説明

鍛造アルミニウムAA7000シリーズ合金製品および該製品の製造方法

本発明は、質量%で、Zn7.5〜14.0、Mg1.0〜5.0、Cu<0.28、Fe<0.30、Si<0.25、ならびにZr<0.30、Ti<0.30、Hf<0.30、Mn<0.80、Cr<0.40、V<0.40、およびSc<0.70からなる群から選択された一種以上、各々≦0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムを含んでなり、該製品は、高温割れ感受性が低減され、改善された強度および靱性特性も有し、人工的に時効処理した状態において180HBを超える硬度を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、圧延した、押し出された、または鍛造された製品の形態にある、溶接可能な鍛造アルミニウムAA7000シリーズ合金および該製品の製造方法に関する。本発明はさらに、そのような製品を含んでなる溶接されたコンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の内容から明らかなように、他に指示がない限り、合金の名称および焼戻しの名称は、アルミニウム協会から出版されているAluminum Standards and Data and the Registration Recordsにおけるアルミニウム協会名称による。
【0003】
合金組成または好ましい合金組成の全ての説明に関して、他に指示が無い限り、百分率は全て質量で表示する。
【0004】
アルミニウム協会(「AA」)7000シリーズのアルミニウム合金は、高い強度を有し、航空機用の構造コンポーネントまたは工具用板(tooling plate)のような用途に適している。合金AA7075およびAA7055は、この種の合金の例であり、それらの高い強度および他の望ましい特性のために、航空宇宙用途に広く使用されている。合金AA7055は、Zn7.6〜8.4%、Mg1.8〜2.3%、Cu2.0〜2.6%、Zr0.08〜0.25%、Si0.10%未満、およびFe0.15%未満を含んでなり、残部がアルミニウムと不可避な元素および不純物である。合金AA7075は、Zn5.1〜6.1%、Mg2.1〜2.9%、Cu1.2〜2.0%、Cr0.18〜0.28%、Si0.40%未満、Fe0.50%未満およびMn0.30%未満を含んでなり、残部がアルミニウムと不可避な元素および不純物である。通常100〜150℃の比較的低い時効処理温度で20時間以上の処理により、人工的にその最高強度に時効処理すると、この合金は、一般的にT6焼戻し状態と呼ばれる状態で得られる。しかし、この状態では、合金AA7075および類似の合金は、応力腐食割れ(「SCC」)、剥離腐食(「EXCO」)および粒界腐食(「IGC」)を受け易い。この感受性は、いわゆるT7x熱処理により軽減できるが、著しい強度損失が避けられない。より高い強度は、合金化添加剤(特にZn、MgおよびCu)のレベルを高くすることにより得られるが、この強度増加は、靱性値を低くする。それに加えて、上記合金の銅含有量が高いために、これらの合金は、溶接後の高温割れに敏感になる。工具用板には、修理の可能性を考えて良好な溶接性に加えて、材料が高い硬度値を与えることも非常に重要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、理想的には航空宇宙用途または工具用板向けの、改善された強度および靱性特性、溶接する際の低減された高温割れ感受性、および人工的に時効処理した状態における180HBを超える硬度の組み合わせを有する、AA7000シリーズの鍛造合金製品を提供することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、改善されたIGC耐性、改善された強度特性、溶接する際の低減された高温割れ感受性、および人工的に時効処理した状態における180HBを超える硬度の組み合わせを有する、AA7000シリーズの鍛造合金製品を提供することである。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、良好な溶接性、改善された強度特性、および人工的に時効処理した状態における180HBを超える硬度の組み合わせを有する、AA7000シリーズの鍛造合金製品を提供することである。
【0008】
改善された強度および靱性特性、溶接する際の低減された高温割れ感受性、および人工的に時効処理した状態における180HBを超える硬度の組み合わせを有する、AA7000シリーズの鍛造合金製品、または改善されたIGC耐性、改善された強度特性、溶接する際の低減された高温割れ感受性、および人工的に時効処理した状態における180HBを超える硬度の組み合わせを有する、AA7000シリーズの鍛造合金製品を製造するための、現在公知の、実際に行われている工業的規模の方法より経済的に実施できる方法を提供することも本発明の目的である。
【0009】
これらの目的の一つ以上および他の利点は、鍛造アルミニウムAA7000シリーズ合金製品に関する本発明により達成するか、または超えることができ、該製品は、質量%で
−Zn 7.5〜14.0
−Mg 1.0〜5.0
−Cu ≦0.28
−Fe <0.30
−Si <0.25
−およびZr<0.30、Ti<0.30、Hf<0.30、Mn<0.80、Cr<0.40、V<0.40、およびSc<0.70からなる群から選択された一種以上、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムを含んでなり、AA7050またはAA7075と比較して高温割れ感受性が低減され、強度および靱性特性も改善されており、人工的に時効処理した状態において180HBを超える硬度を有する。
【好ましい実施態様の詳細な説明】
【0010】
本発明は、質量%で、
−Zn 7.5〜14.0、
−Mg 1.0〜5.0、好ましくは2.0〜4.5、
−Cu ≦0.28、
−Fe <0.30、好ましくは<0.14、より好ましくは<0.08、
−Si <0.25、好ましくは<0.12、より好ましくは<0.07、
−および下記元素の一種以上:
−Zr<0.30、好ましくは0.04〜0.15、より好ましくは0.04〜0.13、
−Ti<0.30、好ましくは<0.20、より好ましくは<0.10、
−Hf<0.30、
−Mn<0.80、好ましくは<0.40、
−Cr<0.40、
−V<0.40、好ましくは<0.30、
−Sc<0.70、好ましくは≦0.50
