説明

鋼材の高温酸化を抑制する鋼材用酸化防止剤およびそれを使用する鋼材加熱方法

【課題】 高温酸化性雰囲気中での鋼材加熱処理における酸化損傷を抑え、鉄損ならびに表面疵を軽減し得る鋼材の加熱方法を提供する。
【解決手段】 鋼材の加熱に先立ち、該鋼材表面にアルミニウム金属塩および/またはランタノイド金属塩を含む水溶液を塗布することによりコーティング膜を形成することを特徴とする、高温酸化による損傷を少なくする鋼材の加熱方法。使用するランタノイド金属塩はランタン、セリウム、イットリウムの塩化物、あるいはこれらの二種類以上の混合塩化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材加熱時の高温酸化による表面腐食損傷を微小とする鋼材用酸化防止剤およびそれを使用する鋼材加熱方法に関するもので、特に、熱間圧延に先立つスラブ加熱や焼入−焼戻、焼ならしなどの熱処理に適用できる鋼材用酸化防止剤およびそれを使用する鋼材加熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材の加熱処理においては、一般的には液体燃料もしくは気体燃料を熱処理炉に開放したバーナー燃焼熱もしくは熱処理炉に開放しないラジアントチューブ中のバーナー燃焼熱あるいは抵抗発熱により加熱する。
【0003】
その際、鋼材表面の高温酸化抑制のため、炉内の酸素分圧制御はおこなっているものの、鉄鋼業などの大規模な工業生産ラインでは、その制御は必ずしも十分ではなく、どのような加熱方法であっても鋼材表面の高温酸化は避けられず、これに伴う少なくない鉄損とともに、鋼材表面が酸化することによる表面疵の発生という問題があった。
【0004】
なお、鋼材の高温酸化防止剤、防止塗料としては、これまで種々提案されている(例えば、特許文献1〜7参照)。しかし、これらの鋼材の高温酸化防止剤、防止塗料は、簡便、安価に鋼材加熱時の高温酸化による鉄損を抑え、鋼材のスケール性表面疵を抑制する鋼材用酸化防止剤としては未だ満足できるものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−64813号公報
【特許文献2】特開昭63−284266号公報
【特許文献3】特開平1−229080号公報
【特許文献4】特開平2−133512号公報
【特許文献5】特開平2−209420号公報
【特許文献6】特開平4−72011号公報
【特許文献7】特開平7−62428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記した従来の技術の現状に鑑みてなされたもので、その主たる目的は、既存の加熱設備を改造することなく、鋼材加熱時の高温酸化による鉄損を抑え、鋼材のスケール性表面疵を抑制する鋼材用酸化防止剤およびそれを使用する鋼材加熱方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
具体的には、鋼材表面に酸化抑制効果を有するコーティング膜を形成できる、簡便、安価な鋼材用酸化防止剤およびそれを使用する鋼材加熱方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、鋼材の加熱処理に先立ち、鋼材の表面にアルミニウム金属塩水溶液および/またはランタノイド金属塩水溶液によりコーティング膜を形成し、加熱することで鋼材の高温酸化を効果的に抑制することができることを見出して本発明を完成した。
【0009】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0010】
(1) アルミニウム金属塩水溶液および/またはランタノイド金属塩水溶液であることを特徴とする鋼材の高温酸化を抑制する鋼材用酸化防止剤。
【0011】
(2) 前記水溶液中のアルミニウムイオン濃度が2 mass ppb以上および/またはランタノイド金属イオン濃度が2 mass ppm以上であることを特徴とする上記(1)に記載の鋼材の高温酸化を抑制する鋼材用酸化防止剤。
【0012】
(3) ランタノイド金属塩として、ランタン、セリウム、イットリウムの塩化物、あるいはこれらの二種以上の混合塩化物であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の鋼材の高温酸化を抑制する鋼材用酸化防止剤。
【0013】
(4)鋼材の加熱に先立ち、該鋼材表面に上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の鋼材用酸化防止剤を鋼材表面に塗布することを特徴とする鋼材の高温酸化を抑制する鋼材の加熱方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、スラブ加熱、熱処理における鋼材加熱時の酸化損傷をこれまでになく微小に抑えることが可能になった。その結果、鉄損を極小にできるとともに、スケール起因の表面疵発生を抑えることが可能となり、鋼材の表面品位向上が図れるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明を詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明の請求範囲にかかる限定理由について説明する。
【0017】
