説明

鋼製スリットダム、これに用いられる礫体捕捉部材及びその取り付け方法

【課題】無駄な部材の使用を極力低減することができ、これに伴い材料コストの低減を図ることが可能であるとともに、礫体捕捉部材としての機能を長期に亘って発揮することのできる鋼製スリットダムを提供する。
【解決手段】川幅方向に間隔を空けて立設された複数の支柱11と、複数の支柱11の互いに対向する側部11aから川幅方向に突出された一対の受け部材21と、一対の受け部材21上において両端部31aが支持される断面円形状の礫体捕捉部材31と、一対の受け部材21の外面に固着された取付金具23と、礫体捕捉部材31の外周面に固着され、取付金具23に着脱可能に連結された被取付金具33とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の土石流、流木対策用等として好適に用いられる鋼製スリットダム、これに用いられる礫体捕捉部材及びその取り付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、土石流発生時に河川を流れる巨礫、流木等の礫体が河川下流側へ流出するのを防止するため、図12に示すような鋼製スリットダム101が提案されている。この鋼製スリットダム101は、複数の鋼管部材を組み合わせて形成される骨組構造体としてのスリットダム本体110から構成されている。
【0003】
このスリットダム本体110は、河川107の川幅方向に間隔を空けて構築される堤体103間に配置されるもので、川幅方向に間隔を空けて立設された複数の支柱111と、支柱111に接続された横梁113とを備えている。河川107の上流側から下流側にかけて流れてくる比較的粒径の大きな礫体や流木等は、このスリットダム本体110に衝突することによって捕捉されることになる。
【0004】
ところで、近年においては、家屋等が周囲に多く存在する河川の上流側においてこのような鋼製スリットダムが配置されるケースが増加してきている。このため、保全対象となる下流側の家屋等の安全性を確保する観点から、土石流中に含まれる粒径の小さい中小礫も捕捉可能となるよう礫体捕捉性能を向上させた構造の鋼製スリットダムの提案が望まれている。
【0005】
このような構造の鋼製スリットダムとしては、例えば、特許文献1、2に記載のようなものが提案されている。特許文献1において提案されている鋼製スリットダムは、リングネット、エキスパンドメタル、H形鋼等によって構成される礫捕捉用部材をスリットダム本体に上流側から取り付けることを特徴としている。特許文献2において提案されている鋼製スリットダムは、複数本の縦桟、横桟を格子状に組んで構成される中小礫捕捉部材をスリットダム本体に上流側から取り付けたことを特徴としている。
【0006】
何れの文献においても、スリットダム本体に対して礫体捕捉用の部材を取り付けることによって、川幅方向に間隔をあけて複数の鋼管柱間を通過しようとする礫体をその礫体捕捉用の部材によって捕捉する構造の鋼製スリットダムが開示されており、これによって、鋼製スリットダムの礫体捕捉性能の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−201019号公報
【特許文献2】特開2007−191936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示のH形鋼からなる礫捕捉用部材や特許文献2に開示の中小礫捕捉部材のような礫体捕捉部材は、何れもスリットダム本体を構成する鋼管部材を上流側から交差して覆うような構造とされている。これは、礫体を捕捉する機能を有する部材がその交差部で二重に用いられていることを意味しており、その分、同機能を有する部材のために無駄な材料が用いられ、材料コストの高騰を招くこととなる。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、スリットダム本体に対して中小礫の捕捉を容易とする礫体捕捉部材を取り付ける場合において、無駄な部材の使用を極力低減することができ、これに伴い材料コストの低減を図ることが可能である鋼製スリットダム、これに用いられる礫体捕捉部材及びその取り付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の鋼製スリットダム、これに用いられる礫体捕捉部材及びその取り付け方法を発明した。
【0011】