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、鍛造アルミニウムAA7000シリーズ合金製品を提供するが、該製品は、高温割れ感受性が低減され、改善された強度および靱性特性も有し、人工的に時効処理した状態において180HBを超える硬度を有する。好ましくは、硬度は185HBを超え、より好ましくは190HBを超える。最良の例では、210HBを超える硬度が時効硬化された状態で得られている。この説明に関して、硬度の測定を報告または記載する場合、当業者には明らかなように、これらは中央部分の厚さで測定しているが、これは、この部分が鍛造製品の最も急冷に敏感な場所を代表するためである。
【0011】
高温割れ感受性を下げることにより、材料の溶接性は大きく改善される。鉄およびケイ素含有量は、好ましくは低く抑える、例えば約0.08%を超えないFeおよび/または約0.07%以下のSiに維持すべきである。いずれの場合も、両不純物の僅かに高いレベル、Fe約0.14%まで、および/またはSi約0.12%まで、が許容されるが、あまり好ましいことではない。特に、型板または工具用板の実施態様には、Fe0.3%まで、およびSi0.25%以下までが許容される。
【0012】
合金のZn含有量をMg含有量と共に増加し、Cu含有量を低く抑えることにより、AA7055基準材料以上の靱性レベル、およびかなりの程度、合金の銅含有量が低いためであると考えられる良好な溶接性を維持しながら、非常に高い強度を得ることができる。この合金は、人工的に時効処理した状態、例えばT6またはT7型の焼戻しにおいても、高い硬度を与えるが、T6条件におけるA7075基準材料と比較して溶接性が改善されており、これは、合金の銅含有量が低いためであると考えられる。人工的に時効処理した材料は、例えばT6、T74、T76、T751、T7451、T7651、T77またはT79焼戻しでよい。
【0013】
分散質形成元素Zr、Sc、Hf、V、CrおよびMnのそれぞれを添加し、結晶粒構造および急冷感度を制御することができる。分散質形成剤の最適レベルは、処理によって異なるが、主要元素(Zn、CuおよびMg)の単一の化学成分を好ましい寛容度内に選定し、その化学成分を関連する全ての製品形態に使用すると、Zrレベルは好ましくは0.13%未満になる。
【0014】
Zrに好ましい最大値は0.15%である。Zrレベルの好適な範囲は0.04〜0.15%である。Zr添加に、より好ましい上限は0.13%である。Zrは、本発明の合金製品に好ましい合金化元素である。
【0015】
Scの添加は、好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.18%以下である。Scと組み合わせる場合、特にZrとScの比が0.7〜1.4%である場合、Sc+Zrの合計は0.3%未満、好ましくは0.2%未満、より好ましくは最大0.17%にすべきである。
【0016】
単独で、または他の分散質形成剤と共に添加できるもう一つの分散質形成剤はCrである。Crのレベルは、好ましくは0.3%未満、より好ましくは最大で0.20%、さらに好ましくは0.15%である。Crの好ましい下限は0.04%であろう。Cr単独ではZr単独ほど効果的ではないが、少なくとも合金鍛造製品の工具用板における使用には、類似の硬度結果が得られる。Zrと組み合わせる場合、Zr+Crの合計は、0.20%を超えるべきではなく、好ましくは0.17%以下である。
【0017】
Sc+Zr+Crの好ましい合計は、0.4%を超えるべきではなく、より好ましくは0.27%以下である。
【0018】
Mnは、単一の分散質形成剤として、または他の分散質形成剤の一種との組合せで添加することができる。Mn添加の最大値は0.80%である。Mn添加の好適な範囲は、0.05〜0.40%、好ましくは0.05〜0.30%、さらに好ましくは0.12〜0.30%である。Mn添加に好ましい下限は0.12%であり、より好ましくは0.15%である。Zrと組み合わせる場合、MnとZrの合計は、0.4%未満、好ましくは0.32%未満であり、好適な最小値は0.12%である。
【0019】
本発明のアルミニウム合金鍛造製品の別の実施態様では、該合金はMnを含まないが、これは、実用的な言い方では、Mn含有量が<0.02%、好ましくは<0.01%、より好ましくは合金がMnを実質的に、または本質的に含まないことを意味する。「本質的に含まない」および「実質的に含まない」とは、この合金化元素を組成物に、ある目的のために添加したのではなく、不純物および/または製造装置との接触による浸出のために、痕跡量の元素が最終的な合金製品の中に混入し得ることを意味する。
【0020】
本発明のアルミニウム合金鍛造製品の好ましい実施態様では、合金にはVを意図的に添加せず、存在するにしても、0.05%未満の通常の不純物レベルで存在するだけである。
【0021】
銅含有量は、合金の高温割れ感受性に、したがって、合金の溶接性にもかなりの影響を及ぼす。溶接性は、銅含有量0.28%または0.25%未満で、さらに改善されることが分かった。0.25%未満、あるいはさらに0.20%未満の銅含有量で、非常に良い溶接性が得られた。Cu含有量に関する好ましい最小添加量は0.03%、より好ましくは0.08%である。本発明の合金製品を工具用板に使用する場合、溶接特性は、工具用板を修理する作業の際に特に重要になる。
【0022】
本発明の一実施態様では、Zn含有量は7.5〜14.0%の範囲内であり、好ましくはZnの量は、下限が8.5%、9.0%または9.5%で、上限が12.0%、11.0%または10.0%の範囲内にあり、特に航空宇宙用途に使用するには、例えばZnは好ましくは8.5〜11.0%の範囲内であり、より好ましくはZnは8.5〜10.0%の範囲内である。これに対して、工具用板の用途には、Zn含有量の上限は14.0%、好ましくは12.0%、より好ましくは11.0%である。
【0023】
Zn含有量を最大12.0%、11.0%またはさらに10.0%に制限することにより、耐食性および特にEXCOが高レベルに維持され、これは、本発明の合金製品の航空宇宙用途に特に重要である。
【0024】
本発明の一実施態様では、Mg含有量が1.0〜5.0%または2.5〜5.0%である。好ましい上限は4.5%である。本発明の合金製品が工具用板として使用される場合、Mg含有量のより好ましい上限は4.0%である。
【0025】
Mgの添加により、合金の強度が著しく増加する。好ましくないMg析出物、例えばIGCおよびSSCに対する好ましくない感受性を生じることがあるMgAlまたはMgAl、の形成を回避するために、最大含有量5.0%を使用する。
【0026】
本発明の一実施態様では、合金中のMg量は、少なくともMg≧6.6−(0.45×Zn)、好ましくはMg≧10−(0.79×Zn)の関係により与えられる値である。
