説明

鍵盤楽器、プログラム、演奏データ変換プログラム及び装置

【課題】ペダル動作に起因した影響を再生音に与えることなく省電力を図る。
【解決手段】ダンパペダルの踏み込み深さがホールド深さHを超えた場合は、ペダル目標深さに制限値LMTを設定し、所定時間経過後にホールド深さHに設定する。これにより、ダンパペダルは制限値LMTまで到達してからホールド深さHに戻る。その後、ホールド深さHに維持するよう制御しているときには、ペダル目標深さがホールド深さHを下廻るまではペダル目標深さにホールド深さHを設定した状態を維持することで、ダンパペダルがホールド深さHを維持するような制御が継続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演奏データにおけるペダル制御データに基づいてペダルを駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、演奏データに基づいて、ペダル動作制御を伴う楽音制御を自動で行う鍵盤楽器が知られている。例えば、下記特許文献1、2の楽器では、演奏データ中の発音制御データに基づいて鍵を駆動して打弦により楽音を発生させると共に、演奏データ中のペダル制御データに基づいてペダルを駆動することで、記録された演奏状態を忠実に再現することを狙っている。
【0003】
元となる演奏データとしては、例えば、演奏者が実際に行った演奏操作をデータとして記録したものが用いられる。ペダル駆動は一般に、電磁アクチュエータを用いてなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−350898号公報
【特許文献2】特開2010−266606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ペダルを電磁的に駆動する場合、記録された演奏の形態によっては多くの電力を消費することになる。
【0006】
例えば、ダンパペダル(ラウドペダル)の踏み込み深さの領域については、ミュート領域、ハーフペダル領域、ペダル開放領域があるが、同じペダル開放領域の範囲内であっても、エンド位置近くでペダルを維持するように制御される場合は、電力消費が大きい。
【0007】
また、演奏データの記録時に演奏する演奏者の癖によってもペダルの挙動が影響を受ける。例えば、ペダルをエンド位置近くに踏み込んだ後にペダル位置がエンド位置に安定せずに、深さ方向に振れることがある。この場合、ペダルはデータに従ってエンド位置付近で深さ方向に変動を繰り返すという動作が再現されることになる。
【0008】
また、踏力は演奏者によってまちまちで、長い演奏曲では、踏み続ける際にペダルの重さに負けたり、足の疲れによって一定位置に維持できなくなったりする。そうなると、記録される演奏データとしては、ペダルがゆらゆら揺れるようなデータとなる。
【0009】
このように演奏の通りに記録された演奏データをそのまま忠実に再現することとなると、必ずしも必要でない(演奏として意味のない)微小な動きまで再現することとなる。例えば、ペダル開放領域の範囲内ではダンパペダルがどの位置にあっても作用としては差異がないのに、ペダルは無駄に動くことになる。このような再現の態様では、電力が無駄に消費されていることになるため、改善の余地がある。
【0010】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、ペダル動作に起因した影響を再生音に与えることなく省電力を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤楽器は、鍵と、ペダル(110)と、楽音の発生及び停止を規定する発音制御データとペダルの踏み込み深さを規定するペダル制御データとを含んだ演奏データを入力する入力手段(120)と、前記ペダルを駆動する駆動手段(23)と、前記入力手段により入力された演奏データにおける前記ペダル制御データに基づいて前記駆動手段を制御する制御手段(102)とを有し、前記制御手段は、前記駆動手段を制御することにより前記ペダルの踏み込み深さが第1の所定深さ(H)を超えた場合は、前記第1の所定深さより深い第2の所定深さ(LMT)まで前記ペダルが到達してから前記第2の所定深さよりも浅い第3の所定深さ(H)に位置するように前記駆動手段を制御することを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記制御手段は、前記ペダル制御データに基づき前記ペダルの目標位置(POS2)を定めて前記駆動手段を制御するものであり、前記ペダルが前記第2の所定深さまで到達した後であって前記第3の所定深さに位置するよう制御しているときには、前記目標位置が前記第3の所定深さを下廻るまでは前記第3の所定深さに位置させる制御を継続する(請求項2)。好ましくは、前記第1の所定深さ及び前記第3の所定深さは、共にハーフペダル領域よりも深い位置である(請求項3)。
