説明

錠装置

【課題】施錠状態と解錠状態とを視認できる表示手段が設けられた錠装置において、内筒を交換できるタイプにも支障なく適用可能とすると共に、表示部の擦れも防止できるようにする。
【手段】錠装置は内筒3と外筒4とを有する。内筒3の前端にはフランジ部3aが形成されており、フランジ部3aには覗き部としての切欠き14が形成されている。外筒4の前面には環状凹所15が形成れており、この環状凹所15に表示リング16とストッパーリング17とが嵌め込まれている。表示リング16は2色に色分けされており、切欠き14からいずれかの色が露出することで施錠状態と解錠状態との違いを視認できる。ストッパーリング17が表示リング16の前面よりも手前に位置しているため、内筒3のフランジ部3aで表示リング16が擦れることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、施錠状態と解錠状態との違いを目視で確認できる錠装置(シリンダ錠)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダ錠は鍵穴が空いた内筒(シリンダ)を中空の外筒に回転自在に嵌め込んだ構造になっており、内筒を180度正逆回転させることで施錠状態と解錠状態とに切り換わるようになっているが、施錠状態と解錠状態とで鍵穴の姿勢は同じであるため、解錠状態か施錠状態かを目視で確認し難く、このため、解錠忘れや施錠忘れを招来することがあった。
【0003】
そこで、施錠状態と解錠状態とを色の違いで視認できるようにした表示手段が提案されている。その一例として特許文献1には、内筒の前面のうち鍵穴の周囲の部分を覆うキャップを外筒に固定し、このキャップの一部を切り欠く一方、内筒の前面にはキャップの切欠きから視認できる表示板を固定し、表示板のうち施錠状態でキャップの切欠きから見える部分と解錠状態で見える部分との色を異ならせることが開示されている。
【0004】
他方、特許文献2には、内筒の前端にフランジを設けてこのフランジに覗き窓を設ける一方、外筒の前面に、覗き窓から視認できる表示部を設けて、施錠状態で見える表示部の色と解錠状態で見える表示部の色とを異ならせることが開示されている。特許文献3はコインで解施錠できる簡易な錠を対象にしているが、この特許文献3にも、内筒のフランジ部に形成した切欠きを介して表示部を視認する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3235415号公報
【特許文献2】実開昭54−70796号のマイクロフィルム
【特許文献3】実開昭57−167166号のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、内筒を交換できるシリンダ錠があり、この内筒交換式シリンダ錠は、例えば使用者が変わっても内筒とキーとを交換することで外筒はそのまま使用できるため経済的である。そして、特許文献1のように内筒の前面をキャップで覆った構成では、このような内筒交換式の錠装置には適用できないという問題がある。また、キャップの内面と表示部とが接触し得るため、繰り返し使用しているうちに表示部がキャップで擦られてその痕跡が残るおそれもあった。
【0007】
他方、特許文献2のように内筒のフランジに覗き窓を設けたタイプは、表示部が外筒の前面に設けられているため、内筒交換式の錠装置にも簡単に適用できる。しかし、特許文献2の場合も、内筒のフランジ部と外筒の表示部とが当接し得るため、特許文献1と同様に、繰り返し使用しているうちに表示部が擦られてその痕跡が残るおそれがあった。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の錠装置は、キーで回転操作される内筒とこの内筒が回転自在に嵌まる外筒とを有している。前記内筒の前端には半径方向外側に突出したフランジ部が形成されており、このフランジ部のうち周方向の一部に前記外筒の前面に向いて開口した覗き部を設けている一方、前記外筒の前端部には、施錠表示部と解錠表示部とが、施錠状態では施錠表示部が前記内筒の覗き部から視認されて解錠状態では解錠表示部が前記内筒の覗き部から視認されるように周方向に位置を変えて配置されている。そして、請求項1の発明は、前記外筒に、前記内筒におけるフランジ部の背面に当接可能なストッパーを脱落不能に設けている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、前記施錠表示部と解錠表示部とは円弧状の形態であって互いに色が相違していると共に一体に繋がっている一方、前記ストッパーは金属製であって前記両表示部の外側に位置した円筒状部を有しており、前記ストッパーと両表示部とは、前記外筒の前面に形成した環状凹所に嵌め込まれており、かつ、前記ストッパーで両表示部を押さえ保持している。