図1は、セリウム金属濃度1 mass ppmの塩化セリウム水溶液を120℃に加熱した低炭素鋼板にスプレー塗布した試料(●コーティングありと表記)、および比較のためにスプレー塗布しなかった試料(○コーティングなしと表記)を大気雰囲気中1000℃で一定時間加熱(酸化)した際の、加熱(酸化)時間の平方根と減肉厚さの関係を示したものである。図1に示すように、塩化セリウム水溶液の塗布により、鋼板の酸化速度に相当するグラフの勾配は約1/6になっており、酸化が顕著に抑制されていることがわかる。
【0018】
高温酸化抑制の機構は、本発明者らによって鋭意解明を進めているが、アルミニウムおよびまたはセリウムに代表されるランタノイド金属元素の存在が、鋼材表面にそれらの酸化物を主とする緻密なコーティング膜を形成し、酸化スケール中に鉄の拡散が比較的早いウスタイト(FeO)の生成が抑えられたことにより、酸化速度が抑制されたものと推定している。これは、従来の高温酸化防止剤、防止塗料が、ガラス質もしくは低融点セラミックスの皮膜等を鋼材表面に塗布することにより物理的に酸素を遮断ものとは本質的に異なるものである。
【0019】
本発明者らの実験によれば、塩化セリウム水溶液中のセリウム金属濃度は、きわめて希薄なものでも効果を有する。その際の下限量については、限界的な量を表すものではないが、上述したように1 mass ppmでも効果を有したことから、本発明の特徴をより明確にし、かつ、より高温でも安定して効果を発揮できるよう2 mass ppm以上とした。上限については、多いことで負の効果はないため、特に限定はしないが、概ね3000 mass ppmを超える濃度では高温酸化抑制効果は飽和するようであり、経済性も勘案し、3000 mass ppm以下が好ましい。
【0020】
また、この高温酸化の抑制効果は、セリウムのほか、ランタン、イットリウム塩化物などのランタノイド金属塩全般、あるいはこれらの二種以上の混合塩化物、およびアルミニウム金属塩の水溶液でも有している。
【0021】
アルミニウム金属塩水溶液の場合、水溶液中のアルミニウムイオン濃度がさらに希薄なものでも効果を有する。本発明者らの実験によれば、アルミニウムイオン濃度が2 mass ppbの濃度でも酸化抑制効果が確認されており、本発明においては、この濃度を下限とする。上限については特に規定しないが、前記ランタノイド金属イオン同様の理由により、3000 mass ppm以下が好ましい。アルミニウム金属塩としては、アルミニウム酢酸塩、アルミニウム硫酸塩などがある。
【0022】
さらに、前記水溶液中には、アルミニウムイオンとランタノイド金属イオンとが共存した場合、その機構は必ずしも明確ではないが、条件によっては高温酸化抑制効果がより顕著となるケースがあることが実験的に確認されている。このため、本発明では、それぞれ単独のケースのみならず、両者共存のケースも発明範囲とする。
【0023】
なお、本実験においては、酸化程度(ここでは減肉厚さ)の時間依存性を定量評価するために、比較的水溶液塗布のばらつきの少ないスプレー塗布としたが、実ライン適用に際しては、より簡便なシャワー方式、水溶液槽への浸漬方式など、いかなる方法であっても本発明の優れた特徴を損なうものではない。
【実施例】
【0024】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。
【0025】
本発明の加熱試験で使用したアルミニウム金属塩は、アルミニウム酢酸塩、そして、ランタノイド金属塩は、入手が容易で、水に容易に溶ける塩化セリウム(III)七水和物で、それぞれ金属イオン濃度が100 mass ppm程度の水溶液を作成した。次いで、SM490級の低炭素鋼(スラブ、鋼板)にスプレーで十分噴霧塗布し、表面にコーティング膜を形成し、厚板ミルのスラブ加熱炉、熱処理炉で加熱をおこない、スケール厚を測定した。
【0026】
表1に結果を示すように、前記水溶液を塗布した本発明例では、塗布なし材に比較し、スケール厚が著しく抑制されていることが分かる。また、これによりスケール起因の表面疵発生を抑えることができた。
【0027】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】コーティングの有無による1000℃加熱(酸化)時間の平方根と鋼板の減肉厚さとの関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム金属塩水溶液および/またはランタノイド金属塩水溶液であることを特徴とする鋼材の高温酸化を抑制する鋼材用酸化防止剤。
【請求項2】
前記水溶液中のアルミニウムイオン濃度が2 mass ppb以上および/またはランタノイド金属イオン濃度が2 mass ppm以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の高温酸化を抑制する鋼材用酸化防止剤。
【請求項3】
ランタノイド金属塩として、ランタン、セリウム、イットリウムの塩化物、あるいはこれらの二種以上の混合塩化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材の高温酸化を抑制する鋼材用酸化防止剤。
【請求項4】
鋼材の加熱に先立ち、該鋼材表面に請求項1乃至3のいずれかに記載の鋼材用酸化防止剤を鋼材表面に塗布することを特徴とする鋼材の高温酸化を抑制する鋼材の加熱方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−70819(P2010−70819A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240887(P2008−240887)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)