説明

鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具

【目的】 底部材と胴部材を突合わせて溶接する容器の溶接用治具において、溶接を良好に行うことを目的とする。
【構成】 底部材3と胴部材4を突合せ状態で嵌合させる治具11に、突合せ部5,6に対面する保持部12X,13Yの部位に熱伝導率の大きい伝熱部材14を設ける。
【効果】 溶接時における突合せ部5,6の温度分布を均一にでき、良好な溶接を行うことができる。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ホテル、レストラン、割烹料理店等においては、客前に出す鍋は高級感が必要であり、このために独特の光沢を有する銅製の鍋が広く使用されている。ところで近年においては火を使わずに調理を行うことができる電磁調理器が広く普及されているが、前記銅製の鍋は磁性を有しないことから使用することができない。
【0003】
このために、容器の底部を磁性を有する鉄等の底部材により形成し、容器の胴部を銅により形成すると共に前記底部材と胴部材を突合わせて溶接した鍋が考えられる。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
しかしながら、鉄に比較して銅は熱伝導率が大きいために、底部材と胴部材を突合わせて溶接する際には、前記突合せ部分が均一な温度分布とすることができず、この結果良好な溶接を行うことができないという問題がある。
【0005】
そこで、本考案は前記問題を解決して底部材とこれに連設する別体な胴部材を突合わせて溶接する鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具において、前記溶接を良好に行うことができる鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1は、底部材とこれに連設する別体な胴部材を突合わせて溶接する鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具であって、前記底部材と胴部材を突合せ状態で内側に嵌合させる保持部を形成すると共に、前記突合せ部に対面する保持部の部位に熱伝導率の大きい伝熱部材を設けたことを特徴とする鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具である。
【0007】
請求項2は、底部材とこれに連設する別体な胴部材を突合わせて溶接する鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具であって、前記底部材と胴部材を突合せ状態で外側に嵌合させる保持部を形成すると共に、前記突合せ部に対面する保持部の部位に熱伝導率の大きい伝熱部材を設けたことを特徴とする鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具である。
【0008】
請求項3は、前記伝熱部材が銅または銅合金により形成されることを特徴とする請求項1、2記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具である。
【0009】
請求項4は、前記伝熱部材が保持部と同一面に設けられることを特徴とする請求項1、2記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具である。
【0010】
請求項5は、前記伝熱部材は、突合せ部を境として底部材側が長く形成されたことを特徴とする請求項1、2記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具である。
【0011】
【作用】
前記請求項1記載の構成によって、一方の部材では熱伝導率が高いために熱の回りが早いが、他方の部材では熱伝導率が低いために熱の回りが遅い。したがって、その突合せ部では均一な温度分布とならないようになるが、前記突合せ部の熱が伝熱部材により他方の部材側に伝熱されて、前記突合せ部は均一な温度分布となって良好に溶接することができる。
【0012】
前記請求項2記載の構成によって、一方の部材では熱伝導率が高いために熱の回りが早いが、他方の部材では熱伝導率が低いために熱の回りが遅い。したがって、その突合せ部では均一な温度分布とならないようになるが、前記突合せ部側の熱が伝熱部材により底部材側に伝熱されて、前記突合せ部は均一な温度分布となって良好に溶接することができる。
【0013】
前記請求項3記載の構成によって、優れた伝熱性を奏することができる。
【0014】
前記請求項4記載の構成によって、底部材と胴部材を正確にセットすることができる。
【0015】
前記請求項5記載の構成によって、底部材側に確実に伝熱することができる。
【0016】
【実施例】