【0027】
MgおよびZnは、急冷および時効処理後の最終的な硬度および強度特性に大きな影響を及ぼすMgZn析出物を形成する。Mg含有量が、上記の関係により与えられる値より上にある場合、過剰のMgは合金の強化に貢献する。
【0028】
本発明は、様々な製品、例えばこれに限定しないが、シート、板、厚板、等、に加工した時に、所望の材料特性に適合するか、またはそれを超える、合金組成物を目的とする。製品の特性バランスは、今日商業的に使用されている合金から製造された製品の特性バランスより優れている。
【0029】
好ましくは、本発明の合金製品は、1インチ(25.4mm)を超え、約11インチ(279.4mm)以上の厚いゲージに加工され、構造的航空コンポーネント、例えば板から機械加工された一体的な部品、あるいは航空機の翼構造に使用する一体的な桁、または航空機翼構造に使用するリブの形態で、もしくは上側翼板として使用し、改善された特性を与える。より厚いゲージの製品は、工具用板または型板、例えばダイキャスティング、射出成形または同等の方法による成形プラスチック製品を製造するための型、としても使用できる。厚さの範囲が上記の通りであれば、当業者には、これは、そのような薄い板または厚い板から製造された合金製品における最も厚い断面地点の厚さであることが直ちに明らかである。本発明の合金製品は、航空機構造に使用する段階的押出物または押し出された桁の形態で、あるいは例えば航空機翼構造に使用する鍛造桁の形態で提供することもできる。
【0030】
合金製品が押し出されている実施態様では、その合金製品は、それらの最も厚い断面地点で、10mmまで、好ましくは1〜7mmの厚さを有する輪郭に押し出されているのが好ましい。しかし、押し出された形態で、この合金製品は、従来、高速機械加工または研削技術により、ある形状を有する構造コンポーネントに機械加工されている厚板材料の代わりに使用することもできる。この実施態様では、押し出された合金製品は、その最も厚い断面地点で、2インチ(50.8mm)〜6インチ(152.4mm)の厚さを有するのが好ましい。
【0031】
本発明の一実施態様では、製品が、高い強度および靱性を有する航空宇宙用板、例えば上側翼板、であり、該製品のMg含有量は、好ましくはMg≧6.6−(0.45×Zn)に従い、Zn含有量によって異なる。
【0032】
機械的特性、靱性および耐食性の特に有利な組合せ、すなわち高い強度および靱性を有する航空宇宙用板または押出物に特に魅力的な特性の組合せは、Mg含有量が、上記のMgとZnの関係により与えられる値と少なくとも等しいか、またはそれを超える場合に得られることが分かった。
【0033】
本発明の一実施態様では、製品が高強度工具用板であり、好ましくは人工的時効処理後の硬度が185HBを超え、好ましくは190HBを超えており、該製品のMg含有量が、好ましくはMg≧6.6−(0.45×Zn)、より好ましくはMg≧10−(0.79×Zn)に従い、Zn含有量によって異なる。本説明および請求項における硬度値は全て、ASTM E10、2002版により測定したBrinell硬度値であり、その際、硬度は中央部分の厚さで測定することに注意する。
【0034】
機械的特性、硬度、溶接性および耐食性の特に有利な組合せ、すなわち高強度工具用板に特に魅力的な特性の組合せは、Mg含有量が、上記のMgとZnの関係により与えられる値と少なくとも等しいか、またはそれを超える場合に得られることが分かった。
【0035】
好ましい実施態様では、鍛造合金製品が、T6またはT7焼戻し状態にある工具用板であり、
Zn 7.5〜14.0、好ましくは7.5〜12.0、より好ましくは8.5〜11.0または9.5〜12.0、
Mg 1.0〜5.0、好ましくは2.0〜4.5または2.5〜4.5、より好ましくは2.5〜3.5であり、好ましくはMg含有量が、Mg≧6.6−(0.45×Zn)、より好ましくはMg≧10−(0.79×Zn)に従って、Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、好ましくは0.03〜0.20、
Zr 0.04〜0.15、所望によりCrと共に最高0.20、
Ti <0.10、
Fe <0.30、好ましくは<0.14、
Si <0.25、好ましくは<0.12、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる組成を有する。
【0036】
別の実施態様では、該工具用板がさらにMn0.05〜0.40%からなる。
【0037】
好ましい実施態様では、鍛造合金製品が、T6またはT7焼戻し状態にある工具用板であり、
Zn 7.5〜14.0、好ましくは7.5〜12.0、より好ましくは8.5〜11.0または9.5〜12.0、
Mg 1.0〜5.0、好ましくは2.0〜4.5または2.5〜4.5、より好ましくは2.5〜3.5であり、好ましくはMg含有量が、Mg≧6.6−(0.45×Zn)、より好ましくはMg≧10−(0.79×Zn)に従って、Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、好ましくは0.03〜0.20、
Cr 0.04〜0.20、
Zr 0.15以下、
Ti <0.10、
Fe <0.30、好ましくは<0.14、
Si <0.25、好ましくは<0.12、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる組成を有する。
【0038】
別の好ましい実施態様では、本発明の鍛造合金製品が、シート、板、押出物、またはそのようなシート、板、押出物から製造された航空機構造コンポーネントからなり、T6またはT7焼戻し状態にあり、
Zn 7.5〜11.0、
Mg 1.0〜5.0、Mg含有量が、Mg≧6.6−(0.45×Zn)、好ましくはMg≧10−(0.79×Zn)に従って、Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.14、好ましくは<0.08、
Si <0.12、好ましくは<0.07、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる組成を有する。
【0039】
航空宇宙製品のより好ましい実施態様では、該製品のMg含有量が2.0〜4.5%であり、さらにMg含有量が、Mg≧10−(0.79×Zn)に従って、Zn含有量に依存する。航空宇宙製品の別の実施態様では、Zn含有量が7.5〜11.0%、好ましくは8.5〜10.0%である。
【0040】
航空宇宙製品のさらに別の実施態様では、該製品がさらにMn0.05〜0.40%、好ましくは0.05〜0.30%からなる。
【0041】
