錯体クラスターおよび錯体結晶、ならびにこれらを含む誘電率調整剤および導電材
【課題】結晶内に金属が連続的に近接配置されたワイヤ構造を有する錯体結晶を提供する。
【解決手段】本発明に係る錯体結晶は、錯体クラスターから構成され、その錯体クラスタは、ジベンゾイルメタンベース化合物を配位子とする平面型錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタンベース化合物を配位子とする平面型錯体とを有し、それぞれの錯体平面を対向させるように交互に配置され、各錯体の中心金属間距離は4Å以下である。錯体中心の金属は同一であっても異なってもよい。
【解決手段】本発明に係る錯体結晶は、錯体クラスターから構成され、その錯体クラスタは、ジベンゾイルメタンベース化合物を配位子とする平面型錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタンベース化合物を配位子とする平面型錯体とを有し、それぞれの錯体平面を対向させるように交互に配置され、各錯体の中心金属間距離は4Å以下である。錯体中心の金属は同一であっても異なってもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に異方性の導電性領域を有する金属錯体クラスターおよび錯体結晶に関する。本発明は、特に、ジベンゾイルメタン−金属錯体またはその誘導体と、ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−金属錯体またはその誘導体とを含む錯体クラスター、および錯体結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単一または複数の有機分子を回路部品に用いたナノスケール分子素子への期待が高まっている。ここで分子素子とは、分子を機能素子として用いたメモリ、論理回路等の情報処理デバイスを指す。有機分子はナノスケールで極めてよく制御された安定な組織体であるため、分子の電子機能を集積すれば、極限的な高密度・高速・高機能デバイスが実現できる。
【0003】
分子素子を構成する材料の一つとして、分子回路中で電気信号の伝達を担う分子スケールの導線、すなわち分子ワイヤが注目されている。この分子ワイヤを構成しうる材料として、カーボンナノチューブ(例えば、特許文献1参照。)、フラーレンワイヤー(例えば、特許文献2参照。)、導電性高分子(例えば、特許文献3参照。)、金属錯体鎖(例えば、特許文献4参照。)などが挙げられる。これらの分子ワイヤの中には、単なる微小な導電体としての機能に加え、電気的・磁気的な機能を有しているものもある。
【特許文献1】特開2007− 51043号公報
【特許文献2】特開2003− 1600号公報
【特許文献3】特開2004− 58260号公報
【特許文献3】特開2006−225302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした分子ワイヤ材料の中でも、金属錯体鎖は、金属を有機分子内に含むものであり、その金属に起因する特性、たとえば磁気的特性を複合化させることが可能であり、特に高機能なワイヤを形成しうる。
【0005】
しかしながら、上記の特許文献4に記載される金属錯体鎖は、錯体金属間に架橋配位子が配置され、金属同士の相互作用を遮断する構造となっている。このため、金属を含んでいることに起因する特異な機能を十分に引き出すことができない構造となっている。
【0006】
そこで、本発明では、金属同士の相互作用が発生しやすい構造を有する、複数の金属錯体からなる構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下記式(I)と式(II)とで表されるジベンゾイルメタン系金属錯体の錯体平面での会合体を含む構造体は、会合する配位子間の相互作用が強いために、架橋配位子を必要とすることなく直接的積層されることを見出した。このため、この構造体の中心金属は近接して(4Å以下)一次元的に配置され、電子的な相互作用が直接的に発生しうる。
【0008】
上記の知見に基づき得られた本発明は次のとおりである。
(1)式(I)で示される第一の平面錯体と、式(II)で示される第二の平面錯体とを有し、 前記第一の平面錯体と、前記第二の平面錯体とが、それぞれの錯体平面を対向させるように、交互に配置されることを特徴とする錯体クラスター。
【0009】
【化3】
【0010】
【化4】
【0011】
(ただし、M1及びM2は、それぞれ、平面4配位型錯体を形成可能な金属イオン、R1a,R1b,R1c及びR1dは互いに独立して、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基からなる群から選択される1つ、R2a,R2b,R2c及びR2dは互いに独立してフッ素、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基からなる群から選択される1つを示す。)
【0012】
(2)上記(1)に記載される錯体クラスターからなることを特徴とする錯体結晶。
【0013】
(3)前記錯体クラスターを構成する前記第一の平面錯体と前記第二の平面錯体とが、それぞれ単一種類から構成される上記(2)記載の錯体結晶。
【0014】
(4)前記第一の平面錯体の金属M1と前記第二の平面錯体の金属M2とが、同一の金属種である上記(2)または(3)記載の錯体結晶。
【0015】
(5)前記第一の平面錯体の金属M1と前記第二の平面錯体の金属M2とが、異なる金属種である上記(2)または(3)記載の錯体結晶。
【0016】
(6)平面型のジベンゾイルメタン−銅錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、C60H24Cu2F20O8の式に対応する元素分析値を示し、グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.22,13.27,13.75Åに対応するピークを有することを特徴とする錯体結晶。
【0017】
(7)平面型のジベンゾイルメタン−パラジウム錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、C60H24CuPdF20O8の式に対応する元素分析値を示し、グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.21,13.36,13.77Åに対応するピークを有することを特徴とする錯体結晶。
【0018】
(8)平面型のジベンゾイルメタン−白金錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、C60H24CuPtF20O8の式に対応する元素分析値を示し、
グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.18,13.44,13.76Åに対応するピークを有することを特徴とする錯体結晶。
【0019】
(9)上記(1)に記載される錯体クラスターおよび/または上記(2)から(8)に記載される錯体結晶を含む錯体クラスターを含む誘電率調整剤。
【0020】
(10)上記(1)に記載される錯体クラスターおよび/または上記(2)から(8)に記載される錯体結晶を含む錯体クラスターを含む導電材。
【0021】
(11)上記(1)に記載される錯体クラスターおよび/または上記(2)から(8)に記載される錯体結晶を含む錯体クラスターを含み、該錯体クラスターおよび/または錯体結晶を構成する錯体の錯体平面が導電方向に対してほぼ垂直になるように、当該錯体クラスターおよび/または錯体結晶が配置される構造を備える異方性導電材。
【0022】
(12)上記(1)に記載される第一の平面錯体と第二の平面錯体とが、それぞれの錯体平面を対向させるように会合した錯体会合体。
【0023】
(13)上記(1)に記載される第一の平面錯体および第二の平面錯体の一方の錯体が備える二つの錯体平面のそれぞれに、前記第一の平面錯体および第二の平面錯体の他方の錯体の二つが、それぞれの錯体平面を対向させるように会合した錯体会合体。
【発明の効果】
【0024】
上記の第一の平面錯体が有するジベンゾイルメタンをベースとする配位子と、第二の平面錯体が有するビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタンをベースとする配位子とは、強いπ−π相互作用を起こしやすい。このため、第一の平面錯体と第二の平面錯体とを適切な溶媒に溶解させ、その溶液から溶媒を除去するだけで自律的に本発明に係る錯体クラスターが形成される。
【0025】
また、上記の二種類の配位子の強い相互作用に起因して、クラスターを構成する錯体は、隣接する錯体同士が概ね4Å以下で近接し、この状態を安定に維持することができる。このため、各錯体の中心金属も概ね4Å以下に近接した状態で一次元的に配列され、クラスター内に金属が一次元に連結した構造体(以下「金属ワイヤ」という。)が形成される。
【0026】
このクラスターの金属ワイヤは、金属ワイヤ軸方向以外が有機物により被覆された状態となるため、ナノ被覆配線として可能性を有する。また、この錯体クラスターからなる結晶は、金属ワイヤがそれぞれの金属ワイヤ軸を同一方向にするように配置される構造を有する。したがって、錯体クラスターおよび錯体結晶を含む部材は導電材として機能しうる。
【0027】
また、錯体クラスターおよび錯体結晶は、金属ワイヤ軸方向とそれ以外との導電性が大きく異なるので、単なる導電材としてのみならず、金属ワイヤ軸方向に導電異方性を有する。したがって、錯体クラスターおよび錯体結晶を含む部材は異方性導電材としての機能しうる。
【0028】
さらに、クラスターが、その金属ワイヤ軸方向に成分を有する電場におかれると、その電場に応じて金属ワイヤ部分は分極する。したがって、このクラスターを含む部材の誘電率を高めることが可能である。なお、分極の程度はクラスターや結晶の金属ワイヤ軸方向の長さによって制御することが可能である。
【0029】
一つの第一の金属錯体と一つの第二の金属錯体とが会合した会合体、および一方の金属錯体の双方の錯体平面に他方の金属錯体が会合した会合体についても、これらを含ませることで誘電率の制御が可能であり、これらの会合体のサイズは微小であるから、上記の会合体を含む部材はナノサイズの誘電率調整剤として機能しうる。
【0030】
こうした第一の金属錯体および一つの第二の金属錯体におけるそれぞれのフェニル基およびペンタフルオロフェニル基間に働くπ−π結合は容易に発生するため、それぞれの錯体の会合、クラスター化、および結晶化は、第一の金属錯体を含む溶液と第二の金属錯体を含む溶液とを混合させるだけでよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る最良の形態である錯体会合体、錯体クラスターおよび錯体結晶、ならびにこれらを含む誘電率調整剤および導電材について詳細に説明する。
【0032】
1.平面錯体
(1)第一の平面錯体
本実施形態に係る第一の平面錯体は、平面4配位型の構造をとりうる金属イオンを中心として、これにベンゾイルメタンを基本骨格とする化合物が2つ配位している構造を有する。
【0033】
その一般式(I)は次のとおりである。
【0034】
【化5】
【0035】
平面4配位型の構造をとりうる金属イオンM1としては、Ni(II)、Cu(II)、Pd(I)、Ir(I)、Pt(II)、Au(III)などが例示される。
【0036】
ベンゾイルメタンの各フェニル基のR1a,R1b,R1c及びR1dは、互いに独立して、水素原子または任意の置換基である。
【0037】
置換基としては、アルキル基類、アルケニル基類、アルキニル基類、アミノ基類、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ヘテロ環オキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、アシルオキシ基、スルファモイル基類、カルバモイル基類、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルホニル基類、スルフェニル基類、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシル基、メルカプト基、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、シリル基類、ボリル基類、ホスフィノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、R3−C(=O)−N(−R4)−で表わされる基、R5−N(−R6)−C(=O)−で表わされる基などが挙げられる。ここで、R3〜R6は水素原子又は任意の置換基(たとえばアルキル基、アラルキル基、芳香族炭化水素基など)を表す。また、R3〜R6の炭素数は、通常1以上、また、通常10以下、好ましくは6以下である。
【0038】
各置換基について具体例を示す。
【0039】
アルキル基類:好ましくは炭素数1以上で10以下、更に好ましくは炭素数62以下の直鎖又は分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n-プロピル、2-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n−オクチル基などが挙げられる。
【0040】
アルケニル基類:好ましくは、炭素数2以上で10以下、更に好ましくは炭素数6以下のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、1-ブテニル基などが挙げられる。
アルキニル基類:好ましくは炭素数2以上10以下、更に好ましくは炭素数6以下のアルキニル基であり、例えばエチニル、プロパルギル基などが挙げられる。
【0041】
アミノ基類:アミノ基類にはアミノ基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常0以上30以下、好ましくは10以下、より好ましくは7以下である。その具体例としては、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジベンジルアミノ基、チエニルアミノ基、ジチエニルアミノ基、ピリジルアミノ基、ジピリジルアミノ基等が挙げられる。
【0042】
アルコキシカルボニルアミノ基:好ましくは炭素数が2以上10以下、より好ましくは7以下である。その具体例としては、メトキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アリールオキシカルボニルアミノ基:その炭素数は通常7以上20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、フェノキシカルボニル基等が挙げられる。
【0043】
ヘテロ環オキシカルボニルアミノ基:炭素数は、通常2以上21以下、好ましくは5以上15以下、より好ましくは11以下である。その具体例としては、チエニルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0044】
スルホニルアミノ基:炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基、チオフェンスルホニルアミノ基等が挙げられる。
【0045】
アルコキシ基:その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である。その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
【0046】
