説明

鑑別装置

【課題】近年、現金自動取り扱い機への不正アクセス、たとえば、偽札使用の件数が極端に増加している。その方法も巧妙化してきている。例えば、様々な種類の偽造券、偽札を大量に持ち込み、現金自動取り扱い機に投入し、受け付けた偽造券、偽札を調べ上げ、次の機会にその種類のみの大量な偽造券、偽札を現金自動取り扱い機に投入する方法である。
【解決手段】このような課題を解決するために、本発明では、まず、センサーにより紙幣全体の情報を取得し、複数用意された判定部でこの全体情報を用いてそれぞれの真偽判定を行う。そして、あるタイミングで、複数の判定結果の一つを選ぶ。一般に、偽券を取り込んでしまう領域と真券をリジェクトしてしまう領域は、分布の推定方法の違いでそれぞれ異なるのが普通である。したがって、たとえ、偽券を取り込んでしまう領域を悟られても、適切なタイミングで判定方式を変更することで対処を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価証券、そのほかの物品の表面情報を読み取って、その真偽を判定する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子マネーやクレジットカード利用による物品の購入が盛んになってきているが、紙幣利用による物品の購入もいまだに盛んであるのが現状である。このことは紙幣の発行数の増大からも明確である。一方、近年、現金自動取り扱い機への不正アクセス、たとえば、偽札使用の件数も極端に増加している。そして、その方法も巧妙化してきている。例えば、様々な種類の偽造券、偽札を偽造して現金自動取り扱い機に投入し、受け付けた偽造券、偽札を調べ上げる。その上で、次の機会に、受け付けられた種類の偽造券、偽札を大量に偽造して再度現金自動取り扱い機に投入することでお金を奪う方法等があり、問題となっている。
【0003】
このような犯罪を防止するため現金自動取り扱い機の信頼性自体を高める方法が重要視されている。例えば、紙幣が通過する際にセンサーを動かして鑑別に使う紙幣の取り込みパタンを変更することで偽造券の取り込みを防止しようとする方法がある(例えば、特許文献1参照)。この技術では、偽造犯が紙幣の特定部分の情報のみを偽造して装置をだますことを防止することを目的とする。又、暗号化した情報を券に記憶させ、自動改札機においてもそれに対応した読み取りを行う場合に、適時、暗号情報を変更する技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8-249512号公報
【0005】
【特許文献2】特開平8-305904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上、説明した方法は、適時(ランダム時刻)に、(1)対象物の情報読み取り位置を変える、(2)対象物に暗号化情報を書き込むこと、をその特徴としている。しかしながら、高度に偽造された紙幣の真偽の判定への適応には以下の点考慮する必要が生じる。(1)高度に偽造された紙幣は、紙幣前面が精巧に模倣されたものが大半である。そのため、たとえ、対象物の情報読み取り位置を変えてもそこも偽造されている可能性が高いため対応できない場合が多い。また、現在の紙幣の場合、記憶装置が装備されていないため、暗号化情報を適応的に書き込むようなことは難しい。さらに、情報読み取り位置を変えたり、暗号化情報を変更するタイミングをランダムとするのは、一般的に判別できる確度が低い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明では、センサーにより紙幣などの有価証券の紙葉全体の情報を取得し、複数用意された異なる特性を有する判定部でこの全体情報を用いてそれぞれの真偽判定を行う。そして、あるタイミングで、複数の判定結果の一つを選ぶようにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、たとえある判定方式の弱点部分、すなわち、偽券を取り込んでしまう判定領域が存在していても、適切なタイミングで判定方式を取り替えることで、その判定領域に入れるように意図して偽造した偽札を大量に投入してもリジェクトすることが可能となる。さらに、このような典型的な犯罪の場合、犯人は自分考えた現金自動取り扱い機の鑑別判定特性の解読に対する自信を喪失して、結果的に、犯罪件数が減る効果があると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、紙幣などから各種物理情報をとるセンサーとマイコンなどの計算機上でその物理情報を処理する、コードで表現された方法を具体的な形態としている。
【実施例1】
【0010】