本発明は、少なくとも一個の、本発明の製品である第一コンポーネント部品、および少なくとも一個の第二コンポーネント部品を含んでなり、該コンポーネント部品同士が一つに溶接され、溶接されたコンポーネントを形成する、溶接されたコンポーネントによっても具体化され、好ましくは該溶接されたコンポーネントが、溶接された航空機構造コンポーネントである。より好ましくは、第一および第二コンポーネント部品が、本発明の製品を含んでなる。さらに好ましくは、溶接されたコンポーネントまたは溶接された航空機構造コンポーネントを形成する実質的に全ての、またはさらに全てのコンポーネントが本発明の製品を含んでなる。良好な溶接性および他の好ましい特性を使用し、強度、腐食特性および溶接部品質が優れた、溶接されたコンポーネントまたは溶接された航空機構造コンポーネントを形成する。
【0042】
本発明の別の態様では、上記の、および例に記載する鍛造アルミニウムAA7000シリーズ合金製品の製造方法であって、下記の処理工程、すなわち
a)本説明で記載した組成を有するインゴットを鋳造する工程、
b)鋳造後、該インゴットを均質化および/または予熱する工程、
c)圧延、押出および鍛造からなる群から選択された一種以上の方法により、該インゴットを予備加工製品に熱間加工する工程、
d)所望により該予備加工製品およびどちらかを再加熱する工程、
e)該予備加工製品を、所望の加工品形状に熱間加工および/または冷間加工する工程、
f)該形成された加工品を、該合金中の実質的にすべての可溶性構成成分を固溶体にするのに十分な温度および時間で、溶体化処理(SHT)する工程、
g)該溶体化処理した加工品を、好ましくは水または油もしくは他の急冷媒体中で噴霧急冷または浸漬急冷の一方により、急冷する工程、
h)所望により、該急冷した、または他の様式で冷間加工した加工品を延伸または圧縮して応力を除去する、例えばシート製品を平らにする工程、
i)該急冷し、所望により延伸または圧縮した加工品を人工的に時効処理し、所望の焼戻し、特にT6またはT7型焼戻し、例えばT6、T74、T76、T751、T7451、T7651、T77およびT79を含んでなる群から選択された焼戻しを達成する工程
を含んでなり、該均質化処理が、第一均質化段階および所望により第二均質化段階を含んでなり、インゴットまたはスラブに対する該第一均質化段階中の持続時間および温度が、、該インゴットまたはスラブ中の最冷点として定義される該インゴットまたはスラブ中のコールドスポットが実質的に全てのm−相析出物を溶解させるのに必要な溶解温度および溶解時間以上になるように、選択される、方法を提供する。
【0043】
所望により、均質化処理は、少なくとも、第一均質化段階に続く第二均質化段階を含んでなる。溶解温度は、インゴットまたは鋳造物の周辺部で早い時間に到達すること、およびコールドスポット中の温度は、溶解温度に徐々に増加することに注意すべきである。実際には、溶解温度は、通常、均質化温度と呼ばれる。
【0044】
本発明の合金製品は、通常通りに融解させ、インゴットに直接冷却(「DC」)鋳造することにより、または他の好適な鋳造技術により、製造される。合金製品の熱間加工は、圧延、押出および鍛造からなる群から選択された一つ以上の方法により行うことができる。本合金には、熱間圧延が好ましい。溶体化処理は、典型的には均質化に使用した温度範囲と同じ温度範囲で行うが、浸漬時間は、幾分短く選択することができる。
【0045】
一実施態様では、コールドスポットが、m−相析出物を溶解させる温度に、少なくとも溶解させるのに必要な溶解時間あるように、インゴットまたはスラブに対する第一均質化段階の持続時間を選択する方法を提供するが、その際、好ましくは溶解時間が最長2時間、好ましくは1時間であり、より好ましくはできるだけ短く、例えば30分間または20分間、もしくはさらに短くする。好ましくは、溶解温度は約470℃である。
【0046】
一実施態様では、インゴットまたはスラブに対する第一均質化段階の持続時間が最長24時間、好ましくは最長12時間であり、その際、好ましくは均質化温度は約470℃である方法を提供する。
【0047】
一実施態様では、Cu≦0.28%、さらに好ましくはCu≦0.20%であるインゴットまたはスラブに対して、第一均質化段階が470℃で最長12時間であり、その際、第二均質化を行わない方法を提供する。
【0048】
一実施態様では、Cu>0.20%、好ましくはCu>0.25%、より好ましくはCuが最大0.28%であるインゴットまたはスラブに対して、均質化工程が、第一均質化段階および第二均質化段階を含んでなり、第一均質化段階が470℃で最長24時間、好ましくは最長12時間であり、第二均質化段階が475℃で最長24時間、好ましくは最長12時間である方法を提供する。
【0049】
本発明の方法では、高温割れ感受性が低下し、強度および靱性特性も改善され、人工的時効処理条件では硬度が180HBを超える製品が得られる。好ましくはCu≦0.25%またはさらにはCu≦0.20%であるCuに対しては、470℃で最長24時間、好ましくは最長12時間の均質化処理が、すべてのm−相析出物を溶解させ、SHT、急冷、所望により延伸、および時効処理の後に所望の特性を有する製品を得るのに十分である。銅含有量に応じて、可能な最短均質化段階および可能な最低均質化温度を選択することにより、本方法を非常に経済的に行い、優れた特性を維持し、優れた溶接性を達成することができる。時効処理が一工程時効処理である場合、本方法は、さらに経済的に行うことができる。このようにして、高温割れ感受性が低減され、強度も改善され、T6焼戻し条件で硬度が180HBを超える、高強度工具用板用途に優れた製品が得られる。2段階時効処理では、改善された機械的特性、人工的時効処理条件における硬度、靱性および耐食性を組み合わせた、高強度および高靱性の溶接可能な航空宇宙用板として優れた製品が得られる。一段階または2段階時効処理の後、腐食、特にIGCおよびEXCOに対する耐性が改善されていることが分かった。
【0050】
m−相析出物は、本発明のCu≦0.28%の合金では急速に溶解し、より低い銅含有量≦0.25%または≦0.20%ではより急速に溶解するので、インゴットまたはスラブ中、通常はインゴットまたはスラブの中央、にある最冷点として定義されるコールドスポットが、少なくともm−相析出物を溶解させるのに必要な溶解時間、均質化温度、例えば470℃にあるように、第一均質化段階の持続時間を選択することにより、本方法をより経済的に行うことができ、その際、好ましくは溶解時間は最長2時間、好ましくは1時間であり、できるだけ短いのがより好ましい。理想的には、均質化処理は、全てのm−相析出物が溶解した時に終了し、その後、スラブまたはインゴットを熱間圧延ミルに送り、スラブが圧延温度に達した後、所望により再加熱処理を行い、スラブまたはインゴットを圧延温度にするか、または圧延温度に下げた後、熱間圧延することができる。