アリールオキシ基:炭素数は、通常6以上10以下、好ましくは8以下、より好ましくは炭素数6である。その具体例としては、フェノキシ基等が挙げられる。
ヘテロ環オキシ基:炭素数は、通常1以上、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、また、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは5以下である。その具体例としては、チエニルオキシ基、ピリジルオキシ基等が挙げられる。
【0047】
アシル基:炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは10下、より好ましくは8以下である。その具体例としては、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基、テノイル基、ニコチノイル基等が挙げられる。
【0048】
アルコキシカルボニル基:炭素数は、通常2以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0049】
アリールオキシカルボニル基:炭素数は、通常7以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは7である。その具体例としては、フェノキシカルボニル基などが挙げられる。
【0050】
ヘテロ環オキシカルボニル基:炭素数は、通常2以上20以下、好ましくは5以上12以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、チエニルオキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0051】
アシルオキシ基:炭素数は、通常2以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例は、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、テノイルオキシ基、ニコチノイルオキシ基等が挙げられる。
【0052】
スルファモイル基類:スルファモイル基類にはスルファモイル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常0以上20以下、好ましくは6以下である。その具体例は、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基、チエニルスルファモイル基等が挙げられる。
【0053】
カルバモイル基類:カルバモイル基類にはカルバモイル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例は、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基等が挙げられる。
【0054】
アルキルチオ基:炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例は、メチルチオ基、エチルチオ基、n−ブチルチオ基等が挙げられる。
【0055】
アリールチオ基:炭素数は、通常6以上26以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。その具体例は、フェニルチオ等が挙げられる。
ヘテロ環チオ基:炭素数は、通常1以上25以下、好ましくは2以上12以下、より好ましくは5以上7以下である。その具体例は、チエニルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。
【0056】
スルホニル基類:スルホニル基類にはスルホニル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、トシル基、メシル基などが挙げられる。
【0057】
スルフィニル基類:スルフィニル基類にはスルフィニル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等が挙げられる。
【0058】
ウレイド基類:ウレイド基類にはウレイド基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、ウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基等が挙げられる。
【0059】
リン酸アミド基類:リン酸アミド基類にはリン酸アミド基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基等が挙げられる。
【0060】
シリル基類:シリル基類にはシリル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上10以下、好ましくは6以下である。その具体例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0061】
ボリル基類:ボリル基類にはボリル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上10以下、好ましくは6以下である。その具体例としては、ジメシチルボリル基等が挙げられる。
【0062】
ホスフィノ基類:ホスフィノ基類にはホスフィノ基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上10以下、好ましくは6以下である。その具体例としては、ジフェニルホスフィノ基等が挙げられる。
【0063】
芳香族炭化水素基:炭素数は、通常6以上20以下、好ましくは14以下である。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等由来の6員環の単環或いは2〜5縮合環由来の基などが挙げられる。
【0064】
芳香族複素環基:そのヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。また、このとき、炭素数は、通常1以上19以下、好ましくは3以上13以下である。その具体例を挙げると、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環、テトラゾール環、イミダゾピリジン環等の5員環又は6員環の単環或いは2〜4縮合環由来の基が挙げられる。
【0065】
これらの置換基のうちで、錯体の製造のしやすさやクラスター構造の作りやすさの観点から特に好ましいのは、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基である。
【0066】
(2)第二の平面錯体
本実施形態に係る第二の平面錯体は、平面4配位型の構造をとりうる金属イオンを中心として、これにペンタフルオロベンゾイルメタンを基本骨格とする化合物が2つ配位している構造を有する。
【0067】
その一般式(II)は次のとおりである。
【0068】
【化6】
【0069】
上記一般式(II)における金属イオンM2の取り得る種類は、一般式(I)における金属イオンM1と同様である。また、ベンゾイルメタンの各フルオロフェニル基のR2a,R2b,R2c及びR2dの取り得る種類は、互いに独立して、R1a,R1b,R1c及びR1dが取り得る水素または置換基と同等であり、さらにフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が含まれる。
【0070】
したがって、特に好ましい置換基は、フッ素、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基である。
【0071】
2.錯体結晶
(1)構造
本実施形態に係る錯体結晶は、第一の平面錯体と第二の平面錯体とが錯体平面を対向させて交互に配置された部分構造を有する。
【0072】
錯体結晶の一例として、ジベンゾイルメタン−銅錯体およびビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体(一般式(I)、(II)において、M1およびM2がいずれもCu(II)であり、R1a,R1b,R1c及びR1dがいずれも水素原子であって、R2a,R2b,R2c及びR2dがいずれもフッ素原子である場合)の錯体結晶は、緑色の針状結晶であり、この結晶について、Cu−Kα線を用いて回折ビームグラファイトモノクロメータを備えた回折計で粉末X線回折パターンを計測すると、少なくとも格子面間隔7.21,13.36,13.77Åに対応するピークが得られる。
【0073】
また、元素分析の結果はC:52.26質量%、H:1.86質量%、Cu:9.58質量%であり、これは、第一の平面錯体と第二の平面錯体との1:1組成物であるC60H24Cu2F20O8の元素分析の理論値(C:52.22質量%、H:1.75質量%、Cu:9.51質量%)によく対応する。
【0074】
この結果から、第一の平面錯体と第二の平面錯体とは、互いの芳香環を対向させるように積層されて、一次元のカラム構造体を形成していることが導かれる。このとき、隣接する金属の間隔は3.6Å程度であって、銅のファンデルワールス半径(1.4Å)の2倍(直径)の1.3倍程度である。このため、隣接する金属同士は十分に相互作用を行うことが可能である。したがって、本実施形態に係る錯体結晶における中心金属は一次元の金属ワイヤ的な構造をなしている。
【0075】
この錯体結晶について単結晶のX線回折パターンに基づく結晶構造解析結果によると、平面錯体が積層する方向(以下、この方向を「カラム積層方向」または「ワイヤ軸方向」とも記す。)に垂直な方向の格子面間隔は約13.5Åである。また、隣接するカラムでもC−HとFとが相互作用するように配置されており、そのC−HとFとの間隔は約3Åである。この間隔は、カラム内で対向配置されるフェニル基のC−Hとペンタフルオロフェニル基のFとの間隔とほぼ同じである。したがって、隣接するカラム構造体同士は、カラム積層方向で対向配置される錯体と同程度に近接して配置されている。
【0076】
以上より、本実施形態に係る錯体結晶は、π−π相互作用、およびC−HとFとによるファンデルワールス力によって有機分子が3次元的に結合された構造体の中に、一定の方向を向いた金属ワイヤが多数配置された構造を有しているといえる。
【0077】
このような結晶構造は、第一の錯体と第二の錯体との金属が異種であっても得られる。例えば、ジベンゾイルメタン−白金錯体およびビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体(一般式(I)、(II)において、M1がPt(II)、M2がCu(II)であり、R1a、R1b、R1c及びR1dがいずれも水素原子であって、R2a、R2b、R2c及びR2dがいずれもフッ素原子である場合)の錯体結晶は、Cu−Kα線を用いて回折ビームグラファイトモノクロメータを備えた回折計により得た粉末X線回折に基づく格子面間隔が7.18,13.44,13.76Åである。この結果から導かれるワイヤ軸方向に隣接する銅と白金との間隔は3.59Åであり、それぞれのファンデルワールス半径(銅:1.4Å、白金:1.75Å)の和とほぼ同等(約1.1倍)である。
【0078】
したがって、この場合には、銅と白金とは強い相互作用が可能であり、例えば、それぞれの電気陰性度に基づいて電荷が移動して分極している可能性がある。
【0079】
(2)製造方法
上記の錯体結晶は、第一の平面錯体を溶質とする溶液と、第二の平面錯体を溶質とする溶液とを混合させるだけで製造される。溶液の温度は常温(20〜30℃)であれば結晶化は開始され、特に低下させなくともよい。また、結晶化の開始のために溶媒を除去して溶液濃度を高めることも特に必要とはされない。もちろん、公知の手段に基づいて、例えばロータリーエバポレーターなどを用いて、溶液温度を冷却しながら溶媒を除去すれば、より効率的に結晶化が行われる。
【0080】
溶媒は、第一の錯体と第二の錯体とを溶解させることができれば、特に制限されない。例えば、CH2Cl2、CHCl3、CCl4などのハロゲン化アルカン系溶媒、ベンゼン、トルエンなどの芳香族系溶媒、およびこれらの混合物が例示される。
【0081】
各錯体の溶液濃度の下限は、特に制限されないが、0.1mmol/L以上とすれば、室温であっても、2つの溶液の混合を契機として速やかに結晶析出が開始される。好ましくは、1mmol/L以上である。溶液濃度の上限は各錯体の溶媒への溶解度により規定される。なお、ジベンゾイルメタン−銅錯体のジクロロメタンへの溶解度(25℃)は概ね1〜2mg/mL(すなわち2〜4mmol/L)であり、ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体はその10倍以上である。
【0082】
これに対し、錯体結晶の溶解度は、第一の平面錯体と同等または1/10程度であるから、第一の錯体と第二の錯体とを混合するだけで、錯体結晶が生成することになる。
このように、平面錯体に比べて錯体結晶のほうが結晶化しやすいため、濃度バランスを適切に制御すれば、原料の総量を変えても錯体結晶の生成は効率的に進行する。したがって、この錯体結晶の製造はmgスケールから数十gスケールまで必要量に応じて任意に行うことが可能である。
【0083】
さらに、第一の平面錯体と第二の平面錯体とを、高分子ゲル(例えばゼラチン)中に分散するなど各錯体の移動度を制限した状態で混合すれば、錯体結晶の大きさを制御することが可能であり、後述するクラスターや会合体を効率的に製造することも可能である。
【0084】
なお、混合する第一の平面錯体または第二の平面錯体が複数存在する場合であっても、平面錯体の溶解度に基づいて結晶化の対象となる錯体が決定される。このため、少量混入している程度の平面錯体があっても、その混入錯体の溶解度が極端に低くない限り、錯体結晶に取り込まれることはない。したがって、高純度の錯体結晶を容易に得ることが可能である。
【0085】
3.錯体クラスター、会合体
上記の錯体結晶は、基本構造として、次の錯体クラスターおよび錯体会合体を含む。
【0086】
(1)錯体クラスター
「錯体クラスター」とは、第一の錯体と第二の錯体とが、錯体平面を対向させるようにして交互に積層された構造体であり、錯体同士の間隔は概ね4Å以下である。その積層数は4以上であれば特に制限はない。この錯体クラスターのうち一次元状の形状を有するものの複数が分子間力で規則正しく配列されると、錯体結晶となる。
【0087】
錯体クラスターは、その特徴として、金属が一次元に強く相互作用しうる金属ワイヤを有する。また、配位子が金属ワイヤを包み込むように配置されるため、ワイヤ軸方向に垂直な方向への電荷移動は、ワイヤ軸方向の電荷移動に比べて著しく規制されている。さらに、錯体クラスターが一次元状の形状を有している場合には、その金属ワイヤは端部が開放されており、外部からの電荷注入または外部への電荷放出を可能としている。
【0088】
なお、この錯体クラスターは、一次元的な構造以外の構造を有することも可能である。例えば水酸基などの極性を有する置換基が錯体に付与されている場合であって、溶媒をトルエンなどの非極性溶媒とすれば、この極性を有する置換基が相互作用しながら錯体クラスターが形成され、結果的に、この極性置換基が中心に向いたドーナッツ状の構造体が得られる。この場合には、錯体クラスター内の金属ワイヤはリング状になる。
【0089】
金属ワイヤを構成する金属の隣接する金属との相互作用の程度は、その金属種類や、配位子によって変化する。したがって、金属ワイヤの電荷移動特性はこれらによって変動することとなり、異種金属としたり、配位子の電子供与性または電子吸引性を制御することで、所定の導電率を付与したりすることが可能である。さらに、半導体としての特性(n型/p型)を調整しうる可能性もある。
【0090】
(2)二分子会合体