本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。まず、図3は、本発明を適用する一例である現金自動支払機31の概観を示した図である。31の筐体内にはCPU13が備えられている。311は、ユーザが現金を入金するための入金口、312は入金出金時に必要な暗証番号や金額などを入力するためのキーボード、313と314は、バンクカード投入口と出金口である。315は、ユーザへのメッセージを表示するためのディスプレー装置である。
【0011】
本発明の基本的な原理を図2を使って説明する。一般に、判定部の偽券取り込み率(真券として誤って装置に取り込む率)と真券リジェクト率(真券を誤って偽券や他の紙葉状のものと判定してリジェクトしてしまう率)は一般的に小さな値であるが0ではなくある値を統計上もっている。図2に、幾つかの判定方法の例を示す。図2の21は紙葉全体の情報から得られた特徴量の空間における紙幣の真券の真の分布を示したものである。しかしこの分布の真の形は、一般には分からないため、大量のサンプルを用いて推測しているのが現状である。図2の22は、ある推定方法1で推定した判定境界を点線で示した。一般には、集めたサンプルの偏りや数が有限であることから、偽券を取り込んでしまう領域221と真券をリジェクトしてしまう領域222が存在する。犯罪者は、この領域221に入る偽券を作ろうとするのだが一般的な手口ではかなり難しい。そのため、最近では、やや強引な方法でこの領域221にはいる偽券を探す場合が多い。すなわち、非常に多様な種類の偽券を予め用意しておき、現金自動取り扱い機に一度に投入して取り込む種類の偽券を調べる。そして、次に取り込まれる種類の偽券を大量に用意し、現金自動取り扱い機に投入する。通常、その後、取引をキャンセルして偽券の取り込み枚数分の真券の払い戻しを受ける。このような犯罪を防止する、あるいは、犯人の気力をなくす方法として、本発明では、特性の違う判定部を複数用意しておき、ある適切なタイミングで判定部からの結果を選択する方法をとる。図2の23は、ある推定方式2で推定した判定境界を点線で示した。この場合も同様に偽券を取り込んでしまう領域231と真券をリジェクトしてしまう領域232が存在する。また、図2の24は、ある推定方式3で推定した判定境界を点線で示した。この場合も同様に偽券を取り込んでしまう領域241と真券をリジェクトしてしまう領域242が存在する。一般に、偽券を取り込んでしまう領域と真券をリジェクトしてしまう領域は、分布の推定方法の違いでそれぞれ異なるのが普通である。したがって、たとえ、偽券を取り込んでしまう領域221を悟られても、次の投入を受けるタイミングにおいては、判定方式(推定方式によって得られる点線の内外で真偽を判定する方式)を変更すれば、上記したような偽造紙幣利用に対処できる。それは、領域221、231,241が重なっていないことから明らかであり、本願においては真券判定における特性が少しでも異なる判定方法を組み合わせて用いることで効果が得られる。格納される複数の方式を切りかえるタイミングとしては、前記の典型的な犯罪を考慮すると、大量のリジェクトが起こった次の取引開始のとき、また、夜間業務など取引がまばらなときには毎取引とするのが効果的である。
【0012】
次に、図1の本実施形態における真偽判定装置の構成の一例を示すブロック図と図4のフローチャートを使って全体の処理の流れを説明する。本発明では、入金口311から入金された紙幣が鑑別部に搬送され、センサー部111により紙幣などの紙葉全体の物理情報を411にて取得する。ここで物理情報とは、例えば、カラー画像情報などである。又、紙幣全体とは、予め設定してある特定の部分領域のみを情報取得の対象とはせずに、ある特定箇所にのみ細工がしてあるような場合にも見逃すことがないように紙幣のほぼ全体を情報取得の対象とすることを意味する。ある特定の部分領域のみを対象とすると当然のことながら特定の偽造紙幣しか対応できないからである。その後、特徴量生成416では、取得された物理情報から特徴量生成部116において特徴量を生成する。特徴量生成部116では、物理量を組み合わせた特徴量、例えば、主成分分析などの成分で表現された特徴量が生成される。これらの特徴量は、通常、複雑な処理が必要なためソフトウェア処理で生成される。次に、複数用意された判定部112,113,114でこの特徴量を用いてそれぞれの真偽判定412,413,414を行う。これらの真偽判定は、センサ1から得られる同じ物理量を利用した特徴量を用いながらも異なる方式で通常ソフトウェア処理される。よって複雑な処理を簡便に実行できるとともに、多様な処理手段を備えることが可能となる。又、ハードウェアでの処理では物理的な負担から故障等の問題が発生するのに対して信頼性・処理速度に関して優れる。上述したように、本願においては真偽判定について異なる特性を有する複数の判定処理を備えている点を特徴とする。
【0013】
真偽は、図2に示した判定方式1,2,3の点線で示した真券判定分布22,23,24に、その特徴量が入るか否かで判定される。たとえば、真券判定分布22,23,24は、多数の真券から得られた各特徴量セットを入力として層状ニューラルネットワークで学習することで決められる領域とする。この際、ニューロン数や構造が違うニューラルネットワークを3つ用意して学習することで、真券判定分布22,23,24が得られる。または、ニューロン数や構造を同じにして学習時の初期値を変えることで3つの違う領域を求めておいてもよい。また、3つのニューラルネットワークを用いないで、1つをニューラルネットワーク用いた判定、1つを真券サンプル分布からのマハラノビス距離を用いた判定、1つを真券サンプルから最短ユークリッド距離の大小を用いた判定というように、異種の判定方法を用いてもよい。なお、このような判定方法に関しては、例えば、東京大学出版会“画像解析ハンドブック”(出版日1991年1月17日、高木幹雄、下田陽久監修 “分類”641ページ、“ニューラルネットワーク”190ページ)に記載された既存方法である。そして、CPU13で制御された選択信号によって、複数の判定結果の一つを選択部115(図4の415)で選ぶ。ここで判定方式の数は3つに限られず、2以上であればよい。尚、複数用意される判定部の何れかを選択信号に基いて選択しておき、その判定部での処理のみ行うこととしても良い。
【0014】
鑑別された紙幣は、判定結果に基づき、処理される。すなわち、真券の場合には預金あるいは送金のために投入された紙幣として計数され、集金箱に格納され、投入金額がディスプレー装置315に表示され、預金あるいは送金処理がなされる。一方、真券でないと判定された場合には、一般的にはリジェクトされ図3の入出金口311に返却される。なお、リジェクト枚数が多い場合には、装置の異常を知らせる警告メッセージがディスプレー装置315に表示されるとともに、係員に情報が伝達される。
【0015】
なお、本実施例では3つの判定方式全部を行って結果を選ぶ構成にしてあるが、1つの判定方式を選んでその結果を用いても全く同じ結果が得られる。選択信号は、CPU13により制御される選択タイミング発生部にルールとして記載されたタイミングでゲート122の開閉をする。ルールとしては、例えば処理枚数を超える大量のリジェクトが起きた、次の取引開始のときとすることができる。これは、背景技術で述べたように、多種の大量偽札を投入してリジェクトされない種類の偽札を調べる場合に大量のリジェクトがはじめに発生する現象を利用したものである。よって、所定時間内のリジェクト数の基準値を設けておき、これとの比較で切り替えをタイミングを決定する。また、夜間での取引がまばらなときの個々の取引開始時でもよい。これは、偽造紙幣を使用するのは人目の少ない夜間を狙うことが多いからである。あるいは、特に特定のルールを設けず、乱数により変更タイミングをきめてもよい。タイミング判定は、CPU13からの制御信号に、リジェクト情報、取引情報を載せれば実現できる。
【0016】
前記ルールの具体的実施例としては、一つの取引を実行している間、判定部11からの判定結果を蓄積しておき、一定時間でのリジェクトと判定された枚数をカウントしておく。そして、その値があるしきい値以上になった場合には、次の取引の判定方法を変更する。また、第2のルールでは、取引をしていない時間を計数しておき、その値があるしきい値より大きくなった場合に、あるいは、一定時間内に判定した有価証券の数、または、取引の数に基づき、その数があるしきい値より小さくなった場合に、次の取引での判定方法を変更する。以上のような手順でこれらのルールは実施できる。
【0017】
一方、どの判定結果を選択するかを指示する選択信号を発生する選択方式信号発生123は、CPU13からの制御信号をトリガーにして、3つの判定結果のうちの1つを同じ方式結果を選ばないようにランダムに決定するか、順番にサイクリックに選択する。あるいは、次のような方法でもよい。判定方法ごとに判定が採用された回数を計測しておく。そして、もっともその回数が少ない判定結果を選択する。このようにすることで、特定の判定結果が偏って選ばれることがなくなる。
【0018】
なお、本実施例では3つの方式を用意したが、複数であればそれ以外の個数の方式でよい。また、判定部11において、特徴量生成部以降を複数セット用意してもよい。すなわち、センサー物理量から異なる特徴量を生成する特徴量生成部を複数用意する。予め各特徴量生成部に対応づけられた判定部で処理を行うようにしても良いし、選択回路で特徴量生成部と判定部のそれぞれを選択し、複数の特徴量を複数の判定方式で真偽を判定することとしても良い。そして、全体の判定結果のうちから一つを選ぶようにする。この構成によりさらに特性の違う判定が可能となり効果が高まる。