請求項1に記載した錠装置。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2において、前記両表示部とストッパーとは互いに分離した部材として構成されており、前記両表示部には、前記外筒で押さえ保持される外向き張り出し部と、前記外向き張り出し部よりも更に半径方向外側に突出した位置決め突起とが形成されている一方、前記外筒に、前記両表示部の位置決め突起が嵌まる位置決め凹所が前記環状凹所に連通した状態で形成されており、更に、前記ストッパーには、前記両表示部の張り出し部よりも半径方向外側に突出して支持片が複数個形成されており、前記保持片を前記外筒にかしめ固定している。
【0012】
本願発明は、請求項4に記載したように、内筒を外筒に交換可能できる錠装置も含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によると、内筒の前端に設けたフランジ部に覗き部を形成しているため、請求項4のように内筒を交換できるタイプの錠装置にも支障なく適用できる。また、内筒のフランジ部はストッパーには当接しても表示部には接触しないため、内筒のフランジ部によよって表示部が擦れて美観が損なわれることも確実に防止できる。
【0014】
表示部はストッパーに一体化することも可能であるが、請求項2のように両者を分離した部材で構成してストッパーで表示部を押さえ保持すると、それぞれ加工を簡単に行える利点がある。
【0015】
また、請求項2のように表示部とストッパーとを分離構成した場合において請求項3の構成を採用すると、表示部は位置決め突起が外筒の位置決め凹所に嵌まることで所定姿勢に保持されるため、取り付け作業の手間を抑制できる利点がある。また、ストッパーを外筒にかしめ固定して、このストッパーで表示部を押さえ保持しているため、ストッパー及び表示部とを外筒にしっかりと保持される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】錠装置及びキーの分離斜視図である。
【図2】(A)は錠装置の正面図、(B)は斜視図である。
【図3】(A)は図2(A)のA−A視断面図、(B)は図2(A)のB−B視断面図、(C)は図2(A)のC−C視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1).錠装置の基本構成
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、錠装置の基本構成を説明する。
【0018】
図1に示すように、錠装置は、キー1が嵌まる鍵穴2を有する内筒(シリンダ)3、内筒3が回転自在に嵌まる外筒(錠本体、本体ケース)4、内筒3の後端に相対回転不能に嵌合したロータ5、外筒4の後端にスライド自在に配置した帯板状のデッドボルト6、デッドボルト6を後ろから覆う蓋板7、を備えている。内筒3の前端には外側に突出したフランジ3aを設けている。他方、内筒3の後端はロータ5に対して抜き差し自在であり、かつ、内筒3とロータ5とは一緒に回転する。なお、外筒4はアルミ等の金属を材料にしたダイキャスト品である。
【0019】
外筒4は概ね小判形に近い形状であり、後端面の4つのコーナー部にリア突起8を突設し、リア突起で囲われた空間にデッドボルト6をスライド自在に配置している。デッドボルト6は蓋板7で離脱不能に保持されており、蓋板7はリア突起8にかしめ固定されている。なお、デッドボルト6は縦向き姿勢と横向き姿勢とに姿勢を変更可能である。
【0020】
ロータ5の後面にはその回転軸心から偏心した状態で駆動ピン9が突設されている一方、デッドボルト6には駆動ピン9が嵌まる長溝10が切り開き形成されている。キー1によって内筒3を180度正逆回転させると、駆動ピン9によってデッドボルト6がその長手方向にスライドし、施錠状態と解錠状態とに切り換わる。
【0021】
内筒3には、軸方向に並んだ多数枚のロックピン11が半径方向にスライド自在に装着されており、各ロックピン11はばね(図示せず)で内筒3の外側に突出するように付勢されている一方、外筒4の内周面には2条の縦溝12が相対向して形成されている。各ロックピン11が内筒3の外周面から突出して一方の縦溝12に嵌まることで施錠状態が保持され、正規のキー1を内筒3に挿入すると各ロックピン11は後退して解錠され、内筒3を回転させることができる。
【0022】