以下、本考案の第1実施例を図1を参照して説明する。容器たる鍋1は外周に立上り壁2を有する底部材3と、前記立上り壁2に連設される略円筒状の胴部4から構成される。前記底部材3は磁場の中におかれると磁気を帯びる磁性を有する材料、例えば鉄、ステンレス(熱伝導率18kcal/mh℃)等の鋼、またはアルミニュームを鉄、或いは鋼で挟んで重合わせた材料等から形成されている。特にステンレスは耐腐食性に優れ、また前記重合わせた材料は熱伝導性に優れる。また前記胴部材4は前記底部材3の材質より熱伝導率が高い材料、例えば銅(熱伝導率0.94cal/cms℃)、銅合金、或いはアルミニュームなどからなる。特に、胴部4を銅、銅合金とすることにより熱伝導性が良いのみならず、独特の光沢が得られ、高級感を得ることができる。
【0017】
そして、前記立上り壁2の上端に設けられた突合せ部5と前記胴部材4の下端に設けられた突合せ部6は突合わせられると共に溶接されている。
【0018】
前記鍋1を製造するための鉄或いは鋼製の保持用の治具11は、前記鍋1よりやや大きいほぼ相似形をなしており、その底部12の外周から立上り壁13が拡径するように設けられている。そして底部12の上面には底部材3の保持部12Xが形成され、立上り壁13の内面には前記立上り壁2と胴部材4の保持部13Xが形成されている。さらに、前記前記突合せ部5,6に対面して前記立上り壁13の保持部13Xには伝熱部材14が設けられている。この伝熱部材14は熱伝導率の大きい材料、例えば銅、銅合金等からなると共に帯状に設けられており、前記立上り壁13の内側に形成された凹部15に嵌合されると共に、同一面状に形成されている。尚、前記伝熱部材14は立上り壁2側の長さXが胴部材4側の長さYより大きく形成されている。
【0019】
次に前記構成についてその作用を説明する。まず、底部材3と胴部材4をプレスにより形成する。尚、胴部材4はいったん有底のものをプレスで形成し、そして底部を抜いて形成してもよい。次に治具11内に底部材3、胴部材4を保持部12X、保持部13Xにセットする。この際には底部材3は治具11の底部12に嵌合しており、また突合せ部5,6相互が密着するようにし、さらに胴部材4を治具11の立上り壁13に嵌合するようにする。立上り壁2と胴部材4の内外面は夫々同一面状になるように形成されている。
【0020】
次に、仮固定のために前記突合せ部5,6の所々に間隔をおいて溶接用バーナー(図示せず)により点付け溶接する。そして溶接用バーナー21を内側に配設して前記突合せ部5,6の全周を溶接する。この際にはバーナー21の向きを回転するか、或いは治具11を回転させるものである。この溶接時においてはバーナー21による火炎の熱により前記突合せ部5,6が高温となるが、突合せ部5側では熱伝導率が高いために熱の回りが早いが、突合せ部6側では熱伝導率が低いために熱の回りが遅い。したがって、突合せ部5,6では均一な温度分布とならないようになるが、前記突合せ部5側の熱が前記伝熱部材14により前記突合せ部6側に伝熱されて、前記突合せ部5,6は均一な温度分布となって良好に溶接することができる。この結果前記突合せ部5,6には1本の線条の溶接部22が形成されるものである。
【0021】
この後、溶接した鍋1を取出すと共に、溶接部22に金槌を当てて潰したり、また鎚目を形成して前記溶接部22が目立たないようにする。また研磨を施して前記溶接部22が目立たないようにする。この後必要に応じて前記立上り壁2、底部材3、前記胴部材4の内側に錫等の鍍金(図示せず)を施して一層溶接部22が目立たないようにすると共に、美観を向上することができる。
【0022】
以上のように、前記実施例では底部材3とこれに連設する別体な胴部材4を突合わせて溶接する鍋1の溶接用治具を、前記底部材3と胴部材4を突合せ状態で内側に嵌合させる保持部12X,13Xを形成すると共に、前記突合せ部5,6に対面する保持部12X,13Xの部位に熱伝導率の大きい伝熱部材14を設けたことにより、溶接時における突合せ部5,6の温度分布を均一にでき、良好な溶接を行うことができる。
【0023】
さらに、前記伝熱部材14は突合せ部5側の長さXより突合せ部6側の長さYを大きくしたことにより、突合せ部5の熱を突合せ部6側に広く伝熱することができ、確実に溶接時における突合せ部5,6の温度分布を均一にできる。
【0024】
また、前記胴部材4を特に銅または銅合金とすることにより、銅独特の光沢を有してホテル、レストラン、割烹料理店等に最適な高級感を得ることができると共に、底部材3を磁性を有する材質としたことにより、電磁調理器に使用することができる。
【0025】
さらに、伝熱部材14を銅または銅合金とすることにより、優れた伝熱性を奏することができ、また伝熱部材14を保持部12X,13Xと同一面に設けたことにより、底部材12と胴部材13を正確にセットすることができる。
【0026】