【0051】
一実施態様では、制御手段、例えば均質化処理の際にインゴットまたはスラブの温度展開を計算する数学的または物理的原理に基づくコンピュータモデル、を使用して均質化処理を制御し、均質化温度におけるスラブまたはインゴットの最適滞留時間を決定し、インゴットまたはスラブのコールドスポットを、溶解温度、例えば約470℃、に、m−相析出物を溶解させるのに必要な溶解時間、維持する。当業者には明らかなように、焼きなまし時間および温度は、ここに参考として含める欧州特許第0876514号明細書(段落[[0028])に規定されているように、相当時間の概念により、ある程度交換できるが、無論、最低焼きなまし温度は析出物の溶解を可能にするために十分に高い必要がある。特定の他の析出物の溶解を回避することも重要であるので、焼きなまし温度を選択する自由が最高および最低均質化温度により制限される。
【0052】
本発明の方法の一実施態様では、人工的時効処理工程i)は、温度105℃〜135℃で、好ましくは2〜20時間の第一時効処理工程、および温度135℃〜210℃で、好ましくは4〜20時間の第二時効処理工程を含んでなる。別の実施態様では、第三の時効処理工程を温度105℃〜135℃で20〜30時間行うことができる。
【0053】
以下に、非制限的な例により本発明を説明する。
【実施例】
【0054】
例1
表1に示す化学組成A.1〜A.7の実験室インゴットを鋳造し、下記の経路により処理した(v=加熱速度、@=〜で)。
均質化処理:v=35℃/h+12h@470℃、
予熱:v=35℃/h+6h@420℃、
熱間圧延:80mmゲージから30mmへ、
SHT:v=できるだけ速く、2h@470℃、続いて水急冷、
延伸:1.5%、
時効処理:T76、v=30℃/h+5h@120℃/hに加えて15℃/h+12h@145℃/h
【0055】
表1.質量%で表す合金の組成(0.06Fe、0.04Si、0.04Ti、0.10Zr、残部アルミニウム)、合金の機械的特性(L方向)および破壊靱性(L−T方向)

合金 Zn Mg Cu RIC
(MPa) (MPa) (MPa√m)
AA7055-T7751 基準AMS4206 593 614 24.2
AA7449-T7651 基準AMS4250 538 579 24.2
A.1 7.5 2.8 0.15 531 549 70.1
A.2 7.4 4.2 0.16 589 614 40.6
A.3 9.5 1.9 0.16 554 558 62.1
A.4 9.5 2.3 0.15 580 595 41.3
A.5 9.5 2.8 0.15 623 636 30.8
A.6 9.4 3.3 0.17 647 666 26.4
A.7 11.0 2.8 0.18 659 669 24.2
【0056】
表1.から明らかなように、ZnおよびMgを増加させるが、Cuレベルを低く抑えることにより、基準材料以上の靱性レベルを維持しながら、非常に高い強度を得ることができる。表1から、少なくとも580MPaの望ましい強度レベルに達するのに、Mgレベルは、Mg≧6.6−(0.45×Zn)に従うZnレベルによって異なるようである。
【0057】
例2
表2に示す化学組成B.1〜B.4の実験室インゴットを鋳造し、上記の経路により処理したが、ただし、最終的な熱間圧延厚さは3mmであり、合金B.2は、より長い時間均質化処理(12h@470℃に続いて24h@475℃)し、その際、均質化処理工程は、第一および第二段階を含んでなる。
【0058】
表2.質量%で表す合金の組成(0.06Fe、0.04Si、0.04Ti、0.10Zr、残部アルミニウム)

合金 Zn Mg Cu R(MPa) EXCO
B.1 9.3 2.3 0.16 565 EA/B
B.2 9.4 2.3 0.80 564 EC
B.3 9.3 2.8 0.16 598 EA
B.4 10.7 2.8 0.15 626 EA
【0059】
合金の機械的(L方向)および腐食(EXCO、標準ASTM G34−97により測定)特性も表2に示す。0.8%Cuレベル(合金B.2参照)は、機械的特性を改善せず、合金の腐食挙動に悪影響を及ぼす。他方、MgおよびZnの添加(合金B.3およびB.4参照)により、腐食特性が良くなり、強度が著しく増加する。
【0060】
例3
表3に組成を示す7種類の合金を試験した。ほとんどの合金(C.1〜C.5)が低いCuレベルを有し、幾つか(合金C.6、C.7)が、より多くのCuを含む。これらの合金は全て下記の経路により、3.5mmゲージに処理した。
インゴットの鋳造、機械加工インゴットから80×80×100mmのブロックを圧延
均質化処理:Cu≦0.20%に対してv=30℃/h+470℃@12h、
Cu>0.20%に対してv=30℃/h+470℃@12h、v=15℃/h+475℃@24h、
熱間圧延:予熱@430℃、厚さ80mmから3.5mmに圧延、
SHT:1h@470℃、続いて水または油中急冷、
延伸:1.5%、
SHT後、この例における全ての合金をT6焼戻しに時効処理。
【0061】
人工的時効処理の前に、合金を水および油の両方で急冷し、合金の急冷感度を試験した。油急冷は、厚さ約70mmの板のコアにおける急冷速度と同等であり、その際、板のコアは表面ほど急速に急冷できない。時効処理後、ASTM E10、2002版によりBrinell硬度を測定した。達成された硬度値を表3に示す。表3は、水急冷値が、典型的には油急冷値より高いか、またはそれに類似していることを示している。全体の合金化含有量が最も高い合金は、急冷に対して最も敏感である。すべてZn≧9.3%である合金C.2、C.3、C.5、C.7は、硬度値が少なくとも190HBである。合金C.6では、Cu添加により、これを添加しなかった合金(合金C.1)より、硬度が大きく増加するが、高Zn合金C.7では、Cuの添加により、油急冷条件で硬度がほとんど増加しない。MgとCuの組合せは、等量のMgのみと比較して、より高い強度をもたらすという冶金学的予想と反対に、驚くべきことに、より高いZn含有量では、Cuは、追加のMgよりも、硬度増加に最早有効ではない。
【0062】
表3.質量%で表すシリーズCの組成、残部アルミニウム、異なった急冷媒体(WQ=水急冷、OQ=油急冷)に対するBrinell硬度値(HB)を含む。

合金 Zn Mg Cu Ti Zr Fe Si HB HB ΔHB IGC 型
WQ OQ (WQ-OQ) OQ
C.1 7.4 1.92 0.17 0.04 0.10 0.04 0.02 164 164 0 1
C.2 9.3 2.8 0.16 0.04 0.11 0.03 0.02 192 190 2 1