「二分子会合体」とは、第一の錯体と第二の錯体とがそれぞれの錯体平面を対向させるように会合したものである。第一の錯体と第二の錯体とはそれぞれの配位子が異なるため、それぞれのHOMO、LUMOレベルは一般的に異なっている。このため、この会合体は分極構造をなすことが可能である。
【0091】
第一の錯体と第二の錯体との構成金属が同種の場合には、それぞれの錯体のフェニル基に対する置換基に起因して分極の程度が変化する。基本形であるジベンゾイルメタン錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン錯体との場合には、ジベンゾイルメタン錯体側が錯体平面に垂直に負の電気四極子モーメントを、ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン錯体側が同様に正の電気四極子モーメントを有することで分極している。第一の錯体と第二の錯体との構成金属が異種の場合には、中心をなす金属の電気陰性度差が強く影響を及ぼすことになり、会合体内分極が容易に発生する。
【0092】
なお、この二分子会合体は、第一の錯体の希薄溶液と第二の錯体の希薄溶液とを混合することにより得られる。また、それぞれの錯体の配位子が立体障害を引き起こすような置換基を有する場合には、さらなる錯体の会合、すなわちクラスター化が阻害されるため、比較的高濃度であっても二分子会合体を得ることが可能である。さらに、前述のように、会合させるときの溶媒を適切に設定することで、会合体を優先的に製造することも可能である。
【0093】
(2)三分子会合体
「三分子会合体」とは、第一の錯体と第二の錯体との一方の錯体の錯体平面のそれぞれに、他方の錯体が対向するように会合したものである。つまり、一方の錯体が他方の錯体にサンドイッチされた構造を有する。このため、全体としては分極が発生しにくい構造となっている。
【0094】
しかしながら、奇数(三分子)の会合体の特性として第一の錯体と第二の錯体の構成金属が不対電子を有する場合、電子スピンの打ち消し合いが生じた際にもスピンが残ることから強磁性体として磁気挙動を示す可能性がある。
【0095】
第一の平面錯体が中心となるか、第二の平面錯体が中心となるかは、その溶媒の影響を受けるほか、錯体の置換基の影響も強く受ける。例えば、第一の平面錯体のみが立体障害を引き起こすような置換基を有する場合には、第二の平面錯体をサンドイッチするような構造が優先的に形成される。この場合において立体障害の度合いが著しい置換基を選択すれば、第四番目以降の錯体の会合は実質的に行われない。このため錯体クラスターは形成されず、高濃度で三分子会合体を得ることが可能である。
【0096】
4.用途
(1)導電材
前述のように、本実施の形態に係る錯体クラスターまたは錯体結晶は、一定の方向を向いた金属ワイヤが多数配置された構造を有している。このため、この錯体クラスターまたは錯体結晶のワイヤ軸方向の両端に電圧を印加することによって、クラスターまたは結晶内で電荷を通過させることが可能である。したがって、本実施の形態に係る錯体クラスターまたは錯体結晶を含む部材は導電材として機能しうる。
【0097】
なお、この金属ワイヤと配位子との相互作用が強い場合、または、異種金属の交互配置による金属ワイヤである場合には、金属ワイヤを構成する隣接金属同士で局所的な相互作用が発生し、金属ワイヤとして複数の導電性を取り得る状態になる、すなわちバンド構造をなす可能性がある。この場合には光照射によって導電性が変化する(暗電流と光電流との差が大きくなる)ことが予想され、この錯体クラスターまたは錯体結晶を含む部材は光センサや光スイッチとして機能する可能性がある。
【0098】
(2)異方性導電材
本実施の形態に係る錯体クラスターまたは錯体結晶は、結晶内において金属ワイヤが一定の方向を向いており、錯体クラスターまたは錯体結晶を構成する錯体同士はC−HとFとのファンデルワールス力によって結合している。したがって、金属ワイヤのワイヤ軸方向以外の方向への電荷の移動しやすさは、金属ワイヤを伝っての電荷の移動しやすさに比べると格段に低いことが容易に予想される。
【0099】
したがって、この錯体クラスターまたは錯体結晶が一定の方向に配置された構成を備える部材は、そのワイヤ軸方向についての導電性が他の方向への導電性に対して高くなる、異方性導電性を示すと期待される。
【0100】
(3)誘電率調整剤
前述のように、本実施の形態に係る錯体会合体または錯体クラスターは、隣接する金属間の距離はファンデルワールス半径と同等であるから、その内部に金属的なワイヤを有する。したがって、錯体会合体または錯体クラスターは、そのワイヤ軸方向に印加された電場内において、電界の向きに応じて金属ワイヤの両端に電荷が移動し、分極する。
【0101】
このとき、金属ワイヤを構成する金属は多数の電子を有しているため、分極により移動する電荷の電気量は、一般的な有機分子の分極に係る電荷の電気量に比べて格段に大きくなる。また、錯体クラスターのワイヤ軸方向の長さは、錯体の積層数によって決定され、nmサイズからμmサイズ、原理的にはmmサイズまで可能である。このため、錯体クラスターの分極によって発生する電気双極子モーメントは、電気量×電荷間距離であるから、通常の有機分子が作り出しうる数値よりもはるかに大きな数値となりうる。
【0102】
したがって、本実施の形態に係る錯体結晶、錯体クラスターおよび錯体会合体のいずれかを含む部材を、本来誘電率の低い材料、例えば有機樹脂に分散させると、その有機組成物の誘電率を高めることが実現される。
【0103】
この高誘電率有機材料は多分野にわたって望まれている材料であって、きわめて有用である。例えば、有機半導体の分野では有機トランジスタのゲート絶縁膜を構成する有機材料の誘電率を高めて静電容量を大きくすることが検討されている。また、フィルムコンデンサの分野では静電容量を高めるべく、高誘電率を有する有機組成物が恒常的に求められている。さらに、高密度パッケージの分野ではキャパシタ内蔵基板向けの層間絶縁材料として高誘電率材料が求められている。
【0104】
このように高誘電率有機材料へのニーズは高いが、もともと有機材料の誘電率は比較的低いため、チタン酸バリウムなどの高誘電率無機物を分散させることが検討されてきている。しかしながら、有機物内に無機物を分散させると良好な分散性を得ることが容易でなく、均一な特性を得ることができていない。本実施の形態に係る錯体結晶、錯体クラスターおよび錯体会合体のいずれかを含む部材は有機物の構造体の内部に金属ワイヤが分散した構造を有するため、有機材料への分散性が高く、優れた誘電率制御剤として機能しうる。
【実施例】
【0105】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0106】
1.実施例1 第一の平面錯体の調製
ジベンゾイルメタン−銅錯体(1A)、ジベンゾイルメタン−パラジウム錯体(1B)、およびジベンゾイルメタン−白金錯体(1C)を構成するジベンゾイルメタンは市販品(和光純薬工業株式会社製)を、構成金属の銅、パラジウム、白金イオンはいずれも市販品の塩化銅二水和物(和光純薬工業株式会社製)、塩化パラジウム(田中貴金属工業株式会社製)、四塩化白金酸カリウム(田中貴金属工業株式会社製)をもちいて公知の手段(例えばB.-Q.Ma, S.Gao, Z.-M.Wang, C.-S.Liao, C.-H.Yan, G.-X.Xu, J.Chem.Cryst. 1999,7,793.)に基づいて調製した。
【0107】
1Aおよび1Cの結晶をそれぞれ硫酸バリウムに混合したディスク状試料を用意し、分光光度計(株式会社島津製作所製 自記分光光度計UV3150)を用いて、各平面錯体の紫外−可視吸光スペクトルを測定した。その結果、1Aについては、図1に示すように、276,368nmにピークが得られた。また、1Cについては、図2に示すように、246,356,442,504(sh)nmにピークが得られた。
【0108】
さらに、1Cを硫酸バリウムに混合したディスク状試料について、分光蛍光光度計(日本分光株式会社製 分光蛍光光度系FP?6500)を用いて440nmの照射光に対する発光を測定したところ、540nmをピークとする発光が観測された。
【0109】
2.実施例2 第二の平面錯体の調製
ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体(2A)は下記の論文記載の方法より合成した。
【0110】
R.Filler, Y.S.Rao, A.Biezais, F.N Miller, V.D.Beaucaire, J.Org.Chem., 1970,35,930.
【0111】
材料として用いたビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタンはペンタフルオロベンゾイルクロリド(関東化学社製)5.0gと酢酸ビニル(関東化学社製)1.9gから合成し、1.7g(収率19%)で得た。得られたビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン0.5gと塩化銅二水和物0.1gを混合し、得られたビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体は0.53gであった。したがって、収率は98%であった。
【0112】
2Aについてもその結晶を硫酸バリウムに混合したディスク状試料について、分光光度計を用いて紫外−可視吸光スペクトル測定した。その結果、図3に示すように、251,327nmにピークが得られた。
【0113】
3.実施例3 錯体結晶 その1 1A−2A
(1)結晶の製造
ジクロロメタン(関東化学株式会社製)10mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1Aを20mg(40μmol)加え、攪拌して、緑色透明の均一溶液にした(4mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン2mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2Aを35mg(40μmol)加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(4mmol/L、第二の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第二の液を一度に注入した。緑色透明であった混合液において結晶化が始まり、1時間静置すると混合当初に比べて液色は薄くなり淡緑色の結晶生成が認められた。この結晶を濾過して、真空乾燥させることで、錯体結晶が27mg得られた。したがって、収率は48%であった。
【0114】
(2)元素分析
この結晶を原子吸光分析装置(株式会社島津製作所製 原子吸光光度計AA6400F)により分析したところ、金属イオンとしての銅が9.58質量%含まれていることが確認された。また、元素分析(株式会社パーキンエルマジャパン製 PE2000SeriesII)による炭素含有量は52.26%であり、水素含有量は1.86質量%であった。なお、1Aと2Aとによる1:1混合物(C60H24Cu2F20O8)の元素分析値の理論値は、C:52.22質量%、H:1.75質量%、Cu:9.21質量%である。
【0115】
(3)IR
上記の結晶を微量混合したKBrペレットについて、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製 FT/IR?610)を用いて、赤外吸収スペクトルを測定したところ、1651, 1593,1575,1543,1523,1498,1483,1411,1337,1310,1226,1113,999,727cm−1に顕著なピークが得られた。
【0116】
(4)粉末X線回折
上記の結晶およそ20mgについて、粉末X線回折装置(株式会社リガク製 全自動X線回折装置RINT2000)を用いてX線回折測定を行った。この測定に当たっては、Cu−Kα線を光源とし、回折ビームについてグラファイトモノクロメータにより試料から発生する蛍光X線などを除去して計測した。その結果、図4に示されるように、2θ=6.50,8.50,10.26,13.98,15.80,17.06,19.52にピークを有する回折パターンが得られた。この結果に基づいて解析を行った結果、表1に示されるような結晶パラメータが得られた。
【0117】
【表1】
【0118】
(5)単結晶X線回折
上記の結晶をジクロロメタンに溶解して、ベンゼンを気相拡散して結晶析出させることで単結晶を得た。この単結晶についてX線回折装置(株式会社リガク製 CCD単結晶自動X線構造解析装置Saturn724)を用いてX線回折測定を行った。この測定に当たっては、Cu−Kα線を光源とし、回折ビームについてグラファイトモノクロメータにより試料から発生する蛍光X線などを除去して計測した。得られた結晶データの解析を行った結果、表1に示されるような結晶パラメータが得られた。
【0119】
さらに、結晶構造解析を行い、次の結果が得られた(図5参照。)。
1A、2A双方について、中心金属(Cu)まわりの幾何的配置は本質的に平面的であった。1A部分については、2つのCu−O間距離(図5中、Cu1−O1、およびCu1−O2)は1.9078(10)Åおよび1.9148(10)Åであり、Cuに結合するOとCとの距離(図5中、O1−C7、およびO2−C9)は1.2817(17)Åおよび1.2769(17)Åであった。
【0120】
一方、2A部分については、2つのCu−O間距離(図5中、Cu2−O3、およびCu2−O4)は1.9032(10)Åおよび1.9095(10)Åであり、Cuに結合するOとCとの距離(図5中、O3−C22、およびO4−C24)は1.2724(16)Åおよび1.2709(17)Åであった。
【0121】
また、1A部分、2A部分の双方について、配位子のジケトン部と中心金属とが作る平面に対して、二つのフェニル基および二つのペンタフルオロフェニル基はねじれており、そのねじれ角は、1A部分ではC5−C6−C7−C8で28.0(2)°、C8−C9−C10−C15で35.1(2)°であり、2A部分ではC20−C21−C22−C23で38.0(2)°、C23−C24−C25−C30で45.5(2)°であった。
【0122】
このねじれ角は、1Aおよび2Aの単体の結晶でのねじれ角と大きく異なっている(1A:0.6〜10.5°、2A:60.4〜61.0°)。この結果から、双方の錯体のフェニル基およびペンタフルオロフェニル基は、相互作用しやすいようにお互いの位置を変化させて当接したことが確認された。
【0123】
二つの銅金属間(Cu1−Cu2)の距離は3.612Åであって、フェニル基とペンタフルオロフェニル基との距離は、それぞれ、3.610Å(C1−C2−C3−C4−C5−C6とC16−C17−C18−C19−C20−C21との間)、3.618Å(C10−C11−C12−C13−C14−C15とC25−C26−C27−C28−C29−C30との間)であった。また、1A部分の水素と2A部分のフッ素との間隔(H1・・・F6)の最小値は2.42Åであり、これはそれぞれの原子のファンデルワールス半径の和(1.2Å+1.47Å=2.67Å)よりも小さい。
【0124】
なお、解析結果を図10〜25に示した。図10および11は結合距離の結果であり、図12〜14は結合角の結果、図15〜17はねじれ角の結果、図18〜25は結合を介さない原子間距離の結果である。
【0125】
(6)融点測定
上記の結晶の融点は284℃であり、これは1Aの融点(321℃)、2Aの融点(216℃)とも相違する温度であった。
【0126】
(7)溶解度
上記の結晶のジクロロメタンに対する溶解度(20℃)は、およそ2mg/mlであった。
【0127】
(8)UV−Vis.