次に、本考案の第2実施例を図2を参照して説明する。容器たる鍋1Aは外周に立上り壁2Aを有する底部材3Aと、前記立上り壁2Aに連設される略円筒状の胴部4Aから構成される。前記底部材3Aは例えば鉄、ステンレス(熱伝導率18kcal/mh℃)等の鋼、またはアルミニュームを鉄、或いは鋼で挟んで重合わせた材料等から形成されている。特にステンレスは耐腐食性に優れ、また前記重合わせた材料熱伝導性に優れる。また前記胴部材4Aは前記底部材3Aの材質より熱伝導率が高い材料、例えば銅(熱伝導率0.94cal/cms℃)
、銅合金、或いはアルミニュームなどからなる。特に、胴部4Aを銅、銅合金とすることにより熱伝導性が良いのみならず、独特の光沢が得られ、高級感を得ることができる。
【0027】
そして、前記立上り壁2Aの上端に設けられた突合せ部5Aと前記胴部材4Aの下端に設けられた突合せ部6Aは突合わせられると共に溶接されている。
【0028】
前記鍋1Aを製造するための鉄或いは鋼製の保持用の治具11Aは、前記鍋1Aよりやや小さいほぼ相似形をなしており、底部12Aの外周から立上り壁13Aが拡径するように設けられている。そして底部12Aの上面には底部材3Aの保持部12Yが形成され、立上り壁13Aの内面には前記立上り壁2Aと胴部材4Aの保持部13Yが形成されている。さらに、前記前記突合せ部5A,6Aに対面して前記立上り壁13Aには伝熱部材14Aが設けられている。この伝熱部材14Aは熱伝導率の大きい材料、例えば銅、銅合金等からなると共に帯状に設けられており、前記立上り壁13Aの外側に形成された凹部15Aに嵌合されると共に、同一面状に形成されている。尚、前記伝熱部材14Aは立上り壁2A側の長さXが胴部材4A側の長さYより大きく形成されている。
【0029】
次に前記鍋1Aの製造方法について説明する。まず、底部材3Aと胴部材4Aをプレスにより形成する。尚、胴部材4Aはいったん有底のものをプレスで形成し、そして底部を抜いて形成してもよい。次に治具11Aの外側に底部材3A、胴部材4Aを保持部12Y、保持部13Yにセットする。この際には底部材3Aは治具11Aの底部12Aに嵌合しており、また突合せ部5A,6A相互が密着するようにして胴部材4Aを治具11Aの立上り壁13Aに嵌合するようにする。尚、この嵌合時には底部材3A、胴部材4Aはクランプ等の保持具(図示せず)によって保持されている。
【0030】
次に、仮固定のために前記突合せ部5A,6Aの所々に間隔をおいて溶接用バーナー(図示せず)により点付け溶接する。そして溶接用バーナー21Aを外側に配設して前記突合せ部5A,6Aの全周を溶接する。この際にはバーナー21Aの向きを回転するか、或いは治具11Aを回転させるものである。この溶接時においてはバーナー21Aによる火炎の熱により前記突合せ部5A,6Aが高温となるが、突合せ部5A側では熱伝導率が高いために熱の回りが早いが、突合せ部6A側では熱伝導率が低いために熱の回りが遅い。したがって、前記突合せ部5A側の熱が前記伝熱部材14Aにより前記突合せ部6A側に伝熱されて、前記突合せ部5A,6Aは均一な温度分布となって良好に溶接することができる。この結果前記突合せ部5A,6Aには1本の線条の溶接部22Aが形成されるものである。
【0031】
この後、溶接した鍋1Aを取出すと共に、溶接部22Aに金槌を当てて潰したり、また鎚目を形成して前記溶接部22Aが目立たないようにする。また研磨を施して前記溶接部22Aが目立たないようにする。この後必要に応じて前記立上り壁2A、底部材3A、前記胴部材4Aの内側に錫等の鍍金(図示せず)を施して一層溶接部22Aが目立たないようにすると共に、美観を向上することができる。
【0032】
以上のように、前記実施例では底部材3とこれに連設する別体な胴部材4を突合わせて溶接する鍋1Aの溶接用治具を、前記底部材3Aと胴部材4Aを突合せ状態で内側に嵌合させる保持部12Y,13Yを形成すると共に、前記突合せ部5A,6Aに対面する保持部12Y,13Yの部位に熱伝導率の大きい伝熱部材14Aを設けたことにより、溶接時における突合せ部5A,6Aの温度分布を均一にでき、良好な溶接を行うことができる。しかも、前記実施例では溶接部22Aは鍋1Aの外側に形成されることになるので、金槌による処理、研磨等の処理を簡単に行うことができる。
【0033】
さらに、前記伝熱部材14Aは突合せ部5A側の長さXより突合せ部6A側の長さYを大きくしたことにより、突合せ部5Aの熱を突合せ部6A側に広く伝熱することができ、確実に溶接時における突合せ部5A,6Aの温度分布を均一にできる。
【0034】
また、前記胴部材4Aを銅または銅合金とすることにより、銅独特の光沢を有して高級感を得ることができると共に、底部材3Aを磁性を有する材質としたことにより、電磁調理器に使用することができる。
【0035】
さらに、伝熱部材14Aを銅または銅合金とすることにより、優れた伝熱性を奏することができ、また伝熱部材14Aを保持部12Y,13Yと同一面に設けたことにより、底部材12Aと胴部材13Aを正確にセットすることができる。
【0036】