第1発明に係る鋼製スリットダムは、河川の川幅方向に間隔を空けて構築された堤体間に配置される鋼製スリットダムにおいて、前記川幅方向に間隔を空けて立設された複数の支柱と、前記複数の支柱の互いに対向する側部から前記川幅方向に突出された一対の受け部材と、前記一対の受け部材上において両端部が支持される断面円形状の礫体捕捉部材と、前記一対の受け部材の外面に固着された取付金具と、前記礫体捕捉部材の外周面に固着され、前記取付金具に着脱可能に連結された被取付金具とを備えることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る鋼製スリットダムは、第1発明において、前記被取付金具は、前記礫体捕捉部材を吊り支持するための索状体が挿通される挿通孔が形成されていることを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る鋼製スリットダムは、第2発明において、前記被取付金具は、前記取付金具に形成されたボルト孔とその挿通孔とに挿通されるボルトに対してナットが螺合されることによって前記取付金具に着脱可能に連結されていることを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る鋼製スリットダムは、第1発明〜第3発明の何れか一つの発明において、前記一対の受け部材は、前記礫体捕捉部材の周方向の一端から他端側に向けて形成された嵌合溝を有し、前記被取付金具は、前記嵌合溝内に嵌合されていることを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る鋼製スリットダムは、第1発明〜第4発明の何れか一つの発明において、前記一対の受け部材上に配置された弾性体を更に備え、前記礫体捕捉部材は、前記一対の受け部材上においてその両端が前記弾性体を介して支持されていることを特徴とする。
【0016】
第6発明に係る鋼製スリットダムは、第1発明〜第5発明の何れか一つの発明において、前記受け部材は、前記礫体捕捉部材の端部を下側から支持する支持部と、前記河川の上流側から下流側に向けて衝撃力が前記礫体捕捉部材に作用した際に、当該礫体捕捉部材の端部を下流側から支持する保持部とを有することを特徴とする。
【0017】
第7発明に係る鋼製スリットダムは、第1発明〜第6発明の何れか一つの発明において、前記受け部材は、略円弧状に形成されていることを特徴とする。
【0018】
第8発明に係る礫体捕捉部材は、第1発明〜第7発明の何れか一つの発明に係る鋼製スリットダムに用いられることを特徴とする。
【0019】
第9発明に係る礫体捕捉部材の取り付け方法は、第1発明〜第7発明の何れか一つの発明に係る複数の支柱を有するスリットダム本体に対して前記礫体捕捉部材を取り付ける方法であって、前記礫体捕捉部材の外周面に固着された被取付部材に索状体を取り付けたうえで当該索状体により当該礫体捕捉部材を吊り支持し、前記一対の受け部材上に前記礫体捕捉部材の両端部を配置し、前記一対の受け部材の取付金具に対して前記礫体捕捉部材の被取付金具を近接させるように前記礫体捕捉部材を前記一対の受け部材上で回動させ、前記一対の受け部材の取付金具と前記礫体捕捉部材の被取付金具とを着脱可能に連結することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
第1発明によれば、複数の礫体捕捉部材のうちの一部が損傷した場合に、交換による補修が必要な一部の部材以外は交換することなく補修が完了するため、補修作業を容易に行うことができるとともに、余計な補修コストの発生を抑えることが可能となる。また、礫体捕捉部材が複数の支柱間に配置される構造となっているので、礫体を捕捉する機能を有する部材の無駄な使用が抑えられ、その分、材料コストを抑えることが可能となる。また、所望の礫体捕捉能力が得られるよう設計するうえで、受け部材の配置位置について、他の受け部材の配置位置等に大きな影響を受けることなく設計でき、設計上の自由度に優れたものとなっている。また、礫体捕捉部材をスリットダム本体に取り付けたとしても、これら相互間で作用する温度応力による影響を抑えることが可能となっている。
【0021】
第2発明によれば、被取付金具によって吊り支持の機能と他部材への連結の機能とを兼用させているので、交換することが前提の礫体捕捉部材の構成を大きく簡略化することができるうえ、鋼製スリットダム全体のコストの低減を図ることが可能となる。
【0022】
第4発明によれば、礫体捕捉部材に対して礫体が衝突して礫体捕捉部材が大きく変形した場合でも、一対の受け部材から礫体捕捉部材の両端部が外れにくくなることに加えて、礫体捕捉部材の取り付け作業時において取付金具と被取付金具との位置合わせが容易となる。
【0023】
