説明

鋼材の冷却方法

【目的】 本発明は、音波を利用して熱間圧延直後の高温鋼材の冷却を行う方式において、該音波を有効に活用することができる鋼材の冷却方法を提供することを目的とする。
【構成】 超低周波数発振器から発信される10〜20Hzの音波を共鳴器内で共鳴させて得られた音響エネルギーにより圧延直後の高温鋼材を冷却するに際し、前記共鳴器の端部幅方向中央部に切欠状開口を設け、該開口内を前記鋼材を通過させて該鋼材を冷却することを特徴とする鋼材の冷却方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、音波を用いて熱間圧延直後の高温鋼材の冷却を行う方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】熱間圧延直後の高温鋼材を冷却する方法として、従来より、空気、ミスト、水等を吹きつける方法、ソルトや鉛等の金属浴に浸漬する方法、温水、冷水、油等の液体に浸漬する方法、流動攪拌法等が一般に行われている。また、ばね鋼や高炭素鋼線材の調整冷却には、例えば特公昭42−15463号公報に開示されている衝風冷却方式が採用されている。しかしながら、この方式では多量の空気を鋼材に吹きつけるため、ブロワーおよび附帯配管設備等が必要であり、設備の大型化、複雑化をきたし、投資額とランニングコストが非常に高くなるという問題を有するのみならず、均一冷却性に課題があった。
【0003】これらの冷却装置の代替として、20Hz以下の超低周波数の音波を共鳴させて得られる音響エネルギーの利用が考えられており、この方式は音源への投入エネルギーを、共鳴器で粒子速度を増幅することにより、投入エネルギーを約2〜10倍に増幅して利用できるので、省エネルギーが図れ、かつ設備をコンパクトに構成することができる等の優れた点があるものの、工業的規模で十分な性能を発揮できずに未だ実用化されるには至っていない。
【0004】特に、線材の冷却に際して、非同心リング状線材全体に音波を供給して冷却を行う場合、リング重なり密度の大きい部分は流動抵抗が大きくなり粒子速度が大幅に減衰するが、小さな部分はほとんど減衰されないので冷却バラツキが助長されるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記の音波を利用して熱間圧延直後の高温鋼材の冷却を行う方式において、該音波を有効に活用することができる鋼材の冷却方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨とするところは下記のとおりである。
(1)超低周波数発振器から発信される10〜20Hzの音波を共鳴器内で共鳴させて得られた音響エネルギーにより圧延直後の高温鋼材を冷却するに際し、前記共鳴器の端部幅方向中央部に切欠状開口を設け、該開口内を前記鋼材を通過させて該鋼材を冷却することを特徴とする鋼材の冷却方法。
【0007】(2)超低周波数発振器から発信される10〜20Hzの音波を共鳴器内で共鳴させて得られた音響エネルギーにより圧延直後の非同心リング状に巻取られた高温鋼線材を冷却するに際し、前記共鳴器を前記鋼線材非同心リングの幅方向端部に向くようにリングに対して平行または斜めに配置し、共鳴器の端部幅方向中央部には切欠状開口を設け、該開口内を鋼線材非同心リングの幅方向端部側部分を通過させて該鋼線材を冷却することを特徴とする鋼材の冷却方法。
【0008】(3)共鳴器端部の内側断面積(A)と切欠状開口内を通過する鋼材または鋼線材の投影面積(a)の比(a/A)が0.9以下であること特徴とする前項1または2記載の鋼材の冷却方法。
以下、本発明による熱間圧延直後の高温鋼材冷却の態様について説明する。図1および図2は、本発明を直進する線材・棒鋼等の鋼材の冷却に適用した場合の実施態様を示すもので、図1は横断面図、図2は同じく平面図である。また図3乃至図6は本発明を非同心リング状線材の冷却に適用した場合の実施態様を示すもので、図3は横断面図、図4は同じく平面図である。また図5および図6は他の実例を示すもので、図5は横断面図、図6は平面図である。さらに図7は本発明における粒子速度比とa/Aとの関係を示すグラフである。図8は共鳴器内の粒子速度分布を示す図である。図1乃至図6において、1は超低周波数音波発振器、2は該超低周波数音波発振器1に連続する共鳴器、3はその先端に設けた切欠部、4は該切欠部3を通過する鋼材、5は該鋼材4の搬送ローラ、6はガイドである。また図3乃至図6において7はリング状線材である。
【0009】本発明により熱間圧延直後の高温鋼材の冷却を行うには、超低周波数音波発振器1から10〜20Hzの超低周波数音波を発信させ、該音波を共鳴器2により共鳴・増幅させ、得られた高速反復空気流を、共鳴器2の開口部あるいは角度を付けた開口端等の共鳴器内に位置する鋼材4またはリング状線材7に供給して冷却を行う。
【0010】このとき、本発明においては、共鳴器2内を鋼材4が通過する部分の共鳴器2の断面積Aと、共鳴器2内の鋼材4またはリング状線材7の占有投影面積aとの比をa/A≦0.9の関係を満足するようにしたことを特徴とする。その理由は、共鳴器の開口端部の鋼材の占有率が大きくなると、開口部での粒子(空気流)の流出抵抗が大きくなって共鳴器内での共鳴効果が減少し、供給空気流速以下になるからであり、その限界点が0.9である。いいかえれば音波発振器に投入するエネルギーのみで得られる冷却能より大きくできる領域である。なお、共鳴器による増幅効果を有効に利用して、鋼材の搬送ライン長を短くするためには、最大粒子速度に近いa/A≦0.2が望ましい。また、共鳴器端部に鋼材を通過させる切欠状開口を設けた理由は、図8で示すように共鳴器2内で得られた高速反復空気流の粒子速度は開口端附近で最大になり、共鳴器2外では急激に低下し、冷却能を悪化させるため、開口端より発振器側へ冷却能への影響が少ない領域に鋼材を通過させるために設けた。また、この切欠による音波の増幅への影響は無視できる。
【0011】次に、本発明において、超低周波数音波を10〜20Hzに選定した理由を説明する。その理由は共鳴器は波長の1/4長さが必要となるため周波数10Hz未満にすると共鳴器が大きくなり実用的でなくなり、また20Hz超では可聴域となり、騒音問題を生じるとともに、共鳴効果を減少させるからであり、同時に、10〜20Hzの範囲は回折現象を十分期待できる範囲でもあるからである。
【0012】
【実施例】図1および図2は、本発明を直進移動する線材・棒鋼等の鋼材の冷却に適用した場合を示すもので、図1は横断面図、図2は平面図である。この場合は、共鳴器の端部に切欠状開口を設け、該部分、すなわち共鳴器内を鋼材が通過するようにして粒子速度の低下を防止して冷却能の低下を防止するように構成している。
【0013】図3および図4は、本発明を水平に移動する非同心リング状線材の冷却に適用した場合を示すもので、図3は横断面図、図4は平面図である0この場合は、共鳴器の開口端部に角度をつけ、該部分、すなわち共鳴器内をリングの重なり密度の大きな部分を通過させ、リングの重なり密度の小さな部分は共鳴器外を通過させることによって非同心リング状線材内の冷却バラツキを低減するように構成している。
【0014】図5および図6は、図3および図4と同様に本発明を、水平に移動する非同心リング状線材の冷却に適用した場合を示すもので、共鳴器の開口端部に、線材が通過する切欠部を設け、該部分、すなわち共鳴器内をリングの重なり密度の大きな部分を通過させ、リングの重なり密度の小さな部分は共鳴器外を通過させることによって非同心リング状線材内の冷却バラツキを低減するようにしたものである。
【0015】本発明の図5、図6の具体例を以下に示す。仕上圧延機で圧延された表1に示す成分の高炭素鋼を素材とし、線径10mmφと16mmφの線材をレーイングヘッドで非同心リング状に形成し、線材がオーステナイト領域にある間に表2に示す音響条件で冷却した。その時の800〜600℃までの冷却速度(Vs),冷却速度バラツキ(σVs),および変動率(=σVs/Vs)を調査した結果を表−2に示す。
【0016】表2から明らかなように、本発明によれば800〜600℃までの同一冷却速度条件で変動率を30〜50%低減し、機械的強度バラツキの少ない線材を得ることができる。
【0017】
【表1】