上記の結晶を硫酸バリウムに混合したディスク状試料について、分光光度計を用いて紫外−可視吸光特性を測定したところ、図6に示すように、264,330nmにピークが認められ、長波長側のピークのほうが吸収が大きく、2Aに近いスペクトルが得られた。
【0128】
4.実施例4 錯体結晶 その2 1B−2A
(1)結晶の製造
ジクロロメタン(関東化学社製)12mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1B11mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(1.7mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン8mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A17.5mg(20μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(2.5mmol/L、第二の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第二の液を一度に注入した。すぐに混合液内で結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は薄くなり白緑色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させることで、錯体結晶が18mg得られた。したがって、収率は62%であった。
【0129】
(2)元素分析
この結晶を原子吸光分析装置により分析したところ、金属イオンとしての銅が4.7質量%含まれていることが確認された。また、元素分析による炭素含有量は50.70%であり、水素含有量は1.75質量%であった。なお、1Bと2Aとによる1:1混合物(C60H24CuF20O8Pd)の元素分析値の理論値は、C:50.65質量%、H:1.70質量%、Cu:4.5質量%である。
【0130】
(3)IR
上記の結晶微量を混合したKBrペレットについて赤外吸収スペクトルを測定したところ、1651,1575,1522,1501,1479,1411,1337,1310,1227,1114,1000,726cm−1に顕著なピークが得られた。
【0131】
(4)粉末X線回折
上記の結晶20mgについて、粉末X線回折装置を用いてX線回折測定を行った。この測定に当たっては、Cu−Kα線を光源とし、回折ビームについてグラファイトモノクロメータにより試料から発生する蛍光X線などを除去して計測した。その結果、図7に示すように、2θ=6.54,8.48,10.26,13.90,15.82,16.96,19.56にピークを有する回折パターンが得られた。この結果に基づいて解析を行った結果、表1に示されるような結晶パラメータが得られた。
【0132】
(5)融点測定
上記の結晶の融点は290℃であり、これは1Bの融点(270℃)、2Aの融点(216℃)とも相違する温度であった。
【0133】
(6)溶解度
上記の結晶のジクロロメタンに対する溶解度(20℃)は、およそ0.2mg/mlであった。
【0134】
5.実施例5 錯体結晶 その3 1C−2A
(1)結晶の製造
ジクロロメタン(関東化学社製)5mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1C6.4mg(10μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン5mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A8.7mg(10μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(1mmol/L、第二の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第二の液を一度に注入した。すぐに混合液内で結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は薄くなり光沢のある淡黄色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させることで、錯体結晶が13mg得られた。したがって、収率は84%であった。
【0135】
(2)元素分析
この結晶を原子吸光分析装置により分析したところ、金属イオンとしての銅が4.5質量%含まれていることが確認された。また、元素分析による炭素含有量は47.62%であり、水素含有量は1.64質量%であった。なお、1Cと2Aとによる1:1混合物(C60H24CuF20O8Pt)の元素分析値の理論値は、C:47.68質量%、H:1.60質量%、Cu:4.2質量%である。
【0136】
(3)IR
上記の結晶微量を混合したKBrペレットについて赤外吸収スペクトルを測定したところ、1651,1576,1540,1520,1501,1483,1411,1336,1227,1114,999,725cm−1に顕著なピークが得られた。
【0137】
(4)粉末X線回折
上記の結晶およそ20mgについて、粉末X線回折装置を用いてX線回折測定を行った。この測定に当たっては、Cu−Kα線を光源とし、回折ビームについてグラファイトモノクロメータにより試料から発生する蛍光X線などを除去して計測した。その結果、図8に示すように、2θ=6.58,8.48,10.28,13.88,15.84,16.92,19.56にピークを有する回折パターンが得られた。この結果に基づいて解析を行った結果、表1に示されるような結晶パラメータが得られた。
【0138】
(5)融点測定
上記の結晶の融点は309℃であり、これは1Cの融点(287℃)、2Aの融点(216℃)とも相違する温度であった。
【0139】
(6)溶解度
上記の結晶のジクロロメタンに対する溶解度(20℃)は、およそ0.1mg/mlであった。
【0140】
(7)UV−Vis.
前述の分光蛍光光度計、および分光光度計によって、上記の結晶を硫酸バリウムに混合したディスク状試料について、結晶状態における蛍光特性と紫外−可視吸光スペクトルとを測定した。その結果、1Cの場合に測定されたような540nmをピークとする発光は測定されなかった。また、紫外−可視吸光スペクトルは、図9に示すように、260(sh),296,350(sh),440(sh),500(sh)nmにピークが得られた。このスペクトルパターンは、1Cおよび2Aのいずれとも異なるパターンであった。
【0141】
6.実施例6 溶液濃度と結晶化との関係の評価
実施例3(1)に記載される製造方法と同様であるが、第一の溶液と第二の溶液の調製に当たって1Aおよび2Aの量を変化させて、次の溶液を用意した。そして、様々な組み合わせで混合し、得られる結晶について元素分析を行った。
【0142】
第一の溶液:20μmol、60μmol
第二の溶液:20μmol、40μmol
【0143】
これらの組み合わせのうち、第一の溶液に含まれる1A量を20μmolとした場合には、第二の溶液に含まれる2A量が20μmolおよび40μmolのいずれの場合も、得られた結晶の元素分析値は1Aと2Aとの1:1混合物に対応した。
【0144】
一方、1A量が60μmol、2A量が20μmolの場合には、得られた結晶について元素分析を行ったところ、その分析値は1Aと2Aとの1:1混合物に対応せず、1Aの方が多く含まれた混合物に対応する結果となった。したがって、1Aの結晶化も進行したことが確認された。
【0145】
この結果より、1A単体の結晶と錯体結晶1A−2Aとは溶解度の差がそれほど大きくないものの、1Aと2Aとを1:1程度にすることで、錯体結晶1A−2Aのみが得られることが確認された。
【0146】
続いて、1B(または1C)および2Aの量を変化させて、次の溶液を用意した。
第一の溶液:10μmol、20μmol、30μmol、40μmol、50μmol
第二の溶液:10μmol、20μmol、30μmol、40μmol、50μmol
【0147】
これらの組み合わせにより得られる混合液について、得られた結晶について元素分析を行ったところ、いずれも1B(または1C)と2Aとの1:1混合物に対応する分析値が得られた。錯体結晶1B−2Aおよび1C−2Aはともに溶解性が低いため、混合比率に依存せずに各平面錯体の1:1の錯体結晶のみを与えることが確認された。
【0148】
7.実施例7 錯体結晶の溶解度と結晶化との関係の評価
(1)1A,1B,2Aの混合による結晶評価
ジクロロメタン(関東化学社製)10mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1A10.2mg(20μmol)を加え、攪拌して、緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A17.4mg(20μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第二の液)。さらに、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1B11.0mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第三の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第三の液を一度に注入して、その後第二の液を注入した。混合してすぐに結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は黄色味が薄くなり白緑色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させた。
【0149】
この結晶を元素分析したところ、1Bと2Aとの1:1混合物に対応する分析値が得られた。したがって、全量錯体結晶1B−2Aであって、錯体結晶1A−2Aは含まれていないことが確認された。
【0150】
(2)1A,1C,2Aの混合による結晶評価
ジクロロメタン10mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1A10.2mg(20μmol)を加え、攪拌して、緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A17.4mg(20μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第二の液)。さらに、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1C12.8mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第三の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第三の液を一度に注入して、その後第二の液を注入した。混合してすぐに結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は黄色味が薄くなり光沢のある黄色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させた。
【0151】
この結晶を元素分析したところ、1Cと2Aとの1:1混合物に対応する分析値が得られた。したがって、全量錯体結晶1C−2Aであって、錯体結晶1A−2Aは含まれていないことが確認された。
【0152】
(3)1B,1C,2Aの混合による結晶評価
しかしながら、溶解度が近い1B,1C,および2Aを混合した場合には明確な選択性は得られなかった。ジクロロメタン(関東化学社製)10mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1B11.0mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A17.4mg(20μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第二の液)。さらに、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1C12.8mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第三の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第三の液を一度に注入して、その後第二の液を注入した。混合してすぐに結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は黄色味が薄くなり光沢のある黄色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させた。
【0153】
この結晶を元素分析したところ、錯体結晶1B−2Aと錯体結晶1C−2Aとがおよそ1:2で混合していることが確認された。このことから、複数の錯体が混合している場合であって、生成しうる複数の錯体結晶の溶解度が近い場合には、それぞれの溶解度の比に応じた比率で複数の錯体結晶が生成されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】ジベンゾイルメタン−銅錯体の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図2】ジベンゾイルメタン−白金錯体の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図3】ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図4】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図5】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の単位格子内の構造を概念的に示した図である。
【図6】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図7】ジベンゾイルメタン−パラジウム錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図8】ジベンゾイルメタン−白金錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図9】ジベンゾイルメタン−白金錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図10】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合距離のデータの一部(その1)である。
【図11】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合距離のデータの一部(その2)である。
【図12】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合角のデータの一部(その1)である。
【図13】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合角のデータの一部(その2)である。
【図14】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合角のデータの一部である。
【図15】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、ねじれ角のデータの一部(その1)である。
【図16】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、ねじれ角のデータの一部(その2)である。
【図17】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、ねじれ角のデータの一部(その3)である。
【図18】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その1)である。
【図19】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その2)である。
【図20】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その3)である。
【図21】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その4)である。
【図22】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その5)である。
【図23】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その6)である。
【図24】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その7)である。
【図25】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その8)である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に異方性の導電性領域を有する金属錯体クラスターおよび錯体結晶に関する。本発明は、特に、ジベンゾイルメタン−金属錯体またはその誘導体と、ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−金属錯体またはその誘導体とを含む錯体クラスター、および錯体結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単一または複数の有機分子を回路部品に用いたナノスケール分子素子への期待が高まっている。ここで分子素子とは、分子を機能素子として用いたメモリ、論理回路等の情報処理デバイスを指す。有機分子はナノスケールで極めてよく制御された安定な組織体であるため、分子の電子機能を集積すれば、極限的な高密度・高速・高機能デバイスが実現できる。
【0003】
分子素子を構成する材料の一つとして、分子回路中で電気信号の伝達を担う分子スケールの導線、すなわち分子ワイヤが注目されている。この分子ワイヤを構成しうる材料として、カーボンナノチューブ(例えば、特許文献1参照。)、フラーレンワイヤー(例えば、特許文献2参照。)、導電性高分子(例えば、特許文献3参照。)、金属錯体鎖(例えば、特許文献4参照。)などが挙げられる。これらの分子ワイヤの中には、単なる微小な導電体としての機能に加え、電気的・磁気的な機能を有しているものもある。