本実施形態は内筒3を交換できるタイプであり、内筒3の後端寄り部位には一対の抜け止めピン13が半径方向にスライド自在に装着されている。抜け止めピン13はロックピン11よりも大きい寸法で内筒3の外周外側に突出しており、抜け止めピン13は外筒4の内周に形成した抜け止め環状溝(図示せず)にスライド自在に嵌まっている。従って、通常の使用状態では、内筒3はキー1で自在に回転させることができる。そして、所定の交換用キー(図示せず)を内筒3に挿入すると、抜け止めピン13は軸心側に後退して抜け止め環状溝との係合が解除され、これによって内筒3を交換できる。
【0023】
(2).表示手段
次に、施錠状態と解錠状態とを目視で確認し得る表示手段を説明する。まず、内筒3のフランジ部には、表示手段を構成する覗き部として円弧状の切欠き14が、おおよそ90度程度の範囲に広がるように形成されている。他方、外筒4の前面には、中空部に連通した段違い状の環状凹所(段落ち部)15が形成されており、この環状凹所15に、表示部の一例として表示リング16と、表示リング16を外側から囲うストッパーリング17とが嵌め込まれている。ストッパーリング17は、ステンレス板のような金属板から成っている。
【0024】
表示リング16は円の一部を切除したC字の形態であり、切除部18が一方の縦溝12の箇所に位置するように設定している。従って、内筒3の交換に際してロックピン9及び抜け止めピン13が表示リング16に当たることはない。すなわち、内筒3の交換は阻害されない。
【0025】
本実施形態の表示リング16は樹脂製であり、半円よりも小さい円弧の2つの表示体16a,16bを接合することで形成されており、2つの表示体16a,16bの色を異ならせる(例えば赤とブルーとに異ならせる)ことにより、一方を施錠表示部で他方を解錠表示部と成している。図では、色の違いは平行斜線の向きの違いで表示している。そして、表示リング16は断面角形になっており、2つの表示体16a,16bの接合部に互いに嵌まり合う凹凸(図示せず)を形成し、強制嵌合によって一体化している。
【0026】
もとより、全体を一体に成形して塗装によって色を異ならせたり、全体を一体成形してテープ片を貼り付けて色を異ならせるなどしてもよい。また、色が異なる2種類の樹脂を原料として二色成形法によって一体成形することも可能である。
【0027】
表示リング16の後端には半径方向外側に突出した薄い外向き張り出し部19を一体に形成している。2つき外向き張り出し部19は切除部18と反対側の部位において縦溝12と同じ溝幅で分断している。従って、表示リング16を構成する表示体16a,16bはそれぞれ外向き張り出し部19を有している。そして、両外向き張り出し部18に細幅の位置決め突起21を半径方向外側に突設し、この位置決め突起21を外筒4に形成した位置決め凹所22に嵌め入れている。
【0028】
敢えて述べるまでもないが、位置決め凹所22は環状凹所15に連通している。また、位置決め突起21及び位置決め凹所22は、2つの縦溝12を結ぶ中心線と直交した中心線の箇所に位置している。従って、外筒4には、円周方向に90度ずつの間隔で縦溝12と位置決め凹所22とが交互に形成されている。
【0029】
ストッパーリング17は切れ目なく続く円筒状部23を有しており、円筒状部23の後端面に、周方向に90度ずつの間隔で4つの支持片24を半径方向外向きに突設している。支持片24は舌状の形態を成しており、円筒状部23の後面よりも後ろ側に突出している。従って、支持片24は円筒状部23から後ろ向きに突出した足片25に折り曲げ形成された状態になっており、表示リング16は4つの支持片24で押さえられている。
【0030】
もとより、足片25を設けずに、円筒状部23の後面を表示リング16の全体に当接させてもよい。また、位置決め突起21の厚さを外向き張り出し部19よりも厚い寸法として、位置決め突起21をストッパーリング17の円筒状部23で押さえることも可能である。
【0031】
外筒4の前面には、縦溝12及び位置決め凹所22から周方向に45度ずつずれた状態で保持溝26が形成されており、ストッパーリング17の支持片24が保持溝26に嵌合している。図3(C)に示すように、支持片24は、外筒4の前面に形成した突部27を保持溝26に向けて倒すように潰すことで、保持溝26にかしめ固定されている。かしめ付けの部分を符号28で示している。。
【0032】
図3(A)(B)に示すように、ストッパーリング17の前面は表示リング16の前面よりも手前に位置している。また、ストッパーリング17の円筒状部23は内筒3のフランジ部3aと正面視で重なるように配置されている。
【0033】
(3).まとめ・その他
ストッパーリング17の前面は表示リング16の前面よりも手前に位置しているため、内筒3のフランジ部3aがストッパーリング17の前面に接触することはあっても、内筒3のフランジ部3aが表示リング16の前面に接触することはない。従って、表示リング16の前面が擦れて美観を損なうことは皆無である。
