説明

鏡止めボルト及びトンネル掘削方法

【課題】土留め部材により切羽の崩れを確実に防止できるようにして、且つ、切羽を能率良く掘削できるようにした鏡止めボルト及びこの鏡止めボルトを用いたトンネル掘削方法を提供する。
【解決手段】鏡止めボルト7の後端に径方向外方に突出する土留め部材75を設け、この土留め部材75の前面に切羽を掘削するための刃部を取付ける。鏡止めボルト7の複数本をトンネル1の切羽6に打ち込んだ後、各鏡止めボルト7を切羽6に回転させつつ押し込むことにより、土留め部材75の刃部で切羽6を掘削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂土や砂質土等の未固結層や崩落性の高い軟岩等から成る軟弱な地山でのトンネルの掘削に好適な鏡止めボルト及びこの鏡止めボルトを用いたトンネル掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱な地山でのトンネルの掘削に際しては、トンネルの切羽に地山状況に応じた所定ピッチで複数の鏡止めボルトを打ち込み、掘削中に切羽が崩れないようにしている。そして、従来、切断が比較的容易なグラスファイバー製の鏡止めボルトを用い、この鏡止めボルトを打ち込んだ切羽を鏡止めボルトごと掘削する工程と、鏡止めボルトが残っている状態で切羽に新たな鏡止めボルトを打ち込む工程とを繰り返して掘削を進めていくトンネル掘削方法が知られている。
【0003】
然し、この掘削方法では、高価なグラスファイバー製ボルトが消耗品として扱われるため、コスト的に不利である。そこで、従来、鏡止めボルトとして鋼製のものを用い、トンネルの切羽に複数の鏡止めボルトを打ち込んだ後、鏡止めボルトの後部が露出するように鏡止めボルトを避けて切羽を掘削する工程と、鏡止めボルトを掘削後の切羽に押し込む工程とを繰り返すようにしたトンネル掘削方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この掘削方法によれば、同一の鏡止めボルトを用いて掘削を進めることができるため、工費が安くなる利点がある。然し、鏡止めボルトを避けて切羽を掘削する関係で、掘削作業が面倒になって時間がかかり、工期が長引く不具合がある。
【0005】
また、前後方向に長手のボルト本体の後端に、ボルト本体の径方向外方に突出する板状の土留め部材を着脱自在に取付けて成る鏡止めボルトを用いてトンネルを掘削する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。このものでは、切羽に打ち込んだ複数の鏡止めボルトのうちの一部の鏡止めボルトの土留め部材を取外して、この鏡止めボルトの後部が露出するように鏡止めボルトを避けて切羽を掘削した後、この鏡止めボルトを掘削後の切羽に押し込んでその後端に土留め部材を取付けることを順に全ての鏡止めボルトに対して行う。
【0006】
これによれば、周辺を掘削中の鏡止めボルト以外の鏡止めボルトの後端の土留め部材により切羽面が押えられるため、切羽の崩れがより確実に防止される。然し、このものでは、上記従来例と同様に鏡止めボルトを避けて切羽を掘削する必要があると共に、掘削の度に土留め部材を着脱することが必要になり、工期の短縮化を図ることはできない。
【特許文献1】特開平7−127388号公報
【特許文献2】特公昭59−45074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、土留め部材により切羽の崩れを確実に防止できるようにして、且つ、切羽を能率良く掘削できるようにした鏡止めボルト及びこの鏡止めボルトを用いたトンネル掘削方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願の第1発明は、トンネルの切羽に打ち込む鏡止めボルトであって、前後方向に長手のボルト本体と、ボルト本体の後端にボルト本体の径方向外方に突出するように設けられる土留め部材とを備えるものにおいて、土留め部材の前面に切羽を掘削するための刃部が取付けられていることを特徴とする。
【0009】
また、本願の第2発明は、上記第1発明の鏡止めボルトを用いたトンネル掘削方法であって、この鏡止めボルトの複数本をトンネルの切羽に打ち込んだ後、各鏡止めボルトを切羽に回転させつつ押し込むことにより、土留め部材の刃部により切羽を掘削することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、鏡止めボルトの後端の土留め部材により切羽面が押えられ、切羽の崩れが確実に防止される。また、鏡止めボルトを切羽に回転させつつ押し込むことにより、土留め部材の刃部で切羽が掘削される。そのため、鏡止めボルトが掘削の邪魔にならず、切羽を能率良く掘削できる。更に、掘削に際し、土留め部材を一々着脱する必要がなく、切羽の能率的な掘削が可能になることと相俟って、工期の短縮化を図ることができる。