【特許文献1】特開2007− 51043号公報
【特許文献2】特開2003− 1600号公報
【特許文献3】特開2004− 58260号公報
【特許文献3】特開2006−225302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした分子ワイヤ材料の中でも、金属錯体鎖は、金属を有機分子内に含むものであり、その金属に起因する特性、たとえば磁気的特性を複合化させることが可能であり、特に高機能なワイヤを形成しうる。
【0005】
しかしながら、上記の特許文献4に記載される金属錯体鎖は、錯体金属間に架橋配位子が配置され、金属同士の相互作用を遮断する構造となっている。このため、金属を含んでいることに起因する特異な機能を十分に引き出すことができない構造となっている。
【0006】
そこで、本発明では、金属同士の相互作用が発生しやすい構造を有する、複数の金属錯体からなる構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下記式(I)と式(II)とで表されるジベンゾイルメタン系金属錯体の錯体平面での会合体を含む構造体は、会合する配位子間の相互作用が強いために、架橋配位子を必要とすることなく直接的積層されることを見出した。このため、この構造体の中心金属は近接して(4Å以下)一次元的に配置され、電子的な相互作用が直接的に発生しうる。
【0008】
上記の知見に基づき得られた本発明は次のとおりである。
(1)式(I)で示される第一の平面錯体と、式(II)で示される第二の平面錯体とを有し、 前記第一の平面錯体と、前記第二の平面錯体とが、それぞれの錯体平面を対向させるように、交互に配置されることを特徴とする錯体クラスター。
【0009】
【化3】
【0010】
【化4】
【0011】
(ただし、M1及びM2は、それぞれ、平面4配位型錯体を形成可能な金属イオン、R1a,R1b,R1c及びR1dは互いに独立して、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基からなる群から選択される1つ、R2a,R2b,R2c及びR2dは互いに独立してフッ素、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基からなる群から選択される1つを示す。)
【0012】
(2)上記(1)に記載される錯体クラスターからなることを特徴とする錯体結晶。
【0013】
(3)前記錯体クラスターを構成する前記第一の平面錯体と前記第二の平面錯体とが、それぞれ単一種類から構成される上記(2)記載の錯体結晶。
【0014】
(4)前記第一の平面錯体の金属M1と前記第二の平面錯体の金属M2とが、同一の金属種である上記(2)または(3)記載の錯体結晶。
【0015】
(5)前記第一の平面錯体の金属M1と前記第二の平面錯体の金属M2とが、異なる金属種である上記(2)または(3)記載の錯体結晶。
【0016】
(6)平面型のジベンゾイルメタン−銅錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、C60H24Cu2F20O8の式に対応する元素分析値を示し、グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.22,13.27,13.75Åに対応するピークを有することを特徴とする錯体結晶。
【0017】
(7)平面型のジベンゾイルメタン−パラジウム錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、C60H24CuPdF20O8の式に対応する元素分析値を示し、グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.21,13.36,13.77Åに対応するピークを有することを特徴とする錯体結晶。
【0018】
(8)平面型のジベンゾイルメタン−白金錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、C60H24CuPtF20O8の式に対応する元素分析値を示し、
グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.18,13.44,13.76Åに対応するピークを有することを特徴とする錯体結晶。
【0019】
(9)上記(1)に記載される錯体クラスターおよび/または上記(2)から(8)に記載される錯体結晶を含む錯体クラスターを含む誘電率調整剤。
【0020】
(10)上記(1)に記載される錯体クラスターおよび/または上記(2)から(8)に記載される錯体結晶を含む錯体クラスターを含む導電材。
【0021】
(11)上記(1)に記載される錯体クラスターおよび/または上記(2)から(8)に記載される錯体結晶を含む錯体クラスターを含み、該錯体クラスターおよび/または錯体結晶を構成する錯体の錯体平面が導電方向に対してほぼ垂直になるように、当該錯体クラスターおよび/または錯体結晶が配置される構造を備える異方性導電材。
【0022】
(12)上記(1)に記載される第一の平面錯体と第二の平面錯体とが、それぞれの錯体平面を対向させるように会合した錯体会合体。
【0023】
(13)上記(1)に記載される第一の平面錯体および第二の平面錯体の一方の錯体が備える二つの錯体平面のそれぞれに、前記第一の平面錯体および第二の平面錯体の他方の錯体の二つが、それぞれの錯体平面を対向させるように会合した錯体会合体。
【発明の効果】
【0024】
上記の第一の平面錯体が有するジベンゾイルメタンをベースとする配位子と、第二の平面錯体が有するビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタンをベースとする配位子とは、強いπ−π相互作用を起こしやすい。このため、第一の平面錯体と第二の平面錯体とを適切な溶媒に溶解させ、その溶液から溶媒を除去するだけで自律的に本発明に係る錯体クラスターが形成される。
【0025】
また、上記の二種類の配位子の強い相互作用に起因して、クラスターを構成する錯体は、隣接する錯体同士が概ね4Å以下で近接し、この状態を安定に維持することができる。このため、各錯体の中心金属も概ね4Å以下に近接した状態で一次元的に配列され、クラスター内に金属が一次元に連結した構造体(以下「金属ワイヤ」という。)が形成される。
【0026】
このクラスターの金属ワイヤは、金属ワイヤ軸方向以外が有機物により被覆された状態となるため、ナノ被覆配線として可能性を有する。また、この錯体クラスターからなる結晶は、金属ワイヤがそれぞれの金属ワイヤ軸を同一方向にするように配置される構造を有する。したがって、錯体クラスターおよび錯体結晶を含む部材は導電材として機能しうる。
【0027】
また、錯体クラスターおよび錯体結晶は、金属ワイヤ軸方向とそれ以外との導電性が大きく異なるので、単なる導電材としてのみならず、金属ワイヤ軸方向に導電異方性を有する。したがって、錯体クラスターおよび錯体結晶を含む部材は異方性導電材としての機能しうる。
【0028】
さらに、クラスターが、その金属ワイヤ軸方向に成分を有する電場におかれると、その電場に応じて金属ワイヤ部分は分極する。したがって、このクラスターを含む部材の誘電率を高めることが可能である。なお、分極の程度はクラスターや結晶の金属ワイヤ軸方向の長さによって制御することが可能である。
【0029】
一つの第一の金属錯体と一つの第二の金属錯体とが会合した会合体、および一方の金属錯体の双方の錯体平面に他方の金属錯体が会合した会合体についても、これらを含ませることで誘電率の制御が可能であり、これらの会合体のサイズは微小であるから、上記の会合体を含む部材はナノサイズの誘電率調整剤として機能しうる。
【0030】
こうした第一の金属錯体および一つの第二の金属錯体におけるそれぞれのフェニル基およびペンタフルオロフェニル基間に働くπ−π結合は容易に発生するため、それぞれの錯体の会合、クラスター化、および結晶化は、第一の金属錯体を含む溶液と第二の金属錯体を含む溶液とを混合させるだけでよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る最良の形態である錯体会合体、錯体クラスターおよび錯体結晶、ならびにこれらを含む誘電率調整剤および導電材について詳細に説明する。
【0032】
1.平面錯体
(1)第一の平面錯体
本実施形態に係る第一の平面錯体は、平面4配位型の構造をとりうる金属イオンを中心として、これにベンゾイルメタンを基本骨格とする化合物が2つ配位している構造を有する。
【0033】
その一般式(I)は次のとおりである。
【0034】
【化5】
【0035】
平面4配位型の構造をとりうる金属イオンM1としては、Ni(II)、Cu(II)、Pd(I)、Ir(I)、Pt(II)、Au(III)などが例示される。
【0036】
ベンゾイルメタンの各フェニル基のR1a,R1b,R1c及びR1dは、互いに独立して、水素原子または任意の置換基である。
【0037】
置換基としては、アルキル基類、アルケニル基類、アルキニル基類、アミノ基類、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ヘテロ環オキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、アシルオキシ基、スルファモイル基類、カルバモイル基類、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルホニル基類、スルフェニル基類、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシル基、メルカプト基、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、シリル基類、ボリル基類、ホスフィノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、R3−C(=O)−N(−R4)−で表わされる基、R5−N(−R6)−C(=O)−で表わされる基などが挙げられる。ここで、R3〜R6は水素原子又は任意の置換基(たとえばアルキル基、アラルキル基、芳香族炭化水素基など)を表す。また、R3〜R6の炭素数は、通常1以上、また、通常10以下、好ましくは6以下である。
【0038】
各置換基について具体例を示す。
【0039】
アルキル基類:好ましくは炭素数1以上で10以下、更に好ましくは炭素数62以下の直鎖又は分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n-プロピル、2-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n−オクチル基などが挙げられる。
【0040】
アルケニル基類:好ましくは、炭素数2以上で10以下、更に好ましくは炭素数6以下のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、1-ブテニル基などが挙げられる。
アルキニル基類:好ましくは炭素数2以上10以下、更に好ましくは炭素数6以下のアルキニル基であり、例えばエチニル、プロパルギル基などが挙げられる。
【0041】
アミノ基類:アミノ基類にはアミノ基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常0以上30以下、好ましくは10以下、より好ましくは7以下である。その具体例としては、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジベンジルアミノ基、チエニルアミノ基、ジチエニルアミノ基、ピリジルアミノ基、ジピリジルアミノ基等が挙げられる。
【0042】
アルコキシカルボニルアミノ基:好ましくは炭素数が2以上10以下、より好ましくは7以下である。その具体例としては、メトキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アリールオキシカルボニルアミノ基:その炭素数は通常7以上20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、フェノキシカルボニル基等が挙げられる。
【0043】
ヘテロ環オキシカルボニルアミノ基:炭素数は、通常2以上21以下、好ましくは5以上15以下、より好ましくは11以下である。その具体例としては、チエニルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0044】
スルホニルアミノ基:炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基、チオフェンスルホニルアミノ基等が挙げられる。
【0045】
アルコキシ基:その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である。その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
【0046】
アリールオキシ基:炭素数は、通常6以上10以下、好ましくは8以下、より好ましくは炭素数6である。その具体例としては、フェノキシ基等が挙げられる。
ヘテロ環オキシ基:炭素数は、通常1以上、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、また、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは5以下である。その具体例としては、チエニルオキシ基、ピリジルオキシ基等が挙げられる。
【0047】
アシル基:炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは10下、より好ましくは8以下である。その具体例としては、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基、テノイル基、ニコチノイル基等が挙げられる。
【0048】
アルコキシカルボニル基:炭素数は、通常2以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0049】
アリールオキシカルボニル基:炭素数は、通常7以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは7である。その具体例としては、フェノキシカルボニル基などが挙げられる。
【0050】
ヘテロ環オキシカルボニル基:炭素数は、通常2以上20以下、好ましくは5以上12以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、チエニルオキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0051】
アシルオキシ基:炭素数は、通常2以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例は、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、テノイルオキシ基、ニコチノイルオキシ基等が挙げられる。
【0052】
スルファモイル基類:スルファモイル基類にはスルファモイル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常0以上20以下、好ましくは6以下である。その具体例は、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基、チエニルスルファモイル基等が挙げられる。
【0053】
カルバモイル基類:カルバモイル基類にはカルバモイル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例は、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基等が挙げられる。
【0054】
アルキルチオ基:炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例は、メチルチオ基、エチルチオ基、n−ブチルチオ基等が挙げられる。
【0055】
アリールチオ基:炭素数は、通常6以上26以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。その具体例は、フェニルチオ等が挙げられる。
ヘテロ環チオ基:炭素数は、通常1以上25以下、好ましくは2以上12以下、より好ましくは5以上7以下である。その具体例は、チエニルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。
【0056】
スルホニル基類:スルホニル基類にはスルホニル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、トシル基、メシル基などが挙げられる。
【0057】
スルフィニル基類:スルフィニル基類にはスルフィニル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等が挙げられる。
【0058】
ウレイド基類:ウレイド基類にはウレイド基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、ウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基等が挙げられる。
【0059】
リン酸アミド基類:リン酸アミド基類にはリン酸アミド基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上20以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基等が挙げられる。
【0060】
シリル基類:シリル基類にはシリル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上10以下、好ましくは6以下である。その具体例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0061】
ボリル基類:ボリル基類にはボリル基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上10以下、好ましくは6以下である。その具体例としては、ジメシチルボリル基等が挙げられる。
【0062】
ホスフィノ基類:ホスフィノ基類にはホスフィノ基にアルキル基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上10以下、好ましくは6以下である。その具体例としては、ジフェニルホスフィノ基等が挙げられる。
