっても精錬され得る。
【0083】
同様に本発明の工具鋼は、砂型鋳造または精密鋳造などによって製造することができる。この鋼は、ホットプレスまたはその他の粉末冶金法(焼結、冷間圧接、静水圧圧縮)によって、これら全ての製造方法では加工熱プロセス(鍛造加工、ロール成形、押出加工)を使用または使用せずに製造することができる。チクソ鋳造(英語:thixo-casting)、プラズマ溶射またはレーザ被覆並びに局所焼結などのそれほど慣習的でない製造方法も使用することができる。体積内の組成を変化可能な製品を工具鋼から製造するためにも粉末混合の焼結を使用することが有利である。
【0084】
本発明の範囲で開発された鋼は、溶接添加材としても使用できる(例えばレーザ溶接のために粉末形で、金属不活性ガス溶接(ミグ(MIG)溶接)、金属活性ガス溶接(マグ(MAG)溶接)、タングステン不活性ガス溶接(WIG溶接)用の棒または成形物として、または被覆アーク溶接棒を用いて溶接するため)。
【0085】
請求項24に従えば、室温で42W/mKよりも大きい熱伝導度、好ましくは48W/mKよりも大きい熱伝導度、特に55W/mKよりも大きい熱伝導度を有する、請求項4〜23のいずれか1項に記載の熱間加工鋼製品、特に熱間加工工具を製造するための材料としての、工具鋼、特に熱間加工鋼の使用が提案されている。
【0086】
本発明の鋼製品は、請求項25の特徴によって傑出していて、少なくとも一部が請求項4〜23のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼から構成される。
【0087】
有利な実施形態では、鋼製品が、その全体積に亘りほぼ一定の熱伝導度を有してもよい。特にこの実施形態の鋼製品は、請求項4〜23のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼から全て構成されてもよい。
【0088】
特に有利な実施形態では、鋼製品が、少なくとも区分ごとに変化した熱伝導度を有することが考慮される。
【0089】
特に有利な実施形態によると、鋼製品は、室温で少なくとも区分ごとに42W/mKよりも大きい熱伝導度、好ましくは、48W/mKよりも大きい熱伝導度、特に55W/mKよりも大きい熱伝導度を有してもよい。この鋼製品は、室温でその全体積に亘っても42W/mKよりも大きい熱伝導度、好ましくは、48W/mKよりも大きい熱伝導度、特に55W/mKよりも大きい熱伝導度を有してもよい。
【0090】
鋼製品は、有利な実施形態では、例えば金属の加圧成形加工法、剪断成形加工法または曲げ成形加工法、好ましくは、自由成形鍛造加工法、型鍛造加工法、チクソ鍛造加工法、押出加工法、押出成形加工法、雌型曲げ加工法、ロール成形加工法または平面ロール加工法、成形ロール加工法および鋳造ロール加工法における造形工具であってもよい。
【0091】
鋼製品は、その他の有利な実施形態では、金属の引抜加圧加工法および引抜加工法、好ましくは、加圧硬化加工法、成形硬化加工法、深絞り加工法、引抜加工法およびカラー絞り加工法における造形工具であってもよい。
【0092】
その他の好ましい実施形態では、鋼製品は、例えば金属出発材料の一次成形加工法、好ましくは、ダイカスト加工法、真空ダイカスト加工法、チクソ鍛造加工法、鋳造ロール加工法、焼結加工法および高温静水圧圧縮加工法における造形工具であってもよい。
【0093】
さらに鋼製品は、重合出発材料の一次成形加工法、好ましくは射出成形法、押出成形法および押出吹込成形法における造形工具またはセラミックス出発材料の一次成形加工法、好ましくは焼結加工法における造形工具であってもよい。
【0094】
鋼製品は、その他の好ましい実施形態では、エネルギー生成およびエネルギー変換の機械および設備、好ましくは内燃機関、反応炉、熱交換器および発電機のための構成要素であってもよい。
【0095】
さらに鋼製品は、化学プロセス技術の機械および設備、好ましくは化学反応炉のための構成要素であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
本発明のさらなる特徴と利点は、添付の図を参照して、好ましい実施形態についての以下の説明から明らかになるであろう。
【図1】典型的な工具鋼の微小構造断面における炭化物構造を非常に単純化して示す図である。
【図2】本発明に従った熱間加工鋼の2つのプローブの、従来の工具スチールと比較した耐摩耗性を示す図である。