第5発明によれば、礫体捕捉部材の受け部材に対する密着度を高めて、礫体捕捉部材を受け部材上で安定して支持することが可能となる。また、礫体との衝突により礫体捕捉部材に対して衝撃力が作用した際に、受け部材の広い範囲にこの衝撃力を分散させて伝達させることが可能となり、この衝撃力に対する耐久性を向上させることが可能となる。
【0024】
第7発明によれば、礫体捕捉部材を受け部材上に配置し易くなることに加え、礫体が礫体捕捉部材に対して衝突した際に受け部材に対して衝突による荷重が分散して伝達され易くなり、この衝撃力に対する耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る鋼製スリットダムの構成の一例を示す一部横断正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】一対の受け部材上において両端部が支持されている礫体捕捉部材の構成を上流側からみた状態を示す正面図である。
【図4】一対の受け部材上において両端部が支持されている礫体捕捉部材の構成を下流側からみた状態を示す背面図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】図4のB−B線断面図である。
【図7】(a)は礫体捕捉部材の構成を示す斜視図であり、(b)は礫体捕捉部材の他の実施形態の構成を示す斜視図である。
【図8】礫体捕捉部材をスリットダム本体に対して取り付ける方法について説明するための図である。
【図9】本発明に係る受け部材の他の実施形態について示す背面図である。
【図10】他の実施形態に係る礫体捕捉部材の被取付金具を受け部材の取付金具に連結した状態を示す側面断面図である。
【図11】本発明に係る嵌合溝の他の実施形態について示す背面図である。
【図12】従来の鋼製スリットダムについて説明するための一部横断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を適用した鋼製スリットダムを実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
まず、本発明に係る鋼製スリットダム1の第1実施形態について説明する。図1は、本発明に係る鋼製スリットダム1の構成の一例を示す一部横断正面図を示しており、図2は、そのA−A線断面図を示している。
【0028】
鋼製スリットダム1は、河川7の川幅方向に間隔を空けて構築された堤体3間に配置されるものであり、その堤体3間の河床9上には基礎コンクリート5が打設されている。堤体3は、河床9上に構築された剛性に優れた構造体であり、例えば、コンクリート等から構築される。また、堤体3は、この他に、複数の鋼矢板を組み合わせる等して筒状構造体を構築し、その内部に土砂等を充填して構成されていてもよい。
【0029】
鋼製スリットダム1は、上下方向や水平方向等に延長されてなる複数の断面円形状の鋼管部材を組み合わせて形成される骨組構造体としてのスリットダム本体10を備えている。図示の例では、河川7の川幅方向に間隔を空けて二つのスリットダム本体10が配置されているが、スリットダム本体10の数については特に限定するものではない。また、スリットダム本体10を構成する鋼管部材は、断面角形状に形成されていてもよい。
【0030】
本実施形態におけるスリットダム本体10は、河川7の川幅方向や流れ方向に間隔を空けて基礎コンクリート5上で傾斜して立設される複数の支柱11と、支柱11に接続された横梁13とを備えている。横梁13は、本実施形態において、河川7の川幅方向や流れ方向に隣り合う支柱11に接続されることによって、それらの支柱11間に架設されている。
【0031】
河川7の上流側に位置する支柱11は、その下端から上端に向かうにつれて河川7の下流側に傾斜するように設けられ、下流側に位置する支柱11は、その下端から上端に向かうにつれて河川7の上流側に傾斜するよう設けられている。各支柱11は、その下端部が基礎コンクリート5内に埋め込み固定されている。
【0032】
支柱11は、その上端部や中間部から川幅方向及び流れ方向に隣り合う支柱11に向けて、横梁13の一部を構成する水平部材14が突出されている。水平部材14の先端には環状のフランジ15が固着されている。略同一方向に直列に配置された複数の水平部材14は、互いにフランジ15を当接させたうえでこれらをボルトナット等により固定することによって連結されており、これら直列に配置された複数の水平部材14によって一つの横梁13が構成されている。
【0033】
ここで、本発明に係る鋼製スリットダム1は、複数の支柱11に対向する側部11aから川幅方向に突出された一対の受け部材21と、その一対の受け部材21上において両端部31aが支持された断面円形状の礫体捕捉部材31とを備えている。受け部材21は、本実施形態において略円弧状に形成されている。