【0063】
芳香族炭化水素基:炭素数は、通常6以上20以下、好ましくは14以下である。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等由来の6員環の単環或いは2〜5縮合環由来の基などが挙げられる。
【0064】
芳香族複素環基:そのヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。また、このとき、炭素数は、通常1以上19以下、好ましくは3以上13以下である。その具体例を挙げると、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環、テトラゾール環、イミダゾピリジン環等の5員環又は6員環の単環或いは2〜4縮合環由来の基が挙げられる。
【0065】
これらの置換基のうちで、錯体の製造のしやすさやクラスター構造の作りやすさの観点から特に好ましいのは、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基である。
【0066】
(2)第二の平面錯体
本実施形態に係る第二の平面錯体は、平面4配位型の構造をとりうる金属イオンを中心として、これにペンタフルオロベンゾイルメタンを基本骨格とする化合物が2つ配位している構造を有する。
【0067】
その一般式(II)は次のとおりである。
【0068】
【化6】
【0069】
上記一般式(II)における金属イオンM2の取り得る種類は、一般式(I)における金属イオンM1と同様である。また、ベンゾイルメタンの各フルオロフェニル基のR2a,R2b,R2c及びR2dの取り得る種類は、互いに独立して、R1a,R1b,R1c及びR1dが取り得る水素または置換基と同等であり、さらにフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が含まれる。
【0070】
したがって、特に好ましい置換基は、フッ素、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基である。
【0071】
2.錯体結晶
(1)構造
本実施形態に係る錯体結晶は、第一の平面錯体と第二の平面錯体とが錯体平面を対向させて交互に配置された部分構造を有する。
【0072】
錯体結晶の一例として、ジベンゾイルメタン−銅錯体およびビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体(一般式(I)、(II)において、M1およびM2がいずれもCu(II)であり、R1a,R1b,R1c及びR1dがいずれも水素原子であって、R2a,R2b,R2c及びR2dがいずれもフッ素原子である場合)の錯体結晶は、緑色の針状結晶であり、この結晶について、Cu−Kα線を用いて回折ビームグラファイトモノクロメータを備えた回折計で粉末X線回折パターンを計測すると、少なくとも格子面間隔7.21,13.36,13.77Åに対応するピークが得られる。
【0073】
また、元素分析の結果はC:52.26質量%、H:1.86質量%、Cu:9.58質量%であり、これは、第一の平面錯体と第二の平面錯体との1:1組成物であるC60H24Cu2F20O8の元素分析の理論値(C:52.22質量%、H:1.75質量%、Cu:9.51質量%)によく対応する。
【0074】
この結果から、第一の平面錯体と第二の平面錯体とは、互いの芳香環を対向させるように積層されて、一次元のカラム構造体を形成していることが導かれる。このとき、隣接する金属の間隔は3.6Å程度であって、銅のファンデルワールス半径(1.4Å)の2倍(直径)の1.3倍程度である。このため、隣接する金属同士は十分に相互作用を行うことが可能である。したがって、本実施形態に係る錯体結晶における中心金属は一次元の金属ワイヤ的な構造をなしている。
【0075】
この錯体結晶について単結晶のX線回折パターンに基づく結晶構造解析結果によると、平面錯体が積層する方向(以下、この方向を「カラム積層方向」または「ワイヤ軸方向」とも記す。)に垂直な方向の格子面間隔は約13.5Åである。また、隣接するカラムでもC−HとFとが相互作用するように配置されており、そのC−HとFとの間隔は約3Åである。この間隔は、カラム内で対向配置されるフェニル基のC−Hとペンタフルオロフェニル基のFとの間隔とほぼ同じである。したがって、隣接するカラム構造体同士は、カラム積層方向で対向配置される錯体と同程度に近接して配置されている。
【0076】
以上より、本実施形態に係る錯体結晶は、π−π相互作用、およびC−HとFとによるファンデルワールス力によって有機分子が3次元的に結合された構造体の中に、一定の方向を向いた金属ワイヤが多数配置された構造を有しているといえる。
【0077】
このような結晶構造は、第一の錯体と第二の錯体との金属が異種であっても得られる。例えば、ジベンゾイルメタン−白金錯体およびビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体(一般式(I)、(II)において、M1がPt(II)、M2がCu(II)であり、R1a、R1b、R1c及びR1dがいずれも水素原子であって、R2a、R2b、R2c及びR2dがいずれもフッ素原子である場合)の錯体結晶は、Cu−Kα線を用いて回折ビームグラファイトモノクロメータを備えた回折計により得た粉末X線回折に基づく格子面間隔が7.18,13.44,13.76Åである。この結果から導かれるワイヤ軸方向に隣接する銅と白金との間隔は3.59Åであり、それぞれのファンデルワールス半径(銅:1.4Å、白金:1.75Å)の和とほぼ同等(約1.1倍)である。
【0078】
したがって、この場合には、銅と白金とは強い相互作用が可能であり、例えば、それぞれの電気陰性度に基づいて電荷が移動して分極している可能性がある。
【0079】
(2)製造方法
上記の錯体結晶は、第一の平面錯体を溶質とする溶液と、第二の平面錯体を溶質とする溶液とを混合させるだけで製造される。溶液の温度は常温(20〜30℃)であれば結晶化は開始され、特に低下させなくともよい。また、結晶化の開始のために溶媒を除去して溶液濃度を高めることも特に必要とはされない。もちろん、公知の手段に基づいて、例えばロータリーエバポレーターなどを用いて、溶液温度を冷却しながら溶媒を除去すれば、より効率的に結晶化が行われる。
【0080】
溶媒は、第一の錯体と第二の錯体とを溶解させることができれば、特に制限されない。例えば、CH2Cl2、CHCl3、CCl4などのハロゲン化アルカン系溶媒、ベンゼン、トルエンなどの芳香族系溶媒、およびこれらの混合物が例示される。
【0081】
各錯体の溶液濃度の下限は、特に制限されないが、0.1mmol/L以上とすれば、室温であっても、2つの溶液の混合を契機として速やかに結晶析出が開始される。好ましくは、1mmol/L以上である。溶液濃度の上限は各錯体の溶媒への溶解度により規定される。なお、ジベンゾイルメタン−銅錯体のジクロロメタンへの溶解度(25℃)は概ね1〜2mg/mL(すなわち2〜4mmol/L)であり、ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体はその10倍以上である。
【0082】
これに対し、錯体結晶の溶解度は、第一の平面錯体と同等または1/10程度であるから、第一の錯体と第二の錯体とを混合するだけで、錯体結晶が生成することになる。
このように、平面錯体に比べて錯体結晶のほうが結晶化しやすいため、濃度バランスを適切に制御すれば、原料の総量を変えても錯体結晶の生成は効率的に進行する。したがって、この錯体結晶の製造はmgスケールから数十gスケールまで必要量に応じて任意に行うことが可能である。
【0083】
さらに、第一の平面錯体と第二の平面錯体とを、高分子ゲル(例えばゼラチン)中に分散するなど各錯体の移動度を制限した状態で混合すれば、錯体結晶の大きさを制御することが可能であり、後述するクラスターや会合体を効率的に製造することも可能である。
【0084】
なお、混合する第一の平面錯体または第二の平面錯体が複数存在する場合であっても、平面錯体の溶解度に基づいて結晶化の対象となる錯体が決定される。このため、少量混入している程度の平面錯体があっても、その混入錯体の溶解度が極端に低くない限り、錯体結晶に取り込まれることはない。したがって、高純度の錯体結晶を容易に得ることが可能である。
【0085】
3.錯体クラスター、会合体
上記の錯体結晶は、基本構造として、次の錯体クラスターおよび錯体会合体を含む。
【0086】
(1)錯体クラスター
「錯体クラスター」とは、第一の錯体と第二の錯体とが、錯体平面を対向させるようにして交互に積層された構造体であり、錯体同士の間隔は概ね4Å以下である。その積層数は4以上であれば特に制限はない。この錯体クラスターのうち一次元状の形状を有するものの複数が分子間力で規則正しく配列されると、錯体結晶となる。
【0087】
錯体クラスターは、その特徴として、金属が一次元に強く相互作用しうる金属ワイヤを有する。また、配位子が金属ワイヤを包み込むように配置されるため、ワイヤ軸方向に垂直な方向への電荷移動は、ワイヤ軸方向の電荷移動に比べて著しく規制されている。さらに、錯体クラスターが一次元状の形状を有している場合には、その金属ワイヤは端部が開放されており、外部からの電荷注入または外部への電荷放出を可能としている。
【0088】
なお、この錯体クラスターは、一次元的な構造以外の構造を有することも可能である。例えば水酸基などの極性を有する置換基が錯体に付与されている場合であって、溶媒をトルエンなどの非極性溶媒とすれば、この極性を有する置換基が相互作用しながら錯体クラスターが形成され、結果的に、この極性置換基が中心に向いたドーナッツ状の構造体が得られる。この場合には、錯体クラスター内の金属ワイヤはリング状になる。
【0089】
金属ワイヤを構成する金属の隣接する金属との相互作用の程度は、その金属種類や、配位子によって変化する。したがって、金属ワイヤの電荷移動特性はこれらによって変動することとなり、異種金属としたり、配位子の電子供与性または電子吸引性を制御することで、所定の導電率を付与したりすることが可能である。さらに、半導体としての特性(n型/p型)を調整しうる可能性もある。
【0090】
(2)二分子会合体
「二分子会合体」とは、第一の錯体と第二の錯体とがそれぞれの錯体平面を対向させるように会合したものである。第一の錯体と第二の錯体とはそれぞれの配位子が異なるため、それぞれのHOMO、LUMOレベルは一般的に異なっている。このため、この会合体は分極構造をなすことが可能である。
【0091】
第一の錯体と第二の錯体との構成金属が同種の場合には、それぞれの錯体のフェニル基に対する置換基に起因して分極の程度が変化する。基本形であるジベンゾイルメタン錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン錯体との場合には、ジベンゾイルメタン錯体側が錯体平面に垂直に負の電気四極子モーメントを、ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン錯体側が同様に正の電気四極子モーメントを有することで分極している。第一の錯体と第二の錯体との構成金属が異種の場合には、中心をなす金属の電気陰性度差が強く影響を及ぼすことになり、会合体内分極が容易に発生する。
【0092】
なお、この二分子会合体は、第一の錯体の希薄溶液と第二の錯体の希薄溶液とを混合することにより得られる。また、それぞれの錯体の配位子が立体障害を引き起こすような置換基を有する場合には、さらなる錯体の会合、すなわちクラスター化が阻害されるため、比較的高濃度であっても二分子会合体を得ることが可能である。さらに、前述のように、会合させるときの溶媒を適切に設定することで、会合体を優先的に製造することも可能である。
【0093】
(2)三分子会合体
「三分子会合体」とは、第一の錯体と第二の錯体との一方の錯体の錯体平面のそれぞれに、他方の錯体が対向するように会合したものである。つまり、一方の錯体が他方の錯体にサンドイッチされた構造を有する。このため、全体としては分極が発生しにくい構造となっている。
【0094】
しかしながら、奇数(三分子)の会合体の特性として第一の錯体と第二の錯体の構成金属が不対電子を有する場合、電子スピンの打ち消し合いが生じた際にもスピンが残ることから強磁性体として磁気挙動を示す可能性がある。
【0095】
第一の平面錯体が中心となるか、第二の平面錯体が中心となるかは、その溶媒の影響を受けるほか、錯体の置換基の影響も強く受ける。例えば、第一の平面錯体のみが立体障害を引き起こすような置換基を有する場合には、第二の平面錯体をサンドイッチするような構造が優先的に形成される。この場合において立体障害の度合いが著しい置換基を選択すれば、第四番目以降の錯体の会合は実質的に行われない。このため錯体クラスターは形成されず、高濃度で三分子会合体を得ることが可能である。
【0096】
4.用途
(1)導電材
前述のように、本実施の形態に係る錯体クラスターまたは錯体結晶は、一定の方向を向いた金属ワイヤが多数配置された構造を有している。このため、この錯体クラスターまたは錯体結晶のワイヤ軸方向の両端に電圧を印加することによって、クラスターまたは結晶内で電荷を通過させることが可能である。したがって、本実施の形態に係る錯体クラスターまたは錯体結晶を含む部材は導電材として機能しうる。
【0097】
なお、この金属ワイヤと配位子との相互作用が強い場合、または、異種金属の交互配置による金属ワイヤである場合には、金属ワイヤを構成する隣接金属同士で局所的な相互作用が発生し、金属ワイヤとして複数の導電性を取り得る状態になる、すなわちバンド構造をなす可能性がある。この場合には光照射によって導電性が変化する(暗電流と光電流との差が大きくなる)ことが予想され、この錯体クラスターまたは錯体結晶を含む部材は光センサや光スイッチとして機能する可能性がある。
【0098】
(2)異方性導電材
本実施の形態に係る錯体クラスターまたは錯体結晶は、結晶内において金属ワイヤが一定の方向を向いており、錯体クラスターまたは錯体結晶を構成する錯体同士はC−HとFとのファンデルワールス力によって結合している。したがって、金属ワイヤのワイヤ軸方向以外の方向への電荷の移動しやすさは、金属ワイヤを伝っての電荷の移動しやすさに比べると格段に低いことが容易に予想される。
【0099】
したがって、この錯体クラスターまたは錯体結晶が一定の方向に配置された構成を備える部材は、そのワイヤ軸方向についての導電性が他の方向への導電性に対して高くなる、異方性導電性を示すと期待される。
【0100】
(3)誘電率調整剤
前述のように、本実施の形態に係る錯体会合体または錯体クラスターは、隣接する金属間の距離はファンデルワールス半径と同等であるから、その内部に金属的なワイヤを有する。したがって、錯体会合体または錯体クラスターは、そのワイヤ軸方向に印加された電場内において、電界の向きに応じて金属ワイヤの両端に電荷が移動し、分極する。
【0101】
このとき、金属ワイヤを構成する金属は多数の電子を有しているため、分極により移動する電荷の電気量は、一般的な有機分子の分極に係る電荷の電気量に比べて格段に大きくなる。また、錯体クラスターのワイヤ軸方向の長さは、錯体の積層数によって決定され、nmサイズからμmサイズ、原理的にはmmサイズまで可能である。このため、錯体クラスターの分極によって発生する電気双極子モーメントは、電気量×電荷間距離であるから、通常の有機分子が作り出しうる数値よりもはるかに大きな数値となりうる。
【0102】
したがって、本実施の形態に係る錯体結晶、錯体クラスターおよび錯体会合体のいずれかを含む部材を、本来誘電率の低い材料、例えば有機樹脂に分散させると、その有機組成物の誘電率を高めることが実現される。
【0103】
この高誘電率有機材料は多分野にわたって望まれている材料であって、きわめて有用である。例えば、有機半導体の分野では有機トランジスタのゲート絶縁膜を構成する有機材料の誘電率を高めて静電容量を大きくすることが検討されている。また、フィルムコンデンサの分野では静電容量を高めるべく、高誘電率を有する有機組成物が恒常的に求められている。さらに、高密度パッケージの分野ではキャパシタ内蔵基板向けの層間絶縁材料として高誘電率材料が求められている。
【0104】
このように高誘電率有機材料へのニーズは高いが、もともと有機材料の誘電率は比較的低いため、チタン酸バリウムなどの高誘電率無機物を分散させることが検討されてきている。しかしながら、有機物内に無機物を分散させると良好な分散性を得ることが容易でなく、均一な特性を得ることができていない。本実施の形態に係る錯体結晶、錯体クラスターおよび錯体会合体のいずれかを含む部材は有機物の構造体の内部に金属ワイヤが分散した構造を有するため、有機材料への分散性が高く、優れた誘電率制御剤として機能しうる。
【実施例】
【0105】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0106】
1.実施例1 第一の平面錯体の調製
ジベンゾイルメタン−銅錯体(1A)、ジベンゾイルメタン−パラジウム錯体(1B)、およびジベンゾイルメタン−白金錯体(1C)を構成するジベンゾイルメタンは市販品(和光純薬工業株式会社製)を、構成金属の銅、パラジウム、白金イオンはいずれも市販品の塩化銅二水和物(和光純薬工業株式会社製)、塩化パラジウム(田中貴金属工業株式会社製)、四塩化白金酸カリウム(田中貴金属工業株式会社製)をもちいて公知の手段(例えばB.-Q.Ma, S.Gao, Z.-M.Wang, C.-S.Liao, C.-H.Yan, G.-X.Xu, J.Chem.Cryst. 1999,7,793.)に基づいて調製した。
【0107】
1Aおよび1Cの結晶をそれぞれ硫酸バリウムに混合したディスク状試料を用意し、分光光度計(株式会社島津製作所製 自記分光光度計UV3150)を用いて、各平面錯体の紫外−可視吸光スペクトルを測定した。その結果、1Aについては、図1に示すように、276,368nmにピークが得られた。また、1Cについては、図2に示すように、246,356,442,504(sh)nmにピークが得られた。
【0108】
さらに、1Cを硫酸バリウムに混合したディスク状試料について、分光蛍光光度計(日本分光株式会社製 分光蛍光光度系FP?6500)を用いて440nmの照射光に対する発光を測定したところ、540nmをピークとする発光が観測された。
【0109】
2.実施例2 第二の平面錯体の調製
ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体(2A)は下記の論文記載の方法より合成した。
【0110】
R.Filler, Y.S.Rao, A.Biezais, F.N Miller, V.D.Beaucaire, J.Org.Chem., 1970,35,930.
【0111】
材料として用いたビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタンはペンタフルオロベンゾイルクロリド(関東化学社製)5.0gと酢酸ビニル(関東化学社製)1.9gから合成し、1.7g(収率19%)で得た。得られたビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン0.5gと塩化銅二水和物0.1gを混合し、得られたビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体は0.53gであった。したがって、収率は98%であった。
【0112】
2Aについてもその結晶を硫酸バリウムに混合したディスク状試料について、分光光度計を用いて紫外−可視吸光スペクトル測定した。その結果、図3に示すように、251,327nmにピークが得られた。
【0113】
3.実施例3 錯体結晶 その1 1A−2A
(1)結晶の製造
ジクロロメタン(関東化学株式会社製)10mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1Aを20mg(40μmol)加え、攪拌して、緑色透明の均一溶液にした(4mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン2mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2Aを35mg(40μmol)加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(4mmol/L、第二の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第二の液を一度に注入した。緑色透明であった混合液において結晶化が始まり、1時間静置すると混合当初に比べて液色は薄くなり淡緑色の結晶生成が認められた。この結晶を濾過して、真空乾燥させることで、錯体結晶が27mg得られた。したがって、収率は48%であった。
【0114】
(2)元素分析
この結晶を原子吸光分析装置(株式会社島津製作所製 原子吸光光度計AA6400F)により分析したところ、金属イオンとしての銅が9.58質量%含まれていることが確認された。また、元素分析(株式会社パーキンエルマジャパン製 PE2000SeriesII)による炭素含有量は52.26%であり、水素含有量は1.86質量%であった。なお、1Aと2Aとによる1:1混合物(C60H24Cu2F20O8)の元素分析値の理論値は、C:52.22質量%、H:1.75質量%、Cu:9.21質量%である。
【0115】
(3)IR
上記の結晶を微量混合したKBrペレットについて、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製 FT/IR?610)を用いて、赤外吸収スペクトルを測定したところ、1651, 1593,1575,1543,1523,1498,1483,1411,1337,1310,1226,1113,999,727cm−1に顕著なピークが得られた。
【0116】
(4)粉末X線回折
上記の結晶およそ20mgについて、粉末X線回折装置(株式会社リガク製 全自動X線回折装置RINT2000)を用いてX線回折測定を行った。この測定に当たっては、Cu−Kα線を光源とし、回折ビームについてグラファイトモノクロメータにより試料から発生する蛍光X線などを除去して計測した。その結果、図4に示されるように、2θ=6.50,8.50,10.26,13.98,15.80,17.06,19.52にピークを有する回折パターンが得られた。この結果に基づいて解析を行った結果、表1に示されるような結晶パラメータが得られた。
【0117】
【表1】
【0118】
(5)単結晶X線回折
上記の結晶をジクロロメタンに溶解して、ベンゼンを気相拡散して結晶析出させることで単結晶を得た。この単結晶についてX線回折装置(株式会社リガク製 CCD単結晶自動X線構造解析装置Saturn724)を用いてX線回折測定を行った。この測定に当たっては、Cu−Kα線を光源とし、回折ビームについてグラファイトモノクロメータにより試料から発生する蛍光X線などを除去して計測した。得られた結晶データの解析を行った結果、表1に示されるような結晶パラメータが得られた。
【0119】
さらに、結晶構造解析を行い、次の結果が得られた(図5参照。)。
1A、2A双方について、中心金属(Cu)まわりの幾何的配置は本質的に平面的であった。1A部分については、2つのCu−O間距離(図5中、Cu1−O1、およびCu1−O2)は1.9078(10)Åおよび1.9148(10)Åであり、Cuに結合するOとCとの距離(図5中、O1−C7、およびO2−C9)は1.2817(17)Åおよび1.2769(17)Åであった。
【0120】
一方、2A部分については、2つのCu−O間距離(図5中、Cu2−O3、およびCu2−O4)は1.9032(10)Åおよび1.9095(10)Åであり、Cuに結合するOとCとの距離(図5中、O3−C22、およびO4−C24)は1.2724(16)Åおよび1.2709(17)Åであった。
【0121】
また、1A部分、2A部分の双方について、配位子のジケトン部と中心金属とが作る平面に対して、二つのフェニル基および二つのペンタフルオロフェニル基はねじれており、そのねじれ角は、1A部分ではC5−C6−C7−C8で28.0(2)°、C8−C9−C10−C15で35.1(2)°であり、2A部分ではC20−C21−C22−C23で38.0(2)°、C23−C24−C25−C30で45.5(2)°であった。
【0122】
このねじれ角は、1Aおよび2Aの単体の結晶でのねじれ角と大きく異なっている(1A:0.6〜10.5°、2A:60.4〜61.0°)。この結果から、双方の錯体のフェニル基およびペンタフルオロフェニル基は、相互作用しやすいようにお互いの位置を変化させて当接したことが確認された。
【0123】
二つの銅金属間(Cu1−Cu2)の距離は3.612Åであって、フェニル基とペンタフルオロフェニル基との距離は、それぞれ、3.610Å(C1−C2−C3−C4−C5−C6とC16−C17−C18−C19−C20−C21との間)、3.618Å(C10−C11−C12−C13−C14−C15とC25−C26−C27−C28−C29−C30との間)であった。また、1A部分の水素と2A部分のフッ素との間隔(H1・・・F6)の最小値は2.42Åであり、これはそれぞれの原子のファンデルワールス半径の和(1.2Å+1.47Å=2.67Å)よりも小さい。
【0124】
なお、解析結果を図10〜25に示した。図10および11は結合距離の結果であり、図12〜14は結合角の結果、図15〜17はねじれ角の結果、図18〜25は結合を介さない原子間距離の結果である。
【0125】
(6)融点測定
上記の結晶の融点は284℃であり、これは1Aの融点(321℃)、2Aの融点(216℃)とも相違する温度であった。
【0126】
(7)溶解度
上記の結晶のジクロロメタンに対する溶解度(20℃)は、およそ2mg/mlであった。
【0127】
(8)UV−Vis.
上記の結晶を硫酸バリウムに混合したディスク状試料について、分光光度計を用いて紫外−可視吸光特性を測定したところ、図6に示すように、264,330nmにピークが認められ、長波長側のピークのほうが吸収が大きく、2Aに近いスペクトルが得られた。
【0128】
4.実施例4 錯体結晶 その2 1B−2A
(1)結晶の製造
ジクロロメタン(関東化学社製)12mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1B11mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(1.7mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン8mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A17.5mg(20μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(2.5mmol/L、第二の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第二の液を一度に注入した。すぐに混合液内で結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は薄くなり白緑色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させることで、錯体結晶が18mg得られた。したがって、収率は62%であった。
【0129】
(2)元素分析
この結晶を原子吸光分析装置により分析したところ、金属イオンとしての銅が4.7質量%含まれていることが確認された。また、元素分析による炭素含有量は50.70%であり、水素含有量は1.75質量%であった。なお、1Bと2Aとによる1:1混合物(C60H24CuF20O8Pd)の元素分析値の理論値は、C:50.65質量%、H:1.70質量%、Cu:4.5質量%である。
【0130】
(3)IR
上記の結晶微量を混合したKBrペレットについて赤外吸収スペクトルを測定したところ、1651,1575,1522,1501,1479,1411,1337,1310,1227,1114,1000,726cm−1に顕著なピークが得られた。
【0131】
(4)粉末X線回折
上記の結晶20mgについて、粉末X線回折装置を用いてX線回折測定を行った。この測定に当たっては、Cu−Kα線を光源とし、回折ビームについてグラファイトモノクロメータにより試料から発生する蛍光X線などを除去して計測した。その結果、図7に示すように、2θ=6.54,8.48,10.26,13.90,15.82,16.96,19.56にピークを有する回折パターンが得られた。この結果に基づいて解析を行った結果、表1に示されるような結晶パラメータが得られた。
【0132】
(5)融点測定
上記の結晶の融点は290℃であり、これは1Bの融点(270℃)、2Aの融点(216℃)とも相違する温度であった。
【0133】
(6)溶解度
上記の結晶のジクロロメタンに対する溶解度(20℃)は、およそ0.2mg/mlであった。
【0134】
5.実施例5 錯体結晶 その3 1C−2A
(1)結晶の製造
ジクロロメタン(関東化学社製)5mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1C6.4mg(10μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン5mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A8.7mg(10μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(1mmol/L、第二の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第二の液を一度に注入した。すぐに混合液内で結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は薄くなり光沢のある淡黄色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させることで、錯体結晶が13mg得られた。したがって、収率は84%であった。
【0135】
(2)元素分析
この結晶を原子吸光分析装置により分析したところ、金属イオンとしての銅が4.5質量%含まれていることが確認された。また、元素分析による炭素含有量は47.62%であり、水素含有量は1.64質量%であった。なお、1Cと2Aとによる1:1混合物(C60H24CuF20O8Pt)の元素分析値の理論値は、C:47.68質量%、H:1.60質量%、Cu:4.2質量%である。
【0136】
(3)IR
上記の結晶微量を混合したKBrペレットについて赤外吸収スペクトルを測定したところ、1651,1576,1540,1520,1501,1483,1411,1336,1227,1114,999,725cm−1に顕著なピークが得られた。
【0137】
(4)粉末X線回折
上記の結晶およそ20mgについて、粉末X線回折装置を用いてX線回折測定を行った。この測定に当たっては、Cu−Kα線を光源とし、回折ビームについてグラファイトモノクロメータにより試料から発生する蛍光X線などを除去して計測した。その結果、図8に示すように、2θ=6.58,8.48,10.28,13.88,15.84,16.92,19.56にピークを有する回折パターンが得られた。この結果に基づいて解析を行った結果、表1に示されるような結晶パラメータが得られた。
【0138】
(5)融点測定
上記の結晶の融点は309℃であり、これは1Cの融点(287℃)、2Aの融点(216℃)とも相違する温度であった。
【0139】
(6)溶解度
上記の結晶のジクロロメタンに対する溶解度(20℃)は、およそ0.1mg/mlであった。
【0140】
(7)UV−Vis.