【図3】熱間プロセスにおいて使用に適した、本発明に従った工具鋼(熱間加工鋼)のクロム成分熱伝導度の関係を示す図である。
【図4】本発明に従った工具鋼のさらなる選択のための、クロム成分の熱伝動性の関係を示す図である。
【図5】事前に加熱された工具における、2つの工具鋼プレートと相互に接触した場合に熱伝導を介して達成される熱の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0097】
まず、色々な利用目的に適した5つの工具鋼(熱間加工鋼)の例を以下に詳細に説明する。
【0098】
実施例1
薄鋼板のホットスタンピングに適した工具(熱間加工鋼品)の製造のためには、以下の組成による熱間加工鋼の利用が特に有利である。すなわち、
0.32〜0.5重量%のC;
1重量%より小のCr;
0〜4重量%のV;
0〜10重量%、特に3〜7 重量%のMo;
0〜15重量%、特に2〜8重量%のW;
この場合、MoとWとの含有量は合計で5〜15重量%
である。
【0099】
さらに、熱間加工鋼は、不可避の不純物と、主成分としての鉄とを含む。任意であるが、熱間加工鋼は、Ti,Zr,Hf,Nb,Taなどの強炭化物形成体をそれぞれ単独でまたは合計で3重量%含んでもよい。これらを適用する場合、熱間加工鋼から作られた工具の耐摩耗性は、特に重要な役割を果たす。形成された一次炭化物の体積はできる限り大きくすべきである。
【0100】
実施例2
アルミニウムダイカストは、今日非常に重要な市場であって、工具製造のために利用される熱間加工鋼の特性は競争力にとって重要な役割を果たす。ダイカスト工具の製造のために利用される熱間加工鋼の高温での機械特性は、この場合特に意味を持つ。このよう場合、熱伝導度を高めることは特に重要であって、これはサイクルタイムの低減を可能とするだけでなく、工具の表面温度および工具の温度低下も小さくされるからである。この場合の工具の寿命に与える好ましい影響はかなりのものである。ダイカストを用いる場合、特にアルミニウムダイカストを考慮する場合、対応の工具の製造のための材料として、以下の組成による熱間加工鋼の利用が特に好ましい。すなわち、
0.3〜0.42重量%のC;
2重量%より少ない、特に1重量%より少ないCr;
0〜6重量%、特に2.5〜4.5重量%のMo;
0〜6重量%、特に1〜2.5重量%のW;
この場合、MoとWとの含有量は合計で3.2〜5.5重量%である;
0〜1.5重量%、特に0〜1重量%のV
である。
【0101】
さらに、熱間加工鋼は鉄(主成分)と不可避の不純物を含む。任意には、熱間加工鋼は、たとえばTi,Zr,Hf,Nb,Taなどの炭化物形成体を個別にまたは合計で3重量%まで含んでもよい。
【0102】
アルミニウムダイカストの場合、FeCはできる限り含むべきではない。この場合、FeCを置換するためには、MoとWとが添加されたCrとVが好ましい元素である。多くの場合バナジウムを好ましくは完全に、または少なくとも部分的に置換するには、Wおよび/またはMoが利用される。代わりに、Ti,Zr,Hf,NbまたはTaなどの強炭化物形成体を利用してもよい。これらの炭化物形成体の選択とその割合は、その具体的な利用と、熱間加工鋼から作られる工具の熱特性および/または機械特性を考慮した条件とに依存する。
【0103】
実施例3
同様の高い融点を有する合金のダイカストの場合、以下の組成を有する工具製造のための熱間加工鋼の利用が好ましい。すなわち、
0.25〜0.4重量%のC;
2重量%より少ない、特に1重量%より少ないCr;
0〜5重量%、特に2.5〜4.5重量%のMo;
0〜5重量%、特に0〜3重量%のW;
この場合MoとWとの含有量は合計で3〜5.2重量%である;
0〜1重量%、特に0〜0.6重量%のV
である。
【0104】
さらに、この熱間加工鋼は不可避の不純物と主成分である鉄とを含む。任意であるが、熱間加工鋼は、Ti,Zr,Hf,Nb,Taなどの強炭化物形成体をそれぞれ単独でまたは合計で3重量%含んでもよい。これらを適用する場合、熱間加工鋼の高い耐摩耗性は必須であり、したがって、一次炭化物はできる限り抑制すべきであり、したがって安定した炭化物形成体が好ましい。
【0105】
実施例4
合成樹脂の射出成型の場合、および比較的融点の低い合金のダイカストの場合、以下の組成を有する工具製造のための熱間加工鋼の利用が好ましい。すなわち、
0.4〜0.55重量%のC;
2重量%より少ない、特に1重量%より少ないCr;
0〜4重量%、特に0.5〜2重量%のMo;
0〜4重量%、特に0〜1.5重量%のW;
