説明

鎮痛剤及び鎮痛システム

【課題】水酸化カルシウムを含有する水溶液を少量投与することにより、通常のカルシウム剤では見られない鎮痛効果を奏する鎮痛剤及び鎮痛システムを提供する。
【解決手段】水酸化カルシウムを含有する水溶液からなる鎮痛剤、または非毒性カルシウム材料を含有する水溶液を電気分解によってカルシウムイオンの溶解度を高めたものを含む鎮痛剤、及びこのいずれかの鎮痛剤を成人1日あたりカルシウムイオンとして20〜120mgの投与量で投与することを特徴とする鎮痛システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鎮痛剤及び鎮痛システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、痛みに関してはシクロオキシゲナーゼの作用を阻害し、発痛増強物質であるプロスタグランジンの生成を阻害することにより鎮痛効果を発揮する非ステロイド消炎鎮痛剤や、オピオイド神経を興奮させ、下降性疼痛制御により、侵害受容器(痛みを感じる受容器)で発生した興奮の伝達を遮断し上行性疼痛伝達をとめることにより中枢鎮痛作用をしめすモルヒネなどの麻薬製剤などが使用されてきた。それらの従来使用されている鎮痛剤は、必ずと言ってよいほど副作用があり、投与には慎重な配慮などが必要であった。
【0003】
特殊な鎮痛効果のある商品としては、骨粗鬆症の疼痛緩和剤としてカルシトニン製剤もよく知られている。作用機序としては不明な部分も多いが、カルシトニンがC繊維終末部分のセロトニン受容体の数を正常化することにより、効果を発揮しているという報告があり(非特許文献1)、椎体骨折により生じた疼痛に対する鎮痛効果に関するシステマティックレビュー(世界中からの論文をあらかじめ定めた基準で網羅的に収集し、批判的評価を加え、要約し、公表する)では、治療開始1〜4週間後から、継続的に日常生活動作での疼痛スコアが本剤投与により有意に低下すると結論されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】CLINICAL CALCIUM 15(3):2005
【非特許文献2】Calcitonin for treating acute pain of osteoporotic vertebral compression fractures: a systematic review of randomized, controlled trials.Osteoporos Int/16巻,10号,1281-90頁、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、水酸化カルシウムを含有する水溶液を少量投与することにより、通常のカルシウム剤では見られない鎮痛効果を奏する鎮痛剤及び鎮痛システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の発明に係る。
1.水酸化カルシウムを含有する水溶液からなる鎮痛剤。
2.水酸化カルシウム以外の非毒性カルシウム材料を含有する水溶液を電気分解等によってカルシウムイオンの溶解度を高めたものを含む鎮痛剤。
3.水酸化カルシウムを含有する水溶液を電気分解によってカルシウムイオンの溶解度を高めたものを含む鎮痛剤。
4.上記1〜3のいずれかの鎮痛剤を成人1日あたりカルシウムイオンとして20〜120mgの投与量で投与することを特徴とする鎮痛システム。
【0007】
カルシウムの主要作用は、生体内必要ミネラルとして、骨、歯を強化し、骨軟化症・骨粗しょう症を予防するなどの効果を発揮することが知られている。また、カルシウムは、歯、骨の形成だけでなく、筋肉の収縮、神経刺激の伝達、血液凝固因子の活性化、細胞増殖、ホルモンの調節、酵素の補助因子など生体内の多彩な作用に関係していることが知られているが、通常カルシウム補給剤としては、カルシウム量として一日300mg〜600mg程度の量を使用されていることが多い成分であり、鎮痛目的で使用されることはない成分である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水酸化カルシウムを含有する水溶液からなる製剤を少量使用した場合に優れた鎮痛効果があることを発見し、また、低用量投与のため高カルシウム血症などの副作用も起こしにくいという優れた治療効果があることを見出した。