C.3 9.5 3.3 0.16 0.04 0.098 0.03 0.02 209 197 12 1
C.4 7.4 4.2 0.17 0.04 0.098 0.04 0.02 189 189 0 1
C.5 10.7 2.8 0.16 0.04 0.097 0.03 0.02 210 197 13 1
C.6 7.4 1.86 1.65 0.05 0.10 0.03 0.02 179 179 0 2
C.7 9.4 2.3 1.66 0.04 0.099 0.03 0.02 204 191 13 2
【0063】
さらに、低Cu合金は、油中で急冷しても、粒界腐食(IGC、試験は標準ASTM G110−92により行った)に対して優れた耐性を示したのに対し、Cu含有量が高い合金は、僅かな程度のIGCを示した。したがって、この合金は急冷に対する感度が低く、処理の変化に対する許容度が大きいので、合金の処理に様々な利点を有する。
【0064】
例4
表4に組成を示す5種類の合金を試験した。これらの合金はCuレベルが低い。これらの合金を、下記の経路により、3mmゲージの板に処理した。
インゴットの鋳造、機械加工インゴットから80×80×100mmのブロックを圧延
均質化処理:v=30℃/h+470℃@12h、
熱間圧延:予熱@430℃、厚さ80mmから3mmに圧延、
SHT:1h@470℃、続いて水中急冷、
延伸:1.5%、
時効処理:T6焼戻しに1工程または2工程人工的時効処理
【0065】
表4に、1および2工程時効処理後に得られた平均硬度値を示す。表4に示す結果は、190以上のHBに対して、Zn含有量を9.47%として、Mgの最低レベルは1.92%〜2.85%である。表3は2.8の値を与えている。さらに、1工程および2工程人工的時効処理に対して、同等の硬度レベルが得られている。これによって、この合金の、2工程時効処理が必要とされる(航空宇宙材料の必要条件)か、または1工程が好ましい(コスト節約)、様々な製品範囲への適用性が増加する。
【0066】
表4は、人工的時効処理における145℃工程の時効処理時間には、190HB以上の硬度レベルに達するのに、広い範囲が可能であることを示している。
【0067】
表4.質量%で表す例2の合金の組成、残部アルミニウム、1工程および2工程時効処理に対する平均硬度と共に示す。

合金 Zn Mg Cu Zr Fe Si Ti 1工程 2工程
(HB) (HB)
D.1 9.47 1.92 0.16 0.10 0.06 0.03 0.05 174 175
D.2 9.41 2.85 0.16 0.10 0.06 0.03 0.05 192 190
D.3 9.52 3.37 0.16 0.096 0.08 0.03 0.05 197 195
D.4 9.61 4.57 0.16 0.092 0.07 0.03 0.06 198 204
D.5 8.94 3.99 0.16 0.095 0.07 0.03 0.06 200 197
【0068】
適切な合金処理により高い硬度が期待できる、最低のMgとZn含有量の組成関係を表3および4から引き出すことができる。MgとZn含有量の関係は、質量%で表して、Mg=10−0.79Znにより近似することができる。Zn含有量との関係で、この関係により与えられる含有量より高いMg含有量は、特にZn含有量が7.4%を超える合金では、少なくとも185HB、さらには少なくとも190HB、の硬度を与える。
【0069】
例5
本発明による、工具用板に特に好適な3種類の合金(E.1〜E.3)を本発明の方法により処理し、続いて130℃で24時間ピーク時効処理した。引張特性(降伏強度および引張強度)は、L方向で測定し、硬度は中央部分の厚さで測定した。これらの合金をT651焼戻しにおけるAA7050およびAA7075合金と比較した。
【0070】
合金の組成および特性を表5に示す。これらの結果から、本発明の合金は、工具用板に非常に適した、非常に高い硬度を達成できることが分かる。
【0071】
表5.質量%で表した本発明による合金の組成(Zr0.12%、Fe0.05%、Si0.03%、Cu0.15%、残部アルミニウム)および引張特性および硬度

合金 Zn Mg 焼戻し Rp Rm 硬度
(質量%) (質量%) (MPa) (MPa) (HB)
AA7050 6.2 2.3 T651 532 575 180
AA7075 5.6 2.5 T651 533 462 150
E.1 9.4 3.5 ピーク時効処理 695 708 236
E.2 11.5 3.1 ピーク時効処理 734 736 246
E.3 11.4 3.0 ピーク時効処理 680 689 245
【0072】
例6
本発明により処理した3種類の合金(F.1〜F.3)の溶接性を、アルミニウム合金の高温割れ感受性の評価に使用される、ここに参考として含めるP.T. Houldcroft, British Welding Journal, October 1955, pp.471-475による文献「アルゴン−アーク溶接で使用するための簡単な割れ試験(A simple Cracking Test for use With Argon-Arc Welding)」に記載されているHouldcroft試験とも呼ばれる、十分に規定された手順を使用して評価した。この手順は、魚の骨形状の試料またはテーパー形状の試料を使用し、レーザー溶接にはテーパー形状の試料が好ましく、この例では、厚さ2mmを有する試料を使用した。レーザーを使用して完全透過ビード−オン−プレート溶接部を形成した。溶接部は、試料の細い末端から出発し、試料の全長に伸びている。高温割れは、溶接部プールが固化する際に形成され、一定の地点で割れが終わる。この割れの長さが高温割れ感受性の尺度であり、割れが長い程、高温割れ感受性が高い。試験中、試料は束縛せず、溶接部は全て、溶加材ワイヤを加えずに形成した。これらの試験では、スポットサイズ0.45mm(150mm焦点レンズ)のNd:YAGレーザーを使用し、焦点位置を板の上表面上に合わせた。レーザー処理パラメータは、4500Wレーザー出力、溶接速度4m/分で一定に維持した。
【0073】
試験に選択した合金および溶接試験の結果を表6に示す。割れ感受性は、割れ長さを試料長さで割った割れ%により表し、したがって、割れ%が低い程、高温割れ感受性が低い。総ZnおよびMg溶質含有量が増加するにつれて、割れ感受性が低下し、溶接性が高くなることが明らかである。アルミニウム工業界ではアルミニウムAA7017が溶接可能なアルミニウムとして受け容れられているので、このアルミニウムを比較ために試験した。本発明の合金は全て、AA7017より優れた溶接性を有することが明らかである。
【0074】