尚、本考案は前記実施例に限定されるものではなく、例えば湯沸し類等でもよく、また底部のみを磁性を有する材質により形成し、そこから立上がる胴部を底部材より熱伝導率の大きい材質により形成してもよい等種々の変形が可能である。また実施例では溶接手段としてバーナーを示したが、電気溶接手段或いは、レーザー溶接等でもよい
【0037】
【考案の効果】
請求項1記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具は、底部材とこれに連設する別体な胴部材を突合わせて溶接する鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具であって、前記底部材と胴部材を突合せ状態で内側に嵌合させる保持部を形成すると共に、前記突合せ部に対面する保持部の部位に熱伝導率の大きい伝熱部材を設けたことにより、突合せ部の熱が伝熱部材により底部材側に伝熱されて、前記突合せ部は均一な温度分布となって良好に溶接することができる。
【0038】
請求項2記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具は、底部材とこれに連設する別体な胴部材を突合わせて溶接する鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具であって、前記底部材と胴部材を突合せ状態で外側に嵌合させる保持部を形成すると共に、前記突合せ部に対面する保持部の部位に熱伝導率の大きい伝熱部材を設けたことにより、突合せ部の熱が伝熱部材により底部材側に伝熱されて、前記突合せ部は均一な温度分布となって良好に溶接することができると共に、溶接部が外側にあらわれるので、溶接後の研磨等の後処理を簡単に行うことができる。
【0039】
請求項3記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具は、前記伝熱部材を銅または銅合金により形成したことにより、優れた伝熱性を奏することができる。
【0040】
請求項4記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具は、前記伝熱部材を保持部と同一面に設けたことにより、底部材と胴部材を正確にセットすることができる。
【0041】
請求項5記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具は、前記伝熱部材を突合せ部を境として底部材側が長く形成したことにより、底部材側に確実に伝熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の第1実施例を示す断面図である。
【図2】本考案の第2実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 1A 鍋(容器)
3 3A 底部材
4 4A 胴部材
5 5A 6 6A 突合せ部
11 治具
12X 12Y 13X 13Y 保持部
14 伝熱部材

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 底部材とこれに連設する別体な胴部材を突合わせて溶接する鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具であって、前記底部材と胴部材を突合せ状態で内側に嵌合させる保持部を形成すると共に、前記突合せ部に対面する保持部の部位に熱伝導率の大きい伝熱部材を設けたことを特徴とする鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具。
【請求項2】 底部材とこれに連設する別体な胴部材を突合わせて溶接する鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具であって、前記底部材と胴部材を突合せ状態で外側に嵌合させる保持部を形成すると共に、前記突合せ部に対面する保持部の部位に熱伝導率の大きい伝熱部材を設けたことを特徴とする鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具。
【請求項3】 前記伝熱部材が銅または銅合金により形成されることを特徴とする請求項1、2記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具。
【請求項4】 前記伝熱部材が保持部と同一面に設けられることを特徴とする請求項1、2記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具。
【請求項5】 前記伝熱部材は、突合せ部を境として底部材側が長く形成されたことを特徴とする請求項1、2記載の鍋類、湯沸し類等容器の溶接用治具。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate