説明

鏡へのダイレクトUVインクジェット印刷方法

【課題】UVインクジェット印刷機により鏡へダイレクト印刷を行ことを可能にする。
【解決手段】鏡の表面に紫外線吸収層3を構成することで、鏡内に進入する紫外線光量を低減させることにより、散乱反射による紫外線光でのヘッドノズルのインキ硬化を防ぐことが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来実用に際して困難であったUVインクジェット印刷方法による鏡へのダイレクト印刷を可能とした技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
鏡へのダイレクト印刷方法として、一般的なスクリーン印刷方法があるが、カラーグラデーション、写真画像の再現に乏しいことから、品質的に制限があり、汎用性の低い印刷方法である。
また、UVインクジェット印刷での方法も挙げられるが、インクを硬化させるために照射する紫外線光が鏡面で散乱反射し、その反射光がUVインクジェット印刷機のインクヘッドノズル内外のUVインクを硬化させることで、ノズルの目詰まりを引き起こす問題が発生するので、UVインクジェット印刷方法では採用されていない状況にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
UVインクジェット印刷で鏡にダイレクト印刷を行うと、インクを硬化させるために照射する紫外線光が鏡の蒸着層1で反射し、ガラス層2で散乱反射を起こし、その反射光がUVインクジェット印刷機のインクヘッドノズル内外のUVインクを硬化させることで、ノズルの目詰まりを引き起こすので、鏡内の散乱反射光を抑制する必要がある。
そこで、本発明の目的は、カラーグラデーション、写真画像の再現が良好であるUVインクジェット印刷によりダイレクト印刷が可能となる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
紫外線光吸収層を形成した鏡によるUVインクジェット印刷機でのタイレクト印刷方法。
紫外線光吸収層の形成として、下地処理液に紫外線吸収剤を添加したものを使用するダイレクト印刷方法。
紫外線吸収剤として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、オクチル系、ケイ皮酸類、パラアミノ安息香酸系、サリチル酸誘導体を使用するダイレクト印刷方法。
【0004】
鏡の表面に紫外線光吸収層3を形成する方法としては、UVインクを硬化させる紫外線光波長(200nm〜400nm)を吸収する層が形成できれば、いかなる方法でも構わない。
好ましくは、印刷実施前に施す下地処理液に紫外線吸収剤を添加したものを塗工する方法が生産効率上好ましい。
塗工方法としては、ガラス表面上に均一に塗布できれば、いかなる方法でも構わないが、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、スピンコートが例示できる。
【0005】
また、紫外線光吸収層3は、鏡の特性を維持する上で、透明なものが好ましいが、印刷後に印刷されない部分が拭取り可能なものであれば、透明でなくても構わない。
更に、紫外線吸収剤は、上記の波長領域を吸収できるものであればいかなるものでも構わないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、オクチル系、ケイ皮酸類、パラアミノ安息香酸系、サリチル酸誘導体が例示できる。これら使用について、効果が得られれば、単独使用でも構わないが、複数を混合したものを使用することが可能である。
【0006】
ベンゾフェノン系では、2,4−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンなどが例示できる。
ベンゾトリアゾール系では、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’−t−ブチル−2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−t−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2、2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾール2yl)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール〕、α−〔3−[3−(2H−ベンゾトリアゾール2yl)−5−(1,1−ジメチレチル)−4−ヒドロキシフェニル]−1−オキソプロピル〕−ω−ヒドロキシポリ(オキソ−1,2−エタンジイル)、4−t−ブチル−4−メトキシ−ベンゾイルメタン等が例示できる。
【発明の効果】
【0007】
紫外線光吸収層3の形成について種々検討したところ、UVインクの硬化に必要な波長(280、360nm)が吸収層により吸収されていることが実施例から確認できる。これにより紫外線光が、鏡の散乱反射を低減することとなり、それによりUVインクジェット印刷機のインクヘッドノズルの目詰まり要因を排除することで、鏡へのダイレクト印刷が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
攪拌機を有する容器内に下地処理剤と紫外線吸収剤を添加したものを攪拌する。十分攪拌されたスラリー乃至、液体をスプレー散布できる機材(恵宏製作所製エコーGR−310高微粒化エアースプレーガン)を用いて鏡表面に80g/mを塗布する。下地処理剤が乾燥した後、UVインクジェット印刷機(富士写真フイルム製インカSP−320)によりダイレクト印刷を行う。
【実施例】
【0009】
実施例および比較例で使用した下地処理剤/紫外線吸収剤は次の通りである。
下地処理剤A : アトミック製液体プライマー
下地処理剤B : アトミック製UVプライマー
紫外線吸収剤A : 酸化チタン、石原産業株式会社製 TTO−S−3(平均粒径/0.01〜0.1μm)
紫外線吸収剤B : フェニルサリチレート(関東化学)
紫外線吸収剤C : 2−ヒドロキシベンゾフェノン(関東化学)
【0010】
各物性の良否の判断基準は、次のとおりである。
▲1▼紫外線透過率(紫外可視光分光光度計にて280、360nm測定)透過率が5%以下なら問題は発生しない。
▲2▼印刷後の密着性(クロスカット法試験 : JIS K5600−5−6に準じた方法)
○:良好 ×:剥離
▲3▼拭取り評価
○:拭取り可能 ×:拭取りできない
【0011】
実施例1
200mlビーカーに下地処理剤A/99.9gと紫外線吸収剤A/0.1gを添加したものを攪拌する。十分攪拌したものを市販の霧吹き(30ml容器)に入れ、A4サイズの鏡面に 5gをスプレー散布した。下地処理剤が乾燥した後、各物性測定およびUVインクジェット印刷機によりダイレクト印刷を実施した。その結果、鏡のダイレクト印刷が可能であった。
実施例2、3
紫外線吸収剤Aの代わりに紫外線吸収剤B、Cを使用した以外は実施例1と同じ方法で実施した。
比較例1
下地処理剤Aのみを市販の霧吹き(30ml容器)に入れ、A4サイズの鏡面に5gをスプレー散布した。下地処理剤が乾燥した後、各物性測定およびUVインクジェット印刷機によりダイレクト印刷を実施した。その結果、印刷機のインクヘッドノズルに目詰まりが発生した。
比較例2
200mlビーカーに下地処理剤B/99.9gと紫外線吸収剤A/0.1gを添加したものを攪拌する。十分攪拌したものを市販の霧吹き(30ml容器)に入れ、A4サイズの鏡面に5gをスプレー散布した。下地処理剤が乾燥した後、各物性測定およびUVインクジェット印刷機によりダイレクト印刷を実施した。その結果、鏡面に塗工した下地処理剤が拭取りできず凹凸が残った。
比較例3
200mlビーカーに下地処理剤A/80gと紫外線吸収剤A/20gを添加した物を攪拌する。十分攪拌したものを市販の霧吹き(30ml容器)に入れ、A4サイズの鏡面に5gをスプレー散布した。下地処理剤が乾燥後、各物性測定及びUVインクジェット印刷機によりダイレクト印刷を実施した。その結果、鏡面とインキの密着性が悪くテープ剥離試験を行うとインクが剥離した。
【0012】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0013】
鏡への印刷は、スクリーン印刷が一般的であるが、カラーグラデーション、写真画像印刷の再現において品質的に限界があった。UVインクジェット印刷によるダイレクト印刷が可能になったことで、高品質の多色グラデーションや写真画像印刷が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】鏡を側面から切り出した断面図である。
【符号の説明】
1水銀蒸着層
2ガラス層
3紫外線吸収層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線光吸収層を形成した鏡によるUVインクジェット印刷機でのダイレクト印刷方法。
【請求項2】
紫外線光吸収層の形成として、下地処理液に紫外線吸収剤を添加したものを使用する請求項1に記載のダイレクト印刷方法。
【請求項3】
紫外線吸収剤として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、オクチル系、ケイ皮酸類、パラアミノ安息香酸系、サリチル酸誘導体を使用する請求項2に記載のダイレクト印刷方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−78531(P2009−78531A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276972(P2007−276972)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000175250)三浦印刷株式会社 (7)
【Fターム(参考)】