【0011】
尚、本発明の鏡止めボルトでは、基本的に土留め部材を着脱する必要はない。但し、土留め部材がボルト本体に着脱自在であれば、土留め部材の刃部が摩耗したときに土留め部材を交換することができ、有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2を参照して、1は、砂土や砂質土等の未固結層や崩落性の高い軟岩等から成る軟弱な地山に掘削するトンネルを示している。トンネル1の掘削済みの部分の底面には、コンクリート製のインバート2が築造される。そして、トンネル1の内面に沿わせてアーチ状の鋼製支保工3を建込み、この鋼製支保工3の左右両側部の下端をインバート2の左右両側部に結合して、トンネル断面を閉合している。また、トンネル1の内面にコンクリートを吹き付けて支保コンクリート層4を形成している。更に、トンネル1の周囲の地山に、掘削した周壁面の支保用のロックボルト(図示省略)を支保コンクリート層4を通して放射状に複数打ち込むと共に、斜め前方にのびる先受け鋼管5を打設している。
【0013】
ところで、軟弱な地山では、トンネル1の切羽6の掘削時に、図1(a)に仮想線で示すような滑り面aで切羽地山の滑りを生じ、切羽6が崩れることがある。そこで、切羽6に、トンネル断面の天井部から左右両側部に亘るアーチ状の線に沿って比較的狭い間隔で複数本のルーフ用ロックボルト7´を打ち込んでルーフを形成し、ルーフ形成部分の内側の切羽6の部分に複数本の鏡止めボルト7を打ち込んでいる。これによれば、滑り面aより奥の地山に対する鏡止めボルト7の前半部分の摩擦で鏡止めボルト7の引抜きが抑制される。そして、この鏡止めボルト7の後半部分と滑り面aの手前の切羽地山との間の摩擦抵抗で切羽地山が滑り止めされ、切羽6の崩れが防止される。
【0014】
ここで、鏡止めボルト7は、図3に示す如く、前後方向に長手の鋼管製のボルト本体71と、ボルト本体71の前端に固定した、前面に刃部72aを取付けた削孔ビット72と、削孔ビット72に形成した吐水孔72bに給水するボルト本体71内の給水パイプ73と、ボルト本体71の後端に固定した雄型のジョイント部74とを備えている。ジョイント部74には、図示省略した削孔機のドリフタにより前後動及び回転駆動されるロッド8がその前端の雌型のジョイント部81において着脱自在に連結される。ロッド8は、中空で、内部にジョイント部81,74を介して鏡止めボルト7の給水パイプ73に連通する給水パイプ82が挿通されている。また、削孔ビット72には、ボルト本体71の内部空間に連通する排土孔72cが形成されている。ボルト本体71の内部空間はジョイント部74,81を介してロッド8の内部空間に連通する。
【0015】
切羽6への鏡止めボルト7の打ち込みに際しては、鏡止めボルト7の後端のジョイント部74にロッド8の前端のジョイント部81を連結し、この状態でロッド8を回転させつつ前進させる。これにより、鏡止めボルト7は切羽6に削孔ビット72で削孔しつつ打ち込まれる。削孔部分の土は削孔ビット72の吐水孔72bからの水と混合して泥水となり、削孔ビット72の排土孔72cから鏡止めボルト7の内部空間とロッド8の内部空間とを介して排出される。
【0016】
尚、ルーフ用ロックボルト7´の構造も鏡止めボルト7の上述した構造と同様であり、ロッド8を用いて切羽6に打ち込まれる。
【0017】
但し、鏡止めボルト7は、ルーフ用ロックボルト7´と異なり、ボルト本体71の後端のジョイント部74に着脱自在に螺着される土留め部材75を備えている。土留め部材75は、図2に示す如くボルト本体71の径方向外方に放射状に突出する4個のアーム部を有する十字状に形成されている。また、土留め部材75の前面には、図3に示す如く刃部75aが取付けられている。
【0018】
上述したように鏡止めボルト7の後半部分と滑り面aの手前の切羽地山との間の摩擦抵抗で切羽地山がある程度は滑り止めされるが、土留め部材75を設ければ、切羽面(切羽6の端面)が土留め部材75で押えられ、切羽6の崩れをより確実に防止できる。尚、鏡止めボルト7は、隣接する鏡止めボルト7,7の土留め部材75,75同士が干渉しないような間隔を存して切羽6に打ち込まれる。
【0019】
切羽6の掘削に際しては、先ず、図1(a)に示す如く切羽6に打ち込まれている鏡止めボルト7のうち最も上方に位置する鏡止めボルト7をロッド8により切羽6に回転させつつ所定ストローク押し込む。これによれば、土留め部材75の刃部75aにより切羽6が掘削されて図1(b)に示す状態になる。そして、鏡止めボルト7を上方のものから順に切羽6に回転させつつ押し込むことにより、切羽6が上部から下部に向かって順に掘削される。
【0020】
次に、鏡止めボルト7が打ち込まれていない切羽6の最下部を適宜の掘削手段により掘削する。そして、図1(c)に示す如く、今回掘削した部分の底面にコンクリートを打設又は吹き付けしてインバート2を築造すると共に、インバート2の左右両側部に、今回掘削した部分の左右両側面に沿ってルーフ形成部分の左右両側部の下端と同等高さまで立ち上がる立上り壁2aを形成する。尚、立上り壁2aは、インバート2の各側部に鋼製の短尺支保工3aを植設した後コンクリートを吹き付けることで形成される。
【0021】
次に、切羽6のルーフ形成部分を掘削した後、ルーフ用ロックボルト7´を掘削後の切羽6に押し込む。そして、図1(d)に示す如く、今回掘削した部分の天井面から左右両側面に亘りアーチ状の鋼製支保工3を建込んで、この鋼製支保工3の左右両側部の下端をインバート2の左右両側部の立上り壁2aに結合すると共に、コンクリートの吹き付けで支保コンクリート層4を形成する。以上の作業を繰り返して、トンネル1の掘削を進めて行く。
【0022】
ここで、ルーフ形成部分はルーフ用ロックボルト7´を避けて掘削する必要があるが、ルーフ形成部分の断面積は小さいため、掘削に然程時間はかからない。一方、ルーフ形成部分の内側の切羽6の部分は断面積が広く、この部分の掘削を鏡止めボルト7を避けて行ったのでは、掘削にかなり時間がかかる。然し、本実施形態では、鏡止めボルト7を切羽6に回転させつつ押し込むことにより、土留め部材75の刃部75aで切羽6が掘削される。そのため、鏡止めボルト7が掘削の邪魔にならず、切羽6を能率良く掘削できる。更に、掘削に際し、土留め部材75を一々着脱する必要がなく、切羽6の能率的な掘削が可能になることと相俟って、工期の短縮化を図ることができる。
【0023】
また、土留め部材75は、着脱する必要がないため、ボルト本体71に一体化されていても良い。但し、本実施形態の如く土留め部材75をボルト本体71に着脱自在とすれば、刃部75aが摩耗したときに、土留め部材75を新たなものに交換でき、有利である。
【0024】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態では、鏡止めボルト7として削孔ビット72付きのものを用いたが、前端を先鋭に形成した圧入式のロックボルトを用いることも可能である。また、上記実施形態では、土留め部材75が4個のアーム部を有する十字状に形成されているが、アーム部の数は3個或いは5個以上であっても良く、更には、土留め部材75を円板状に形成することも可能である。
【0025】
更に、上記実施形態では、鏡止めボルト7として鋼管を用いたが、棒状のものを用いることも可能である。その材質も鋼製に限らず、繊維補強プラスチック(FRP)製など一定以上の剛性を有するあらゆるものが適用可能である。
【0026】
また、打ち込み及び押し込みの状況に応じて、鏡止めボルトの周囲に固化剤を注入して、ボルトと地山との摩擦抵抗の増大を図るようにしてもよい。この場合、鏡止めボルトの押し込み時にボルトと地山との剥離が良好に行えるよう、固化剤の材質を選定することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態の掘削方法を示すトンネルの縦断面図。
【図2】トンネルの横断面図。
【図3】本発明の実施形態の鏡止めボルトを示す縦断面図。
【符号の説明】
【0028】
1…トンネル、6…切羽、7…鏡止めボルト、71…ボルト本体、75…土留め部材、75a…刃部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽に打ち込む鏡止めボルトであって、前後方向に長手のボルト本体と、ボルト本体の後端にボルト本体の径方向外方に突出するように設けられる土留め部材とを備えるものにおいて、
土留め部材の前面に切羽を掘削するための刃部が取付けられていることを特徴とする鏡止めボルト。
【請求項2】
前記土留め部材は前記ボルト本体に着脱自在であることを特徴とする請求項1記載の鏡止めボルト。
【請求項3】
請求項1又は2記載の鏡止めボルトを用いたトンネル掘削方法であって、
この鏡止めボルトの複数本をトンネルの切羽に打ち込んだ後、各鏡止めボルトを切羽に回転させつつ押し込むことにより、前記土留め部材の前記刃部で切羽を掘削することを特徴とするトンネル掘削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57802(P2009−57802A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228225(P2007−228225)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】