【0013】
上記目的を達成するために本発明の請求項4は、ペダルを駆動する駆動手段を有する鍵盤楽器の制御方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記制御方法は、楽音の発生及び停止を規定する発音制御データとペダルの踏み込み深さを規定するペダル制御データとを含んだ演奏データを入力する入力手順と、前記入力手順により入力された演奏データにおける前記ペダル制御データに基づいて前記駆動手段を制御する制御手順とを有し、前記制御手順は、前記駆動手段を制御することにより前記ペダルの踏み込み深さが第1の所定深さ(H)を超えた場合は、前記第1の所定深さより深い第2の所定深さ(LMT)まで前記ペダルが到達してから前記第2の所定深さよりも浅い第3の所定深さ(H)に位置するように前記駆動手段を制御することを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するために本発明の請求項5は、コンピュータに実行させる演奏データ変換プログラムであって、楽音の発生及び停止を規定する発音制御データとペダルの踏み込み深さを規定するペダル制御データとを含んだ演奏データを入力する入力手順と、前記入力手順により入力された演奏データにおける前記ペダル制御データを変換する変換手順と、入力された前記演奏データにおけるペダル制御データを、前記変換手順により変換された後のペダル制御データに置き換えることで、前記演奏データを更新する更新手順とを実行させるプログラムであり、前記変換手順は、前記ペダル制御データが示す前記ペダルの踏み込み深さが第1の所定深さを超えた場合は、前記第1の所定深さより深い第2の所定深さまで前記ペダルが到達してから前記第2の所定深さよりも浅い第3の所定深さに位置するように前記ペダル制御データを変換することを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するために本発明の請求項6の演奏データ変換装置は、請求項5記載の演奏データ変換プログラムが実行可能に組み込まれたコンピュータを備えることを特徴とする。
【0016】
上記括弧内の符号は例示である。
【0017】
請求項4または5記載のプログラムを格納したコンピュータで読み取り可能な記憶媒体は、本発明を構成する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ペダル動作に起因した影響を再生音に与えることなく省電力を図ることができる。
【0019】
請求項2によれば、目標位置が第3の所定深さより深くなってもペダルの位置が第3の所定深さで安定するので省電力効果が高い。
【0020】
請求項3によれば、ペダル開放領域における無駄な動きをなくして省電力を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鍵盤楽器の外観図である。
【図2】自動演奏ピアノの主要部の機械的構成と機能及び電気的構成を示した図である。
【図3】自動演奏ピアノの機能構成を示すブロック図である。
【図4】ダンパペダルの動作の再生軌道の一例を示す図である。
【図5】ペダル負荷特性を示す図である。
【図6】自動演奏処理のフローチャートである。
【図7】図6のステップS104で実行されるペダル目標深さ変換処理のフローチャートである。
【図8】タイマ処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係る鍵盤楽器の外観図である。鍵盤楽器は、自動演奏ピアノ100として構成され、複数の鍵1、ダンパペダル110、ソステヌートペダル111、ソフトペダル112を備えている。また、自動演奏ピアノ100は、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)形式の演奏データを記録したDVD(Digital Versatile Disk)やCD(Compact Disk)等の記録媒体から演奏データを読み出すディスクドライブ120を備えており、譜面台の横には、自動演奏ピアノ100を操作するための各種メニュー画面等を表示すると共に、操作者からの指示を受け付ける機能を有する操作パネル130を備えている。
【0024】
図2は、自動演奏ピアノ100の主要部の機械的構成と機能及び電気的構成を示した図である。自動演奏ピアノ100は、鍵1に対応して設けられたハンマーアクション機構3、鍵1を駆動するソレノイド5、鍵センサ26、ダンパペダル110、ダンパペダル110の運動をダンパ6に伝達するダンパ機構9、ダンパペダル110を駆動するペダルソレノイド23、ダンパペダル110の位置を検出するペダル位置センサ24等を備える。
【0025】
図2において鍵1はハンマーアクション機構3に近い部分と演奏者により押下される部分のみを図示し、それ以外の部分の図示を省略している。また、図2においては、右側が演奏者側、左側が演奏者から見て奥側となる。また、鍵1は図2において紙面の表裏方向にわたって88個並設されており、ハンマーアクション機構3及び鍵センサ26も鍵1に対応して88個並設されている。
【0026】
鍵1は揺動自在に支持され、演奏者によって押下される。ハンマ2を備えたハンマーアクション機構3は、各鍵1に対応して張られている弦4を打撃する機構であり、演奏者により鍵1が押下されるとハンマ2が鍵1の動きに対応して弦4を打撃する。ソレノイド5は、鍵1を駆動するものであり、ソレノイド5を駆動する信号が供給されるとプランジャが変位する。プランジャが変位して鍵1を押し上げると、ハンマ2が鍵1の動きに対応して弦4を打撃する。また、鍵センサ26は、各鍵1の前端側(図の右側)の下方にそれぞれ配置されており、鍵1の位置や速度等の運動状態を検出し、検出した運動状態を示す信号を出力する。
【0027】
ダンパペダル110は、回転軸110aを中心にして回転するよう支持される。以下、図2において回転軸110aよりも右側をダンパペダル110の前端側、左側をダンパペダル110の後端側という。また、ペダルレバー110cと棚板11との間にはペダルレバースプリング12が取り付けられており、ダンパペダル110の前端側は、このペダルレバースプリング12とダンパ機構9により上方に押し上げられている。
【0028】
一方、ダンパペダル110の後端側には突上棒110bが連結されており、これにペダルソレノイド23と、ペダル位置センサ24とが設けられている。ペダル位置センサ24は、ダンパペダル110において演奏者により操作される操作部分の上下方向の位置を、突上棒110bの上下方向の位置を基にして検出し、検出した位置を表す信号(ya)を出力するものである。ペダル位置センサ24は、ダンパペダル110がレスト位置にある場合には上下方向の位置を示す値として「0」を表す信号を出力し、ダンパペダル110の操作部分が演奏者に踏まれて下がるにつれて出力する値が大きくなる。
【0029】
ダンパ機構9は、ダンパペダル110の運動をダンパ6に伝達するものである。演奏者が、ペダルレバースプリング12とダンパ機構9の付勢力に抗してダンパペダル110を踏み下げると、ダンパペダル110が回転軸110aを中心にして回転して突上棒110bが上昇する。この突上棒110bの運動はダンパ機構9を介してダンパ6に伝えられ、ダンパ6は弦4から離れる。演奏者がダンパペダル110から足を離すと、ペダルレバースプリング12とダンパ機構9の力によりダンパペダル110は所定位置に復帰し、ダンパ6が弦4を押さえつける。
【0030】
また、ペダルソレノイド23は、ダンパ6を駆動するための駆動手段であり、ペダルソレノイド23を駆動する信号(ui)が供給されるとプランジャが変位する。プランジャが変位してダンパ機構9を動かすとダンパ機構9の動きに対応してダンパ6が移動する。また、自動演奏ピアノ100は、ソフトウェアによって実現されるモーションコントローラ140を含むコントローラ10を備えている。
【0031】
図3は、自動演奏ピアノ100の機能構成を示すブロック図である。自動演奏ピアノ100は、バス101に接続されているCPU102、ROM103、RAM104、ディスクドライブ120、操作パネル130、電子音発生部160を備えており、これらはバス101を介して各種データを授受する。電子音発生部160は、音源回路とスピーカを備えており、音源回路はバス101から供給された信号に応じて楽音の信号を生成し、生成した信号をスピーカへ供給してスピーカから楽音を出力する。
【0032】
コントローラ10はCPU102、ROM103、RAM104を含む。CPU102は、RAM104を作業領域としてROM103に記憶された制御プログラムを実行する。ROM103に記憶された制御プログラムが実行されると、ディスクドライブ120から読み出した演奏データに従ってソレノイド5及びソレノイド23を駆動して自動演奏が実現される。
【0033】
モーションコントローラ140は、CPU102が制御プログラムを実行することにより実現する機能ブロックであり、鍵1の動き及びダンパペダル110の動きを制御するものである。モーションコントローラ140は、ソレノイド5に接続されたPWM信号発生部142aへ駆動信号を出力し、鍵センサ26に接続されたA/D変換部141aから信号を受け取る。モーションコントローラ140はさらに、ペダルソレノイド23に接続されたPWM信号発生部142bへ駆動信号を出力し、ペダル位置センサ24に接続されたA/D変換部141bから信号を受け取る。
【0034】
PWM信号発生部142aは、駆動信号をパルス幅変調(Pulse Width Modulation)方式の信号に変換し、変換後の信号(PWM信号)を各鍵1に対応したソレノイド5へ出力する。同様にPWM信号発生部142bは、駆動信号をパルス幅変調方式の信号に変換し、変換後のPWM信号(ui)をペダルソレノイド23へ出力する。ソレノイド5、ペダルソレノイド23は、出力されたPWM信号に応じてプランジャを変位させる。
【0035】
また、A/D変換部141aは、鍵センサ26から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、変換後のデジタル信号をモーションコントローラ140へ出力する。A/D変換部141bは、ペダル位置センサ24から出力されたアナログ信号(ya)をデジタル信号に変換し、変換後のデジタル信号をモーションコントローラ140へ出力する。
【0036】
自動演奏を行う際には、モーションコントローラ140は、MIDI形式の演奏データに基づいて、鍵1及びダンパペダル110をどのタイミングで動作させるかを規定するための、時間経過に対応した軌道を表す軌道データを生成する。そして、モーションコントローラ140は、軌道データに基づいて、鍵1及びダンパペダル110の駆動をフィードバック制御する。
【0037】
次に、本実施の形態におけるダンパペダル110の省電力駆動による制御について概説しておく。図4は、ダンパペダル110の動作の再生軌道の一例を示す図である。横軸に時間、縦軸にダンパペダル110の踏み込み深さ(レスト位置からの距離)をとる。
【0038】
演奏データは、演奏者の実際の演奏を別の鍵盤楽器にて記録する等により予め作成され、入手可能になっている。演奏データには、楽音の発生及び停止を規定する発音制御データとダンパペダル110の踏み込み深さを規定するペダル制御データとが含まれる。発音制御データは、鍵盤用のイベントデータ(ノートオン、ノートオフ等)であり、ペダル制御データは、ペダル深さとタイミングを規定するペダル用のイベントデータである。ただし、図4における踏み込み深さは、実際に検出されたダンパペダル110の位置ではなく、演奏データ中のペダル制御データによって規定される深さ(後述するペダル目標深さPOS1)である。
【0039】
レスト位置からエンド位置までのダンパペダル110の踏み込み行程において、踏み込みの影響がダンパ6に伝達されない遊び領域であって、弦4にダンパ6が当接している領域がミュート領域である。また、弦4に対するダンパ6の押接力の減少が開始される状態からダンパ6が弦4に対して非接触状態となるまでの領域がハーフペダル領域であり、その後、ダンパ6が弦4から完全に離間状態となる領域がペダル開放領域である。
【0040】
図4において、制限値LMT、ホールド深さHは、共にペダル開放領域に属し、制限値LMTは、ホールド深さHより深いがエンド位置より浅い。実線が、演奏データをそのまま再生(演奏データに従ったペダル駆動)した場合の軌道を示し、点線が、省電力駆動による軌道を示す。
【0041】
実線に沿えば、ダンパペダル110は、ホールド深さH、制限値LMTを過ぎてエンド位置近くまで駆動され、しばらくエンド位置近くに位置する。その後、制限値LMT、ホールド深さHよりも浅い側に一旦戻る。その後、再びホールド深さHを超え、制限値LMTの手前で戻り始めて、レスト位置まで復帰する。従来のように、演奏データの通りにモーションコントローラ140が制御を行い、ペダルソレノイド23を動作させてダンパペダル110を駆動した場合は、このように実線に沿った動作となる。
【0042】
ところが、省電力駆動を適用した場合は、点線のように動作する。すなわち、ダンパペダル110は、実線と同じ軌道を辿ってホールド深さHを超えると、それより深いペダル目標深さPOS1の値のいかんにかかわらず制限値LMTまで駆動されるが、制限値LMTに到達するとホールド深さHまで戻る。そして、ペダル目標深さPOS1がホールド深さHを下廻るまでその位置を維持し、ホールド深さHを下廻るとペダル目標深さPOS1に従って実線と同じ軌道を辿る。
【0043】
その後、再びホールド深さHを超えると、ペダル目標深さPOS1が制限値LMTより浅くても、一旦、強制的に制限値LMTまで達し、その後、ホールド深さHまで戻る。そして、ペダル目標深さPOS1がホールド深さHを下廻るまでその位置を維持し、ホールド深さHを下廻るとペダル目標深さPOS1に従って実線と同じ軌道を辿る。
【0044】
すなわち、ダンパペダル110の踏み込み深さがホールド深さHを超えた場合は、一律に制限値LMTまでダンパペダル110が到達してからホールド深さHに戻る。その後、ホールド深さHに維持するよう制御しているときには、ペダル目標深さPOS1がホールド深さHを下廻るまではその位置を維持するような制御が継続され、ペダル目標深さPOS1がホールド深さHより深い値となったとしてもダンパペダル110は動かない。
【0045】
次に説明するように、ホールド深さHを超えたときに制限値LMTに一旦到達させてからホールド深さHに戻すことは、ダンパペダル110の動作機構が有するヒステリシスの特性を有効に利用して、消費電力を軽減するという意義がある。
【0046】
図5は、ペダル負荷特性を示す図である。同図は、演奏データのペダル制御データが示すMIDI値に対応する踏み込み深さの位置にダンパペダル110を停止保持する場合の電流量を示す。ダンパペダル110を往復動作させて各位置で停止させたときの電流量をプロットしたものである。ダンパペダル110の動作機構は、各部の機械的な摩擦、撓み等の要因によりヒステリシス特性を有している。そのため、図5からもわかるように、ある同じ位置にダンパペダル110を静止維持するための駆動力は、踏み込み方向に駆動して静止させたときよりも、戻し方向に駆動して静止させたときの方が小さくて済む。
【0047】
また、ペダル開放領域の範囲内であれば、ダンパ6が弦4から離間しているという状態は変わらないため、再生される楽音の特性に違いはない。従って、ペダル開放領域の範囲内にダンパペダル110が位置する間であれば、あえてペダル制御データの通りにエンド位置まで駆動したり、深さ方向に細かく揺れる動作まで忠実に再現したりする必要はない。再生音に与える影響がないことから、むしろ一定位置に維持するのが省電力上好ましく、なるべく浅い位置で維持すれば一層好ましい。
【0048】
そこで本実施の形態では、ペダル開放領域のうちハーフペダル領域に近い位置をホールド深さHとして設定し、一旦、ダンパペダル110を制限値LMTまで位置させてから、戻り方向に移動させた状態でホールド深さHに安定維持するよう制御する。以下、これらの制御をフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0049】
図6は、自動演奏処理のフローチャートである。自動演奏ピアノ100においては、自動演奏モードやマニュアル演奏モードを含む各種モードが設定可能であり、図6の処理は自動演奏モードが設定されたときにCPU102により実行される。特にステップS103〜S106、S109はモーションコントローラ140の処理内容となる。
【0050】
まず、ディスクドライブ120から演奏データを読み出す(ステップS101)。次に、今回読み出した演奏データのイベントデータが、ペダル制御に関するもの(ペダル制御データ)であるか否かを判別し(ステップS102)、そうでない場合は、演奏データのイベントデータが、鍵制御に関するもの(キーイベント:発音制御データ)であるか否かを判別する(ステップS108)。
【0051】
ステップS102で、ペダル制御に関するものである場合は、演奏データ中のペダル制御データのMIDI値に応じたペダル目標深さPOS1のデータを生成し(ステップS103)、後述する図7のペダル目標深さ変換処理を実行する(ステップS104)。本実施の形態における省電力駆動の特徴は、図7(図6のステップS104)の処理にある。ただし、図7の処理によって、ペダル目標深さPOS1が実質的に変わらずにそのままの値が維持される場合もある。
【0052】
次に、ステップS104で変換された後のペダル目標深さPOS1に基づいて軌道生成処理を実行する(ステップS105)。この軌道生成処理では、時刻に応じてダンパペダル110が位置すべき深さの情報である「深さ指示値POS2」を生成する。次に、生成された深さ指示値POS2に従ってダンパペダル110が動作するようにペダルソレノイド23を制御するペダルフィードバック(F/B)制御処理を実行する(ステップS106)。
【0053】
このペダルF/B制御処理では、現時点の深さ指示値POS2と、ダンパペダル110の検出深さと、検出深さから算出されるダンパペダル110の速度とに基づいて、ダンパペダル110の位置が深さ指示値POS2に一致するような駆動信号を生成し、その駆動信号をPWM信号発生部142bに出力する。上記の検出深さは、A/D変換部141bから供給されるペダル位置センサ24による検出信号の値である。これにより、PWM信号発生部142bは、駆動信号に応じたPWM信号をペダルソレノイド23に供給し、プランジャが変位してダンパペダル110が駆動される。
【0054】
ステップS108の判別の結果、読み出したデータが鍵制御に関するものである場合は、演奏データ中の発音制御データに基づく鍵駆動制御処理を実行する(ステップS109)。この鍵駆動制御処理は公知の処理であり、発音制御データが示す目標位置から軌道を生成し、検出される鍵1の位置及び速度を用いてフィードバック制御を行う。
【0055】
ステップS108の判別の結果、鍵制御に関するものでない場合は、演奏データに関するその他処理を実行する(ステップS110)。ステップS106、S109、S110の処理後は、演奏データ以外のその他の処理、例えばマニュアル操作に関する処理等を実行して(ステップS107)、本自動演奏処理を終了する。
【0056】
図7は、図6のステップS104で実行されるペダル目標深さ変換処理のフローチャートである。まず、ペダル目標深さPOS1がホールド深さHを超えたか否かを判別し(ステップS201)、超えていない場合は、ホールドフラグを「OFF」にして(ステップS206)、ステップS205に進む。
【0057】
ステップS201で、ペダル目標深さPOS1がホールド深さHを超えると、ホールドフラグが「HOLD」であるか否かを判別する(ステップS202)。ホールドフラグが「HOLD」であることは、ペダル目標深さPOS1をホールド深さHと同じ値に変換している状態であることを示す。
【0058】
ステップS202で、ホールドフラグ=HOLDでない場合は、ペダル目標深さPOS1に、現在値に代えて制限値LMTを設定し(ステップS203)、ホールドフラグを「ON」に設定する(ステップS204)。これにより、ペダル目標深さPOS1がホールド深さHを超えた後は、ダンパペダル110が制限値LMTを目標として動作することになる。その後、ステップS205に進む。
【0059】
図8は、タイマ処理のフローチャートである。本タイマ処理は、図6の処理実行中に、一定時間間隔で(例えば5ms毎に)繰り返し実行される。まず、ホールドフラグ=ONとなると、カウンタCTをインクリメントし(ステップS302)、ステップS303でカウンタCT>設定値N(例えば所定時間(200ms)相当となる値)となるまでステップS301〜S303を繰り返す。そして、カウンタCT>設定値Nとなると、カウンタCTを0にリセットし(ステップS304)、ホールドフラグ=HOLDとして(ステップS305)、ペダル目標深さPOS1としてホールド深さHを軌道生成処理に出力し(ステップS306)、本処理を終了する。
【0060】
従って、図7のステップS203でペダル目標深さPOS1←制限値LMTとしてから所定時間が経過した後にホールドフラグ=HOLDとなる。ステップS202でホールドフラグ=HOLDである場合は、ペダル目標深さPOS1に、現在値に代えてホールド深さHを設定する(ステップS207)。これにより、ダンパペダル110が制限値LMTからホールド深さHに目標を変える。その後ステップS205に進む。
【0061】
上記の所定時間は、ダンパペダル110がちょうど制限値LMTに到達してからホールド深さHに戻り始めるような時間に設定する。なお、カウンタCTに代えて実際の時刻を計時するタイマを設けて所定時間を管理するようにしてもよい。
【0062】
ステップS205では、現在のペダル目標深さPOS1を出力する。ステップS203、S207では入力されたペダル目標深さPOS1の値が変換されて出力されるが、ステップS206を経由した場合は変換されることなくそのまま出力されることになる。
【0063】
本実施の形態によれば、ダンパペダル110は、ペダル開放領域においてホールド深さHを超えると一旦、制限値LMT付近まで到達してからホールド深さHに戻るので、ペダル動作に起因した影響を再生音に与えることなく、ペダル駆動におけるヒステリシス特性を有効に利用して省電力を図ることができる。また、その後にホールド深さHに維持するよう制御しているときには、ペダル目標深さPOS1がホールド深さHを下廻るまではその位置を維持するので、ペダル目標深さPOS1の振れ等に追従して無駄な動きをすることがなく、一定の位置に安定することから省電力効果が高い。
【0064】
また、上記した省電力駆動の制御は、ハードウェアの変更を伴わないので、従来からある鍵盤楽器に対して後付け等で容易に実現可能である。また、省電力の波及効果としては、ペダルソレノイド23の小型化、発熱量の抑制による放熱設計の容易化が考えられる。
【0065】
ところで、上記説明した省電力駆動の例では、ペダル目標深さPOS1の値によってダンパペダル110の動作を制御した。しかしこれに限られず、実際のダンパペダル110の位置を検出した値に基づいて上記と同様な省電力駆動を行うようにしてもよい。その場合は、例えば、図7のステップS201では、検出したダンパペダル110の深さがホールド深さHを超えたか否かを判別するようにする。さらに、図7のステップS204、図8のステップS301、S302、S304を廃止すると共に、ステップS303では、検出したダンパペダル110の深さが制限値LMTを超えたか否かを判別するようにする。
【0066】
あるいは、図6においてステップS104を廃止し、ペダル目標深さPOS1に代えて軌道生成処理(ステップS105)で生成した深さ指示値POS2に基づいて、図7に相当する変換処理をステップS106の前に実行するようにしてもよい。
【0067】
本実施の形態では、鍵盤楽器として構成したが、省電力駆動を実現するために演奏データの内容を書き替える演奏データ変換プログラムや、該変換プログラムを実行可能に組み込んだコンピュータを備える演奏データ変換装置も本発明の概念となり得る。
【0068】
その場合は、例えば、図7のステップS205で出力される変換後のペダル目標深さPOS1を一時的に記憶しておく。そして、演奏データの読み出しが一通り終了したら、一次記憶していたペダル目標深さPOS1を、変換後のペダル制御データとする。そして、演奏データ中のペダル制御データを、上記変換された後のペダル制御データに置き換えることで演奏データを更新する。このようにしてペダル制御データが書き替えられ更新された演奏データを用いれば、特別な制御をすることなく、従来の鍵盤楽器にそのまま適用しても、上記の省電力駆動が実現可能である。
【0069】
またこのほか、いくつかの変形例が適用可能である。まず、図7のステップS201とステップS207とで用いるホールド深さHは共通の値としたが、いずれもペダル開放領域内で制限値LMTよりも浅い別個の値としてもよい。
【0070】
また、ダンパペダル110の駆動と並行してなされる発音制御データに基づく発音は、鍵1を駆動することによる打弦によるものであったが、電子音発生部160を用いた電子発音であってもよい。その場合は、ダンパペダル110の位置に応じて、電子楽音の楽音特性を制御する。
【0071】
また、省電力の観点に限れば、ダンパペダル110を必ずしもペダル開放領域内で制御することは必須でなく、ミュート領域またはハーフペダル領域においても適用可能である。あるいは、ダンパペダル110(ラウドペダル)に限られず、ソステヌートペダル111、ソフトペダル112にも応用が可能である。さらには、グランドピアノやアップライトピアノに限らず、ペダル駆動機能を有する電子楽器に広く適用可能である。さらには、ペダルへの適用だけでなく鍵盤の鍵の動作に適用してもよい。アコースティックピアノのように複雑なアクションを有した鍵盤の駆動制御には特に有効である。
【0072】
また、省電力駆動の機能は有効、無効を設定できるように構成してもよい。例えば、ダンパペダル110の負荷が一定以上の場合に有効とする等、ユーザまたはダンパペダル110の動作状況により設定されるようにしてもよい。
【0073】
また、ダンパペダル110のフィードバック制御はサーボ制御でなくてもよい。例えば、ダンパペダル110の負荷がバネ特性で、駆動するペダルソレノイドの推力特性がダンパペダル110の位置に対してフラットな特性である場合は、推力を規定できるデューティを出力指示することで位置制御を行うようにしてもよい。
【0074】
また、演奏データは、ディスクドライブ120を介して読み出すことで入力されることとしたが、入力乃至取得の形式やルートは問わない。例えば、ネットワーク等を介した通信によってダウンロードする形で入力されるとしてもよい。楽器に内蔵する記憶装置から読み出してもよい。また、演奏データはMIDI形式に限られず、自動演奏のためのデータであればよい。従って、発音を規定するデータとペダル動作を規定するデータとを有したものであればよく、フォーマット形式も問わない。
【0075】
なお、本発明を達成するためのソフトウェアによって表される制御プログラムを記憶した記憶媒体を、本楽器に読み出すことによって同様の効果を奏するようにしてもよく、その場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が本発明の新規な機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。また、プログラムコードが伝送媒体等を介して供給されるようにしてもよく、その場合は、プログラムコード自体が本発明を構成することになる。なお、これらの場合の記憶媒体としては、ROMのほか、フロッピディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、DVD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード等を用いることができる。