表6.質量%で表した本発明による合金の組成(Zr0.12%、Fe0.05%、Si0.03%、Cu0.15%、残部アルミニウム)およびHouldcroft溶接試験の結果

合金 Zn Mg Zn+Mg 割れ%
AA7018 4.0-5.2 2.0-3.0 6.0-8.2 53
(比較)
F.1 9.3 2.8 12.1 31
F.2 9.5 3.3 12.8 28
F.3 10.7 2.8 13.5 31
【0075】
無論、本発明は上記の実施態様および例に限定されるものではなく、説明および下記の請求項の範囲に入る全ての実施態様を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
−Zn 7.5〜14.0、
−Mg 1.0〜5.0、
−Cu ≦0.28、
−Fe <0.30、
−Si <0.25、
−および下記元素の一種以上:
−Zr <0.30、
−Ti <0.30、
−Hf <0.30、
−Mn <0.80、
−Cr <0.40、
−V <0.40、
−Sc <0.70、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になり、高温割れ感受性が低減され、強度および靱性特性も改善された、人工的に時効処理した状態において180HBを超える硬度を有する、鍛造アルミニウムAA7000シリーズ合金製品。
【請求項2】
Cuが≦0.25%、好ましくは≦0.20%である、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
Cu含有量の下限が0.03%、好ましくは該下限が0.08%である、請求項1に記載の製品。
【請求項4】
Zr含有量が0.04〜0.15%、好ましくは0.04〜0.13%である、請求項1に記載の製品。
【請求項5】
Zn含有量の下限が8.5%である、請求項1に記載の製品。
【請求項6】
Zn含有量の下限が9.0%である、請求項1に記載の製品。
【請求項7】
Zn含有量の下限が9.5%である、請求項1に記載の製品。
【請求項8】
Zn含有量の上限が12.0%である、請求項1に記載の製品。
【請求項9】
Zn含有量の上限が11.0%である、請求項1に記載の製品。
【請求項10】
Zn含有量の上限が10.0%である、請求項1に記載の製品。
【請求項11】
Mg含有量の下限が2.5%である、請求項1に記載の製品。
【請求項12】
Mg含有量の上限が4.5%、好ましくは上限が4.0%である、請求項1に記載の製品。
【請求項13】
Fe含有量が0.14%まで、好ましくは0.08%までである、請求項1に記載の製品。
【請求項14】
Si含有量が0.12%まで、好ましくは0.07%までである、請求項1に記載の製品。
【請求項15】
Mn含有量が0.05〜0.40%である、請求項1に記載の製品。
【請求項16】
Mn含有量が<0.02%である、請求項1に記載の製品。
【請求項17】
Mg≧6.6−(0.45×Zn)、好ましくはMg≧10−(0.79×Zn)である、請求項1に記載の製品。
【請求項18】
前記製品がシート、板、または押出物の形態にある、請求項1に記載の製品。
【請求項19】
前記製品がT6型またはT7型状態にある、請求項1に記載の製品。
【請求項20】
少なくとも一個の、請求項1に記載の製品である第一コンポーネント部品、および少なくとも一個の第二コンポーネント部品を含んでなる溶接されたコンポーネントであって、前記コンポーネント部品同士が一つに溶接されて前記溶接されたコンポーネントを形成しており、前記少なくとも一個の第一および前記少なくとも一個の第二コンポーネント部品が請求項1に記載の製品であり、前記溶接されたコンポーネントが溶接された航空機構造コンポーネントである、溶接されたコンポーネント。
【請求項21】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な航空宇宙用のシートまたは板製品であり、前記製品が、質量%で、
Zn 7.5〜11.0、
Mg 1.0〜5.0、ただし、前記Mg含有量がMg≧6.6−(0.45×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.08、
Si <0.07、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項22】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な航空宇宙用のシートまたは板製品であり、前記製品が、質量%で、
Zn 7.5〜11.0、
Mg 2.0〜4.5、ただし、前記Mg含有量がMg≧10−(0.79×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.08、
Si <0.07、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項23】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な航空宇宙用のシートまたは板製品であり、前記製品が、質量%で、
Zn 8.5〜10.0、
Mg 2.0〜4.5、ただし、前記Mg含有量がMg≧10−(0.79×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.08、
Si <0.07、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項24】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な航空宇宙用のシートまたは板製品であり、前記製品が、質量%で、
Zn 8.5〜10.0、
Mg 2.5〜4.5、ただし、前記Mg含有量がMg≧10−(0.79×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.08、
Si <0.07、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項25】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な押出物であり、前記製品が、質量%で、
Zn 7.5〜11.0、
Mg 1.0〜5.0、ただし、前記Mg含有量がMg≧6.6−(0.45×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.14、
Si <0.12、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項26】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な航空宇宙用のシートまたは板製品であり、前記製品が、質量%で、