この場合MoとWとの含有量は合計で2〜4重量%である;
0〜1.5重量%のV
である。
【0106】
さらに、この熱間加工鋼は不可避の不純物と主成分である鉄とを含む。任意であるが、熱間加工鋼は、Ti,Zr,Hf,Nb,Taなどの強炭化物形成体をそれぞれ単独でまたは合計で3重量%含んでもよい。これらを適用する場合、バナジウムの成分はできる限り少なくすべきである。好ましくは、熱間加工鋼のバナジウム成分は、1重量%よりも小さく、特に0.5重量%より小さく、特に好ましくは、0.25重量%より小さくするのがよい。
【0107】
工具の機械的特性を考慮した条件は、射出成型の場合わずかである。通常約1500MPaの機械的強度で充分である。しかしながら、高い熱伝導度は、射出成型部品の製造の場合、サイクルタイムを短くすることができるので、したがって、射出成型部品を作るためのコストを少なくすることができる。
【0108】
実施例5
熱間鍛造の場合特に、工具製造には、以下の組成を有する熱間加工鋼の適用が好ましい。すなわち、
0.4〜0.55重量%のC;
1重量%より少ないCr,
0〜10 重量%、特に3〜5重量%のMo;
0〜7重量%、特に2〜4重量%のW;
この場合MoとWとの含有量は合計で6〜10重量%である;
0〜3重量%、特に0.7〜1.5重量%のV
である。
【0109】
さらに、この熱間加工鋼は不可避の不純物と主成分である鉄とを含む。任意であるが、熱間加工鋼は、Ti,Zr,Hf,Nb,Taなどの強炭化物形成体をそれぞれ単独でまたは合計で3重量%含んでもよい。
【0110】
この実施例の熱間加工鋼は、特にCoであるが、Ni、Si、Cu、Mnなどの元素を強度のために含んでもよい。特に、工具の高温での強度を高めるためには、6重量%までの成分とするのが好ましいことが実証された。
【0111】
異なる適用の多くに適している例示の熱間加工鋼によって、従来の熱間加工鋼よりもおよそ2倍の大きさの熱伝導度を有することが可能である。
【0112】
表1には、本発明に従った熱間加工鋼の5つの例示用試料(試料F1〜試料F5)の熱弾性特性が、従来の工具鋼と比較して示されている。たとえば、熱間加工鋼は、従来の工具鋼よりも高い密度を有することがわかる。さらにまた、本発明に従った熱間加工鋼の試料の熱伝動性は、従来の工具鋼に比べて格段に高い結果を示す。
【0113】
表2には、本発明に従った2つの熱間加工鋼試料(試料F1および試料F5)の機械的特性が従来の工具鋼と比較して示されている。
【0114】
図2においては、熱間加工鋼の2つの試料(F1およびF5)の耐摩耗性が、従来の工具鋼と比較して示されている。この耐摩耗性は、対応する鋼から作られたピンと、USIBOR−500Pシートメタルによって測定された。試料“1.2344”は、基準試料である(耐摩耗性:100%)。200%の対摩耗性を有する材料は、したがって、基準試料の2倍の大きさの耐摩耗性を有し、摩耗性試験を実施している間の重量の損失は半分であったことを示している。本発明に従った熱間加工鋼の試料は、通常知られた鋼と比べて非常に高い耐摩耗性を有することがわかる。
【0115】
以下に、工具鋼のさらに好ましい実施例、特に、本発明に従った熱間加工鋼、およびそれらの特性を詳細に説明する。
【0116】
熱伝導度および熱拡散率は、加工材料または構成部材の熱伝達特性の説明に最も重要な熱物理学的材料パラメータである。熱拡散率の正確な測定にとっては、いわゆる“レーザフラッシュテクニック”(LFA)を、迅速で、多様であって、綿密な絶対法として用いた。対応の試験ステップは、関連の規格DIN30905およびDIN EN821に定められている。前述の測定のためには、NETZSCH-Geraete GmbH社(Wittelsbacherstrasse 42, 95100 Selb/Bayern (Deutschland))の LFA 457 MicroFlash(登録商標)が適用された。
【0117】
測定された熱拡散率aおよび比熱cとともに各試料で測定された密度ρから、熱伝導度λを、式
λ= ρ・c・a
において非常に容易に求めることができる。
【0118】
図3には、表3においてFCまたはFC+xCrで示される化学組成の工具鋼からの選択のためのクロムの重量比率と、この方法に従って測定された熱伝導度との関係が示されている。この場合、その組成は、特に合金要素クロムの重量%において異なっている。
【0119】