前述の分光蛍光光度計、および分光光度計によって、上記の結晶を硫酸バリウムに混合したディスク状試料について、結晶状態における蛍光特性と紫外−可視吸光スペクトルとを測定した。その結果、1Cの場合に測定されたような540nmをピークとする発光は測定されなかった。また、紫外−可視吸光スペクトルは、図9に示すように、260(sh),296,350(sh),440(sh),500(sh)nmにピークが得られた。このスペクトルパターンは、1Cおよび2Aのいずれとも異なるパターンであった。
【0141】
6.実施例6 溶液濃度と結晶化との関係の評価
実施例3(1)に記載される製造方法と同様であるが、第一の溶液と第二の溶液の調製に当たって1Aおよび2Aの量を変化させて、次の溶液を用意した。そして、様々な組み合わせで混合し、得られる結晶について元素分析を行った。
【0142】
第一の溶液:20μmol、60μmol
第二の溶液:20μmol、40μmol
【0143】
これらの組み合わせのうち、第一の溶液に含まれる1A量を20μmolとした場合には、第二の溶液に含まれる2A量が20μmolおよび40μmolのいずれの場合も、得られた結晶の元素分析値は1Aと2Aとの1:1混合物に対応した。
【0144】
一方、1A量が60μmol、2A量が20μmolの場合には、得られた結晶について元素分析を行ったところ、その分析値は1Aと2Aとの1:1混合物に対応せず、1Aの方が多く含まれた混合物に対応する結果となった。したがって、1Aの結晶化も進行したことが確認された。
【0145】
この結果より、1A単体の結晶と錯体結晶1A−2Aとは溶解度の差がそれほど大きくないものの、1Aと2Aとを1:1程度にすることで、錯体結晶1A−2Aのみが得られることが確認された。
【0146】
続いて、1B(または1C)および2Aの量を変化させて、次の溶液を用意した。
第一の溶液:10μmol、20μmol、30μmol、40μmol、50μmol
第二の溶液:10μmol、20μmol、30μmol、40μmol、50μmol
【0147】
これらの組み合わせにより得られる混合液について、得られた結晶について元素分析を行ったところ、いずれも1B(または1C)と2Aとの1:1混合物に対応する分析値が得られた。錯体結晶1B−2Aおよび1C−2Aはともに溶解性が低いため、混合比率に依存せずに各平面錯体の1:1の錯体結晶のみを与えることが確認された。
【0148】
7.実施例7 錯体結晶の溶解度と結晶化との関係の評価
(1)1A,1B,2Aの混合による結晶評価
ジクロロメタン(関東化学社製)10mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1A10.2mg(20μmol)を加え、攪拌して、緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A17.4mg(20μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第二の液)。さらに、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1B11.0mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第三の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第三の液を一度に注入して、その後第二の液を注入した。混合してすぐに結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は黄色味が薄くなり白緑色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させた。
【0149】
この結晶を元素分析したところ、1Bと2Aとの1:1混合物に対応する分析値が得られた。したがって、全量錯体結晶1B−2Aであって、錯体結晶1A−2Aは含まれていないことが確認された。
【0150】
(2)1A,1C,2Aの混合による結晶評価
ジクロロメタン10mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1A10.2mg(20μmol)を加え、攪拌して、緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A17.4mg(20μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第二の液)。さらに、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1C12.8mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第三の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第三の液を一度に注入して、その後第二の液を注入した。混合してすぐに結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は黄色味が薄くなり光沢のある黄色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させた。
【0151】
この結晶を元素分析したところ、1Cと2Aとの1:1混合物に対応する分析値が得られた。したがって、全量錯体結晶1C−2Aであって、錯体結晶1A−2Aは含まれていないことが確認された。
【0152】
(3)1B,1C,2Aの混合による結晶評価
しかしながら、溶解度が近い1B,1C,および2Aを混合した場合には明確な選択性は得られなかった。ジクロロメタン(関東化学社製)10mlが入った50mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1B11.0mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第一の液)。また、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第二の平面錯体2A17.4mg(20μmol)を加え、攪拌して、暗緑色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第二の液)。さらに、ジクロロメタン10mlが入った10mlのフラスコに上記の第一の平面錯体1C12.8mg(20μmol)を加え、攪拌して、黄色透明の均一溶液にした(2mmol/L、第三の液)。続いて、第一の液が入ったフラスコに第三の液を一度に注入して、その後第二の液を注入した。混合してすぐに結晶化が始まり、混合当初に比べて液色は黄色味が薄くなり光沢のある黄色の沈殿結晶が認められた。この沈殿結晶を濾過して、真空乾燥させた。
【0153】
この結晶を元素分析したところ、錯体結晶1B−2Aと錯体結晶1C−2Aとがおよそ1:2で混合していることが確認された。このことから、複数の錯体が混合している場合であって、生成しうる複数の錯体結晶の溶解度が近い場合には、それぞれの溶解度の比に応じた比率で複数の錯体結晶が生成されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】ジベンゾイルメタン−銅錯体の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図2】ジベンゾイルメタン−白金錯体の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図3】ビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図4】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図5】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の単位格子内の構造を概念的に示した図である。
【図6】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図7】ジベンゾイルメタン−パラジウム錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図8】ジベンゾイルメタン−白金錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図9】ジベンゾイルメタン−白金錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での紫外−可視吸光スペクトルを示す図である。
【図10】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合距離のデータの一部(その1)である。
【図11】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合距離のデータの一部(その2)である。
【図12】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合角のデータの一部(その1)である。
【図13】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合角のデータの一部(その2)である。
【図14】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合角のデータの一部である。
【図15】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、ねじれ角のデータの一部(その1)である。
【図16】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、ねじれ角のデータの一部(その2)である。
【図17】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、ねじれ角のデータの一部(その3)である。
【図18】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その1)である。
【図19】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その2)である。
【図20】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その3)である。
【図21】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その4)である。
【図22】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その5)である。
【図23】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その6)である。
【図24】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その7)である。
【図25】ジベンゾイルメタン−銅錯体とビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とによる錯体結晶の固体状態での単結晶X線回折の結果であり、結合を介さない原子間距離のデータの一部(その8)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される第一の平面錯体と、式(II)で示される第二の平面錯体とを有し、
前記第一の平面錯体と、前記第二の平面錯体とが、それぞれの錯体平面を対向させるように、交互に配置される
ことを特徴とする錯体クラスター。
【化1】
【化2】
(ただし、M1及びM2は、それぞれ、平面4配位型錯体を形成可能な金属イオン、R1a,R1b,R1c及びR1dは互いに独立して、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基からなる群から選択される1つ、R2a,R2b,R2c及びR2dは互いに独立してフッ素、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基からなる群から選択される1つを示す。)
【請求項2】
請求項1に記載される錯体クラスターからなることを特徴とする錯体結晶。
【請求項3】
前記錯体クラスターを構成する前記第一の平面錯体と前記第二の平面錯体とが、それぞれ単一種類から構成される請求項2記載の錯体結晶。
【請求項4】
前記第一の平面錯体の金属M1と前記第二の平面錯体の金属M2とが、同一の金属種である請求項2または3記載の錯体結晶。
【請求項5】
前記第一の平面錯体の金属M1と前記第二の平面錯体の金属M2とが、異なる金属種である請求項2または3記載の錯体結晶。
【請求項6】
平面型のジベンゾイルメタン−銅錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、
C60H24Cu2F20O8の式に対応する元素分析値を示し、
グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.22Å,13.27Å,および13.75Åに対応するピークを有する
ことを特徴とする錯体結晶。
【請求項7】
平面型のジベンゾイルメタン−パラジウム錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、
C60H24CuPdF20O8の式に対応する元素分析値を示し、
グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.21Å,13.36Å,および13.77Åに対応するピークを有する
ことを特徴とする錯体結晶。
【請求項8】
平面型のジベンゾイルメタン−白金錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、
C60H24CuPtF20O8の式に対応する元素分析値を示し、
グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.18Å,13.44Å,および13.76Åに対応するピークを有する
ことを特徴とする錯体結晶。
【請求項9】
請求項1に記載される錯体クラスターおよび/または請求項2から8に記載される錯体結晶を含む誘電率調整剤。
【請求項10】
請求項1に記載される錯体クラスターおよび/または請求項2から8に記載される錯体結晶を含む導電材。
【請求項11】
請求項1に記載される錯体クラスターおよび/または請求項2から8に記載される錯体結晶を含み、該錯体クラスターおよび/または錯体結晶を構成する錯体の錯体平面が導電方向に対してほぼ垂直になるように、当該錯体クラスターおよび/または錯体結晶が配置される構造を備える異方性導電材。
【請求項1】
式(I)で示される第一の平面錯体と、式(II)で示される第二の平面錯体とを有し、
前記第一の平面錯体と、前記第二の平面錯体とが、それぞれの錯体平面を対向させるように、交互に配置される
ことを特徴とする錯体クラスター。
【化1】
【化2】
(ただし、M1及びM2は、それぞれ、平面4配位型錯体を形成可能な金属イオン、R1a,R1b,R1c及びR1dは互いに独立して、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基からなる群から選択される1つ、R2a,R2b,R2c及びR2dは互いに独立してフッ素、水素、アミノ基、炭素数10以下の脂肪族、炭素数10以下の芳香族炭化水素置換基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、炭素数1〜3のアシル基、および炭素数1または2のアルキルスルホニル基からなる群から選択される1つを示す。)
【請求項2】
請求項1に記載される錯体クラスターからなることを特徴とする錯体結晶。
【請求項3】
前記錯体クラスターを構成する前記第一の平面錯体と前記第二の平面錯体とが、それぞれ単一種類から構成される請求項2記載の錯体結晶。
【請求項4】
前記第一の平面錯体の金属M1と前記第二の平面錯体の金属M2とが、同一の金属種である請求項2または3記載の錯体結晶。
【請求項5】
前記第一の平面錯体の金属M1と前記第二の平面錯体の金属M2とが、異なる金属種である請求項2または3記載の錯体結晶。
【請求項6】
平面型のジベンゾイルメタン−銅錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、
C60H24Cu2F20O8の式に対応する元素分析値を示し、
グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.22Å,13.27Å,および13.75Åに対応するピークを有する
ことを特徴とする錯体結晶。
【請求項7】
平面型のジベンゾイルメタン−パラジウム錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、
C60H24CuPdF20O8の式に対応する元素分析値を示し、
グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.21Å,13.36Å,および13.77Åに対応するピークを有する
ことを特徴とする錯体結晶。
【請求項8】
平面型のジベンゾイルメタン−白金錯体と平面型のビス(ペンタフルオロベンゾイル)メタン−銅錯体とを有し、
C60H24CuPtF20O8の式に対応する元素分析値を示し、
グラファイトモノクロメータを備えた回折計を用いてCu−Kα線により得た粉末X線回折パターンが、少なくとも格子面間隔7.18Å,13.44Å,および13.76Åに対応するピークを有する
ことを特徴とする錯体結晶。
【請求項9】
請求項1に記載される錯体クラスターおよび/または請求項2から8に記載される錯体結晶を含む誘電率調整剤。
【請求項10】
請求項1に記載される錯体クラスターおよび/または請求項2から8に記載される錯体結晶を含む導電材。
【請求項11】
請求項1に記載される錯体クラスターおよび/または請求項2から8に記載される錯体結晶を含み、該錯体クラスターおよび/または錯体結晶を構成する錯体の錯体平面が導電方向に対してほぼ垂直になるように、当該錯体クラスターおよび/または錯体結晶が配置される構造を備える異方性導電材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
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【図14】
【図15】
【図16】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2009−23918(P2009−23918A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185749(P2007−185749)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】
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