【0009】
一般にカルシウム補給剤は、その吸収性にバラつきがあるため、投与量が過量な傾向があり、カルシウムの過量投与による一時的な高カルシウム血症や消化器障害などの副作用との関連が指摘され、安全性の高い製剤の開発が望まれているが、本発明は少量投与でも効果が見られるためそのような副作用の心配もなく安全に使用できる製剤である。
【0010】
また、本発明の鎮痛剤は今までに使用されている鎮痛剤となんら差し支えなく併用でき、併用による相乗効果も望むことができ大変メリットのある鎮痛剤である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はラットに水酸化カルシウム水溶液1回投与後の血清Ca及びPi濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水酸化カルシウムを含有する水溶液は、更に言えばカルシウムイオンを含有する水溶液であり、水酸化カルシウムを水に溶解する方法、非毒性カルシウム材料を含有する水溶液を電気分解によってカルシウムイオンの溶解度を高める方法などにより得ることができる。
【0013】
非毒性カルシウム材料として水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、牛骨粉、竜骨等を挙げることができるが、水酸化カルシウムの使用が望ましく、カルシウムイオンの水への溶解度等を上げるため電解処理を行なうことも差し支えない。他の処理としては、水溶化しにくいカルシウム原料を水溶化するためにクエン酸、塩酸、酢酸などの酸やその他の非毒性物を加えることも差し支えない。
【0014】
本発明の鎮痛剤は、大量に服用しなければならないカルシウム補強剤と違い、胃腸障害などの副作用も心配ないことから空腹時投与が可能であり、空腹時投与が可能であることからカルシウムの吸収阻害の影響を与えるシュウ酸や脂肪酸などを含む食事の影響を受けない投与が可能である。また、通常のカルシウム補強剤は胃酸によるカルシウムへの作用が無いと吸収される形にならないが、本発明の水酸化カルシウム水溶液は初めから吸収される形になっていることから速やかに吸収が望める製剤である。
【0015】
本発明の鎮痛剤は、種々の形態で人に投与することができる。そのような形態としては、例えば、経口剤、注射剤、直腸坐剤、外用剤(軟膏剤、貼付剤など)のいずれでもよいが、特に経口剤、更には水溶液の形態が好ましい。これら製剤は当業者に周知の慣用方法により製造できる。
【0016】
上記の製剤中に配合されるべきカルシウムイオンの量は、これを投与すべき患者の症状により、あるいはその剤型などにより適宜定め得るが、一般に、投与単位当たり約5〜100mgとするのが望ましい。
また、水溶性カルシウムの1日当たりの投与量も、患者の症状、体重、年齢、性別、その他の条件に応じて変動し得るが、約20〜120mgとするのが望ましく、特に32〜48mgとするのが好ましい。
【0017】
本発明の鎮痛剤は、医薬品として水溶化カルシウム製剤の通常の承認されている効果とは異なる鎮痛効果を有し、特に以下の用途などに有効であった。
骨・筋肉系の痛み(関節痛、腰痛、肩痛、筋肉痛、リウマチ、変形性関節痛、ヘルニア、半月板損傷、腱鞘炎など)
消化器系(胃痛、胃潰瘍、慢性胃炎など)
神経系(坐骨神経痛、三叉神経痛、顔面神経痛など)
その他(頭痛、生理痛、痛風、尿路結石、歯痛など)
【0018】
本発明の水酸化カルシウム水溶液の鎮痛効果は、水酸化カルシウム水溶液を少量投与後、速やかに吸収され、血中カルシウム濃度が上昇し、その刺激によりカルシトニンが分泌され、カルシトニンによる鎮痛効果が作用しているのではないかと推察される。しかし、カルシトニンの鎮痛効果は1〜4週間程度の期間中に現れることが多いが、本発明の実施例からは、ごく短期、または長期間投与による改善効果も見られていることなどから、カルシトニン分泌促進によるカルシトニン鎮痛効果以外の作用による鎮痛効果もあると推察されるがその正確な作用機序は不明である。
【0019】
カルシトニン分泌の内容に関し、動物実験による「水酸化カルシウム経口投与によるカルシウムの体内動態とその作用に関する研究」のデータを記載し、その根拠とする。
【0020】
ウイスター系ラット(4週齢)を固定飼料(オリエンタル酵母)で飼育し、実験に使用する一夜前に絶食して用い、ラットに水酸化カルシウム溶液を1.6mg(2ml水溶液中にカルシウムとして1.6mgを含む)/100g体重の割りで胃ゾンデにより、1回投与した。投与後15,30,60,90分目に、軽いエーテル麻酔下で心臓せん刺により採血し、採血後、室温において20〜30分間放置し、遠心分離して血清を得た。得られた血清は、氷中で保存した。その血清を用い、血清カルシウム濃度および無機リン濃度を測定した。測定結果は図1に示す。図1で示したとおり、水酸化カルシウム水溶液経口投与後15ならびに30分目に血清カルシウム濃度は有意に上昇した。一方血清中無機リン値は、水酸化カルシウム水溶液投与後30分目に有意に低下した。このカルシウムとリンの変動は水酸化カルシウム水溶液投与時に血清カルシウム値の有意な上昇が引き起こされたが、このことは甲状腺からのカルシトニンの分泌を刺激し、このものは血清カルシウム値の上昇を抑制するとともに、血清中無機リン値の低下をもたらす。したがって、水酸化カルシウム水溶液投与後の血清無機リン値の低下は、血清中に上昇したカルシウムによるカルシトニン分泌増大に起因するものと推察された。また、上記動物実験データより水酸化カルシウム水溶液の吸収の速さについても確認するに至った。
【0021】
以下、実施例によって本発明を説明するが、実施例は、本発明の好適な態様を示すためのものであり、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明の痛み改善症例を下記表1〜2に示す。用いた鎮痛剤は水酸化カルシウムを水溶化し、電気分解処理によりカルシウムイオンの溶解度を高めた製剤で、100mlの水溶液中にカルシウムイオンを80mgの割合で含有するもので、以下においてE−Caと記す。表1は水酸化カルシウム水溶液投与による鎮痛効果症例一覧及びその投与量を示す。表2は水酸化カルシウム水溶液投与による鎮痛効果症例一覧及びその効果発現期間を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
症状としては関節痛・腰痛関連による痛みが多かったが、表からこれらに関連する痛みの緩和だけでなく消化器系、神経系などの様々な痛みに対して広く緩和作用が現れていることが判明した。
【0026】
鎮痛に対する有効服用量について調べるため、服用者の一日の服用量をまとめたところ、40mlまでの服用例が38%で、60mlを服用した例が29%、70ml以上の例が33%あった。また、その他の疾患の痛みに対するよりも関節痛・腰痛関連の痛みに使った方が、少量の投与で効果を示すことがわかった。
【0027】
次に、痛みの効果発現が見られるまでの服用期間について調べた。痛みの軽減が見られるまでの期間は、10日以内が17.5%、10日から1ヶ月以内が38.1%、1ヶ月から3ヶ月以内が17.5%、3ヶ月から半年以内が17.5%、半年以上が9.5%であった。興味あることに服用して1ヶ月前後に効果が得られたという例が27%と最も多かった。これはカルシトニン製剤が鎮痛効果を発揮する期間によく似ている。
【0028】
以下に具体的な実施例を記載する。
【実施例1】
【0029】
65歳、女性
腰痛。E−Ca 20ml(カルシウムとして16mg)を1日2回朝食前と就寝前に服用した。服用後約半年で骨粗鬆症から来る腰痛が改善した。
【実施例2】
【0030】
78歳、女性
膝関節痛、痛みがひどく歩行に支障があった。E−Ca 20ml(カルシウムとして16mg)を1日2回朝食前と夕食前に服用した。約1ヶ月で散歩ができるようになるまで症状が改善した。
【実施例3】
【0031】
57歳、女性
膝関節痛、膝関節に水がたまり痛い。E−Ca 20ml(カルシウムとして16mg)を1日2回朝食前と夕食前に服用した。600ml服用した15日後には症状が改善した。
【実施例4】