これらの鋼は、所望の熱伝導特性の本発明に従って可能な調整に亘って、一次炭化物の比較的大きな体積比率によって、摩耗と粘着性のある摩損に対してさらに高い抵抗を有し、したがって、典型的には熱間鍛造の場合に生じるような高い機械的条件に適している。
【0120】
図4には、表4においてFMまたはFM+xCrで示される化学組成の工具鋼からの選択のためのクロムの重量比率と、この方法に従って測定された熱伝導度との関係が示されている。この場合、その組成は、特に合金要素クロムの重量%において異なっている。この工具鋼は、一次炭化物の割合が比較的小さいので、特にダイカスト工程での利用に適している。
【0121】
表5は、本発明に従った工具鋼の化学組成を、プロセス挙動の比較研究のために挙げている。
【0122】
特に、熱間成形においても行われているプロセス条件下において、表5においてFで示される化学組成を有する工具鋼を、DIN17350ENISO4957に従った表示1.2344の従来の工具鋼と比較すると、高温計による温度測定を介して、加工材料内の予熱を介して蓄積された熱の加速された放出が証明されている。高温計による温度測定の結果は、図5にまとめられている。
【0123】
このプロセスにおける通常の約200℃の工具温度を考慮すると、ここで適用される発明に従った工具鋼によって、冷却時間を約50%短縮することができる。
【0124】
化学組成の適切な選択によって、熱伝導度を基本的に調整する本発明に従った態様に加えて、本発明は、規定された熱処理を介した微調整の態様局面も含む。
【0125】
表6には、表5にまとめられた化学組成を有する種々の合金Fと、表3にまとめられた化学組成を有するFCとのための種々の熱処理条件の、結果としての熱伝導度に対する影響を例示されている。
【0126】
熱処理によって異なって調整される熱伝導度の基礎は、これによって変動する炭化物における体積比率と、変動する分布と運動形態学である。
【0127】
本発明に従った合金の化学組成における熱伝導度の上昇を考慮して、炭素当量成分NとBと(炭素等量xCeq=xC+0.86・xN+1.2・xBであって、xCはCの重量百分率、xNはNの重量百分率、xBはBの重量百分率を示す)を含んだ炭素の重量成分が、マトリックス中に溶液でできる限り炭素が残らないよう調整されることが上記において既に示された。同じことがモリブデンxMo(%Mo)およびタングステンxW(%W)の重量比率に当てはまり、これらもまた、できる限りマトリックス中に溶液で残らないだけでなく、炭化物形成に寄与する。このことは、類似の形式において、さらなるすべての元素についても当てはまり、これらも炭化物形成に寄与し、したがって、マトリックス中に溶解して残存するのではなく、むしろ、炭素の結合、場合によっては機械的負荷がある場合の耐摩耗性を高めることに寄与する。
【0128】
上記説明は、いくつかの制限を伴ったとしても、一般的な説明では、工具鋼の特性値HCについての以下の等式の形に変換することができる。
HC=xCeq−AC・[xMo/(3・AMo)+xW/
(3・AW)+(xV−0.4)/AV]
式中
xCeqは、重量%炭素等量(上記にて定義);
xMoは、重量%モリブデン;
xWは、重量%タングステン;
xVは、重量%バナジウム;
ACは、炭素の原子量(12.0107u);
AMoは、モリブデンの原子量(95.94u);
AWは、タングステンの原子量(183.84u);
AVは、バナジウムの原子量(50.9415u)である。
【0129】
HCの値は、好ましくは、0.03〜0.165にある。HCの値は、0.05〜0,158にあってもよく,特に0,09〜0.15にあってもよい。
【0130】
係数3は、上述の式において、本発明に従った工具鋼の微細構造においてタイプM3CまたはM3Fe3Cの炭化物が予測される場合のためのものであると思われる。この場合Mは、任意の金属元素である。係数0.4は、所望の重量%のバナジウム(V)は、合金製造の場合通常炭化物の形で化学結合して付与され、この比率になるまで金属炭化物MCとして存在するという事実に基づきものと思われる。
【0131】
本発明に従った工具鋼(熱間加工鋼)のさらなる適用領域
本発明に従った工具鋼(特に熱間加工鋼)の好ましい実施形態のさらなる適用を考慮すると、高い熱伝導度または変動する熱伝導度を定義されたように調整されたプロファイルが、適用される工具の利用にプラスに働き、これによって製造された製品の特性にプラスに作用する適用領域を考えることが可能となる。
【0132】