【0018】
【表2】


【0019】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は10〜20Hzの超低周波数の音波を使用し、該音波を共鳴・増幅させ、得られた高速反復空気流の粒子速度を利用して鋼材を冷却するものであり、しかもその際、共鳴器2の開口端より音波発振器側へ鋼材4が通過する貫通口を設けた冷却、およびリング状線材7の重なり密度の大きな部分を共鳴器内を通過させることによって少ない投入エネルギーで効率の良い冷却を行うことができ、生産性の向上を図るとともに、品質のバラツキを改善することができる等の優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明を、直進する線材・棒鋼等の鋼材の冷却に適用した場合を示す横断面図、(b)は(a)のA−A’矢視図である。
【図2】本発明を、図1と同一の冷却に適用した場合を示す平面図である。
【図3】本発明を、非同心リング状線材の冷却に適用した場合を示す横断面図である。
【図4】図3と同一の冷却に適用した場合を示す平面図である。
【図5】本発明を、非同心リング状線材の冷却に適用した場合の他の実例を示す横断面図である。
【図6】図5と同一の冷却に適用した場合を示す平面図である。
【図7】共鳴器の開口部に占める鋼材の占有比率と粒子速度比の関係を示すグラフである。
【図8】共鳴器内外の粒子速度分布を示す図である。
【符号の説明】
1 超低周波数音波発信器
2 共鳴器
3 切欠状開口
4 鋼材
5 搬送ローラ
6 ガイド
7 リング状線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 超低周波数発振器から発信される10〜20Hzの音波を共鳴器内で共鳴させて得られた音響エネルギーにより圧延直後の高温鋼材を冷却するに際し、前記共鳴器の端部幅方向中央部に切欠状開口を設け、該開口内を前記鋼材を通過させて該鋼材を冷却することを特徴とする鋼材の冷却方法。
【請求項2】 超低周波数発振器から発信される10〜20Hzの音波を共鳴器内で共鳴させて得られた音響エネルギーにより圧延直後の非同心リング状に巻取られた高温鋼線材を冷却するに際し、前記共鳴器を前記鋼線材非同心リングの幅方向端部に向くようにリングに対して平行または斜めに配置し、共鳴器の端部幅方向中央部には切欠状開口を設け、該開口内を鋼線材非同心リングの幅方向端部側部分を通過させて該鋼線材を冷却することを特徴とする鋼材の冷却方法。
【請求項3】 共鳴器端部の内側断面積(A)と切欠状開口内を通過する鋼材または鋼線材の投影面積(a)の比(a/A)が0.9以下であること特徴とする請求項1または2記載の鋼材の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平6−328115
【公開日】平成6年(1994)11月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−113366
【出願日】平成5年(1993)5月14日
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)