【0032】
67歳、男性
腰痛。E−Ca 50ml(カルシウムとして40mg)を1日3回朝食前、昼食前、就寝前に服用したところ、痛みが改善した。
【実施例5】
【0033】
70歳、女性
膝痛。E−Ca 40ml(カルシウムとして32mg)を1日3回朝食前、昼食前、夕食前に服用した。3週間ほどで症状が改善した。2〜3ヶ月で症状が消えるが、服用を中止すると痛みが再発した。予防として服用を続けている。鎮痛剤は併用していない。
【実施例6】
【0034】
60歳、女性
腰痛。E−Ca 30ml(カルシウムとして24mg)を1日2回朝食前、就寝前に服用した。2週後には症状が改善した。鎮痛剤は併用していない。
【実施例7】
【0035】
35歳、女性
三叉神経痛、激しい痛みで1日6〜7錠鎮痛剤を使用しても効かない。痛みのため食事ができず、ハミガキもできない。気分も不安定になる。痛むときや痛みで気分が不安定になる時にE−Ca 50ml(カルシウムとして40mg)を1日3回朝食前、昼食前、就寝前に服用した。2週間後には、鎮痛剤も全く服用しなくても良くなった。
【実施例8】
【0036】
39歳、男性
尿路結石。E−Ca 30ml(カルシウムとして24mg)を1日2回朝食前、夕食前に服用した。10ヵ月後症状が改善し、2年後には胆石がなくなっていた。
【実施例9】
【0037】
45歳 男性
虫歯の痛み、効いていた鎮痛剤が全く効かなくなった。顔色が悪く頬が腫れていた。E−Ca 40ml(カルシウムとして32mg)を服用して、10分程度口に含んだままにしてもらう。10分ほどしているうちに、痛みが治まってきた。その後、鎮痛剤と併用している。
【実施例10】
【0038】
53歳 男性
風邪を引きやすい、仕事柄神経を使うと胃が痛くなる。E−Ca 30ml(カルシウムとして24mg)を1日2回朝食前、就寝前に服用した。2ヶ月くらいで胃の痛みがなくなった。その後、風邪も引きにくくなり、また、疲れにくくなった。
【実施例11】
【0039】
49歳 女性
激しい頭痛があり、特に右側に肩こりもあった。もともと生理不順で冷え性、神経質なタイプであった。E−Ca 20ml(カルシウムとして16mg)を1日2回朝食前、就寝前に服用した。1ケ月後には頭痛の症状は大変楽になり頭痛回数が激減した。3ケ月後もうほとんど痛まなくなり、常用していた漢方薬(加味逍遥散など)を休止している。
【0040】
以上の実施例からも、水溶化してあるカルシウム製剤を少量使用することにより、通常のカルシウム製剤の効果ではみられない、痛みを改善する効果(鎮痛効果)を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の水酸化カルシウムを含有する水溶液からなる製剤は鎮痛剤として有用である。
また、本発明の鎮痛剤は今までに使用されている鎮痛剤となんら差し支えなく併用でき、併用による相乗効果も望むことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウムを含有する水溶液からなる鎮痛剤。
【請求項2】
非毒性カルシウム材料を含有する水溶液を電気分解によってカルシウムイオンの溶解度を高めたものを含む鎮痛剤。
【請求項3】
非毒性カルシウム材料が水酸化カルシウムである請求項2に記載の鎮痛剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの鎮痛剤を成人1日あたりカルシウムイオンとして20〜120mgの投与量で投与することを特徴とする鎮痛システム。


【図1】
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【公開番号】特開2010−159216(P2010−159216A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1313(P2009−1313)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(300032112)森田薬品工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】