本発明によって、精密に定義された熱伝導度を有する鋼を得ることが可能である。化学組成を変えることによって、少なくとも部分的にここに挙げられた工具鋼(熱間加工鋼)から成る鋼製品を、体積に関して変動している熱伝導度を有する鋼を得ることを可能とする。その場合、鋼製品内の化学組成を変えることを可能とする方法としては、たとえば、粉体混合物の焼結、局所的焼結または局所的融解またはいわゆる“ラピッドツーリング“(Rapid−Tooling)法、または”ラピッドプロトタイピング“(Rapid-Protptyping)法、またはこれらの組み合わせなどの方法を利用することができる。
【0133】
熱間鍛造の領域におけるすでに述べた適用、および軽金属ダイカストに加えて、一般に、本発明に従った熱間加工鋼の好ましい適用領域として、工具金属ダイカストおよびフォーミングダイカスト、合成樹脂射出成形、および鍛造プロセス、特に熱間鍛造(たとえば鍛冶、圧出法、押出し成形、圧延)が挙げられる。
【0134】
製造サイドでは、ここに挙げた鋼は、内燃機関におけるシリンダブッシュの製造への適用に対して、切削工具用またはブレーキディスク用に理想的である。
【0135】
表7に、表3および4にすでに挙げた各合金に加えて、本発明に従った工具鋼(熱間加工鋼)のさらなる実施形態を示す。
【0136】
表7にまとめられた各合金の好ましい適用は以下の通りである。
FA:アルミニウムダイカスト;
FZ:銅および銅合金(黄銅を含む)の改変;
FW:銅および銅合金(黄銅を含む)のダイカストおよび高温溶融合金製造;
FV:銅および銅合金(黄銅を含む)の改変;
FAW:銅および銅合金(黄銅を含む)のダイカストおよび高温溶融合金製造;
FA Mod1:銅、銅合金(黄銅を含む)およびアルミニウムを多く含む構成部のダイカストおよび高温溶融合金製造;
FA Mod2:アルミニウムの改変;
FC Mod1:高い耐摩耗性を有する熱間プレート成形(加圧成形、フォーミング成形;
FC Mod2:高い耐摩耗性を有する熱間プレート成形(加圧成形、フォーミング成形。
【0137】
【表1】

【0138】
【表2】

【0139】
【表3】

【0140】
【表4】

【0141】
【表5】

【0142】
【表6】

【0143】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼、特に熱間加工鋼の熱伝導度を調整するための方法であって、鋼の内部構造が冶金学的に定義されて製造されること、またその炭化物成分が定義された電子およびフォノン密度を有すること、および/またはその結晶構造が的確に製造された格子欠陥により決定されるフォノンおよび電子の影響に対する平均自由行路長を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
鋼、特に熱間加工鋼の熱伝導度を調整する、とりわけ熱伝導度を高めるための本発明に従った方法において、鋼の内部構造が冶金学的に定義されて製造されること、またその炭化物成分において高められた電子およびフォノン密度を有すること、および/または炭化物およびそれを囲む金属マトリックスの結晶構造における僅少な欠陥含量によって、フォノンおよび電子の影響に対する増大した平均自由行路長を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
鋼の熱伝導度は室温で42W/mKよりも大きく、好ましくは48W/mKよりも大きく、特に55W/mKよりも大きく調整することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
以下の組成を特徴とする、工具鋼、特に熱間加工鋼。
0.26〜0.55重量%のC、
<2重量%のCr、
0〜10重量%のMo、
0〜15重量%のW、但しWとMoとの含有量は合計で1.8〜15重量%となる、
単独または合計で0〜3重量%の含有量を有する炭化物形成元素Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、
0〜4重量%のV、
0〜6重量%のCo、
0〜1.6重量%のSi、
0〜2重量%のMn、
0〜2.99重量%のNi、
0〜1重量%のS、
残り:鉄および不可避の不純物。
【請求項5】
以下の組成を特徴とする、工具鋼、特に熱間加工鋼。
合計で0.25〜1.00重量%のCおよびN、
<2重量%のCr、
0〜10重量%のMo、
0〜15重量%のW、但しWとMoとの含有量は合計で1.8〜15重量%となる、
単独または合計で0〜3重量%の含有量を有する炭化物形成元素Ti,Zr,Hf,Nb,Ta、