【0019】
また、本発明は前記の実施対象、すなわち、紙幣など有価証券に限定されずに広く適用することが可能である。対象物の表面や形状などの情報さえ獲得できれば、本発明を同じ構成で、たとえば,ブランド品などの真偽を判定できる。
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、対象物全体の物理情報を用いた真偽判定を行う方法を複数用意し、適切タイミングで一つの方法の判定結果を選択するようにする。このようにすることで、たとえ、ある判定方法の弱点が多くの種類の偽物の投入で知られてしまっても、次のタイミングで他の判定方法に変わるため、犯罪を未然に防げる効果がある。この発明は、現金自動取り扱い機、自動販売機、その他の紙幣などの有価証券を取り扱う自動機の鑑別部に適用することができ、産業のさらなる発展、犯罪の未然防止などへの貢献は多大である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態における真偽判定装置の構成の一例を示す図である。
【図2】図1の判別方法の原理、効果を説明するための図である。
【図3】本実施形態における現金自動支払機の概観を示した図である。
【図4】本実施形態における真偽判定装置の処理フローの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
11:判定部、12:判定タイミング発生部、13:CPU、111:センサー群、112:判定方式1、113:判定方式2、114:判定方式3、115:選択部、116:特徴量生成部、121:選択タイミング発生部、122:ゲート、123:選択方式信号発生、21:真券の分布、22:判定方式1の真券判定領域、23:判定方式2の真券判定領域、221:判定方式1の偽券アクセプト領域、222:判定方式1の真券リジェクト領域、231:判定方式2の偽券アクセプト領域、232:判定方式2の真券リジェクト領域、241:判定方式3の偽券アクセプト領域、242:判定方式3の真券リジェクト領域。31:現金自動支払機の概観、311:入金口、312:暗証番号や金額を入力するキーボード、313:バンクカード投入口、314:出金口、315:デイスプレー装置である。411:物理量取得、416:特徴量生成、412:判定方法1、413:判定方法2、414:判定方法3、415:判定結果の選択

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価証券の入金を受け付ける入金部と、
上記入金された有価証券をスキャンして物理情報を取得するセンサーと、
上記物理情報から特徴量を生成する特徴量生成部と、
記録される複数の判定方式の何れかを選択する判定タイミング発生部と、
上記特徴量を用いて、上記選択された判定方式を用いた真偽鑑別を行う鑑別部とを有し、
上記複数の判定方式は互いに真偽判定の特性が異なるものであることを特徴とする鑑別装置。
【請求項2】
上記特徴生成部及び上記真偽鑑別はソフトウェア処理されることを特徴とする請求項1記載の鑑別装置。
【請求項3】
上記センサーは上記有価証券のほぼ全体から物理情報を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の鑑別装置。
【請求項4】
上記判定タイミング発生部は、上記鑑別部において偽造である旨のリジェクトが所定回数以上おきた場合に他の上記判定方式への切り替えを信号を発生することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の鑑別装置。
【請求項5】
上記判定タイミング部は、
取引のなされない時間が所定値を超えた場合に上記判定方式への切り替えを信号を発生することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の鑑別装置。
【請求項6】
上記判定タイミング発生部は上記複数の判定方式の過去の選択回数に基いて上記判定方式の選択を行うことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の鑑別装置。
【請求項7】
上記特徴量生成部を複数有し、
上記判定タイミング発生部は上記複数の特徴量生成部を何れかも選択して切り替えることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の鑑別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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