【0034】
本実施形態のようにストッパーリング17を外筒4にかしめ固定すると、ストッパーリング17及び表示リング16をガタ付きのない状態に保持できて好適である。また、ストッパーリングの円筒状部23を表示リング16の内側に配置することも可能であるが、この場合は、内筒3の挿脱に際して抜け止めピン13が当たらないように逃がし手段を講じる必要がある。これに対して本実施形態のように円筒状部23を表示リング16の外側に配置すると、特段の逃がし手段を講じることなく内筒3を挿脱できる利点がある。
【0035】
ストッパーリング17の取り付け手段としては、図1に一点鎖線で示すように、ストッパーリング17に後ろ向きの係合爪29を設け、係合爪29を外筒4のフロントフランジ4a(又は係合溝)に引っ掛けることも可能である(フロントフランジ4aには係合爪29が嵌まる溝を形成するのが好ましい。)。
【0036】
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば表示部やストッパーの形態は必要に応じて様々に具体化できる。例えば表示部の形態として、外筒の前面に塗料で円弧状の表示を施したり、外筒の前面に円弧状のテープ片を貼り付けたりすることも可能である。筒状のストッパーを外筒に一体成形することも可能である。
【0037】
覗き部は必ずしも外向きにした切欠きとする必要はなく、例えば円弧状のスリットや丸穴等に形成することも可能である。また、表示部としては、色による違いに代えて又はこれに加えて、「ロック」「解除」のような文字を表示することや、模様の違いとして表示することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本願発明はシリンダ錠に適用して有用性を発揮する。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 キー(鍵) 2 鍵穴
3 内筒(シリンダ)
3a フランジ部
4 外筒
6 デッドボルト
11 ロックピン
12 縦溝
13 抜け止めピン
15 環状凹所
16 樹脂製表示リング
16a,16b 表示部を構成する表示体
17 ストッパーの一例としてストッパーリング
19 外向き張り出し部
21 位置決め突起
22 位置決め凹所
23 ストッパーリングの円筒状部
24 支持片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キーで回転操作される内筒とこの内筒が回転自在に嵌まる外筒とを有しており、
前記内筒の前端には半径方向外側に突出したフランジ部が形成されており、このフランジ部のうち周方向の一部に前記外筒の前面に向いて開口した覗き部を設けている一方、
前記外筒の前端部には、施錠表示部と解錠表示部とが、施錠状態では施錠表示部が前記内筒の覗き部から視認されて解錠状態では解錠表示部が前記内筒の覗き部から視認されるように周方向に位置を変えて配置されている、
という構成であって、
前記外筒に、前記内筒におけるフランジ部の背面に当接可能なストッパーを脱落不能に設けている、
錠装置。
【請求項2】
前記施錠表示部と解錠表示部とは円弧状の形態であって互いに色が相違していると共に一体に繋がっている一方、前記ストッパーは金属製であって前記両表示部の外側に位置した円筒状部を有しており、前記ストッパーと両表示部とは、前記外筒の前面に形成した環状凹所に嵌め込まれており、かつ、前記ストッパーで両表示部を押さえ保持している、
請求項1に記載した錠装置。
【請求項3】
前記両表示部とストッパーとは互いに分離した部材として構成されており、前記両表示部には、前記外筒で押さえ保持される外向き張り出し部と、前記外向き張り出し部よりも更に半径方向外側に突出した位置決め突起とが形成されている一方、
前記外筒に、前記両表示部の位置決め突起が嵌まる位置決め凹所が前記環状凹所に連通した状態で形成されており、
更に、前記ストッパーには、前記両表示部の張り出し部よりも半径方向外側に突出して支持片が複数個形成されており、前記保持片を前記外筒にかしめ固定している、
請求項2に記載した錠装置。
【請求項4】
前記内筒を外筒に交換可能である、
請求項1〜3のうちのいずれにかに記載した錠装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122226(P2012−122226A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272651(P2010−272651)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【出願人】(594182627)敷島金属工業株式会社 (3)