0〜4重量%のV、
0〜6重量%のCo、
0〜1.6重量%のSi、
0〜2重量%のMn、
0〜2.99重量%のNi、
0〜1重量%のS、
残り:鉄および不可避の不純物。
【請求項6】
以下の組成を特徴とする、工具鋼、特に熱間加工鋼。
合計で0.25〜1.00重量%のC、NおよびB、
<2重量%のCr、
0〜10重量%のMo、
0〜15重量%のW、但しWとMoの含有量は合計で1.8〜15重量%となる、
単独または合計で0〜3重量%の含有量を有する炭化物形成元素Ti,Zr,Hf,Nb,Ta、
0〜4重量%のV、
0〜6重量%のCo、
0〜1.6重量%のSi、
0〜2重量%のMn、
0〜2.99重量%のNi、
0〜1重量%のS、
残り:鉄および不可避の不純物。
【請求項7】
熱間加工鋼は、室温で42W/mKよりも大きい熱伝導度、好ましくは48W/mKよりも大きい熱伝導度、特に好ましくは55W/mKよりも大きい熱伝導度を有することを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項8】
工具鋼の熱伝導度は、請求項1〜3のいずれか1項に従った方法によって調整されることを特徴とする、請求項7に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項9】
熱間加工鋼は、合計で2〜15重量%のMoおよびWを含むことを特徴とする、請求項2〜8のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項10】
工具鋼は、合計で2.5〜15重量%のMoおよびWを含むことを特徴とする、請求項4〜9のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項11】
工具鋼は、1.5重量%未満のCrを含むことを特徴とする、請求項4〜10のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項12】
工具鋼は、1重量%未満のCrを含むことを特徴とする、請求項4〜11のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項13】
工具鋼は、0.5重量%未満のCr、好ましくは0.2重量%未満のCr、特に好ましくは、0.1重量%未満のCrを含むことを特徴とする、請求項4〜12のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項14】
工具鋼は、0.5〜10重量%、特に1〜10重量%のMoを含むことを特徴とする、請求項4〜13のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項15】
Mo、W、およびVの含有量は、合計で2〜10重量%になることを特徴とする、請求項4〜14のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項16】
工具鋼は、最大3重量%のCoを含むことを特徴とする、請求項4〜15のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項17】
工具鋼は、最大2重量%のCoを含むことを特徴とする、請求項4〜16のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項18】
工具鋼のモリブデン含有量は>1重量%、好ましくは>1.5重量%、特に好ましくは、>=2重量%であることを特徴とする、請求項4〜17のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項19】
工具鋼のバナジウム含有量は<=2重量%、好ましくは<=1.2重量%、特に好ましくは、2重量%であることを特徴とする、請求項4〜18のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項20】
不純物は、単独または合計で、最大1重量%の元素Cu、P、Bi、Ca、As、SnまたはPbの1または複数を含むことを特徴とする、請求項4〜19のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項21】