Zn 8.5〜10.0、
Mg 2.5〜4.5、ただし、前記Mg含有量がMg≧10−(0.79×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Cr 0.04〜0.20、
Zr 0.15以下、
Ti <0.10、
Fe <0.08、
Si <0.07、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項27】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な工具用板製品であり、前記板製品が、質量%で、
Zn 7.5〜14.0、
Mg 1.0〜5.0、ただし、前記Mg含有量がMg≧6.6−(0.45×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.30、
Si <0.25、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項28】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な工具用板製品であり、前記板製品が、質量%で、
Zn 7.5〜14.0、
Mg 2.0〜4.0、ただし、前記Mg含有量がMg≧10−(0.79×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.30、
Si <0.25、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項29】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な工具用板製品であり、前記板製品が、質量%で、
Zn 7.5〜12.0、
Mg 2.0〜4.0、ただし、前記Mg含有量がMg≧10−(0.79×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.30、
Si <0.25、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項30】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な工具用板製品であり、前記板製品が、質量%で、
Zn 9.5〜12.0、
Mg 2.5〜4.5、ただし、前記Mg含有量がMg≧10−(0.79×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.30、
Si <0.25、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項31】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な工具用板製品であり、前記板製品が、質量%で、
Zn 8.5〜11.0、
Mg 2.5〜4.5、ここで、前記Mg含有量がMg≧10−(0.79×Zn)に従って前記Zn含有量に依存しており、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.30、
Si <0.25、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になる、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項34】
前記鍛造製品が、T6型またはT7型状態にある溶接可能な工具用板製品であり、前記板製品が、質量%で、
Zn 9.5〜12.0、
Mg 2.5〜3.5、
Cu 0.03〜0.25、
Zr 0.04〜0.15、
Ti <0.10、
Fe <0.30、
Si <0.25、
各々<0.05、合計<0.15の残りの不可避な元素および不純物、ならびに残部アルミニウムから実質的になり、190HBを超える硬度を有する、請求項1に記載の鍛造製品。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の鍛造アルミニウムAA7000シリーズ合金製品の製造方法であって、
a)請求項1に記載の組成を有するインゴットを鋳造する工程、
b)鋳造後、前記インゴットを均質化および/または予熱する工程、
c)圧延、押出および鍛造からなる群から選択された一種以上の方法により、前記インゴットを予備加工製品に熱間加工する工程、
d)所望により前記予備加工製品およびどちらかを再加熱する工程、
e)前記予備加工製品を、所望の加工品形状に熱間加工および/または冷間加工する工程、
f)前記形成された加工品を、前記合金中の実質的にすべての可溶性構成成分を固溶体にするのに十分な温度および時間で、溶体化処理(SHT)する工程、
g)前記溶体化処理した加工品を、好ましくは水または他の急冷媒体中で噴霧急冷または浸漬急冷の一方により、急冷する工程、
h)所望により、前記急冷した、または他の様式で冷間加工した加工品を延伸または圧縮して応力を除去する、例えばシート製品を平らにする工程、および
i)前記急冷し、所望により延伸または圧縮した加工品を人工的に時効処理し、所望の焼戻しを達成する工程
を含んでなり、前記均質化処理が、第一均質化段階および所望により第二均質化段階を含んでなり、インゴットまたはスラブに対する前記第一均質化段階中の持続時間および温度が、前記インゴットまたはスラブ中の最冷点として定義される前記インゴットまたはスラブ中のコールドスポットがm−相析出物を溶解させるのに必要な溶解温度および溶解時間以上になるように、選択される、方法。
【請求項26】
工程i)の際に、前記製品が、T6型またはT7型焼戻しに人工的に時効処理される、請求項27に記載の方法。

【公表番号】特表2009−501847(P2009−501847A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521839(P2008−521839)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006654
【国際公開番号】WO2007/009616
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(507108003)アレリス、アルミナム、コブレンツ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング (10)
【氏名又は名称原語表記】ALERIS ALUMINUM KOBLENZ GMBH