【0034】
これら一対の受け部材21と礫体捕捉部材31とは、複数の支柱11間においてその支柱11の軸方向に間隔を空けて複数設けられている。また、一対の受け部材21と礫体捕捉部材31とは、一つのスリットダム本体10を構成する複数の支柱11間や、川幅方向に隣り合う複数のスリットダム本体10を構成する複数の支柱11間に設けられている。これによって、複数の支柱11間を通過しようとする礫体を礫体捕捉部材31に衝突させることによって捕捉することが可能となっている。これら一対の受け部材21と礫体捕捉部材31とは、必要となる礫体捕捉能力に応じて、その設けられる数、位置等が調整されている。
【0035】
図3は、一対の受け部材21上において両端部31aが支持されている礫体捕捉部材31の構成を上流側からみた状態を示す正面図であり、図4は、これを下流側からみた状態を示す背面図である。また、図5は、図4の部分拡大図であり、図6は、図4のB−B線断面図である。また、図7(a)は、礫体捕捉部材31の構成を示す斜視図であり、(b)は礫体捕捉部材31の他の実施形態の構成を示す斜視図である。
【0036】
本発明に係る鋼製スリットダム1は、図3〜図7に示すように、一対の受け部材21の外面に固着された取付金具23と、礫体捕捉部材31の外周面に固着された被取付金具33とを更に備えている。
【0037】
受け部材21は、図5等に示すように、その川幅方向の基端部21fが支柱11の外周面11bに沿うような形状に形成されており、その基端部21fを支柱11に対して当接させたうえで溶接等して固着されている。受け部材21は、例えば、円形鋼管を周方向に複数に切断する等の加工によって得られるものである。
【0038】
受け部材21は、図6に示すように、礫体捕捉部材31の端部31aを下側から支持する支持部21aと、礫体との衝突により上流側から下流側に向けて衝撃力が礫体捕捉部材31に対して作用した場合に、礫体捕捉部材31の端部31aを下流側から支持してこの礫体捕捉部材31が受け部材21から抜け出ないように保持する保持部21bとを有する。受け部材21は、鉛直下側に位置する支持部21aと、この支持部21aより下流側に位置する保持部21bを有するものであれば、その形状について特に限定するものではなく、その形状は、略円弧状の他に、L字状、多角形状等に形成されていてもよい。なお、受け部材21が略円弧状に形成されている場合、礫体捕捉部材31をその上に配置し易くなることに加え、礫体捕捉部材31に対して面接触し易くなるので、礫体が礫体捕捉部材31に対して衝突した際に受け部材21に対して衝突による荷重が分散して伝達され易くなり、この衝撃力に対する耐久性を向上させることが可能となる。
【0039】
受け部材21は、支持部21a側への長さが長くなるほど礫体捕捉部材31を支持部21aによって安定して支持することができ、保持部21b側への長さが長くなるほど、礫体捕捉部材31に対して衝撃力が作用した場合に礫体捕捉部材31を保持部21bによって安定して保持することができる。但し、受け部材21として略円弧状に形成されたものを用いる場合は、半円の円弧状をなす形状から更にその周方向長さが長くなるよう形成されてしまうと、礫体捕捉部材31の端部31aを配置することが徐々に困難となるうえ、円形鋼管から加工して受け部材21を得る場合に一つの円形鋼管から一つの受け部材21しか得られなくなってしまい経済性の低下を招くので、これらの点を考慮の上その長さが調整されていることが好ましい。
【0040】
なお、受け部材21として略円弧状に形成されたものを用いる場合等においては、その支持部21a側への周方向長さが長くなるほど支持部21a上に水が溜まり易くなるので、本実施形態のように、支持部21a上に貯まった水を除くための水抜き孔21eが形成されていることが好ましい。
【0041】
受け部材21は、図5、図6等に示すように、礫体捕捉部材31の周方向の一端21dから他端21c側に向けて、換言すると、保持部21b側から支持部21a側に向けて嵌合溝25が形成されている。本実施形態の受け部材21は、嵌合溝25の側壁面とその外周面との縁部21hに沿うように、その外周面に対して板状の取付金具23が溶接等により固着されている。本実施形態の板状の取付金具23は、礫体捕捉部材31の周方向と略平行となるように受け部材21に固着されている。本実施形態の取付金具23は、礫体捕捉部材31の軸方向に貫通するボルト孔24が形成されている。
【0042】
礫体捕捉部材31は、本実施形態において、中空の断面円形状の鋼管部材から構成されている。これにより、礫体との衝突時において礫体捕捉部材31自体が大きく変形することによって礫体からの衝撃力を吸収しやすくなり、スリットダム本体10に過度の衝撃力が加わるのを抑えることができるというメリットがある。
【0043】
礫体捕捉部材31は、スリットダム本体10を構成する鋼管部材と異なり、礫体との衝突時において破断さえしなければ変形してもよいので、本実施形態のようにスリットダム本体10を構成する鋼管部材より小径、薄肉の低強度部材を用いてもよく、これによってコストの低減を図るようにしてもよい。
【0044】
礫体捕捉部材31は、図7(a)等に示すように、その軸方向両端の開口を塞ぐように端板32が溶接等により固着されている。これにより、中空断面の礫体捕捉部材31内に水が浸入するのを防止し、腐食の発生を防止することが可能となっている。
【0045】
礫体捕捉部材31は、図5、図7(a)に示すように、その軸方向の両端部31aに板状の被取付金具33が溶接等により固着されている。この被取付金具33は、取付金具23に対して着脱可能に連結されるものであり、取付金具23に応じた位置に固着されている。本実施形態の板状の被取付金具33は、礫体捕捉部材31の周方向と略平行となるようにその礫体捕捉部材31に固着されている。本実施形態の被取付金具33は、礫体捕捉部材31の軸方向に貫通する挿通孔35が形成されている。
【0046】
板状の被取付金具33は、この他の実施形態として、例えば、図7(b)に示すように、礫体捕捉部材31の軸方向と略平行となるようにその礫体捕捉部材31に固着されていてもよく、その向きについては特に限定するものではない。
【0047】
また、礫体捕捉部材31の被取付金具33は、図5に示すように、一対の受け部材21の取付金具23に着脱可能に連結されている。本実施形態においては、取付金具23のボルト孔24と被取付金具33の挿通孔35とを挿通されるボルト41に対してナット43が螺合されることによって、これらが着脱可能に連結されている。なお、これらはクランプ金具等の公知の連結手段によって連結されていてもよい。
【0048】
本実施形態においては、礫体捕捉部材31の両端部31aの被取付金具33が、一対の受け部材21の嵌合溝25内に嵌合されている。これにより、礫体捕捉部材31に対して礫体が衝突して礫体捕捉部材31が大きく変形した場合でも、嵌合溝25の溝側壁面等に被取付金具33が係合されて礫体捕捉部材31の両端部31aが一対の受け部材21から外れにくくなる。また、これに加えて、後述のように、礫体捕捉部材31の取り付け作業時において取付金具23と被取付金具33との位置合わせが容易となるメリットがある。
【0049】
本実施形態においては、一対の受け部材21上に弾性体27が配置されており、礫体捕捉部材31は、一対の受け部材21の内周面上においてその弾性体27を介して支持されている。このような弾性体27が配置されることによって、礫体捕捉部材31の受け部材21に対する密着度を高めて、礫体捕捉部材31を受け部材21上で安定して支持することが可能となる。また、礫体との衝突により礫体捕捉部材31に対して衝撃力が作用した際に、礫体捕捉部材31の端部31aから弾性体27を介して受け部材21の広い範囲にこの衝撃力を分散させて伝達させることが可能となるので、この衝撃力に対する耐久性を向上させることが可能となる。
【0050】
弾性体27は、例えば、天然ゴムや合成ゴムから構成される。弾性体27は、後述のように、一対の受け部材21上で礫体捕捉部材31を回動させる際に受け部材21上から剥がれない限りその取り付け方法について特に限定するものではなく、受け部材21に接着されていなくともよいし、接着剤等により接着されていてもよい。なお、この弾性体27は、本発明において必須とはならず、受け部材21上に配置されていなくともよい。
【0051】
次に、このような礫体捕捉部材31をスリットダム本体10に対して取り付ける方法について、スリットダム本体10の構築方法の一例とともに説明する。図8は、礫体捕捉部材31をスリットダム本体10に対して取り付ける方法について説明するための図である。
【0052】
まず、河川7の河床9上に基礎コンクリート5を打設、固化させた後、その上でスリットダム本体10を構成する各鋼管部材を組み合わせて基礎コンクリート5上にスリットダム本体10を配置する。続いて、スリットダム本体10の支柱11の下端から所定の高さまで基礎コンクリート5を更に打設し、基礎コンクリート5内に支柱11の下端部を埋め込み固定させる。
【0053】
以上がスリットダム本体10の構築方法の一例であるが、その構築方法については公知の如何なる方法を用いてもよいのは勿論である。また、堤体3は、スリットダム本体10の構築と並行して行なうようにすればよい。
【0054】
次に、図8(a)に示すように、礫体捕捉部材31の被取付金具33にワイヤーロープ等からなる索状体45を取り付け、そのうえで索状体45をクレーンで吊り上げる等して索状体45により礫体捕捉部材31を吊り支持する。本実施形態においては、礫体捕捉部材31の被取付金具33の挿通孔35に索状体45を挿通させることによって、被取付金具33に索状体45を取り付けることとしている。これにより、被取付金具33の挿通孔35によりボルト41の挿通用孔と索状体45の挿通用孔とを兼用することが可能となる。なお、被取付金具33に突起を設けてこの突起に索状体45を巻き付ける等して被取付金具33に索状体45を取り付けるようにしてもよく、被取付金具33への索状体45の取り付け方法は特に限定するものではない。
【0055】
次に、図8(b)に示すように、複数の支柱11の互いに対向する側部11aから突出された一対の受け部材21上に礫体捕捉部材31の両端部31aを配置する。配置後の状態は、礫体捕捉部材31の被取付金具33が上側に位置することになる。
【0056】
次に、一対の受け部材21の取付金具23に対して礫体捕捉部材31の被取付金具33を近接させるように、礫体捕捉部材31をその軸方向回りに一対の受け部材21上で回動させることによって、取付金具23と被取付金具33との位置合わせを行なう。本実施形態においては、礫体捕捉部材31の被取付金具33に取り付けられた索状体45を下流側に向けて引っ張ることによって、礫体捕捉部材31を回動させている。これにより、礫体捕捉部材31を回動させる作業を非常に簡単に行なうことが可能となる。なお、礫体捕捉部材31は、作業員が手作業にて回動させてよいのは勿論である。
【0057】
ここで、本実施形態においては、受け部材21の嵌合溝25内に礫体捕捉部材31の被取付金具33を嵌合させるように、礫体捕捉部材31を一対の受け部材21上で回動させることになる。これにより、礫体捕捉部材31の配置後に受け部材21に対して礫体捕捉部材31がその軸方向に位置ずれが生じていても、容易にそのずれを修正して位置合わせ精度を高めることが可能となる。
【0058】
因みに、受け部材21の嵌合溝25内に被取付金具33を嵌合させた後に、礫体捕捉部材31を一対の受け部材21上で更に回動させることにより、嵌合溝25の奥壁面に被取付金具33が係止されて、それ以上の回動が抑えられることになる。この際に、被取付金具33の係止位置に応じた位置に取付金具23があるように調整しておけば、これらの周方向の位置合わせが容易となる。
【0059】
次に、図8(c)に示すように、一対の受け部材21の取付金具23と礫体捕捉部材31の被取付金具33とを、例えば、ボルト41及びナット43によって着脱可能に連結する。これによって、礫体捕捉部材31がスリットダム本体10に対して取り付けられる。
【0060】
なお、上述の説明においては、礫体捕捉部材31を吊り支持してスリットダム本体10に対して取り付ける方法について説明したが、礫体捕捉部材31を作業員が把持して直接一対の受け部材21上に配置する等してよいのは勿論である。
【0061】
次に、本発明に係る鋼製スリットダム1の作用効果について説明する。
【0062】
河川7の上流側から下流側に向けて流れてきた巨礫、流木、中小礫のうち、巨礫、流木は、主としてスリットダム本体10に対して衝突してこのスリットダム本体10によって捕捉され、中小礫は、主として礫体捕捉部材31やスリットダム本体10に対して衝突してこれらによって捕捉されることになる。
【0063】
ここで、本発明に係る鋼製スリットダム1によれば、礫体捕捉部材31が損傷した場合に、スリットダム本体10に取り付けられている複数の礫体捕捉部材31のうち、交換による補修が必要な一部の部材以外は交換することなく補修が完了するため、補修作業を容易に行うことができるとともに、余計な補修コストの発生を抑えることが可能となる。
【0064】
また、礫体捕捉部材31が、スリットダム本体10を構成する鋼管部材を上流側から交差して覆うように設けられているのではなく、複数の支柱11間に配置される構造となっている。このため、礫体を捕捉する機能を有する部材の無駄な使用が抑えられ、その分、材料コストを抑えることが可能となっている。
【0065】
また、礫体捕捉部材31を取り付けることによって鋼製スリットダム1の礫体捕捉能力を向上させるうえでは、礫体捕捉部材31の取り付け位置や他の礫体捕捉部材31との間隔を調節して、所望の礫体捕捉能力が得られるように設計することになる。ここで、本発明の鋼製スリットダム1は、支柱11での受け部材21の配置位置について、他の受け部材21の配置位置等に大きな影響を受けることなく設計できるため、設計上の自由度に優れたものとなっている。
【0066】
また、礫体捕捉部材31をスリットダム本体10に取り付けるに際して、取付金具23及び被取付金具33は、巨礫等が河川7を流れていないような平常時において一対の受け部材21上で礫体捕捉部材31を位置保持できる程度に連結されていればよく、強固に連結する必要がない。このため、礫体捕捉部材31をスリットダム本体10に取り付けたとしても、相互間で作用する温度応力による影響を抑えることが可能となっている。
【0067】
また、本実施形態においては、礫体捕捉部材31の吊り支持時において被取付金具33の挿通孔35に索状体45を挿通させており、礫体捕捉部材31の受け部材21への取り付け時においては被取付金具33の挿通孔35と取付金具23のボルト孔24とにボルト41を挿通させており、被取付金具33によって吊り支持の機能と他部材への連結の機能とを兼用させている。このため、交換することが前提の礫体捕捉部材31の構成を大きく簡略化することができるうえ、鋼製スリットダム1全体のコストの低減を図ることが可能となる。
【0068】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0069】
例えば、取付金具23、被取付金具33は、その形状について特に限定するものではない。また、これらに加えて礫体捕捉部材31や受け部材21は、その材質について、鋼材等の鉄系金属やアルミ等の非鉄系金属の何れから構成されていてもよい。
【0070】
図9は、本発明に係る受け部材21の他の実施形態について示す背面図である。本実施形態においては、板状の取付金具23が、受け部材21に固着された固着部23aと、固着部23aに対して直交する係止部23bとを有しており、これらによって略L字状に形成されている。取付金具23の固着部23aは、受け部材21の川幅方向の先端部21iにおいて礫体捕捉部材31の周方向と略平行となるようにその受け部材21に固着されている。固着部23aには、礫体捕捉部材31の軸方向に貫通するボルト孔24が形成されている。
【0071】
本実施形態においても、受け部材21の取付金具23のボルト孔24と礫体捕捉部材31の被取付金具33の挿通孔35とを挿通されるボルト41に対してナット43が螺合されることによって、これらが着脱可能に連結される。
【0072】
礫体捕捉部材31のスリットダム本体10に対する取り付け時においては、一対の受け部材21上で礫体捕捉部材31を回動させることになるが、受け部材21の取付金具23の係止部23bに被取付金具33が係合されて、それ以上の回動が抑えられることになる。
【0073】
このように、取付金具23の受け部材21に対する固着位置は特に限定するものではなく、この他にも、図10に示すように、礫体捕捉部材31の周方向の一端21d側において礫体捕捉部材31の軸方向と略平行となるように固着されていてもよい。この場合、礫体捕捉部材31としては、図7(b)に示すような、板状の被取付金具33が礫体捕捉部材31の軸方向と略平行となるように固着されたものを用いることになる。
【0074】
因みに、この取付金具23は、受け部材21の下側ではなく河川7の下流側に向けて突出するよう固着されていることが好ましい。これにより、礫体が取付金具23に対して衝突するのを防止することができ、礫体が取付金具23に衝突することにより受け部材21への局所的な荷重の負荷を抑えて受け部材21の耐久性を高めることができる。
【0075】
図11は、本発明に係る嵌合溝25の他の実施形態について示す背面図である。本実施形態においては、嵌合溝25の溝幅L1が被取付金具33の厚みL2より大きくなるよう形成されている。これにより、被取付金具33の礫体捕捉部材31に対する位置関係に製作誤差が生じていたとしても、被取付金具33を嵌合溝25内に嵌合させることができ、この製作誤差を吸収することができるので好ましい。
【0076】
因みに、被取付金具33と取付金具23とは、これらをボルト41、ナット43によって連結する場合でもボルト41に軸力を導入する等して強固に連結する必要はなく、図11に示すように、これらの間に間隔が空いた状態で連結されるようにしていてもよい。
【0077】
また、スリットダム本体10は、その支柱11や横梁13の数について特に限定するものではないし、基礎コンクリート5上で支柱11が略鉛直に立設されていてもよい。また、横梁13は、川幅方向に間隔を空けて立設された3つ以上の支柱11と交差するように接続されていてもよいし、その両端が堤体3内に埋め込まれた鞘管内に挿入されるように構成されていてもよい。また、支柱11に対して基礎コンクリート5から傾斜して立設された他の支柱11が接続されていてもよい。
【0078】
また、礫体捕捉部材31が取り付けられるべき支柱11は、上述の実施形態において説明したように、スリットダム本体10の最上流側に位置する支柱11とすることが好ましく、これによって、礫体捕捉部材31に対して礫体が衝突する際に発生する荷重を有効に基礎コンクリート5に分散させることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 鋼製スリットダム
3 堤体
5 基礎コンクリート
7 河川
9 河床
10 スリットダム本体
11 支柱
13 横梁
21 受け部材
21a 支持部
21b 保持部
23 取付金具
24 ボルト孔
25 嵌合溝
27 弾性体
31 礫体捕捉部材
33 被取付金具
35 挿通孔
41 ボルト
43 ナット
45 索状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の川幅方向に間隔を空けて構築された堤体間に配置される鋼製スリットダムにおいて、
前記川幅方向に間隔を空けて立設された複数の支柱と、
前記複数の支柱の互いに対向する側部から前記川幅方向に突出された一対の受け部材と、
前記一対の受け部材上において両端部が支持される断面円形状の礫体捕捉部材と、
前記一対の受け部材の外面に固着された取付金具と、
前記礫体捕捉部材の外周面に固着され、前記取付金具に着脱可能に連結された被取付金具とを備えること
を特徴とする鋼製スリットダム。
【請求項2】
前記被取付金具は、前記礫体捕捉部材を吊り支持するための索状体が挿通される挿通孔が形成されていること
を特徴とする請求項1記載の鋼製スリットダム。
【請求項3】
前記被取付金具は、前記取付金具に形成されたボルト孔とその挿通孔とに挿通されるボルトに対してナットが螺合されることによって前記取付金具に着脱可能に連結されていること
を特徴とする請求項2記載の鋼製スリットダム。
【請求項4】
前記一対の受け部材は、前記礫体捕捉部材の周方向の一端から他端側に向けて形成された嵌合溝を有し、
前記被取付金具は、前記嵌合溝内に嵌合されていること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の鋼製スリットダム。
【請求項5】
前記一対の受け部材上に配置された弾性体を更に備え、
前記礫体捕捉部材は、前記一対の受け部材上においてその両端が前記弾性体を介して支持されていること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の鋼製スリットダム。
【請求項6】
前記受け部材は、前記礫体捕捉部材の端部を下側から支持する支持部と、前記河川の上流側から下流側に向けて衝撃力が前記礫体捕捉部材に作用した際に、当該礫体捕捉部材の端部を下流側から支持する保持部とを有すること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の鋼製スリットダム。
【請求項7】
前記受け部材は、略円弧状に形成されていること
を特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載の鋼製スリットダム。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項記載の鋼製スリットダムに用いられること
を特徴とする礫体捕捉部材。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1項記載の複数の支柱を有するスリットダム本体に対して前記礫体捕捉部材を取り付ける方法であって、
前記礫体捕捉部材の外周面に固着された被取付金具に索状体を取り付けたうえで当該索状体により当該礫体捕捉部材を吊り支持し、
前記一対の受け部材上に前記礫体捕捉部材の両端部を配置し、
前記一対の受け部材の取付金具に対して前記礫体捕捉部材の被取付金具を近接させるように前記礫体捕捉部材を前記一対の受け部材上で回動させ、
前記一対の受け部材の取付金具と前記礫体捕捉部材の被取付金具とを着脱可能に連結すること
を特徴とする礫体捕捉部材の取り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−74577(P2011−74577A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224079(P2009−224079)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)