数値HC=xCeq−AC・[xMo/(3・AMo)+xW/(3・AW)+(xV−0.4)/AV]が0.03〜0.165にあり、xCeqは重量%炭素当量、xMoは重量%モリブデン、xWは重量%タングステン、xVは重量%バナジウム、ACは炭素の原子量、AMoはモリブデンの原子量、AWはタングステンの原子量、AVはバナジウムの原子量であることを特徴とする、請求項4〜20のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項22】
HCが0.05〜0.158にあることを特徴とする、請求項21に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項23】
HCが0.05〜0.158にあることを特徴とする、請求項21または22に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼。
【請求項24】
室温で42W/mKより大きな熱伝導度、好ましくは48W/mKより大きな熱伝導度、特に好ましくは、55W/mKより大きな熱伝導度を有する熱間加工製品、特に熱間加工鋼を製造するための加工材料としての、請求項4〜23のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼の使用。
【請求項25】
少なくとも一部が請求項4〜23のいずれか1項に記載の工具鋼、特に熱間加工鋼から構成されることを特徴とする鋼製品。
【請求項26】
鋼製品は、その全体積に亘りほぼ一定の熱伝導度を有することを特徴とする、請求項25に記載の鋼製品。
【請求項27】
鋼製品は、少なくとも区分ごとに変化した熱伝導度を有するを特徴とする、請求項25に記載の鋼製品。
【請求項28】
鋼製品は、室温で少なくとも区分ごとに42W/mKよりも大きい熱伝導度、好ましくは、48W/mKよりも大きい熱伝導度、特に55W/mKよりも大きい熱伝導度を有することを特徴とする、請求項25〜27のいずれか1項に記載の鋼製品。
【請求項29】
鋼製品は、金属の加圧成形加工法、剪断成形加工法または曲げ成形加工法、好ましくは、自由成形鍛造加工法、型鍛造加工法、チクソ鍛造加工法、押出加工法、押出成形加工法、雌型曲げ加工法、ロール成形加工法または平面ロール加工法、成形ロール加工法および鋳造ロール加工法における造形工具であることを特徴とする、請求項25〜28のいずれか1項に記載の鋼製品。
【請求項30】
鋼製品は、金属の引抜加圧加工法および引抜加工法、好ましくは加圧硬化加工法、成形硬化加工法、深絞り加工法、引抜加工法およびカラー絞り加工法における造形工具であることを特徴とする、請求項25〜28のいずれか1項に記載の鋼製品。
【請求項31】
鋼製品は、金属出発材料の一次成形加工法、好ましくは、ダイカスト加工法、真空ダイカスト加工法、チクソ鍛造加工法、鋳造ロール加工法、焼結加工法および高温静水圧圧縮加工法における造形工具であることを特徴とする、請求項25〜28のいずれか1項に記載の鋼製品。
【請求項32】
鋼製品は、重合出発材料の一次成形加工法、好ましくは射出成形法、押出成形法および押出吹込成形法における造形工具であることを特徴とする、請求項25〜28のいずれか1項に記載の鋼製品。
【請求項33】
鋼製品は、セラミックス出発材料の一次成形加工法、好ましくは、焼結加工法における造形工具であることを特徴とする、請求項25〜28のいずれか1項に記載の鋼製品。
【請求項34】
鋼製品は、エネルギー生成およびエネルギー変換の機械および設備、好ましくは内燃機関、反応炉、熱交換器および発電機のための構成要素であることを特徴とする、請求項25〜28のいずれか1項に記載の鋼製品。
【請求項35】
鋼製品は、化学プロセス技術の機械および設備、好ましくは化学反応炉のための構成要素であることを特徴とする請求項25〜28のいずれか1項に記載の鋼製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−500471(P2010−500471A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523159(P2009−523159)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005091
【国際公開番号】WO2008/017341
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(509037938)ロバルマ,ソシエダッド アノニマ (5)
【氏名又は名称原語表記】ROVALMA,S.A.
【住所又は居所原語表記】c/Apol.lo 51,Terrassa,Spain