【0076】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、上述した実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOS等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。さらに、記憶媒体から読出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 鍵、 23 ペダルソレノイド(駆動手段)、 102 CPU(制御手段)、 100 自動演奏ピアノ、 110 ダンパペダル、 120 ディスクドライブ(入力手段)、 H ホールド深さ(第1の所定深さ、第3の所定深さ)、 LMT 制限値(第2の所定深さ)、 POS2 深さ指示値(目標位置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵と、
ペダルと、
楽音の発生及び停止を規定する発音制御データとペダルの踏み込み深さを規定するペダル制御データとを含んだ演奏データを入力する入力手段と、
前記ペダルを駆動する駆動手段と、
前記入力手段により入力された演奏データにおける前記ペダル制御データに基づいて前記駆動手段を制御する制御手段とを有し、
前記制御手段は、前記駆動手段を制御することにより前記ペダルの踏み込み深さが第1の所定深さを超えた場合は、前記第1の所定深さより深い第2の所定深さまで前記ペダルが到達してから前記第2の所定深さよりも浅い第3の所定深さに位置するように前記駆動手段を制御することを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ペダル制御データに基づき前記ペダルの目標位置を定めて前記駆動手段を制御するものであり、前記ペダルが前記第2の所定深さまで到達した後であって前記第3の所定深さに位置するよう制御しているときには、前記目標位置が前記第3の所定深さを下廻るまでは前記第3の所定深さに位置させる制御を継続することを特徴とする請求項1記載の鍵盤楽器。
【請求項3】
前記第1の所定深さ及び前記第3の所定深さは、共にハーフペダル領域よりも深い位置であることを特徴とする請求項1または2記載の鍵盤楽器。
【請求項4】
ペダルを駆動する駆動手段を有する鍵盤楽器の制御方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記制御方法は、
楽音の発生及び停止を規定する発音制御データとペダルの踏み込み深さを規定するペダル制御データとを含んだ演奏データを入力する入力手順と、
前記入力手順により入力された演奏データにおける前記ペダル制御データに基づいて前記駆動手段を制御する制御手順とを有し、
前記制御手順は、前記駆動手段を制御することにより前記ペダルの踏み込み深さが第1の所定深さを超えた場合は、前記第1の所定深さより深い第2の所定深さまで前記ペダルが到達してから前記第2の所定深さよりも浅い第3の所定深さに位置するように前記駆動手段を制御することを特徴とするプログラム。
【請求項5】
コンピュータに実行させる演奏データ変換プログラムであって、
楽音の発生及び停止を規定する発音制御データとペダルの踏み込み深さを規定するペダル制御データとを含んだ演奏データを入力する入力手順と、
前記入力手順により入力された演奏データにおける前記ペダル制御データを変換する変換手順と、
入力された前記演奏データにおけるペダル制御データを、前記変換手順により変換された後のペダル制御データに置き換えることで、前記演奏データを更新する更新手順とを実行させるプログラムであり、
前記変換手順は、前記ペダル制御データが示す前記ペダルの踏み込み深さが第1の所定深さを超えた場合は、前記第1の所定深さより深い第2の所定深さまで前記ペダルが到達してから前記第2の所定深さよりも浅い第3の所定深さに位置するように前記ペダル制御データを変換することを特徴とする演奏データ変換プログラム。
【請求項6】
請求項5記載の演奏データ変換プログラムが実行可能に組み込まれたコンピュータを備えることを特徴とする演奏データ変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−220557(P2012−220557A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83557(P2011−83557)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)